2021-11-02

日露戦争がきっかけで写真館が増えた/『工藤写真館の昭和』工藤美代子


 ・日露戦争がきっかけで写真館が増えた
 ・昭和11年の日常風景

『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子
『絢爛たる醜聞 岸信介伝』工藤美代子

 もともと、日本全国で写真館が飛躍的に増えたのは、日露戦争のためといわれている。出生記念に兵士が写真を撮るのと同時に、家族たちも肖像写真を撮って、兵士に持たせた。まだ一般家庭に写真機などなかった時代に、人々は写真館で今生の名残となるかもしれない瞬間を凍結した。
 その思いは、昭和の代になっても変わってはいないのだろう。中国大陸がどれほど希望に満ちた約束の地であったとしても、兵士たちの顔には隠し切れない悲壮感や不安が漂っていた。
 カメラのファインダーを覗くたびに哲朗は、それを感じていた。普通の家族の肖像写真とは、空気の密度がまるで違っている。まだ10代後半や20代の初めの、若々しい兵士たちの顔は、いやにくっきりと、その輪郭を縁どる空気が濃く凝縮して見える。

【『工藤写真館の昭和』工藤美代子〈くどう・みよこ〉(朝日新聞社、1990年講談社文庫、1994年/ランダムハウス講談社文庫、2007年)】

 今時は冠婚葬祭くらいでしか写真撮影を頼むことはない。私が小学校の半ばくらいまでは年に一度家族で写真館に足を運んだ。懐かしさと共に突然思い出が蘇った。私の父は若い頃からカメラを嗜(たしな)んでいてセミプロ級の腕前だった。ニコンのFシリーズを愛用し、時折新聞社からも撮影を依頼されていた。

 写真を撮りにゆくのはあまり好きではなかった。正装するのも面倒だったし、何にも増して家族で外出すると怒られることが多かった。私は幼い頃、少しボーッとしたところがあって、母から持たされたハンドバッグをどこかに置き忘れたりして、そのたびに凄い剣幕で怒られた。撮影直前のしゃちほこばった数秒間も堪(たま)らなく嫌いだった。

 日露戦争がきっかけで写真館が増えたのは知らなかった。一葉の写真が忘れ形見となる。切り取られた瞬間は彼が生きた確かな証であった。死者数8万4000人(日露戦争はやわかり | 日露戦争特別展2)を思えば、涙に掻き暮れた家族は数十万人に及んだことだろう。

 昔、写真は厚い台紙のアルバムに貼り付けていた。私の世代だと既にセロファンみたいなやつで挟み込むような体裁になっていたが、それでもやはり貴重品だったのだろう。フィルムタイプは現像を待たねばならなかった。そうした時間も一枚の写真の大事な要素だった。

 その後、連写機能が開発され、家庭用ビデオが発売され、デジカメ~スマホという流れを辿り、写真は単なる画像情報に格下げされた。ウェアラブルカメラや防犯カメラでは長時間の動画撮影が可能となった。

 無限の記録と一枚の写真との違いを思う。

影武流(けいぶりゅう)合気体術は日本のシステマか


システマ

 ・影武流合気体術は日本のシステマか

西山創×雨宮宏樹











影武流合気体術 | ~戦国の世より、門外不出で受け継がれし負けない為の術理~
影武流合気体術のブログ

2021-10-31

親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠

 ・「アメリカ合衆国」は誤訳
 ・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
 ・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
 ・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
 ・GHQはハーグ陸戦条約に違反
 ・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓

世界史の教科書
日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 リクルート事件で首相を辞任した竹下が、キングメーカーとして擁立した海部俊樹首相に対し、小泉は宮澤派(宏池会)の加藤紘一、中曽根派の山崎拓〈やまさき・たく〉と組んで海部続投阻止を訴え、3人の頭文字からYKKと呼ばれました。
【YKKは親米派の小泉、親中派の加藤紘一、親北朝鮮派の山崎と政治信条はばらばらですが、72年初当選の同期で、経世会支配の中で干されてきたという被害者意識が共通】していました。

【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】


「自民党大阪府連は辻元氏を応援した山崎氏を問題視。除名処分を求める上申書を党本部に提出した」(10月29日:今西憲之 AERAdot.編集部)と報じられているが、自民党執行部はどのような判断をするのか。

 辻元清美といえば関西生コン事件で名前が上がった。

辻元清美議員に“ブーメラン”? 生コン業界の“ドン”逮捕で永田町に衝撃(1/2)〈週刊朝日〉 | AERA dot. (アエラドット)

 関生(正式名称は「連帯ユニオン関西地区生コン支部」)は沖縄の基地反対運動でも激しい活動を行っており、背後には北朝鮮の影がちらつく。関生とは保守系政治活動家の瀬戸弘幸が早い時期から戦ってきた。関生は組合の仮面をつけた北朝鮮系暴力集団と考えてよさそうだ(Vol.1 暴かれた虚像 - 近畿生コン業界情報サイト 結)。

