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2014-04-29

ダグ・ボイド、瀬谷ルミ子、船山徹、佐藤優、響堂雪乃、他


 15冊挫折、7冊読了。

ヤクザな人びと 川崎・恐怖の十年戦争』宮本照夫(文星出版、1998年)/ルポではなくエッセイ。筆致の軽さが圧縮度を薄めている。ただしエッセイだと割り切ればそこそこ面白い。交渉の仕方としても参考になる。

生の時・死の時』共同通信社編(共同通信社、1997年)/1997年度新聞協会賞受賞ルポ。紙面という限られたスペースであれば、また違った風にも読めたことだろう。だが書籍としてはやはり弱い。中途半端な散文の印象を免れず。各章の目のつけどろこは優れている。

楚漢名臣列伝』宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(文藝春秋、2010年/文春文庫、2013年)/物語の起伏に欠ける。

シェルパ ヒマラヤの栄光と死』(山と溪谷社、1998年/中公文庫、2002年)/これは後回し。書いておかないと読めなくなるので記録しておく。

リデルハートとリベラルな戦争観』石津朋之(中央公論新社、2008年)/硬質な分だけ興味を引きにくい。読者を選ぶ本だ。

孟子(上)』(朝日文庫、1978年)/入門書には適さず。

人間精神進歩史 第1部』コンドルセ:渡辺誠訳(岩波文庫、1951年)/読むのが遅すぎた。

日本人が知らないアメリカの本音』藤井厳喜〈ふじい・げんき〉(PHP研究所、2011年)/文章に締まりがない。

正弦曲線』堀江敏幸(中央公論新社、2009年/中公文庫、2013年)/第61回読売文学賞受賞作。読ませる文章である。数学と詩が融合したような随筆だ。コアなファンがいそうな作家である。

いつまでも美しく インド・ムンバイのスラムに生きる人びと』キャサリン・ブー:石垣賀子訳(早川書房、2014年)/「ピュリッツァー賞受賞ジャーナリストが描くインド最大の都市の真実。全米図書賞に輝いた傑作ノンフィクション」。今回の目玉作品であったが100ページほどで挫ける。文章はいいのだが立ち位置が気になる。

不知火 石牟礼道子のコスモロジー』石牟礼道子〈いしむれ・みちこ〉(藤原書店、2004年)/ファンのためのアンソロジーといった体裁。

本を書く』アニー・ディラード:柳沢由実子訳(パピルス、1996年)/今まで読んだディラード作品では一番面白くなかった。作家向けか。

アングラマネー タックスヘイブンから見た世界経済入門』藤井厳喜〈ふじい・げんき〉(幻冬舎新書、2013年)/この人、妙な前置きをする悪癖がある。『ドンと来い! 大恐慌』が当たったためだろう。もったいぶらずに直球勝負で書くべきだ。

[徹底解明]タックスヘイブン グローバル経済の見えざる中心のメカニズムと実態』ロナン・パラン、リチャード・マーフィー、クリスチアン・シャヴァニュー:青柳伸子訳、林尚毅解説(作品社、2013年)/書籍タイトルに記号を付けるのは邪道である。専門性が高すぎて、読めば読むほどわけがわからなくなる。

足の汚れ(沈澱物)が万病の原因だった 足心道秘術』官有謀〈かん・ゆうぼう〉(文化創作出版マイ・ブック、1986年)/足揉みが民間療法であることは知っていたが理由がよくわかった。講習料金を比較すると若石法(じゃくせきほう)に軍配が上がりそうだ。有名どころとしては他にドクターフットなどがある。所謂リフレクソロジーは法的に曖昧な立場でゆくゆく規制がかかるかもしれぬ。官有謀が立派なところは、「自分で行うのが足揉みの基本」としているところ。

 20冊目『読書という体験』岩波文庫編集部編(岩波文庫、2007年)/飛ばし読みしようと開いたのだが、スラスラと読み終えてしまった。それほど大した内容ではないのだが。

 21冊目『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃〈きょうどう・ゆきの〉(三五館、2013年)/前著『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』と比べると見劣りするが、辞書として使えばよい。響堂雪乃は扇動するメディアに扇動をもって対抗する。

 22冊目『世界と闘う「読書術」 思想を鍛える一〇〇〇冊』佐高信〈さたか・まこと〉、佐藤優〈さとう・まさる〉(集英社新書、2013年)/佐藤優の動きが怪しい。次々と毛色の変わった人物と対談集を編んでいる。副島隆彦との対談と異なり、佐藤が終始リードしている。つまり佐高の方が御しやすかったということなのだろう。あるいは聞く耳を持っていたということか。びっくりしたのだが「あとがき」で佐高が自分のことを「人権派」と称していた。他人の悪口ばかりを集めて本にしてきた男が説く人権とは何ぞや? 佐高は私が最も忌み嫌う人物の一人であるが、本書の価値に傷をつけるものではない。

 23冊目『サバイバル宗教論』佐藤優〈さとう・まさる〉(文春新書、2014年)/臨済宗相国寺での講演を編んだもの。話し言葉でここまで語れるところに佐藤優の凄さがある。読み終える前に「宗教とは何か?」に付け加える。もちろん必読書入りだ。モヤモヤしていた佐藤への疑惑が解消された。佐藤が行ってきたことは「中間層の強化」=「民主主義の補強」であったのだろう。創価学会への接近もこれで理解できよう。ただし沖縄の悲哀を知る佐藤がパレスチナを語らぬ事実に私は不満を覚える。僧侶の質問のレベルが意外と高いのにも驚かされた。

 24冊目『仏典はどう漢訳されたのか スートラが経典になるとき』船山徹(岩波書店、2013年)/労作。読み物ではなく資料だと割り切れば面白く読める。ただし最後の方は飛ばし読み。学術的には意味があるのだろうが、言葉の本質が情報である事実を踏まえると、この分野の裾野が広がることは困難であろう。翻訳に限らずすべての情報は「解釈される性質」をはらんでいる。正統とは歴史であって合理性を意味しない。思い切って言えば、翻訳そのものよりも翻訳後に脳とコミュニティの様相がどう変化したかを検証することが重要だ。日本の宗教に関する学問は一刻も早く文学と歴史の次元から脱却する必要がある。

