ラベル 読書日記 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 読書日記 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2017-01-02

デイヴィッド・イーグルマン


 1冊読了。

 1冊目『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン:大田直子訳(ハヤカワ文庫、2016年/早川書房、2012年『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』改題)/再読。二度目の方が衝撃が強い。読む順序は書評に示した通りである。関連書は「必読書リスト」に網羅してあるが、認知科学と神経科学を私が混同していたため、順番は随時更新している。大田直子の翻訳は実にこなれていて読みやすい。「私」とは「私の意識」に他ならないわけだが、その意識が実は確かなものではなく怪しい蜃気楼のような存在であることを解明する。瞠目すべきは200ページあたりからで、イーグルマンは神経法学という領域に思考を飛翔させる。つまり犯罪者には脳を中心とした神経的な異常があり、社会から排除するよりも神経の更生に重きを置くべきであると。飛躍的な思考は大変に刺激的だが、社会システム論として見ると大きな穴があるのではないか。amazonカスタマーレビューで桐原氏が「新派刑法学の亡霊」との鋭い批判を寄せている。確かに「近代学派(新派) (moderne Schule)」を読むと変わりがない。ただしイーグルマンは具体的な証拠を示しており一定の説得力はある。チンパンジーの世界ではルールを破る者はその場で撲殺される。コミュニティが崩壊する危機を回避すると共に、危険な遺伝子を抹殺する意味もあるように思われる。イーグルマンの試みは素晴らしいものだがコストに見合うほどの社会的利益があるかどうか。

2016-12-28

アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ローズ


 1冊読了。

 175冊目『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ローズ:茂木健一郎監訳、木村俊雄訳(PHP研究所、2003年)/再読。訳者の名前を明記していないのはPHP研究所の片手落ちだ。茂木の名前で商売をしようとの魂胆が見え見え。神経科学から悟りにアプローチした労作で後に花開く認知科学に与えた影響は大きい。再読して気づいたのは量子論的視点を欠いていることと、受動的なアプローチ(絶対的一者)と能動的アプローチ(神秘的合一)の論述に混乱が見られる。尚、前者は仏教で後者は人格神宗教を示す。巧緻な文章と研究に関する自負が強い割には視点の飛躍がない。「すべてのスピリチュアル体験は、瞬間的に大発生した電気化学的な刺激が脳の神経経路を駆けめぐる現象に還元できてしまう」という地点にとどまっている。いずれにせよ本書が突きつけたテーマに関して全ての宗教が応答を求められている。既に書評済みである。

2016-12-27

菅沼光弘、黒沢隆朝


 1冊挫折、1冊読了。

台湾高砂族の音楽』黒沢隆朝〈くろさわ・たかとも〉(雄山閣、1973年)/戦前の現地調査に基づいた学術書である。写真も豊富で尚且つ楽譜や歌詞に至るまでが網羅されており、A5判で500ページ強の大冊である。Difang(ディファン/郭英男)の歌に衝撃を受け、映画『セデック・バレ』に魂を掴まれ、とうとう本書にまで辿り着いた。前半が合唱、後半が楽器となっているが前半だけ飛ばし読み。思いも寄らぬイレギュラーボールがあり鎌倉仏教の謎が一つ解けた。近代における学問の姿勢が険しい山の頂上を目指す姿を思わせる。それに比べると現代の学問は賢(さか)しらな情報や技術論に終始しているのではないか。本書は音楽の始原にまで迫る重要な研究で音楽史に一石を投じる内容となっている。

 174冊目『この国を脅かす権力の正体』菅沼光弘(徳間書店、2013年)/一冊読み落としていた。これで菅沼本は全て読破。序盤がまったりしていて挫けそうになったが中盤から俄然盛り上がる。例の如く日本を取り巻く米中韓の綱引きをインテリジェンスで読み解く。拉致被害者に関して驚くべき記述あり。金融に関する指摘は瞠目に値する。その辺の経済学者よりもはるかに鋭い。菅沼や佐々淳行が生きている内に情報機関を作らないと大変な損失となる。

2016-12-25

福本伸行、ロバート・A・バートン、他


 3冊挫折、1冊読了。

『ダンマパダ』全詩解説 仏祖に学ぶひとすじの道』片山一良〈かたやま・いちろう〉(大蔵出版、2009年)/「仏祖」という言葉のセンスに問題があると考える。個人的に片山の文章が苦手でしようがないのだが、鎌倉仏教の枠組みでブッダを捉えようとする視線に疑問あり。ダンマパダ(法句経)新訳をブッダゴーサの『法句註』によって解説し、道元の『正法眼蔵随聞記』の言葉を併せて紹介。ダンマパダの各句はそれぞれ別々の人々に対して説かれたものであることを初めて知った。過去世の物語が全面に出ており読むに堪(た)えない。

所得税確定申告の手引 平成28年3月申告用』上田浩人、田所寛幹、川崎令子編(大蔵財務協会、2016年)、『〈平成27年分〉所得税 確定申告の手引』小野賢二編(税務研究会出版局、2015年)/前者の方がよい。書類の具体的な書き方が画像で紹介されているため。参考までに。

 173冊目『確信する脳 「知っている」とはどういうことか』ロバート・A・バートン、岩坂彰訳(河出書房新社、2010年)/一度挫けているのだが今回はスラスラ読めた。前々から「必読書」には入れてある。私の体調が悪かったのかと思ったのだがそうではない。リベラルにありがちな「答えを留保する姿勢」に酔うような態度を感じたためだろう。「知る」と「信じる」の根源に迫る難しい分析に挑む。岩崎が「既知感」という訳語を創出しているが、私にとってはクリシュナムルティを読み解く鍵にもなった。

 番外『銀と金(全11冊)』福本伸行(双葉社、1992~1996年)/かれこれ7~8回は読んでいるのだが、読まずにいられない飢餓感が定期的に襲ってくる。福本はギャンブルを通して虚飾を剥ぎ取った欲望を描く。喰うか喰われるかを凌ぐのは権力への渇望と運だ。連載が休載という形で終わり、未完になったのは「邦男」というキャラクターが森田という主役を喰ってしまったためだ。芸術家の想像力は飛翔し、作品そのものを葬ることがあるのだろう。森田と銀二の縁が切れた時点で物語は終わりを告げる。結局、福本が描いたのは人と人との交接なのだ。その妙がマイナスへと転じるところに本作品の魅力がある。