 共産主義者は暴力革命の前提があるため血腥(なまぐさ)い行為には免疫が働く。かつては内ゲバで仲間同士を凄惨なリンチの末に殺害してきた歴史がある。

 山崎拓が狙っている北朝鮮利権は川砂、鉱物資源、労働力などであろう。実は宝の山なのだ。世界のレアアースの2/3が北朝鮮にあり、10兆ドルの価値があると試算されている。

 特に書きたいことはない。単なる時事ネタだ。今日は衆議院選の投票日。

奴隷貿易で栄えた欧州/『歴史の教訓 「失敗の本質」と国家戦略』兼原信克


『村田良平回想録』村田良平岡崎久彦
『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』伊藤祐靖
・『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』岩田清文、武居智久、尾上定正、兼原信克 2021年

 ・奴隷貿易で栄えた欧州

 イギリスはじめ欧州の国々が大西洋貿易を開始すると、ヨーロッパ、アフリカ大陸、カリブ及び新大陸を結ぶ三角貿易が始まる。三角貿易と言えば普通に聞こえるが、実態は奴隷貿易である。新大陸のインディオは、銀鉱山などの激しい奴隷労働で夥しい数が死に、人口が激減していた。カトリック僧たちはその非道を訴えたが、絶滅しかけたインディオの代わりに目を付けられたのがアフリカ人であった。三角貿易の主力商品はアフリカの黒人奴隷である。アフリカから黒人を奴隷として連れていって、カリブ海諸島や新大陸のプランテーション農場で働かせたのである。
 プランテーションで栽培したのは、砂糖や煙草や綿花である。イギリスの砂糖成金は有名で、奴隷農場でとれた砂糖をイギリス本土で売り、そのお金で武器を買ってまたアフリカに行き、アフリカで武器を売りさばいて、そのお金で奴隷を買って新大陸やカリブ海諸島に売りさばいていた。国情のジョージ3世が「何で彼らは国王の自分より金を持っているんだ」と嘆いたとされるぐらい、三角貿易は儲かったのである。

【『歴史の教訓 「失敗の本質」と国家戦略』兼原信克〈かねはら・のぶかつ〉(新朝新書、2020年)】

農業の産業化ができない日本/『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹、藤原肇

 16~18世紀にかけてアフリカから連れ去られた奴隷の数は1000万人にも上る。

大英帝国の発展を支えたのは奴隷だった/『砂糖の世界史』川北稔

 イギリス資本主義の原動力となったのはアフリカ人奴隷であったという指摘がある(『資本主義と奴隷制』エリック・ウィリアムズ)。資本と労働力の問題は一筋縄ではいかない。

農業の産業化ができない日本/『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹、藤原肇

 産業化の前提が安い労働力にあるとすれば安易な資本主義論は危うい。個人的には原丈人〈はら・じょうじ〉の公益資本主義に軍配を上げる。



ラス・カサスの立ち位置/『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス

農業の産業化ができない日本/『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹、藤原肇


小室直樹
藤原肇

 ・農業の産業化ができない日本

『新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性』原丈人

藤原●アメリカのCIAは、インテリジェンスをうたっているけど、内閣調査室を「日本のCIA」と呼ぶ場合には、あれは日本のセントラル・インフォメーション・エージェンシーの略だと思えばいい。どうせインテリジェンスのやれる人材なんかがいるわけないですから。

小室●インテリジェンスというのは数学的な発想が基礎になっています。ところがそれが日本人にはない。私は、かつて、役人相手に数学の基礎理論を手ほどきしたことがあるけど、その実情に驚いたことがある。

藤原●それは生態環境としての生活圏の問題が多いに関係しているせいです。それもインテリジェンスのレベルまで行かずに、インフォメーションのレベルで決定的な役割を演じています。くわしいことは『情報戦争』や『日本が斬られる』という本で論じたが、情報に対しての理解の仕方と構えで見ると、農耕民族と遊牧民は本質的に異なっているんです。農耕民の情報は蓄積し発酵して知恵にしている。それに対して、遊牧民の情報はオンタイムでとらえ、的確に選択し行動に移すことで、そのグループの生存に結びつける。そうなると、リーダーシップが関係してきて、遊牧民はリーダー中心の社会で、いうならば、男の世界です。

小室●たしかに、農耕社会は大地と結びついているから女性的です。日本も天照大神が一番偉いし、かつ女性上位だし……。

藤原●トップの性別はあまり関係なくて、たとえ男であっても女性型支配をするのです。それが長老であり、農耕民族は蓄積だから長老が一番偉い。情報も新しさよりも知恵と結びついた古さのほうが重要視される。その辺にリーダー型の西欧や中東と、長老型のアジアの違いがあります。

