2019-04-29

アラン・チューリングの計算概念/『生命を進化させる究極のアルゴリズム』レスリー・ヴァリアント


『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ
『アルゴリズムが世界を支配する』クリストファー・スタイナー

 ・アラン・チューリングの計算概念

情報とアルゴリズム
必読書リスト その三

 これは逆説的に見えるかもしれない。人類は明らかにチューリング以前から存在していたのに、チューリングの計算概念はそれまで認識されていなかった。すると、チューリングの理論が、それまでは、その痕跡すら思いもよらなかったというのに、人類にとって根本的なものであるとは、いったいどういうことになるのだろう。
 これに対する私の答えは、チューリング以前の時代にも、実は生命が始まって以来ずっと、あらゆる生命形態の内部で、この世を支配する力は計算だったということだ。しかしその計算は非常に特殊な種類のものだった。この計算は、今のノートパソコンの能力と比べれば、ほとんどどの時点でも負けている。それでも、ある一点、つまり適応に関しては、きわめて優れていた。こうした計算のことを、私はエコリズムと呼ぶ――つまり、その処理能力を自分が住み着いている環境からの学習によって導き、そこで有効な行動ができるようにするアルゴリズムである。これを理解するには、チューリングの言う意味での計算を理解する必要がある。しかし、その定義を精密にして、学習、適応、進化という特定の現象を捉えることも必要となる。

【『生命を進化させる究極のアルゴリズム』レスリー・ヴァリアント:松浦俊輔〈まつうら・しゅんすけ〉訳(青土社、2014年)】

 計算の概念を変えたのはチューリングの論文であった。進化すら y=f(x) に置き換えることが可能なのだ。自然環境も人間も変数として扱われる。人生とは生き永らえるための計算(手順、戦略)と考えてよい。我々がマネーの価値を絶対的に信用するのも多分計算しやすいためなのだろう。

 結婚のアルゴリズムを思えばわかりやすい。恋愛感情、家柄、資産、年収、学歴、能力、容姿、性格など様々なチェック項目があるが、誰もが遺伝子を残すために最も有利な選択をする。「チッ、計算高い女だな」と言うなかれ。皆が皆、それぞれ計算をしているのだ。

 政治も宗教もこうした計算の範疇(はんちゅう)に収まる。ただし科学や情報技術の進歩に対して政治や宗教の遅々とした歩みは腑に落ちない。

生命を進化させる究極のアルゴリズム
レスリー・ヴァリアント
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2019-04-28

「計算」という概念/『アルゴリズムが世界を支配する』クリストファー・スタイナー


『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ

 ・「計算」という概念

『生命を進化させる究極のアルゴリズム』レスリー・ヴァリアント

情報とアルゴリズム
必読書リスト その三

 アルゴリズムは、通常はプログラムされた通りに行動する。おとなしく株の取引をしたり、Amazon.com では需要と供給に見合った本の値付けをしたりしている。しかしいったん人間の目が行き届かなくなると、アルゴリズムは不思議な行動をとってしまうことがある。私たちが世の中の多くの物事をアルゴリズムの管理下に置けば置くほど、何かが置きたときにその原因が誰なのか、何なのか、突きとめることは難しくなる。この現実はじわじわと私たちの住む世界を侵食し、ついにフラッシュ・クラッシュという形で爆発したのだ。

【『アルゴリズムが世界を支配する』クリストファー・スタイナー:永峯涼〈ながみね・りょう〉訳(角川EPUB選書、2013年)】

 アルゴリズムは算法と訳される。ま、計算法と考えてよい。コンピュータの基礎となるのがアルゴリズムで、上述テキストの通りフラッシュ・クラッシュ(劇的な相場暴落)を通して注目されるようになった概念である。

 株式や先物・通貨・債券などのマーケットは既にコンピュータ売買が主流となっている。想定範囲内の値動きであれば逆張りもあり得るが、価格が大きく変動した場合は順張りにするのが通常のアルゴリズムだろう。つまり上がる時は買いが買いを呼び、下がる時は売りが売りを招く状態となりやすい。

