2017-09-16

体との対話/『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』谷本道哉、石井直方


 ・体との対話

身体革命
必読書リスト その二

 筋肉を伸ばすと、体にはいろいろな変化が起こります。いちばんの高価は、もちろん柔軟性の向上でしょう。ここで言う柔軟性の向上とは、筋肉が伸びやすくなるということです。筋肉がよく伸びることで、関節の動く幅も広がります。
 また伸ばすことで、筋肉のこわばりが解きほぐせるという効果も。これによって血液循環が促され、コリや冷えなどの不調が解消し、筋肉と体を快適な状態へと導けます。さらにストレッチは本来、とても気持ちがいいもの。体がほぐれるだけでなく、精神的なリラックス効果もあるのです。

【『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』谷本道哉〈たにもと・みちや〉、石井直方〈いしい・なおかた〉(高橋書店、2008年)】

 谷本道哉は『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系列)でお馴染みの人物で運動生理学・筋生理学という新しい分野を開拓する研究者だ。石井直方は元ボディビル日本チャンピオンで谷本の師匠である。この師弟コンビは翌年に『スロトレ』を刊行している。

 私は30歳から酒を呑み始めた。しかもかなり遅い時間に。寝るのは深夜の2~3時というのが普通であった。40歳近くなるとウエストが92cmになっていた(20代では76cm)。精神の澱(よど)みを感じ、「これはまずい」と2~3日走ったりしたものの息が上がって長続きしなかった。それから40過ぎで自転車に乗り少し痩せた。

 体のバランスが崩れ始めたのは45~48歳の頃である。まず床に積み上げていた本の山を引っくり返すようになった。続いて冷蔵庫などに爪先をぶつけることが多くなった。そして洗い物をしていると落とすことが目立ち始める。48歳で生まれて初めて肩凝りが出て、その後ぎっくり腰を数度経験した。

 肩凝りを治すべく直ちにストレッチを行い、1週間で治した。「善は急げ」である。


 本格的にストレッチを開始したのは2年前のこと。今年からバドミントンを始めたので筋トレも行っている。

 ストレッチ本は基本を押さえるあまり広く浅い内容にとどまりがちで本書も例外ではない。ただし全体的なバランスを考慮して「必読書」に入れた次第である。YouTubeにアップされている多彩な動画の方がはるかに有効だ。

 amazonに「腰痛から解放され、人生が救われました」という40代女性のレビューが掲載されている。私のように強い負荷を望むより、やはり基本から取り組むのがよかろう。

 ストレッチは体との対話である。柔軟性が増すと実際に体を近くで見るため意識が劇的に変わる。2~3ヶ月前にふくらはぎの肉離れを起こしたが、筋肉が歪(いびつ)に変形していることに直ぐ気づいた。そのまま呼吸を意識すれば直ちに瞑想となる。個人的にはヨガよりも断然ストレッチの方が取り組みやすい。柔軟な身体(しんたい)に柔軟な魂が宿る。多分。

2017-09-10

冤罪に陥れられながらも決して翻弄されることがなかった男の手記/『「疑惑」は晴れようとも 松本サリン事件の犯人とされた私』河野義行


 ・冤罪に陥れられながらも決して翻弄されることがなかった男の手記

『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子
『彩花へ、ふたたび あなたがいてくれるから』山下京子
『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』V・E・フランクル:霜山徳爾訳
『それでも人生にイエスと言う』V・E・フランクル
『アウシュヴィッツは終わらない あるイタリア人生存者の考察』プリーモ・レーヴィ
『イタリア抵抗運動の遺書 1943.9.8-1945.4.25』P・マルヴェッツィ、G・ピレッリ編
『石原吉郎詩文集』石原吉郎

