2019-08-12

人間は権威ある人物の命令に従う/『服従実験とは何だったのか スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』トーマス・ブラス


『服従の心理』スタンレー・ミルグラム

 ・服従心理のメカニズム
 ・キティ・ジェノヴィーズ事件〜傍観者効果
 ・人間は権威ある人物の命令に従う
 ・社会心理学における最初の実験

『権威の概念』アレクサンドル・コジェーヴ

権威を知るための書籍

 このびっくりするような実験は、今現在に至るまで心理学の歴史のなかで重要なものとして、議論を巻き起こし続けている。なぜならば、人は権威のある人物に命じられれば、力で強制されなくても破壊的な行動をしてしまうことがあること。そして、悪意もなく異常でもない人が、非道徳的で非人間的な行為を行うことがあり得ると言うことが明らかになったからである。さらにいえば、ミルグラムの実験は、個人の道徳性について私たちが思っていたことを根本から揺るがせてしまった。道徳的なジレンマに直面したとき、普通は、人は良心に従って行動すると考える。しかし、権力が社会的な圧力を加えているような状況では、私たちが持っている道徳概念などはたやすく踏みにじられてしまうことをミルグラムの実験は劇的な形で示したのである。

【『服従実験とは何だったのか スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』トーマス・ブラス:野島久男、藍澤美紀〈あいざわ・みき〉訳(誠信書房、2008年)】

 道徳心を塊(かたまり)にしたような若い男がミルグラム実験に参加したと仮定しよう。彼は被験者に与える電圧の上昇を頑なに拒んだ。「続行してください」。若者は突如として恐るべき勢いで白衣の男に襲い掛かった。まず小指の骨を折り、軽く鼻の下にパンチを加え、猛然と喉仏に手刀を叩き込んだ。白衣の男は既に事切れていた。若者は実験に関与していた人々を全て殺害し、更にはミルグラムをも撲殺した。こうして人間の道徳心は見事に証明された。

 心理学の実験が胡散臭いのは人々の反応を見下す実験者の眼差しが原因だ。彼らは箱庭みたいな特殊な状況を設定し、易々(やすやす)と人間を語ってみせる。ミルグラム実験によっていくばくかの死人が出てしまうと思い込んでしまえば、上述したような男性が出てきてもおかしくはない。とすると極限状況における暴力やテロ行為を容認せざるを得ない結果となろう。

 私が知る限り良心を行動に移せるのは暴力的傾向の強い男性である。例外は鹿野武一〈かの・ぶいち〉くらいなものだろう。

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内気な人々が圧制を永続させる/『服従の心理』スタンレー・ミルグラム


 ・服従の本質
 ・束縛要因
 ・一般人が破壊的なプロセスの手先になる
 ・内気な人々が圧制を永続させる
 ・アッシュの同調実験

『服従実験とは何だったのか スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』トーマス・ブラス
『権威の概念』アレクサンドル・コジェーヴ
『マインド・コントロール』岡田尊司
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー

権威を知るための書籍
必読書リスト その五

 圧制を永続させるのは、自分の信念を行動に移せない内気な人々である。

【『服従の心理』スタンレー・ミルグラム:山形浩生〈やまがた・ひろお〉訳(河出書房新社、2008年/河出文庫、2012年/同社岸田秀訳、1975年)】

 すなわち倉前盛通〈くらまえ・もりみち〉が言うところの小善人である(『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』)。「寄らば大樹の陰」という生き方は消極的になることで遺伝的優位性を確保する戦略なのかもしれない。戦乱の中で勇気を発揮する者はほぼ確実に死ぬ。戦時であれば臆病者の方が生存率が高まる(『病気はなぜ、あるのか 進化医学による新しい理解』ランドルフ・M・ネシー&ジョージ・C・ウィリアムズ)。

 近代において最も圧制(圧政)・服従に成功したのは社会主義国家であった。ナチスドイツ、ソ連、中国に共通するのは粛清の嵐である。ヒトラーは600万人の大量殺戮を行ったが、スターリンや毛沢東に至っては数千万単位で自国民を虐殺している(※中国は政策ミスによる餓死も含む)。

 去る参議院選挙でNHKから国民を守る党が1議席を取った。これは強制的に受信料を徴収するNHKの【圧制】に「ノー!」という声を上げた国民が一定数存在した事実を物語る。かつてNHK受信料を拒否していたのは左翼であった(『NHK受信料拒否の論理』本多勝一、1977年)。ところが放送終了時に流していた国旗国家放映の阻止に成功すると今度は番組が反日に傾いた。その後、NHK本局内には中国共産党の中央電視台日本支部が同居するに至った。これは中共の謀略機関である。他にも韓国放送公社、アメリカABCテレビ、オーストラリア放送協会にスペースを貸しているようだがスパイ防止法のない日本で外国メディアとの協力関係は情報漏洩の危険が高すぎる。

