2018-09-29

玉に瑕ある傑作/『ジェノサイド』高野和明


『13階段』高野和明
『グレイヴディッガー』高野和明

 ・自虐史観のリトマス試験紙
 ・玉に瑕ある傑作

『実際のところ、約600万年前にチンパンジーとの共通祖先から枝分かれした生物は、猿人、原人、旧人、新人と姿を変える過程で、進化の速度を明らかに加速させている。人類の進化は、明日にでも起こり得るのである。
 現生人類から進化を遂げた次世代のヒトは、大脳新皮質をより増大させ、我々をはるかに凌駕(りょうが)する圧倒的な知性を有するはずである。その知的能力を、オリヴィエはこのように想像する。「第四次元の理解、複雑な全体をとっさに把握すること、第六感の獲得、無限に発展した道徳意識の保有、特に我々の悟性には不可解な精神的特質の所有」
 このような次世代の人類が出現し得る場所は、文明国ではなく、周囲との交通が遮断された未開の地である可能性が高い。こうした地域に住む少数の集団では、個体レベルの遺伝子変異が集団間に定着しやすいためである。
 では、新たに誕生したヒトは、どのように行動するだろうか。間違いなく言えることは、我々を滅ぼしにかかるだろうということである。現生人類と次世代の人類、この二つの生物種は生態的地位(エコロジカル・ニッチ)が完全に一致するため、我々を排除しない限り、彼らの生息場所は確保されない。その上、彼らから見た現生人類とは、同種間の殺し合いに明け暮れ、地球環境そのものを破壊するだけの科学技術を持つに至った。危険極まりない下等動物なのだ。知的にも道徳的にも劣った生物種は、より高度な知性によって抹殺される。
 人類の進化が起これば、ほどなくして我々は地球上から姿を消す。北京原人やネアンデルタール人と同じ運命を辿るのである――』

【『ジェノサイド』高野和明(角川書店、2011年/角川文庫、2013年)】

 私が初めて読んだ高野作品である。文章といい筋書きといい文句なしなのだが、如何せん自虐史観を披露してしまっている。20年前に出版されていたなら大ベストセラーとなっていたことだろう。「たまたま」とか「迂闊」(うかつ)で済ませるわけにはいかない。たぶん高野和明は真性の左翼だろう。

 それでも読む価値はある。ルワンダ大虐殺にも触れていてジェノサイドのメカニズムが巧みに説明されている。歴史認識のリトマス試験紙と考えれば有意な一冊といってよい。

 高野は満を持して本書を執筆したに違いない。自虐史観に対する批判も承知の上で書いたのだろう。そもそも大衆は近代史などに興味がない上、義務教育もマスコミも自虐史観を踏襲しているのだ。一定のファン層を拡大してしまえば、小さな嘘は見過ごされる可能性が高い。そんな思惑があったのではないか。

 無知な人々は嘘を見抜けない。そして人は漫然と見過ごす情報にマインドをコントロールされてゆく。「知は力」(フランシス・ベーコン)なのだがその力はプラスにもマイナスにも働く。

 ソ連が崩壊し冷戦構造に終焉を告げたわけだが左翼は死んでいなかった。驚くべき事実である。特に「新しい歴史教科書をつくる会」(1996年設立)や第一次安倍内閣(2006年)、第二次安倍内閣(2012年)に対して新聞・テレビを巻き込んで尖鋭的な動きが出てきた。

 就中、2017年5月3日、第19回公開憲法フォーラムに寄せたビデオメッセージで安倍首相が憲法改正に向けて踏み込んだ発言をするや否や、野党と新聞・テレビは森友学園問題~加計学園問題を執拗(しつよう)に取り上げ始めた。政権バッシングのキャンペーンともいうべき現象で国会は1年間にわたって空転を余儀なくされた。北朝鮮が核開発を行い、中国が領空・領海侵犯を繰り返す状況にありながら、国会では学校の許認可を巡る議論が継続されてきたのは異常事態といってよい。

 国を貶める行動や言論を放置し続けてきたツケが回ってきたのだ。スパイを取り締まる法律すら作ることなく、海外マネーが政党に流れるような国である。戦争でも起こらない限り目を覚ますことは難しいだろう。

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