2021-11-10

行間から滴り落ちる毒/『先崎学の浮いたり沈んだり』先崎学


『将棋の子』大崎善生
『傑作将棋アンソロジー 棋士という人生』大崎善生編
『聖(さとし)の青春』大崎善生
『一葉の写真』先崎学
『フフフの歩』先崎学

 ・行間から滴り落ちる毒
 ・村山聖

『まわり将棋は技術だ 先崎学の浮いたり沈んだり2』先崎学
・『山手線内回りのゲリラ 先崎学の浮いたり沈んだり』先崎学

 今だから笑って書ける話だが、私は10代前半の頃までかなりのどもりだった。
 どもりには二通りあって、「あ、あ、あ」と最初の言葉を反復してしまうものと、最初の一言が出てこないものに分かれるのだが、私は後者の方で、とくにカ行とタ行ではじまる言葉がてんで駄目だった。
 一発目の一語さえ発音できれば、あとはすらすら喋れるのだが、その一語がなかなか出ない。しかも緊張するとますます出ないというのがこのタイプの特徴で、一人暮らしをはじめた頃、蕎麦屋での注文の時、たぬき、きつね、天ぷらなどがどうしてもいえなかった。お陰で今でも蕎麦は冷たいものが好きである。
 奨励会の頃だからプロ棋戦の記録係を務めるのだが、カ行とタ行の棋士の記録は、できるだけしないようにしていた。「加藤先生、残り何分です」というのが言えないのである。
 だからどうかは分からないが、どちらかというと内向的な少年だった。
 そんな私を救ったのは田中角栄だった。

【『先崎学の浮いたり沈んだり』先崎学〈せんざき・まなぶ〉(文藝春秋、2002年/文春文庫、2004年)以下同】

1分間に200回の腹式呼吸/『火の呼吸!』小山一夫

 田中角栄の自伝を読み、あの雄弁な田中もどもりであった事実を知る。田中は浪曲を歌う時はどもらないことに気づく。話す時も節をつけるようにしたところ、それが後の角栄節を生んだという。田中の体験が光明(こうみょう)となった。

 とはいえ私は浪曲は知らない。だが言葉を出す時に節をつけるというのは、大きなヒントになった。「たぬき蕎麦」というのではなく、「えーとたぬき蕎麦」といえばいいのだ。
 えーと。んーと。いやあ。だからさ。そうねえ。私はこれらの言葉をなるべく使うようにした。
 こういう接続詞を多様すると必然、ややこしく理屈っぽい喋り口になる。その名残りは今も残っていて、お前の話は、中身が無いわりに理屈っぽいといわれる。
 とにかく、私は少しずつ努力した。
 ある日、どもらない自分がいた。それに気付いた時の喜びったらなかった。

 私は将棋ファンではないのだが、次の名解説で先崎の名を知った。


 どもりの片鱗もない見事な解説である。知的な語り口に魅了される。ところがどうだ。エッセイはというと行間から毒が滴り落ちている。こんな面白いエッセイを読んだのは久し振りのことだ。どこか昔の小田嶋隆と同じ匂いがする。

 間もなく読了するのだが、吃音つながりということで紹介した。私は子供の時分から口が達者な方なのだが、他人の言うに言われぬ悩みを知ると自分の狭い世界が広がる。小学校の同級生だった近藤ブー太郎に謝りたくなる。先崎の吃音(きつおん/「どもり」は現在差別用語認定)は青森出身のためかもしれない。東京に来ても雄弁なのは関西の連中くらいだろう。

 先崎は羽生世代である。が、本文で羽生に敬称はつけない。同い年というよりは同レベルの将棋指しとの矜持によるものか。大いに笑わせられる中にも勝負の厳しさをキラリと光る文章で綴っており只者ではない。

2021-11-09

1分間に200回の腹式呼吸/『火の呼吸!』小山一夫


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇
『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛龍会編
『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子
『天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編

 ・1分間に200回の腹式呼吸

『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英
『BREATH 呼吸の科学』ジェームズ・ネスター
『釈尊の呼吸法 大安般守意経に学ぶ』村木弘昌
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史

身体革命

【「火の呼吸」とは1分間に200~250回の激しい腹式呼吸を行い、体内のエネルギーを高めることで神経を刺激し、アドレナリンの分泌を促進していくものです。簡単にいえば、激しい呼吸によって多量の酸素を脳に送り込むわけです。それによってニューロン(脳を構成する神経細胞)の代謝が促進され、体のなかの機能が活発に働き、そうして自然治癒力が高まっていくわけです。】(中略)
 さて、「火の呼吸」の基本動作を紹介しましょう。
 胡座(あぐら)をかく状態で右足を上にして、肩の力を抜いて両手はひざの上におきます。背筋を伸ばしましょう。この姿勢で呼吸をするわけですが、腹式呼吸で鼻で息を吸い、思いっきり鼻で吐きます。吐くときは腹部の筋肉をへこませます。要領は吐くことに集中すること。思いっきり吐いて自然に息を吸うという感じです。

【『火の呼吸!』小山一夫〈こやま・かずお〉、安田拡了〈やすだ・かくりょう〉構成(KTC中央出版、2003年)以下同】

 火の呼吸は「クンダリーニ・ヨガの秘法」と紹介されている。英語だと「クンダリーニー」、サンスクリット語だと「クンダリニ」と聞こえる。クンダリーニの文字を見て尻をすぼませる人がいることだろう。私もその一人だ。少しかじった程度でも条件反射が出てしまう。