 25冊目『職業は武装解除』瀬谷ルミ子〈せや・るみこ〉(朝日新聞出版、2011年)/前々から読みたかった一冊だ。ちょっと文章が甘いのだがこれはオススメ。順序としては『裸でも生きる 25歳女性起業家の号泣戦記』山口絵理子→本書→『武装解除 紛争屋が見た世界』伊勢崎賢治が望ましい。更に興味があれば、『NHK未来への提言 ロメオ・ダレール 戦禍なき時代を築く』ロメオ・ダレール、伊勢崎賢治→『なぜ、世界はルワンダを救えなかったのか PKO司令官の手記』ロメオ・ダレールと進めばよい。劣等感に苛まれた一人の少女がどのようにして世界へと羽ばたいたのか。体当たりの青春が美しい。

 26冊目『ローリング・サンダー メディスン・パワーの探究』ダグ・ボイド:北山耕平、谷山大樹訳(平河出版社、1991年)/これは凄い。ただただ凄い。西水美恵子がブータン王国に抱いた印象を私はインディアンに重ねてきた。本書を読んでそれが極まった。ヨーロッパ人がインディアンを虐殺した時、人類の進化は止まったのだろう。彼らこそは無名のブッダでありクリシュナムルティであった。ブッダもクリシュナムルティもインディアン(インド人)だ(ブッダは現在のネパール出身)。密教(スピリチュアリズム)を解く鍵は『世界の名著1 バラモン教典 原始仏典』長尾雅人〈ながお・がじん〉責任編集と本書にあると思われる。

2014-04-28

情報とアルゴリズム


     ・キリスト教を知るための書籍
     ・宗教とは何か?
     ・ブッダの教えを学ぶ
     ・悟りとは
     ・物語の本質
     ・権威を知るための書籍
     ・情報とアルゴリズム
     ・世界史の教科書
     ・日本の近代史を学ぶ
     ・虐待と知的障害&発達障害に関する書籍
     ・時間論
     ・身体革命
     ・ミステリ&SF
     ・必読書リスト

『リサイクル幻想』武田邦彦
養老孟司特別講義 手入れという思想 (新潮文庫)
『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー
『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック
『養老孟司の人間科学講義』養老孟司
『アルゴリズムが世界を支配する』クリストファー・スタイナー
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
・『LIFE3.0 人工知能時代に人間であるということ』マックス・テグマーク
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『苫米地英人、宇宙を語る』苫米地英人
『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』レオナルド・サスキンド
『物質のすべては光 現代物理学が明かす、力と質量の起源』フランク・ウィルチェック
『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー
『宇宙を復号(デコード)する 量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号』チャールズ・サイフェ
『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ
『生命を進化させる究極のアルゴリズム』レスリー・ヴァリアント
『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド
『宇宙を織りなすもの』ブライアン・グリーン

2014-04-08

脳は宇宙であり、宇宙は脳である/『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン


『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ

 ・脳は宇宙であり、宇宙は脳である

『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
『しらずしらず あなたの9割を支配する「無意識」を科学する』レナード・ムロディナウ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル

 脳はニューロンとグリアという細胞が何千億個も集まってできている。その細胞の一つひとつが、都市と同じくらい込み入っている。それぞれに全ヒトゲノムが入っていて、複雑な営みのなかで何十億という分子をやり取りする。一つひとつの細胞がほかの細胞に電気パルスを毎秒何百回も送る。脳内で生じる数十兆のパルスそれぞれを1個の光子で表わしたら、目がくらむような光になるだろう。
 その細胞どうしをつなぐネットワークは驚異的に複雑なので、人間の言語では表現できず、新種の数学が必要だ。典型的なニューロン1個は近隣のニューロンと約1万個の結合部をもっている。何十億というニューロンがあることを考えると、脳組織わずか1立方センチに銀河系の星と同じ数の結合部があることになる。
 あなたの頭蓋骨のなかにある1300グラムのピンク色でゼリー状の器官は、異質な、計算する物質だ。小さな自己設定型のパーツで構成され、私たちがつくろうと志したことのあるどんなものもはるかに超えている。だから、自分が怠け者だとか鈍いと思っている人も、安心してほしい。あなたは地球上で最も活発で、最も鋭い生きものなのだ。
 それにしても、うそのような話だ。私たちはおそらく地球上で唯一、向こうみずにも自らのプログラミング言語を解読するゲームに打ち込むほど高度なシステムである。あなたのデスクトップコンピューターが、周辺装置を操作し始め、勝手にカバーをはずし、ウェブカメラを自分の回路に向けるところを想像してみてほしい。それが私たちだ。

【『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン:大田直子訳(早川書房、2012年『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』改題)】

 今気づいたのだが著者は、リチャード・E・サイトウィック(リチャード・E・シトーウィック改め)『脳のなかの万華鏡 「共感覚」のめくるめく世界』の共著者であるデイヴィッド・M・イーグルマンとたぶん同一人物だろう。

 意識三部作としては、『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ→『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ→本書の順番で読むことを勧める。次にアントニオ・R・ダマシオへ進み、更に『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム、『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ、『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロースを読めば理解が深まる。たぶん天才になっていることだろう。

 宇宙に匹敵する広大な領域。それが脳である。脳が宇宙であるならば、宇宙が脳である可能性も高い(『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド/『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック/『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル)。


 ニューロン(神経細胞)の数は「大脳で数百億個、小脳で1000億個、脳全体では千数百億個にもなる」(理化学研究所 脳科学総合研究センター)。大脳よりも小脳に多かったとは露知らず。そしてニューロンとニューロンをつなぐシナプスは1個につき1万箇所ある(生理学研究所)。ただし脳の状態をいくら調べたところで意識が解明されるわけではない。

何を意識の発生とするか


 私は意識発生のメカニズムを解く鍵は自己鏡像認知にあると考える。既に何度か書いてきたが、自己鏡像認知とは「相手の瞳に映る自分を理解する能力」と定義したい。「私」だけでは意識たり得ない。「私」を客観的かつ抽象的に捉える視点(メタ認知)こそが意識なのだ。

 しかしながら我々の日常生活は無意識で運転されている。

 車でいえば、教習所にいたときには、クラッチを踏んでギアをローに入れて……、と、順番に逐次的に学びます。
 けれども、実際の運転はこれでは危ないのです。同時に様々なことをしなくてはなりません。あるとき、それができるようになりますが、それは無意識化されるからです。
 意識というのは気がつくことだと書きましたが、今気がついているところはひとつしかフォーカスを持てないのです。無意識にすれば、心臓と肺が勝手に同時に動きます。
 同時に二つのことをするのはすごく大変です。けれどもそれは、車の運転と同じで慣れです。何度もやっていると、いつの間にかその作業が無意識化されるようになってくるのです。
 無意識化された瞬間に、超並列に一気に変わります。

