2019-06-02

アルツハイマーは文明病/『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス


『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』佐藤眞一

 ・アルツハイマーは文明病
 ・おばあさん仮説

『アルツハイマー病 真実と終焉 “認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム』デール・ブレデセン
『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『一流の頭脳』アンダース・ハンセン
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン
『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ・コリン
『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ
『小麦は食べるな!』ウイリアム・デイビス
『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』デイヴ・アスプリー
『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二
『医者が教える食事術2 実践バイブル 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方70』牧田善二

身体革命
必読書リスト その二

 同じくアルツハイマー病に関して、予防も不可能と断言するのはアメリカの独立系専門家委員会だ。2015年末、ドイツを代表する日刊紙『南ドイツ新聞』が掲載したのは、アメリカのアルツハイマー病専門家で、ハーバード大学の神経学教授、デニス・セルコーの悲観的なコメントだ。教授によると、この病気にならないための唯一の方法は、「よい両親を選び、長く生きないこと」だった。

【『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス:鳥取絹子〈とっとり・きぬこ〉訳(筑摩書房、2018年)以下同】

 医師と裁判官はよく似ている。過去の例に基づいて現在を判断するところが。医師の仕事は過去の症例に合わせて薬を処方することだ。本当にその薬が有効かどうかを彼らが考えることはない。医学的に認められたパターンを踏襲するだけの気楽な仕事だ。そして医師にとって「治らない病気」は多ければ多いほどよい。長く薬を処方することができるためだ。実際に臨床を実践する医師は1割も存在しないだろう。

 アルツハイマー病とはどういう病気なのだろう? 最初に目に入る情報では、神経が変性する不治の病気となっている。不治とされるのは、研究の枠内で行われた何百件という臨床研究で、病気を治す薬も、進行を抑える薬も発見されていないからである。それなのに、先進国では認知症の形としてはもっとも多く、死因では心血管病、ガンに次いで第3位になっている。したがって、高齢になってもアルツハイマー病を発症するのは宿命で、運命として諦めるしかほかに方法がないように見える。こういう状況では、私たちのほとんどんが年を取るのが怖いと思っても仕方がない。なぜなら私たちは記憶や理性、ときに尊厳まで喪失するこの病気を、老化と結びつけているからである。
 本書の目的は、まさにこの恐怖と決別することである。【アルツハイマー病は年齢による病気でも、運命として避けられない病気でもなく、私たちにとってもっとも必要で重要なものが欠乏することで生じる病気である】。普段の生活様式に起因するので、行動を変える処置をいくつかすることで予防も可能だ。欠乏しているものがあれば、手遅れになる前に――つまり、後戻りできないポイントとされる中間段階の前に――対策を講じれば、アルツハイマーの進行を止めることもできる。さらにはもっと初期に対処すれば、プロセスを逆戻りさせ、治すことさえ可能なのである。

 認知症の中で最も多いのがアルツハイマー病である。レビー小体型認知症同様、発見者の名前を病名にするのは大いに疑問である。認知症という言葉も日本語としておかしい。認知障害・認知機能疾患とするべきだろう。

 有吉佐和子が『恍惚の人』を世に問うたのが1972年(昭和47年)のこと。その後は長く「痴呆症」と言われた。「呆(ぼ)ける」という言葉は今でも多くの人が使っていることだろう。認知障害は「自分が自分でなくなる病気」である。我が子に向かって「どちら様ですか?」と尋ねる母親の映像を見た時の衝撃は忘れることができない。自分という名の小説のページが次々と欠落して物語性を失ってゆくのだ。「呆けるくらいなら死んだ方がましだ」という声も耳にするが、自分が自分でなくなることは形を変えた死を意味しているのだろう。

 ミヒャエル・ネールスが明かしたのは驚くべき事実である。アルツハイマー病は生活習慣病だというのだ。具体的には食生活と運動不足が原因だと指摘する。特に「坐る時間の長さ」が体を静かに蝕んでいる。