2016-12-21

シャンカール・ヴェダンタム、オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ、藤原肇、藤井尚治、他


 1冊挫折、3冊読了。

修羅の翼 零戦特攻隊員の真情』角田和男〈つのだ・かずお〉(今日の話題社、1989年光人社、2002年/光人社NF文庫、2008年)/良書。文章もよい。年末で時間がないため時期を改めて読むつもりである。大西瀧治郎〈おおにし・たきじろう〉は講和へ導くために特攻隊を考案した。大西個人の考えではないことが書かれている。

 170冊目『間脳幻想 人類の新時代をひらくキー・ワード』藤原肇、藤井尚治〈ふじい・なおはる〉(東興書院、1988年)/小室直樹と互角に渡り合った(『脱ニッポン型思考のすすめ』1982年)藤原が藤井には全くかなわなかったという。対談というよりは雑談なのだが恐ろしいまでの鋭さがぶつかり合う。アインシュタインの宇宙定数が再び見直されたように二人は錬金術の目的と思想をすくい上げる。その手並みが実に鮮やかだ。

 171冊目『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ:林康史〈はやし・やすふみ〉監訳、藤野隆太訳(日経BP社、2002年)/投資家の間では有名な本だが初めて読んだ。文章が巧みで随所に名文が光る。矢口新著『実践 生き残りのディーリング 変わりゆく市場に適応するための100のアプローチ』が霞んで見えるほどだ。株式投資以外でも十分通用する内容である。

 172冊目『隠れた脳』シャンカール・ヴェダンタム:渡会圭子〈わたらい・けいこ〉訳(インターシフト、2011年)/再読。既に書評済み。名著は何度読んでも新しい発見がある。

2016-12-09

知覧特攻平和会館、工藤美代子、他


 3冊挫折、2冊読了。

ボーダレス・ワールド』大前研一:田口統吾〈たぐち・とうご〉訳(プレジデント社、1990年)/北野幸伯〈きたの・よしのり〉著『プーチン最後の聖戦  ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?』で紹介されていた一冊。案の定、北野が引用していた部分が白眉である。国債基軸通貨ドルのメカニズムを見事に解説している。「FX帝国」の章も勉強になった。

エピクロスの園』アナトール・フランス:大塚幸男訳(岩波文庫、1974年)/新聞のコラムで「大衆」を知った。わずか5行の箴言であるが、これを読むだけでも本書の価値はある。

容赦なき戦争 太平洋戦争における人種差別』ジョン・ダワー:猿谷要〈さるや・かなめ〉監修、斎藤元一〈さいとう・げんいち〉訳(平凡社ライブラリー、2001年)/菅沼光弘が指摘する通り、やはり左翼である。昨今話題のポリティカル・コレクトネスの姿勢がよく見える。誰も逆らえないという前提で人権という原理を振りかざし、そこからはみ出る歴史的事実を羅列しているだけのこと。文章がよいだけに注意が必要だ。そもそも白人帝国主義に対する反省を欠いており、遅れて参加した日本を同列に論じる視点に違和感を覚えた。そもそも日本にアメリカのような人種差別は存在しない。インディアンを虐殺し、黒人を奴隷にしてきた国が説く正義を鵜呑みにするな。

 168冊目『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子(日本経済新聞社、2006年/中公文庫、2009年)/まず読み物として100点満点だ。技巧やスタイルを駆使していないにもかかわらず見事な文章である。「上善(じょうぜん)水(みず)の如し」(老子)という他ない。興味の有無にかかわらず引きずり込まれることは私が請け合おう。高齢者の性に関する工藤本を立て続けに挫折していただけに予想外の衝撃を受けた。悪評の高い近衛文麿を見直したのは鳥居民〈とりい・たみ〉が嚆矢(こうし)と思われるが、工藤本はほぼ完全な形で近衛を捉え直した。敗戦後、国体を辛うじて護持し得たが、国民はGHQとは違う形で戦争責任を求めたのだろう。その世論感情を新聞がミスリードした。戦争を煽ってきたジャーナリズムが一転して戦争責任を問うことで、物を書く行為は責任を失った。民主政の洗礼を受けた知識人は進歩的文化人として左側に整列した。日本の近代史は否定されるべきものとして学校教育で教えられた。依るべき国家を見失った人々のアイデンティティが崩壊するのは時間の問題であったことだろう。戦後、経済一辺倒で走り続けてきた日本はバブル崩壊によって無慙な姿を露呈する。我々は近衛が飲んだ毒を思うべきである。

 169冊目『いつまでも、いつまでもお元気で 特攻隊員たちが遺した最後の言葉』知覧特攻平和会館編(草思社、2007年/新装版、2011年)/小品である。海の写真が美しい。特攻隊の言葉に涙を催すのはなぜか? あまりにも清らかに生を燃焼させ、彼らは海に散っていった。その苛烈さを思えば、やはり政治家の軽さを感じずにはいられない。

2016-11-29

佐藤優、池内恵、ピーター・ミルワード


 3冊挫折。

ザビエルの見た日本』ピーター・ミルワード:松本たま訳(講談社学術文庫、1998年)/著者はイエズス会神父の大学教授。フランシスコ・ザビエルの手紙を抄録。薄っぺらい本だが3/4ほどでやめた。ミルワードの解説は蛇足というよりも、頭の悪さが目立ち、著書全体を台無しにしている。ザビエルも草葉の陰で泣いていることだろう。

サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』池内恵〈いけうち・さとし〉(新潮選書、2016年)/リベラル特有のどっちつかずの態度が煮え切らない。池内は既に中東研究の第一人者と目されているが、日本の歴史観が私とは相容れない。amazonレビューはおしなべて高い評価だが、私は読むに値しないと判断した。

いっきに学び直す日本史 近代・現代 実用編』安藤達朗著、佐藤優企画・編集・解説、山岸良二監修(東洋経済新報社、2016年)/佐藤優が巻頭の解説で安倍首相が主張する「戦後レジームからの脱却」を真っ向から否定している。しかも返す刀で公明党を持ち上げており、いかにも佐藤が指南しているように映る。佐藤の博覧強記と該博な知識は誰もが認めるところであるが、何を目指しているのかが全く見えてこない。ただし何となくではあるが沖縄を巡る何かなのは確かだろう。近頃は「私は反対だが」と前置きしながら琉球独立論をぶち上げたりしているようだ。結局のところ国際主義者であり左翼傾向が強い人物なのだろう。もちろん手嶋龍一も同類である。