【『心の操縦術 真実のリーダーとマインドオペレーション』苫米地英人〈とまべち・ひでと〉(PHP研究所、2007年/PHP文庫、2009年)】

論理の限界/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ

 例えば旅行に行くとしよう。行き先は意識的に選択するが、現地で何を見るかは条件反射的に行われる。すなわち何を見るかを我々は意識的に選べないのだ。五感は外界への反応に基いており、五感情報は一方的に受け取る性質を帯びている。

 意識が発生するのは違和感を覚える場合が多い。他者や世界を自分の外側に強く意識した時、自我意識が立ち上がってくるのではあるまいか。その意味で疎外感を知らない幼児が鏡像認知をできないのは当然である。もちろん国家意識も自我意識から芽生えたものだろう。

 瞑想が諸法無我の実践であるならば、シナプスの発火は止(や)み、自我は解体され宇宙に溶け込むのだろう。ジル・ボルト・テイラーがそう語っている。

あなたの知らない脳──意識は傍観者である (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)心の操縦術 (PHP文庫)


死の恐怖/『ちくま哲学の森 1 生きる技術』鶴見俊輔、森毅、井上ひさし、安野光雅、池内紀編

2014-03-01

マネーと民主主義の密接な関係/『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康


「腐敗した銀行制度」カナダ12歳の少女による講演
30分で判る 経済の仕組み
「Money As Debt」(負債としてのお金)
武田邦彦『現代のコペルニクス』 日本の重大問題(2)国の借金

 ・マネーと民主主義の密接な関係

『マネーの正体 金融資産を守るためにわれわれが知っておくべきこと』吉田繁治
『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート

 マネーと民主主義の欺瞞に斬り込む好著。天野統康〈あまの・もとやす〉はファイナンシャル・プランナーで文章は「わかりやすい合理性」に心を砕いている。資本主義経済は既に政治を凌駕した。政治は経済に収束され、利権に着地する。選挙民は自分の頭で考えることなく、所属している企業・団体・組織・教団が支持する候補に投票する。大衆には責任がない。民主主義は必ず衆愚へと向かう。エントロピーは常に増大するのだ。

 冒頭で天野はマネーの多面性と構造が、「操作される民主主義」「偽りに基づく民主主義」へ誘導されたと指摘する。卓見である。近代をどう定義づけるかによって現代の姿は変わって映る。一般的には国民国家資本主義の誕生といわれるが、その淵源を知らなければただのお題目となる。

 千数百年にわたって積もりに積もってきたキリスト教のストレスは魔女狩りという形で発散した。西洋の中世は暴力の季節であった。その渦中からプロテスタントという花が咲いた。カトリックは金銭欲や私益を戒めた。プロテスタントは聖書を合理的に読み解くことで世俗的な欲望を認めた。

マルティン・ルターとジャン・カルヴァンの宗教改革(プロテスタンティズム)

 国民国家と資本主義といっても要は暴力とカネだ。しかも国民国家を待望したのは身分が不安定で金貸しをやらされてきたユダヤ人であったことも見逃してはなるまい。

何が魔女狩りを終わらせたのか?
「キリスト教征服の時代」から脱却する方途を探る

 資本主義経済と民主主義政治の融合は、ソ連などの20世紀型共産主義諸国が崩壊した後、最も主流となっている政治経済体制である。
 いきなり結論をお伝えするが、今までの自由民主主義諸国のほとんどは、国民よりも金融権力が社会への決定権において上位であった。
 金融権力は自らの金融力を基に、経済体制としての資本主義と、政治体制としての民主主義を巧みに操作してきた。
 この政治システムが実は、「【国際金融権力】」といわれる欧米の金融財閥を頂点とした力関係の中で営まれてきたのである。
 そのことについて、自由民主主義諸国の市民の多くは気づいてこなかった。マネーという、社会をコントロールする最大のツールを乗っ取られたことに気づいてこなかったのだ。
 そんな馬鹿な? と思うかもしれないが事実である。その証拠にマネーがどう作られ、どう無くなるのか知っているかを周りの人に聞いてみるとよい。ほとんどの人は答えられないだろう。
 マネーという支配ツールから目を逸らさせるために、金融権力は多大なる努力を払ってきた。その成果がさまざまな経済学である。経済の最も基本となるマネーについて、経済学は共通の定義をしてこなかった。その結果、ほとんどの人がマネーが増減するシステムを意識していない。

【『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康〈あまの・もとやす〉(成甲書房、2012年)】

 天野は民主主義と資本主義経済が組み合わさった社会を「自由民主主義経済社会」と名づける。布教しているのは第二次世界大戦の戦勝国であるアメリカとイギリスだ。プロテスタント国家でもある。

 我々にとって幸福や価値はカネで量(はか)るものに転落した。それどころかカネがなければ食うこともままならない。この事実がどれほど自然の摂理に反していることだろう。動物は労働とは無縁だ。

 信用創造というユダヤ人が編み出したビッグバンをプロテスタントが採用した。この時、人類の命運は決まった。脳が有するシンボル能力(『カミとヒトの解剖学』養老孟司)はマネーに特化し、すべての価値はカネに換算されるようになった。

 プロテスタントはマルティン・ルターが呈した「贖宥状への糾弾」に端を発している。そして宗教改革は「活版印刷術を用いて安価で大量の宣伝パンフレットを流布」(『宗教改革の真実 カトリックとプロテスタントの社会史』永田諒一)させることで実現した。つまり「カネと広告」だ。

 近代からアメリカが生まれた。ヨーロッパ人はインディアンを大量虐殺し、黒人奴隷を輸入することで栄えた。そのアメリカが世界の頂点に君臨する以上、我々の世界が暴力とカネに彩られることは避けられない。

 マネー・システムと化した世界を読み解く上で格好の入門書。次作にも期待が募る。




 類書を挙げておこう。左上から順番で読むのが望ましい。


 ファイナンシャル・リテラシーについては以下。

ファイナンシャル・リテラシーの基本を押さえる

 租税を回避するオフショア経由のマネーロンダリングについては以下。

マネーロンダリング入門―国際金融詐欺からテロ資金まで (幻冬舎新書)タックス・ヘイブン――逃げていく税金 (岩波新書)タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!

