2021-11-17

『an・an』の創刊/『決定版 三島由紀夫全集36 評論11』三島由紀夫


三島由紀夫の遺言

 ・果たし得てゐいない約束――私の中の二十五年
 ・『an・an』の創刊
 ・時間の連続性

『三島由紀夫が死んだ日 あの日、何が終り 何が始まったのか』中条省平
『三島由紀夫の死と私』西尾幹二
『昭和45年11月25日 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃』中川右介
『三島由紀夫と「天皇」』小室直樹
『日本の名著27 大塩中斎』責任編集宮城公子

アンアン創刊おめでたう

「アンアン」の創刊は、ヨーロッパの生活感覚と日本女性の生活感覚とをますます近づけるであらう。女が美しいことは、人生が美しいといふこととほとんど同義語だといふ、フランス人の確信が、日本にそのまま伝はることは大歓迎である。(初出 an・an 昭和45年3月20日)

【『決定版 三島由紀夫全集36 評論11』三島由紀夫〈みしま・ゆきお〉(新潮社、2003年) 】

 昭和45年(1970年)の評論と楯の会関連資料が収められている。11月25日に三島は割腹自決を遂げる(享年45歳)。女性誌への祝辞が三島人気を語ってあまりある。『an・an』の命名は黒柳徹子によるもの。三島が死を決意したのは3~4月と推測されている(割腹自殺によって“作品”を完成させた三島由紀夫 | nippon.com)。

 当時、私は小学1年だった。三島事件のことは記憶にない。思い出せるのは学生運動を嘲笑うかのように流行した「帰って来たヨッパライ」くらいだ。

 新たな女性誌の創刊は時代の変化を告げるものだ。しかしながら、男女共にジーンズというアメリカ由来の作業ズボンだらけとなる。高度経済成長で汗まみれになって働く父親の後ろ姿を見て育ったせいか。

イノベーションに挑む気概/『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ


『独創は闘いにあり』西澤潤一
『まず、ルールを破れ すぐれたマネジャーはここが違う』マーカス・バッキンガム&カート・コフマン

 ・イノベーションに挑む気概

『ジャック・マー アリババの経営哲学』張燕
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』エリック・ジョーゲンソン
『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』佐藤航陽
『Dark Horse(ダークホース) 「好きなことだけで生きる人」が成功する時代』トッド・ローズ、オギ・オーガス

 ビジネスに同じ瞬間は二度とない。次のビル・ゲイツがオペレーション・システムを開発することはない。次のラリー・ペイジとセルベイ・ブリンが検索エンジンを作ることもないはずだ。次のマーク・ザッカーバーグがソーシャル・ネットワークを築くこともないだろう。彼らをコピーしているようなら、君は彼らから何も学んでいないことになる。
 もちろん、新しい何かを作るより、在るものをコピーするほうが簡単だ。おなじみのやり方を繰り返せば、見慣れたものが増える。つまり1がnになる。だけど、僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。何かを創造する行為は、それが生まれる瞬間と同じく一度きりしかないし、その結果、まったく新しい、誰も見たことのないものが生まれる。
 この、新しいものを生み出すという難事業に投資しなければ、アメリカ企業に未来はない。現在どれほど大きな利益を上げていても、だ。従来の古いビジネスを今の時代に合わせることで収益を確保し続ける先には、何が待っているだろう。それは意外にも、2008年の金融危機よりもはるかに悲惨な結末だ。今日の「ベスト・プラクティス」はそのうちに行き詰まる。新しいこと、試されていないことこそ、「ベスト」なやり方なのだ。
 行政にも民間企業にも、途方もなく大きな官僚制度の壁が存在する中で、新たな道を模索するなんて奇跡を願うようなものだと思われてもおかしくない。実際、アメリカ企業が成功するには、何百、いや何千もの奇跡が必要になる。そう考えると気が滅入りそうだけれど、これだけは言える。ほかの生き物と違って、人類には奇跡を起こす力がある。僕らはそれを「テクノロジー」と呼ぶ。
 テクノロジーは奇跡を生む。それは人間の根源的な能力を押し上げ、【より少ない資源でより多くの成果を可能にしてくれる】。人間以外の生き物は、本能からダムや蜂の巣といったものを作るけれど、新しいものやよりよい手法を発明できるのは人間だけだ。人間は、天から与えられた分厚いカタログの中から何を作るかを選ぶわけではない。むしろ、僕たちは新たなテクノロジーを生み出すことで、世界の姿を描き直す。それは幼稚園で学ぶような当たり前のことなのに、過去の成果をコピーするばかりの社会の中で、すっかり忘れられている。

【『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ:関美和〈せき・みわ〉訳(NHK出版、2014年)】

 瀧本哲史の長い序文が余計だ。翻訳の文体が合わないため挫折した。

 キリスト教文化特有の思い上がりが滲み出た文章だが、イノベーションに挑む気概は見上げたものだ。特に「出る杭は打たれる」風潮が強い我が国の産業界は耳を傾ける意見だろう。

 輝かしい学歴を手にした若者が官僚や大企業のサラリーマンになるのは嘆かわしい限りだ。「グーグル、アップル、ヒューレット・パッカード(HP)、マイクロソフト、アマゾンはいずれもガレージから始まったと言われている」(成功はガレージから始まる…5つの巨大テック企業が生まれた場所を見てみよう | Business Insider Japan)。形ではない。アイディア勝負なのだ。パナソニック、ソニー、ホンダなど日本を代表するメーカーも本を正せばベンチャー企業であった。

 ピーター・ティールイーロン・マスクとPayPalを創業した。フィンテックの走りである。今となってはスマホ決済(電子マネー)の影に隠れてしまった感があるが当時は革命的だった。日本語化が遅れたせいで普及は今ひとつであったように思う。

 ビッグテックのCEOが巨額の資産を有することがともすると批判的に受け止められているが、まず我々一般人が学ぶべきは彼らが巨富を手にしても尚働き続ける事実である。食べるために働く人々とは生きる次元が異なるのだろう。まして、やりたくもない仕事を嫌々させられている面々とは隔絶した別世界に住んでいる。成功は飽くまでも副次的なものであって、彼らにとっては「世界の仕組みを変えること」こそが働く目的なのだろう。

 レールの上を走る人生は安全ではあるが人跡未踏の地に至ることはない。困難の度が増せば増すほど開拓の喜びは大きいのだろう。