・『吉田茂とその時代 敗戦とは』岡崎久彦
・歴史は政治の複雑なダイナミズムから生まれる
・『村田良平回想録』村田良平 ・『歴史の教訓 「失敗の本質」と国家戦略』兼原信克
・日本の近代史を学ぶ
しだいに占領政策の全貌が見えてきた時、筆者が思い浮べたのは古典的なシンフォニーの展開であった。ローズベルト大統領の「無条件降伏」の宣言は、予定される敗者にとって「運命」の鉄槌を意味した。ドイツや日本の半永久的無力化という衝撃的なテーマが、米国政府の最上層から繰り返し打ち出される主旋律をなした。しかしながら、国務省の下部から、当初は聞きとりにくいひそやかな音量であったが、まったく違った音色の第二旋律が奏でられ始めた。敵国の内情に理解を示し戦後の国際社会に再復帰させようという知日派の立案である。二つの旋律はコントラストをきわだたせつつ、やがてさまざまなバリエーションをとって展開するなかで交錯し混ざり合って、新たな音調を見出すに至った。つまり本書は、あい対立する二つのテーゼの展開とその統合という簡明な構成を骨格としている。(中略)
この簡明な構成は、逆からいえば、本書がローズベルト的旋律と知日派的旋律のいずれかか一方を過大評価してシンフォニー全体を説明する立場をとらないことを意味している。対日占領政策の一元論的な性格規定を避け、異質な諸要素が時には逆説と皮肉を伴いながら組み合わされて歴史を構成したと解している。実際、後から振り返ってみれば至極当然に見える歴史の流れも、その次代の当事者が行方の定かでない激動のなかで懸命に状況と格闘した結果であることも少なくない。
【『米国の日本占領政策 戦後日本の設計図』五百旗頭真〈いおきべ・まこと〉(中央公論社、1985年)】
『吉田茂とその時代』は本書を元にして書かれており、冒頭で岡崎久彦は上記テキストを引用し絶賛している。かなり大部の学術書であり上巻の半ばで挫けた。体力をつけてから再チャレンジする予定である。
歴史は政治の複雑なダイナミズムから生まれる。ルーズベルト大統領の嘘やコミンテルンの陰謀があったのは確かだが、それだけで大東亜戦争敗北を片付けることには無理がある。知日派といったところで、それはアメリカの国益に添った政策であり、何も親切心から行ったわけではない。
一見するとアメリカは民主政やプラグマティズムが機能しているように思われるが、その結果は常に誤ってきたといっても過言ではない。ヤルタ協定~日本の戦後処理は容共の色合いが濃く、米ソ冷戦構造へとつながった。朝鮮戦争~ベトナム戦争~湾岸戦争も軍需産業を富ませることには成功したのだろうが、アメリカの国力を増進させたとは言えない。ソ連崩壊後のアメリカにとって世界はバラ色にはならなかった。そして今、アメリカファーストを合言葉に広げすぎた風呂敷を畳んで、自国へ引きこもろうとしている。
帝国主義時代の末期のように世界は保護主義へと向かっているのだろうか。一方では世界的な規模で経済格差が進み、株価が上がり景気がよいとされながらも働く貧困層が厚みを増している。まるで意図的に政治のダイナミズムを奪っているかのようだ。バブル景気が弾けてからというもの消費意欲は完全に衰えつつある。自由に物を買えないのだから人々が実感するような景気回復の見込みはないと言い切ってよいだろう。
漫然とした無気力が社会を覆いつつある。この状態が真空に近づいた時、期せずして戦争が始まることだろう。鬱積したモヤモヤは敵国に対して放たれる。その時我々は目を覚まして政治を思うのだ。
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