 米英による具体的な世界支配については以下の書評を参照せよ。

経済侵略の尖兵/『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス
環境帝国主義の本家アメリカは国内法で外国を制裁する/『動物保護運動の虚像 その源流と真の狙い』梅崎義人
資本主義経済崩壊の警鐘/『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン

 最後に動画を挙げておく。

Ende's Last Will
『モノポリー・マン 連邦準備銀行の手口』日本語字幕版
『Zeitgeist/ツァイトガイスト(時代精神)』『Zeitgeist Addendum/ツァイトガイスト・アデンダム』日本語字幕
映画『なぜアメリカは戦争を続けるのか』
『アメリカ:自由からファシズムへ』アーロン・ルッソ監督
『ザ・コーポレーション(The Corporation)日本語字幕版』



官僚機構による社会資本の寡占/『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃
「我々は意識を持つ自動人形である」/『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

2014-01-15

苫米地英人、藤原伊織


 2冊読了。

 1冊目『原発洗脳 アメリカに支配される日本の原子力』苫米地英人〈とまべち・ひでと〉(日本文芸社、2013年)/昨年読んだのだが書き忘れていた。良書。何だかんだ言っても苫米地は知らない事実を教えてくれる。しかも合理的思考で。日本の原発はアメリカの古い技術で事実上、日本の国土が原発の住宅展示場状態になっている。しかも日本が原発をつくり、輸出するごとにパテント料はアメリカがせしめるビジネスモデル。飼い犬ニッポンの現状がよく理解できる。原発本に関しては安冨歩〈やすとみ・あゆむ〉著『原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語』、今西憲之+週刊朝日編集部『原子力ムラの陰謀 機密ファイルが暴く闇』を併読せよ。更に深く知りたい人は、村田光平著『原子力と日本病』、ステファニー・クック著『原子力 その隠蔽された真実 人の手に負えない核エネルギーの70年史』を読むこと。

 2冊目『雪が降る』藤原伊織(講談社、1998年/講談社文庫、2001年)/20代で読んだ時は何とも思わなかった。30代後半で読んだ時は心を撃ち抜かれた。50になって読むと拙さが目についた。黒川博行の「解説」も薄気味悪い。作家の解説は私(わたくし)を語るものが多すぎる。仲間内の話を公の場でするな。本書を読む場合は心して「大人の童話」であることを弁えよ。

2013-11-15

佐藤雅典、志賀櫻、ザミャーチン、他


 4冊挫折、3冊読了。

戦争を読む』加藤陽子(勁草書房、2007年)/良書。近代日本の戦争史を書評で綴る。文章がせいせいとして小気味いい。挫けてしまったのは、ただ単に私がこの分野に興味がないため。

夜に生きる』デニス・ルヘイン:加賀山卓朗訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2013年)/訳文のリズムが悪い。丸山健二のエッセイを挫折したのも同じ理由なのだが、セネカ著『怒りについて 他二篇』の文章が凄すぎて、普通の文章を読むことが難しい。

黄昏に眠る秋』ヨハン・テオリン:三角和代〈みすみ・かずよ〉訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2011年/ハヤカワ文庫、2013年)/これも訳文がよくない。出だしも暗すぎる。

仏教は宇宙をどう見たか アビダルマ仏教の科学的世界観』佐々木閑〈ささき・しずか〉(DOJIN選書、2013年)/初めて佐々木閑の著書を読んだのだが、とにかく文章に締まりがない。たぶん二度と読むことはないだろう。

 56冊目『ドアの向こうのカルト 9歳から35歳まで過ごしたエホバの証人の記録』佐藤雅典(河出書房新社、2013年)/これは文句なしで星五つ。既に「覚え書き」に書いた通りだ。ひとつだけ付言すると、カルトと洗脳という言葉遣いがよくない。洗脳は社会から隔離し、睡眠不足に陥れ、更には拷問や薬物などをも利用して脳の内部情報を書き換えることだ。著者は自らの選択であるにもかかわらず「洗脳」と称しており、いくら何でも無責任だと思う。



 57冊目『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻〈しが・さくら〉(岩波新書、2013年)/好著。実務家らしく文章の歯切れがよい。オフショアに関しては橘玲著『マネーロンダリング入門 国際金融詐欺からテロ資金まで』→本書→ニコラス・ジャクソン著『タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』でアウトラインはつかめる。多国籍企業や富豪による租税回避が世界中で貧困が拡大する根本的な原因である。DVD『ザ・コーポレーション』の話がどんどん現実化しつつある。既に国家よりも企業にアドバンテージがあるのだ。

 58冊目『われら』ザミャーチン:川端香男里〈かわばた・かおり〉訳(岩波文庫、1992年)/ディストピア小説の古典である。面白かった。



 というモモタマナ氏の助言に従い、川端訳を選んだのが正解だった。尚、川端は男性である。原書は1927年チェコで出版。ソ連本国では1988年まで禁書扱いされた。もちろん物語としてはオーウェルの『一九八四年』(原書は1949年刊)に軍配が上がるわけだが、社会の行く末を見つめる眼差しはザミャーチンの方が鋭いかもしれない。というか、『一九八四年』は本書を叩き台――あるいはオマージュ――にしているとしか思えない。管理社会への反抗と自由への希求が性愛として描かれている点も一緒だ。「恩人」と「ビッグ・ブラザー」の位置も同じである。それにしてもこの二人は天才的な造語センスの持ち主だ。唯一の瑕疵は暴力性を描いていないところ。

2013-10-05

ブライアン・グリーン、ジェフリー・ディーヴァー、長崎新聞社「累犯障害者問題取材班」、他


 17冊挫折、4冊読了。

脳の探究 感情・記憶・思考・欲望のしくみ』スーザン・グリーンフィールド:新井康允監訳、中野恵津子訳(無名舎、2011年)/図はよいのだが文章がまるでダメ。「脳の本 紹介・書評」で知った1冊。

覚醒(上)』山本譲司(光文社、2012年)/初の小説作品か。何となく言いわけめいたものを感じたのでやめた。

賭ける仏教 出家の本懐を問う6つの対話』南直哉〈みなみ・じきさい〉(春秋社、2011年)/南は僧衣をまとった哲学者だ。彼が宗教者である必要はないだろう。

ヒトはなぜ神を信じるのか 信仰する本能』ジェシー・ベリング:鈴木光太郎〈すずき・こうたろう〉訳(化学同人、2012年)/冗長。あまりにも冗長すぎる。それだけで説明能力を疑ってしまう。これほどの期待外れも久々。

