2019-01-20

単純な史観/『陸奥宗光』岡崎久彦


『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ
『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』岡崎久彦
『陸奥宗光とその時代』岡崎久彦

 ・単純な史観

『小村寿太郎とその時代』岡崎久彦
『幣原喜重郎とその時代』岡崎久彦
『重光・東郷とその時代』岡崎久彦
『吉田茂とその時代 敗戦とは』岡崎久彦
『村田良平回想録』村田良平『歴史の教訓 「失敗の本質」と国家戦略』兼原信克

 大衆的な歴史小説に限らず、専門家の方々の学問的な著作の中にも、違和感を持たざるを得ないものも多々ある。
 ある人物や時代について、特定の部分の引用は必ずしも間違っていなくても、その人物や歴史の全体像から見てバランスを失しているような引用は、やはり、歴史をゆがめてしまうと思う。
 戦前の歴史は、偉人をほめるために、しばしばその人物の全体像と関係のないような片言隻句を取り上げては、「尊皇の志があった」と書いた。そして、戦後の反体制運動華やかなりし頃は、個人でも社会の集団でも、「権力に抵抗した」ときのことだけを、他の事実と較べてアンバランスに大きく取り上げて、その意義を強調している。こういうことも、気になるのである。
 これほど単純でわかり易い史観もない。むしろそうなれば、もう、歴史を読む必要さえもないのではないかと思う。読む前から、「尊皇の志をもつのは偉い」、あるいは「権力に抵抗するのは良い」ということだけ覚えていれば、それ以上、歴史から学ぶものがないからである。

 反体制史観のようなものは、戦後のある時期のあだ花に過ぎなかったのであろうが、平和主義は、戦後史観の一貫した金科玉条であり、また人類の思想の一部としてしばしば歴史の中にそれなりの意義ある役割を果たしている。
 だからといって、戦前の歴史は豊臣秀吉の帝国主義を讃えたから悪いけれども、戦後の歴史は、たとえば、最近のテレビ・ドラマのように徳川家康を一方的に平和主義と描写して、その平和主義をほめているのだから、良いのだ、などと言うのは、やはりおかしいのではないかと思う。

【『陸奥宗光』岡崎久彦(PHP研究所、1987年/PHP文庫、1990年)】

陸奥宗光とその時代』を開けば自ずから本書を読まずにはいられなくなる。書かれた本が書いた著者を動かし、編集者をも動かしたのだろう。本書によって「外交官とその時代シリーズ」が誕生するのである。

 尊皇史観は同調圧力で、反体制史観は思想のための歴史流用に過ぎない。日本人は生活において実利を追求する傾向が強いにもかかわらず、ものの考え方には合理性を欠くところがある。明治維新における攘夷(じょうい)から開国への変わり身の早さが日本人の政治態度をよく示しているように思う。たぶん「祭り的体質」があるのだろう。

 大東亜戦争の敗因もここにある。日本は帝国主義の甘い汁にありつこうとした(当時この目的自体が誤っていたわけではない)。アメリカは開戦前から戦後世界のグランドデザインを描いていた。具体的な戦闘においてアメリカはオペレーションズ・リサーチ(OR)を採用し、日本は玉砕と特攻をもって兵士とエリート学生を犠牲にした。【徒(いたづら)に】それを繰り返した。「こうすれば勝てた」という議論が石原莞爾〈いしわら・かんじ〉以降、現在に至るまで盛んであるが欺瞞も甚(はなは)だしい。そもそも「勝つためのシステム」すら構築していないのだから負けるべくして負けたと断言してよい。当時の精神論は確かに崇高であった。それを嘲笑う資格は誰にもない。だからこそ尚更悔やまれるのである。

 戦後70年以上に及ぶ精神的鬱積が中国・北朝鮮・韓国を導火線として爆発する可能性が高まりつつある。歴史を知らない若者であっても「なぜこれほど虚仮(こけ)にされないといけないのか」との疑念を覚えるような出来事が次々と起こっている。自衛隊という擬制の軍隊を有する擬制の国家が限界を迎えつつある。

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2019-01-18

人生の目的/『中国古典名言事典』諸橋轍次


『中国古典 リーダーの心得帖 名著から選んだ一〇〇の至言』守屋洋

 ・狂者と狷者
 ・人生の目的
 ・「武」の意義

『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登

必読書リスト その五

 朝(あした)に道を聞(き)けば、夕(ゆう)べに死すとも可なり。(『論語』「里仁」〈りじん〉)

 もしも、朝、真実の人の道を聞き、これを体得しえたならば、その夕べに死んだとしても、それで悔いはないのだ。
 人間のあり方、生き方を知ることは、それほどにも重大事なのである。

