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2017-11-21

国家が堂々と行う詐欺/『国債は買ってはいけない! 誰でも儲かるお金の話』武田邦彦


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲
『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希

 ・国家が堂々と行う詐欺

『平成経済20年史』紺谷典子
・『給料を2倍にするための真・経済入門』武田邦彦
『円の支配者 誰が日本経済を崩壊させたのか』リチャード・A・ヴェルナー

 庶民が国債を100万円買ったとする。そのお金はいくらになって戻ってくるのだろうか?
 この世ではじめて「庶民から見た国債」ということが明らかになるのだから、その結果をすぐには納得できないと思うが、次のような結果になる。
 100万円の国債を1回買うだけなのに庶民は5回にわたってお金を支払い、その合計は実に405万円以上になる。そして、受け取りは200万円になるので、差し引き最低でも205万円のマイナスとなる。
 つまり「100万円の国債を庶民が買ったらマイナス205万円」と覚悟しておかなければならない。それが「庶民から見た国債会計」だ。

【『国債は買ってはいけない! 誰でも儲かるお金の話』武田邦彦(東洋経済新報社、2007年)以下同】

 武田邦彦の近著は文章が酷い。たぶんブログ記事を出版社が編集しているだけなのだろう。わかりやすさを強調して内容が劣る結果となっている。それでも「必読書」に入れたのは経済のインチキ手法を見事に明かしているためだ。上記テキストでも「受け取りは200万円になる」という部分が理解に苦しむ。国債償還分100万円+金利分とインフラ整備や社会保障などによる還元を意味するのだろう。つまり「国民が政府に100万円を貸し出すと、205万円の税負担が増える」ということだ。

 政府に返す気がないのをハッキリさせるのは簡単だ。庶民の代表が政府に行って「まあ、政府にもいろいろな事情はあるだろうが、そろそろ国債を返して下さい」と言えばよい。
 そうすると、思わぬ答えが返ってくる。普通なら「すみません。もう少し待って下さい」と言うだろうがそうではない。政府の高官はすでに次のように発言している。
「赤字国債がたまり国の財政が不安定になったので、消費税を上げて国債の償還に充てたい」
 なかなか素直な発言で、その点では評価できる。でもハッキリと「国債」が借金ではない、だから返さないと言っている。そのカラクリは次のようなものだ。
 まず100万円の国債を国民に売ったとしよう。それは高速道路の建設などに使い切ってしまうのでお金を貸した国民が債権を持ってきて「100万円返して下さい」と言うと、国は「使ってしまいましたので手元にはありません。返しますから100万円を税金として納めて下さい」と答える。
 確かに国はお金を使ってしまったのだから、返せるはずはない。こんな簡単なトリックがまかり通るのは国民が一人ではなく1億2000万人もいるからである。

 トリックを見破るために、まず国民がAさん、Bさんの二人しかいないとしよう。
 政府は、国民Aさんに利率1%で100万円の国債を売り「期限の5年が来たら必ず返します」と約束する。でもこのお金は使ってしまうので、Aさんの国債を返す期限が来ると「税金」という名前でAさんとBさんから利子を含めて半分ずつ取って105万円をAさんに返す。そういう仕組みが国債である。
 明らかに一種のサギであるが、民法には引っかからない。
 なぜなら民法はもともと個人を対象にしているので、Aさんから借りたお金をAさんも含めた関係者一同から取るケースなど現実的にあり得ないので考えてもいないからである。

 吃驚仰天である。なぜこんな簡単な道理を学者や経済評論家、新聞、テレビが明かしてこなかったのか? こうした事実を思えば、やはり安易な気持ちで自民党を支持するのはどうかと思う。まして財務省に操られる政治家など言語道断だ。

 国が行う事業は基本的に利益が出るものは少ない。利益が見込めれば民間がやるわけだし、利益がないからこそ国家が行うのである。とすると赤字国債発行は国家にとって麻薬のような存在となる。まずは増税する前に国の資産を売却するのが筋だろう。

「国民1人当たり830万円詐欺」には気をつけよう - シェイブテイル日記

 国民を騙し続ける財務官僚を罰する法律が必要だ。彼らこそは国家を蝕む獅子身中の虫である。

2015-11-14

田原総一朗×佐藤優×宮崎学「今なぜ"資本論"なのか!? 日本の未来とアベノミクス パート2」


 佐藤優の歴史認識は極めて正確である。特に大東亜戦争の件(くだり)では私が最近、『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』(兵頭二十八〈ひょうどう・にそはち〉、光人社、2007年)で初めて知った歴史的経緯もきちんと踏まえている。佐藤は返す刀で小林よしのりを批判するが、こうした印象付けの巧みさはスパイさながらだ。しかも田原が小林と親しい関係性にあることも知っているのだろう。また一貫して孫崎享〈まごさき・うける〉を小馬鹿にしているが稀に持ち上げることがある。持ち上げることで落差が際立つ。そのあたりも多分計算済みなのだろう。彼の言動がプロパガンダに見えてしまう瞬間である。どうせやるなら正面からきちんと批判すべきだろう。びっくりしたのだが宮崎学の劣化ぶりが酷い。新橋の呑み屋にいるサラリーマン以下に感じた。



資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

2015-05-06

戦争まみれのヨーロッパ史/『戦争と資本主義』ヴェルナー・ゾンバルト


 近代資本主義の始めを考察し、それを誕生させた外的なもろもろの状況を思い浮かべるとき、十字軍の戦いからナポレオン戦争にいたるまでくりひろげられた永遠の係争と戦争に注目しないわけにはいかないであろう。イタリアとスペインの両軍は、中世後期には唯一の軍隊であった。英仏両国は14世紀から15世紀にかけての100年間にわたって戦った。ヨーロッパにおいて戦争がなかった年は、16世紀においては25年間、17世紀においてはただの21年にすぎなかった。したがって、この200年間に戦争があった年は、154年になる。オランダの場合、1568年から1648年までの間、80年が、そして1652年から1713年までの間は、36年が、戦争の年であった。145年のうち116年は、戦争の年であったわけだ。そしてついに、相次ぐ革命戦争の中で、ヨーロッパの民衆は、最終的な巨大な衝撃を体験する。ところで、そのさい戦争と資本主義との間になんらかの関連があるに違いなかったことは、ちょっと考えただけでも、確実だと思われる。

【『戦争と資本主義』ヴェルナー・ゾンバルト:金森誠也〈かなもり・しげなり〉訳(論創社、1996年/講談社学術文庫、2010年)以下同】

 原著刊行は1913年。第一次世界大戦が翌年に始まる。ヨーロッパの歴史は戦争の歴史であった。第1回十字軍(1096–1099)からナポレオン戦争(1803-1815) までは約700年を要する。ゾンバルトが触れているのはヨーロッパ中世盛期から近世に至るまでであるが、それ以前はゲルマン民族の大移動を中心とする民族移動時代で、これまた戦争・紛争の時代といってよい。

 環境史(『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男)では寒冷化を戦争要因として挙げるが、ヨーロッパ史を動かしてきたのはキリスト教であり、宗教戦争の色合いが強い。三十年戦争(1618-1648)が終わるとドイツの人口は「1800万から700万に減ったという」(世界史講義録 第65回 ドイツの混迷・三十年戦争)。

世界の主な戦争及び大規模武力紛争による犠牲者数

 しかし、それでもなおかつ【戦争がなければ、そもそも資本主義は存在しなかった】。戦争は資本主義の組織をたんに破壊し、資本主義の発展をたんに阻んだばかりではない。それと同時に戦争は資本主義の発展を促進した。いやそればかりか――戦争はその発展をはじめて可能にした。それというのも、すべての資本主義が結びついているもっとも重要な条件が、戦争によってはじめて充足されたからである。
 とりわけわたしは、16世紀と18世紀の間にヨーロッパで進行した資本主義的組織の独自の発展の前提となった国家の形成について考えている。とくに説明する必要はないが、近代国家はひたすら軍備によってつくられた。それは近代国家の外面、国境線、またそれに劣らず内部の構成についてもいえることだ。行政、財政は、近代的意味において、戦争という課題を直接果たすことによって発展した。16世紀以降の数世紀においては国家主義、国庫優先主義、軍国主義は、まったく同一であった。なんぴとも熟知しているように、植民地は大勢の人々の血を流した戦闘によって征服され、防衛された。中近東のイタリアの植民地から始まってイギリスの大植民地にいたるまで、植民地は他国民を武力で駆逐することによって獲得された。

 戦争が莫大な需要を喚起した。カネがなければ戦争はできない。そして鉄と弾薬が工業を発展させる。

 間断なき戦争を遂行しながらヨーロッパは魔女狩りを同時に行った。帝国主義以降はアフリカ黒人を奴隷にし、アメリカ大陸でインディアンを大量虐殺する。

 思い切りのよい人殺しを可能にしたのは「正義」という病であった。病気をもたらしたのはもちろんキリスト教だ。「異民族は皆殺しにせよ」と神は命じた(『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』小室直樹)。

 もともとヨーロッパの植民地であった北米は第二次世界大戦を経て世界に君臨し、その後「経済政策としての戦争」を推し進める。戦争はインフラを破壊し(スクラップ)、再構築(ビルド)することで投資と雇用機会を生む。

 ヴェルナー・ゾンバルトマックス・ウェーバーと並び称される経済史家だが明らかに了見が狭い。戦争が資本主義の発達に大きな役割を果たしたことは確かだろうがそれがすべてではない。株式会社は大航海時代から誕生した(『投機学入門 市場経済の「偶然」と「必然」を計算する』山崎和邦)。また経済史という点では三大バブルも見逃せない。更に戦争経済におけるユダヤ資本の影響を考慮する必要があろう(『ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ 影の支配者たちがアジアを狙う』宋鴻兵)。

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2015-02-09

トマ・ピケティ関連動画
















 日本記者クラブの講演に先立ち、会田弘継〈あいだ・ひろつぐ〉が「大変お若い」と紹介しているが、長幼の序を重んじるのは東アジアの文化であり致命的な失言だと思う。

21世紀の資本トマ・ピケティの新・資本論【図解】ピケティ入門 たった21枚の図で『21世紀の資本』は読める!


