2018-06-02

敗戦の心情/『ビルマの竪琴』竹山道雄

『昭和の精神史』竹山道雄
『竹山道雄と昭和の時代』平川祐弘
『見て,感じて,考える』竹山道雄
『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』竹山道雄:平川祐弘編
『剣と十字架 ドイツの旅より』竹山道雄

 ・敗戦の心情
 ・「一隅を守り、千里を照らす」人のありやなしや

『人間について 私の見聞と反省』竹山道雄
『竹山道雄評論集 乱世の中から』竹山道雄
『歴史的意識について』竹山道雄
『主役としての近代 竹山道雄セレクションIV』竹山道雄:平川祐弘編
『精神のあとをたずねて』竹山道雄
『時流に反して』竹山道雄
『みじかい命』竹山道雄

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その一

「国が廃墟(はいきょ)となり、自分たちの身はこうした万里(ばんり)の外で捕虜となる――。これは考えてみればおどろくべきことだ。それだのに、私は、これはどうしたことだ――、とただ茫然自失(ぼうぜんじしつ)するばかりである。それをはっきりと自分の身の上に起こったことだ、と感ずることすらできない。ただ手からも足からも力が抜けてゆくような気がする。
 そのうちには悲しい気持もおこってくるであろう。絶望も、うたがいも、いかりやうらみすらおこってくるかもしれない。すべてはおいおい事情がわかってきてから、考えをきめるほかはない。実は、もうかなり前から、こういうことになるのではないかとうすうすは思っていたのであったが、いざそうなってみると、まったく途方(とほう)にくれるというほかはない。
 いまはただなりゆきを待つほかはない。いまわれわれが運命にさからったところで、それが何になろう。どうしてもさけることができないものならば、むしろそれをいさぎよく認めて、われわれの境涯(きょうがい)がどんなものであるかをよく知って、その上であたらしく立ち直ってゆくのが、むしろ男らしいやり方である。せめてそうするだけの勇気を持とうではないか。
 よくはわからないが、われわれはすべてを失ってしまったらしい。自分たちの身の上はみじめなものである。残っているものとしては、ただわれわれが互いに仲がいい、ということだけである。これだけは疑うことができない。われわれが持っているものとては、これだけだ。
 自分たちはこれからも共に悲しみ、共に苦しもう。互いに助けあおう。自分たちはこれからの苦しいことも覚悟しなくてはならぬ。あるいはこのさき、このビルマの国で骨になるかもしれない。そのときは一しょに骨になろう。ただ、最後までできるだけ絶望はしまい。何とかして希望をもってしのいでゆこう。
 そうして、もし万一にも国に帰れる日があったら、一人ももれなく日本へかえ(ママ)って、共に再建のために働こう。いま自分のいえることは、これだけである」
 隊長は言葉もきれぎれにこういいました。みな黙(だま)ってきいていました。
 誰(だれ)もはりつめた気もぬけ、ただぼんやりとしてしまったのです。みな首をたれて、隊長のいうとおりだ、と思いました。
 おもえば、われわれは歓呼(かんこ)の声におくられ、激励(げきれい)されて国を出たのですが、それにもかかわらず、あのころから、国中にはなんとなく不吉(ふきつ)な気分がみちみちていました。いまそれがまざまざと思いだされます。誰もかれも、つよがっていばっていましたが、その言葉は浮(う)わついて空疎(くうそ)でした。酔っぱらいがあばれだしたようなふうでもありました。それを思うと、胸も痛み、恥ずかしさに身内があつくなるような気がしました。
 誰かすすり泣く声がしました。すると、みな、にわかに悲しくなって、すすり泣きました。しかし、それははっきり何が悲しい、何がうらめしい、というのではありませんでした。ただ、このたよりない気持をどうしたらいいかわからなかったのです。

【『ビルマの竪琴』竹山道雄(中央公論社ともだち文庫、1948年/新潮文庫、1959年)】

『ビルマの竪琴』は「1946年(※昭和21年)の夏から書き始め童話雑誌『赤とんぼ』に1947年3月から1948年2月まで掲載された」(Wikipedia)。一高(東大の前身)の教師だった竹山は従軍していない。そのため現地などの情報に多くの誤りがあることを詫(わ)びている。

 冒頭に出てくる「歌う部隊」のエピソードは本書を読んだことがない人でも知っているだろう。追い詰められた日本兵が「埴生(はにゅう)の宿」を歌うと、今にも襲いかからんばかりのイギリス兵も歌い出し、合唱となる。


