・『賢者の書』喜多川泰
・『君と会えたから……』喜多川泰
・『手紙屋 僕の就職活動を変えた十通の手紙』喜多川泰
・『心晴日和』喜多川泰
・『「また、必ず会おう」と誰もが言った 偶然出会った、たくさんの必然』喜多川泰
・『きみが来た場所 Where are you from? Where are you going?』喜多川泰
・『スタートライン』喜多川泰
・『ライフトラベラー』喜多川泰
・『書斎の鍵 父が遺した「人生の奇跡」』喜多川泰
・心が弱くなるとオバケを創り出す
・『ソバニイルヨ』喜多川泰
・『運転者 未来を変える過去からの使者』喜多川泰
「人間が創り出す新しいものというのは、なにも、世の中に役立つ素晴らしい発明品ばかりではないということだと、僕は思っています」
「というと?」
「オバケです。僕たちは、あまりにも想像力がたくましすぎるので、自分が経験したことを総合して、この世に存在しないオバケを創り出してしまうのです。あんなことになっちゃうんじゃないか、こうなったらどうしよう、きっとこう思っているはずだって、起こったこともない、ほとんど起こりもしない状況を頭の中で想像しては、それを怖がることに人生を費やす。社会全体がオバケを創り出す雰囲気になっている時代っていうのは、エネルギーを、新しい発明や発見を進めるほうに使うよりもむしろ、別の新しいものを創り出すことに使われたんじゃないかと思うんです。たとえば、ありもしないオバケを創るのに忙しい時代だったとか……。今の森川さんのように」
【『株式会社タイムカプセル社 十年前からやってきた使者』喜多川泰〈きたがわ・やすし〉(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015年)】
バブル景気が弾けてからというもの日本全体をうっすらとした閉塞感が覆っている。雇用のあり方が変わったためと思われるが、努力が報われない・再チャレンジの機会が少ない・いつリストラされるかわからないといった心理情況と、非正規化や平均収入の低下に加えて増税の影響が大きい。つまり可処分所得が減り続けているわけだ。
資本主義社会において「公務員の待遇を羨む」のは明らかにおかしい。まして小学生が将来「公務員になりたい」などと思うのは世も末と断言していい。今後、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって雇用は縮小する。AIやロボットに仕事を奪われるのだ。経営者は人件費をコストと見なし、賃金を上げずに内部留保を溜め込んでいる。こうした動きや背景を踏まえると、世界の潮流は緩やかな社会民主主義を目指すように思われる。
タイムカプセル社は10年後の自分に宛てた手紙を預かり、10年後にそれを届けることを業務にしている。人それぞれの10年がある。その変化が主題である。過去の自分と向き合った時、人は驚くほどたじろぎ、うろたえ、感慨の波に飲まれる。それを一つの結果ではなく、新たなスタートして描いているところに喜多川泰の技量がある。
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