2021-08-22

日本はサイバー後進国/『正論』2021年6月号


『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 ・経済安全保障 日本の惨状
 ・日本はサイバー後進国
 ・国立大学の反自衛隊イデオロギー

兼原●20年前のことですが、小泉純一郎首相がアフガニスタンでの米軍による「不朽の自由作戦」に対して海上自衛隊の護衛艦などを出しました。首脳間では、人の戦争に自国の軍隊を出すというのはすごい貸しになるんです。喜んだブッシュ大統領は「ジュンは盟友だ!」となった。そこで、日米で情報協力を進めようという話になったんですが、CIA(中央情報局)は反対したらしいんですよ。「そもそも日本政府はデジタル情報の統合が極端に遅れており、サイバーインテリジェンスも知らないし、サイバーセキュリティも恐ろしく甘い」と。この状況は今でも変わりません。

手塚●欧州連合(EU)が始めた「EU一般データ保護規制(GDPR)」の運用は、EUを含む欧州経済領域内で取得した個人データの海外移転を原則禁止しています。それに比べて日本は対応がすごく甘い。データセンターは海外の方が人件費などのコストが安いから、そっちを利用してしまうわけです。

兼原●スパコンは、例えばこの瞬間の日本の全ての電信通話を入れても量的に平気なんですよね。スパコンというのは大体1台回すのに数万世帯分ぐらいの電気を消費しますが、当然日本の電気料金は高いし、日本のスパコンもクラウドも高いわけですよ。

手塚●土地も高い。建物を置いてサーバーとか置かなきゃいけませんから。ある国がどこかの会社にサーバー管理をやらせて、政府から補助金をもらって「安いですよ」と世界中で売って回って簡単に引っかかるのは多分日本人だけです。

【「特集 経済安全保障 日本の惨状」/『正論』2021年6月号】

 サイバー特区を作る他あるまい。地震の少ない富山自然災害の少ない栃木災害に強い滋賀、佐賀、香川あたりが候補地だろう。個人的には瀬戸内海に面している県が望ましいと思う。

 頭のよいエリートは理論に走り過ぎて現実を見失う傾向がある。すなわち計画経済的な発想では国民が苦しむ結果となる。それゆえ国家のグランドデザインを描くためには様々なタイプの人材を活用することが不可欠だ。特に過去の戦争研究が必要で、なぜ失敗したのか、どこをどうすれば変わったのかを具体的にしなければ、またぞろ同じ轍(てつ)を踏むことになろう。就中(なかんづく)、戦前から引き継がれてきた官僚システムを一新するのが急務である。

 日本の安全保障についてはもはや自民党では無理だろう。新党結成の動きを待つしかない。現在の自民党が親中派に蝕まれているとすれば、袂(たもと)を分かつ政治家が出てきて当然だ。むしろ出ない方がおかしい。

 国防予算はGDPの3%程度、軍需産業を復活させれば景気対策にもなる。その手始めとしてサイバー特区を進めるべきだ。

2021-08-21

経済安全保障 日本の惨状/『正論』2021年6月号


『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 ・経済安全保障 日本の惨状
 ・日本はサイバー後進国
 ・国立大学の反自衛隊イデオロギー

兼原●トランプ政権の時、アメリカは中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の使用を一時止めましたが、なぜTikTokがだめなのか。入力している色んな情報、例えば生年月日、クレジットカードとか、おそらく全部中国のサーバーに抜かれるんです。彼らはそれをスパコンを使ってAIをかけて高度なインテリジェンス情報に加工できる。塵(ちり)の山からダイヤモンドが生まれるんです。
 人工知能は、人間がペーパーで情報分析すれば数年かかる作業を一瞬でやってしまう。例えばミスター何某が著名なテロリストと接触している可能性のある場所と時間、泊まったホテル、乗った飛行機、借りた車、そのときの写真や電話通信の音声記録などを一瞬で割り出してしまう。一見どうでもよい大量のデータ自身が、人工知能のお蔭で非常に価値の高いインテリジェンスを生むのです。宝の山なんです。中国、ロシアには、そもそも「個人情報だから」なんて言う遠慮はないんですよ。
 これが現代のサイバーインテリジェンスです。これが怖い。日本人は抜かれた情報がどうなるのかを誰も考えていない。LINE問題も同じです。

