2022-01-17

コネクターがハブになる/『新ネットワーク思考 世界のしくみを読み解く』アルバート=ラズロ・バラバシ


『新版 人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ

 ・天才オイラーの想像を絶する記憶力
 ・コネクターがハブになる

『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』マーク・ブキャナン
『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』(旧題『ティッピング・ポイント』)マルコム・グラッドウェル
『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン

 大好きな玩具をばらばらにしてしまった子供を見たことはあるだろうか? 元通りにできないとわかって、その子供は泣き出したのではないだろうか? ここで読者に、決して新聞記事にならない秘密の話を教えてあげよう。それは、われわれは宇宙をばらばらにしてしまい、どうやって元に戻せばいいのかわからないでいるということだ。前世紀、われわれは何兆ドルもの研究資金を注ぎ込んで自然をばらばらに分解したが、今はこの先どうすればいいのか手がかりのない状況なのである――何か手がかりがあるとすれば、さらに分解を続けていくことぐらいだ。

【『新ネットワーク思考 世界のしくみを読み解く』アルバート=ラズロ・バラバシ:青木薫訳(NHK出版、2002年)】

 不勉強を恥じておこう。既に紹介した『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』は本書のパクリだった。ただし、読みやすさではマーク・ブキャナンに軍配が上がる。いずれにしてもこの2冊の作品は、グローバリズムを避けられない現代にあっては不可欠のテキストとなることだろう。それにしても、世界には恐るべき才能が存在するものだ。著者のアルバート=ラズロ・バラバシ氏は1967年生まれというのだから驚かされる。

 1990年代には「要素還元主義」という批判のための用語があった。まだコンピュータの黎明期で科学の動きがどんよりと鈍っていたこともあったのだろう。「バラバラにしても宇宙の仕組みがわかるわけはないぜ」というわけだ。ところがその後、量子力学と複雑系が歩幅を一気に伸ばした。更に脚の回転が増すに連れて、要素還元主義という言葉は聞かれなくなった。

「どんな社会階級にも、友人や知人を作る並はずれたコツを身につけた人が少数存在する。そういう人たちがコネクターなのだ」

 昔だと町の顔役、世話好きのおかみさんなど。友達を作るのが上手い人って必ずいるよね。私の周囲だとイガラシとか太郎先輩など。コネクターがハブ(車軸)となってスモールネットワークは六次元に収まる(六次の隔たり)。

 ネットワークのノードはどれも平等であり、リンクを獲得する可能性はどのノードも同じである。しかしこれまで見てきた実例が教えているように、現実はそうなっていない。現実のネットワークでは、リンクがランダムに張られたりはしないのだ。リンクを呼び込むのは人気である。リンクの多いウェブページほど新たにリンクを獲得する可能性が高く、コネの多い俳優ほど新しい役の候補に挙がりやすく、頻繁に引用される論文はまた引用される可能性が高く、コネクターは新しい友だちを作りやすい。ネットワークの進化は、優先的選択という、デリケートだが情け容赦のない法則に支配されている。われわれはこの法則に操られるようにして、すでに多くのリンクを獲得しているノードに高い確率でリンクするのである。

 ツイッターだとフォロワー数の多い人ほどフォロワーが増え、少ない人ほど変化が乏しい。ブログの記事も同様だ。はてなブックマークを見るとよくわかる。

 恐ろしい実例もある。性感染症を拡大させるのはモテ男とモテ子なのだ。「お前ら、何人とヤッてるんだよ?」ってな話である。美男美女は子孫を残せる確率が高いということだ。もう一歩突っ込むと、美形という事実が進化上の優位性を示していると人々は判断するのである。

 コネクターがハブになり、ティッピング・ポイント(閾値〈いきち〉)を超えると流行現象があらわれる。病気だと感染拡大。宗教や文化もこうして広まったのだろう。人々の間で怒りや憎悪が伝染すると戦争につながる。その背景には寒冷化や空腹などが絡んでいる。戦争と平和は単なる政治次元の問題ではないのだ。