 NKHK受信料の支払いが国民の義務であればそれは税と考えてよかろう。一特殊法人に徴税権があるのはどう考えてもおかしいし、一特殊法人のための法律(放送法)があるのはもっとおかしい。


2019-08-10

「日本の未来を考える勉強会」ーMMT(現代貨幣理論) 中野剛志、藤井聡、三橋貴明










一般人が破壊的なプロセスの手先になる/『服従の心理』スタンレー・ミルグラム


 ・服従の本質
 ・束縛要因
 ・一般人が破壊的なプロセスの手先になる
 ・内気な人々が圧制を永続させる
 ・アッシュの同調実験

『服従実験とは何だったのか スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』トーマス・ブラス
『権威の概念』アレクサンドル・コジェーヴ
『マインド・コントロール』岡田尊司
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー

権威を知るための書籍
必読書リスト その五

 おそらくこれが、われわれの研究の最も根本的な教訓だろう。特に悪意もなく、単に自分の仕事をしているだけの一般人が、ひどく破壊的なプロセスの手先になってしまえるということだ。さらには、自分の作業の破壊的な効果がはっきり目に見えるようになっても、そして自分の道徳の根本的な基準と相容れない行動をとるよう指示されても、権威に逆らうだけの能力を持つ人はかなり少ない。権威に服従しないことに対する各種の抑止力が働くために、その人物は自分の立ち位置を変えることはない。

【『服従の心理』スタンレー・ミルグラム:山形浩生〈やまがた・ひろお〉訳(河出書房新社、2008年/河出文庫、2012年/同社岸田秀訳、1975年)】

 朱に交われば赤くなる。村にはしきたりがあり、企業には社内文化がある。教団にはタブー(禁忌)があり、学校には校則がある。組織や集団には人々を額づかせる力がある。自分の自由を制限することと何らかのリターン(報酬)を交換するところに帰属の理由があると考えられる。

 あらゆる組織には必ず目的(理想)がある。そして目的(結果)のために手段を選ばないことが往々にして見受けられる。運動部で行われる体罰やしごき、成績不振の営業マンに浴びせられる上司の罵声、大手企業から中小企業に突きつけられる無理な値引き交渉。集団内で生き延びるためには順応する必要がある。

 これを「権威に逆らうだけの能力」で判断することは難しい。またこの記述自体が当該研究の古さを示すものだ。もう一つの可能性としては遺伝子の関与を挙げるべきだろう。つまり「権力に逆らう」ことは生まれつきの資質と見ることもできるのだ。正義感は教えられるものではない。どれほど多くの情報を与えたところで人の感受性を変えることは難しい。

 いじめを支えているのは傍観者である。「やめろよ!」と声を挙げる同級生が一人でもいればいじめから救われる。とすれば90%程度の人々は傍観者と考えてよかろう。ヒトラーの下(もと)でユダヤ人大虐殺を遂行したアイヒマンは1961年に行われた裁判で自分の行為を「命令に従っただけ」と述べた。彼は極悪非道の殺人鬼ではなかった。普通の真面目な公務員(中佐)であった。

 ミルグラム実験(アイヒマンテスト)は「一般人が破壊的なプロセスの手先になる」ことを証明した。ナチスの罪は万人の罪となって開かれた。


原爆から小倉を守った「八幡製鉄所職員」


2019-08-08

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2019-08-07

【経済討論】MMT(現代貨幣理論)は日本を救うか?


 ・【経済討論】MMT(現代貨幣理論)は日本を救うか?

 やはり池戸万作の説明が一番わかりやすい。チャンネル桜が番組を挙げて安倍政権批判をした事実に驚いた。


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『知識ゼロからわかるMMT入門[現代貨幣理論]』三橋貴明

2019-08-04

小賢しい宗教批判/『幸せになる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教えII』岸見一郎、古賀史健


『アドラー心理学入門 よりよい人間関係のために』岸見一郎
『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』岸見一郎、古賀史健

 ・小賢しい宗教批判

・『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド
『ザ・ワーク 人生を変える4つの質問』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル

青年●わかります。人間の「心」にまで踏み込んでいくのが哲学であり、宗教である、と。それで両者の相違点、境界線はどこにあるのです? やはり「神がいるのか、いないのか」という、その一点ですか?