2016-11-28

ビル・ブライソン、半藤一利、保阪正康、中西輝政、戸高一成、福田和也、加藤陽子、浦河べてるの家、藤田一郎、菅沼光弘、他


 12冊挫折、6冊読了。

思考実験 世界と哲学をつなぐ75問』岡本裕一朗(ちくま新書、2013年)/視点はよいのだが文章が悪い。

人物で読み解く「日本陸海軍」失敗の本質』兵頭二十八〈ひょうどう・にそはち〉(PHP文庫、2014年)/「失敗」が端的に描かれていない。タイトルに難あり。

図解雑学 時空図で理解する相対性理論』和田純夫(ナツメ社、1998年)/歯が立たず。再挑戦する予定。

日本文学全集 59 今東光・今日出海』今東光〈こん・とうこう〉、今日出海〈こん・ひでみ〉(集英社、1972年/1969年の改装版か)/「三木清における人間の研究」(今日出海)だけ読む。佐々淳行著『私を通りすぎた政治家たち』で知った。戦地で見た哲学者・三木清のクソ人間ぶりを冷静な筆致で描く。『人生論ノート』の文体からは到底窺い知ることができない。人間の欺瞞と不思議を思う。

皇統は万世一系である 女系天皇論の嘘とごかましを徹底検証』谷田川惣〈やたがわ・おさむ〉(日新報道、2011年)/タイトルの「女系天皇論」とはもちろん小林よしのり著『ゴーマニズム宣言SPECIAL 新天皇論』を指す。まあ、これでもかというほど批判が加えられている。小林は口を噤(つぐ)んでいる模様。こうした態度が小林ファンからの怒りを買っている。内容はほぼ神学論争といってよく、批判は攻撃・嘲笑・罵倒の色合いが強い。教義に関する造詣の深さが傲然とした姿勢を感じさせ、読むに堪えない代物となっている。チャンネル桜社長の水島総〈みずしま・さとし〉が一文を寄せているが、他人の尻馬に乗って肩をそびやかしているようにしか見えない。保守・右派に特有の徒党を組む精神性を私は蔑む。

余命三年時事日記』余命プロジェクトチーム(青林堂、2015年)/文章は素晴らしいのだが論旨がわかりにくい。表紙に「妄想」とあるのも不明さを引き立てている。ブログの書籍化だが、余命プロジェクトチームとは余命3年を告げられたブロガーと、その一族郎党を指す。響堂雪乃とよく似た文体である。

韓国呪術と反日』但馬オサム(青林堂、2015年)/菅沼光弘が褒めたというので取り寄せた。SMの件(くだり)で胸が悪くなって挫ける。

クリントン・キャッシュ 外国政府と企業がクリントン夫妻を「大金持ち」にした理由』ピーター・シュヴァイツァー:あえば直道監修、小濱由美子、呉亮錫訳(LUFTメディアコミュニケーション、2016年)/中ほどまで読んだがどうもスッキリしない。状況証拠を積み重ねているのだが決定力に欠ける。それにしてもビル・クリントンの講演料の高額さには驚いた。クリントン財団の深い闇。

「ダンマパダ」をよむ ブッダの教え「今ここに」』片山一良〈かたやま・いちろう〉(サンガ、2013年)/よもや解説本とはね。ダンマパダの新訳かと思ったのに。片山は既成宗教の匂いがプンプンしていて好きになれない。

ウルトラマン 「正義の哲学」』神谷和宏(朝日文庫、2015年/朝日新聞出版、2011年『ウルトラマンと「正義」の話をしよう』増補版)/前置きが長過ぎる。

山の霊異記 赤いヤッケの男』安曇潤平(メディアファクトリー、2008年/MF文庫、2010年)/良書。あまりに怖くて読むのをやめた。ホントの話だよ(笑)。幽霊を信じない私ですら震え上がった。金輪際山には登らないことを固く決意す。二つ読んだだけで完全にギブアップ。タップしまくり。

群青 知覧特攻基地より』知覧高女なでしこ会(高城書房出版、1979年/改訂版、1996年)/飛ばし読み。女学生の手記が貴重である。「群青」との題が素晴らしい。それは哀しい「青春の群れ」であった。

 162冊目『戦争を作り報道を歪める者たちの正体 事件のシナリオを見抜かねば日本は再び戦場となる!』菅沼光弘(ヒカルランド、2016年)/タイトルに難あり。ヒカルランドでまともな菅沼本は初めてのことか。例の如く語り下ろしである。内容はやや薄い。

 163冊目『脳はなにを見ているのか』藤田一郎(角川ソフィア文庫、2013年)/面白かった。最後の方は蛇足の感あり。錯覚のメカニズムを解き明かす。時折、文章に性格の悪さが出ている。これほどの内容でありながら、ロバート・カーソンを引用していないのはどうしたことか。腑に落ちず。

 164冊目『べてるの家の「当事者研究」』浦河べてるの家(医学書院、2005年)/「シリーズ ケアをひらく」の一冊。いやあ、たまげた。抱腹絶倒の一書である。本当に読みながら何度も吹き出してしまった。発想の転換もここまで来ると「芸」の領域に達している。もちろん彼らの現実は厳しいことだろう。それでも精神疾患を抱える者が自らの病状を研究することは、医者や薬への依存を防ぎ、大いなる自立への一歩となろう。多数のイラストも実に素晴らしい。文章がこなれているのは編集をした医学書院の白石正明の功績だろう。「必読書」入り。

 165冊目『あの戦争になぜ負けたのか』半藤一利、保阪正康、中西輝政、戸高一成、福田和也、加藤陽子(文春新書、2006年)/勉強になった。座談会なので読みやすい。私の嫌いな保阪正康や加藤陽子も妙な思想性を出していない。戸高一成の発言が目を惹く。

