2019-07-09

馬渡大坂~半原越


 馬渡大坂(まわたりおおさか)から半原越(はんばらごえ)にアタック。本当は牧馬峠(まきめとうげ)までも行くつもりだったのだが思った以上にきつくて帰ってきた。行きは愛川の水道みち地図)から。


 急斜面を駆け下りると里山に囲まれた田んぼが広がる。長閑(のどか)で心休まる場所だ。

 馬渡大坂は大したことがなかった。ところが半原越まで行くとなると話が変わる。最初はナメてかかっていた。「半原越よ、スピンバイクで鍛えた私の足元にひざまずくがいい」くらいに思ってたんだよね。56歳になった私の前に半原越は傲然と立ち塞がった。


【半原越入口付近で】

 牧馬峠(相模湖側)に次ぐ苦しさであった。ペダルを踏みながら神仏に罰せられているような気分になってくる。ま、私としては70~80代で行うはずのリハビリを先んじて行っている自覚があるから苦しいのは望むところだ。

 空気が湿っぽくなってきたので帰ることに。途中で前々から気になっていた道を確認する。Googleマップには載っていない(「Googleマップが劣化した」不満の声が相次ぐ ゼンリンとの契約解除で日本地図データを自社製に変更か - ITmedia NEWS)のだが航空写真だとはっきりわかる。ズザ沢湧水の脇にある道だ。


 ゲートの向こうの林道は舗装されていなかった。



 いつものようにJA県央愛川荒茶工場前を滑るように走り抜ける。時速57kmだ。そのまま来た道を戻る。スピンバイクの効果は平地でわかった。驚くほど足が回る。登坂で発揮できないのはどうしたことか? 筋力ではなく心肺能力の問題なのだろうか?

 今月でロードバイクに乗り始めてからちょうど1年を迎える。ヤビツ峠に挑む前にもう少しトレーニングが必要だ。

 日野晃の本を読んで思ったのだが、「背中を丸める」とか「肩甲骨を開く」というのは「胸骨を下げる」意識にすると、かなり楽になる。

2019-07-08

黒船ペリーが開国を迫ったのは捕鯨船の補給地を確保するためだった/『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男


『人類史のなかの定住革命』西田正規
『砂糖の世界史』川北稔
『砂の文明・石の文明・泥の文明』松本健一

 ・動物文明と植物文明という世界史の構図
 ・黒船ペリーが開国を迫ったのは捕鯨船の補給地を確保するためだった
 ・中東が砂漠になった理由
 ・レッドからグリーンへ

『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」が生まれたとき』山極寿一、小原克博
『一神教の闇 アニミズムの復権』安田喜憲
『石田英一郎対談集 文化とヒューマニズム』石田英一郎
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」がうまれたとき』山極寿一、小原克博
『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を超えて』加藤茂孝
『感染症の世界史』石弘之

必読書リスト その四

石●石炭ガスが登場する以前、大都市の街頭の燃料にクジラの油を使っていて、1740年代のロンドンでは5000もの街灯が鯨油でともされていたそうです。これでは、いくら捕鯨をやっても足りないですよ。欧米で捕鯨の圧力が少し下がるのは、19世紀に入って石炭ガスが普及してきてからです。

(中略)

石●アメリカの捕鯨産業は1650年頃東海岸で始まり、1700年頃にはそこも捕り尽くして北極海に出ていく。それも、湯浅さんがいわれたとおり、1830年頃には資源は枯渇して太平洋に進出を余儀なくされる。19世紀半ばには、もう太平洋の東ではクジラが壊滅し、さらに西へ西へと進出したわけです。しかし、捕鯨船への燃料や水の補給ができなくなり、そこで強面のペリー提督を日本に送り込んで、捕鯨船への補給のために開国の圧力をかけることになる。

【『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之〈いし・ひろゆき〉、安田喜憲〈やすだ・よしのり〉、湯浅赳男〈ゆあさ・たけお〉(洋泉社新書y、2001年)/新版、2013年

 しかも欧米人は鯨肉を食さなかった。油を絞った後は巨大な遺骸を捨てていたのだ。黒船来航は1853年(嘉永6年)。それから100年余りを経て、今度は日本の捕鯨が欧米から問題視される(『動物保護運動の虚像 その源流と真の狙い』梅崎義人)。

 誰が何を食べようと文句を言われる筋合いはないはずだが、白人は「知性の高い動物を食べるべきではない」と宣(のたま)う。同じ人間であるはずの黒人や黄色人を散々差別してきた白人の動物に対する憐憫(れんびん)の情はどこか歪んだものを感じさせる。

 要は「ルールを決めるのは俺たちだ」と言いたいのだろう。もちろんその裏側には「お前らは黙ってルールに従えばよい」という人種差別感情がべったりと貼り付いている。

 日米和親条約(1854年)を始めとする不平等条約は「黒船レジーム」といってよい。これを解消するために日本は日清戦争日露戦争を戦い、やっとの思いで半世紀後の1911年に関税自主権を回復した。国際社会で対等な国家として認められるのに我々の父祖がどれほどの苦労をしてきたことか。