 2014年に発表された、カリフォルニア大学ロサンジェルス校のアルツハイマー病治療計画の研究は、小規模ながらこの病気の治療に新しい道を開いた。

 研究チームを率いたのはUCLAのメリー・サウス・イーストン・アルツハイマー病リサーチセンターの神経学教授、デール・ブレデセンである。

 なぜ、これほどまでに希望をもたらすニュースが、世界の新聞のいち面に出ないのだろう? なぜテレビやラジオ、ネットのSNSで話題にならないのだろう?
 答えはいたって簡単。奇跡の薬のおかげで治ったわけではないからである。新薬が発見されたわけでも、有効成分を商品化できたわけでもないからだ。逆にこの結果はむしろ、市場経済に合わせた私たちの行動を問題視することになるからだ。なぜなら、この治療の成功によって、【この恐ろしい病気の本当の原因は年齢でも、遺伝子でもなく、私たちの生活様式にあることがわかった】からである。アルツハイマーは、私たちが肉体的、精神的に必要とする多くのものを考慮しなかったことで生じる病気である。なぜか? 私たちの生活様式がそうさせているからだ。したがって、これら必要なものを満たすには、私たちの行動を変えるだけで十分というこになるだろう。

 どうやら精神疾患を取り巻く状況(エリオット・S・ヴァレンスタイン)と酷似しているようだ。薬以外で治されれば医師と製薬会社はお手上げだ。彼らは文明病を必要としている。

 病は人類にとって永遠の課題である。生老病死は避けようがない。そして病はサインでもある。病と向き合うことで健康を見つめ直すことができ、死をも見据えることが可能となる。癌が慈悲深いのは死を迎える準備期間を告知してくれるためだ。

 文明の進歩はヒトの体を退化させた。たとえ我々が健康に生きたとしても病気がなくなることはあり得ない。しかし健康であれば病気を通してヒトが進化するようになるのではないか。

 本書を理解するためにも前回散々腐した佐藤眞一は読んでおいた方がよい。



何はさておき歩いてみよう/『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏

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初めての半原越


 ・初めての半原越

越すに越されぬ半原越(愛川町経由)
雪辱の半原越(愛川町経由)
半原越往復
半原越まで歩く

 午前5:00に家を出た。鳥たちの鳴き声が背中をそっと押してくれた。薄曇り。この間までの暑さはどこかへ行ってしまったようだ。紫陽花(あじさい)も色づいてきた。土山峠の手前、清川村方面から半原越(はんばらごえ)に向かう。「越」(こえ)とは峠のことである。

 峠は、中国地方で垰あるいは乢とも書き、「たお」「とう」「たわ」「たわげ」などと呼ぶ地方があり、地名などにも見られる(岡山県久米南町安ケ乢など)。登山用語では乗越(のっこし)、または単に越(こえ、こし)などとも言い、山嶺・尾根道に着目した場合は鞍部(あんぶ)、窓、コル(col)とも言う。
 かつて峠はクニ境であり、その先は異郷の地であった。そのため、峠は、これから先の無事を祈り、帰り着いた時の無事を感謝する場所でもあったことから、祠を設けている所が多い。この祠は、異郷の地から悪いものが入り込まないための結界の役割も果たしていたと考えられる。本来の意味から転じて、何らかの物の勢いが最も盛んな時期のことを峠という。

Wikipedia

 清川虹子村からだと道路左側に看板があるので「しっぽ村」を目指せばよい。


 かつては封鎖されていたようだ。やや道幅の広い林道と考えていいだろう。ところどころに土砂崩れや落石があり軽自動車でギリギリ通れるほどの幅員である。

 実はナメてかかっていた。半原越という名前がよくない。「半ば越えたも同然」みたいな印象があった。私の脚力ではほぼ限界に近かった。辛うじて足は着かなかったが、単に着かなかったというだけのことだ。時折下を見ると標高が実感できて足に力が入る。静かな道で鳥の声も少ない。