 166、167冊目『人類が知っていることすべての短い歴史(上)』『人類が知っていることすべての短い歴史(下)』ビル・ブライソン:楡井浩一〈にれい・こういち〉訳(NHK出版、2006年/新潮文庫、2014年)/再読。いやあ、やっぱり凄い。ザ・作家といった印象あり。随所にユーモアが横溢(おういつ)している。宇宙創生から人類誕生までの歴史を辿る。とっくに「必読書」入りしているが、あと2~3回は読むことだろう。これから科学を学びたい人は本書を三度続けて読めば、目の前が開けてくるに違いない。

2016-11-10

アリステア・マクリーン、他


 3冊挫折、1冊読了。

ポジティブ・チェンジ 主体性と組織力を高めるAI』ダイアナ・ホイットニー:株式会社ヒューマンバリュー訳(ヒューマンバリュー、2006年)/『集合知の力、衆愚の罠 人と組織にとって最もすばらしいことは何か』で紹介されている書籍はどれも最後まで読むことができず。目新しい言葉がやたらと多いことと、長い前置きがその原因だ。マルチ商法のバイブルとしか思えない。

ゴーマニズム宣言SPECIAL 新天皇論』小林よしのり(小学館、2010年)/確認のために読んだ。案の定予想通りであった。amazonレビューの多くが正鵠を射ている。小林の根強いファンが手厳しい評価を下す。連載ものであることを踏まえたとしても同じ内容の繰り返しが多すぎ、それが言いわけじみた姿に映る。小林の言い分には一定の説得力があり、私には覆すだけの知識はない。Y遺伝子についてもきちんとした反論が述べられている。にもかかわらず本書の紙価を貶めているのは、小林の放つ個人攻撃が口汚く、終始自分を正当化しているためだ。読み手は信念を押し付けられる格好となる。その牽強付会ぶりに小林が声高らかに主張する女系天皇の弱さが透けて見える。本書の前に小林自身の心の揺れを丁寧に描いておけば、評価もまた変わったことだろう。

さよならパヨク』千葉麗子(青林堂、2016年)/ネット文体はよしとしても、「パヨク」などの言葉の定義がなく雰囲気だけで読み進めることは不可能である。ニコニコ大百科(仮)程度の脚注があって然るべきだろう。著者はあっけらかんと不倫を綴り、現在は右翼民族派の活動をしているという。両義的な意味で「腰が軽い」と言わざるを得ない。

 161冊目『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン:村上博基〈むらかみ・ひろき〉訳(ハヤカワ文庫、1972年)/再読。33年振りか。訳文がゴリゴリの文体で校正ミスも目立つ。何度も挫けそうになった。読み終えるのに10日間ほど要したと思う。冒険小説の類いは一般的に娯楽と考えられているが、若い私は本書と『鷲は舞い降りた』を読んで生き方が変わった。極限状況を生きる態度を学んだといってよい。ユリシーズ号は架空の軽巡洋艦であるが、第二次世界大戦における北極海の死闘を描く。極寒を感じるためにもやはり冬に読むのが望ましい。ヴァレリー艦長を中心とする海の男たちの勇姿に涙を禁じ得ない。戦争の不毛や軍隊内の官僚主義もきちんと描かれている。登場人物が把握しにくく、上下関係もわかりにくいのが難点だが、何度も繰り返して読むだけの価値はある。「必読書」から何かを外した際に本書を付け加えておいた。尚、今知ったのだが村上博基が今年の4月に逝去していた。哀悼の意を表する。

2016-11-07

橘玲、大村大次郎、佐伯啓思、他


 6冊挫折、3冊読了。

重要事件で振り返る戦後日本史 日本を揺るがしたあの事件の真相』佐々淳行〈さっさ・あつゆき〉(SB新書、2016年)/本書の次に菅沼光弘著『日本を貶めた戦後重大事件の裏側』を読むといい。順番が逆になると本書はやはりインパクトが弱い。

ペリリュー島戦記 珊瑚礁の小島で海兵隊員が見た真実の恐怖』ジェームス・H・ハラス:猿渡青児訳(光人社NF文庫、2010年)/翻訳は優れている。戦記物は取っ掛かりで引き込まれるかどうかが勝負の分かれ目である。文章のリズムや読み手の体調に左右される面も大きい。挫けたのは私のコンディションの問題だ。

欲ばらないこと 役立つ初期仏教法話13』アルボムッレ・スマナサーラ(サンガ新書、2011年)、『忘れる練習・記憶のコツ 役立つ初期仏教法話14』アルボムッレ・スマナサーラ(サンガ新書、2013年)/初期仏教を広く日本に知らしめた功績は認めるが、やはりこの人物の鼻持ちならない態度に傲慢な心が透けて見える。わかりやすさと短絡は別物だ。専門以外の話になると誤謬も目立つ。後者だと直観像記憶に関する解説は完全な誤りである。とにもかくにも声の悪さが致命的だ。

餓死(うえじに)した英霊たち』藤原彰(青木書店、2001年)/資料的な価値は高い。が、左翼系出版社から出された左翼系学者による著作と断じて構わないだろう。本書も「餓死」にまつわる証拠を並べ立て、大本営の無能さを糾弾することには成功しているが、大東亜戦争全体を見通す史観が欠如している。

マインドフルネス』バンテ・H・グナラタナ:出村佳子訳(サンガ、2012年)/新書サイズのハードカバーという変わった体裁。ちょっと気分が乗らなかった。体調がいい時に読み直す予定。

 158冊目『さらば、資本主義』佐伯啓思〈さえき・けいし〉(新潮新書、2015年)/文体をガラリと変えて若者に語りかけるような平易な文章に驚く。ぐいぐいと深みに誘(いざな)う手並みが職人芸を思わせる。第二次世界大戦後の世界が信じてきた民主政と資本主義に対し真正面から疑義を呈示する。福澤諭吉『文明論之概略』、トマ・ピケティ『21世紀の資本』の解説も見事である。水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』の後に読むのがよい。

 159冊目『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(ビジネス社、2015年)/迷うことなく「必読書」入り。政治家、宗教法人、公益法人、開業医、富裕層、そして学校に至るまでを俎上(そじょう)に載せる。税の不平等性をこれほどわかりやすく説いた本はないだろう。本書の次には響堂雪乃『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』をお勧めしよう。