人生がときめく片づけの魔法』近藤麻理恵(サンマーク出版、2010年)/良書。読み終えていないのだが「必読書」に入れた。このお嬢さんは顔つきがよい。文体にもそれが表れている。

素人が書いた複式簿記』岡部洋一(オーム社、2004年)/時間がないため後回し。

シーシュポスの神話』カミュ:清水徹訳(新潮文庫、1969年)/西洋の哲学は「考え過ぎ」だ。ま、それだけ神の束縛が強いのだろう。最初とシーシュポスの件(くだり)だけ飛ばし読み。

動物農場 おとぎばなし』ジョージ・オーウェル:川端康雄訳(岩波文庫、2009年)/新訳。高畠文夫訳と比較しようと思ったのだが時間がなかった。悪くはないと思う。

チャンピオンたちの朝食』カート・ボネガット・ジュニア:浅倉久志訳(早川書房、1984年/ハヤカワ文庫、1989年)/文章が肌に合わず。ボネガットはまだ1冊も読んでない。

ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』NHKスペシャル取材班(角川書店、2012年)/出だしの文章がよくない。まるでスピード感がない。

人間革命をめざす池田大作』高瀬広居〈たかせ・ひろい〉(有紀書房、1965年)/資料。確認したい文言があったため。

中国英傑伝(上)』海音寺潮五郎(文藝春秋、1971年/文春文庫、1978年)/宮城谷昌光が触れていたので読んでみた。過去に海音寺作品の数冊を手に取ったが読み終えた本は1冊もない。

複式簿記のサイエンス 簿記とは何であり、何でありうるか 簿記学対話』石川純治(税務経理協会、2011年)/知識のない私には難しすぎた。

カネと暴力の系譜学』萱野稔人〈かやの・としひと〉(河出書房新社、2006年)/文章の構成が悪い。萱野にしては雑な仕事だ。

身ぶりと言葉』アンドレ・ルロワ=グーラン:荒木亨訳(新潮社、1973年/ちくま学芸文庫、2012年)/こんなに厚いとは思わなかった。後回し。

「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき』スコット・ペイジ:水谷淳〈みずたに・じゅん〉訳(日経BP社、2009年)/著者は集合知と群衆の叡智を混同している。日経らしくタイトルもおかしい。多様な意見が正しいのであれば、世界はとっくに平和になっているはずだ。

宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体(下)』ブライアン・グリーン:青木薫訳(草思社、2009年)/詳細は下記に。

 42、43冊目『死の教訓(上)』『死の教訓(下)』ジェフリー・ディーヴァー:越前敏弥〈えちぜん・としや〉訳(講談社文庫、2002年)/佳作だが読む人を選ぶ作品だ。まだ人気がなかった頃の作品である。それでも面白かった。捜査主任のビル・コードが主人公だが本当の主役は娘のセアラだ。驚くべきことに読者が共感できるのは学習障害を抱えたこの少女に限られている。これは学習障害を理解させるために敢えて行った設定であろう。事件後の大学側の対応と比較するとより一層浮き彫りになる。

 44冊目『居場所を探して 累犯障害者たち』長崎新聞社「累犯障害者問題取材班」(長崎新聞社、2012年)/良書。新聞記事のため物足りなく感じるのは仕方あるまい。累犯障害者については本書から入り、次の順番で読むのがよい。『獄窓記』→『続 獄窓記』→『累犯障害者』→『自閉症裁判 レッサーパンダ帽男の「罪と罰」

 45冊目『宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体(上)』ブライアン・グリーン:青木薫訳(草思社、2009年)/ブライアン・グリーンにも外れがない。血沸き肉踊る天才本だ。これこそ私が求めていた一書である。今まで知り得た科学知識も本書によって一段と整理された。が、しかしである。下巻で挫けた。チンプンカンプンだった。私の知識ではちょっと追いつけない。ってなわけで、2~3年勉強してから再び取り組む予定だ。こちらも「必読書」入り。

2013-09-23

ジュリアン・ジェインズ著『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』の手引き


『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン
『死と狂気 死者の発見』渡辺哲夫

 ・手引き
 ・唯識における意識
 ・認識と存在
 ・「我々は意識を持つ自動人形である」
 ・『イーリアス』に意識はなかった

『新版 分裂病と人類』中井久夫
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー

 やっと半分読み終えたところだ。568ページの大冊。いきなり取り掛かっても理解に苦しむことと思われるので、併読すべき関連書を示しておく。

■(サイ)の発見/『白川静の世界 漢字のものがたり』別冊太陽




ソマティック・マーカー仮説/『デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳』(『生存する脳 心と脳と身体の神秘』改題)アントニオ・R・ダマシオ





「意識の誘引」→「意識への誘因」に訂正



 まずは外堀から埋めてゆこう。

ネオ=ロゴスの妥当性について/『死と狂気 死者の発見』渡辺哲夫

 次に物語の意味を学ぶ。

物語る行為の意味/『物語の哲学』野家啓一

 続いて歴史の本質を知る。

世界史は中国世界と地中海世界から誕生した/『世界史の誕生 モンゴルの発展と伝統』岡田英弘
読書の昂奮極まれり/『歴史とは何か』E・H・カー
歴史の本質と国民国家/『歴史とはなにか』岡田英弘
コロンブスによる「人間」の発見/『聖書vs.世界史 キリスト教的歴史観とは何か』岡崎勝世

 で、『ユーザーイリュージョン』へ進みたいところだが、基本的な科学知識がない場合は以下を読む。

太陽系の本当の大きさ/『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン

 そして意識を巡る探究においては本書と双璧を成す神本(かみぼん)。

エントロピーを解明したボルツマン/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ

 ここまで読めば多くの人々が「自分は天才になってしまった」と錯覚することができるだろう(笑)。だが本気で英知を磨きたいのであれば更に以下へと進む。

『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー:竹内薫訳(新潮社、2009年/新潮文庫、2012年)
『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド:依田卓巳〈よだ・たくみ〉訳(NTT出版、2011年)
『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー:鈴木光太郎、中村潔訳(NTT出版、2008年)
脳は神秘を好む/『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロース
誤った信念は合理性の欠如から生まれる/『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ
『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム:渡会圭子〈わたらい・けいこ〉訳(インターシフト、2011年)
宗教の原型は確証バイアス/『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
指数関数的な加速度とシンギュラリティ(特異点)/『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル

 以上である。「ざまあみやがれ」というほど頭がよくなる。我ながら素晴らしいラインナップだ。「さすが本読み巧者」と褒めてくれ給え。



言語的な存在/『触発する言葉 言語・権力・行為体』ジュディス・バトラー
脳は宇宙であり、宇宙は脳である/『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』デイヴィッド・イーグルマン
デカルト劇場と認知科学/『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー
高砂族にはフィクションという概念がなかった/『台湾高砂族の音楽』黒沢隆朝
信じることと騙されること/『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』内山節
『カミの人類学 不思議の場所をめぐって』岩田慶治
『歴史的意識について』竹山道雄

2013-04-15

『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック:楡井浩一訳(新潮社、2013年)


情報理論の父クロード・シャノン

 これはオススメ。個人的にはプロローグだけでも2000円の価値はあると思う。併読書籍も挙げておこう。

インフォメーション: 情報技術の人類史

 言葉も、生命も、宇宙さえも――すべては「情報」である! 壮大な文明史。人類は太古からあらゆる手段でメッセージを伝えあってきた。アフリカ奥地のトーキング・ドラムに始まり、文字の発明や辞書製作など古代からの叡智、近代の計算機や遠隔通信技術の開発、そして現代の遺伝子解読や量子力学と情報理論の結合まで、「情報」を操る数多の試みを見つめ直し、壮大なスケールで世界の本質を問い直す。

ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い史上最大の発明アルゴリズム: 現代社会を造りあげた根本原理(ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ) (ハヤカワ文庫 NF 381)宇宙をプログラムする宇宙―いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?

苫米地英人、宇宙を語るプルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?

1ビットの情報をブラックホールへ投げ込んだらどうなるか?/『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』レオナルド・サスキンド
『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ
『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド
生命とは情報空間と物理空間の両方にまたがっている存在/『苫米地英人、宇宙を語る』苫米地英人
文字を読む脳からデジタルな脳への移行

2013-02-01

岩本沙弓


 1冊読了。

 5冊目『新・マネー敗戦 ドル暴落後の日本』岩本沙弓〈いわもと・さゆみ〉(文春新書、2010年)/岩本は元ディーラーで私は少なからず影響を受けている。で、初めて著書を読んだ。ぶったまげた。新書によくこれだけの内容を詰め込んだものだ。文章にも切れがある。ドルを始めとする外国為替の歴史や仕組みがよく理解できる。タイトルは吉川元忠著『マネー敗戦』に由来。

 お金に興味のある人はまず「ファイナンシャル・リテラシーの基本を押さえる」を読み、河邑厚徳〈かわむら・あつのり〉、グループ現代著『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』へと進み、それから本書を開き、更に宋鴻兵〈ソン・ホンビン〉を紐解くとよい。尚、信用詐欺経済の胴元である世界銀行やIMFについては西水美恵子著『国をつくるという仕事』、ジョン・パーキンス著『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』を参照せよ。また第二次世界大戦前後のアメリカ経済については菅原出著『アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか』が詳しい。

2013-01-05

セス・ロイド


 1冊読了。

 2冊目『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド:水谷淳〈みずたに・じゅん〉訳(早川書房、2007年)/情報と宇宙を「計算」という概念で読み解いた一書。2013年の1位は本書でほぼ決まりか。「初めにビットありき」――「あ」と思った瞬間、陸続と「!」が脳内を駆け巡った。少々難しい内容も含まれるが、「宇宙は量子コンピュータである」という展開は非上にわかりやすい。つまり生命とは「情報処理の当体」と考えることが可能だ。


関連書

宇宙を復号する―量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号量子が変える情報の宇宙ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い物質のすべては光―現代物理学が明かす、力と質量の起源

脳は宇宙であり、宇宙は脳である/『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』デイヴィッド・イーグルマン

2012-09-11

寺田寅彦


 5冊読了、というのは真っ赤な嘘だ。読み終えていないのだがカウントしてしまえ。

 49~53冊目『寺田寅彦随筆集 全五冊』寺田寅彦(岩波文庫、1947年)/読書家にとって垂涎の随筆と言い切っておこう。実はまだ30ページほどしか読んでいないのだが、私は山海の珍味のごとく少量ずつ楽しむことにした。だから、あらん限りの忍耐力を総動員して遅読に挑む。この滴り落ちるような懐かしさは何なのか? 「ああ、私も日本人であったのだ」という感慨がどっと押し寄せてくる。巻頭の「どんぐり」に胸を突かれた。1963年改版となっており、それ以前のものは旧漢字である。唯一の難点は活字が小さいこと。折を見つけてワイド版を入手しようと思う。以下の順番で読むのも一興か。

新訂 福翁自伝 (岩波文庫) 氷川清話 (講談社学術文庫) 銀の匙 (岩波文庫)

ワイド版第一巻 ワイド版第二巻 ワイド版第三巻 ワイド版第四巻 ワイド版第五巻

枕がないことに気づかぬほどの猛勉強/『福翁自伝』福澤諭吉
日清戦争に反対した勝海舟/『氷川清話』勝海舟:江藤淳、松浦玲編
『銀の匙』中勘助

2012-09-06

ジル・ボルト・テイラー


 1冊読了。

 47冊目『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー:竹内薫訳(新潮社、2009年/新潮文庫、2012年)/一昨日読了。少々高っ調子(ハイテンション)な文章が鼻につくが内容は文句なし。類書に山田規畝子〈やまだ・きくこ〉著『壊れた脳 生存する知』があるが、山田が障害世界を描いたのに対し、ジル・ボルト・テイラーは脳という宇宙を経験したといってよい。順序としてはトーマス・ギロビッチ著『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』→ロバート・カーソン著『46年目の光 視力を取り戻した男の奇跡の人生』→本書→アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロース著『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』→トール・ノーレットランダーシュ著『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』と進むのがいいだろう。最大の問題は、アナロジーが死の象徴化から始まり、「宗教の原型は確証バイアス」とすれば、宗教は左脳から誕生しながらも宗教体験(悟り)は右脳で行われることになる。数年前から「本覚論(ほんがくろん)を修行論ではなく時間論で捉えるべきだ」と考えてきたが、本書に蒙(もう)を啓(ひら)かれほぼ解決した。「宗教とは何か?」「必読書」に追加。

2012-08-26

飯嶋和一


 1冊読了。

 42冊目『黄金旅風』飯嶋和一〈いいじま・かずいち〉(小学館、2004年/小学館文庫、2008年)/史実に基づいたのであろうか。今まで読んだ中では最もドラマ性に欠ける。が、それゆえに放つ光彩がある。長崎のカピタン平蔵こと末次平蔵の跡継ぎ・平左衛門(平蔵茂貞)の物語である。政治・経済から軍事・貿易・司法に至るまでを網羅した政治小説だ。徳川家光の時代にあって長崎の民の生活を守るために幕府を動かした地方行政官がいた。その事実に驚愕する。キリシタン迫害の記述も多く、海老沢泰久著『青い空』を読んだ人は必読のこと。それにしても続篇と思われる『出星前夜』が品切れなのはどうしたことか?