哲人●いえ、【最大の相違点は「物語」の有無】でしょう。宗教は物語によって世界を説明する。言うなれば神は、世界を説明する大きな物語の主人公です。それに対して哲学は、物語を退(しりぞ)ける。主人公のいない、抽象の概念によって世界を説明しようとする。

青年●……哲学は物語を退ける?

哲人●あるいは、こんなふうに考えてください。真理の探究のため、われわれは暗闇に伸びる長い竿(さお)の上を歩いている。常識を疑い、自問と自答をくり返し、どこまで続くかわからない竿の上を、ひたすら歩いている。するとときおり、暗闇の中から内なる声が聞こえてくる。「これ以上先に進んでもなにもない。ここが真理だ」と。

青年●ほう。

哲人●そしてある人は、内なる声に従って歩むことをやめてしまう。竿から飛び降りてしまう。そこに真理があるのか? わたしにはわかりません。あるのかもしれないし、ないのかもしれない。ただ、【歩みを止めて竿の途中で飛び降りることを、わたしは「宗教」と呼びます。哲学とは、永遠に歩き続けることなのです】。そこに神がいるかどうかは、関係ありません。

【『幸せになる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教えII』岸見一郎、古賀史健〈こが・ふみたけ〉(ダイヤモンド社、2016年)】

 文章の巧みな詭弁で小賢しい宗教批判といってよい。そもそも「竿の上を歩く」という喩えが悪い。竿で想起されるのは釣り竿や物干し竿でその上を歩くという行為がピンと来ない。そもそもあんたが書いている対話自体、物語だろーが(笑)。

 多分頭のどこかに「哲学は神学の婢(はしため)」という言葉があったのだろう(河野與一『哲学講話』)。もちろん心理学はそれ以下だ。

 古賀史健は「抽象の概念」もまた物語であることを見落としている。すなわちアドラーが行う心理療法は「物語の書き換え」に過ぎない。しかも岸見はアドラーに依存し、古賀は岸見に依存しているのである。そこを見過ごしておきながら宗教の物語性を否定するとは片腹痛い。

 社会心理学はアッシュやミルグラムによって巧みな実験が行われてきた(『服従の心理』スタンレー・ミルグラム)。だが心理学や心理療法の世界で厳密な検証やフィードバックが行われているとは言い難い。フロイトは無意識を発見して西洋でもてはやされたが仏教では2000年前からの常識である。何でもかんでもリビドーや性欲に結びつける考え方は拙劣極まりなく、既に過去の人物といった印象が強い。

 一片のデータすら示さずに宗教を批判する姿勢は、新興宗教が既成宗教を批判する手口と一緒だ。マシュー・サイド著『失敗の科学』ではカール・ポパーによるアドラー批判が紹介されている。

津久井湖 × 昆虫写真家・安川源通〈やすかわ・もとみち〉




2019-08-01

スズキバーディー50 エンジントラブル


【症状】毎日乗っているにもかかわらずエンジンが掛からなくなる。当初は押しがけで掛かっただが、やがては数十メートルの坂道を下ってもエンジンが掛からなくなった。

 2りんかんに持ってゆくと、「メーカーがエンジンの圧縮比を教えてくれないのでスズキショップで修理をした方がよい」とのアドバイス。地元のスズキショップに依頼。以下がその詳細である。「次に修理が必要な場合は新しいバイクを買った方がいいですよ」と言われる。

 ハーネス修理(バッテリーヒューズ、レギュレーター、分岐点)
 各配線、点検、カプラ部腐食修理含む レギュレーターカプラ部、メインカプラ部
 レギュレーター点検(部品代3800円)
 工賃 15000円

 発電点検含む
 ショートパーツ(ギボシ等/部品代1000円)

 バッテリー 台湾YUASA(部品代4800円)

 キャブレター少分解、清掃、測定、点検、調整
(スロージェット清掃、油面、フロートレベル点検)
 圧縮比圧力測定、キャブレター点検、フューエルポンプ作動点検
 工賃 7000円

 エアクリーナー、アウトレットチューブ交換(部品代940円)

 パーツクリーナー等 油脂材料費(部品代1000円)

【合計金額 部品代11540円+工賃22000円+部品送料・データ通信費400円+消費税2715円=36655円】

2019-07-31

「原因論」と「目的論」の違い/『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』岸見一郎、古賀史健


『アドラー心理学入門 よりよい人間関係のために』岸見一郎

 ・「原因論」と「目的論」の違い

『幸せになる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教えII』岸見一郎、古賀史健
『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド
『手にとるようにNLPがわかる本』加藤聖龍
『NLPフレーム・チェンジ 視点が変わる〈リフレーミング〉7つの技術』L・マイケル・ホール、ボビー・G・ボーデンハマー
『未処理の感情に気付けば、問題の8割は解決する』城ノ石ゆかり
『マンガでわかる 仕事もプライベートもうまくいく 感情のしくみ』城ノ石ゆかり監修、今谷鉄柱作画
『ザ・ワーク 人生を変える4つの質問』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル

必読書リスト その二

哲人●そこでアドラー心理学では、【過去の「原因」ではなく、いまの「目的」】を考えます。

青年●いまの目的?