 160冊目『「読まなくてもいい本」の読書案内 知の最前線を5日間で探検する』橘玲〈たちばな・あきら〉(筑摩書房、2015年)/説明力の高さに驚いた。複雑系、進化論、ゲーム理論、脳科学、功利主義という五つの分野における知の最前線を紹介。「読まなくてもいい本」というのは釣りタイトルで、古いパラダイムを示唆する。各分野の王道ともいうべき書籍を網羅しており、読書案内としては非常にレベルが高い。しかもこれらが進化論を軸に展開されているところに斬新さがある。にも関わらず私の鼻は何か嫌な匂いを嗅ぎ取った。まだその正体を掴みかねているのだが。

2016-10-30

ベルナール・ミロー


 ・読書日記
 ・フランス人ジャーナリストが描く特攻の精神
 ・仏教は神道という血管を通じて日本人の体内に入った

 1冊読了。

 157冊目『神風』ベルナール・ミロー:内藤一郎訳(ハヤカワ・ノンフィクション、1972年)/上下二段で350ページ。日本人が書いた特攻ものでは必ずといってよいほど紹介されているのが本書である。ベルナール・ミローはフランス人ジャーナリストである。内藤一郎の達意の訳が心をつかんで離さない。内藤は海軍技術者で特攻機の試作・製造にも関わった。原書を渡され二度読むも、翻訳の依頼を固辞した。内藤は散華した特攻隊員と沈黙の中で生きることを自らの責任と課した。たまたま見たテレビ番組で若者が「特攻なんてものは、この世でもっとも無様な死に方です」と語った。内藤の心で何かが動いた。彼は翻訳に取り掛かった。ミローは日本の歴史や伝統、宗教的土壌をも手繰り、極めて冷静な視点で神風を描く。白人特有の人種差別意識も全く見受けられない。それどころか「凶暴でファナティックな日本人」という世界に広まったイメージを引っくり返そうと努める。ミローには特攻隊員の精神を「美しい」と受け止める感受性があった。唯一の瑕疵(かし)は白人帝国主義に対する反省がない点である。合理性とは無縁な日本特有の組織構造を払拭できたとは思えない。縄張り意識、いじめ、自暴自棄、そして犠牲に次ぐ犠牲の数々……。ここに着目したのが小室直樹であるが、小室亡き後、衣鉢を継ぐ者がいない。つまり日本は同じ過ちを何度でも繰り返す可能性がある。「必読書」「日本の近代史を学ぶ」に加えた。

2016-10-24

林雄介、北野幸伯、ヘレン・ミアーズ、他


 3冊挫折、3冊読了。

仁義なきキリスト教史』架神恭介〈かがみ・きょうすけ〉(筑摩書房、2014年)/イエスが広島弁を話している(笑)。キリスト教史を『仁義なき戦い』に見立てた作品である。極めて正確な知識でコンスタンティヌス、ルターまでをカバー。各章の「解説」がわかりやすい。キリスト教史を一種の抗争と捉えたところに妙味がある。ただし読み物としては微妙である。初心者にはいいかもしれない。「キリスト教を知るための書籍」に追加。

プルーストとイカ 読書は脳をどのように変えるのか?』メアリアン・ウルフ:小松淳子〈こまつ・じゅんこ〉訳(インターシフト、2008年)/二度目の挫折である。どうも翻訳がおかしいと感じる。amazonレビュー「誤訳と間違いだらけの訳注」を見て得心がいった。

子ども食堂をつくろう! 人がつながる地域の居場所づくり』NPO法人 豊島子どもWAKUWAKUネットワーク編著(明石書店、2016年)/子供食堂とは無料あるいは数百円で近隣の子供に食事を提供するボランティアである。食材も寄付で賄うケースが多いようだ。月に1~2回ならいいと思うが、こうしたことはやはり業として回るようにするべきだと私は思う。子供食堂をやろうと思っている人にはよき参考書であるが、読み物としてのレベルには至っていない。

 154冊目『アメリカの鏡・日本 完全版』ヘレン・ミアーズ:伊藤延司〈いとう・のぶし〉訳(角川ソフィア文庫、2015年/角川文芸出版、2005年『アメリカの鏡・日本 新版』/アイネックス、1995年『アメリカの鏡・日本』)/書き忘れていたが再読終了。更に時間を空けて読み直す予定である。

 155冊目『プーチン最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?』北野幸伯〈きたの・よしのり〉(集英社インターナショナル、2012年)/これで北野の近刊は全て読み終えた。どれもおすすめだが、唯一の難点は改行の多さである。句点ごとに改行するという酷さ。編集者はなぜ直さないのか? 女子中学生の日記みたいで薄気味悪い。アメリカ一極支配に鉄槌を下ろしたのがプーチンであることがよく理解できる。プーチンはドル基軸通貨体制に異を唱え、ルーブル基軸通貨体制を試みる。更に外交努力で世界を多極化へと誘(いざな)う。そのリーダーシップ・政治力が読者を魅了してやまない。ロシアのオリガルヒ(新興財閥)を駆逐した模様も詳しく描かれている。北野が紹介する書籍はどれも面白そうで食指が動く。

 156冊目『政治と宗教のしくみがよくわかる本 入門編』林雄介(マガジンランド、2013年)/私は林をツイッターで知った。ま、頭のいい人だとは思っていたが、そんな生易しいレベルではなかった。アメリカだったら飛び級しているレベルだろう。小学生で既に大学受験用の参考書を読んでいたというのだから。面白味のないタイトルであるが侮るなかれ。騙す仕組みと騙される心理を見事に解き明かしている。宗教に関する造詣も深く、至るところに卓見がある。『必読書』入り。『完全教祖マニュアル』架神恭介、辰巳一世の後に読むのがよい。

2016-10-19

橘玲、海外投資を楽しむ会、菅沼光弘、但馬オサム、溝口敦、他


 3冊挫折、3冊読了。

世界を騙し続けた[洗脳]政治学原論 〈政「金」一致型民主社会〉へのパラダイム・シフト』天野統康〈あまの・もとやす〉(ヒカルランド、2016年)/分量が増えて2分冊となっている。前篇が『世界を騙し続けた[詐欺]経済学原論 「通貨発行権」を牛耳る国際銀行家をこうして覆せ』である。巻末の方に仏教とキリスト教の興味深い比較論あり。