山形浩生:ピケティ『21世紀の資本』訳者解説 v.1.1 (pdf, 686kb)

2014-10-14

付加価値税(消費税)は物価/『あなたの知らない日本経済のカラクリ 対談 この人に聞きたい!日本経済の憂鬱と再生への道』岩本沙弓


『円高円安でわかる世界のお金の大原則』岩本沙弓
『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓

 ・湖東京至の消費税批判
 ・付加価値税(消費税)は物価

 富岡幸雄(中央大学名誉教授)は中曽根首相が売上税を導入しようと目論んだ時に、体を張って戦った人物。元国税実査官。月刊『文藝春秋』の1987年3月号に寄稿し、三菱商事を筆頭に利益がありながら1円も税金を支払っていない企業100社の名前を列挙し糾弾した。売上税は頓挫した。

岩本●結局8%、10%に消費税が上がると、スタグフレーション(不況でありながら物価上昇が続く状態)にもなりかねません。
 今、円安で物価は上がっているけれど、所得は上がっていません。上がったところで一時金、ボーナスだけで、固定給までは上げようとしていない。

富岡●そのことは、日本の大企業の経営姿勢に問題があると同時に、会社法との関係があります。【会社法は年次改革要望書、つまりアメリカの要求によってできた】もの。だから日本の経営者は会社法の施行後、経営のあり方をアメリカナイズした。短期利益、株主利益中心主義です。利益の配当という制度が剰余金の配当制度に変わり、利益がなくても株主には配当をすることができるのです。

岩本●そのしわ寄せが従業員に来ていますよね。付加価値の配分が歪んでしまって、配当がものすごく多くなる一方で労働への分配が減るという現象が起きています。

【『あなたの知らない日本経済のカラクリ 対談 この人に聞きたい!日本経済の憂鬱と再生への道』岩本沙弓(自由国民社、2014年)以下同】

 年次改革要望書については関岡英之著『拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる』が詳しい。

 流れとしては、日米構造協議(1989年)→年次改革要望書(1994年)→日米経済調和対話(2011年)と変遷しているが、日本改造プログラムであることに変わりはない。非関税障壁を取り除くために日本社会をアメリカナイズすることが目的だ。で、規制緩和をしてもアメリカ製品が日本で売れないため、遂にTPPへと舵を切ったわけだ。多国間の協定となれば拘束力が強くなる。

富岡●繰り返しますが、【付加価値税というのは税金じゃない。物価、物の値段】なの。
 人間は物を買わなければ生きていけないんですから、付加価値税は「生きていること」にかかる税金です。人間と家畜、生きとし生けるものにかかる「空気税」みたいなものです。生きることそれ自体を税の対象物とするのは、あってはならないことです。

岩本●しかし先生、私自身も最初にそう言われてもピンとこなかったように、消費税が物価であるということを一般の国民はなかなか理解できないのではないかと思うんですが。

富岡●単純に考えていいんですよ。だってお腹が空いたら駅の売店でパンを買うでしょう。それが本来1個100円だとしたら、それが105円になる。105円払わないとパンは食えない。それが物価というものです。だから消費税は、消費者を絶対に逃れられない鉄の鎖に縛りつける税金。悪魔の仕組みなんです。

 これはわかりやすい。消費税を間接税と意義づけるところに国税庁の欺瞞がある。

消費税は、たばこ税と同じ「間接税」なのか?法人税と同じ「直接税」なのか?
消費税は間接税なのか

富岡●トランスファープライシング。日本の親会社が海外関連企業と国際取引する価格を調整することで、所得を海外移転することです。
 移転価格操作とタックスヘイブンを結びつけて悪用すれば、税金なんてほとんどゼロにできてしまうテクニックがある。
 簡単に説明するとね、日本にAというメーカーがあるとします。A社は税金の安いカリブ海などのタックスヘイブンに海外子会社Bをつくって、そのB社に普通よりも安い値段――たとえば本来の卸価格が80円だとすれば、70円などで売る。そしてB社はアメリカにあるもうひとつの子会社である販売会社のC社に100円で売る。実際にアメリカで売るのはC社です。
 これをすることで、日本にあるA社は利益を減らすけれど、タックスヘイブンにあるB社に利益が集中する。要するに、会社を3つつくれば、税金なんてすぐなくなっちゃうの。

 タックスヘイブン(租税回避地)に関しては次の3冊がオススメ。

マネーロンダリング入門 国際金融詐欺からテロ資金まで』橘玲
タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻
タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』ニコラス・シャクソン

 ただしマネーロンダリングについてはアメリカが法的規制をしたため、ブラックマネーと判断されれば米国内の銀行口座は凍結され、彼らと取引のある金融機関も米国内での業務を停止させられる。こうなるとドル決済の取引がほぼ不可能となる。

 大局的な歴史観に立てば、やはりサブプライム・ショック(2007年)~リーマン・ショック(2008年)で金融をメインとする資本主義は衰亡へと向かいつつある。既に新自由主義は旗を下ろし、国家による保護主義が台頭している。

 不公平な税制が改善される見込みはない。どうせなら全部直接税にしてはどうか? 正しい税制が敷かれていれば、税金を支払うことに企業や国民は誇りを抱くはずだ。

 尚、湖東同様、富岡の近著『税金を払わない巨大企業』に対する批判も多いので一つだけ紹介しよう。

巨大企業も税金を払っています。 - すらすら日記。Ver2

あなたの知らない日本経済のカラクリ---〔対談〕この人に聞きたい! 日本経済の憂鬱と再生への道筋

2014-10-13

湖東京至の消費税批判/『あなたの知らない日本経済のカラクリ 対談 この人に聞きたい!日本経済の憂鬱と再生への道』岩本沙弓


『円高円安でわかる世界のお金の大原則』岩本沙弓
『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓(2010年)

 ・湖東京至の消費税批判
 ・付加価値税(消費税)は物価

『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹
消費税が国民を殺す/『消費税のカラクリ』斎藤貴男
消費税率を上げても税収は増えない
【日本の税収】は、消費税を3%から5%に上げた平成9年以降、減収の一途

 湖東京至〈ことう・きょうじ〉は静岡大学人文学部法学科教授、関東学院大学法学部教授、関東学院大学法科大学院教授を務め現在は税理士。輸出戻し税を「還付金」と指摘したことで広く知られるようになった。岩本は既に『バブルの死角 日本人が損するカラクリ』(2013年)で湖東と同じ主張をしているので何らかのつながりはあったのだろう。更に消費税をテーマにした『アメリカは日本の消費税を許さない 通貨戦争で読み解く世界経済』(2014年)を著している。

 私にとっては一筋縄ではゆかない問題のため、湖東の主張と批判を併せて紹介するにとどめる。

湖東●私が写しを持っているのは2010年度版なのでちょっと古いのですが、これを見るとたしかに10年度時点で日本国の「負債」は1000兆円弱、国債発行高は752兆円あります。しかし一方で日本には「資産」もあります。これは預金のほか株や出資金、国有地などの固定資産などさまざまなものがありますが、この合計額が1073兆円あるのです。しかもこの年は正味財産(資産としての積極財産と、負債としての消費財産との差額)がプラス36兆円あるんですね。だから借金大国ではなくて、ひと様からお金を借りて株を買っている状態。そういう国ですから、ゆとりがあると言えばある。

【『あなたの知らない日本経済のカラクリ 対談 この人に聞きたい!日本経済の憂鬱と再生への道』岩本沙弓(自由国民社、2014年)】
 国債発行額は1947年(昭和22年)~1964年(昭和39年)まではゼロ。大まかな推移は以下の通りだ。

     1965年 1972億円
     1966年 6656億円
     1971年 1兆1871億円
     1975年 5兆6961億円
     1978年 11兆3066億円
     1985年 21兆2653億円
     1998年 76兆4310億円
     2001年 133兆2127億円
     2005年 165兆379億円
     2014年 181兆5388億円

国債発行額の推移(実績ベース)」(PDF)を参照した。湖東のデータが何を元にしているのかわからない。Wikipediaの「国債残高の推移」を見ると2010年の国債残高は900兆円弱となっている。

「実績ベース」があるなら「名目ベース」もありそうなものだが見つけられず。以下のデータでは昭和30~39年も発行されている。

国債残高税収比率

 まあ、こんな感じでとにかく税金のことはわかりにくいし、政府や官僚は意図的にわかりにくくしていると考えざるを得ない。響堂雪乃〈きょうどう・ゆきの〉は「国家予算とはすなわちブラックボックスであり、我々のイデオロギーとは旧ソビエトを凌ぐ官僚統制主義に他なりません」と指摘する(『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』)。

 日本以外では「付加価値税」という税を、なぜか日本だけが「消費税」と命名している。直訳すれば世界で通用せず、反対に別の税だと受け止められると湖東は指摘する。

 以下要約――付加価値税という税を最初に考えたのはアメリカのカール・シャウプであるとされる。「シャウプ勧告」のシャウプだ。アメリカではいったん成立したものの1954年に廃案となる。フランスはこれを「間接税」だと無理矢理定義して導入した。日本やドイツに押されて輸出を伸ばすことができなかったフランスは輸出企業に対して補助金で保護してきた。しかし1948年に締結されたGATT(関税および貿易に関する一般協定)で輸出企業に対する補助金が禁じられる。

