2019-04-08

読み始める

キリシタン時代の研究 (岩波オンデマンドブックス)
高瀬 弘一郎
岩波書店 (2015-01-09)
売り上げランキング: 1,322,282

壊れた脳 生存する知 (角川ソフィア文庫)
山田 規畝子
KADOKAWA (2009-11-21)
売り上げランキング: 14,747

壊れた脳も学習する      (角川ソフィア文庫)
山田 規畝子
角川学芸出版
売り上げランキング: 33,790

二世兵士 激戦の記録: 日系アメリカ人の第二次大戦 (新潮新書)
柳田 由紀子
新潮社
売り上げランキング: 40,332


マンガで読む マックスウェルの悪魔 (ブルーバックス)
月路 よなぎ 銀杏社
講談社
売り上げランキング: 166,657

「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史 (産経セレクト S 13)
百田尚樹、有本香
産経新聞出版
売り上げランキング: 427

日本人の知らないスパイ活動の全貌
クライン孝子
海竜社 (2018-05-11)
売り上げランキング: 15,214

「原因」と「結果」の法則〈3〉困難を超えて
ジェームズ アレン
サンマーク出版
売り上げランキング: 101,226

「原因」と「結果」の法則〈4〉輝かしい人生へ
ジェームズ アレン
サンマーク出版
売り上げランキング: 105,440

「こころ」はどこで壊れるか―精神医療の虚像と実像 (新書y)
滝川 一廣 佐藤 幹夫
洋泉社
売り上げランキング: 400,468

キミのお金はどこに消えるのか
井上 純一
KADOKAWA (2018-08-04)
売り上げランキング: 7,888


55歳のハゲた私が76歳でフサフサになった理由
藤田 紘一郎
青萠堂
売り上げランキング: 22,253

2019-04-06

現代の華厳経/『アファメーション』ルー・タイス


『「言葉」があなたの人生を決める』苫米地英人

 ・現代の華厳経

『「原因」と「結果」の法則』ジェームズ・アレン
『「原因」と「結果」の法則2 幸福への道』ジェームズ・アレン
『新板 マーフィー世界一かんたんな自己実現法』ジョセフ・マーフィー
『未来は、えらべる!』バシャール、本田健
『潜在意識をとことん使いこなす』C・ジェームス・ジェンセン
『こうして、思考は現実になる』パム・グラウト
『こうして、思考は現実になる 2』パム・グラウト
『自動的に夢がかなっていく ブレイン・プログラミング』アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ
『あなたという習慣を断つ 脳科学が教える新しい自分になる方法』ジョー・ディスペンザ
『ソース あなたの人生の源はワクワクすることにある。』マイク・マクナマス
『科学的 本当の望みを叶える「言葉」の使い方』小森圭太

【何を達成するかは、ほとんどの場合、何を信じるかによって決まります】。「信じることができれば、達成したも同然」と言ってもいいでしょう。

【『アファメーション』ルー・タイス:苫米地英人〈とまべち・ひでと〉監修、田口未和訳(フォレスト出版、2011年)以下同】

 帯に「NASA、米国国防総省、フォーチュン500社の62%が導入する世界最高レベルの自己啓発プログラム!!」と麗々しく書かれている。原著は1995年出版、2005年改訂。

 アファメーションとは現代の華厳経である。本書を読んでますますその感を強くした。

【信じることを変えれば、結果がついてくる】のです。信じることを変えれば、人生をどう生きるかを変えることができます。

 ダメだと信じていればダメな動きとなってダメな結果が出る。無理だと思えばできない範囲に選択肢が狭(せば)められ、どうあがこうと無理だ。自分にはできる、自分ならやれると信じればこそ道は開かれるのだ。

 何を本当に望むのか、それを決めるだけの問題なのです。

 実はこれが難しい。欲望を突き抜けた向こう側の地平を見渡す必要がある。アラン・ワッツの強烈なメッセージに耳を澄ませて欲しい。


【「あなたが想像することは、現実世界で実現できる」】

 想えば叶(かな)う。一念心は岩をも貫く。念じる思いが浅きから深きに至ると環境が動き始める。末那識(まなしき=自我)を超えて阿頼耶識(あらやしき≒集合的無意識

【態度とはあなたが傾く方向。】

 未来を信じることでこの傾きを修正するところにアファメーションの作法がある。業(ごう)の転換といってよい。

 もう一度いいますが、【私たちは本当の真実ではなく、自分が信じる“真実”に従って行動します】。

 脳機能の特徴は「虚構を語り信じる能力」(『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ)にある。社会とは虚構を共有するコミュニティの異名であり、虚構を否定する者は排除される(村八分)。虚構を真実と錯覚するところに不幸の原因がある。

