・『超訳「国富論」 経済学の原点を2時間で理解する』大村大次郎
・『火縄銃から黒船まで 江戸時代技術史』奥村正二
・重商主義は世界商業の覇権をめぐる戦争の時代
・『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』川北稔
・世界史の教科書
・必読書リスト その四
こうしてまず16世紀の世界を支配したのは、新大陸を発見したスペイン、および東洋への海上ルートを掌中に収めたポルトガルであった。ところが17世紀になると、世界史の舞台に登場したのはオランダとイギリスである。両者はスペイン・ポルトガルに代わって覇権をめぐって激しく争い、17世紀末にはルイ絶対王権を背景にフランスが一枚加わって、海上の覇権争いはいっそう熾烈となった。私の手元にあるのは新書版で、「ザ・新書」という敬称で呼びたくなるほどの一冊。川勝平太著『日本文明と近代西洋 「鎖国」再考』で本書を知った。このように面白くない本が面白い本につないでくれることがあるので読書には無駄がないと考えてよろしい。しかも、『超訳「国富論」』と併読していたため、上記テキストで理解が深まった。
17世紀初めから18世紀中ごろにいたる時代は、経済史上これを重商主義とよんでいるが、重商主義という表現からくる平和な商業競争のイメージとはまったく異なり、オランダ、イギリス、フランス、スペインを中心に周辺諸国もまきこんで、世界商業の覇権をめぐって戦争につぐ戦争、海戦また海戦といった動乱の時代を迎えた。
海上制覇を左右した要因はいくつかある。まず決め手になるのは、軍事力としての強力な海軍の保有である。だから各国とも軍艦の数、大きさ、備砲数、大砲の性能、造船技術に力を入れたことはいうまでもない。しかしこうした軍事力とは直接結びつかないまでも、各国とも解決を迫られていた共通の課題があった。しかもその解決が海上制覇にとって、ある意味で決め手になるような重要な課題を抱えていたのである。その難題というのは正確な経度の測定である。というのは、正確な経度が測定できなければ船の位置を知ることができず、いわば眼の不自由な人が勘だけに頼って自動車を運転するようなものだからである。そのためにガリヴァが南洋で座礁したような海難事故は、今日では考えられないくらい頻繁に起こっていた。それがもし軍艦であるなら、敵以上にこわいのは海難による自滅である。その心配されていたことが実際に起こったのである。
【『時計の社会史』角山榮〈つのやま・さかえ〉(中公新書、1984年/吉川弘文館、2014年)】
更に本テキストが重要なのはワシントン海軍軍縮条約(1922年)をも示唆しているためだ。つまり軍の暴走や五・一五事件にまでつながる話なのだ。
私は全く時計に興味がないし、腕時計も持っていない。携帯電話すら持ち歩くことが少ないため、今でも道行く人に時間を尋ねることがある。そんな私でも本書の内容には引きずり込まれた。時計と社会を巡る見事な近代史となっている。文章、内容ともに完璧な新書といっていいだろう。