 何かを流行させようと目論んでいる人はコネクターを探すのが手っ取り早い。それで失敗したのがタレントを使ったステルスマーケティングだった。大衆の欲望は移ろいやすく当てにならない。だが、テレビやメディア、はたまたネット上を覆い尽くす広告を眺めていると、何が嘘で何が真実かが見えなくなる。実際の人間関係よりもネット上のつながりの方が多く、動きも軽い。新時代の教祖はウェブ上に現れると予想する。

2022-01-16

中国の女性は嫁入りをしても宗族に入ることはできない/『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『自然観と科学思想』倉前盛通

 ・中国の女性は嫁入りをしても宗族に入ることはできない
 ・封建制は近代化へのステップ

『ゲームチェンジの世界史』神野正史
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠

世界史の教科書
宗教とは何か?
必読書リスト その四

 歴史とは、「歴史的事実(証拠)」+「歴史観(解釈)」です。

 事実に基づかない歴史は、単なる妄想です。
「日本は戦争犯罪を繰り返した」という歴史観に忠実だった朝日の記者は、吉田証言の事実関係を検証することなく、妄想を記事にしてしまったのです。
 逆に、歴史観に欠けた歴史は、事実の羅列にすぎません。

【『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠〈もぎ・まこと〉(ヒカルランド、2014年)以下同】

 つまり、だ。朝日新聞の購読者は妄想あるいは小説が好きなのだろう。北海道新聞や東京新聞を始めとする地方紙も同様である。沖縄タイムス、琉球新報に至ってはSFの領域に突入しつつある。左翼と彼らのシンパは「反日」という物語であれば何にでも飛びつく。彼らにとっては天皇陛下を国家元首とするシステムは破壊の対象であり、それは自明の真理と化している。つまり自分の感情を疑うことをしない。教条は人を奴隷にする。赤い旗の下(もと)で斃(たお)れることが彼らの理想なのだ。

 原則として、一つの邑(ゆう≒都市国家)に住んでいるのは全員ファミリー、血縁者です。このような大家族を宗族(そうぞく)と言います。同じ祖先を祀(まつ)る、同じ苗字(みょうじ)、つまり同姓の男系血縁集団です。
 宗族は男系ですから、男の子に跡を継がせます。ここで、「同姓不婚」という決まりが生まれます。同じ姓の男女は結婚できないということです。つまり、結婚相手は別の宗族に求めないといけません。(中略)

 ――近親婚はダメ、ということですか?

 いや、もっと政治的な理由からです。
 基本的に隣の邑というのは敵です。常に争っています。だからお互いに嫁をとることによって平和条約を結ぶ。安全保障のための道具であり、お互いに贈り物をするうちの一つが女性だ、ということ。はっきり言うと、人質になるわけです。
 すると、もしも王さんと李さんが戦(いくさ)になれば、彼女は殺されるかもしれない。結婚は恋愛ではなく政治です。嫁に行くというのは命がけなわけですね。ですから、李さんの町の女性が王さんのところに嫁入りをしても、彼女は、王さんのファミリーには決して入れてもらえません。「おまえは李の娘」だ、と一生言われます。
 最近は夫婦別姓という話があって、「女性が夫の姓に変わるのは女性蔑視(べっし)だ」と言う人がいますが、中国の場合は女性が人質のように扱われた古代から夫婦別姓です。逆に言えば、夫のファミリーの一員として迎えられる日本の女性というのは非常に恵まれているとも言えるのです。

 ――なるほど。ところで子供が生まれたら、父親の宗族に加わるんですか。

 そうなります。だから子供から見ると、お父さんは自分と同じ宗族ですが、お母さんは違う宗族ということになる。この感覚は、日本人にはわからないと思います。
 中国史を見ていきますと、ものすごい悪女がしばしば出てきます。

 ――則天武后〈そくてんぶこう〉や西太后〈せいたいこう〉が有名ですね。

 漢の呂后〈りょこう〉も加えて「三大悪女」なんて言います。中国の悪女というのはすごくて、平然と夫を殺したり、息子を殺したりする。それは中国の女性が残忍だから、というよりは、「旦那やその一族は敵だ」、「自分の本当の味方は、お父さんやお兄さんだ」という文化があるからんですね。
 このように、血縁に重きを置く、血縁しか信用しないというカルチャーが中国にはある。そこから、封建制度という政治体制が生まれてきます。(中略)
 とはいえ、王様と血縁がない有力者を諸侯にしなければならない場合もある。敵国が降参して支配下に入り、諸侯に任じるような場合です。
 こういうときはどうするかというと、嫁の交換をします。先ほど李さんの町と王さんの町と同じです。こうやって、何がなんでも血縁関係を結んでいかないと、彼らは安心できない。そういう文化なのです。
 王様が諸侯に与える領地には、周りにちょっと盛り土をして目印を創りました。この盛り土のことを「封」(ほう)と言う。「封」を建てるから封建(ほうけん)制度というわけです。

