2021-06-21

過給ダウンサイジングと年金問題/『博士のエンジン手帖3』(モーターファン別冊)畑村耕一


・『軽トラの本』沢村慎太朗
『営業バンが高速道路をぶっ飛ばせる理由』國政久郎、森慶太
・『営業バンが高速道路をぶっ飛ばせる理由2 逆説自動車進化論』國政久郎
・『別冊モータージャーナル 四輪の書』國政久郎、森慶太

 ・過給ダウンサイジングと年金問題

2007年の排ガス規制~ホンダPCX125の登場(2010年)がビッグスクーターブームに止めを刺した

「日本のメーカーがやるべきことは、まず過給ダウンサイジングの土俵に上ること。技術を深めるのはそこからの話じゃ」
 博士がこう話したのは2012年、スバルが投入した新世代水平対向エンジン、FA20DITを前にしてのことである。排気量は2.0lで、ツインスクロールターボやEGRなど、過給ダウンサイジングの定番技術を採用している。フォレスターに乗ってFA20DITの出来映えを検証した際の感想は『博士のエンジン手帖2』を参照いただくとして、当時から小型排気量版の登場を予見していた博士は「1.6lが本命。はよ乗りたい」と繰り返し語っていた。

【『博士のエンジン手帖3』(モーターファン別冊)畑村耕一〈はたむら・こういち〉(三栄書房、2015年)以下同】

 運転は好きなのだが、特別クルマに興味があるわけではない。仕事でハイエースや2トントラックに乗っていたことがあり、荷物を運ぶクルマに関心があった。そこで上記書物を読んだというわけ。

 メカニズムに関しては更に蒙(くら)い。動画「クラッチの仕組みとは?」を視聴してもピンと来るものがなかった。まして過給ダウンサイジングの意味など知る由もない。

ダウンサイジング過給エンジン:なぜエンジンをダウンサイジングすると効率が良くなるのか?|Motor-FanTECH

 多分、人を運ぶエンジンサイズの適正化ということなのだろう。人間一人を移動させるだけなら50ccの原動機で十分だ。実際の馬が4馬力で、人間が0.3PS~1.5PSという(人間は何馬力? | 教えて!goo)。自転車なら8メッツ程度だ(METsとは?|松本協立病院)。

「1.6リッターが本命」ということは5人乗りであれば一人あたり300ccに相当する。車重を踏まえれば250ccバイクに乗ると考えられるから妥当だろう。

「エンジン屋にとって、過給ダウンサイジングを理解するのはよっぽど難しいんかと思う。ワシの場合はもともとエンジン屋じゃのうて電気自動車屋、パワートレーン屋じゃけ、エンジンはトランスミッションとセットで走りを考えにゃいけんことがわかっとる。クルマは気持ち良う走ることが大事で、そのためには低速トルクが要るんだということは実際に体験してみるのが一番じゃ」

 読んだ時は訛(なま)りに違和感を覚えてならなかった。「お前は猪熊滋悟郎か?」とも思った(YAWARA! - Wikipedia)。編集部としては生(なま)の畑村を伝えようとしたのだろうが完璧な失敗だ。

【「技術屋がわかってもクルマは変わらん。企画する人間や営業が変わらねば」
 これも博士の口癖だ。】

 理系特有の本質に切り込む視点が参考になる。特に驚かされたのは年金に対する考え方だ。

 効率を求めない、成長を求めないのが、これからの国のかたち、人の生き方じゃろう。成長を続けることが本当にええことなんかどうかをよく考えにゃいけん。これ以上成長したら地球はもたんようんになるのは目に見えとるからじゃ。面白いことに、年金がきちんと出て老後が保障されるようになると、子供を持つ理由がないようになる。だから、先進国は人口が減っていく。一方、年金が整備されていない国は自分の老後を子供に託すしか道がないけえ、子供を増やす。貧しい国では子供が育たんこともあるんで、リスク対応でたくさん産む。だから、貧しい国はどんどん人口が増えていく。
 世界はいま、そういう状況に陥っとる。この流れを断ち切るには、年金をやめにゃいけん。物事の本質を見誤ると、ほころびが出てくる。年金制度がなぜ破綻するかというたら、年金制度があるからじゃ。働き手が少ないからという指摘もあるが、年金が十分に受け取れるなら子供に面倒を見てもらう必要がないけ、子供は減り、働き手が減って年金は破綻するに決まっとる。
 年金制度は、老後はみんなで面倒を見ましょうという話。子供が自分の親の面倒を見るんじゃのうて、他の親も含めて面倒を見にゃいけん。その一方で、子供がいある親だけが子供の面倒を見る必要がある。そんな不公平な状況だから、だったら子供は要らんという話になる。年金制度で老人の面倒を見るんなら、子供の面倒もみんなで見る制度を一緒に整備せにゃいけん。子育て支援など当たり前じゃ。

 つまり社会保障のダウンサイジング化ということなのだろう。その辺の政治家よりも遥かに高い見識の持ち主で、こうした人々が日本のものづくりを支えてきたことを思うと胸が熱くなる。



エンジンコンサルティング|畑村エンジン研究事務所(広島市南区)

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