Helen Traubel Sings "Home, Sweet Home." 1946

日本童謡事典』の「埴生の宿」p323-32の解説によれば,「みずからの生まれ育った花・鳥・虫に恵まれた家を懐かしみ讃える歌…」「「埴生の宿」とは,床も畳もなく「埴」(土=粘土)を剥き出しのままの家のこと,そんな造りであっても,生い立ちの家は,「玉の装い(よそおい)」を凝らし「瑠璃の床」を持った殿堂よりずっと「楽し」く,また「頼もし」いという内容。

レファレンス協同データベース

 敗色が濃厚になると日本は無気力に覆われた。欧米と比すれば小さな国である。物資が欠乏しながらも3年半にわたって戦った歴史を軽々しく論じるべきではない。しかも敗れたのはアメリカ一国だけであり、イギリス・フランス・オランダ軍を退けたのだ。

 8月15日を境にして日本はGHQの占領下に置かれる。実に建国以来のことである。わずか7年(サンフランシスコ講和条約が発効した1952年〈昭和27年〉4月28日まで)とはいえ、歴史を裁断するには十分な時間だった。

 日本人の精神は無気力から真空状態に至る。そして敗戦するや否やラジオや新聞はGHQの統制下で軍部を悪しざまに罵った。知識人は掌(てのひら)を返して「戦争には反対だった」と口々に言い始めた。歓呼の声と万歳で見送られた兵士は帰国すると白い目で見られた。

 1940年(昭和15年)にナチスを批判した竹山はこの時もまた強い違和感を覚えた。自分の教え子の訃報に接してきた彼がやすやすとGHQの洗脳に屈服することはなかった。遺骨もなく形見の品だけで弔(とむら)う葬儀があった。形見すらない場合も珍しくなかった。世間が戦争の罪を軍部に押し付けようとした時、竹山はたった独りで鎮魂のペンを執(と)った。児童向けの作品となった経緯を私は知らないが結果的にはよかったと思う。戦後に就学していた人々が左傾化することは避けようがなかったわけだが一定のブレーキにはなったことだろう。

 このテキストには敗れざるを得なかった日本の情況が正確にスケッチされている。「酔っぱらいがあばれだしたようなふう」とあるが、直ぐ後に描かれる「首を切り落とされた鶏(にわとり)がバタバタと動く様子」は戦前・戦中の日本を示したものだろう。天皇責任論に対する静かな批判といってよい。

 誰もが食べることで精一杯だった。そんな中で竹山は戦死者の魂を鎮(しず)めようとした。

2018-06-01

逃げるトビウオ


 海の中も海の上も敵だらけだ。トビウオよ、跳べ! 飛べ! 翔べ!

『竹山道雄著作集』(全8巻)と『竹山道雄セレクション』(全4巻)の比較


 新旧全集の比較。重複していないテキストの目次を記す。尚、旧全集は「研究余録 ~全集目次総覧~」を、新全集は「藤原書店」を参照した。ざっと検索しただけで厳密ではない。片山・三谷の追悼文は多分同じものか。



『竹山道雄著作集』全8巻(福武書店、1983年)

第2巻 イタリアめぐり/南仏紀行/スイスにて/中世のおもかげ/オランダの訪問/ベナレスのあたり/と飛

第3巻 智識人の裏切り?/憑かれた人々/空地/終戦の頃のこと/旧制一高の外国人学生たち/学生事件の見聞と感想/門を入らない人々

第4巻 川西瑞夫君の追憶/二十歳のエチュード/三谷先生の追憶/麻生先生のこと/岩元禎先生/鶴林寺をたずねて/矢内原さんの私が接した面/木村健康さん 安倍能成先生のこと/一つの秘話/最後の儒者/亡き神西清君のこと/堀辰雄君と私/片山敏彦さんの死

第5巻 ベルリンにて/消えてゆく炎

第6巻 独逸的人間/ゲーテに於ける自然と倫理/『ファウスト』の夜の場とニーチェ/老いたるロッテの悩み/ベッチーネ・フォン・アルニムのこと/ワグナーの弟子/イプセンの願望/不滅の風景画/デダルスの翼/シュプランガーのこと/神韻縹渺

第7巻 ビルマの竪琴/白磁の杯

第8巻 古都遍歴―奈良/作庭の歴史的系統の概略/竜安寺石庭/詩仙堂/古都は警戒する/日本の肖像芸術



『竹山道雄セレクション』全4巻(藤原書店、2016年)

