2018-08-28

「人種差別」こそが大東亜戦争の遠因/『人種差別から読み解く大東亜戦争』岩田温


『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス
『生活の世界歴史 9 北米大陸に生きる』猿谷要
『ナット・ターナーの告白』ウィリアム・スタイロン
『学校では絶対に教えない植民地の真実』黄文雄
『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン
『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』加瀬英明
『世界が語る大東亜戦争と東京裁判 アジア・西欧諸国の指導者・識者たちの名言集』吉本貞昭

 ・「人種差別」こそが大東亜戦争の遠因
 ・ポルトガル人の奴隷売買に激怒した豊臣秀吉

『植民地残酷物語 白人優越意識を解き明かす』山口洋一
・『パール判事の日本無罪論』田中正明

・『だから、改憲するべきである』岩田温

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 何故、日本人は戦争を選んだのでしょうか。驕っていたとの批判は甘受しても構いません。何故に、日本人は戦争を選んだのでしょうか。この問いこそが重要です。
 戦争を選択した日本側の動機を探っていく上で極めて参考になるのが、昭和天皇の御指摘です。
 昭和天皇は、独白録の冒頭で、「大東亜戦争の原因」について次のように指摘しています。

「この原因を尋ねれば、遠く第一次世界大戦后の平和条約の内容に伏在している。日本の主張した人種平等案は列国の容認する処とならず。黃白の差別感は依然残存し加州移民拒否の如きは日本国民を憤慨させるに充分なものである。又青島還附を強いられたこと亦然りである。かかる国民的憤慨を背景として一度、軍が立ち上がった時に、之を抑へることは容易な業ではない。」
(『昭和天皇独白録』文藝春秋)

 昭和天皇は、大東亜戦争の遠因が、第一次世界大戦の平和条約、すなわちベルサイユ条約の中に存在していることを指摘しています。そして、国際連盟設立の際に日本が主張して、アメリカ、イギリスによって退けられた「人種平等案」について言及しています。さらに、アメリカのカリフォルニア州における排日移民法の存在についても言及しているのです。
 ここで昭和天皇が指摘しているのは、一言でいえば「人種差別」の問題です。昭和天皇は「人種差別」こそが大東亜戦争の遠因であったと指定記してえいるのです。
 大東亜戦争と人種差別。
 普段、意識されることの少ない組み合わせなのではないでしょうか。
 何故に、大東亜戦争が人種差別と深く関わっているのか。それは、大東亜戦争が、「人種平等」という理念を掲げた戦争であったからです。「侵略戦争」というイメージが先行する大東亜戦争ですが、当時の日本人が掲げた大義は「人種平等」だったのです。

【『人種差別から読み解く大東亜戦争』岩田温〈いわた・あつし〉(彩図社、2015年/オークラNEXT新書、2012年『だから、日本人は「戦争」を選んだ 』改訂改題)】

『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』(ジェラルド・ホーン著)の直後に読んだのはタイミングがドンピシャリだった。本と本がつながる快感は何ものにも代え難い。脳内の配線がすっきりする。

 人種差別が大東亜戦争の導火線となったことを知らない日本人が大半であろう。私もそうだった。「どうしてこれほど大切な歴史を学校で教えないのか?」という率直な疑問が強い怒りと共に湧いてきた。

 簡単に歴史を振り返ってみよう。

 大東亜戦争(1941-45年〈昭和16-20〉:※日中戦争〈1937:昭和12年-〉を含まず)は自衛目的で始め、後にアジアを植民地から解放することを目指した戦争であった。

 1924年(大正13年)にアメリカで排日移民法が成立する(日本のほっぺたをひっぱたいた排日移民法 - かつて日本は美しかった)。低賃金でも黙々と真面目に働く日本人移民をアメリカ人労働者は許せなかった。そして日本人児童を差別のターゲットにしたのだ。