【『中国古典名言事典』諸橋轍次〈もろはし・てつじ〉(新装版、2001年/座右版、1993年講談社、1972年講談社学術文庫、1979年)】

 漢字の力が文語体を通して十全に発揮される。中国古典の名言が胸に迫ってくる理由はここにある。寺子屋の素読に四書(『大学』『中庸』『論語』『孟子』)五経(『易経』『書経』『詩経』『礼記』『春秋』)が採用されたのもひとえに文語体の雄勁(ゆうけい)によるものと考える。

 孔子の言葉は雪山童子(せっせんどうじ)の精神そのものである(雪山堂~店名由来物語)。普通、道は目的地までの経路と考えられる。ところが東洋思想は道そのものを目的に変えた。日本では技を極めることよりも人としての格を錬成するところに価値を見出した。仏道に始まり武士道・柔道・茶道に至るまで生き方を問う世界となっており、道は自(おの)ずから法(真理)へと向かう。

「今何が欲しいか?」と尋ねられて即答する内容にその人の真価が現れる。男の場合、往々にしてクルマ・美女・不動産の類いを欲し、年を重ねると地位・名誉・資産を求める。努力する人は才能を、戦う人は力を、抑圧されている人は解放を望む。幸福とは自由の度合いであろう。やがては自らの自由よりも人々を自由に扱える政治力・権力へと欲望は向かう。

 私が「夕べに死す」ことを覚悟できないのはなぜか? そこに私の課題と行き詰まりがあるのだろう。欲望に衝き動かされる人生は決して満たされることがない。全てを手に入れた暁に訪れるのは虚(むな)しさである。やがては得た物を失う恐怖に取りつかれ、静かに迎えつつある死にたじろぐことは避けようがない。悩みは欲望から生まれるのだ。

 この世で絶対なるものは光の速度と生きとし生けるものの死である。死は真理である。ただしそれを解き明かすことは至難である。

 

2019-01-16

加藤清隆×須田慎一郎


 虎ノ門ニュースより遥かに面白い。30人以上の逮捕者が出てもマスコミが報じない関西生コン事件、ファーウェイ問題は米中の覇権争い、日本人から資金を集め中国で商売をするソフトバンク、基軸通貨にならない人民元、日産内紛の下請け会社となった東京地検特捜部~朝日新聞を使った世論工作の失敗、英仏では2040年以降ガソリン車・ディーゼル車・ハイブリット車が販売禁止など。







創価学会の墓地ビジネス/『週刊東洋経済 2018年9/1号 宗教 カネと権力』


『創価学会秘史』高橋篤史
『ジャーナリズムの現場から』大鹿靖明

 ・創価学会の墓地ビジネス

 当初、学会は運動公園なども併設しようと、ゴルフ場全体を買収する方針だった。が、交渉の最終段階で半分に絞り込んだ。それでも買収価格が引き下げられることはなかった。「牧口さんの出身地だからどうしても欲しかったんでしょう」と前出の役員は振り返る。
 もっとも、ここでも地元の反対がネックだった。12年11月、久米地区が住民投票を実施したところ、反対が6割に達したのである。
 それでも利害が一致していた学会側と柏崎黒姫観光は断念しなかった。当初は集落に近い海側のアウトコースを墓地に充てる計画だったが、山側のインコースに変更。さらに地元へのアメも用意した。集会施設の駐車場拡張など4000万円の整備費と、年120万円の町内会費を10年間納め続けることを約束したのだ。関係者は70戸余りの集落を1軒1軒回り同意書を取っていった。
 前出の役員によると、話がほぼまとまると、学会御用達で知られる不動産会社「東京昇栄」が交渉に加わった。学会関係者が初めて顔を見せたのは、市内の学会施設で行われた契約調印の場だった。(高橋篤史)

【『週刊東洋経済 2018年9/1号 宗教 カネと権力』(東洋経済新報社、2018年)】

 2019年11月に完成予定の「牧口記念墓地公園」である。牧口常三郎〈まきぐち・つねさぶろう〉は創価学会の初代会長で柏崎(新潟県)出身だ。ま、カジュアルな聖地主義といってよい。ネット上に東京昇栄の企業情報は見当たらず。隠密企業というわけだ。

 5000万円もの余計なカネを支払うのは先行投資に決まっている。金額に見合うだけのリターンがあるのだ。それを負担するのはもちろん創価学会員である。教団とは信者からカネを毟(むし)り取るシステムのことだ。自ら喜んで騙される人々を信者とは申すなり。

 それに対してつべこべ言うのはお門違いだ。むしろ経済活動に貢献していることを称(たた)えるべきだろう。創価学会以外の新宗教も取り上げられているのだが、書き手に依存した誌面作りとなっていて底が浅い。電車で読むにはうってつけの内容だ。

 宗教ネタを扱う時点で東洋経済新報社に知恵のないことがわかる。他人の財布の中身を心配するのが彼らの仕事なのだろう。