 下りは路面が荒れていてブレーキを握る指が痛くなる。これは愛川方面からの方がきつそうだ。


 中年の男性ローディーが上り下(お)りを繰り返していた。同じ人物を三度も見たのだから間違いない。見上げたものだ。

 トレーニングには格好の場所だ。ここを楽々と越えることができれば次に牧馬峠とヤビツ峠、それから和田峠を目指す予定である。

2019-06-01

デンマークで放送された家庭内暴力の恐ろしさを訴えるCM


2019-05-29

学者の凡庸さ/『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』佐藤眞一


 ・学者の凡庸さ

『アルツハイマー病は治る』 ミヒャエル・ネールス
『アルツハイマー病 真実と終焉 “認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム』デール・ブレデセン

 見当識に障がいがある状態を理解してもらうために、私はよく、「眠っている間に、知らない場所に連れて行かれてしまったら?」と尋ねます。
 もしもあなたが、眠っている間に、知らない場所に連れて行かれてしまったら、目が覚めたとき、どんな気持ちがするでしょうか?
 自分の部屋だと思っていたのに、どこかわからない別の部屋の中にいる。今が朝なのか昼なのか、夕方なのかもわからない。親しげに声をかけてくる人がいるけれど、誰なのかわからない。あなたは誰? ここはどこ? 今はいつ? 私はなぜ、こんなところにいるの?
 と、そんな風に、不安で不安で仕方がないはずです。自分が置かれた状況が理解できあにと、私たちはとても不安になるのです。
 しかも認知症になると、記憶にも障がいが出ます。もしも知らない場所で目覚めたら、私たちは必死で、眠る前の状況を思い出そうとするはずです。昨夜は友人と飲みに行って、最後はカラオケで、疲れが出て眠ってしまったんだった。かすかに、友人と一緒にタクシーに乗ったような記憶が……。とすると、ここは友人の家か? といった具合です。
 ところが認知症が進むと、眠る前の状況を思い出そうとしても、思い出せません。

【『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』佐藤眞一〈さとう・しんいち〉(光文社新書、2018年)以下同】

 時間的・空間的・社会的な自分の位置を正しく認識するのが見当識である。見当違いの見当が語源。失見当識は記憶喪失の状態と変わらない。記憶の糸を辿ることができなくなる。

 佐藤は、日常会話によって認知機能を評価する尺度(スクリーニング方法)の「CANDy」(キャンディ)を開発した一人。15項目の合計点が6点以上の場合、認知症の疑いがある。ただし飽くまでもふるい分けの尺度に過ぎないので専門医に診てもらう必要がある。


 初めに述べておくと、現在、認知症予防にいいとされているもので、認知症を予防できるという科学的な証拠があるものはありません。研究は世界中でなされていますが、まだ結果が出ていないのです。ではなぜ、認知症予防にいいと言われるものがあるのでしょうか?
 計算ドリルなどに認められる効果は、「認知機能の低下予防」であって、「認知症予防」ではないのですが、それが混同されているのです。

 ミヒャエル・ネールスは初期~中期のアルツハイマーは治ると指摘している。日本だと河野和彦によるコウノメソッドも知られている。佐藤は「予防」と書いているが、受け身の姿勢が凡庸さをよく表している。誰かが道を拓いてくれるのを待っているのだろう。

 自分の恩師である大学教授が介護施設では「さん付け」で呼ばれていた事実にショックを受ける。

 答えは、ケースバイケースで考えていくことの中にしかないでしょう。単純に、「みんな平等だから、さん付けでいい」というのでは、認知症の人の世界を大事にすることはできません。

 この件(くだり)はいかにも現場を知らない学者が馬脚を露(あら)わしたもので、公私混同も甚だしいと言わざるを得ない。佐藤は認知症を知っているのかもしれないが、認知症患者を知らないのだろう。お笑い草である。

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