 人は自分について言われたことをどう認めるかによって、自己イメージを築きます。自己イメージはあなたが自己制御する基準になります。すべての思考を基にこの基準をつくり、それに基づいて自己制御を行うということです。自分がその基準に満たないと認識すると修正し、基準を超えていると認識したときにも正しい位置に戻そうとする力が働きます。
 つまり、どのように自分や周囲の人に話しかけるかが、自分の潜在能力を引き出して目標を達成する鍵となるわけです。
 誰かを見下しているときには、相手を卑小に見せるような言い方をします。誰かを低く評価しているときには、実力以下の仕事をさせます。私は自尊心が低下しているときに、より他人を見くびる傾向があります。すると、相手を自分より小さく見せるために、辛辣(しんらつ)な言葉を浴びせます。実際には、「私より小さくなれ、私が大きく見えるように」と言っているのです。

 自他のイメージ操作によって自我が形成されるとは驚くべき指摘だ。幼児期に親からどのような扱いを受けたかで人生は分かれる。児童虐待の本当の恐ろしさもここにある。

 評価が自我を定めるとすれば、これほど当てにならないものもあるまい。毀誉褒貶(きよほうへん)に振り回されることは必定である。誰も見ていないところでやるべきことをやっていれば自信は静かに築かれる。手抜きやインチキがあれば誰が知らなくとも自分だけはその事実を知っている。

 クルマの窓からゴミを捨てたり、階段の下でまごついている車椅子の人を無視したり、明らかに間違っていることを教えてあげなかったり、自分が捨てたわけではないとゴミを拾わなかったりするところから自分が堕落し社会が乱れる。

 山は静かである。本物の自信は山のように動くことがない。

仲好しだったオバアサンへの手紙


 ・仲好しだったオバアサンへの手紙

『5秒 ひざ裏のばしですべて解決 壁ドン!壁ピタ!ストレッチ』川村明


 まったく不思議な縁だった。1年にも満たない付き合いだったが彼女は忘れ得ぬ存在となった。夫が死んだ時にも泣かなかった彼女と、父が死んだ時にも泣かなかった私が二人で泣いた。

 交情が愛別離苦を深める。私の母親よりも年上で、お嬢さん育ちで苦労を知らず、わがままで直ぐに弱音を吐く人だった。どうしてウマが合うのか不思議である。横柄(おうへい)で乱暴な口を利(き)く私のことを「こんな人、初めて見た」と言った。別名は小野蝮三太夫だ。

 ひょんなことから車椅子の動かし方を教えてあげたのが最初の出会いだった。それから請われて訓練を施した。私の教え方は運動部そのもので時に激烈なものとなった。「やる気があるの? ないなら帰るよ!」と怒鳴りつけたことも一度や二度ではない。その度に下を向いて黙り込み。「どうしたの?」と訊ねると、「悔しい」と泣いていた。もちろんそれで甘やかす私ではない。「泣いたって車椅子は動かないよ」と言い放った。

 別の日に訪ねると、「小野ちゃんは怖いけど好きだよ」と言った。「体はどこか悪いところがあるの?」と訊かれて私がすかさず「あるよ」と応じた。「どこ?」「口」と答えると大笑いしていた。「本当に口が悪いよねー」と言い「でも心は優しいから」と付け加えた。私の優しさを見抜いたのは55年生きてきたがこれで3人目である。

 泣いて、笑って、語って、歌って、喧嘩して、触れ合って、そして別れた。車椅子の動かし方は私が望むほど上手くならなかったが、日常生活に支障のない程度まで動かせようになった。

「私のことはあなたの晩年に吹いた春一番のようなものと思っていただければ幸いです」と手紙に書いた。涙――。

2019-03-29

読み始める

日本国紀
日本国紀
posted with amazlet at 19.03.29
百田 尚樹
幻冬舎 (2018-11-12)
売り上げランキング: 85

「わかる」とはどういうことか―認識の脳科学 (ちくま新書)
山鳥 重
筑摩書房
売り上げランキング: 34,193

阿久悠 命の詩 ~『月刊you』とその時代~
阿久 悠
講談社
売り上げランキング: 928,606

星をつくった男 阿久悠と、その時代 (講談社文庫)
重松 清
講談社 (2012-09-14)
売り上げランキング: 359,653

あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング
みやす のんき
彩図社 (2016-11-25)
売り上げランキング: 261,525

