2022-01-16

天才オイラーの想像を絶する記憶力/『新ネットワーク思考 世界のしくみを読み解く』アルバート=ラズロ・バラバシ


『新版 人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ

 ・天才オイラーの想像を絶する記憶力
 ・コネクターがハブになる

『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』マーク・ブキャナン
『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』(旧題『ティッピング・ポイント』)マルコム・グラッドウェル
『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン

 スイスに生まれたオイラーは、ベルリンとサンクトペテルブルグで研究を行い、数学、物理学、工学のあらゆる領域に絶大な影響を及ぼした。オイラーの仕事は、内容の重要性もさることながら、分量もまた途方もなく多い。今日なお未完の『オイラー全集』は、1巻が600ページからなり、これまでに73巻が刊行されている。サンクトペテルブルグに戻ってから76歳で世を去るまでの17年間は、彼にとっては文字通り嵐のような年月だった。しかし、私的な悲劇に幾度となく見舞われながらも、彼の仕事の半分はこの時期に行われている。そのなかには、月の運動に関する775ページに及ぶ論考や、多大な影響力をもつことになる代数の教科書、3巻からなる積分論などがある。かれはこれらの仕事を、週に1篇のペースで数学の論文をサンクトペテルブルグのアカデミー紀要に投稿するかたわらやり遂げたのだ。しかし何より驚かされるのは、彼がこの時期、一行も本を読まず、一行も文章を書かなかったことだろう。1766年、サンクトペテルブルグに戻ってまもなく視力を半ば失ったオイラーは、1771年、白内障の手術に失敗してからはまったく目が見えなかったのだ。何千ページに及ぶ定理は、すべて記憶の中から引き出されて口述されたものなのである。

【『新ネットワーク思考 世界のしくみを読み解く』アルバート=ラズロ・バラバシ:青木薫訳(NHK出版、2002年)】

スモール・ワールド現象」、「六次の隔たり」に息を吹き込んだ一冊である。パソコンが普及した背景もあり、この分野の著作が一気に花開いた。

 レオンハルト・オイラー( 1707-1783年)の全集はデジタル・アーカイブで2020年までの完成を目指しているとのこと(Wikipedia)。「ニコニコ大百科」のエピソードを読めば天才の片鱗が我々凡人にも理解できる。

 人類の課題はオイラーとガウスを超える天才数学者を輩出できるかどうかである、と言いたくなるほどこの二人の業績は他を圧倒している。

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2022-01-14

竜崎伸也というキャラクター/『転迷 隠蔽捜査4』今野敏


『隠蔽捜査』今野敏
『果断 隠蔽捜査2』今野敏
『疑心 隠蔽捜査3』今野敏
『初陣 隠蔽捜査3.5』今野敏

 ・竜崎伸也というキャラクター

『宰領 隠蔽捜査5』今野敏
『自覚 隠蔽捜査5.5』今野敏
『去就 隠蔽捜査6』今野敏
『棲月 隠蔽捜査7』今野敏
・『空席 隠蔽捜査シリーズ/Kindle版』今野敏
『清明 隠蔽捜査8』今野敏
・『選択 隠蔽捜査外伝/Kindle版』今野敏
『探花(たんか) 隠蔽捜査9』今野敏

 その折口理事官から電話があったのは、夕刻のことだった。
「記者会見はご覧になりましたか?」
「見ました」
「さぞかし、歯がゆい思いをされたことでしょうね?」
「そんなことはありません。妥当な落としどころだと思います」
「本音ですか?」
「私は本音しか言いません」
「そうでしょうね。あなたは、やはり面白い方だ」
「別に面白くはないと思いますよ」
「あなただけです。私の悩みをずばり指摘してくださったのは……」
「自責の念にかられていたということですね?」
「あなたは私の苦しみを理解してくださった。私の野心が八田さんと若尾さんを死なせる結果になってしまったのです」
「後悔しても二人は生き返りません。また、事実を隠蔽したところで、何の解決にもなりません」
「おそらく、あなたのおっしゃるとおりなのだと思います」
「私たちは国家公務員です」
「ええ……」
「国家公務員は、国のために働いている。それはつまり、戦いの最戦線にいるということです。戦いなのだから、時に犠牲者も出ます」
 しばらく無言の間があった。
「勇気が出るお言葉です」
「同じ間違いを繰り返さないことです」
「やはり、あなたは一所轄の長に甘んじているような方ではない」