2012-08-10

デイヴィッド・バーリンスキ


 1冊読了。

 40冊目『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ:林大〈はやし・まさる〉訳(早川書房、2001年/ハヤカワ文庫、2012年)/華麗な筆致、流麗な文体でアルゴリズムを解き明かした天才本(てんさいぼん)だ。中程はまったく理解できなかったが、忍耐力を総動員する価値は十分にある。それにしても文章が素晴らしい。序盤の訳文に違和感を覚えたが、原文が相当凝った文体であるためと訳者あとがきに記されている。トール・ノーレットランダーシュ著『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』と、レオナルド・サスキンド著『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』は必ず事前に読んでおきたい。それも歯が立たないようであれば、以下から取り組むこと。

人類が知っていることすべての短い歴史ゲーデルの哲学 (講談社現代新書)

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)知性の限界――不可測性・不確実性・不可知性 (講談社現代新書)感性の限界――不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)

2012-07-25

権威を知るための書籍


     ・キリスト教を知るための書籍
     ・宗教とは何か?
     ・ブッダの教えを学ぶ
     ・悟りとは
     ・物語の本質
     ・権威を知るための書籍
     ・情報とアルゴリズム
     ・世界史の教科書
     ・日本の近代史を学ぶ
     ・虐待と知的障害&発達障害に関する書籍
     ・時間論
     ・身体革命
     ・ミステリ&SF
     ・必読書リスト

「自分は権威とは無縁だ」――そう思っている人は既にコントロールされる側に身を置いていると考えてよい。権威と権力は異なる。権力が外圧性・暴力性を帯びているのに対して、権威は内発的に従わせる力を持っている。我々は知識人、専門家、技術者、すなわちオーソリティの言説を疑おうとしない。原発だって事故が起こるまではさほど疑問も抱かなかったはずだ。

 少々畑違いの書籍も入っているが、ま、古本屋の良心だと思っていただければ、これ幸い。

 権威のメカニズムを解体するには、ここから「物語」を読み解く必要がある。

物語の本質~青木勇気『「物語」とは何であるか』への応答



『無責任の構造 モラルハザードへの知的戦略』岡本浩一
『権威主義の正体』岡本浩一
『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『服従の心理』スタンレー・ミルグラム
『権威の概念』アレクサンドル・コジェーヴ
『一九八四年』ジョージ・オーウェル
『ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記』レヴェリアン・ルラングァ

2012-07-21

アドルフ・ヒトラーとジョン・F・ケネディの演説



 驚くべきことにヒトラーの演説は結論部分が、ケネディの大統領就任演説と一致している。

 だからこそ、米国民の同胞の皆さん、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。 あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい。

大統領就任演説(1961年) ジョン・F・ケネディ




 とすると第二次世界大戦後のアメリカとユダヤ資本はヒトラーの実績から多くを学んだ可能性がある。ジョン・F・ケネディの父親ジョセフ・P・ケネディやジョージ・W・ブッシュ大統領の曽祖父にあたるジョージ・ウォーカーはヒトラーを支持していた。

 私はノーマン・G・フィンケルスタイン著『ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』を読み、ヒトラーを悪の代名詞として扱う言説を一切信用しなくなった。尚、ヒトラーを生むに至るまでのドイツの情況については以下の書籍が詳しい。

文庫 アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか (草思社文庫)
菅原 出
草思社
売り上げランキング: 145,277

ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ 影の支配者たちがアジアを狙う
宋 鴻兵
武田ランダムハウスジャパン
売り上げランキング: 136,074

通貨戦争 影の支配者たちは世界統一通貨をめざす
宋 鴻兵
武田ランダムハウスジャパン
売り上げランキング: 161,206

アメリカ経済界はファシズムを支持した/『アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか』菅原出
ジョン・F・ケネディ
ガンジーがヒトラーへ宛てた手紙「我が友よ」

2012-02-13

宗教とは何か?


     ・キリスト教を知るための書籍
     ・宗教とは何か?
     ・ブッダの教えを学ぶ
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     ・時間論
     ・身体革命
     ・ミステリ&SF
     ・必読書リスト

 忘れないうちに記録しておく。いきなり読んでも理解に苦しむことと思われるので、せめてキリスト教の知識を身につけてから読むことが望ましい。

『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠
『バガヴァッド・ギーター』上村勝彦訳
『イエス』ルドルフ・カール・ブルトマン
『イスラム教の論理』飯山陽
『ものぐさ精神分析』岸田秀
『続 ものぐさ精神分析』岸田秀
『唯脳論』養老孟司
『カミとヒトの解剖学』養老孟司
『死生観を問いなおす』広井良典
『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』高橋昌一郎
『理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性』高橋昌一郎
『知性の限界 不可測性・不確実性・不可知性』高橋昌一郎
『感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性』高橋昌一郎
『異端の数ゼロ 数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念』チャールズ・サイフェ
『巷の神々』(『石原愼太郎の思想と行為 5 新宗教の黎明』)石原慎太郎
『マインド・コントロール』岡田尊司
『宗教で得する人、損する人』林雄介
『完全教祖マニュアル』架神恭介、辰巳一世
『サバイバル宗教論』佐藤優
『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』小室直樹
『宗教は必要か』バートランド・ラッセル
『精神の自由ということ 神なき時代の哲学』アンドレ・コント=スポンヴィル
『神は妄想である 宗教との決別』リチャード・ドーキンス
『解明される宗教 進化論的アプローチ』 ダニエル・C・デネット
『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」が生まれたとき』山極寿一、小原克博
『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン
『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー
『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロース
『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ
『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」がうまれたとき』山極寿一、小原克博
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』デイヴィッド・イーグルマン
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ
『なぜ、脳は神を創ったのか?』苫米地英人
『苫米地英人、宇宙を語る』苫米地英人
『子供たちとの対話 考えてごらん』J・クリシュナムルティ
『いかにして神と出会うか』J・クリシュナムルティ
『恐怖なしに生きる』J・クリシュナムルティ
『生の全体性』J・クリシュナムルティ、デヴィッド・ボーム、デヴィッド・シャインバーグ
『ブッダの真理のことば 感興のことば』中村元訳
『ブッダのことば スッタニパータ』中村元訳