2019-03-27

アファメーションの解説書/『「言葉」があなたの人生を決める』苫米地英人


 ・アファメーションの解説書

『アファメーション』ルー・タイス
『「原因」と「結果」の法則』ジェームズ・アレン
『「原因」と「結果」の法則2 幸福への道』ジェームズ・アレン
『新板 マーフィー世界一かんたんな自己実現法』ジョセフ・マーフィー
『未来は、えらべる!』バシャール、本田健
『潜在意識をとことん使いこなす』C・ジェームス・ジェンセン
『こうして、思考は現実になる』パム・グラウト
『こうして、思考は現実になる 2』パム・グラウト
『自動的に夢がかなっていく ブレイン・プログラミング』アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ
『あなたという習慣を断つ 脳科学が教える新しい自分になる方法』ジョー・ディスペンザ
『ソース あなたの人生の源はワクワクすることにある。』マイク・マクナマス
『科学的 本当の望みを叶える「言葉」の使い方』小森圭太

【アファメーションとは、簡単にいえば、あるルールにもとづいてつくった言葉を自らに語りかけることです。】

【『「言葉」があなたの人生を決める』苫米地英人〈とまべち・ひでと〉:マーク・シューベルト監修(フォレスト出版、2013年)以下同】

 思想的な流れでいうと、アメリカキリスト教のニューソートから成功哲学、ポジティブ・シンキング(積極思考)、自己啓発、引き寄せの法則などが派生した。エマーソン~ソローが大きな影響を与えており、後に誕生するニューエイジなどを考え合わせると、彼らはアメリカにおける鎌倉仏教のような役割を果たした可能性がある(神智学協会というコネクター/『仏教と西洋の出会い』フレデリック・ルノワール)。

【私たちの思考は、すべて言葉で成り立っています。】もちろん、イメージを使って考えることもありますが、そのイメージの元をたどっていくと、それらはすべて自分や対象を規定する言葉に行き当たります。

 脳が言葉に支配される様相を直覚して言霊信仰が生まれたのだろう。言葉自体はコミュニケーションのツールとして発生したのだろうが、あまりにも便利すぎて道具が我々を支配したのだ。厳密にいえば言葉になる前の思考は存在する。「どうしようかな」と思いあぐねる時、言葉に先立つモヤモヤが確かにある。それは思考・感情・選択・判断などが混じり合った暗い沼のような領域を形成する。ところが何らかの結論を出した途端、我々の脳は結論から逆算して論理を構成し、筋道を作って正当化するのだ。これを他人に説明する時は相手が納得するだけの根拠を後付で用意する。この時間の逆転現象を我々が自覚することはまずない。

 このように【私たちが行う選択と行動は、その人がどんな言葉を受け入れいているかによって決まってしまいます。】
「自分は能力のない人間だ」という言葉を受け入れいている人は、能力のない人間の選択と行動をとるし、逆に「自分は能力のある人間だ」という言葉を受け入れている人は、能力のある人間にふさわしい選択と行動をとります。

 自分のレッテルは自分で貼っているということだ。

 ルー・タイスは、こうした人生のゴールを「【現状の外側にあるゴール】」といい、「【人生のゴールは、現状の外側に設定しなさい】」と教えました。
「現状の外側にあるゴール」とは、いったいどういうことでしょうか?
 つまり、簡単にいえば、【いまの自分とはかけ離れ、いまの仕事や環境では考えつかないような突飛なゴール】のことです。(中略)
 いまの現状からかけ離れた人生のゴール、つまり【現状の延長線上にはない突飛なゴールだからこそ、逆に私たちはそれを100%実現することができるのです。】

 アファメーションとは自分の潜在意識に言葉で働きかけるテクニックだ。思考が言葉に支配されているならば言葉を変えればいいのだ。言葉には人を動かす力が確かにある。具体例を示そう。

言葉の重み/『時宗』高橋克彦
将は将を知る/『楽毅』宮城谷昌光

 私自身、振り返ると人生の行き詰まりを感じた時には必ず先輩の言葉に助けられた。言葉が心を動かし人を動かすのだ。

 ここまで見通せればアファメーションが華厳経の焼き直しであることが立ちどころに理解できる。「心は工(たくみ)なる画師(えし)の如く種種の五陰を画く。一切世間の中に法として造らざること無し」(華厳経第十)。世界は心の影なのだ。