省庁のしくみがわかると政治がグンと面白くなる 日本の内閣、政治、そして世の中の動きが一気に読める!』林雄介(ナツメ社、2004年)/非常に丁寧に書かれているのだが如何せん各トピックが平凡で読む意欲が湧いてこない。若い人にはおすすめできる。

対話 人間の原点』小谷喜美、石原慎太郎(サンケイ新聞社出版局、1969年)/『巷の神々』(『石原愼太郎の思想と行為 5 新宗教の黎明』)の後に出された対談集で、小谷喜美〈こたに・きみ〉は霊友会の第2代会長を務めた女性。創設者の久保角太郎が戦時中に死去していることもあって霊友会といえば小谷の印象が強い。後半は飛ばし読み。石原が政治家となったのは前年の1968年のこと。霊友会のバックアップを受けたことは広く知られているが、この時点で入信していたかどうかは不明だ。石原は30代後半だが単純に若いと思っては判断を誤る。大学在学中に芥川賞を受賞し、大物評論家として恐れられた小林秀雄に対して平然と意見をするような若者であったのだから。その石原が小谷を「会長先生」と呼ぶ。苛烈な修行をしてきた小谷は実に鷹揚で人柄に幅がある。当時67~68歳だろう。小谷の宗教性から私が学ぶべきものは一つもない。石原が魅了されたのはやはり人間性であったのだろう。

 151冊目『池田大作 創価王国の野望』溝口敦(紀尾井書房、1983年)/溝口の創価学会批判は悪意が強く、読み手のマイナス感情を煽る傾向が見られる。彼の風貌や話しぶりにも卑屈な性質を感じる。所詮、雑誌記事ライターと言ってしまえばそれまでだが、牽強付会な手法に疑問が残る。教団を好き嫌いのレベルで論じても仕方がない。

 152冊目『ヤクザと妓生(キーセン)が作った大韓民国 日韓戦後裏面史』菅沼光弘、但馬オサム(ビジネス社、2015年)/聞き手である但馬オサムの名前がないのは片手落ちである。しかも各章の解説まで書いているのだから。タイトルの「ヤクザ」とは在日ヤクザで、妓生(キーセン)とは韓国のインテリ芸者のこと。現在に至るまで日本の政治家もかなり籠絡(ろうらく)されている模様。日本語もペラペラとのこと。全斗煥大統領時代は芸能界もまるごと起用されたらしい。そういう歴史もあるせいか、韓国芸能界では現在も枕営業(性上納)が慣行となっていて時折自殺する女性が出てくる。「日本の近代史を学ぶ」に追加。『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也を読んだ人は必読のこと。

 153冊目『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲〈たちばな・あきら〉、海外投資を楽しむ会編著(講談社+α文庫、2003年/海外投資を楽しむ会、メディアワークス、1999年『ゴミ投資家のための人生設計入門』を文庫化)/再読。かつて公明党が主導した「100年安心プラン」なるものの欺瞞がよく理解できる。本書は経済的自立を論旨としているが、税制のデタラメを炙(あぶ)り出すことで説得力を増している。今となってはやや古い印象を拭えないが、その発想に学ぶべきことは多い。政治的に眠らされている情況が自覚できる。『黄金の羽根』と差し替えたが、再び「必読書」に入れた。

2016-10-11

多田富雄、柳澤桂子、岸見一郎、古賀史健、原田伊織、長谷川熙、他


 6冊挫折、4冊読了。

貧乏はお金持ち 「雇われない生き方」で格差社会を逆転する』橘玲〈たちばな・あきら〉(講談社、2009年/講談社+α文庫、2011年)/橘本には当たり外れがある。これは外れ。

美と宗教の発見』梅原猛(ちくま学芸文庫、2002年/筑摩書房、1967年、『美と宗教の発見 創造的日本文化論』改題/講談社文庫、1976年集英社、1982年)/創価学会を批判した章だけ読む。力んでいる割には冴えない代物だ。

快楽(けらく) 更年期からの性を生きる』工藤美代子(中央公論新社、2006年/中公文庫、2009年)/『婦人公論』の連載記事。女性向けである。所詮、雑誌記事といった内容で深みがない。工藤はこのテーマを書き続けており、『快楽II 熟年性愛の対価』『炎情 熟年離婚と性』『百花繚乱 熟女が迎える生と性』などがある。

世界を騙し続けた[詐欺]経済学原論 「通貨発行権」を牛耳る国際銀行家をこうして覆せ』天野統康〈あまの・もとやす〉(ヒカルランド、2016年)/よくない。著者のブログを見たところ稲田朋美防衛大臣をカルトと断じていた。誰をどう評価しようと勝手だが、相手の前に立って言えないことを書くべきではあるまい。言葉よりも姿勢や態度にその人の本質が現れる。『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』を必読書から外した。

図説 日本呪術全書』豊島泰国〈とよしま・やすくに〉(原書房、1998年)/私が知りたいのは心象であって技法ではない。呪いは同じ精神的土壌でしか通じない。

しぐさの民俗学』常光徹(角川ソフィア文庫、2016年/ミネルヴァ書房、2006年『しぐさの民俗学 呪術的世界と心性』改題)/こういう本が文庫化されるのだからアベノミクスの効果は侮れない。最近ニュースになった股のぞきに関する記述あり。専門性の高い学術書。

 147冊目『崩壊 朝日新聞』長谷川熙〈はせがわ・ひろし〉(ワック、2015年)/良書。長谷川は1970年代の公害報道で名を成した朝日新聞のエース記者で、定年退職後『アエラ』で健筆をふるった。言わば内部告発の書である。感情を排し、冷静に糾弾している。ジャーナリズムの魂を見る思いがする。朝日新聞のオーナーである村山家・上野家にまで踏み込んでいないところが惜しまれる。

 148冊目『大西郷という虚像』原田伊織(悟空出版、2016年)/幕末・維新三部作の完結編である。読む順番を間違えた。原田の著作は感情が先立っているので注意を要する。人を悪く書くのだから当然後味はよくない。また何となくではあるが天皇陛下の位置を読み誤っている可能性があるように感じる。明治維新は飽くまでも尊皇という軸で動いていたのだ。徳川慶喜・勝海舟・岩倉具視に対する原田の厳しい評価はやや的外れである。