 というのが日経新聞を始めとするありきたりの解説だが実際は違う。暴落の真相はわからないのだ。これがアルゴリズムの「不思議な行動」である。

 問題解決のための効率的な手順や計算方法がアルゴリズムで、料理のレシピなんかはアルゴリズムそのものである。ま、「拝めば幸せになれる」というのも宗教的アルゴリズムと考えてよかろう。私からは「信じる者は救われ【ぬ】」とアドバイスしておこう。

 アルゴリズムを通して「計算」という概念が変わった。生きることを計算と捉えることまで可能となった。量子力学が情報に踏み込んだ時点で宇宙までもが計算機と考えられるに至った(『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド)。

 行動経済学と社会科学の間の溝が埋まれば社会のアルゴリズムも解き明かされることになるだろう。

アルゴリズムが世界を支配する (角川EPUB選書)
クリストファー・スタイナー
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ウォーキング三部作/『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき


『足・ひざ・腰の痛みが劇的に消える足指のばし』湯浅慶朗
『本当に必要な「ゆるスクワット」と「かかと落とし」』中村幸男
『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
『高岡英夫の歩き革命』高岡英夫:小松美冬構成
『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘

 ・ウォーキング三部作

ナンバ歩きと古の歩術
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
・『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『走れ!マンガ家 ひぃこらサブスリー 運動オンチで85kg 52歳フルマラソン挑戦記!』みやすのんき
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン

身体革命
必読書リスト その二

 危険なのは横たわっている状況だけではありません。
 イギリスのスポーツ医学雑誌「British Journal of Sports Medicine」オンライン版に発表された研究では、オーストラリア糖尿病学会が行った「オーストラリア肥満・生活習慣研究(AusDiab)」や、オーストラリア国民健康調査のデータを検討した結果、テレビを1日平均6時間視聴すると、まったく見なかった場合と比べて【“4年8ヶ月”も寿命が短くなってしまう】という結論が導き出されました。じっと座って1時間テレビを見ることで、寿命が約22分縮んだことになるのです。
 肝心なのは【テレビそのものが悪いのではなく、「座る」行為が身体によくない】ことです。
 テレビに限らず、オフィスでじっと1時間座っていても、クルマを1時間座って運転していても寿命が22分間縮むことになります。ちなみにタバコは1本吸うごとに寿命が11分縮むといわれています。つまり、【1時間座って仕事をするほうが、タバコを1本吸うよりも寿命が縮む】のです!
 カナダ・トロントの研究チームが、座る時間が長い生活スタイルについて調べた47の調査結果を分析した結果、【座る時間が長いと心血管系の疾患や癌、2型糖尿病などの慢性疾患を発症して死に至る確率が高まる】ことが分かりました。

【『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき(彩図社、2016年/増補改訂版『ランナーが知っておくべき歩き方』実業之日本社、2019年)以下同】

 確か『アルツハイマー病は治る』(ミヒャエル・ネールス、2018年)でも同じ指摘があったように思う。アルツハイマーですら文明病だというのだ。何度も書いているが小学生を椅子に坐りっ放しにする義務教育のあり方はどう考えてもおかしい。野山を駆け巡り、木に上るのが児童本来の行動だ。

 タバコの記述に関しては少々安易で、肺癌患者の喫煙者に注目するか喫煙者全体を見るかで結果は異なる。寿命については相関関係を因果関係と誤解する論法が多すぎて信じるに値しない。そもそも喫煙を始めたのはアメリカ・インディアンだが彼らは長寿であった。

 みやすは「なぜASIMOの歩き方はおかしいのか?」と問う。そして人体の特徴が「骨盤」にあることを示す。

 人間の歩行は地球上の他のいずれの動物とも違うのです。【背骨や膝をまっすぐ伸ばし、踵をつけて歩く直立二足歩行】です。単なる“二足歩行”の動物は、熊や猿、鳥類、エリマキトカゲなどたくさんいます。しかしこれらは骨盤が発達していないために、おっかなびっくりな歩き方で長時間の二足歩行には堪えられません。
 人間がなぜ直立二足歩行ができるようになったのかというと、しっかり立つことができるように2~300万年の間に骨盤と踵が他の動物に比べて大きく進化したからなのです。
 ロボットの話に戻ると、【彼らは概して歩行のために骨盤や上体を使っていない】のです。