 小学2年の時から付き合いのあるイガラシという友人がいる。滅法面白い男でとにかくコイツの周りでは面白い事件が起こる。小学生の頃からずっとそうなのだ。そこで私ははたと気づいた。「イガラシの周りで面白い事件が起こるのではなく、イガラシが面白い人物だからこそそういう事件を引き寄せるのだろう」と。私がこれを悟ったのは10代の頃である。一人は万人に通じる。悲観的な人物の周りには悲観的な出来事が多いし、暴力的な男の周りには血なまぐさいトラブルが多い。結局、同じ世界にいながらも我々は別の世界を生きているのだ。

 智ギ(天台大師)は先に挙げた華厳経の文(もん)を引いて一念三千の傍証とした。一念三千とは一瞬の生命に三千種の可能性があることを示したものだ。自分の思うがままに生きることこそ自由であり、「我がまま」の本意であろう。もちろん邪心があれば邪(よこしま)な世界が現出する。未来といっても現在の自分の中から生まれる。その鍵を知れば潜在意識に働きかけることはさほど難しいことではない。



人は自分が探しているものしか見つけることができない/『心晴日和』喜多川泰
『借金2000万円を抱えた僕にドSの宇宙さんが教えてくれた超うまくいく口ぐせ』小池浩

2019-03-25

六道輪廻/『マインドフルネス 気づきの瞑想』バンテ・H・グナラタナ


『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ

 ・六道輪廻

『ゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想入門 豊かな人生の技法』ウィリアム・ハート
『「瞑想」から「明想」へ 真実の自分を発見する旅の終わり』山本清次

 こうして私たちは、ふと人生をただ過ごしているということを理解します。平静を装い、なんとか収入の範囲内でやりくりし、外から見ればうまくやっているようにも見えます。しかし失望したときや、自分に関するいろいろなものが崩れていくと感じたとき、問題を抱えるのです。混乱します。混乱していることは知っていますが、その混乱をうまく隠すのです。
 他方、そうしたあらゆる不満のさらに奥のほうでは、何か別の生き方が必要だとか、世の中を見るもっとよい方法や、より充実して人生を過ごす方法が必要だ、ということも知っています。ときにはよい仕事を得たり、恋をしたり、勝負に勝ったりなど、好ましいことが訪れることもあるでしょう。しばらくのあいだ物事はよい方向に向かいます。人生が豊かで明るくなり、不満や退屈がなくなります。経験するあらゆることが好ましいほうに進み、「よし、うまくいった。これで幸せになる」と考えます。しかしその後、その好ましい状況もまた風に吹かれる煙のように徐々に消えていくのです。思い出だけが残ります。思い出と、何かがおかしいという漠然とした感覚が後に残るのです。
 私たちは、人生には深遠で優しい、まったく別の領域がきっとある、ということを感じているものの、どうもあまりそのことを理解していません。その世界から切り離されていると感じてイライラしています。何か心地よい楽しさから切り離されていると感じるのです。実際のところ、私たちは人生に触れていません。人生をよいものにつくり直そうともしていないのです。そしてその後、漠然とした“何かがおかしい”という感覚も消え、もとのいまいましい現実に戻ります。世の中がいつものひどく不快な場所に見えます。これは感情のジェットコースターに乗るようなもので、高いところに憧れつつも、傾斜面の一番低いところで多くの時間を過ごしているのです。

【『マインドフルネス 気づきの瞑想』バンテ・H・グナラタナ:出村佳子〈でむら・よしこ〉訳(サンガ、2012年)】

 真の意味で出家した者は世俗の姿がよく見える。彼らは世俗から離れているゆえに世俗の全体が見えるのだ。我々にとって幸福とは欲望を満たすことであるが、心の飢えや渇きが満たされることは決してない。遊園地で楽しさを満喫して、帰り道で疲労を味わい、明くる日からやりたくない仕事に束縛されるのが私の人生だ。

 幸福も不幸も長く続かない。生とは変化の異名である。諸行無常という言葉を知っている人は多いが実感する人はまずいない。「私」という存在を変わらぬものと錯覚した途端、世界は固定化される。

 冒頭に「ヴィパッサナー瞑想は簡単なものではありません」とある。のっけから馬脚を露(あら)わしていて笑ってしまった。簡単だとか難しいだとか言っている間は「瞑想が方式」になっているのだ。そんなことは悟りに至っていない私ですらわかる。