【『転迷 隠蔽捜査4』今野敏〈こんの・びん〉(新潮社、2011年/新潮文庫、2014年)】

「9」が刊行される(1月19日発売)ことを知り、1から読み直しているところ。1日2冊ペースで読んでいる。2と4(本作)が出色の出来だ。

 初めて読んだのは4年前のこと。謎解きの部分はきれいさっぱり忘れている。物覚えが悪いのも捨てたものではない。同じ本を何度も楽しめるのだから。

 今野敏の名前は知っていたがそれまで読んだ作品はなかった。1978年、大学在学中にデビューし、その後は長らく賞と無縁な時代が続いた。『隠蔽捜査』で2005年の吉川英治文学新人賞、『果断 隠蔽捜査2』で2008年の山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞した。「玄人(くろうと)筋では評価が高かった」(西上心太〈にしがみ・しんた〉:「果断」文庫版解説)、「無冠の帝王であった」(村上貴史〈むらかみ・たかし〉:「初陣」文庫版解説)などと持ち上げる向きもあるが買い被り過ぎだろう。本シリーズ以外の作品を2~3冊読んだが全く面白くなかった。

 つまり、だ。今野敏は「竜崎伸也」〈りゅうざき・しんや〉というキャラクターを生み出すのに作家人生の四半世紀を費やしたことになる。

 キャラクターは特徴・性質を表す言葉で、個人を表すのはパーソンである。パーソンはペルソナ(仮面)に由来する。竜崎伸也というパーソンを生んだ途端、物語は勝手に走り出したのだろう。確立されたキャラクターは自律運動を始めるのだ。

 キリスト教の場合だとアダムとイブが該当する。ま、神そのものにも特徴があるゆえ、大いなるペルソナと考えてよかろう。

 そこまで気づくと、結局我々の人生も「どのようなキャラクター作りを行うか」がテーマになっていることが理解できる。思春期に方針が決まらないと、外部の様々な情報に振り回される羽目になる。私のように3歳でキャラクターが決まっていれば、あれこれ迷うことは全くない。間もなく還暦を迎えるが、他人の顔色を窺ったことは片手で数えるほどしかない。いつだって喧嘩上等である。

 本シリーズが独創的なのは警察庁のキャリア官僚を主役にしたところだが、原理原則と合理性を重んじる竜崎は、役人の理想を体現しているように見える。しかしそれだけではあまりにも小物である。ヒーローたり得ない。竜崎の価値観は本音と建て前を使い分ける日本の文化や、上意下達の官僚組織や、縦割り行政の矛盾を衝くために必要不可欠なのだ。

 エリート官僚の世界は足の引っ張り合いが横行し、縄張り意識で省庁や警察署同士がいがみ合い、権限のある者が威張り散らす。大東亜戦争を思い起こすほど、この国の権力機構は変わっていない。彼らの仕事の半分以上は無駄なもので、国民の利益よりも自分たちの面子をひたすら重んじる。

 キャリアとノンキャリアの差別も酷いものだ。日本では22歳で競争が終わってしまうのだから。大器晩成型の人材は役所で生きてゆくことはできないだろう。エリート選抜システムの単純さがこの国を亡ぼすかもしれない。そんな危惧すら抱かせる。

副交感神経は首の筋肉と密接な関係がある/『自律神経が整う 上を向くだけ健康法』松井孝嘉


『実践「免疫革命」爪もみ療法 がん・アトピー・リウマチ・糖尿病も治る』福田稔

 ・副交感神経は首の筋肉と密接な関係がある

 いま改めて注目が集まっている【自律神経】は、内蔵や血管、呼吸器など体じゅうのあらゆる部位をコントロールする、【もっとも重要な神経のひとつ】です。実は、この自律神経、なかでも【副交感神経は首の筋肉と密接な関係があることを私が世界で初めて見つけました。】それにより体中(ママ)の不調が起き、【どの病院でも治すことのできなかった「頚筋症候群」の治療が可能】になったのです。

【『自律神経が整う 上を向くだけ健康法』松井孝嘉〈まつい・たかよし〉(朝日新聞出版、2018年)以下同】

「私」だらけの文章でとても読めた代物ではない。松井の辞書には「謙虚」「謙遜」という文字はないのだろう。発見した事実よりも、発見者である自分を重んじる感覚が理解できない。

 かぜを引いたときだけでなく、かぜ予防のためにも、冬場は、市販の使い捨てカイロが役に立ちます。
 薄い布などでカイロを巻き、低温やけどしないようにして、首の後ろにあてるようにします。
 使い捨てカイロは、種類にもよりますが長いものは24時間持ちます。寒い冬場は、首にあてると気持ちがいいので、外出時だけでなく、家でも使っているとかぜ予防だけではなく、自律神経のケアにもなります。
 使い捨てカイロはまとめ買いすると一つ20円前後ですから、かぜを引きやすい人や、首こりの人には必須アイテムです。
 使い捨てカイロが手に入りにくい地域や夏場などでは、タオルを温めて手製のカイロを作ることもできます。【小さいタオルを濡らしてしぼり、ラップに包んで電子レンジを500~600Wにして1分でできあがりです。】温め直せば、何度でも使えます。
 夜、寝る前や朝起きたとき首を温めると、かぜ、首こりの予防だけではなく、肩こりなどにも効きます。ついでにカイロや手ぬぐいで、眼を5分くらい温めると、眼の周囲の血管が広がって眼精疲労などに効き、気持ちよくなります。
 ただし、首の怪我をした直後などで炎症のある人や、偏頭痛がある人は、血流が多くなることで痛みが強くなりますから、首の温めをしてはいけません。