 ・宗教とは何か?/『子供たちとの対話 考えてごらん』J・クリシュナムルティ
 ・宗教とは何かを理解するための6つの諸類型かんたんなまとめ
 ・宗教とは何か
 ・宗教とは何か?
 ・「宗教とは何か」真宗大谷派 福壽山 圓光寺

2012-01-08

物語の本質~青木勇気『「物語」とは何であるか』への応答


     ・キリスト教を知るための書籍
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     ・虐待と知的障害&発達障害に関する書籍
     ・時間論
     ・ミステリ&SF
     ・必読書リスト

 氏家〈うじけ〉さんのツイートで青木勇気というライターの存在を知った。


多数派か少数派かによって変わる“確からしさ”について | アゴラ 言論プラットフォーム

 BLOGOSは私の趣味に合わないため殆ど見ることがない。何て言うんでしょうな。インチキ臭い(笑)。多分、編集方針がないためだろう。雑多というよりは、まとまりを欠いているというべきか。

 早速、本人のブログを読んだ。

Write Between The Lines.

 先の記事もそうだがとにかく文章がいい。読んでいて気持ちがよくなってくる。その上、箴言力(コピーライティングのセンス)があるのだから侮れない。

 で、注目に値する記事を発見した。

「物語」とは何であるか

 私の専門分野だ(ニヤリ)。ケチをつけようと思えばどんな角度からもつけることが可能だ(笑)。しかし、私が「物語」に気づいたのは4年前のことである。青木は私より一回り以上も若い。ならば援護射撃をすべきだろう。

 私が「物語」を悟ったのは、上杉隆著『官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』を読んだことに始まる。それ以前から「思想とは物語である」という持論があったのだが、上杉を通して「物語を編む」営みに初めて気づいた。

 私は文筆家ではなく古本屋のため、ここはやはり読書の水先案内としておこう。

 その頃、私が吹聴していた「物語論」は、岸田唯幻論の幻想とは違った。世界の構造・結構としての物語性であった。生きることが物語なのではない。我々は物語を生きるのだ。

唯幻論の衝撃/『ものぐさ精神分析』岸田秀

 森達也の『A』はカメラの位置をオウム信者側にしただけで物語を反転させてみせた。

森達也インタビュー

 その意味で私の小さな思いつきが完全な形で表現されたのが、野家啓一〈のえ・けいいち〉著『物語の哲学』であった。

「理想的年代記」は物語を紡げない/『物語の哲学 柳田國男と歴史の発見』野家啓一

 もうね、ぐうの音も出なかったよ。当時は野家啓一が神様に思えたほどだ。きちんと書評を書いていないので一両日中にアップする予定。

 ここからが私の本領を発揮する地点だ。まずは歴史。理想的年代記が物語を紡げないのであれば、物語を編むのは歴史家の仕事となる。つまり歴史トピックの取捨選択に物語性が込められているのだ。ここでわかるように物語性の本質とは「因果関係」(=起承転結)である。

 そこでまず世界史という物語の枠組みを知る必要がある。

世界史は中国世界と地中海世界から誕生した/『世界史の誕生 モンゴルの発展と伝統』岡田英弘

 次に歴史という概念を学ぶ。

読書の昂奮極まれり/『歴史とは何か』E・H・カー
歴史の本質と国民国家/『歴史とはなにか』岡田英弘

 本気で勉強するなら、ここで野家本を再読するのが望ましい。

 で、先ほど申し上げた因果関係を木っ端微塵に粉砕するのがこれ。

歴史が人を生むのか、人が歴史をつくるのか?/『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン

 ここからの急降下はジェットコースター級となる。諸君、振り落とされるなよ(笑)。

 まずは岸田唯幻論を踏まえた上で脳機能を知っておこう。

唯脳論宣言/『唯脳論』養老孟司

 で、「負の物語」ともいうべき迷信・誤信について書かれたのが以下。

怨霊の祟り/『霊はあるか 科学の視点から』安斎育郎
誤った信念は合理性の欠如から生まれる/『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ

 人類が創作した最大の物語は「神」であろう。

脳は神秘を好む/『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロース

 ここで振り出しに戻って物語を見つめる。

必然という物語/『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー

 次は変化球になってしまうが、「相関関係=因果関係ではない」ことを学ぶのに欠かせない。

相関関係=因果関係ではない/『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン

 医療や製薬会社を取り巻く「業界の物語」と置き換えることも可能だ。

 そろそろ最終コーナーに差し掛かる。

比較トラップ/『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー

 更に加速しよう。ラストスパートだ。

エントロピーを解明したボルツマン/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
視覚の謎を解く一書/『46年目の光 視力を取り戻した男の奇跡の人生』ロバート・カーソン
宗教の原型は確証バイアス/『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド
『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム

 これで大体、「物語の本質」は征服できる。あとは止(とど)めの2冊だ。

服従の本質/『服従の心理』スタンレー・ミルグラム
現在をコントロールするものは過去をコントロールする/『一九八四年』ジョージ・オーウェル

 物語の正体は確証バイアスであり、確証バイアスから宗教が生まれた。一言で書いてしまうと身も蓋もないように思えるだろうがそうではない。人間の「錯覚できる能力」が物語を紡ぎ出すのだ。

 ゆえに困難や危機が訪れるたびに「人類の物語」を更新してゆくことが正しい。個人においても同様である。

 ただし真の宗教性に立てば「物語=主役としての自我」から離れることが唯一の道となる。神という創造物は人類にとっての自我も同然であって、それ自体が物語にすぎない。今のところ真の宗教性として認められるのはブッダの初期経典とクリシュナムルティのみである。

 最後に青木の著作を紹介しておく。彼の勁草(けいそう)を思わせる柔らかな感性に期待したい。



物語る行為の意味/『物語の哲学』野家啓一
物語
虐待による睡眠障害/『消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ』高橋和巳
『手にとるようにNLPがわかる本』加藤聖龍
『ストーリーが世界を滅ぼす 物語があなたの脳を操作する』ジョナサン・ゴットシャル