湖東●そこでフランスがルールの盲点を突くような形で考えたのが、本来直接税である付加価値税を間接税に仕立て上げて導入することでした。税を転嫁できないことが明らかな輸出品は免税とし、仕入段階でかかったとされる税金に対しては、後で国が戻してやる。その「還付金」を、事実上の補助金にするという方法を思いついたのです。

岩本●ほとんど知られていないことだと思いますが、消費税には輸出企業だけが受け取れる「還付金」という制度がある、ということですね。

湖東●あるんです。たとえばここに年間売上が1000億円の企業があり、さらにこの1000億円の売上高のうち500億円が国内販売で、500億円が輸出販売。これに対する仕入が国内分と輸出分を合わせて800億円だったとします。
 このモデルケースでは、国内販売に対してかかる消費税は500億円×5%で25億円であるのに対し、輸出販売にかかる消費税は500億円×0でゼロ。したがって全売上にかかる消費税は、国内販売分の25億円だけです。
 一方で控除できる消費税は年間仕入額の800億円×5%で40億円になりますから、差し引き15億円のマイナスになります。これが税務署から輸出企業に還付されるのです。
 私の調査では、日本全体で毎年3兆円ほどが還付されています。

岩本●仮にその会社の販売比率が、国内3に対し輸出7だとすれば、消費税は300億円×5%で15億円。還付される額は25億円になりますから、売上に締める輸出販売の割合が高ければ高いほど還付金が増える仕組みですね。

湖東●そうです。ですから日本の巨大輸出企業を見るとほとんどが多額の還付金を受け取っており、消費税を1円も納めていません。

 これが問題だ。国税庁は「消費税とは、消費一般に広く公平に課税する間接税です」と定義している(「消費税はどんな仕組み?」PDF)。間接税であれば事業者負担はない。これに対して湖東は中小企業が消費税分を価格に上乗せすることができないケースや、大企業が中小企業に消費税分を値引きさせるケースを挙げている。こうなるとお手上げだ。ってなわけで以下に湖東批判を引用する。

 消費税はすべて消費者に転嫁されるので、実は税率がいくらであっても、企業の付加価値は変わらない。(中略)企業は、受け取った消費税分から支払った消費税分を引いた金額を納税(マイナスになれば還付)するため、還付されたからといって収益に変化はない。(高橋洋一:「輸出戻し税は大企業の恩恵」の嘘 消費増税論議の障害になる

 しかし、それと輸出免税還付金とは別のハナシであります。なんとなれば、トヨタの値引き圧力にあらがうことができずに、60万円で売りたいところ50万円にしなさいという圧力に涙を呑んで受け入れても、実務的には消費税は伝票に記入せざるをえません。(雑想庵の破れた障子:消費税の問題点とされる “輸出戻し税” について考える(4)無理を承知の上で、あえて主張している…。

消費税の問題点とされる “輸出戻し税” について考える(その1)消費税額の2割強が還付されている。
消費税の問題点とされる “輸出戻し税” について考える(その2)豊田税務署は “TOYOTA税務署” なのか?
消費税の問題点とされる “輸出戻し税” について考える(3)直感的に正しく見えることは、必ずしも真ならず。
消費税の問題点とされる “輸出戻し税” について考える(5)消費税の増税は、逆に税収を減らす…。

 以下のまとめもわかりやすい。

「輸出戻し税」で本当に大企業はボロ儲けなの?(仮) - Togetterまとめ

 こうして考えると、湖東の分が悪いように思う。次回は富岡幸雄(中央大学名誉教授)との対談を紹介する予定だ。

あなたの知らない日本経済のカラクリ---〔対談〕この人に聞きたい! 日本経済の憂鬱と再生への道筋

2014-09-26

新自由主義に異を唱えた男/『自動車の社会的費用』宇沢弘文


『記者の窓から 1 大きい車どけてちょうだい』読売新聞大阪社会部〔窓〕
『交通事故鑑定人 鑑定暦五〇年・駒沢幹也の事件ファイル』柳原三佳

 ・行間に揺らめく怒りの焔
 ・新自由主義に異を唱えた男

『交通事故学』石田敏郎
『「水素社会」はなぜ問題か 究極のエネルギーの現実』小澤詳司

必読書リスト その二

 かつて、東京、大阪などの大都市で路面電車網が隅々まで行きわたっていたころ、いかに安定的な交通手段を提供していたか、想い起こしていただきたい。子どもも老人も路面電車を利用することによって自由に行動でき、街全体に一つの安定感がみなぎる。たとえ、道路が多少非効率的に使用されることになっても、また人件費などの費用が多くなったとしても、路面電車が中心となっているような都市が、文化的にも、社会的にもきわめて望ましいものであることを考え直してみる必要があるであろう。この点にかんして、西ドイツの都市の多くについて見られるように、路面電車の軌道を専用とし、自動車用のレーンとのあいだに灌木を植えて隔離し、適切な間隔を置いて歩行者用の横断歩道を設けているのは、大いに学ぶべきであろう。

【『自動車の社会的費用』宇沢弘文〈うざわ・ひろぶみ〉(岩波新書、1974年)以下同】

 宇沢弘文が亡くなった。新自由主義の総本山シカゴ大学で経済学教授を務めながら、猛然とミルトン・フリードマン(『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン)に異を唱えた人物だ。

 本書は教科書本である。興味があろうとなかろうと誰が読んでも勉強になる。何にも増して学問というものがどのように社会に関わることができるかを示している。宇沢は日本社会が公害に蝕まれた真っ只中で自動車問題にアプローチした。

 高度成長がモータリゼーションを生んだ。だが政治は高速道路をつくることに関心が傾き、狭い道路をクルマが我が物顔で走り、人間は押しのけられていた。私が子供の時分であり、よく覚えている。

 自動車を極端に減らすことは難しい。さりとて道路行政も向上しない。そして人々は移動する必要がある。そこで宇沢が示したのは路面電車であった。眼から鱗が落ちた。何と言っても小回りが効くし公害も少ない。更に事故も少ないことだろう。現在、Googleなどが自動運転のクルマを開発しているが、むしろ路面電車の方が自動運転はしやすいのではあるまいか?

 そして、いたるところに横断歩道橋と称するものが設置されていて、高い、急な階段を上り下りしなければ横断できないようになっている。この横断歩道橋ほど日本の社会の貧困、俗悪さ、非人間性を象徴したものはないであろう。自動車を効率的に通行させるということを主な目的として街路の設定がおこなわれ、歩行者が自由に安全に歩くことができるということはまったく無視されている。この長い、急な階段を老人、幼児、身体障害者がどのようにして上り下りできるのであろうか。横断歩道橋の設計者たちは老人、幼児は道を歩く必要はないという想定のもとにこのような設計をしたのであろうか。わたくしは、横断歩道橋渡るたびに、その設計者の非人間性と俗悪さとをおもい、このような人々が日本の道路も設計をし、管理をしていることをおもい、一緒の恐怖感すらもつものである。

 今となっては歩道橋もあまり利用されていない。私なんかは既に10年以上渡った記憶がない。結局、経済成長を優先した結果、人が住みにくい環境になってしまった。戦後だけでも50万もの人々が交通事故で死亡している(戦後50万人を超えた交通事故死者)。この数字は原爆の死亡者(広島14万人長崎7.4万人)に東京大空襲の死亡者(10万人超)を足した数より多いのだ。まさに「交通戦争」と呼ぶのが相応しいだろう。

 宇沢の声が政治家の耳に届いたとはとても思えない。交通事故の死亡者数が1万人を割ったのも最近のことだ。しかもその数字は24時間以内のものに限られている。碩学(せきがく)は逝った。だがその信念の叫びは心ある学徒の胸を震わせ、長い余韻を響かせることだろう。

2014-07-25

資本主義のメカニズムと近代史を一望できる良書/『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫


『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻

 ・資本主義のメカニズムと近代史を一望できる良書

『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫
『自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠』柿埜真吾
『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ
『ペトロダラー戦争 イラク戦争の秘密、そしてドルとエネルギーの未来』ウィリアム・R・クラーク
『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』佐藤航陽

必読書リスト その二

 キリスト教の記述がしっかりしており、資本主義のメカニズと近代史を一望できる良書だ。『超マクロ展望 世界経済の真実』では控え目だった水野が本気を出すとこうなるのね。いやはや、ぶったまげたよ。

 近代とは経済的に見れば、成長と同義です。資本主義は「成長」をもっとも効率的におこなうシステムですが、その環境や基盤を近代国家が整えていったのです。
 私が資本主義の終焉(しゅうえん)を指摘することで警鐘を鳴らしたいのは、こうした「成長教」にしがみつき続けることが、かえって大勢の人々を不幸にしてしまい、その結果、近代国家の基盤を危うくさせてしまうからです。
 もはや利潤をあげる空間がないところで無理やり利潤を追求すれば、そのしわ寄せは格差や貧困という形をとって弱者に集中します。そして本書を通じて説明するように、現代の弱者は、圧倒的多数の中間層が没落する形となって現れるのです。

【『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫(集英社新書、2014年)以下同】

 先進国が金融緩和をし続けているにも関わらず格差が進行するのは富の極端な集中によるものだ。川の水が海を目指すように、富は富者の口座に滞留する。海水は日光によって蒸発し雲となるが、富裕層の富が蒸発することはない。既にトリクルダウン理論も崩壊した。おこぼれが経済を押し上げることはなかった。