I 国体とは/昭和史と東京裁判/春望/台湾から見た中共/時流のファナチズム

II 『ツァラトストラかく語りき』(全3巻)訳者あとがき/ユダヤ人焚殺とキリスト教/一神教だけが高級宗教ではない/ソ連地区からの難民/ソビエト見聞

III 北京日記/フランス滞在/若いゲーテの転向/ソウルを訪れて/鎌倉礼讃/タイレのこと/暗示芸術――日本の美感1/構成芸術――日本の美感2/賀茂神社の方へ/日本文化の位置

IV 砧/亡き母を憶う/寄寓/きずあと/主役としての近代/焼跡の審問官/ものの考え方について――演繹ではなく本質直観を/自分の亡魂/むかしの合理主義/歴史と信仰の解明を/ビルマから東パキスタンへ――二つの会議に参加して/キリスト教への提言――説得力に欠けはしないか/人権のため人権侵害/文化自由会議に出席して/片山敏彦さんのこと/亡き三谷先生のこと/私の八月十五日/私の戦争文学/明治百年と戦後二十年/突然の死――帰るべきところに帰る覚悟/オランダ通信/甘い態度は捨てよ――大学の存亡かけ戦う時/鎌倉・人工の浸食/めぐりあい/死ぬ前の支度/新聞連載コラム(『東京新聞』1961年、『読売新聞』夕刊1966~67年、『サンケイ新聞』1965~66年)

2018-05-27

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2018-05-25

旅をするならランドナー


 ロードバイクは走ること自体を目的としているため荷物を積むような設計になっていない。旅をするならランドナーというタイプのバイクになる。こちらは最初から泥除けや荷台が付属しているのも多い。タイヤがやや小振りで太く、上体を起こして走るジオメトリーになっている。ま、百聞は一見に如かずだ。各ページを参照せよ。

【2018最新】ランドナーおすすめ8選!日本縦断「後」に知って後悔したその魅力
【2018年最新版】自転車旅行専用!失敗しない「ランドナー」の選び方・おすすめ車種まとめ
ツーリング用バイク
ロードバイクとの違いは?ランドナーってなに?
ロードバイクとランドナーの違いの概要(1)
スポルティーフおすすめ6選!ランドナーとの違いや特徴・魅力も解説!

2018-05-24

ロードバイクを走らせる前に必要な準備


走る、歩く、駆ける
中年は奥多摩湖を目指す
大垂水峠を制覇

 ・ロードバイクを走らせる前に必要な準備

ロードバイク 後輪の外し方
ひょっとして電池よりも安い!? 中国製激安サイクルコンピュータ
ロードバイク~乗る前に必ずマスターしておくべきこと
ネット通販で購入したロードバイクの防犯登録とTSマーク(自転車向け保険)

 私がロードバイクに興味を抱いたのは高千穂遙〈たかちほ・はるか〉の『自転車で痩せた人』(NHK出版生活人新書、2006年)を読んでからのこと。当時はサスペンション付きのマウンテンバイクに乗っていた。たぶん重さは15kg以上あったと思う。パンク修理をした際、自転車屋から「長距離を走るなら重さが10kg以下じゃなきゃダメだね。膝に負担が掛かるから」と教えられた。

 安い買い物ではないゆえ1年前からあれこれと調べてきた。私は全くの初心者なので参考情報をメモしておこう。

 まず自転車の種類であるが、ロードバイク(ドロップハンドル)、クロスロード(ストレートハンドル)、クロスバイクと三つある。ロードと付くものは走ることに特化しているためタイヤが細く付属品(ペダル、ライト、スタンド、荷台など)がない。タイヤサイズは700-650×23-28cである。前者が直径で後者が幅だ(フランス規格で単位はmm)。タイヤが細ければ細いほどパンクするリスクが高まる。特にロードバイクの場合、リム打ちといって縁石などの段差にぶつかった衝撃でホイールによってチューブを傷つけるケースが多い。つまり空気圧が低いとパンクする可能性が高くなる。

 次にフレームの素材はにクロモリ、アルミ、カーボン、チタンの4種類がある。私は最初からクロモリと決めていた。軽量化という点では不利だが頑丈で細いフレームが好みに合う。また長距離ではしなやかさを発揮するのも特長だ。アルミの場合、長く走ると振動で手が痛くなるようだ。カーボンは高級機種で軽いのだが横からの力に弱い。チタンは手の届くレベルではないため調べもせず。

