2022-01-12

脳と心/『唯脳論』養老孟司


『ものぐさ精神分析』岸田秀
『続 ものぐさ精神分析』岸田秀
『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ

 ・唯脳論宣言
 ・脳と心
 ・睡眠は「休み」ではない
 ・構造(身体)と機能(心)は「脳において」分離する
 ・知覚系の原理は「濾過」

『カミとヒトの解剖学』養老孟司

 脳と心の関係に対する疑問は、たとえば次のように表明されることが多い。
「脳という物質から、なぜ心が発生するのか。脳をバラバラにしていったとする。そのどこに、『心』が含まれていると言うのか。徹頭徹尾物質である脳を分解したところで、そこに心が含まれるわけがない」
 これはよくある型の疑問だが、じつは問題の立て方が誤まっていると思う。誤まった疑問からは、正しい答が出ないのは当然である。次のような例を考えてみればいい。
 循環系の基本をなすのは、心臓である。心臓が動きを止めれば、循環は止まる。では訊くが、心臓血管系を分解していくとする。いったい、そのどこから、「循環」が出てくるというのか。心臓や血管の構成要素のどこにも、循環は入っていない。心臓は解剖できる。循環は解剖できない。循環の解剖とは、要するに比喩にしかならない。なぜなら、心臓は「物」だが、循環は「機能」だからである。

【『唯脳論』養老孟司(青土社、1989年/ちくま学芸文庫、1998年)】

 つまり、心は脳機能であるということ。作用としての心。心として働く。養老の考え方は諸法無我と似ている。

 脳の構造からいえば思考(大脳皮質)と感情(辺縁系)と運動(小脳)を司るところに心が位置する。

「心」という漢字が作られたのは後代であること(『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登)や、ジュリアン・レインズの二分心を踏まえると、【言葉の後に】心が発生したことがわかる。

 人間にとって言葉は智慧であり、病でもあるのだろう。

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ヒトは「代理」を創案する動物=シンボルの発生/『カミとヒトの解剖学』養老孟司


『唯脳論』養老孟司

 ・霊界は「もちろんある」
 ・夢は脳による創作
 ・神は頭の中にいる
 ・宗教の役割は脳機能の統合
 ・アナロジーは死の象徴化から始まった
 ・ヒトは「代理」を創案する動物=シンボルの発生
 ・自我と反応に関する覚え書き

宗教とは何か?
必読書リスト その三

 抽象とはなにか。それは頭の中の出来事である。頭の中の出来事というのは、感情を別にすれば、つまりはつじつま合わせである。要するに頭の中でどこかつじつまが合わない。そこで頭の外に墓が発生するわけだが、どこのつじつまが合わないかと言えば、それは昨日まで元気で生きていた人間が今日は死んでしまってどこにも居ない、そこであろう。だから墓というものを作って、なんとかつじつまを合わせる。本人は確かに死んでもういないのだが、墓があるではないか、墓が、と。臨終に居あわせ損ねたものの、故人とは縁のあった人が尋ねて来て、尋ねる人はすでに死んだと始めて聞かされた時、物語ではかならず故人の墓を訪れる約束になっている。さもないとどうも話の落ち着きが悪い。その意味では、墓は本人の代理であり、ヒトとはこうした「代理」を創案する動物である。それを私は一般にシンボルと呼ぶ。

【『カミとヒトの解剖学』養老孟司〈ようろう・たけし〉(法蔵館、1992年/ちくま学芸文庫、2002年)】

 頭のいい人特有の強引さがある。死者のシンボルが墓なら、真理のシンボルがマンダラ(曼荼羅)というわけだな。墓は死者そのものではない。飽く迄も代用物である。とすれば、マンダラもまた代用物なのだろう。ところが代用品であるはずのマンダラや仏像が真理やブッダよりも重んじられてしまうのである。つまりアイドル(偶像)となるのだ。その意味においてマンダラとアイドルのポスターに差はない。

