2020-11-27

taxと税の語源/『税高くして民滅び、国亡ぶ』渡部昇一


『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎
・『お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる』大村大次郎
『脱税の世界史』大村大次郎
『税金を払う奴はバカ! 搾取され続けている日本人に告ぐ』大村大次郎
『消費税減税ニッポン復活論』藤井聡、森井じゅん

 ・taxと税の語源
 ・税を下げて衰亡した国はない
 ・現行の税金システムが抱える致命的な問題
 ・社会主義的エリートを政府へ送り込んだフェビアン派
 ・一律一割の税金で財政は回せる
 ・目次

『対論「所得税一律革命」 領収書も、税務署も、脱税もなくなる』加藤寛、渡部昇一

必読書リスト その二

 英語で税金のことを普通tax(タクス)と言うが、「義務的な労働」を意味するtask(タスク)も、昔は税金を意味していた。つまり、taxもtaskも同じ語源から発していて、それが時間が経つうちに、KとSの音(おん)が入れ替わって、税そのものを意味する言葉と労役(ろうえき)を意味する言葉に分かれたわけである。古代日本の税制で言えば、taxは「租」(そ)、taskは「庸」(よう)ということになる。
 taxの語源をさかのぼると、tangere(タンゲル/触れる)という言葉と同じになる。つまり、「手で触れて査定し、それに基づいて税を取り立てる」ということだった。
 いまでも高速道路や橋を渡るところに、toll(トル)と書いてあるが、これは「(高速)料金」「橋銭」(はしせん)のことで、ドイツ語のZoll(ツォル/関税)と同じ語源である。同一の語源から出たものにギリシャ語のtelos(テロス/目的、終わり)という言葉があって、「最終的に支払う」という意味を表している。
 その他に、下の者が上の者に「義務として差し出す」という意味のduty(デューティ)という言葉があるが、フランス語では逆に、上の者が下の者から「権利として巻き上げる」という意味のdroit(ドロワ)がある。
 1989年頃に日本で大騒ぎして導入した消費税があるが、これに近い英語はexcise(エクサイズ)である。exciseには、「消費税」という意味と「削り取る」という二つの違った意味があるが、元々は「売上げのなかから削り取られる」という語感からきたと思われている。イギリスでは、1643年にオランダに真似て導入された。
 税金は、「上のほうから割り当てられたもの」という感じが強いが、それに似たものは上に置くことから生じたラテン語のimpstus(インポスト/英語)、impot(アンポ/フランス語)がある。ただ、いまではあまり使われていない。これに近い意味で、「(お上が人民より)召し上げるもの」という英語に、levy(レヴィ/徴税、招集)がある。(中略)
 漢字の「税」というジは、「禾」という穀物を示す【のぎへん】に「兌」を組み合わせたものだが、「兌」は「脱」であり、収穫された穀物から、「お上が抜き取る」という意味である。
 学校の授業で習う租・庸・調の「租」も、「禾」に「且」を合わせたもので、これは「組む」という意味である。つまり、「上から積み重ねる、押しつける」ということで、英語のimpostに似た語感がある。
 田畑から取る税を「租」というのだが、日本語で税金を表す言葉は「貢」(みつぎもの)であり、動詞は「みつぐ」である。「み」は敬意を示す接頭辞で、中心の意味は「つぐ」にある。「つぐ」に漢字を当てると、「継」「続」「接」などであって、お上に対して人民が、「絶えず継ぎ継ぎ(次ぎ次ぎ)に供給する」というのが根本義であると言える。
「みつぐ」は語感からすると、「運び込む」とか「与える」とか「支える」といったニュアンスがあるが、「支える」というのは、これと同じようなものにドイツ語のSteuer(シュトイア)がある。これによって、国や教会を支えるということなのだが、考えてみれば、税金についての理論が百千あろうとも、つまるところ「公共のものを支える」というところに帰一(きいつ)するなら、実に的確な言葉と言える。

【『税高くして民滅び、国亡ぶ 渡部昇一著作集 政治1』渡部昇一〈わたなべ・しょういち〉(ワック、2012年/PHP研究所、1993年『歴史の鉄則 税金が国家の盛衰を決める』/PHP文庫、1996年/ワック文庫、2005年、改題改訂新版『税高くして国亡ぶ』/更に改題改訂したものが本書。著作集の副題は奥付による)】

2020-11-26

ドミニオン化されたアメリカ選挙


ドキュメンタリー映画『ドラゴンに乗って バイデン家と中国の秘密』【日本語字幕版】
ザッカーバーグ、ドーシー(Twitter CEO) アメリカ合衆国上院司法委員会 ヒアリング 不公正な情報操作について
連邦司法委員会公聴会 なぜTwitterは検閲して言論の自由を封殺するのか?