 ロードバイクの価格は重量とコンポーネントで決まる。フレームとタイヤを除いた部分(ブレーキ、レバー、クランクセット、スプロケット、チェーン)をコンポと呼ぶ。釣り具で有名なシマノ社のほぼ独占状態と知って驚いた。下のランクからTourney(ターニー:7段)、Claris(クラリス:8段)、SORA(ソラ:9段)、Tiagra(ティアグラ:10段)、105(イチマルゴ:11段)、Ultegra(アルテグラ:11段)、DURA-ACE(デュラエース:11段)となる。ま、大雑把に言ってしまえばティアグラ以上は10万円超えと考えてよろしい。変則段数は後ろのスプロケット(ギヤが付いた歯車)で前のクランク(ペダル部分の歯車)が2段になると倍になる。下位モデルでは3段もある。シフターはSTIレバーが主流でブレーキレバーを操作する。


 セール品の旧モデルだとダブルレバーが多いので要注意。

 私が参照したページを挙げておこう。

クロモリは一生物?アルミの旬は短い、急に破断する
軽量アルミフレームはカーボンより寿命が短い
初心者自転車乗り必読!シマノの変速機ギアのランクとは?
転がり抵抗を比較 23Cと25Cのタイヤは違うのか?
初めてロードバイクを買うなら3万円の安いロードバイクの方がむしろ良い理由
Amazonで2万円の格安ロードバイクを買って1年使った感想。
鍵の選び方と用途別おすすめの鍵5点
ロードバイクのネット通販詐欺に要注意!
自転車関係の通販の詐欺サイトについて

 真っ先に考えるべきは盗難である。高価なロードバイクほど軽いので盗難リスクが高まる。しかもロードバイクは簡単にタイヤを外すことができる。フレームとタイヤ、更に地球ロックをするのが普通であるが、盗む意志を持った人間であればどうにでもできる。以下はロンドン警察による囮(おとり)捜査の模様である。


 つまり選択肢は二つだ。室内保管ができれば高価なバイクを、できないなら安物を選ぶ。厳粛ではあるがこれが実際的判断となる。通勤・通学であればクロスロードで十分だろう。少し前まではGIANT(世界最大の台湾メーカー)のESCAPE R3か、GIOS(イタリア本社だが台湾で生産)のMISTRALの二択とされてきたが、ここに来てシマノコンポ搭載の格安5万円モデルが陸続と登場している。私も当初はMISTRALを買うつもりだった。

 5万円以下であれば、「アートサイクルスタジオ」をお奨めする。送料も格安である。室内保管が可能であればネット通販だと関西のカンザキバイクが一番安い。105以上であれば個人輸入するという手もある。「海外通販なら自転車パーツが激安で買える!」の右カラムにリンクあり。送料は1万円ほど。

 5~10万円の予算であればMIYATAのフリーダムシリーズがよい。スーパービバホームが展開するサイクルスタジアムなどでかなり安く売っている。そしてMIYATAには盗難補償が付いているのだ(ブリヂストンが展開するANCHORにもある。申し込みが必要)。保険会社による盗難保険もあるのだが中途半端な値段のロードバイクだとコストが見合わない。

 で、やっと本題に入る。ロードバイクを走らせる前に必要な準備だ。まずポンプ(空気入れ)。ママチャリなどのバルブは英式(空気圧が測れない)だがロードバイクは殆どが仏式である(バルブの種類と空気入れの使い方)。次に遠出をする場合はパンクに備える必要がある。携帯用ポンプは作業が結構大変なようだ。手っ取り早い方法としては替えチューブとCO2ボンベを用意する。他にもタイヤ応急修理キットはあった方がいいだろう。加えて鍵とサドルカバーを買った。〆て1万2735円である。しばらくの間は夜間走行を控えるので前後のライトは入っていない。サドルバッグはゆくゆく見繕うつもりだが手持ちのデイパックで間に合わせる。室内保管のためサイドスタンドは付けず。ボトルゲージも後回し。

 ロードバイクは移動手段ではない。走ること自体が目的となっている。長時間の駐輪を想定するなら輪行バッグに収納するのが正しい(ロングライドへ行こう!~その2 輪行袋編~)。

 最初は安物を買って、脚力がついたら買い直そうと思っていたのだが、自分が今年55歳になることをすっかり失念していた。5年後は60歳だぜ。「お前は日本一周でもするつもりなのか?」――いやあ実はそうなんスよ(笑)。私の頬は既に心地よい風を感じている。自転車はまだ届いてないけど。




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