 もう一つ重要なシンボルに「言葉」がある。言葉を重視すると経典(あるいは教典)になる。ここでも同じ過ちが繰り返される。シンボルが真理と化すのだ。言葉で悟ることはできない。その厳粛なる事実を思えば、経典は悟りを手繰り寄せる手段に過ぎないのだ。

 一流のアスリートはスポーツという限られた世界での悟りに至った人々だ。しかしながらスポーツでは一流でも人間としては二流、三流の人も存在する。生きること、死ぬことを悟るのはまた別次元のことなのだろう。

IgAの抗菌作用/『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎

 ・IgAの抗菌作用

『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

 健康診断には血液検査が必須とされているように、血液はまさに「健康のバロメーター」。そして、血液と密接な関わりがある唾液にも、血液と同様に病気の兆候を知ることが出来る成分が数多く含まれていることがわかっています。実際、新たな試みとして唾液による医療検査はすでに始まっています。例えば、ストレスの度合いが判定できるストレスチェックが実用化済みのほか、がんや虫歯、歯周病、エイズなども唾液検査でわかるようになっており、とくにがん健診では、早期発見が困難なすい臓がんに対する有効な手段として注目を集めています。
 近い将来、健康診断のメインが唾液検査になる…。そんな可能性は決して低くありません。また今後、唾液検査で人の性格までわかるようになれば、「血液型」ではなく「唾液型」が一般的になるかもしれません。未知の成分に溢れた唾液なら、これからの研究次第では十分ありうる話といえそうです。

【『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一〈つきのき・けいいち〉(扶桑社、2019年)以下同】

 意外と知られていないが、愛し合う二人が口づけを交わすのは「唾液を交換する」のが目的だ。免疫力を高めると考えられている。相性もよくわかる。頭で恋愛をすると大体不幸な結果になりがちだ。男女が惹かれ合うのは理解しやすいが、失恋や離婚のメカニズムには計算が働いているように思う。

 IgAは、風邪やインフルエンザなどの感染症のほか、さまざまな病原菌やウイルスの脅威から私たちの身体を守ってくれています。
 IgAの抗菌作用による免疫発動のメカニズムを詳しく説明しましょう。
 まず、口内で病原体などの異物を発見すると、複数のIgAがそれらにくっつき、口内の粘膜に付着させないように取り囲みます。さrない、IgAに囲まれた異物は、唾液の自浄作用によってほとんどが洗い流されてしまいます。このようにIgAは異物が体内の器官などに侵入して猛威を振るう前に、口に入ってすぐの時点でブロックするのです。

 抗菌物質IgA(免疫グロブリンA)は蟹みたいな形をしている。


 ところが、である。

 無敵を誇るIgAでも口内で活躍できない場所があります。それは、歯周ポケットといわれる歯周病菌がつくった歯と歯茎の間にできる溝の中です。歯周病菌は空気に弱いため、歯周ポケットの中にすみついて炎症を起こしますが、唾液中のIgAは、歯周ポケットの中まで行き届かないため、歯周病菌の活動を止めることができません。
 歯周病菌は口の中の常在菌で、IgAなどによってバランスが保たれていれば、増加して悪さを起こしません。しかし、IgAの分泌量が減るなどが(ママ)原因で歯周病菌が増加してしまうと、助けてくれるはずのIgAがうまく機能できなくなります。それにより、歯周病が進行してしまうのです。万一、歯周病が進行してしまうと、糖尿病や心筋梗塞、狭心症などの命に関わる病気に発展する可能性が高くなります。歯周病が糖尿病を悪化させるということはよく知られています。歯周病が進行すると炎症部分からサイトカインという物質が血中に放出されますが、これは血糖値を下げる働きをもつインスリンを効きにくくし、糖尿病の治療を妨げてしまうのです。糖尿病内科ではこれを改善させるために治療の前に口腔ケアを実行しており、かなりの効果がでています。