哲人●ご友人は「不安だから、外に出られない」のではありません。順番は逆で「【外に出たくないから、不安という感情をつくり出している】」と考えるのです。

青年●はっ?

哲人●つまり、ご友人には「外に出ない」という目的が先にあって、その目的を達成する手段として、不安や恐怖といった感情をこしらえているのです。アドラー心理学では、これを「【目的論】」と呼びます。

青年●ご冗談を! 不安や恐怖をこしらえた、ですって? じゃあ先生、あなたはわたしの友人が仮病(けびょう)を使っているとでもいうのですか?

哲人●仮病ではありません。ご友人がそこで感じている不安や恐怖は本物です。場合によっては割れるような頭痛に苦しめられたり、猛烈な腹痛に襲われることもあるでしょう。しかし、それらの症状もまた、「外に出ない」という目的を達成するためにつくり出されたものなのです。

青年●ありえません! そんな議論はオカルトです!

哲人●違います。これは「原因論」と「目的論」の違いです。あなたのおっしゃる話は、すべてが原因論に基づいています。【われわれは原因論の住人であり続けるかぎり、一歩も前に進めません】。

【『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』岸見一郎〈きしみ・いちろう〉、古賀史健〈こが・ふみたけ〉(ダイヤモンド社、2013年)】

 読む量が多すぎて書く量が少なすぎると書評した本がわからなくなる。挙げ句の果てには自分で検索して「おかしいな」を連発する有り様だ。本書は古賀史健が岸見一郎の『アドラー心理学入門』を対話という形式でわかりやすく解説したものである。にもかかわらず軽々と岸見本を凌駕している。古賀は言うならばリライト名人なのだろう。ただ、丁寧や端正が行き過ぎて鼻につく嫌いがある。

哲人●【アドラー心理学では、トラウマを明確に否定します】。ここは非常に新しく、画期的なところです。たしかにフロイト的なトラウマの議論は、興味深いものでしょう。心に負った傷(トラウマ)が、現在の不幸を引き起こしていると考える。人生を大きな「物語」としてとらえたとき、その因果律のわかりやすさ、ドラマチックな展開には心をとらえて放さない魅力があります。
 しかし、アドラーはトラウマの議論を否定するなかで、こう語っています。「いかなる経験も、それ自体では成功の原因でも失敗の原因でもない。われわれは自分の経験によるショック――いわゆるトラウマ――に苦しむのでやなく、経験の中から目的にかなうものを見つけ出す。【自分の経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味によって自らを決定するのである】」と。

 私の頭が悪くてスッと入ってこないのだが、ブッダやクリシュナムルティに通じる価値観の転換がある。特に最後の一言は重要だ。これをもっと簡明かつダイナミックにしたのがバイロン・ケイティである。


 意味とは妄想である。不幸も幸福も妄想だ。脳という錯覚装置が織り成す感情のタペストリーを我々は人生と名づける。

 妄想は無明から生まれる。本書は無明を自覚させてくれる良書である。

アルツハイマー病に効く薬は存在しない/『アルツハイマー病 真実と終焉 “認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム』デール・ブレデセン


『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』佐藤眞一
『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス

 ・アルツハイマー病に効く薬は存在しない

・『Dr.白澤の アルツハイマー革命 ボケた脳がよみがえる』白澤卓二
『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン

必読書リスト その二

 さようなら、
 アルツハイマー病。
 薬に頼らない治療と
 予防する時代へ。

【『アルツハイマー病 真実と終焉 “認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム』デール・ブレデセン:白澤卓二〈しらさわ・たくじ〉監修、山口茜〈やまぐち・あかね〉訳(ソシム、2018年)以下同】

 原書は2017年。ミヒャエル・ネールスを必ず先に読んでおくこと。専門用語が多いがそれほど難しい内容ではない。やはり正確な知識を広く知らしめるところに眼目を置いたのだろう。上記テキストは表紙見返しにある。