 日本の10年国債利回りは、400年ぶりにそのジェノヴァの記録を更新し、2.0%以下という超低金利が20年近く続いています。経済史上、極めて異常な状態に突入しているのです。
 なぜ、利子率の低下がそれほどまでに重大事件なのかと言えば、金利はすなわち、資本利潤率とほぼ同じだと言えるからです。資本を投下し、利潤を得て資本を自己増殖させることが資本主義の基本的な性質なのですから、利潤率が極端に低いということは、すでに資本主義が資本主義として機能していないという兆候です。

 2%程度だとインフレ率を上回らない。つまり国債購入者は損をする羽目になる。それでも尚、安全を求めるマネーは国債購入へ向かう。確かに金利=資本利潤率と考えれば行き場を失ったマネーの姿が見えてくる。

 利子率=利潤率が2%を下回れば、資本側が得るものはほぼゼロです。そうした超低金利が10年を超えて続くと、既存の経済・社会システムはもはや維持できません。これこそが「利子率革命」が「革命」たるゆえんです。

 金利はマネーの需要を示すわけだから、当然、実体経済において企業は設備投資を控える。リターンなき投資世界が現れたと考えてよい。

 では、この異常なまでの利潤率の低下がいつごろから始まったのか。
 私はその始まりを1974年だと考えています。図2のように、この年、イギリスと日本の10年国債利回りがピークとなり、1981年にはアメリカ10年国債利回りがピークをつけました。それ以降、先進国の利子率は趨勢的(すうせいてき)に下落していきます。
 1970年代には、1973年、79年のオイル・ショック、そして75年のヴェトナム戦争終結がありました。
 これらの出来事は、「もっと先へ」と「エネルギーコストの不変性」という近代資本主義の大前提のふたつが成立しなくなったことを意味しているのです。
「もっと先へ」を目指すのは空間を拡大するためです。空間を拡大し続けることが、近代資本主義には必須の条件です。アメリカがヴェトナム戦争に勝てなかったことは、「地理的・物理的空間」を拡大することが不可能になったことを象徴的に表しています。
 そして、イランのホメイニ革命などの資源ナショナリズムの勃興(ぼっこう)とオイル・ショックによって、「エネルギーコストの不変性」も崩れていきました。つまり、先進国がエネルギーや食糧などの資源を安く買い叩くことが70年代からは不可能になったのです。


 そんなに前だったとはね。で、アメリカはというと、水野によれば「電子・金融空間」を開拓した。15世紀半ばから始まった大航海時代の終焉だ。

フロンティア・スピリットと植民地獲得競争の共通点/『砂の文明・石の文明・泥の文明』松本健一

 原油価格の長期的な価格変動はWikipediaのチャートがわかりやすい。今からだと信じ難い話だがオイルショック前の原油価格は1バレル=2~3ドルであった(※現在は100ドル強)。

 私が経済書を読むようになったのは40代からのこと。出来るだけ若いうちから学んだ方がよい。金融・経済の仕組みを理解しなければ、自分が奪われている事実にすら気づかないからだ。

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)
水野 和夫
集英社 (2014-03-14)
売り上げランキング: 9,154

2014-07-24

借金人間(ホモ・デビトル)の誕生/『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート


「腐敗した銀行制度」カナダ12歳の少女による講演
30分で判る 経済の仕組み
「Money As Debt」(負債としてのお金)
『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康
『マネーの正体 金融資産を守るためにわれわれが知っておくべきこと』吉田繁治

 ・借金人間(ホモ・デビトル)の誕生

『紙の約束 マネー、債務、新世界秩序』フィリップ・コガン
『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫

必読書リスト その二

「負債は、支払い終えることのできない債務者と、汲めどもつきぬ利益を得つづける債権者という関係となる」(ニーチェ)
 人類の歴史において〈負債〉とは、太古の社会では「有限」なるものであったが、キリスト教の発生によって「無限」なるものへと移行し、さらに資本主義の登場によってけっして完済することのない〈借金人間〉が創り上げられたのである。

【『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート:杉村昌昭訳(作品社、2012年)以下同】

 富の源泉は負債である。実に恐ろしいことだ。現代社会において経済に無知な者はいかなる形であれ必ず殺される。少しずつ。

 この主題の核心にある“債権者/債務者”関係は、搾取と支配のメカニズムやさまざまな関係性を横断して強化する。なぜならこの関係は、労働者/失業者、消費者/生産者、就業者/非就業者、年金生活者/生活保護の受給者などの間に、いかなる区別も設けないからである。すべての人が〈債務者〉であり、資本に対して責任があり負い目があるのであって、資本はゆるぎなき債権者、普遍的な債権者として立ち現れる。新自由主義の主要な政治的試金石は、現在の“危機”がまぎれもなく露わにしているように、今も“所有”の問題である。なぜなら“債権者/債務者”関係は、資本の“所有者”と“非所有者”の間の力関係を表現しているからである。
 公的債務を通して、社会全体が債務を負っている。しかし、そのことは逆に【不平等】を激化させることになり、その不平等は、いまや「階級の相違」と形容してもいいほどのものになっている。

 借金がないからといって胸を撫で下ろしてはいけない。税という名目で我々全員に債務が押しつけられているのだ。収奪された税金は富める場所を目指してばら撒かれる。

 もしも完璧な政府が生まれ、完璧な税制を行えば、支払った税金は100%戻ってくるはずだ。否、乗数効果を踏まえれば増えて戻ってくるのが当然である。

政府が100万円支出を増やせば、GDPが233万円増えるということになる/『国債を刷れ! 「国の借金は税金で返せ」のウソ』廣宮孝信
乗数効果とは何だろうか:島倉原

 国家や地方の予算で潤っている連中が存在する。それを炙(あぶ)り出すのがジャーナリズムの仕事であろう。天下り法人についても追求が甘すぎる。

官僚機構による社会資本の寡占/『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃

 日銀によるドル円の為替介入もアメリカに対する日本からの資金提供と見ることができる。利益が出ているにもかかわらず、東日本大震災の被災者を支援するために使われなかった。つまり利益を確定することができないのだろう。意外と知られていない事実だが、アメリカの不動産バブルを全面的に押し上げたのもゼロ金利のジャパンマネーであった。

 相次ぐ金融危機は、すでに出現していた【ある主体の姿】を荒々しく浮かび上がらせたが、それは以後、公共空間の全体を覆うことになる。すなわち〈借金人間〉(ホモ・デビトル)という相貌である。新自由主義は、われわれ全員が株主、われわれ全員が所有者、全員が企業家といった主体の実現を約束したのだが、それは結局、われわれをアッという間に、「自らの経済的な運命に全責任を負う」という原罪を背負わされた〈借金人間〉(ホモ・デビトル)という実存的状況に落とし入れた。

〈借金人間〉(ホモ・デビトル)――恐ろしい言葉だ。資本主義は遂にホモ属の定義をも変えたのだ。間もなくDNAも書き換えられることだろう。人類は生存率を高めるために、その多くを働き蜂や働き蟻のように生きることを指示し、一握りの女王蜂や女王蟻のみが自由を享受する社会が出現しつつある。

 カネが人を狂わせる、のではない。カネは人類をも狂わせるのだ。資本主義は有限なるものを奪い尽くす。エネルギーや食糧が不足した時、人類は滅びる運命にある。今からでも遅くないから、火の熾(おこ)し方や食べられる植物の見分け方を身につけておくべきだろう。



信用創造の正体は借金/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎

2014-07-05

近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しない/『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃


・『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃

 ・近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しない

 この社会は「文明の衝突」に直面しているのかもしれない。国家の様態は清朝末期の中国に等しく、外国人投資家によって過半数株式を制圧された経済市場とは租界のようなものだろう。つまり外国人の口利きである「買弁」が最も金になるのであり、政策は市場取引されているのであり、すでに政治と背徳は同義に他ならない。
 TPPの正当性が喧伝されているが、近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しないのであり、70年代からフリードマン(市場原理主義者)理論の実験場となった南米やアジア各国はいずれも経済破綻に陥り、壮絶な格差と貧困が蔓延し、いまだに後遺症として財政危機を繰り返している。
 今回の執筆にあたっては、グローバル資本による世界支配をテーマに現象の考察を試みたのだが、彼らのスキームは極めてシンプルだ。
 傀儡政権を樹立し、民営化、労働者の非正規化、関税撤廃、資本の自由化の推進によって多国籍企業の支配を絶対化させる。あるいは財政破綻に陥ったところでIMFや世界銀行が乗り込み、融資条件として公共資源の供出を迫るという手法だ。それは他国の出来事ではなく、この社会もまた同じ抑圧の体系に与(くみ)している。
 我々の錯誤とは内在本質への無理解なのだけれども、おおよそ西洋文明において略奪とは国営ビジネスであり、エリート層の特権であるわけだ。除法平価の軍隊がカリブ海でスペインの金塊輸送船を襲撃し、中国の民衆にアヘンを売りつけ、インドの綿製品市場を絶対化するため機織職人の手首を切り落とし、リヴァプールが奴隷貿易で栄えたことは公然だろう。
 グローバリズムという言葉は極めて抽象的なのだが、つまるところ16世紀から連綿と続く対外膨張エリートの有色人種支配に他ならない。この論理において我々非白人は人間とはみなされていないのであり、アステカやインカのインディオと同じく侵略地の労働資源に過ぎないわけだ。
 外国人投資家の利益を最大化するため労働法が改正され、労働者の約40%近くが使い捨ての非正規労働者となり、年間30兆円規模の賃金が不当に搾取されているのだから、この国の労働市場もコロンブス統治下のエスパニョーラ島と大差ないだろう。