 1921-22年(大正10-11)ワシントン海軍軍縮条約ワシントン海軍軍備制限条約)で日英同盟が失効した(日英同盟破棄)。

 1919年(大正8年)1月14日、第一次世界大戦後に開かれたパリ講和会議において日本は人種的差別撤廃提案を行った。「国際会議において人種差別撤廃を明確に主張した国は日本が世界で最初である」(Wikipedia)。賛成11票、反対・保留5票という結果となったが議長を務めたウッドロウ・ウィルソン米大統領が「全会一致でないため提案は不成立である」とちゃぶ台返しをする。最も強く反対したのは白豪主義を唱えるオーストラリアであった。

 第一次世界大戦(1914-18年)で日本は勝利した連合国側に加わった。国際的な地位は格段に上がり、国際連盟の常任理事国入り(列強の仲間入り)を果たす。

 1904-05年(明治37-38)日露戦争。歴史上初めて有色人種が白人を打ち破った戦争で、世界中の有色人種が狂喜した。後に白人帝国主義を倒す最大の要因となる。日本は明治開国以来の不平等条約を克服する(日露戦争が世界に与えた衝撃/『世界が語る大東亜戦争と東京裁判 アジア・西欧諸国の指導者・識者たちの名言集』吉本貞昭)。

 1894-95年(明治27-28)日清戦争。日本は戦勝国となり、イギリスに治外法権を撤廃させる。ところが三国干渉ロシアの南下政策と三国干渉について | 日本の歴史についてよく分かるサイト)があり、日本国民の間で「臥薪嘗胆」(がしんしょうたん)が合言葉となる(三国干渉における臥薪嘗胆 | 日本の歴史についてよく分かるサイト)。

 19世紀半ば-20世紀前半に欧米豪で黄禍論(おうかろん/こうかろん)が唱えられる。日露戦争に勝利したことで黄色人種脅威論が欧州全体に広まる。

 1853年(嘉永6年)黒船来航砲艦外交の末に1854年(嘉永7年)日米和親条約締結日本の開国)。日本は開国するも不平等条約に長く苦しめられることになる。

 1639-1854年(寛永16-嘉永7)鎖国。鎖国体勢は徳川家光が完成させたが、発端はキリシタン禁制(禁教令)で豊臣秀吉のバテレン追放令(1587年:天保15)までさかのぼることができる(『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新〈ひらかわ・あらた〉)。

 最低でもこの程度の流れは踏まえておくべきである。豊臣秀吉はポルトガル、スペインを中心とする大航海時代(15世紀半ば-17世紀後半)の動きを鋭く察知していた。明治維新も阿片戦争(1840年)という背景があった。すなわち日本は辺境でありながらも国際情報に対して敏感な危機感を持って対応してきたのだ。

 昨今の日本史本ブームに対して、「またぞろ江戸万歳本ですか」みたいな揶揄(やゆ)を飛ばす者がいるが、植民地の悲惨を知らぬ底の浅さを露呈している。同じ時代に黒人やインディアンがどんな目に遭ったと思っているんだ?

 東京裁判(極東国際軍事裁判/1946-48年〈昭和21-23〉)は500年も続いた白人帝国主義を崩壊させた日本人に対する公開処刑であった。そのために日本は大量虐殺を行ったナチスと同列にさせられたのだ。我々の父祖が大東亜戦争で立ち上がったことによって世界の植民地は白人の手から解放された。米国内の黒人も日本に続いて立ち上がったのである。

2018-08-27

日本の憲法学が憲法を殺した/『日本人のための憲法原論』小室直樹


『いちばんよくわかる!憲法第9条』西修
『平和の敵 偽りの立憲主義』岩田温
・『だから、改憲するべきである』岩田温

 ・日本の憲法学が憲法を殺した

『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八
『「日本国憲法」廃棄論 まがいものでない立憲君主制のために』兵頭二十八
『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』伊藤祐靖