 小山一夫が伊藤昇に献本したところ、伊藤は直ちに出版社から数十冊を購入したというエピソードがある(『天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編)。単なるサービス精神ではあるまい。有望な弟子たちに読ませようとしたのだろう。

 小山は船木誠勝〈ふなき・まさかつ〉を指導した。それもヒクソン・グレイシー戦までの4ヶ月間である。「船木選手は私が1年以上かかったレベルの修行をわずか2か月で達成しました」と書いてある。

 クンダリーニ・ヨガというのは、日本のヨーガ教室でやっているもの(ハタ・ヨーガ)ではありません。ハタ・ヨーガというのは体を柔軟にする技法が主体で、おもに健康法として広まっています。しかし、クンダリーニ・ヨーガはヨーガのなかでも、もっとも高度な技法体系で構成されたもので、ヨーガの秘法とされ、長いあいだ公開されていませんでした。2000年以上も前からインドのさまざまな文献に名前は出てくるのですが、その実践方法が明らかにされておらず、幻のヨーガといわれていたのです。
 ところが、20世紀後半のことです。その秘法の継承者ヨギ・バジアン師(インド人)がアメリカに渡り、その全容が世界に広まっていったのです。しかし、残念ながら日本では知られておらず、私がヨギ・バジアン師から学び、ようやく日本で公開することができたのです。

 小山は3歳で吃音症を発症。治したい一心で少林寺拳法や真言密教の過酷な修行にも取り組んできたが願いがかなうことはなかった。ところが、ヨギ・バジアン師と出会い、クンダリーニ・ヨガを修める中でいつの間にか治っていたという。その事実に気づいたのが27歳の時で、振り返ると25歳頃に治っていたかもしれないと綴られている。ここが凄いところだ。つまり知らず識らずのうちに吃音を治したい願望よりも、クンダリーニ・ヨガを極めることが最大の目的となったのだ。生の次元が変わったと言ってよい。視線が遠くを捉えた時、目の前の障碍(しょうがい)は小さな段差に過ぎなくなったのだ。

 だいたいヨーガの生活というのは、4時に起きるんです。それでシャワーを浴びたりして、4時半からヨーガをはじめます。まずエクササイズを30分から1時間やって、それからメディテーション(瞑想)に入るわけです。合計1時間半か2時間やって、それから食事をします。

 とすると私の場合、20~21時に寝る計算となる。ウーム、早いな。しかも二度寝る癖がついてしまっている。自然の摂理からすれば、やはり早起きするのが望ましい。

 玄米というのは体を冷やします。だから熱の代謝が悪い体質の人や風邪をひき真っ青になって寒気でガチガチしているような人が玄米を食べますと、もっと代謝が悪くなるわけです。体を温めなくてはいけないのに、体を冷やす食べ物を口にしてはいけません。

 私もアンチ玄米派である。せめて3~5分づき程度にするべきだろう。玄米が健康によいのであれば米糠(こめぬか)を食べればいい。


 マクロビオティックだと玄米は「中庸」とされている。カリウム=陰性、ナトリウム=陽性と判断するようだ。ところが、「玄米にはカリウムが多量に含まれ258.1±20.0mg%であったが, ナトリウムはきわめて少量しか含まれていない」との論文がある(CiNii 論文 -  食品中ナトリウムおよびカリウム含有量の調理による影響 (第1報):米の搗精, 洗米によるナトリウムおよびカリウム含有量の変化)。とすれば小山の指摘が正しいのだろう。

 座して10分の「火の呼吸」ができる人でも、仰向けに寝た状態だと3分も持ちません。もしも寝た状態で5分の「火の呼吸」ができるようでしたら、ものすごく呼吸筋が強くなっているということです。


 尚、小山は止息を批判しているが、これは成瀬雅春に対する批判か。横隔膜を鍛えることができるのは素晴らしい。結局、大腰筋よりも上部のインナーマッスルを刺戟(しげき)するところに目的があるのだろう。

 ヨーガの師サトワン・シン先生は、毎朝アーモンドを2粒食べれば、ガンの予防になるとおっしゃていました。

 根拠は不明である。ただし信ずるものは救われるかもね。



行間から滴り落ちる毒/『先崎学の浮いたり沈んだり』先崎学

茂木誠:皇統の危機を打開する方法


 ・茂木誠:皇統の危機を打開する方法

『世界史で読み解く「天皇ブランド」』宇山卓栄
『〔復刻版〕初等科國史』文部省

 茂木誠が具体的な提案を行っている。なぜ皇室典範を改正して、直ちに1あるいは2を実行しないのかという主張には強い説得力がある。

2021-11-08

骨盤体操/『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇
『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛龍会編

 ・骨盤体操

『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編
『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成
『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史

身体革命

・やりづらい動きは回数を増やして
・筋肉を押す、揉む、叩くは厳禁
・「吐く」呼吸を意識して

【『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子〈なつめだ・みなこ〉(KKKKベストセラーズ、2011年)】

 慣れないうちはどうしても息を止めてしまう。吸うことは誰でも自然にできるので吐くことに意識を集中する。


 真向法を行ったことがあれば、この体操の意味を理解できよう。


 私の場合、ストレッチは必ず真向法(まっこうほう)から始める。植芝盛平や中井祐樹も実践してきた体操である。


 本書にはDVDが付いているので大変わかりやすい。一通りできるようになってから再度視聴することで、最初は見えなかったものが必ず見えてくることだろう。

政治思想マトリックスで見る日本史


『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠

 ・政治思想マトリックスで見る日本史