2020-06-28

アメリカに逆らうことができない日本/『戦後史の正体 1945-2012』孫崎享


 ・アメリカに逆らうことができない日本

日本の近代史を学ぶ

 しかしその後、発案者の高村(こうむら)大臣が内閣改造で外務省を去ります。ここで外務省内の風向きが変わりました。米国からの圧力によって、日本はハタミ大統領を招待するような親イラン政策をとるべきでないという空気がしだいに強くなったのです。
 けれども私も官僚として長年仕事をしてきましたので、物事を動かすためのそれなりのノウハウをもっています。そちらを総動員し、なんとかハタミ大統領の訪日にこぎつけました。このときハタミ大統領訪日の一環として、日本はイラクのアザデガン油田の開発権を得ることになったのです。この油田の推定埋蔵量は、260億バレルという世界最大規模を誇ります。非常に大きな経済上、外交上の成果でした。
 しかし、イランと敵対的な関係にあった米国は、
「日本がイランと関係を緊密にするのはけしからん、アザデガン油田の開発に協力するのはやめるべきだ」
 と、さらに圧力をかけてきました。日本側もなんとか圧力をかわそうと努力しましたが、結局最後は開発権を放棄することになりました。
 もし、日本がみずからの国益を中心に考えたとき、アザデガン油田の開発権を放棄するなどという選択は絶対にありえません。エネルギー政策上、のどから手がでるほどほしいものだからです。しかし米国からの圧力は強く、結局日本はこの貴重な権益を放棄させられてしまったのです。その後、日本が放棄したアザデガン油田の開発権は中国が手に入れました。
 私がかつてイランのラフサンジャニ元大統領と話をしたとき、彼が、
「米国は馬鹿だ。日本に圧力をかければ、漁夫の利を得るのは中国とロシアだ。米国と敵対する中国とロシアの立場を強くし、逆に同盟国である日本の立場を弱めてどうするのだ」
 といっていたことがありますが、まさにその予言どおりの展開です。アザデガン油田の開発権という外交上の成功は、結局、米国の圧力に屈したのです。
「なぜ日本はこうも米国の圧力に弱いのだろう」
 この問いは、私の外務省時代を通じて、つねにつきまとった疑問でもありました。

【『戦後史の正体 1945-2012』孫崎享〈まごさき・うける〉(創元社、2012年)】

 アメリカからの圧力は現場で働く官僚にまで及ぶという。もはや属国というレベルを超えている。市町村扱いだ。更にアメリカは圧力を掛けやすくするため首相周辺に権力が集中するよう仕向けているそうだ。

 アメリカに葬られた政治家といえば田中角栄が真っ先に浮かぶ。情報を寄せたアメリカの民間航空会社は司法取引で無罪放免だった。個人的にはロッキード事件を名を売った立花隆や堀田力〈ほった・つとむ〉はアメリカの犬だったと考える。小室直樹が孤軍奮闘して田中角栄を擁護したが刀の切っ先はどこにも届かなかった。

 田中が抹殺された理由は二つある。まず日中国交回復をアメリカに先んじて行ったこと。次にウラン取引に手を出したこと。一国の政治としては何もおかしなところはない。しかしアメリカは縄張りを侵されたと激怒した。我々が信じる資本主義における自由競争は全くの錯覚だ。

 読んでから7年ほど経つので記憶が曖昧だ。孫崎の政治的スタンスもよくわからない。刊行直後はネットやテレビによく登場していたが、その言動はやや思い込みが強く、老人特有の狷介(けんかい)さが滲(にじ)んでいた。ただし佐藤優がけちょんけちょんに貶(けな)していたので読む価値はあると考えてよい。

 まともな軍隊を持たない国は国家として一人前の扱いを受けない。もしも民主政が優れたシステムであれば中小国連合が覇権に対抗し得るはずだ。それが実現しないのは核兵器と金融によって世界がコントロールされているからだ。『沈黙の艦隊』は秀逸な軍事的なアイディアだが、もっと巧妙かつ静穏な長期的戦略でアメリカに対抗することが望ましい。

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