【「特集 経済安全保障 日本の惨状」/『正論』2021年6月号】

 兼原信克〈かねはら・のぶかつ〉(元内閣官房副長官補、同志社大学特別客員教授)と手塚悟〈てづか・さとる〉(慶應義塾大学教授)の対談。聞き手は田北真樹子〈たきた・まきこ〉(月刊正論編集長)。

 こうした鮮度の高い情報はブックレット形式でどんどん出版すべきだろう。インターネットによって読書量が減ったと言われるが、読んでいる活字の量は同程度か、むしろ増えたと考えてよい。読む対象が紙の文字からデジタルのフォントに変わっただけだ。もしもジェネレーションZ(デジタルネイティブ)と呼ばれる世代が本を読まなくなったとすれば、出版社は書籍の体裁を変えるのが当然だろう。版型を小さくしたブックレット形式が望ましいと私は考える。

 私はかつてフェイスブックを使っていたが直ぐにやめた。個人情報の流用を指摘する声が少なからずあったからだ。仕事で使っていたLINEもパソコンで使えなくなったタイミングでやめた。ちょうど女性の延々と続く雑談トークに辟易していたところだった。私の個人情報はとっくにバレバレなのだが、それでも相応の慎重さが求められる。ツイッターの投稿ですらプライバシーに関わる不用意な発言は控えている。

 もちろん私の個人情報にさほど価値があるわけではない。だがあらゆる情報にはデータとしての価値があるのだ。風が吹けば桶屋が儲かるという構図は因果関係を辿ったものだが、ビッグデータは風以外の情報から相関関係をピックアップして桶屋の儲けを導き出す。因果関係だけでは未来予測ができない。

 かつて「歯車」と称された人間は、より卑小な存在に格下げされてアトム化に至る。人々は平均値を目指して平準化せざるを得ない。やがてはビッグデータを支えるべく率先して個人情報を公にし、あるいは自分や他人の個人情報を売買することになるのは時間の問題だろう。

2021-08-19

世界金融システムが貧しい国から富を奪う/『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』河邑厚徳、グループ現代


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『平成経済20年史』紺谷典子
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎

 ・貨幣経済が環境を破壊する
 ・紙幣とは何か?
 ・「自由・平等・博愛」はフリーメイソンのスローガン
 ・ミヒャエル・エンデの社会主義的傾向
 ・世界金融システムが貧しい国から富を奪う
 ・利子、配当は富裕層に集中する

・『税金を払う奴はバカ! 搾取され続けている日本人に告ぐ』大村大次郎
・『無税国家のつくり方 税金を払う奴はバカ!2』大村大次郎
『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー

必読書リスト その二

 世界をおおう金融システムとその上に乗って自己増殖しながら疾駆する「貨幣」は、人間労働の成果と自然を含む価値高い資源を、貧しい国から富める国へと移す道具となっている。
 本来の役割を終えた貨幣は「利が利を生むことをもって至上とするマネー」となった。この変質する貨幣の全体が『エンデの遺言』に凝縮されている。エンデは予言している。
「今日のシステムの犠牲者は、第三世界の人びとと自然にほかなりません。このシステムが自ら機能するために、今後もそれらの人びとと自然は容赦なく搾取されつづけるでしょう」(NHK番組『エンデの遺言』より)
 今日、世界をめぐるマネーは300兆ドルといわれる(年間通貨取引高)。地球上に存在する国々の国内総生産(GDP)の総計は30兆ドル。同じく世界の輸出入高は8兆ドルに過ぎない。
 この巨大な通貨の総体はそのままコンピューターネットワークを従僕とした世界金融システムと同義であり、その世界金融システムは「商品として売買される通貨」をこそ前提としている。
 そのゆえに「世界市場化」(グローバライゼーション)の本意は、自由奔放なる商品としてのマネーの襲撃から地域と社会を遮断(しゃだん)するいかなる防衛システムも機能不全に陥れるか、あるいはまたそのような防衛システム不在のバリアフリー社会を普遍化すべく、高度なノウハウを総動員しようとはかる強烈な意思のなかに見ることができる。
 言葉を換えていえば、いまや世界のすべての地域と人は、そのようなマネーの暴力の前に裸で身をさらすことを余儀なくされているのである。
(『エンデの遺言』 その深い衝撃/内橋克人)