小室●一般にヨーロッパ的、アジア的と区分する人が多いが、中国やインドのほうが日本よりはるかにヨーロッパに近い。実は、世界中で日本だけが例外中の例外です。たとえば、牧畜を例にとってみても、牧畜をまったくやらないのは日本ぐらいで、中国もインドも農業と牧畜の二本建(ママ)てです。それに日本の驚くべき特徴として指摘していいのは、どんなに見かけ上近代化したように観察されても、日本では農業が絶対に産業化されない点です。こういうことはアジアでもめずらしい。

藤原●日本語では術語が十分にないので、議論がむずかしいから英語を借りて話すと、日本にはファーミングもアグリカルチャーもなくて、あるのはガーデニングだけです。ガーデニングは技術集約化がむずかしいから産業化するところまでは行かない。

小室●日本軍がフィリピン作戦をしたときに、フィリピンは農業しかないから、農村地帯では食糧が自給できるはずだと思い込んでいたら、それはとんでもないことだった。タバコ地帯ではタバコだけしかないし、麻を作るところには麻しかなかった。いわゆるモノカルチャーです。農村地帯は食糧があるはずだと期待したいのに、食糧はない。だがタバコや麻を食べるわけにいかないので、作戦は大混乱してしまったそうです。

藤原●ベトナムだってブラジルだって同じです。農業が労働力集約型から技術集約型への進化の系列の中で動いているので、産業が可能になる。それを植民地主義がプランテーション化を通じてやったわけです。

小室●フィリピンは遅れている、と日本人は頭から決めつけてかかる癖があるが、農業でみる限りでは、産業の組織化という点で、返っらのほうがはるかに進んでいる。日本の農業なんて何でも作るし、それも主な目的は家族が食べるところにある。

藤原●インダストリアライズして剰余価値を生み出すところまで行っていない。

小室●農業に見る限り、日本は世界で最も遅れた状態を維持している。しかも、この農業地帯を地盤にした政党が農本的な政治をやってきたのだし、これからも続けようとしているので救いがありません。

藤原●そこに日本の政治が近代以前のパターンでしか機能しない理由もあるし、日本人が情報一般に関して非常にニブイ原因もあると思います。その当然の帰結として、インテリジェンスの問題がいかに重要であるかについて誰も気がつかないし、また、それを論じようともしないのです。(中略)

藤原●とてもじゃないが、日本の農業社会を見る限りでは、近代資本制などの水準には達していないといえます。

小室●とてもキャピタリズムじゃない。

藤原●じゃあ、前に話したように原始(グラスルーツ)共産制ですね。

小室●農業だけでなく企業や産業界までが同じであり、労働力は労働と分化しないまま、労働者は会社という一種の共同体の所属物になってしまっている。古典的な資本主義では労働市場が存在して、そこでは完全な自由競争が行なわれるのに、日本ではそれさえなくて、賃金でさえ、生きる上で必要な給与を分配してもらう形をとっている。

藤原●原始共産制における分け前だから、交通費や厚生費の現物支給があったり、年功序列の手当てが給料の形をとるのです。

小室●それに〈生産者と生産手段が分離する〉という、資本主義にとって最も基本的なこの性格が欠けている日本の経済システムは、中世的な共同体のままといえます。

藤原●中世じゃなくて古代以前だと思いますね。政治を見ればわかるけれど、どう考えても呪術的ですよ。だから、情報以前なのは当たり前かもしれない。

【『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹〈こむろ・なおき〉、藤原肇〈ふじわら・はじめ〉(ダイヤモンド社、1982年)】

大東亜戦争はアメリカのオペレーションズ・リサーチに敗れた/『藤原肇対談集 賢く生きる』藤原肇

「オペレーションズ・リサーチ」が本書に書かれていたと思い込んでいて、三度も画像を確認する羽目となってしまった。これ、と思った情報はメモ書き程度で構わないから残しておく必要がある。はてなブログを使うか。

「インテリジェンス」という言葉は佐藤優〈さとう・まさる〉が嚆矢(こうし)と思いきや、本書の方がずっと早かった。藤原、小室、そして倉前盛通〈くらまえ・もりみち〉あたりを嚆矢とすべきか。

 農業の産業化ができない日本という指摘は納得できる。近頃、農業本を数冊読んできたのだが「工夫次第では儲かる」というレベルで、大規模化を農地法が妨げている現状だ。安倍政権が何とか改革したが、まだまだ道半ばである。

 日本の政治は食料安全保障の意識が欠如している。食とエネルギーこそ国家の生命線である。自民党にとって農家は票に過ぎない。農業のグランドデザインを描く政治家を私は見たことがない。日本の食料自給率はカロリーベースで37%まで低下した(令和2年/日本の食料自給率:農林水産省)。国防もさることながら食料においても有事を想定していないことがわかる。

 小室と藤原は合理性をそのまま人間にしたような人物である。ただし、今読むとどこか新自由主義の臭いがして、すっきりと頷けないところがある。