 宗族(そうぞく)が男系血縁主義である事実は知っていたが、私は近親婚を避けるのが目的だと思い込んでいた。「中国の女性は嫁入りをしても宗族に入ることはできない」――これは覚えておくべき事柄だ。

天才オイラーの想像を絶する記憶力/『新ネットワーク思考 世界のしくみを読み解く』アルバート=ラズロ・バラバシ


『新版 人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ

 ・天才オイラーの想像を絶する記憶力
 ・コネクターがハブになる

『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』マーク・ブキャナン
『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』(旧題『ティッピング・ポイント』)マルコム・グラッドウェル
『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン

 スイスに生まれたオイラーは、ベルリンとサンクトペテルブルグで研究を行い、数学、物理学、工学のあらゆる領域に絶大な影響を及ぼした。オイラーの仕事は、内容の重要性もさることながら、分量もまた途方もなく多い。今日なお未完の『オイラー全集』は、1巻が600ページからなり、これまでに73巻が刊行されている。サンクトペテルブルグに戻ってから76歳で世を去るまでの17年間は、彼にとっては文字通り嵐のような年月だった。しかし、私的な悲劇に幾度となく見舞われながらも、彼の仕事の半分はこの時期に行われている。そのなかには、月の運動に関する775ページに及ぶ論考や、多大な影響力をもつことになる代数の教科書、3巻からなる積分論などがある。かれはこれらの仕事を、週に1篇のペースで数学の論文をサンクトペテルブルグのアカデミー紀要に投稿するかたわらやり遂げたのだ。しかし何より驚かされるのは、彼がこの時期、一行も本を読まず、一行も文章を書かなかったことだろう。1766年、サンクトペテルブルグに戻ってまもなく視力を半ば失ったオイラーは、1771年、白内障の手術に失敗してからはまったく目が見えなかったのだ。何千ページに及ぶ定理は、すべて記憶の中から引き出されて口述されたものなのである。

【『新ネットワーク思考 世界のしくみを読み解く』アルバート=ラズロ・バラバシ:青木薫訳(NHK出版、2002年)】

スモール・ワールド現象」、「六次の隔たり」に息を吹き込んだ一冊である。パソコンが普及した背景もあり、この分野の著作が一気に花開いた。

 レオンハルト・オイラー( 1707-1783年)の全集はデジタル・アーカイブで2020年までの完成を目指しているとのこと(Wikipedia)。「ニコニコ大百科」のエピソードを読めば天才の片鱗が我々凡人にも理解できる。

 人類の課題はオイラーとガウスを超える天才数学者を輩出できるかどうかである、と言いたくなるほどこの二人の業績は他を圧倒している。

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2022-01-14

竜崎伸也というキャラクター/『転迷 隠蔽捜査4』今野敏


『隠蔽捜査』今野敏
『果断 隠蔽捜査2』今野敏
『疑心 隠蔽捜査3』今野敏
『初陣 隠蔽捜査3.5』今野敏

 ・竜崎伸也というキャラクター

『宰領 隠蔽捜査5』今野敏
『自覚 隠蔽捜査5.5』今野敏
『去就 隠蔽捜査6』今野敏
『棲月 隠蔽捜査7』今野敏
・『空席 隠蔽捜査シリーズ/Kindle版』今野敏
『清明 隠蔽捜査8』今野敏
・『選択 隠蔽捜査外伝/Kindle版』今野敏
『探花(たんか) 隠蔽捜査9』今野敏