 本書で紹介されている「リコード法」は、ブレデセン医師らによって、この研究結果に基づき、アミロイドβが蓄積する原因となる「3つの脅威」(※炎症、栄養不足、毒素)を取り除くために考案された、画期的な治療法である。
 このリコード法が革命的である理由は、なんといっても、まずその非常に高い成功率にある。
 2014年にブレデセン博士らが、この方法により、アルツハイマー病の約9割に回復が認められたことを医学雑誌『Aging』で発表すると、このニュースは瞬く間に全世界に広がった。
 これは世界で初めて、人間のアルツハイマー病が回復したことを報告した論文だった。(山口茜〈訳者〉)

 リコード(ReCODE)法とは「回復(REverse)+認知機能の低下(COgnitive DEcline)」の造語。「再暗号」とも読める秀逸なネーミングだ。

 アルツハイマー病患者の脳内ではアミロイドβが沈着してアミロイド斑を形成する。2002年、アミロイドカスケード仮説が提唱され広く支持を集めた。製薬会社の標的はアミロイドとなった。アルツハイマー病の原因がアミロイド斑ならばアミロイドを退治すればアルツハイマー病は治癒するはずだった。ところが見事にこの目論見は頓挫した。


 政府機関や製薬企業、バイオテクノロジーの専門家たちにより、この治療薬の開発と試験には莫大な費用がつぎ込まれた。しかし、99.6%は見るも無残に失敗し、試験段階を終えることすらなかった。
 市場に出た0.4%の薬に期待して、「結局、効果がある薬が1剤あればいいじゃないか」と思った人は、もう一度考えてほしい。なぜなら米国アルツハイマー病治療薬は2003年以来、承認されておらず、現在承認されているアルツハイマー病治療薬4剤については「物忘れや混乱症状は軽減されるかもしれないが、その効果は期間限定的」だという厳しいものだからだ。

 すなわちアルツハイマー病に効く薬は存在しない。何ということか。衝撃の事実である。それでも何がしかの薬が処方されているのは需要の大きさに魅了された製薬会社のしみったれた戦略なのだろう。

 実際、アルツハイマー病と呼ばれるこの病気の原因は、べとべとしたアミロイド斑が生成されたためというより、むしろ脳の防御反応の結果なのだ。
 このことは繰り返し述べる必要がある。
 アルツハイマー病は、脳がうまく機能しないために起こるのではない。

 発想を転換すると新たな地平が見えてくる。脳は何を防御しようとしているのか?

 特に、アルツハイマー病は、脳が次の3つの代謝と毒物の脅威から身を守ろうとするときに起きる。

【脅威1 炎症(感染、食事またはそのほかの原因による)】
【脅威2 補助的な栄養素、ホルモン、その他脳の栄養となる分子の低下や不足】
【脅威3 金属や生物毒素(カビなどの微生物が産生する毒物)などの有害物質】
(中略)
「アルツハイマー病は、脳が炎症から身を守ろうとしたり、有益な物質が不足しているにもかかわらず機能しようとするときや、有害物質の流入と闘っているときに起こる」。
 ひとたびこう認識してしまえば、病気を予防し、治療する方法ははっきりする。

 つまりアルツハイマー病は生活習慣病であり文明病なのだ。特に1の炎症が注目されており、アルツハイマー病は「脳の糖尿病」とまで言われるようになった。簡単に言えば糖尿病は高血糖によって血管に炎症を起こしボロボロにする病気だ。とするとアルツハイマー病は糖尿病の合併症と考えることも満更的外れではあるまい。

 日本の認知症患者数は462万人(2012年)で前段階の軽度認知障害は400万人と推計されている(認知症の人はどれくらいいるのですか? | 認知症フォーラムドットコム)。そして糖尿病患者数は328万人となっている(2017年/糖尿病患者数が過去最多の328万人超に増加 【2017年患者調査】| 糖尿病リソースガイド)。認知症と糖尿病は国民の二大疾病であり、認知症の半分程度をアルツハイマー病が占めている。

 3の金属は水銀・ヒ素・鉛など。水銀濃度が比較的高い水産物にはマグロ・サメ・深海魚・鯨がある(魚介類・鯨類の水銀についてのQ&A)。海藻やヒジキにはヒ素が含まれている。有害金属が蓄積されると疲労が抜けなくなる(その不調「有害金属」が原因かも?: 日本経済新聞)。

 生活習慣病・文明病の最大の原因は運動不足である。「椅子に坐る」行為が健康を蝕む。人体は基本的に「歩く・走る」ことを目的に設計されている。ヒトが世界中に棲息しているのは他のどの動物よりも長距離の移動が可能であったからだ。認知症と糖尿病は人類に「動け」と命じている。

アルツハイマー病 真実と終焉
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アルツハイマー病の原因は不明/『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』ビル・ブライソン

2019-07-30

武田邦彦「日本は独立国ではない」


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