小室直樹
必読書リスト その四

 現在の日本には、さまざまな問題があふれかえっています。
 10年来の不況、財政破綻(はたん)、陰惨(いんさん)な少年犯罪、学級崩壊、自国民を拉致(らち)されても取り返さない政府……実はこうした問題の原因をたどっていくと、すべては憲法に行き着くのです。
 現在日本が一種の機能不全に陥(おちい)って、何もかもうまく行かなくなっているのは、つまり憲法がまともに作動していないからなのです。
 こんなことを言うと、みなさんはびっくりするかもしれませんが、今の日本はすでに民主主義国家ではなくなっています。いや、それどころか近代国家ですらないと言ってもいいほどです。
 憲法という市民社会の柱が失われたために、政治も経済も教育も、そしてモラルまでが総崩れになっている。これが現在の日本なのです。
 では、なぜ日本の憲法がちゃんと作動しなくなったのか。
 その理由は憲法学そのものにあると、私は考えます。
 たしかに大学の法学部に行けば、そこでは憲法の講義が行われています。しかし、その中身はといえば、要するに司法試験や国家公務員試験を受験するためのもの。憲法の条文をどのように解釈すれば、試験に合格できるかが講じられているに過ぎません。こんな無味乾燥(むみかんそう)な「憲法学」に誰が興味を持つでしょう。こんなことで、誰が憲法に関心や理解を示すでしょう。(まえがき)

【『日本人のための憲法原論』小室直樹(集英社インターナショナル、2006年/集英社インターナショナル、2001年『痛快!憲法学 Amazing study of constitutions & democracy』改題、愛蔵版)】

 その無味乾燥な憲法学を学び教える憲法学者が数年前に平和安全法制関連法案(いわゆる安保関連法案)は「違憲である」と表明した。憲法学の中身は知らないが憲法学者の飯の種であることはわかる。憲法で飯を喰っている以上、憲法を金科玉条と奉(たてまつ)り解釈の違いを訳知り顔で解説し、学問の世界で徒弟関係を構築しているのだろう。もちろん彼らに国家の行く末を案じるような責任感はない。日本の憲法学が憲法を殺したとの指摘はあまりにも重い。

 小室直樹は世の混乱を「憲法がまともに作動していない」ためだと喝破(かっぱ)する。なぜ作動していないのか? まともな日本語じゃないからだよ。元が英語だからおかしな日本語になっているのだ。占領期間中に、しかも多くの人々が公職追放される中でマッカーサーの指示でアメリカ人が作った憲法が作動するわけがない。

「憲法とは、統治の根本規範(法)となる基本的な原理原則に関して定めた法規範をいう(法的意味の憲法)」(Wikipedia)。その根本規範がどのような経緯で作られたかを教えられることもなく、我々日本人は経済成長の中で漫然と憲法を軽んじてきた。私自身、数日前に生まれて初めて憲法全文を読んだ。憲法に対する無関心は大東亜戦争敗北に対する無関心と深く響き合っている。

 憲法の本義を思えばいたずらにテクニカルな文言を盛り込むより、五箇条の御誓文(ごせいもん)を軸として抽象度の高い格調ある文章にするのが望ましい。解釈の余地を多く残した方が安易な憲法改正を防げるだろう。

2018-08-26

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2018-08-25

大数学者、野良犬と跳ぶ/『風蘭』岡潔


『春宵十話』岡潔

 ・大数学者、野良犬と跳ぶ

『紫の火花』岡潔
『春風夏雨』岡潔
『人間の建設』小林秀雄、岡潔
『天上の歌 岡潔の生涯』帯金充利

必読書リスト その四

 ちかごろアメリカにジャンポロジーという学問――跳躍学とでもいうのでしょうか――ができて、こういう本が出ている、といって見せてもらいました。これは、ある週刊誌の記者が東京からふたり来て、それを見せてくれたのです。それで、写真にとりたいからとんでくれ、とわたしにいうのです。
 なさけないことを頼まれるものだ、犬に頼んでくれないかなあ、と思ったのですが、東京からわざわざ見えたのだから、それじゃとぼうかな、と思って外に出ました。
 すると、近所のなじみののら犬がやってきて、いっしょにとんでくれたのです。