 スリランカ仏教(南伝仏教、上座部仏教、テーラワーダ仏教とも)はブッダの肉声を伝えていて魅了されるのだが、個々の僧を見ると妙な派閥意識の臭みが抜けていない。例えばスマナサーラの著作の量の多さなどに至っては「悟りの商品化」にすら見える。サンガという共同体に束縛されている姿がどうしても好きになれない。

マインドフルネス
マインドフルネス
posted with amazlet at 19.03.24
バンテ・H・グナラタナ
サンガ
売り上げランキング: 105,194

2019-03-24

修理、魅せます。 #013「本」


不死身の日本軍人/『英霊の絶叫 玉砕島アンガウル戦記』舩坂弘


 ・不死身の日本軍人

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 はつきり言へることは、近代戦のもつとも凄壮な様相が如実に描かれてゐる点で、又、ただ僥倖(ぎようこう)としか思へない事情で生き永らへた証人によつて、人間の「滅盡相(めつじんそう)」がはつきりと描かれてゐる点で、これは世界に比類のない本だといふことである。(「序」三島由紀夫)

【『英霊の絶叫 玉砕島アンガウル戦記』舩坂弘〈ふなさか・ひろし〉(光人社NF文庫、1996年/新装版、2014年/文藝春秋、1966年『英霊の絶叫 玉砕島アンガウル』を改題)以下同】

 三島由紀夫にとって舩坂弘は剣道の先輩であった。船坂は死線をさまよいながらも激戦を生き延び、戦地へ行かなかった三島がその後自決する。まったく不思議な運命の交錯である。

 米軍が3日間で終える予定だったペリリューの戦いは上陸後、73日間に及んだ。船坂は繰り広げられる死闘の最先端を走った。彼はたった独りで米軍司令部への攻撃を試みる。

〈これが、私の知っているアンガウル島なのか?――〉
 かつて私たちが苦しめられた沼や湿地帯も埋め立てられ、別の島に変貌していた。島の東港から西港を結んだ線以南はいつの間にか平坦地に変えて、そこにはところ狭しとばかり米軍の天幕が張りめぐらされている。
〈米軍というやつは大変なことをするもんだ〉
 わずか1200名で旧式の武器・弾薬を節約して使った日本軍とは規模の点に置(ママ)いて比較にならない。南部地区の米軍天幕を眺めると、海水を濾過する設備、発電所らしい設備、給水塔などが見える。いわば、天幕の街である。天幕と天幕の間には電線が走り、電話線もちゃんと敷かれてあるようだ。
 これをみたとき、私は誰に言うともなく、
「ダメだ。これじゃダメだ。」
 と幾度も呟いていた。一方では洞窟の中で一滴の水もないのに、米軍テントの外では海水から濾過した水でジャブジャブと洗濯をしているではないか。私はつくづく物量戦の敗北を感じていた。

 物量の差は歴然としていた。それでも「いまにみている。物量戦には敗けたが、気力で勝った日本兵の真髄を見せてやる」と船坂の心は燃えた。その後、波しぶきを浴びながら断崖絶壁を3時間もかけて移動する。

 草叢は天の恵みかと思われるほど絶好の場所で、司令部天幕までは15~20米である。早速、私は手榴弾を1個1個手に取り、
「必ず爆発してくれよ」
 と子供をさとすように祈った。
 東の空はいよいよ白んできた。そっとうかがえば、この西港の海上にも米軍艦船がおびただしく浮かび、その下でキラキラと波頭が輝き始めている。明るくなるにつれて、周辺の天幕が目の前にはっきりしてくる。たしかに司令部らしき天幕も目にうつった。その黒褐色のテントが私の死に場所である。死を賭けて捜し、命を投げて3日間這い続けたのも、この天幕に近づかんがためであった。私は涙を流して千載一遇の好機をつかんだことを喜んだ。よくもここまで来られたものである。