必読書リスト その一

 私はこれまで、自分が生きてきた足跡というのは、日々、歩きながら消すものだと思ってきた。足跡を消しながら、また消しながら、最後に死ぬとき、ふっと地上から消えてなくなるのがいい。他人が気がついた時には、もう私はいなくなっていて、「そういえば河野という人間がいたな」というぐらい存在感のない、そういう生き方が好きだった。あらゆる意味で、名前はこの世に残したくなかった。
 それが私のささやかな人生観であり、無常ということばに心を惹かれるところがあった。
 しかし、そうした生き方は全てひっくり返されることになる。前年の松本サリン事件で妻澄子が重症を負ったばかりでなく、警察から私は犯人の扱いを受け、私の44年間の人生はこれ以上洗うものがないくらい徹底的に調べあげられた。私や妻の実家、子供たちはもちろんのこと、友人、知人、会社関係、およそ私たち家族に関係がありそうな膨大な人たちに警察は聞き込みに回り、予断を込めた質問が投げかけられ、あらゆることを調べていった。
 その意味で、私は丸裸になった。
 これまで私は一人の平凡な市民として生きてきた。それが突然、思いもよらない事件に巻き込まれてサリン被害を受け、なおかつ7人を死亡させた殺人犯の汚名を着せられ、プライバシーは跡形もなく踏みにじられた。

【『「疑惑」は晴れようとも 松本サリン事件の犯人とされた私』河野義行〈こうの・よしゆき〉(文藝春秋、1995年/文春文庫、2001年)】

 本書が1995年、そして『彩花へ――』が1997年に刊行された。失われた10年で日本が経済的に沈滞する中で2冊の本は眩しいほどの光を放った。「市井(しせい)にこれほどの人物がいるのか」と感嘆したことをありありと覚えている。「まだまだ日本も捨てたもんじゃないな」と希望が湧いた。その後、河野の講演会にも足を運んだが、著書から受けた印象そのままの好人物であった。

 バブル景気という狂宴を経てマスコミは災害や猟奇事件を延々と報じるようになった。そしてインターネットが登場すると特定の人物をバッシングする傾向が顕著となる。マスコミは常に虎視眈々と獲物を求めた。その最初にして最大の犠牲者が河野義行であった。

 時に不条理が人生を襲う場合がある。私は若い頃から「極限状況における人間の振る舞い」に関心を寄せてきたが、その意味から申せば上記関連書と併せて読むのが望ましい。

 貧しい想像力を働かせて「もしも自分だったら」と考えてみよう。私なら確実に犯罪的な暴挙に出る。躊躇(ためら)うことなく松本警察署の署長と目ぼしい新聞記者を手に掛けることだろう。だが河野は道徳心を失わなかった。終始、水の如く淡々と振る舞った。夫人が意識不明の重体であるにもかかわらず。

 検察・警察とマスコミを罰する法制度を整備すべきだろう。取り調べの可視化も必要だ。河野は文字通り社会的に抹殺されたわけだから、実際にミスを犯した者と責任者には懲役10年程度が相応(ふさわ)しい。刑事罰がないため彼らは同じ過ちを何度でも繰り返しながら平然としている。

 冤罪(えんざい)に陥れられながらも決して翻弄されることがなかった男の手記である。

世界史対照年表の衝撃/『ニューステージ 世界史詳覧』浜島書店編集部編


 ・世界史対照年表の衝撃

『科学と宗教との闘争』ホワイト:森島恒雄訳

世界史の教科書
必読書 その四

人名の表し方 世界には様々な人物が登場するが、その人名の由来や成り立ちがわかると、その歴史的背景も見えてくる。

1 ヨーロッパ圏
◆解説 英語・フランス語・ドイツ語など、各言語で表記は異なるが、キリスト教、古代ギリシア・ローマ文化、ゲルマン文化に由来するものが多い。

●キリスト教と名前の由来
 ●パウロ(イエスの弟子、「異邦人の使徒」)
  →ポール(英)、パブロ(スペイン)
 ●ミカエル(天使の名)
  →マイケル、マイク(英)
 ●ヨハネ(イエスの洗礼者)
  →ジョン(英)、ジャン(仏)、イヴァン(露)
 ●ヤコブ(イエスの弟子)
  →ジェームズ(英)

●ギリシア・ローマ文化と名前の由来
 ●ヒッポ(ポセイドンの別称・馬を意味する)
  →フィリッポス(ギリシア)、フィリップ(英)、フェリペ(スペイン)
 ●ガイア(大地の神)
  →ジョージ(英)、ゲオルク(独)、ジョルジュ(仏)
 ●ニケ(勝利の女神)
  →ニコラス(英)、クラウス(独)、ニコライ(露)
 ●マルス(ローマの軍神)
  →マーク(英)、マルコ(伊)、マルクス(独)