 149冊目『幸せになる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教えII』岸見一郎、古賀史健〈こが・ふみたけ〉(ダイヤモンド社、2016年)/前作の『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』が100万部を超えるベストセラーとなり予定外の続篇が刊行された。「柳の下の二匹目のドジョウを狙う」で終わっていない。主筆は古賀と思われるが、文章がこなれ過ぎていて胡散臭い印象を免れない。才気に経験の重みがついていっていない。それでも説得力を失うことがないのはアドラーが実践(臨床)の人物であったためだ。「過去は存在しない」という時間論も仏教と共鳴する。

 150冊目『露の身ながら 往復書簡 いのちへの対話』多田富雄〈ただ・とみお〉、柳澤桂子〈やなぎさわ・けいこ〉(集英社、2004年/集英社文庫、2008年)/一度挫けている。読むのがあまりにも辛かったからだ。今回は一気に読み終えた。多田は脳血管障害で片麻痺となり言葉を失った。柳澤は30年以上も病に苦しんできた。一流の学者は一級の人物でもあった。知識と知性の違いを思い知らされた。一通の手紙に交情が通う。文中に季節の花々が舞い、苦悩を共有しながら互いを思いやり、労(いたわ)り合う姿に成熟した人間の姿が浮かび上がる。徐々に手紙を交わすペースが落ちてゆくのが痛ましい。死と隣り合わせにいる老人であるにもかかわらず強烈なエロスを発揮していることも見逃せない。それは肉欲としての性愛ではなく、男が女を想い女が男を立てるという姿勢に基づくものだ。多田は1934年(昭和9年)で柳澤は1938年(昭和13年)の生まれである。小林よしのりが指摘する少国民世代(『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』)といってよい。平和を希求する姿勢は尊いが、戦争に対する嫌悪感は底が浅いように感じた。本書は以前から「必読書」に入れてある。

2016-09-30

橘玲


 1冊読了。

 146冊目『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲〈たちばな・あきら〉(幻冬舎、2014年/幻冬舎、2002年『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計入門』改訂版)/ロバート・キヨサキとの関連性を重んじて、必読書を『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』(橘玲、海外投資を楽しむ会編著、講談社文庫、2003年/海外投資を楽しむ会、メディアワークス、1999年『ゴミ投資家のための人生設計入門』改題)から本書に差し替えた。旧版は30万部のベストセラーである。投資手法のアービトラージ(裁定取引)を現実社会に当てはめ、価格の歪みではなく制度の歪みを明かしたところに本書の真骨頂がある。元編プロだけあって文章がよく、説明能力も高い。私が政治家か宗教家であったら迷うことなくゴーストライターに指名する。具体的には生命保険や不動産のリスク、マイクロ法人の設立と資金調達法などを紹介。自分には縁があるとかないとかといった次元ではなく、世の中でどのようにマネーが還流しているかを知るべきだ。

2016-09-27

ロバート・キヨサキ、他


 2冊挫折、1冊読了。

疲れた体がよみがえる リセット7秒ストレッチ』栗田聡、濱栄一(高橋書店、2015年)/元運動部のためどうしても負荷の強いストレッチを求めてしまう。その点では一番ダメな内容だった。女性用といってよし。

人は暗示で9割動く!』(すばる舎、2007年/だいわ文庫、2010年)/クソ本だった。

 145冊目『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ:白根美保子訳(筑摩書房、2001年/改訂版、2013年)/ロバート・キヨサキは『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』と本書の2冊を読めば十分だ。上念司が「うちの宗教では『金持ち父さん』が旧約聖書で、『キャッシュフロー・クワドラント』が新約聖書です」と語っていた。私はそこまで持ち上げるつもりはない。2冊とも必読書に入れたが「目から鱗が落ちる」という一点だけを評価した。キヨサキの目的はボードゲームの販売とセミナーへの誘導にある。そもそも金持ち父さんと貧乏父さんの存在すら疑わしい。具体的な事例・事実も書かれていない。ま、信用に値する人物かどうかは自分の目で確かめるといいだろう。

2016-09-25

鳥居民


 1冊挫折。

鳥居民評論集 昭和史を読み解く』鳥居民〈とりい・たみ〉(草思社、2013年/草思社文庫、2016年)/書評、対談、評論を収録。谷沢永一御大も評価しているとは恐れ入った。近衛文麿の再評価に目を瞠(みは)る。工藤美代子との対談も。ところどころ飛ばしながら読んだ。正味2/3ほどか。『近衛文麿「黙」して死す』と『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』まで手を伸ばすべきかどうか。推論はいい。だが断定的な文章がいただけない。情報過多が生んだ自信なのか。谷沢との対談は市井の歴史家に対する手加減があると思う。尚、鳥居には『昭和二十年』という大作がある(全14冊)。

2016-09-24

養老孟司、他


 2冊挫折、1冊読了。

ストレスに負けない最高の呼吸術 システマ式シンプルブリージングワーク100』北川貴英(エムオン・エンタテインメント、2015年)/タイトルに難あり。呼吸術というよりはエクササイズである。スロトレ好きにはお薦めできる。

神秘の世界 超心理学入門』宮城音弥〈みやぎ・おとや〉(岩波新書、1961年)/石原慎太郎著『巷の神々』で引用されていた一冊。超能力を科学が検証した内容。読み物としてはつまらない。不思議な能力が次々と紹介されているが、悟りとは無縁と言わざるを得ない。私としては超能力よりも、眼が見えることの方がはるかに不思議だと思う。例えば何かを言い当てることができたとしよう。「だから何なの?」という感想しか湧かない。奇異が感動に結びつくことはないだろう。

 144冊目『脳という劇場 唯脳論・対話篇』養老孟司〈ようろう・たけし〉(青土社、1991年/新装版、2005年)/旧版はバブル末期の刊行だが杜撰極まりない。同じ文章が出てきたり、巻末対談者一覧から山根一眞が抜け落ちている。出版社も結局はメディアということか。内容は文句なしの面白さ。覚え書きとして記すと、中村雄二郎・吉本隆明・米長邦雄・高木隆司・大島清・中村桂子・多田富雄・荒俣宏・香山壽夫・胡桃沢耕史・南伸坊・丸谷才一・太田治子・菅谷規久雄・古井由吉・山根一眞の16人。これだけ多いとページ数が少なくなるのは致し方ないが、対談の醍醐味は十分伝わってくる。