 体中に手榴弾を巻き付けた船坂はターミネーターと化す。

〈あとわずかだ!〉
 司令部は目前である。グァァンと鼓膜を破るような音がして銃弾が足もとの大地に、ブスッとめり込むのが見える。私は右手に握った手榴弾の信管を叩くべく、固く握り直した瞬間であった。その時、私は左頸部の付根に重いハンマーの一撃を受けたような、真赤に焼けた火箸を首すじに突っ込まれたような熱さと激痛をおぼえると同時に、すうっと意識を失ってゆくのがわかった。
 天皇陛下万歳、を叫ぶ暇もない。
〈やられた! 残念だ!〉
 と薄れゆく意識の底で感じたまま、私は反動で2~3歩前進したが、急に目の前の大地はぐるりと回転し、前のめりに倒れて失神したのであった。
 ――このときにうけた傷は左頸部盲貫(ママ)銃創である。左大腿部裂傷、左上膊部貫通銃創2か所、東武打撲傷、右肩捻挫、左腹部盲貫(ママ)銃創……それに無数の火傷とかすり傷を負った私は、遂にこの左頸部盲貫(ママ)銃創を致命傷として“戦死”したのであった。時に10月14日と後できいた。
“屍体”となった私の周囲には米兵が群れをなして集まったという。私を見た米兵たちの一部はその無謀な計画に恐れをなしながらも、或る者は唾をかけ、或る者は蹴飛ばし、また或る者はあたりの砂を私の“死骸”に叩きつけたそうである。だが、それは戦場にある兵隊たちの当然の心理であったろう。
 駆けつけてきた米軍軍医は私の微弱な心音を聞いて「99%無駄だろうが」と言って野戦病院に運び込んだ。そのとき、私が握りしめて死んでも離そうとしな手榴弾と拳銃を取り除くため、5本指の指を1本ずる解きながら、米兵の観衆に向って、
「これがハラキリだ。日本のサムライだけができる勇敢な死に方だ」
「日本人は皆、この様に最後には狂人となってわれわれを殺そうとするのだ」
 と語ったという。だが当時のアンガウル島の全米軍は私の最期を語り合って「勇敢な兵士」という伝説をつくりあげたらしい。
 元アンガウル島米軍兵であった現・マサチューセッツ大学教授のロバート・E・テイラー氏も、その後手紙を下さって、
「あなたのあの時の勇敢な行動を私たちは忘れられません。あなたのような人がいるということは、日本人全体のプライドとして残ることです」
 といういささか過剰な謝辞の言葉をいただいている。少なくとも当時の米軍が私の蛮勇に仰天したことは事実であろう。
 ――私はそのとき曲りなりにも精一杯戦い、気力を打ちこんで“名誉の戦死”を遂げたのであった。

 3日後に意識を取り戻した。「殺せ、殺せ」と叫び続ける船坂に対して、クレンショーという通訳が静かに語りかけた。「君のような心理で日本人の全員が玉砕してゆけば、焼け野原になったときの日本は誰が再建するのだ」と。クレンショーは船坂の心を開かせた。彼らの友情は戦後にまで続く。

 戦後21年、私が彼の消息を探り当てたとき彼が呉れた最初の手紙には、
「私の生命の一頁はあなたによって開かれました。あなたは私に“すべて生の目標には身体をもってぶっつかれ”“死を賭してかかれば為さざることなし”ということを教えてくれたのです」
 と書いてあった。多分にお世辞が含まれている言葉だが、彼自身も当時の私を一捕虜としてではなく、興味ある人間として関心を持ってくれたのだろうと思う。私たちは銭湯の弾音を近くで聞く場所で互いに深いところで尊敬しながら、かつ反撥し合っていたのである。まことに戦争という事実は悔んでも悔み切れない。戦争は人間のあるべき姿をかくし、相互理解を妨げる。私は、戦後の羽田空港でクレンショーと相擁したとき平和な世界の有難さをしみじみと感じたのであった。

 本物の人物はあらゆる差異を乗り越えて共鳴し合う。響き渡る余韻の長さがそれを証明する。理解と共感は互いの生命の緑野を大きく広げる。

 ペリリュー島に設けられた慰霊碑には次の碑文が書かれている。

「諸国から訪れる旅人たちよ
 この島を守る為に日本軍人が
 いかに勇敢な愛国心を持って戦い
 玉砕したかをつたえられよ。」

       米大平洋艦隊司令長官
               C.ニミッツ

 あの野蛮で残忍なアメリカ兵ですら称賛せずにはいられないほどの勇気を我々の父祖は示した。かくの如き一つひとつの歴史が有色人種に対する差別観を拭い去ったことは疑う余地がない。