●ゲルマン文化と名前の由来
 ●Karl(「男」を表すゲルマン系の言葉)
  →チャールズ(英)、シャルル(仏)、カール(独)カルロス(スペイン)
 ●Hluodowig(「高名な戦士」を表すゲルマン系の言葉)
  →クローヴィス(仏)
  →ルイ(仏)、ルートヴィヒ(独)、ルイス(英)
 ●Heinrich(「家の主」を表すゲルマン系の言葉)
  →ヘンリ(英)、アンリ(仏)、ハンリヒ(独)



「~の子ども」という名
 父祖の名に由来した名前や、それが姓として定着した例は、世界の各地に見られる。




【『ニューステージ 世界史詳覧』浜島書店編集部編(浜島書店、1998年)】

 テーブルタグがわからないので先程慌てて写真を撮った次第である。多分中高生向けの副読本と思われるが、はっきり言って子供に読ませるのがもったいないほど(※飽くまでもレトリックね)の出来栄えだ。似たような副読本(いずれも1000円以下)を一通り読んだが本書が一頭地を抜いている。

 若い頃から海外ミステリに親しんできたこともあって西洋人の名前に不思議な共通点があることは気づいてた。例えばマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)とミハエル・シューマッハ(Michael Schumacher)のファーストネームは綴りが同じだ。外国人名に興味が高まったのは堀堅士〈ほり・けんじ〉著『仏教とキリスト教 イエスは釈迦である』を読んでのこと。

 また、仏教とキリスト教の酷似するキーワードが次々と示される。釈迦の母親・摩耶(Maya)=イエスの母・マリヤ(Maria:Mary)、釈迦の父・浄飯王(じょうぼんのう)は、イエスの父・ヨセフ(Ioseph:Joseph)と関係ないが、イエスの宗教上の父であるヨハネ(Ioannes:John)という名は、イタリア語で「ジョヴァンニ」(Giovanni)と発音する。

依法不依人/『仏教とキリスト教 イエスは釈迦である』堀堅士

 よもや本書で長年にわたる疑問が氷解するとは思わなかった。宗教と神話の彩(いろど)りが強いのは根強い信仰の表れか。また父祖の名を名乗る文化が何となく男系天皇の正統性と重なる。

 西洋人名の意味を知ればユダヤ系ミステリ作家が描くナチスものなどには必ずこうしたアイコン的要素が埋め込まれていることだろう。「名は体を表す」のではなくして、「名は宗教的正義を示す」のだ。

 本書はどこを開いても目から鱗が落ちるのは確実で、一気に読もうとするよりはトイレに置いて少しずつ堪能するのがよかろう。巻頭の「世界史対照年表」で衝撃を受けるのは私一人ではあるまい。


 日本は「世界最古の国」である。天皇制を巡る政治的な議論も「永き伝統を破壊しよう」と目論む勢力があることを見失ってはならない。週刊誌による皇室報道も同様で様々な国の諜報機関が情報提供していると囁かれている。天皇陛下がどの国へゆかれても丁重なもてなしを受けるのは、こうした歴史を世界が知っているからだ。

 尚、ポツダム宣言に署名したのは米・英・中華民国であって中華人民共和国ではない。巷間指摘される通り「中国3000年の歴史」という言葉はデタラメなもので、中華人民共和国の歴史は70年にも満たない(1949年建国)。シナという地理的要件がたまたま一致しているだけで国家としての連続性はなく、王朝がコロコロ変わるのがシナの歴史であった。「中国」という幻想をしっかりと払拭しておく必要があろう。

マッカーサーが恐れた一書/『アメリカの鏡・日本 完全版』ヘレン・ミアーズ

 また日本の領土の変遷も図示されており大東亜戦争で東南アジアにまで版図が拡大する。


 ただし日本が戦ったのは白人帝国主義であって侵略・簒奪(さんだつ)を目的としわけではない。もちろん侵略的要素はあったが、宣戦布告をするしないはまだまだ曖昧で確固たる国際基準が成立していたわけではなかった。