 昨年暮れから首の調子が悪い。目覚めた時に異様な頭の重さを感じる。蕎麦殻の枕が凹んでおり、頭を押しつけていることがわかる。一度、バスタオルを巻いて枕の代わりにしてみたのだが、さほど効果がなかった。

 個人的には風邪はひいた方がよいと思う。風邪には体内を調節する作用があり、治った後は以前より体調がよくなっているはずだ。風邪をひきにくい人は癌になりやすいという説もある。ひょっとすると新たなウイルスを取り込むことで小さな進化を繰り返している可能性もある。

 人体はウイルスと細菌の合作である。ただし、ウイルスのダムである森が破壊されており、時折致死性の高いウイルスが流行することもある。特に動物との接触には十分留意する必要がある。

 風邪防止というよりは免疫力を高める目的で行うのが望ましい。

2022-01-13

窒息を知らせるチョークサインを広めよう/『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎

 ・窒息を知らせるチョークサインを広めよう

『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

「声のかすれ」や「人とあまりしゃべらない」ことと同じなのですが、「声が小さくなること」も、のどの老化のサインです。
 声帯は声を大きく出すほど大きく動きます。もともと声が小さい人は、それだけのどが老化しやすい、ということになりますし、年をとって大きい声が出せなくなった場合は、のどの筋肉が衰えているサインです。
 声帯を動かす筋肉は、いくつになっても鍛えることができますし、使うほど強くなっていきます。ふだんから声が小さいと指摘される人も、大きな声を出せるように、のど筋トレを行うことをおすすめします。

【『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎〈にしやま・こういちろう〉(幻冬舎新書、2020年)以下同】

 長らく人と話をしないと声がでにくくなる。帰国した小野田寛郎がそうだった。ガラガラ声のおばあさんも多い。「声帯は内側に筋肉(声帯筋)があり、外側を粘膜(声帯粘膜)で覆っています」(声について - 東京ボイスクリニック品川耳鼻いんこう科【公式】)。だったらトレーニングにしようもあるというものだ。

 みなさんはどんなときに幸せや喜び、楽しさを感じますか?
 答えは人それぞれだと思いますが、「おいしいもの、好きなものを食べているときが幸せ」という方は、かなりいらっしゃるのではないでしょうか。
 食欲は、性欲、睡眠欲と並び、ヒトの根源的な欲求のひとつです。「食べたい」という欲求が満たされたとき、幸福感や充足感を覚えることでしょう。おいしいものを食べたときに覚える満足感を「口福」(こうふく)と言うくらいですから、「食べる喜び」はヒトにとって最上の幸せのひとつだと私は思います。
 のどが衰えて飲み込む力が低下するということは、この食べる喜びが失われてしまうことを意味します。少しずつ食べるものが限られていって、やがて自力で飲み込むことができなくなり、「口から食事を摂ることができなくなる」ということです。
 生物にとって、「食べられないこと」は「死」に直結します。
 人間は、自分でものを食べられなくなっても、飲み込むことができれば、介助や介護によって、口から食べる器官をかなりのばすことができます。

 喉の衰えは食べる喜びを苦しみに変える。食べることが苦しみになれば、生きることもまた苦しみとなるだろう。そのストレスは生きる気力を奪い、あたかも植物のような人生を強いるに違いない。

 肥田春充〈ひだ・はるみち〉は食を断って死んだ。一つの見識だと思う。

 合わせて覚えておいていただきたいのが、のどがつまったときに知らせるための「【チョークサイン】」です。窒息すると息ができないだけでなく、しゃべれないので、ジェスチャーで知らせる必要があります。
 チョークサインはのどを親指と人差し指で挟むだけ。万国共通なので、いざというときに合図するために覚えておきましょう。
 このサインが広まれば、周囲で窒息事故が起こったとき、すぐに対処してもらえます。1分1秒を争うときだからこそ、至急の対応が必要です。
 誤嚥してのどにものがつまったときには5分が勝負です。


 不覚にも知らなかった。是非とも周囲のお年寄りに知らせて欲しい。