【『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃〈きょうどう・ゆきの〉(三五館、2013年)】

 前著と比べるとパワー不足だが、言葉の切れ味とアジテーションは衰えていない。テレビや新聞の報道では窺い知るのことのできない支配構造を読み解く。ナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』の後塵を拝する格好となったが説明能力は決して劣っていない。

 興味深い210の言葉を紹介しているが、人名やタイトルだけで出典が曖昧なのは三五館の怠慢だ。ともすると悲観論に傾きすぎているように感じるが、警世の書と受け止めて自分の頭で考え抜くことが求められる。元々ブログから生まれた書籍ゆえ、この価格で著者に責任を押しつけるのはそれこそ読者の無責任というべきだ。

 一気に読むのではなくして、トイレにおいて少しずつ辞書を開くように楽しむのがよい。前著は既に絶版となっている。3.11後の日本を考えるヒントが豊富で、単なる陰謀モノではない。

略奪者のロジック
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響堂 雪乃
三五館
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アメリカに「対外貿易」は存在しない/『ボーダレス・ワールド』大前研一

2014-06-12

ドル基軸通貨体制とは/『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓


『円高円安でわかる世界のお金の大原則』岩本沙弓

 ・大英帝国の没落と金本位制
 ・日本の資産がアメリカに奪われる理由
 ・ドル基軸通貨体制とは

『あなたの知らない日本経済のカラクリ 対談 この人に聞きたい!日本経済の憂鬱と再生への道』岩本沙弓

 日本人の我々にとって外国為替が米ドルに対して何円、という表示に違和感を覚える方はいないだろう。為替の中心となるのはあくまでも米ドル、調整するのは我々円の方、長年それで通してきたゆえ、習慣として身についてしまっているからだ。しかし、実は当たり前にしてきたこのドル中心の現在の為替システムというのは、実は非常に偏った通貨システムである。町中のお店、デパート、スーパーマーケット、通常であればモノを売る側がモノの値段をつけている。それに従えば、為替市場でもモノを作って売る側の通貨に合わせるほう(ママ)が自然ではなかろうか。
 仮に、モノを買う側の米国が日本円で支払いをしていたらどうなるか。まず日本製の車を買うために米国人が外国為替市場で手持ちのドルを円に替えるので、日本製品の需要があればあるほど為替市場ではドル売り・円買いが発生し、ドル安となる。極論だが、プラザ合意でみたような為替介入などの人為的操作をしなくてもドル安の状況が生まれ、輸入品に対する米国国内産業の競争力が出てくることになり、輸入品と国内製品との均衡点が為替レートに反映されたはずだ。
 日本のメーカーとしては実際に車を売る、家電を売る市場が米国ならば、顧客の使用する米国ドルに合わせて商売をするべき。なるほど、それも一理ある。事実、今でも日本の輸出企業の多くが円ではなく外貨ベースで決済を行っているのもそのためだ。
 であるならば、我々日本人が買い手に回った場合はどうであろう? 牛肉やオレンジ、小麦を米国から買う場合、はたして消費者である我々に合わせて円で彼らは売ってくれるだろうか? 最近では企業によっては円ベースで取引をする場合も増えてきたものの、基本的には買う側の我々が円を売ってドルを調達し、そのドルを使って購入する、モノを買う場合でも相手が提示するドル価格に合わせてこちらが調整役に回っている。
 これは何も日本だけではない。小麦やトウモロコシなどの農産物、そして為替や金利の先物取引をはじめとしてデリバティブ商品が上場されているシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)は今や世界最大の取引所である。ここでの取引に使用されるのは全てドル建てなのである。為替の先物取引で日本円を取引しようが、ユーロを取引しようが、差額決済はドルで行うのだ。例えば商品価格の高騰で市場がにぎわいを見せれば商品決済がドルで行われるため、ドルの需要が増えるのである。重要なのはモノでもサービスでも米ドル表示であるということである。米国がモノを作らなくてもドル買い需要を喚起できるシステムが成立しているのである。
 日本人がモノを買うにしても、売るにしても値段がドル表示となっている限り、通貨の変動リスクは輸出入いずれの場合も日本サイドが持つことになる。このような非常に偏った通貨制度のもとで我々は経済活動を行っていると認識する機会もないままこれまで過ごしてきたわけだが、我々が気づかなったところに、米国にとって基軸通貨国としての最大のメリットがある。これこそが米国の力の源泉である。

【『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓〈いわもと・さゆみ〉(文春新書、2010年)】

 たまげた。供給サイドに合わせれば為替は自然調整されるというのだ。つまり為替レートは実需に応じて動くわけだ。現在でも実需筋の動向がマーケットを動かすという指摘もある。

為替の価格変動要因/『矢口新の相場力アップドリル【為替編】』矢口新
貿易黒字は円高トレンドを示す

 矢口新〈やぐち・あらた〉は名著『実践 生き残りのディーリング 変わりゆく市場に適応するための100のアプローチ』にも書いている。差金決済を目的とした日計り(デイトレード)と異なり、実需筋のポジションは反対売買(決済)されない。つまりそのポジションは消える。為替相場はゼロサムゲームなので通常は10人の買いと10人の売り(※本当は人数ではなくポジション数)が存在する。買い(ロング)のうち二人が実需筋と仮定しよう。彼らはマーケットで決済しないため、実態としては8人の買いとなる。買い持ち全員が決済しても、売りが二人残るわけだから価格には下落圧力が掛かる。

 消えたポジションは侮ることができない。価格圧力は永遠にのし掛かる。実需筋のポジションが相殺してどちらに傾いているかは貿易収支に現れる。だが金融経済のマネーが既にGDPの4倍にまで膨れ上がっている現在、実需筋よりも投機マネーの影響力が圧倒的に大きい。


 岩本沙弓が単純な理屈で突いてるのはドル基軸通貨体制の矛盾である。なぜ石油や武器を中心に商品先物(コモディティ)に至るまでドルで決済する必要があるのか? 確かに第二次世界大戦後はドルしか信用に値する通貨はなかった。半世紀以上を経た現在、ユーロやポンドおよび円、豪ドル、カナダドルは十分世界で通用するはずだ。

 リーマン・ショックでドルの信用は揺らいだ。実際に米国内でゴールドによる支払いが一部で認められたほどである。IMFは日本の財政赤字に茶々を入れてくるが、世界最大の赤字国はアメリカであり、限りなく印刷され続けてきたドルがただの紙くずになる日もそう遠いことではあるまい。

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『史上最大の株価急騰がやってくる!』増田俊男
『日本経済大好況目前!』増田俊男
エンロン破綻という経済戦略/『大相場、目前!! これから株神話が始まる!』増田俊男

2014-06-10

日本の資産がアメリカに奪われる理由/『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓


『円高円安でわかる世界のお金の大原則』岩本沙弓

大英帝国の没落と金本位制
・日本の資産がアメリカに奪われる理由
ドル基軸通貨体制とは

 もう少し踏み込んで考えてみよう。モノを購入する際の各国のお金の出入りを考える世界の貿易収支というものは、そもそもはゼロサムである。自国製品を売った代金が入ってくることで、ある国の終始がプラスになったということは、モノを買った国では支払いが生じるためマイナスとなる。つまり、世界全体のトータルでみればプラス・マイナス・ゼロである。
 米国の大量消費の体質に便乗して、日本が対米輸出によって経済成長を謳歌してきた経緯は戦後ずっと続いたわけで、日本の経常収支がプラスになる分、米国の対日貿易赤字も同様に増え続けたということになる。
 極論ではあるが、1980年台に取り沙汰された問題は(そして今でも問題とされるのに変わりはないのだが)、米国の貿易赤字の増加ということ以上に、本質的な問題は貿易赤字の米国に黒字国の日本から資金還流せよという点だったといえよう。
 日本が製品を作り、米国が消費する。お金を受け取るだけの日本と支払うだけの米国、これでは日本の方に一方的にお金が溜まっていってしまう。一時的に日本経済自体は資金が滞留して潤うかもしれないが、米国が大量消費をしてくれればこその日本。消費に回す資金が米国で枯渇すれば、買い手不在となる日本の経済は遅かれ早かれダメージを受ける。1970年代、モノを作ることを早々に放棄して、消費大国の借金体質となった米国にしてみると、世界のモノを自分たちが消費すればこそ世界経済は回っているという自負心がある。ちなみに、外務省が発表する主要経済指標によれば2008年の世界の名目GDPを見ると、1位は米国の14兆2043億ドル。全世界のGDPの23.4%を占めており、現在でも圧倒的なシェアである。欧州圏としては30.2%、アジア圏としては22.0%と対抗できるものの、国単位でみれば、今でも世界経済の頼みの綱は米国なのである。
 我々のところにお金が入ってこなければあなたたちの作ったモノは買えなくなる。それでよろしいのですか? と米国から日本が突きつけられたのがプラザ合意であり、対米輸出に依存してきた日本は、たとえ為替レートの変動する方向が自国の輸出にとってマイナスでも、合意について首を縦に振らざるを得ないというのが実情だったろう。
 そして、プラザ合意のもとで、為替市場でドルが十分売られた状況となれば、今度は日本の輸出産業保護の名目で日銀がドル買い介入を実施する大義名分が整う。日本国として購入したドルを米国債の買い入れの資金に回せば米国側に日本の資金を還流させることができる。

【『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓〈いわもと・さゆみ〉(文春新書、2010年)】


(プラザホテル、以下同)