 私はかねがね「姿勢を正すとは背筋を伸ばすことではなく骨盤を起こすことだ」と考えてきたのだが、「骨盤が進化した」との指摘に目から鱗が落ちる思いがした。体幹は意識しにくい。むしろ骨盤に意識を向けた方が上半身と下半身を自由に動かせるような気がする。

 人間の歩行は、【股関節や膝が脱力して足を振り子のように振り出して進みます】。これを【二重振り子歩行】といいます。だから長時間歩けるのです。人間の歩き方は骨盤を中心とした体幹が起動されて足に伝わって歩くのです。

 大転子(だいてんし)とは骨盤側面の下に位置で大腿骨が出っ張っている部分である。ここを振ることによって脚の重さを利用するのだ。当然、大転子を動かすためには大臀筋(だいでんきん)が働く。つまり大転子ウォーキングは必ず大臀筋ウォーキングとなるのだ。これでピンと来る人は少ないだろう。みやすがモンロー・ウォークを示したのは卓見である。

 つまりこうだ。大股で体を左右に振って極端なナンバ歩きをしてみればよい。それから大転子ウォーキングをすれば歩幅が格段に広がることを実感できる。つまりナンバ歩きは体を捻(ねじ)らないのと同時に歩幅を広げる効果があったのだ。

 いやはや驚きである。実践していくうちに体が目覚めてくるのだ。私は自転車の乗り方まで一変した。みやすのんきは漫画家であるが説明能力はオリンピック選手を軽々と凌駕する。

 着地は踵(かかと)の真ん中としているのもミッドフットと考えてよかろう。爪先を上げるのもサンダル利用者であれば普通に行っていることで、かつて人類が裸足で歩いていた事実を思えばまったく自然である。

 ウォーキング三部作は必ず順番通りに読むこと。そうすれば本書が天才本であることが納得できよう。



内発動理論/『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑

2019-04-27

速く歩ける人は死亡率が低い/『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘


『高岡英夫の歩き革命』高岡英夫:小松美冬構成

 ・速く歩ける人は死亡率が低い

『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき
ナンバ歩きと古の歩術
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
・『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』小田伸午、小山田良治、河原敏男、森田英二、木寺英史、常歩研究会編
・『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午

 私たちは「労働時間こそすべて」のような価値観に長らく縛られてきたので、量の多いことに価値観を見出しがちです。しかしながらスポーツにおいては量だけの競争はありません。必ずタイムが伴います。
 究極の目的は【「速く、長い距離を、ずっと」】ということなおんですが、現実には速さと距離のバランス、負荷と量のバランスをそれぞれ取りながら生きています。
 さらに身体機能については興味深いデータがあります。
 速く歩ける人のほうが、死亡率が低いというデータです。
 厚生労働省では、「それぞれの年齢でこれぐらいのスピードでは歩きたい」という目標値を出しているので、ぜひ一度トライしてみてください。

【『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘〈そのはら・たけひろ〉(きずな出版、2017年)以下同】


 園原健弘は競歩の元オリンピック選手だ。「だから何なんだ?」と最初から舐(な)めてかかったのだが意外と参考になった。「速く歩ける人は死亡率が低い」との指摘には吃驚仰天(びっくりぎょうてん)である。

 ウォーキングの概念を叩き込み、考えながら歩かせる手法は正しい。呼吸や歩行は誰もが行っていることだがきちんと出来ている人は少ない。我々は長く坐り過ぎて歩くことすら忘れてしまったのだ。因みに健康を最大に阻害しているのは「坐る」行為だ。万病の元と断言しておこう。

 裸足歩行に園原は疑問を投げ掛けているが、彼は大東亜戦争で高砂義勇隊が裸足で大活躍した歴史を知らないのだろう。人類の長い歴史を振り返れば靴を履いている期間は最近のことだ。素足で得られる情報の多さを軽んじてはなるまい。

 一流選手の説明が一流とは限らない。名選手が必ずしも名監督とならないのと同じだ。踵着地も私としては腑に落ちない。ただしウォーキング概念をつかむためには読んでおいて損はないだろう。