 歯周病の怖さがよく理解できる。歯肉を鍛える「犬用ガム」みたいなものを発明すればいいと思う。思い切り噛むと美味しいジュースが滴り落ちるといった機構が望ましい。あるいは歯茎筋トレ用肉とかさ。

 古代の人類は骨を食べていたと考えられている(『親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起原に迫る』島泰三)。食用骨の販売を望む。

2022-01-11

嚥下機能が衰えると喉仏が下がってくる/『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武

 ・嚥下機能が衰えると喉仏が下がってくる

『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎

身体革命

 突然ですが、みなさんに質問です。
 みなさんは、健康長寿を実現するために、もっとも衰えさせてはいけない体の機能は何だと思いますか?

 足腰の筋肉? たしかにそれも重要ですね。筋肉が衰えて歩行がままならなくなれば、寝たきりになる可能性が大きく高まります。
 血管の健康? もちろんこれも重要です。高血圧や高血糖で血管の機能が衰えれば、脳や心臓が重大な病気に見舞われるリスクが高まります。
 しかしみなさん、じつは、筋肉よりも血管よりも、「決して衰えさせてはいけない機能」があるのです。
 それは、【食べ物を飲み込む力】。すなわち【嚥下(えんげ)機能】です。

【『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎〈にしやま・こういちろう〉(飛鳥新社、2017年/文庫版、2019年)以下同】

 嚥下の読みは本来「えんか」である。「えんげ」は同音異語を回避するために医療・介護でまかり通った慣用読みだろう。嚥下とは飲み込む行為のこと。

 死はあらかじめプログラムされている。無性生殖の時代は自分のクローンを次々と作ったわけだから、死はなかったと考えることも可能だ。有性生殖は世代交代を通して進化する。その事実を踏まえれば、嚥下機能が衰えるのは「死の準備段階」なのだろう。ただし日本の場合、死ぬのに時間がかかり過ぎるのだ。ヨーロッパには寝たきり老人がいない。寝たきりになるくらいなら死を選ぶのだ。日本だと本人と社会がそれを認めていない現状がある。もちろん背景にあるのは病院の利益である。

 しかも、これは決して高齢者だけの問題ではありません。
 じつは、飲み込む力は、40代、50代あたりから徐々に低下しています。実際に、30代から誤嚥がはじまっているという報告もあります。嚥下機能は、高齢になってから急に衰えるわけではないのです。

 御意。50代半ば頃から実感できる。誤嚥とは飲み下したものが誤って肺に入ることだ。これが肺炎の原因となる。

 みなさんは、“そういえば、最近、食事中にムセることが多くなったな”と感じてはいませんか? もし心当たりがあるならば、それは、のどの力が衰えて「飲み込み力」が低下してきたという証拠。【「ムセ」は、のどの老化のもっともわかりやすいサインなのです】。

 人は喉から死んでゆくのだろう。

 なお、肺炎で死亡する人のほとんどが75歳以上の高齢者。そして、じつはこうした高齢者の肺炎の【70%以上に誤嚥が関係している】とされているのです。

 ヒトは言葉を発するために誤嚥という犠牲を払った。嚥下と呼吸が紙一重で行われているので明らかに機能としては劣っている。

 ところで、飲み込み力が落ちてくると「見た目」にも明らかなサインが現われることをみなさんはご存じでしたか?
 じつは、【「のど仏」の位置が下がってくるのです】。(中略)
 どうして、のど仏が下がってくるのか。それは、【のど仏を吊り下げている筋肉や腱が衰えてくる】からなのです。

 そいつあ知らなかった。確かに年寄りの喉仏は下がっている。だったらこれを上げればいいわけだな。というわけで簡単な運動が紹介されている。

 嚥下機能を鍛える器具を作れば一儲けできるんじゃないか? あるいは「虎の穴」的な介護施設とか。