 参考までに私が目を通した世界史副読本を挙げておく。

ニューステージ世界史詳覧
浜島書店
浜島書店
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山川世界史総合図録
山川世界史総合図録
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成瀬 治 佐藤 次高 木村 靖二 岸本 美緒 桑島 良平
山川出版社
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流れ図で攻略詳説世界史B―New
谷澤 伸
山川出版社
売り上げランキング: 3,274

最新世界史図説 タペストリー

(株)帝国書院 (2016-02-25)
売り上げランキング: 117,673

山川 詳説世界史図録 第2版: 世B310準拠
木村 靖二 岸本 美緒
山川出版社
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2017-09-01

出息入息に関する気づきの経/『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ


『悲鳴をあげる身体』鷲田清一
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『BREATH 呼吸の科学』ジェームズ・ネスター
『静坐のすすめ』佐保田鶴治、佐藤幸治編著
『マインドフルネス瞑想入門 1日10分で自分を浄化する方法』吉田昌生
『マインドフルネス 気づきの瞑想』バンテ・H・グナラタナ
『ゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想入門 豊かな人生の技法』ウィリアム・ハート
『釈尊の呼吸法 大安般守意経に学ぶ』村木弘昌
『呼吸による気づきの教え パーリ原典「アーナーパーナサティ・スッタ」詳解』井上ウィマラ

 ・出息入息に関する気づきの経

悟りとは

アーナーパーナサティ・スートラ(出息入息に関する気づきの経)

 瞑想修行者は、森に行き、木陰に行き、あるいは空き家に行って足を組んで坐り、身体を真っ直ぐにして、気づきを前面に向けて確立する。常に気をつけて、瞑想修行者は息を吸い、気をつけて瞑想修行者は息を吐く。

――十六の考察

最初の四考察(身体に関する組)
1.息を長く吸っているときには、「息を長く吸う」と知り、息を長く吐いているときには、「息を長く吐く」と知る。
2.息を短く吸っているときには、「息を短く吸う」と知り、息を短く吐いているときには、「息を短く吐く」と知る。
3.「全身を感じながら息を吸おう。全身を感じながら息を吐こう」と訓練する。
4.「全身を静めながら息を吸おう。全身を静めながら息を吐こう」と訓練する。

第二の四考察(感受に関する組)
5.「喜悦を感じながら息を吸おう。喜悦を感じながら息を吐こう」と訓練する。
6.「楽を感じながら息を吸おう。楽を感じながら息を吐こう」と訓練する。
7.「心のプロセスを感じながら息を吸おう。心のプロセスを感じながら息を吐こう」と訓練する。
8.「心のプロセスを静めながら息を吸おう。心のプロセスを静めながら息を吐こう」と訓練する。

第三の四考察(心に関する組)
9.「心を感じながら息を吸おう。心を感じながら息を吐こう」と訓練する。
10.「心を喜ばせながら息を吸おう。心を喜ばせながら息を吐こう」と訓練する。
11.「心を安定させながら息を吸おう。心を安定させながら息を吐こう」と訓練する。
12.「心を解き放ちながら息を吸おう。心を解き放ちながら息を吐こう」と訓練する。

第四の四考察(智慧に関する組)
13.「無常であることに意識を集中させながら息を吸おう。無常であることに意識を集中させながら息を吐こう」と訓練する。
14.「色あせていくことに意識を集中させながら息を吸おう。色あせていくことに意識を集中させながら息を吐こう」と訓練する。
15.「消滅に意識を集中させながら息を吸おう。消滅に意識を集中させながら息を吐こう」と訓練する。
16.「手放すことに意識を集中させながら息を吸おう。手放すことに意識を集中させながら息を吐こう」と訓練する。

【『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ:井上ウィマラ訳(春秋社、2001年)】

 単純な行為である。単純であるがゆえに難しい。何もしないことが瞑想だと思われがちだが実はそうではない。フル回転しているコマが止まっているように見えるのと一緒である。卑近な例を挙げれば美しい風景に心を奪われる時、スポーツでトレーニングの威力を発揮する時、ふと耳にした音楽に感動する時、我々は瞑想に近い位置にいる。

