・『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
・『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
・『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
・『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男
・『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
・『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
・『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
・『人類史のなかの定住革命』西田正規
・『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
・身の毛
・鍛原多惠子
・文明の発達が国家というコミュニティを強化する
・『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』リズワン・バーク
・必読書リスト その四
私たちは現在に垣間見える遠い過去の姿、あるいは崖っぷちに向かって突進しているかに思えるときがある。エデンの園を追放されて農耕を始めたときのような場所を、私たちは必死に探し求めているのだ。私たちが見るもっとも切迫した夢は、眠りに落ちる前の世界を映しているだけなのかもしれない。
ことによると、快適さを追い求めた末に退歩した身体が、長時間見つめつづけている画面と一体化しようとして、いわゆるシンギュラリティがすでに現実になりかけているのだろうか。あるいは、他の惑星を植民地化することで、私たちの子孫はアップル、テスラ、シーザーズ・パレス(ラスベガスを代表する高級ホテル)が提供する宇宙の果てのドームで暮らすことになるのだろうか。もしケインズのように、あなたが物を共有し長い時間を愛する人と過ごす平等な世界を望むなら、私たちの祖先がすでにそれに近い世界に暮らしていたことを考えてほしい。だがそれも農耕が始まり、「文明」と呼ばれるものが約1万年前に出現するまでの話だ。それ以来、私たちはその世界からみるみる遠ざかりつづけている。
もし進む方向を間違えているなら、進歩は最悪の結果をもたらす。現代を定義する「進歩」は病気の治療よりむしろ進行に近いように思われる。物が排水口の上でぐるぐる回るように、文明はめまいがしそうなほど速度を増している。ひょっとすると進歩に対する強い信念は、一種の――考えるのも恐ろしい現在に対する「未来への希望」という名の解毒剤――なのだろうか。
もちろん、いつの時代でも終末は近いと警告する者がいて、かならず「今度はこれまでとは違う!」と主張する。そう、本当に今度はこれまでと違うのだ。「破滅は近い。どうするべきか」といった見出しが主要な新聞の紙面に躍る。地球の気候は、沈没する船の貨物のようにまるで定まるということがない。国連難民高等弁務官事務所は、2015年末現在、戦争、紛争、迫害によって土地を追われた人は、2004年の3億7500万人から6億5300万人という厖大(ぼうだい)な数に増えたと報告した。死んだ鳥がバラバラと空から落ちてきたり、ハチの羽音が聞かれなくなったり、チョウが渡りをしなくなったり、主要な潮流の速度が下がったりしている。生物種は6500万年前に恐竜が絶滅したとき以来の高い割合で絶滅している。酸性化する海がテキサス州ほどもある渦巻くプラスチックスープによって窒息する一方で、淡水の帯水層は水を吸い上げられて骨のように干からびている。深海から湧きでるメタンガスの雲によって氷冠が解(ママ)けて、地球破壊を加速させている。ウォール街が中流階級の残骸から最後の富をむしり取り、エネルギー企業が地球に穴を開けて秘密の毒で帯水層を汚染しても、政府は素知らぬ顔だ。全人類が帯水層を必要とするのに、私たちはそれを守るすべを知らない。うつ病がさまざまな障害の最大の原因であり、急増しているのも不思議はない。
【『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン:鍛原多惠子〈かじはら・たえこ〉訳(河出書房新社、2020年)】
これまた冒頭の文章が意味不明だ。5~6回も見直して入力する羽目となった。これほどおかしな文章が多いところを見ると、訳者もさることながら河出書房新社の校正の問題と考えざるを得ない。まあ酷いものだ。よくも出版社を名乗れるものだな。名著だけに許し難いものがある。
・シェールガスの水圧破砕法で水だけでなく大気を汚染
人類が誕生したのはおおよそ200万年前(諸説あり)で、我々ホモ・サピエンスが生まれたのは40万~25万年前のことである。近年の研究でネアンデルタール人の遺伝子がホモ・サピエンスに混入していることが判明しており、直線的な形の進化を想像しない方がいいだろう。
農業・牧畜が始まったのが1万2000年前(諸説あり)だとすると、人類史における農業の期間は1/200だから0.5%である。そして5000年前に王国ができる(『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ)。王国誕生の背景には穀物栽培があると考えられる(『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット)。つまり人類が穀物を主食とするようになったのは人類史のわずか0.25%の期間となる。
文明とは単純に言ってしまえば穀物食・家屋・身体機能=運動の代替物(道具から乗り物はたまたコンピュータに至るまで)であろう。現代人が最も恐れるアルツハイマーも文明病とされており、その原因は食べ物と運動不足にある(『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス)。つまり我々はあまりにも長く坐り過ぎているのだ(『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード)。
病んだ社会の起源は農耕・牧畜と都市革命にある。感染症の蔓延も都市化が背景にある。じゃあ皆で狩猟採集生活に戻ろうと私が音頭をとったところで実現するのは難しい。
「文明が不幸をもたらす」のは健康を損なうことだけが理由ではない。文明の発達が国家というコミュニティを強化するためである。我々は国民として何らかの義務を負わせられる。その最たるものが徴税と兵役である。国民である限り何らかの自由を阻害されることは避けられない。
そうかといって国家という枠組みを解体してしまえば、中国共産党のようなならず者が間髪を入れずに攻めてくることだろう。既に尖閣諸島界隈まで攻めてきているわけだが。
結局、文明といい国家といっても暴力(軍事力)の問題に行き着く。
尚、本書がなければ、『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』を読んで、倒れたまま起き上がれなかったことだろう。