 その戦争を徹底して「誤ったもの」と戦後教育は教えた。父祖が示した勇気という遺産を我々が継承できないのは当たり前だ。

英霊の絶叫―玉砕島アンガウル戦記 (光人社NF文庫)
舩坂 弘
潮書房光人新社
売り上げランキング: 2,545

ペリリュー島玉砕戦―南海の小島七十日の血戦 (光人社NF文庫)
舩坂 弘
光人社
売り上げランキング: 164,677

読み始める


ニューソート―その系譜と現代的意義
マーチン・A. ラーソン
日本教文社
売り上げランキング: 293,038

華厳の思想 (講談社学術文庫)
鎌田 茂雄
講談社
売り上げランキング: 122,002

ロボット工学と仏教 AI時代の科学の限界と可能性
森 政弘 上出 寛子
佼成出版社
売り上げランキング: 338,679

米中「AI大戦」
米中「AI大戦」
posted with amazlet at 19.03.24
兵頭 二十八
並木書房 (2018-12-19)
売り上げランキング: 157,801

死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの (講談社文庫)
堀川 惠子
講談社 (2016-12-15)
売り上げランキング: 177,964

13歳からの論理思考力のトレーニング
小野田 博一
PHP研究所
売り上げランキング: 758,649

マンガでやさしくわかるコーチング
CTIジャパン
日本能率協会マネジメントセンター
売り上げランキング: 2,707

驚くべきCIAの世論操作 (インターナショナル新書)
ニコラス・スカウ 伊藤 真
集英社インターナショナル
売り上げランキング: 38,056

マーフィー100の成功法則 (知的生きかた文庫)
大島 淳一
三笠書房
売り上げランキング: 3,587

未来は、えらべる! (VOICE新書)
ダリル・アンカ 本田健
ヴォイス
売り上げランキング: 6,481


世界一やせるスクワット

日本文芸社
売り上げランキング: 2,592

あらゆる不調が解決する 最高の歩き方
園原 健弘
きずな出版
売り上げランキング: 125,859

肩甲骨が立てば、パフォーマンスは上がる!
高岡英夫
カンゼン (2018-05-09)
売り上げランキング: 29,470

しみこむ作り置き
しみこむ作り置き
posted with amazlet at 19.03.24
スガ
セブン&アイ出版 (2018-09-14)
売り上げランキング: 76,939

2019-03-15

読み始める

パラダイムとは何か  クーンの科学史革命  (講談社学術文庫 1879)
野家 啓一
講談社
売り上げランキング: 96,837


剣の精神誌―無住心剣術の系譜と思想 (ちくま学芸文庫)
甲野 善紀
筑摩書房
売り上げランキング: 162,932

「身」をゆるめ「心」を放つ
高岡 英夫
サンマーク出版
売り上げランキング: 394,682

親指はなぜ太いのか―直立二足歩行の起原に迫る (中公新書)
島 泰三
中央公論新社
売り上げランキング: 68,118

ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営
P.F.ドラッカー
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 50,867

亡国の移民政策~外国人労働者受入れ拡大で日本が消える~
坂東忠信
啓文社書房 (2018-12-19)
売り上げランキング: 73,340

奇跡のシェフ
奇跡のシェフ
posted with amazlet at 19.03.15
神尾哲男
上毛新聞社 出版部 (2016-04-20)
売り上げランキング: 88,578

シルバー川柳 誕生日ローソク吹いて立ちくらみ
社団法人全国有料老人ホーム協会 ポプラ社編集部
ポプラ社
売り上げランキング: 14,018

ラリー・ウィリアムズの相場で儲ける法
ラリー ウィリアムズ
日本経済新聞社
売り上げランキング: 225,332

ベルリン 二つの貌 (創元推理文庫 (204‐2))
ジョン・ガードナー
東京創元社
売り上げランキング: 633,196

2019-03-12

自己組織化、適応的、ダイナミズム/『複雑系 科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』M・ミッチェル・ワールドロップ


 ・自己組織化、適応的、ダイナミズム

『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン
『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』マーク・ブキャナン
『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』(旧題『ティッピング・ポイント』)マルコム・グラッドウェル