【『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』河邑厚徳〈かわむら・あつのり〉、グループ現代(NHK出版、2000年/講談社+α文庫、2011年)】

 行き過ぎた資本主義の形を戒めるとすれば社会主義的な色彩が強くなるのは当然なのだが、そこに党派性があれば話は少し変わってくる。ある政治信条を鼓吹する姿勢が隠されているならば批判は誘導のための道具と化す。今再読すれば印象はかなり変わることだろう。

 初版は2000年2月1日の刊行である。9.11テロの7ヶ月前だ。内橋克人〈うちはし・かつと〉の指摘は正確にグローバリゼーションの本質を衝いている。しかしながら、「だから地域通貨」とはならない。

 本来は巨大資本の暴力性に対抗すべく考案されたのがビットコインであった(『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー)。金融は既に融資から、コントロール~支配へと変貌を遂げた。

 マネーの歴史や意味を知る上では良書だが、ドル崩壊後の世界を見通せるほどの眼力はない。

2021-08-16

「精神世界」というジャンルが登場したのは1977年/『身心変容技法シリーズ① 身心変容の科学~瞑想の科学 マインドフルネスの脳科学から、共鳴する身体知まで、瞑想を科学する試み』鎌田東二編


岡野潔「仏陀の永劫回帰信仰」に学ぶ
『業妙態論(村上理論)、特に「依正不二」の視点から見た環境論その一』村上忠良
『21世紀の宗教研究 脳科学・進化生物学と宗教学の接点』井上順孝編、マイケル・ヴィツェル、長谷川眞理子、芦名定道

 ・「精神世界」というジャンルが登場したのは1977年

 1977年、初めて東京都内の大手書店が開催したフェアで「精神世界」を銘打ったコーナーが設けられ、以後、「精神世界」という言葉が流行語のようになり、書店のコーナーばかりでなく、一般メディアなどでも用いられるようになった。その『精神世界」には、超能力やオカルティズムや密教の流行とも連動しつつ、宗教的伝統に根ざす諸種の瞑想や近代以降に展開された身体修練などさまざまな実践的な身体技法が含まれていた。

【『身心変容技法シリーズ① 身心変容の科学~瞑想の科学 マインドフルネスの脳科学から、共鳴する身体知まで、瞑想を科学する試み』鎌田東二〈かまた・とうじ〉編(サンガ、2017年)】

 多分、ニューエイジ(『現代社会とスピリチュアリティ 現代人の宗教意識の社会学的探究』伊藤雅之)の影響だろう。盛り上がりを見せた精神世界もバブル景気を経て、オウム真理教による地下鉄サリン事件(1995年)で潰(つい)えてしまう。コントロールされた精神がたやすく暴力に向かうことをまざまざと見せつけられたわけだ。それ以降、潮流は脳科学へ向かい、そして再び身体に戻りつつある。9.11テロ(2001年)は「心の時代」の到来を拒むような出来事であった。個人的には何らかの陰謀があったと考えているが、世界の人々が感じたのは「宗教と暴力の親和性」であった。

 読み始めたばかりだが鎌田東二の序文がよくない。エリアーデ、ベルクソン、ウィリアム・ジェームズを水戸黄門の印籠さながらに振りかざす姿勢が、権威に依存する学者の体質をよく表している。内田樹〈うちだ・たつる〉の名前もあるので最後まで読むことはできそうにない。

 また長過ぎる書籍タイトルが自信の無さを示しているようにも感じる。