 1985年9月22日、ニューヨークのプラザホテルでG5(先進5か国蔵相・中央銀行総裁会議)による為替レート安定化の合意がなされた。ホテルの名をとってプラザ合意と呼ばれる。ドル安誘導が合意されたわけだが、「アメリカの対日貿易赤字が顕著であったため、 実質的に円高ドル安に誘導する内容であった」(Wikipedia)。つまり日本が狙い撃ちにされたわけだ。ドル円レートは235円から20円下落し、1年後には150円台で取引されるようになった。これだけで対日貿易赤字は63.8%に圧縮される。そして日本の対米貿易黒字も同じく圧縮される。これが為替マジック。

 関税を無視すれば日本の消費者にとって米国製品は安くなるのでお買い得。一方、アメリカ人の場合は日本製品の値上げを意味する。

 岩本沙弓はこれを「アメリカの借金棒引きシステム」と喝破した。



 すなわちプラザ合意とは、アメリカが日本に対して235円の借金を150円に下げさせた歴史なのだ。その後日本経済はバブル景気へ向かう。三菱地所が2200億円でロックフェラー・センターを購入し、安田火災海上保険(現在は損保ジャパン)が58億円でゴッホのひまわりを落札した。日本の不動産は上昇の一途を遂げ、東京山手線の内側の土地価格でアメリカ全土を買えるまでに至った。


 日銀の為替介入で買われたドルは米国債購入に当てられる。しかも為替介入の原資となっているのは国民の資産なのだ。財務省~日銀は国民の与(あずか)り知らぬところで数兆円規模のカネを勝手に使っている。これについては日を改めて書こう。

 大きすぎる嘘は見えない。アメリカが「オレ、オレ……」と電話をしてくれば、スワ一大事とばかりに振り込むのが日本なのだ。「日本はアメリカの財布」といわれる所以(ゆえん)もここにある。

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2014-06-08

大英帝国の没落と金本位制/『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓


『円高円安でわかる世界のお金の大原則』岩本沙弓

 ・大英帝国の没落と金本位制
 ・日本の資産がアメリカに奪われる理由
 ・ドル基軸通貨体制とは

『あなたの知らない日本経済のカラクリ 対談 この人に聞きたい!日本経済の憂鬱と再生への道』岩本沙弓

 自然界の中で、弱者であるシマウマと強者であるライオンの数を見た場合、シマウマの数の方が圧倒的に多い。つまり、ライオンとシマウマのこの数の差が存在すればこそ、食物連鎖を維持できるわけである。
 では、獲物となるシマウマの数が少ないとどうなるのか? 弱者が絶滅するまで強者の側が食べ尽くすようなことをすると、均衡を保っていた食物連鎖が崩れ、結局のところは強者も共倒れとなってしまう。これが自然界の掟である。
 現代金融において、強者はこの自然の論理をよく理解している。彼らは、金融・経済活動の中での弱者の数が減りすぎないように「生かさず殺さず」を心がけているようなものだ。上前を撥ねる相手がいなくなれば、自分の稼ぎもなくなる。これがいわば、金融界の掟である。

【『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓〈いわもと・さゆみ〉(文春新書、2010年)以下同】

 岩本沙弓の名前を知ったのは金融機関のレポートであった。テクニカル分析に関する指摘に目を瞠(みは)った。それもそのはずで彼女は米系銀行の為替ディーラーを務めた人物であった。今私が最も注目する一人だ。タイトルは吉川元忠著『マネー敗戦』に由来。

 岩本はまず姿勢がよい。真っ直ぐで嘘がない。どの著作を開いても好感が持てる。それでいて鋭い。日経新聞を1年間購読するよりも岩本の本を1冊読んだ方がずっと勉強になる。

 イギリスは18世紀に産業革命が起こり「世界の工場」として圧倒的な経済力を手に入れることになった。世界の工場としてモノを作り、世界中にモノを得ることで世界経済を一手に収めたのだ。しかしそれは長い目でみれば一時的なことにすぎない。というのも、経済大国となるがゆえにやがては国内の生産コストが上がってくるのは当然のことであるし、加えて、技術や産業形態は国境を超えて伝播していくものであるから、それを模倣し、あるいは改良したより安価な製品を作り出してくる新興国が出現するのである。すると大国の国際競争力は低下し、海外の安い商品が大量に大国に入ってくることとなる。実際、19世紀の半ばにはすでにイギリスの輸出は輸入を大幅に下回っていることからも、かなり早い段階から製造業の国際競争力が低下していたことがうかがえる。
 当時のイギリスには2つの問題が発生した。他国のモノをイギリスが購入すれば、その分基軸通貨ポンドを世界中にばら撒くということになる。金本位制を採用していると、海外に出て行ったポンドは、相手国が金に換えて欲しいと言えば、イギリスはそれに応じなければならない。その結果、イギリスから大量に金が流出することになったのが第一の問題。そして2つめとして、国際競争力低下に歯止めをかけるには、米国がプラザ合意で断行したように自国通貨の切り下げを行い、自国産業を守るという手段もあったのだが、そうはしなかった。そのため「世界の工場」は新興国の米国へと移り、イギリスの国内産業は空洞化したのである。国内産業が低迷すれば国内金利は低下するので、海外との金利差が発生する。いつの時代も一緒だが、金利差に着目した投資資金はイギリスから海外へと向かっていった。
 そのような状況での第一次世界大戦勃発だったため、イギリスには物資と戦費調達をしなければならなくなった。物資の購入は金の流出を招いた。戦費調達のために保有していた債券を売却し、米国からの多額の借り入れをしたことで、イギリスの債券国家としての立場は終わりを告げた。第一次大戦後、一時停止されていた金本位制が復活する際には、経済が弱体化していた各国は為替レートを切り下げたものの、イギリスだけは国の威信にかかわるとして旧平価にこだわったことも更なる金流出を招き、米ドル覇権への移行に拍車をかけたといえるだろう。

 近代以降の歴史は金融を理解せずして読み解くことはできない。カネがなければ戦争もできないのだ。人類が6000年かけて掘り出したゴールドの量はオリンピックサイズ・プール(長さ50m、幅22m、深さ2m)の3杯分しかない(埋蔵量は1杯分あるとされている)。中世のイギリスにおける決済手段はゴールドであった。人々は貴重品であるゴールドを金細工商(ゴールドスミス)に預けた。彼らが最も頑丈な金庫を持っていたためである。そしてゴールドスミスが発行した預り証(金匠手形)が取引に用いられるようになる。これが紙幣の原型である。

学校の先生が絶対に教えてくれないゴールドスミス物語

「世界の工場はやがてその座を新興国に奪われる」。これは岩本の著作で何度となく指摘されている。実際、イギリス~アメリカ~日本~中国と世界の生産拠点は移動してきた。そして今中国から近隣アジア諸国へと雇用の流出が始まっている。注目を集めているのは東南アジアとアフリカだ。

 20世紀の初頭、覇権を掌握するまでに米国は、大英帝国ののこのような隆盛と没落を淡々と眺めていたに違いない。イギリスに限らず、どの国でも「世界の工場」となって覇権を握ったときから最後はデフレの問題が出てくるのは歴史の必然である。それをいち早く認識して、米国はたとえ「世界の工場」となってもそれは一時的なことであると認識して(※「認識して」が重複しているがママ)、やがては登場してくる新興国への対応を着々と準備していたのではなかろうか。
 国力の差があれば、安い輸入商品が流入してくるのはどうしても避けられない。それを防ぐ手段はいったい何か。イギリスを反面教師として利用するならば、国同士の取引に不可欠な為替レートを操作して輸入品の値段を押し上げる、ということになる。

 金本位制における紙幣はゴールドと等価であった。そして1929年の世界大恐慌を経て各国は金本位制をやめた。第二次世界大戦後はブレトン・ウッズ体制となる。そして1971年のニクソン・ショックで紙幣は何の裏づけもないペーパーマネーへと転落した。(固定相場制以前、固定相場制時代、変動相場制時代の主な出来事

 ドル基軸通貨体制をいいことにアメリカはやりたい放題の限りを尽くしてきた。ドル決済に水を差す連中はイラクのフセイン大統領のように殺された(『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫、萱野稔人)。

 長期的に見ればドルは価値を下げ続けてきた。サブプライム・ショック~リーマン・ショックを経たのち量的緩和に次ぐ量的緩和でドルは湯水の如く印刷された。その穴埋めをさせられているのが日本と中国だ。米大統領が変わるタイミングでドル高騰は反転することだろう。米ドル最大の保有国である中国と日本が戦争にでもなれば、アメリカの借金はチャラになる可能性が大きい。

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2014-05-21

30分で判る 経済の仕組み:レイ・ダリオ


「腐敗した銀行制度」カナダ12歳の少女による講演

 ・30分で判る 経済の仕組み

「Money As Debt」(負債としてのお金)
武田邦彦『現代のコペルニクス』 日本の重大問題(2)国の借金
『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康
『マネーの正体 金融資産を守るためにわれわれが知っておくべきこと』吉田繁治
『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート

世界最大級のヘッジファンド創業者 日本語で経済入門動画

【ニューヨーク】世界最大級のヘッジファンド運用会社ブリッジウォーター・アソシエーツ(運用資産約1500億ドル)創業者のレイ・ダリオ氏はこのほど、経済のしくみを易しく説いた動画を日本語で制作し、ネットで公開を始めた。

「30分でわかる経済のしくみ」(ママ)(http://youtu.be/NRUiD94aBwI)と題したこの動画は、ユーチューブで見ることができる。昨秋公開した英語版は、すでにアクセス件数が百万件を超えた。