 その折口理事官から電話があったのは、夕刻のことだった。
「記者会見はご覧になりましたか?」
「見ました」
「さぞかし、歯がゆい思いをされたことでしょうね?」
「そんなことはありません。妥当な落としどころだと思います」
「本音ですか?」
「私は本音しか言いません」
「そうでしょうね。あなたは、やはり面白い方だ」
「別に面白くはないと思いますよ」
「あなただけです。私の悩みをずばり指摘してくださったのは……」
「自責の念にかられていたということですね?」
「あなたは私の苦しみを理解してくださった。私の野心が八田さんと若尾さんを死なせる結果になってしまったのです」
「後悔しても二人は生き返りません。また、事実を隠蔽したところで、何の解決にもなりません」
「おそらく、あなたのおっしゃるとおりなのだと思います」
「私たちは国家公務員です」
「ええ……」
「国家公務員は、国のために働いている。それはつまり、戦いの最戦線にいるということです。戦いなのだから、時に犠牲者も出ます」
 しばらく無言の間があった。
「勇気が出るお言葉です」
「同じ間違いを繰り返さないことです」
「やはり、あなたは一所轄の長に甘んじているような方ではない」

【『転迷 隠蔽捜査4』今野敏〈こんの・びん〉(新潮社、2011年/新潮文庫、2014年)】

「9」が刊行される(1月19日発売)ことを知り、1から読み直しているところ。1日2冊ペースで読んでいる。2と4(本作)が出色の出来だ。

 初めて読んだのは4年前のこと。謎解きの部分はきれいさっぱり忘れている。物覚えが悪いのも捨てたものではない。同じ本を何度も楽しめるのだから。

 今野敏の名前は知っていたがそれまで読んだ作品はなかった。1978年、大学在学中にデビューし、その後は長らく賞と無縁な時代が続いた。『隠蔽捜査』で2005年の吉川英治文学新人賞、『果断 隠蔽捜査2』で2008年の山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞した。「玄人(くろうと)筋では評価が高かった」(西上心太〈にしがみ・しんた〉:「果断」文庫版解説)、「無冠の帝王であった」(村上貴史〈むらかみ・たかし〉:「初陣」文庫版解説)などと持ち上げる向きもあるが買い被り過ぎだろう。本シリーズ以外の作品を2~3冊読んだが全く面白くなかった。

 つまり、だ。今野敏は「竜崎伸也」〈りゅうざき・しんや〉というキャラクターを生み出すのに作家人生の四半世紀を費やしたことになる。

 キャラクターは特徴・性質を表す言葉で、個人を表すのはパーソンである。パーソンはペルソナ(仮面)に由来する。竜崎伸也というパーソンを生んだ途端、物語は勝手に走り出したのだろう。確立されたキャラクターは自律運動を始めるのだ。

 キリスト教の場合だとアダムとイブが該当する。ま、神そのものにも特徴があるゆえ、大いなるペルソナと考えてよかろう。

 そこまで気づくと、結局我々の人生も「どのようなキャラクター作りを行うか」がテーマになっていることが理解できる。思春期に方針が決まらないと、外部の様々な情報に振り回される羽目になる。私のように3歳でキャラクターが決まっていれば、あれこれ迷うことは全くない。間もなく還暦を迎えるが、他人の顔色を窺ったことは片手で数えるほどしかない。いつだって喧嘩上等である。

 本シリーズが独創的なのは警察庁のキャリア官僚を主役にしたところだが、原理原則と合理性を重んじる竜崎は、役人の理想を体現しているように見える。しかしそれだけではあまりにも小物である。ヒーローたり得ない。竜崎の価値観は本音と建て前を使い分ける日本の文化や、上意下達の官僚組織や、縦割り行政の矛盾を衝くために必要不可欠なのだ。

 エリート官僚の世界は足の引っ張り合いが横行し、縄張り意識で省庁や警察署同士がいがみ合い、権限のある者が威張り散らす。大東亜戦争を思い起こすほど、この国の権力機構は変わっていない。彼らの仕事の半分以上は無駄なもので、国民の利益よりも自分たちの面子をひたすら重んじる。

 キャリアとノンキャリアの差別も酷いものだ。日本では22歳で競争が終わってしまうのだから。大器晩成型の人材は役所で生きてゆくことはできないだろう。エリート選抜システムの単純さがこの国を亡ぼすかもしれない。そんな危惧すら抱かせる。