 上記テキストには明らかな間違いがある。「集中」は瞑想ではない。「注意」が瞑想なのだ。また「訓練」という言葉も相応しくない。「調(ととの)える」「修める」とすべきだろう。繰り返し行う訓練は心を鈍感にし瞑想を儀式化する。仏教が形骸化した原因もここにある。こうした言葉の誤りが伝承によるものか、あるいは翻訳によるものかはわからない。自分の感性で見抜けばいいだろう。教条主義から離れて軽やかに生きることがブッダの心にかなうと思う。

 本書は実践を踏まえた上で「出息入息に関する気づきの経」を解説した一書で、ヴィパッサナー瞑想関連本の中で一番しっくり来た。ただしヴィパッサナーが「型」になれば瞑想の果実を得ることは難しい。また瞑想と筋トレは異なる。やればやるほど力がつくわけでもない。

 瞑想とは「今」を気づく行為である。恐怖に駆られた時、怒った時、焦った時、驚いた時、失敗した時、事故を起こした時、転んだ時に呼吸を意識できるかどうかである。浅い呼吸を自覚できればそこで深呼吸が可能となる。

 特段大袈裟に考える必要はないだろう。ただ「呼吸を見つめる」という意識を普段から持てばよい。その瞬間、余計な不安が消える。具体的なやり方については「アーナーパーナサティの完全技法と自然法」が詳しい。



六道輪廻/『マインドフルネス 気づきの瞑想』バンテ・H・グナラタナ

2017-08-24

疲れないタイピングのコツ/『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖


『ことばが劈かれるとき』竹内敏晴
『悲鳴をあげる身体』鷲田清一
『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ
『ストレス、パニックを消す!最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二

 ・疲れないタイピングのコツ
 ・体のセンサーが狂っていると疲れが取れない

『君あり、故に我あり 依存の宣言』サティシュ・クマール
『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ

身体革命
悟りとは

 今度は、のせた指先とキーボードの間に薄皮1枚入っているようなイメージを持ってください。
 実際には手とキーボードは接触しているのですが、その間を隔(へだ)てる薄くて柔らかいシートのようなものが入っているイメージをすると、指先が柔らかくなって、肩や首の力がフッと抜けるのが感じられるはずです。
 そして、その「薄皮1枚入れる」感覚を持ったまま実際にタイピングしてください。
 肩や首がリラックスした状態が保たれるので疲れなくなり、むしろタイピングすればするほど、ほぐれると感じる方もいるかもしれません。

 では、なぜこんなちょっとしたイメージだけで力が抜けるのでしょうか?
 実は「薄皮1枚入れる」感覚で指先の皮膚感覚が活性化していることと関係があります。
 特にモノに触れるとき、皮膚はそのモノの情報を受けとるために重要な役割を果たしています。
 しかし、我々は一般的にモノに触れるときに皮膚感覚を意識しないので、外からの情報を受けとりにくくなっています。
 キーボードからの情報を受けとることなく、それを押すのにどの程度の力が必要化わからないので、必要以上に力を込めてしまうのです。

【『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖〈ふじもと・やすし〉(さくら舎、2012年/講談社+α文庫、2016年)】

 藤本靖はロルフィング®というボディワークの施術者である。意識を操作するよりも身体を操作する方が手っ取り早い。要は気や意識を内側へ向けることだ。これを内観という。

「薄皮1枚」感覚は携帯電話のボタン操作にも使えるという。薄皮を意識することで皮膚感覚が広くなる。点から面ほどの違いがある。私は歩く時や階段の昇り降りでも心掛けている。

 やってみると直ぐ気づくが「薄皮1枚」とは皮膚そのものを意識することである。大袈裟に言えば日常生活に接触の豊かさを取り戻す行為につながる。

 心も体もほんの少しの歪みによってバランスが狂う。本書は身体操作だけではなく五官の使い方にまで言及されており、五蘊(ごうん)を調(ととの)えるのに役立つ。疲労回復といった低い次元にとどまる内容ではない。