 ダリオ氏はアニメーション動画を通じて経済の仕組みを解説。借金は将来の自分からお金を借りるのに等しく、借金を返済しようとすると将来の出費が減少する。自分の出費の減少は、他者の所得の減少に等しく、よって経済は縮小する。

 金融危機後に起こった日米欧の景気後退はこうした「ディレバレッジ(負債縮小)」がもたらしたもの。ディレバレッジによって景気は減速するが、負債の重荷は軽くなる。これをダリオ氏は「美しいディレバレッジ」と呼び、こうした過程を経て経済は平常状態に戻ると指摘する。日本語版はぜひ日本の金融当局者にも見てほしいという。

【日本経済新聞 2014-05-21 夕刊】


10分でみる 感染症の歴史 家畜のはじまりからパンデミックまで

2014-05-06

グローバリズムの目的は脱領土的な覇権の確立/『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫、萱野稔人



『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻

 ・グローバリズムの目的は脱領土的な覇権の確立

『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫
『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫

『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ

水野●その価格決定権を(※OPECから)アメリカが取り返そうとして1983年にできたのが、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物市場ですね。
 石油の先物市場をつくるということは、石油を金融商品化するということです。いったんOPECのもとへと政治的に移った価格決定権を、石油を金融商品化することで取り返そうとしたんですね。

萱野●まさにそうですね。
 60年代までは石油メジャーが油田の採掘も石油の価格も仕切っていた。これは要するに帝国主義の名残(なごり)ということです。世界資本主義の中心国が周辺部に植民地をつくり、土地を囲い込むことによって、資源や市場、労働力を手に入れる。こうした帝国主義の延長線上に石油メジャーによる支配があった。その支配のもとで先進国はずっと経済成長してきたわけです。
 しかし、こうした帝国主義の支配も、50年代、60年代における脱植民地化の運動や、それにつづく資源ナショナリズムの高揚で、しだいに崩れていきます。そして、石油についてもOPECが発言力や価格決定力をもつようになってしまう。当然、アメリカをはじめとする先進国側はそれに反撃をします。ポイントはそのやり方ですね。つまり石油を金融商品化して、国債石油市場を整備してしまう。それによって石油を戦略物資から市況商品に変えてしまうんです。

【『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫、萱野稔人〈かやの・としひと〉(集英社新書、2010年)以下同】

 昨今の世界経済危機は資本主義の転換点であるという主旨を様々な角度から検証している。年長者である水野が終始控え目で実に礼儀正しく、萱野を上手く引き立てている。萱野は哲学者だけあって経済の本質を鋭く捉えている。

 先物取引の大きな目的はリスクヘッジにある。

 例えばある商社が、米国から大豆10,000トンを輸入する。米国で買い付け、船で日本に到着するまでに1箇月かかるとする。1箇月の間に大豆の販売価格が仮に1kgあたり10円下がったとすると、商社は1億円の損失を出すことになる。そのため、商社は必ず買付けと同時に、商品先物取引を利用して10,000トン分の大豆を売契約し、利益額を確定する。 値下がりすれば先物で利益が出るので、現物の損失と相殺することが出来る。値上がりの場合は利益を放棄することとなるが、商社の利益は価格変動の激しい相場商品を安全に取引することにある。また、生産者も植えつけ前に先物市場において採算価格で販売契約し、販売価格を生産前に決めることで、収穫時の投機的な値上がり益の可能性を放棄する代わりに適切な利益を確保し、収穫時の価格下落(採算割れ)を気にせずに安心して計画的に生産することが出来る。

Wikipedia

 これが基本的な考え方だ。ところが恣意的な価格決定のためにマーケットがつくられたとすれば、マーケット価格が現物に対するリスクと化すのだ。その上インターネットによって瞬時の取引が可能となり、異なるマーケット同士が連鎖性を帯びている。このため金融危機はいつどこで起こってもおかしくない状況となっている。

水野●驚くことに、アメリカのWTI先物市場にしても、ロンドンのICEフューチャーズ・ヨーロッパ(旧国債石油取引所)にしても、そこで取引されている石油の生産量は世界全体の1~2%ぐらいです。にもかかわらず、それが世界の原油価格を決めてしまうんですね。

萱野●そうなんですよね。世界全体の1日あたりの石油生産量は、2000年代前半の時点でだいたい7500万バレルです。これに対して、ニューヨークやロンドンの先物市場で取引される1日あたりの生産量は、せいぜい1000万バレルです。

水野●1.5%もありませんね。

萱野●ところが先物取引というのは相対取引で何度もやりとりしますから、取引量だけでみると1億バレル以上になる。その取引量によって国際的な価格決定をしてしまう。価格という点からみると、石油は完全に領土主権のもとから離れ、市場メカニズムのもとに置かれるようになったことがわかりますね。

 しかも10~20倍のレバレッジが効いている。金融市場に出回る投機マネーは世界のGDP総計の4倍といわれてきたが、世界各国の通貨安競争を経た現在ではもっと増えていることだろう。もともと交換手段に過ぎなかったマネーが膨張に次ぐ膨張を繰り返し、今度は実体経済に襲いかかる。プールの水が増えすぎて足が届かなくなっているような状態だ。投機マネーとは「取り敢えず今直ぐ必要ではないカネ」の異名だ。

 マネーサプライが増加しているにもかかわらずインフレを示すのは株価と不動産価格だけで経済全体の底上げにつながっていない。

萱野●要するに、イラク戦争というのは、イラクにある石油利権を植民地主義敵に囲い込むための戦争だったのではなく、ドルを基軸としてまわっている国際石油市場のルールを守るための戦争だったんですね。これはひじょうに重要なポイントです。

 本書以外でも広く指摘されている事実だが、フセイン大統領は石油の決済をドルからユーロに代えることを決定し、国連からも承認された。これをアメリカが指をくわえて見過ごせば、ドル基軸通貨体制が大きく揺らぐ。つまり人命よりもシステムの方が重い、というのがアメリカの政治原理なのだ。

萱野●先進国にとっての戦争が、ある領土の支配権を獲得するためのものではなくなり、脱領土的なシステムを防衛するためのものとなったのです。領土、ではなく、抽象的なシステムによって自らの利益を守ることに、軍事力の目的が変わっていったのです。
 かつての植民地支配では、その土地の領土主権は認められていませんでしたよね。それは完全に宗主国のコントロールのもとにあった。それが現在では、領土主権は一応その土地にあるものとして認められたうえで、しかし、その領土主権を無化してしまうような国際経済のルールをつうじて、覇権国の利益が維持されるのです。
 これは、経済覇権のあり方が脱植民地化のプロセスをつうじて大きく変化したということをあらわしています。いまや経済覇権は領土の支配をつうじてなされるのではありません。領土の支配を必要としない脱領土的なシステムをつうじてなされるのです。

 卓見だ。更に「脱領土的な覇権の確立、これがおそらくグローバル化のひとつの意味なのです」とも。本書の次に『日本はニッポン! 金融グローバリズム以後の世界』藤井厳喜、渡邉哲也:ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ編(総和社、2010年)を読むと更に理解が深まる。グローバリズムの本質と惨禍については『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クラインが詳しい。またアメリカが安全保障上の観点から通貨戦争に備えている事実はジェームズ・リカーズが書いている。

超マクロ展望 世界経済の真実 (集英社新書)
水野 和夫 萱野 稔人
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日本はニッポン! 金融グローバリズム以後の世界
藤井厳喜 渡邉哲也
総和社
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大英帝国の没落と金本位制/『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓
米ドル崩壊のシナリオ/『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ

2014-04-05

官僚機構による社会資本の寡占/『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃


 ・官僚機構による社会資本の寡占

『円の支配者 誰が日本経済を崩壊させたのか』リチャード・A・ヴェルナー
・『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃
国会で高橋洋一が「国の借金」の嘘を暴く 2018/02/21 衆議院予算委員会公聴会

 この国は【官僚機構と米国から重層的に搾取を受けている】わけです。【各種租税、新規国債、借換債、財投債により編成される370兆円規模の特別会計から推計70兆円が人件費、福利厚生、償還費、天下り、関連団体の補助金として公的部門へ吸収され、さらに外国為替特別会計を通じ既述のごとく莫大な金が米国に収奪されるという図式です】。

【『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃〈きょうどう・ゆきの〉(ヒカルランド、2012年)以下同】

 ブログに大幅な加筆をした書籍である。全国紙系列の広告代理店で編集長を務めた人物で著者名はハンドルと思われる。ジャン・ボードリヤールを思わせる華麗な文体は意図的なもので正体を隠すためか。明らかにアジテーター的要素が強いが、傑出した説明能力の持ち主である。

【この国のエスタブリッシュメントが国民を殺戮している】わけです。経済産業省を頂点とする官僚機構が主導的に原発行政を推進し、電力企業関連会社に天下り、業界団体に公益法人を設立させ、さらに天下り、莫大な不労所得と引き換えに無軌道な運用管理を是認するという、監督者と被監督者による癒着(ゆちゃく)と共依存が利権の淵源(えんげん)となります。【文科省、国家公安委員、国土交通省などおおよそ主要官庁全てがこの腐敗構造に与(くみ)され、つまりは官僚機構】によるジェノサイド(大量虐殺)です。

 福島原発事故による被曝を声高に糾弾しているのは災害直後に書かれたためか。ただしここは吟味が必要なところで被曝の根拠が荒っぽい。国民が知るべきは原発利権であってエネルギー問題へと目を逸(そ)らしてはなるまい。