必読書リスト その三

 たとえば、
(中略)
● 1987年10月のある月曜日、たった1日で株式市場が500ポイントも急落したのはなぜか。コンピュータ化した株取引に原因があったとする説が多い。だがすでにコンピュータが登場して何年も経っていた。はたして、急落がその特定の月曜日に起こった特別な理由はなかったか。
● 太古の種やエコシステムが、しばしば、化石の記録中に何百万年間と安定した姿をとどめているのはなぜか。その後それらが、地質学的には一瞬のうちに死滅するか新しいものに進化するのはなぜか。恐竜の絶滅は小惑星の衝突によるものかもしれない。だが、当時それほど多くの小惑星は存在しなかった。何かほかのことが進行してはいなかったか。
(中略)
● アミノ酸などの単純な分子からなる最初の液体は、約40億年前、どのようにして最初の細胞にその姿を変えたのか。分子がランダムに組み合わさってそうなったとは考えられない。特殊創造論者が好んで指摘するように、それが起こる確率はばかばかしいほど小さい。では、生物の創造は奇跡だったのか。それとも原初の液体の中でわれわれの理解を超える何かが起きていたのか。
(中略)
● つまるところ、生命とはなにか。それは特別に複雑な炭素化合物にすぎないのか。それとも、もっと精妙なものか。またコンピュータ・ウイルスのような創造物を、われわれはどう解釈したらよいのか。人騒がせな生命の模倣にすぎないのか。それともある根本的な意味で、本当に生きているのか。
● 心とは何か。脳という3ポンドのただの物質の塊はどのようにして感情、思考、目的、自覚といった、言葉にしがたい特質をもたらすのか。
● そしておそらくもっとも根本的なことだろうが、なぜ無ではなく何かが存在するのか。宇宙はビッグバンという無形の爆発体からはじまった。そしてそれ以来、熱力学第二法則が説くように、宇宙は無秩序、崩壊、衰退へと向かう無情な傾向に支配されつづけている。にもかかわらず、宇宙はさまざまな規模の構造を生み出してもいる。銀河、恒星、惑星、バクテリア、植物、動物、脳。いったいどのようにして? 無秩序への宇宙の欲求は、秩序、構造、組織への同じぐらい力強い欲求と釣り合っているのだろうか。もしそうなら、どうしてその二つのプロセスは同時に進行し得るのか。

 一見すると、これらの問いに共通する唯一のことは、答えはみな同じ、「だれにもわからない」ということであるように思える。中にはまったく科学的とは思えないような問いさえある。しかし、少しくわしく見てみると、じつはそこに多くの共通点がある。たとえば、これらの問いのすべてが〈複雑な〉システムと関連しているということ。(中略)
 さらに、どの場合も、まさにこうした相互作用の豊穣さが、システム全体の自発的な自己組織化を可能にしているということ。(中略)
 さらに、こうした複雑な自己組織化のシステムは〈適応的〉である。(中略)
 最後にもう一つ、こうした複雑で自己組織的な適応的システムには一種のダイナミズムがあり、それによってそのシステムは、コンピュータ・チップや雪片のようにただ複雑であるだけの静的な物体とは質的にちがったものになっている。複雑系(Complex System)はそうしたものより、より自発的、より無秩序的、そしてより活動的である。

【『複雑系 科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』M・ミッチェル・ワールドロップ:田中三彦〈たなか・みつひこ〉、遠山峻征〈とおやま・たかゆき〉訳(新潮文庫、2000年/新潮社、1996年『複雑系 生命現象から政治、経済までを統合する知の革命』改題)】

 著者の名前は英語だと「M. Mitchell Waldrop」となっている。「M」は何なのだろう。気になるが判明せず。

 複雑系といえば、自己組織化や非平衡、散逸系、非線形、カオス理論といった専門用語で行き詰まりやすいが、大雑把にエントロピー増大則を理解すればそれでよろしい。「覆水盆に返らず」である。そしてコーヒーに入れたミルクは広がってゆく。更に風呂のお湯は時間が経つと冷める。形あるものは必ず滅びる。宇宙全体で見ればエントロピーは増大しているのだが、ミクロレベルでおかしな現象が生じる。生命体だ。生物は外部からエネルギーを取り込み平衡状態を保つ。これが自己組織化である。

 フレッド・ホイルは単細胞がランダムな過程で発生する確率は「がらくた置き場の上を竜巻が通過し、その中の物質からボーイング747が組み立てられる」ようなものだと言った。批判を目的とした極言ではあるが自己組織化を巧く言い表している。

非線形非平衡系の物理学 非平衡統計力学から見る生命現象

 複雑系ではゆらぎが未来を大きく変える。「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」(エドワード・ローレンツ)。ビッグバンも生命誕生もゆらぎから生まれた。何もないところから何かが生まれる時、相転移というダイナミズムが働く。

 サンタフェ研究所そのものが天才たちが織りなす複雑系に見えてくる。

複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち (新潮文庫)
M.ミッチェル ワールドロップ Mitchell M. Waldrop 田中 三彦 遠山 峻征
新潮社
売り上げランキング: 231,210