【『風蘭』岡潔(講談社現代新書、1964年/角川ソフィア文庫、2016年)以下同】

天上の歌 岡潔の生涯』(帯金充利著)の表紙にもなっている有名な写真がそれだ。

天上の歌―岡潔の生涯

 わたしはこの犬が飼われているという実感のわく家をほしがり、わたしのうちをこんなふうにたよっているのだから飼ってやらないか、といったのですが、犬を飼うといろいろとわたしにはよくわからない弊害がともなうらしく、家内と末娘が反対するのです。だから飼ってやるわけにもいきません。
 しかし、なんとかしてやりたいな、と思っていました。おおげさにいうとそれが負担になっていました。
 さてわたしがカメラに向かっていやいやとんだところ、その犬も来てとんだのです。それが、すこしおくれてとんだものですから、写真にはまさにとぼうとしているところがうつっています。それがひどくいいのです。
 やがてその週刊誌を見た人たちのあいだで評判になりました。つまりいちばんよくとぼうとしているのは犬である、ということになったのです。
 こうしてだいぶん有名になったおかげで、近所のうちの一軒で飼ってやろうということになりました。それで、わたしもおおげさいにいえばすっかり重荷をおろすことができ、やはりとんでよかったと思いました。

 岡潔はネクタイを嫌い、長靴を愛用した。いずれも身体(しんたい)に関わる影響を顧慮してのことである。文化勲章親授式(1960年、写真)の際もモーニング姿に長靴を履こうとして慌てた家族が説得したというエピソードがある。夏は長靴を冷蔵庫で冷やした。天才は常識に縛られることがない。常軌を逸するところに天才らしい振る舞いがある。

 それにしても、と思わざるを得ないのは週刊誌記者やカメラマンの不躾(ぶしつけ)なリクエストである。結果的にはチャーミングな写真となったわけだが、偉大な数学者に対する非礼に嫌悪感が湧いてくる。

 それでも岡は「とんでよかった」と言う。私は何にも増して岡の情緒がよく現れている出来事だと感じ入るのである。

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2018-08-23

楽園の現実/『エデン』近藤史恵


『サクリファイス』近藤史恵

 ・楽園の現実

『サヴァイヴ』近藤史恵
・『キアズマ』近藤史恵
・『スティグマータ』近藤史恵
・『逃げ』佐藤喬

 時速90キロの風の中、慎重にハンドルを切る。
 勝てるかどうかわからない。だが、はじめて知った。そのわからないことが希望なのだと。

【『エデン』近藤史恵〈こんどう・ふみえ〉(新潮社、2010年/新潮文庫、2012年)以下同】

 チカこと白石誓〈しらいし・ちかう〉がツール・ド・フランスで活躍する。無論、エースではなくアシストだ。

「新潮ケータイ文庫DX」で連載されたようだ。ウェブサイトが見つからないので既に撤収か。連載物は読者の興味をつなぎ留めるため通俗的な内容になりやすい。新聞小説など分量が短ければ短いほど難しいような気がする。

 時折光る文章がちりばめられていて軽い読み物で終わらせない執念が窺える。

「賢いとは言えないが、尊敬に値するな」

「サクリファイスシリーズ」は全てのタイトルがカタカナ表記になっており意味がわかりにくい。巻頭に説明があった方がいいだろう。

 プロ自転車レース最高峰のツール・ド・フランスは楽園ではなかった。複雑な駆け引き、敵チームへの妨害、勝つためには薬物にも手を伸ばすことも辞さない修羅闘諍(しゅらとうじょう)の世界であった。

 自転車に興味がなくとも十分楽しめる内容だ。

エデン (新潮文庫)
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