 ・ドミニオン化されたアメリカ選挙

天皇機関説の排撃は天皇をロボット化する目的で行われた/『機関銃下の首相官邸 二・二六事件から終戦まで』迫水久恒


『大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇』堀栄三
『消えたヤルタ密約緊急電 情報士官・小野寺信の孤独な戦い』岡部伸
『二・二六帝都兵乱 軍事的視点から全面的に見直す』藤井非三四
『日本のいちばん長い日 決定版』半藤一利

 ・天皇機関説の排撃は天皇をロボット化する目的で行われた

『昭和陸軍謀略秘史』岩畔豪雄
『田中清玄自伝』田中清玄、大須賀瑞夫
『陸軍80年 明治建軍から解体まで(皇軍の崩壊 改題)』大谷敬二郎
『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎
『徳富蘇峰終戦後日記 『頑蘇夢物語』』徳富蘇峰
『絢爛たる醜聞 岸信介伝』工藤美代子

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 永田町の首相官邸は、できてから今日まで二度、日本軍の機関銃によって撃たれている。二・二六事件のときと終戦のときとである。そしてまた今上陛下の御代になってから、陛下の積極的なご意思の表明によって、国の方針がきまったことも二度しかない。それがまた、二・二六事件のときと終戦のときとである。前のときは、蜂起した部隊をどう扱うか、軍首脳部がきめかねていたとき、陛下が叛乱軍として鎮圧すべき旨をお示しになり、あとのときは、終戦の御聖断をお下しになったのである。どちらの場合も軍のあやまりを最後の段階で陛下がお正しになった事蹟である。運命はこの両度とも私を首相官邸の中におき、前のときは、内閣総理大臣の秘書官として岳父岡田首相の救出に骨身をけずり、あとのときは、内閣書記官長として、鈴木総理をお助けすることに心魂をこめた。

【『機関銃下の首相官邸 二・二六事件から終戦まで』迫水久恒〈さこみず・ひさつね〉(恒文社、1964年新版、1986年/ちくま学芸文庫、2011年)以下同】

 かような本を読み落としているのは、まだまだ読書量が足りない証拠だろう。まず文章がいい。革新官僚の優れたバランス感覚が窺える。事件の渦中にあった人物が描く生々しさや迫力は劇的ですらある。私は文庫版の表紙を映画化された俳優の写真だと思い込んでいたのだが迫水本人の横顔だ。

 迫水久常(1902-77年)は大蔵官僚から戦後に政治家となった人物で、昭和天皇による終戦の詔書(玉音放送の原稿)を起草したことで知られる。「大まかな内容は内閣書記官長・迫水久常が作成し、8月9日以降に漢学者・川田瑞穂(内閣嘱託)が起草、さらに14日に安岡正篤(大東亜省顧問)が刪修して完成し、同日の内に天皇の裁可があった」(Wikipedia)。

 本書に安岡正篤〈やすおか・まさひろ〉の名前が出てきて驚いた。政財界に強い影響力を持った人物で、細木数子と結婚トラブルがあった男ぐらいの知識しかなかったためだ。

 人生にとっても民族にとっても、結局毎日毎日の積み重ねであって、今日は昨日の影響下にあり、明日は今日の影響なしには考えられない。いまの日本国民は、父祖時代の日本国民をはなれては考えられない。父祖がどんな道を歩んできたかを知ることは、すなわち、自分が現在いる位置をはっきりさせる所以である。ある人は終戦によって日本に革命がおきたのだ、古い日本はそこで終り、古い日本とは無縁の新しい日本が始まったのだという。しかし、私は、そうは思わない。

 革新官僚といえば企画院事件(1939-41年)でも明らかなように左翼の浸透が進んでいたが、迫水は古き伝統を否定する唯物史観の持ち主ではないことがわかる。

 天皇機関説の排撃とは、美濃部達吉博士等憲法学者の通説たる「天皇は国家の最高の機関なり」とする学説が、我が国の国体に反するから、これを学界から一掃すべしという主張である。要するに、民主主義的な政治を排して、天皇を表面に立てて独裁の政治体制を実現せんとする意図の下に、国体という当時なんぴとも抵抗しえない観念を利用して主張されたものである。この議論に対して、天皇陛下ご自身が、自分は帝国憲法にしたがって国を統治する者であって、自分自身が国家であるとは考えていない、天皇が国家最高の機関だという説は決してまちがっていないと何回も岡田首相に仰せられたことは、私は直接首相からきいたことである。しかし、当時の軍部は、表面は国体を看板にして、実質は天皇をロボット化して、軍部独裁の政治を実現しようとするものであるから、この運動に対しては積極的に支援した。しかも驚くべきことには、政友会の首脳部も政争の具としてこれをとり上げ、帝国議会において執拗に内閣を追求した。内閣もついに、天皇機関説を否認するような声明を発して妥協したのであった。

 正論である。明治大帝の血を引く竹田恒泰も天皇機関説を支持している。「これを日本に当てはめると日本国家は法律上ひとつの法人であり、天皇は国家の機関のひとつとなる」(2018.2.22 虎ノ門ニュース)。

 だが迫水の記述は部分観であって、大正デモクラシーにおける行き過ぎた政党政治の混乱を無視している。一冊の書物は限られた情報であることを弁え、検証を怠れば木を見て森を見ずに陥る危険を常に自覚する必要があろう。



「革新官僚」とは/『絢爛たる醜聞 岸信介伝』工藤美代子