 国家システムのアルゴリズム(計算手順)とは、官僚機構の肥大化に他ならないわけです。繰り返しますが、【国税または地方税は全て官僚の給与、福利厚生および外郭団体の補助金として消えます。政府公表の公務員人件費総額には独立行政法人、特殊法人または特殊会社に属す「みなし公務員」の給与や補助金は含まれず、実際に租税から拠出される人件費または天下り団体の償還費等は年間70兆円に達すると推計されます】。

 官僚機構は癌細胞なのだろう。無限に増殖を繰り返し、肉体そのもの(国家)を滅ぼすまで蝕み続ける。著者は国家予算の中身を読めない者をB層と位置づけている。

【財政投融資とは、国民資産の不正流用】であり、【郵貯、年金、簡保の積立金が複雑な会計処理を経て特別会計予算に編入され国の外郭団体へ貸付けされ債権化】します。これまで400兆円規模の金が77の特殊法人や自治体などへ還流されながら、それらは統一されたバランスシート(貸借対照表)を持たず、財務内容も事業内容すらも不明瞭にいまだ跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しています。
 2002年に日医総研が年金積立金の調査を行ったところ、【147兆円あるべき運用資金が財政投融資による87兆円を毀損(きそん)している】実態が明らかとなりました。(中略)
【日本国の本質とは、官僚機構による社会資本の寡占(かせん)】であるわけです。【過剰な公債発行と国民資産の流用により370兆円規模の特別会計という裏予算を編成し独立行政法人、特殊法人、特殊会社さらに系列3000社のグループ企業へ還流させ、洗浄した社会資本を天下りにより合法的に収奪する】、これが利権構造の概観です。【国家予算とはすなわちブラックボックスであり、我々のイデオロギーとは旧ソビエトを凌ぐ官僚統制主義に他なりません】。

 複式簿記を導入しているのはたぶん東京都だけだ(石原慎太郎「こんなでたらめな会計制度、単式簿記でやっているのは、先進国で日本だけ」の真意。複式簿記とは何か。)。この国は国家予算のバランスシートさえ明らかにしていないのだ。驚愕の事実である。

 本当の「戦後レジーム」とは、米国の意向を受けた官報複合体の利権構造を意味する。つまり政治家から権力が剥奪されているのだ。立法府の役割は法整備と予算編成にあるわけだが完全に官僚が牛耳っている。この国では国会議員が起草する法案をわざわざ「議員立法」と呼称するほどで、可決される法案のうち20%にも満たない。

 日本をアメリカの属国にしているのは官僚とメディアだ。響堂雪乃の言葉は彼らを銃弾のように撃つ。



虐殺者コロンブス/『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』ハワード ジン、レベッカ・ステフォフ編
マネーと民主主義の密接な関係/『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康
マネーサプライ(マネーストック)とは/『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人
日本の原発はアメリカの核戦略の一環/『原発洗脳 アメリカに支配される日本の原子力』苫米地英人
資本主義経済崩壊の警鐘/『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン
「物質-情報当量」
汚職追求の闘士/『それでも私は腐敗と闘う』イングリッド・ベタンクール
借金人間(ホモ・デビトル)の誕生/『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
力の強いもの、ずる賢いものが得をする税金/『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎

2014-03-25

失業と破産こそ資本主義の生命/『小室直樹の資本主義原論』小室直樹


『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『日本教の社会学』小室直樹、山本七平
『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹

 ・失業と破産こそ資本主義の生命

『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は滅亡する』小室直樹
『悪の民主主義 民主主義原論』小室直樹
『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』小室直樹
『数学嫌いな人のための数学 数学原論』小室直樹
『日本人のための憲法原論』小室直樹

 生き残った企業は、資本主義市場に相応(ふさわ)しい企業である。生き残った労働者は、資本主義市場に相応しい労働者である。
 いま、「資本主義市場に相応しい」企業を単に「企業」、同じく「資本主義市場に相応しい」労働者を単に「労働者」と呼ぶことにすれば、つぎの命題(文章)が成立する。
【市場は労働者を作る。】
 また、
【市場は企業を作る。】
 では、如何(いか)にして、
【淘汰(とうた)によってである。】
 資本主義は、労働者と企業とから作られる。資本主義のメンバーは、労働者と企業である。労働者と企業とがなければ、資本主義は生成も存続もできない。その労働者と企業とは、市場における淘汰によって作られる。
 市場淘汰こそ資本主義の生命である。
 市場で淘汰された労働者は失業者となる。市場で淘汰された企業は破産する。
 ゆえに、
【失業(者)と破産こそ資本主義の生命である。】
 という命題(文章)が成立するのである。

【『小室直樹の資本主義原論』小室直樹(東洋経済新報社、1997年)】

 これが市場原理である。まったく疑問の余地がない。資本主義経済においては資本の運動がすべてである。資本家からすれば「高く売れるか売れないか」であり、消費者からすれば「買うか買わないか」というだけの世界だ。

 市場で公正な競争が行われ、消費者が賢い選択をすれば、淘汰によってよりよき世界が現れるはずだ。だが現実は異なる。全然よくなっていない。それどころか日本はデフレが20年も続いた。この間の付加価値はどこへ行ってしまったのか?

 わかりやすく極論を述べよう。事業を立ち上げるにはカネが必要だ。企業は銀行などから借金をする。これが「資本」だ。そのカネを事業に投資する。企業は銀行からの借金+労働者の賃金を上回る利益を出さなくてはならない。つまり資本主義は借金で回っているわけだ。それゆえ経済は銀行の金利+αのインフレになるのが自然なのだ。

 にもかかわらず長期間に渡るデフレは進行した。日銀も政府も無能であった。投資先を失った日本のマネーは海外へ向かわざるを得ない。それどころか円高に悲鳴を上げた多くの企業は生産拠点を海外へ移した。雇用までもが流出したのだ。世界各国が金融緩和をしている中で日本だけが躊躇していた。

 世界経済は2007年にサブプライム・ショック、翌2008年にリーマン・ショックに襲われた。これ以降、富の過剰な集中が目立ってくる。インターネットとグローバリゼーションによって資本の移動は一瞬で国境を超える時代となった。多国籍企業はタックス・ヘイブンを経由することで租税を回避する。既にイギリスやアメリカ国内にもタックス・ヘイブンが存在する。

 明らかに公正な競争が行われていない。更に巨大資本を有する連中がマーケットをやすやすと動かす。最大の問題は資本主義を称しておきながら、米ドルが基軸通貨として流通している事実である。だから本来であれば第二次世界大戦以降の資本主義は米ドル資本主義と名づけるべきだ。しかもドルを発効するFRBは中央銀行機能を有しながらも実体は私企業なのだ。通貨発行権を国家の手に取り戻そうとした大統領も何人かいたが全員暗殺されている。

 すなわち米ドル資本主義は資本の運動ではなく、資本家の思惑で動いていると見てよかろう。米ドルの価値が極限まで下がった時が資本主義の終焉と個人的には考えている。



消費を強制される社会/『浪費をつくり出す人々 パッカード著作集3』ヴァンス・パッカード
信用創造の正体は借金/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎

2014-02-27

憲法は慣習法/『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹


『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『日本教の社会学』小室直樹、山本七平

 ・下位文化から下位規範が成立
 ・税金は国家と国民の最大のコミュニケーション
 ・イギリス革命は税制改革に端を発している
 ・憲法は慣習法

『税高くして民滅び、国亡ぶ』渡部昇一
『消費税減税ニッポン復活論』藤井聡、森井じゅん

 アメリカの例でも明らかであるが、また、ヒットラーも同じである。
 ヒットラーは4年(全権委任法で定められた期間)経っても、権力を国民に還(かえ)す積(つも)りなんか全然なかった。
 それどころか、独裁権力は、増々強力にされるばかりであった。
 それでも、ワイマール憲法が改正される事はなかった。
 より正確に言うと、改正の手続きが取られる事はなかった。
【形式上】、ワイーマール憲法は【生きていた】。
 しかも、【実質的】にはワイマール憲法は【死んだも同然】であった。
 こんな時、どう解釈する。
 ワイマール憲法は改正されたのか、未だ改正されてはいないのか。
 この場合、ワイマール憲法は改正された。
 こう解釈される。
【憲法学者は、全権委任法成立の時点を以って、ワイマール憲法は廃止された】。こう解釈する。
 1933年3月24日を以ってワイマール憲法は死んだ。
 そして、ヒットラーのドイツ第三帝国が生まれた。
 ワイマール憲法改正の為の手続きが取られようと取られまいと、そんな事は結局どうでもいい事なのである。
 憲法は、本質的には慣習法である。
【前例が慣習として確立されると、それは憲法の一部となる】。
 と言う事は、【憲法改正したも同じ事だ】。
 こう言う事なのである。
 この際、形式的に憲法改正の手続きが踏まれようと踏まれまいと、それは所詮どうでもいい事なのである。

【『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹(ビジネス社、2012年)以下同/カッパ・ビジネス、1989年『消費税の呪い 日本のデモクラシーが危ない』・天山文庫、1990年『悪魔の消費税』を改訂・改題】

 PKO(国際連合平和維持活動法案(1992年のPKO国会)がこの典型か。それまで平和と福祉を標榜してきた公明党が外交政策を転換して賛成に回った。後に自衛隊はインド洋イラクにも派遣される。

 また昨年暮れに自民党は自衛隊の海外武器携行制限を撤廃する方針を決めた。

 憲法とは国家権力に対する国民からの命令である。既に解釈改憲がまかり通っている以上、国家は民意に背いているといってよい。つまり憲法も民主主義も死んでしまったのだ。どおりで原発もなくならないわけだ。

消費税は民意を問うべし ―自主課税なき処にデモクラシーなし―
小室直樹
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