2016-09-23

J・クリシュナムルティ、ロバート・B・パーカー、カーリン・アルヴテーゲン、武田邦彦、他


 10冊挫折、4冊読了。

もういちど読む山川日本史』五味文彦、鳥海靖編(山川出版社、2009年)/読む価値なし。

もういちど読む山川日本戦後史』老川慶喜〈おいかわ・よしのぶ〉(山川出版社、2016年)/左巻きが掛かっている。2016年でこの内容を出版するセンスを疑う。

謎とき日本近現代史』野島博之(講談社現代新書、1998年)/塾講師の雑談といった体裁。

新・雨月 上 戊辰戦役朧夜話』船戸与一〈ふなど・よいち〉(徳間書店、2010年/徳間文庫、2013年)/個人的には会津にしか興味がないのであまりピンと来なかった。

葦笛の鳴るところ』福永十津〈ふくなが・とつ〉(眞人堂、2015年)/第1回丸山健二文学賞受賞作品。選者は丸山本人で賞金はない。それどころか応募するだけで5000円取られる。ゴリゴリ、カチカチの文体で読むに堪えず。文章も設定も丸山とそっくりだ。やたらと改行の多いところまで。文学賞を拒んできた丸山が自分の名を冠する文学賞を与えるという矛盾は老いによるものか。

沈黙』ロバート・B・パーカー:菊池光〈きくち・みつ〉訳(早川書房、1999年/ハヤカワ文庫、2005年)/スペンサー・シリーズをずっと読んできたが初めて挫折した。女性を「美人」と表現する陳腐さに差別意識が出ている。菊池光の訳もやたらと英語の発音に忠実で異様な表現が目立つ。もうロバート・B・パーカーから卒業だな。

奇跡の自然 三浦半島小網代の谷を「流域思考」で守る』岸由二〈きし・ゆうじ〉(八坂書房、2012年)/自然保護運動の側面が強い。市民の匂いがすると反射的に私は逃げたくなる。小網代(こあじろ)の写真集を出せばといいと思う。養老孟司との対談を収録。

当事者研究の研究』石原孝二編(医学書院、2013年)/論文集で有名どころとしては熊谷晋一郎の名前がある。また向谷地生良〈むかいやち・いくよし〉を交えた座談会も。冒頭を飾る石原孝二の文章がとてもよい。やや専門的な内容。

生命に仕組まれた遺伝子のいたずら 東京大学超人気講義録 file2』石浦章一(羊土社、2006年)/面白いのは最初だけ。それでも読む価値はある。

現実を生きるサル 空想を語るヒト 人間と動物をへだてる、たった2つの違い』トーマス・ズデンドルフ:寺町朋子訳(白揚社、2014年)/期待外れ。心理学者という立場が考察をあやふやなものにしている。スティーブン・ピンカーが好きな人にはおすすめできる。

 140冊目『裏切り』カーリン・アルヴテーゲン:柳沢由実子〈やなぎさわ・ゆみこ〉訳(小学館文庫、2006年)/一度挫けている。インディアンの部分だけ確認しようと思ったのだが、豈図らんや面白かった。ただし語り手の揺れが気になる。各章ごとに視点は一つにすべきだろう。時折別人の視点が混入する。結末が安易に感じるが、ミステリとしては及第点といったところ。

 141冊目『ナポレオンと東條英機 理系博士が整理する真・近現代史』武田邦彦(ベスト新書、2016年)/ホームページを叩き台にしているせいか、底の浅い読み物にとどまっている。ちょっともったいない。読まないよりは読んだ方がいいかな、といった代物。

 142冊目『ポットショットの銃弾』ロバート・B・パーカー:菊池光〈きくち・みつ〉訳(ハヤカワ文庫、2006年)/ロバート・B・パーカーも本書で最後かな。菊池の訳も異常である。「にゃっと笑った」が10ヶ所ほど。直させない出版社がおかしいと思う。大物すぎて注意もできなかったのか?

 143冊目『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー 3 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ:大野純一訳(春秋社、1984年/新装版、2005年)/再読。本書を読めばブッダの対機説法が決して浅い位置にとどまるものでなかったことがよくわかる。たとえ相手の機根に応じて法を説いたとしても覚者は真理に迫ることができる。

2016-09-16

石原慎太郎、他


 2冊挫折、1冊読了。

体が硬い人のためのストレッチ』石井直方〈いしい・なおかた〉監修、荒川裕志〈あらかわ・ひろし〉(PHP研究所、2012年)/壁やテーブルを使ったストレッチが目新しい。最後の章はダイナミックストレッチを紹介している。大きい判型。

体を芯からやわらげる 健康ストレッチ』森俊憲、森和世(永岡書店、2011年)/女性向けか。巻末で症状別のストレッチを紹介。ペアで行うストレッチ法も。

 139冊目『巷の神々』石原慎太郎(サンケイ新聞出版局、1967年/産経新聞出版、2013年『石原愼太郎の思想と行為 5 新宗教の黎明』所収)/驚愕した。石原慎太郎といえば功罪の相半ばする政治家であるが教養人としても知られる。それにしても34歳前後で日本の新興宗教をここまで俯瞰できる能力は並大抵の代物ではない。しかも文学者でありながら科学的懐疑の精神で検証し、各教団の教祖とも実際に会って話をしている。注目すべきは創価学会に関する記述で、その近代的な組織のあり方や政治進出を積極的に評価している。石原が後に「悪しき天才、巨大な俗物」(『週刊文春』平成11年3月25日号)と池田大作を評したことを思えば隔世の感がある。ほんのわずかな誤謬は見受けられるが、全体的に記述は正確で独創性もある。まだ学生運動が激しい中で戦前戦後の新興宗教に目をつけたのは卓見といってよい。それぞれの教祖の神通力も日本的なアニミズム(先祖崇拝)を探る上で大変参考になった。「宗教とは何か?」「悟りとは」に追加。長らく絶版で古書価格も数千円から1万円という高値がついていたが産経新聞出版から再刊された。旧版は9ポイントほどの活字で上下二段450ページの分量である。