 鯨のために開国を強いられ、開国すると鯨のために弾劾される。日本にとっては忌まわしい動物と言えなくもない。

近未来の車輪とタイヤとロボット・ドローン






2019-07-07

黒船を歌う江戸時代の人々/『幕末外交と開国』加藤祐三


『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新
『逝きし世の面影』渡辺京二

 ・黒船を歌う江戸時代の人々

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 黒船来航、そのニュースはまたたく間に国内を駆け巡った。公文書、浮世絵、狂歌・狂句、瓦版(ミニ新聞)、手紙、日記、そして口コミ。
◎泰平の眠りをさます上喜撰(じょうきせん) たつた四はいで夜も眠れず
  煎茶の銘柄に「上喜撰」があった。「蒸気船」と同音である。煎茶を四杯も飲めば目が冴えて眠れない。四隻(四杯)の蒸気船では「夜も眠れず」。作成年代は不明、後の明治期とする説もある。似た歌に「アメリカを茶菓子に呑んだ蒸気船 たつた四杯で夜もねられず」があり、アメリカに飴をかけている。
◎井戸の水あつてよく出る蒸気船 茶の挨拶で帰るアメリカ
  井戸とは、2名置かれた浦賀奉行の一人(江戸城詰め)の井戸石見守(いわみのかみ)との語呂合わせである。水質が合って程よく出た上喜撰を飲んで、茶飲み程度の軽い挨拶で帰帆。確かに、ペリーの第1回滞在は、わずか10日間である。
◎アメリカが来ても 日本はつつがなし
  筒(大砲)がないことと、恙無い(無事)を掛けている。
◎日本へ向ひてペロリと下をだし
  ペリーの名はオランダ語風にペルリ、ヘロリなどとも書かれている。ペロリ、あかんべ~か。
◎馬具武具屋 渡人さまとそつといひ
  泰平の時代がつづき、馬具や武具を扱う商売はさびれていたが、黒船来航でいいよいよ天下大乱か。商売繁盛、だが大声では言えない。
◎兵糧の手当に米の値があがり 武家のひそかに黒船さま
  武士の俸給は米である。まずは食用にしたが、残りは売って現金に換えた。兵糧手当に米の値上り。ありがたや。
◎永き御世(みよ)なまくら武士の今めざめ アメリカ船の水戸のよきかな
  水戸とは警世家で対外強硬派ともいわれた御三家(ごさんけ)の水戸(茨城県)の徳川斉昭(なりあき)をさす。目の前の黒船が、長い平和ですっかりなまくらになった武士の覚醒剤となった。水戸殿は溜飲を下げる。
 内容からみて、これらの歌は、10日間で終わった第1回ペリー来航の時に詠まれたものであろう。安堵した気配や、揶揄や好奇心が強く出ている。艦砲射撃で街が焼かれた、武士達が艦隊に切り込んだなど、緊迫した様子のものは一つもない。これがほかならぬ現実であった。

【『幕末外交と開国』加藤祐三〈かとう・ゆうぞう〉(ちくま新書、2004年/講談社学術文庫、2012年)】

 言葉のセンスがツイッターとは桁違いである。その圧縮された情報の濃度は流行歌をも軽々と凌(しの)ぐ。更には遊びの精神が横溢(おういつ)しながらも単なる駄洒落に堕していない。

 俳句の俳という字は「おどけ、たわむれ」を表し(俳 | 漢字一字 | 漢字ペディア)、俳句の源流である「『俳諧』には、『滑稽』『戯れ』『機知』『諧謔(かいぎゃく)』等の意味が含まれる」(俳諧 - Wikipedia)。ユーモアとは現実を突き放して見つめて悲しみや苦しみをも笑い飛ばす精神である。四季を愛(め)でる美意識や、もののあはれもさることながら、日本人のユニークさは「現実を面白がる心持ち」にあるような気がする。

泰平のねむりをさますじようきせん たつた四はいで夜るも寝られず/『予告されていたペリー来航と幕末情報戦争』岩下哲典

 この手の話が好きなので紹介したが、本書は――検索しながら別の本に辿り着き、更に検索してはまた別の本を辿ってしまう悪循環が2時間以上続く。その後数本の動画を見て、結局寝てしまう――黒船来航後、仁王立ちとなって安政の改革を断行した阿部正弘〈あべ・まさひろ〉と、ペリーとの交渉役を命ぜられた林大学頭〈はやし・だいがくのかみ/林復斎〉による外交の歴史が詳述されている。

 戦前を「未発達の黒い歴史」と捉えるのが左翼の進歩史観であるが、史実を知ればマシュー・ペリー同様、江戸時代の日本人を見直さざるを得ない。

 明治維新の立役者は下級武士であったが身分という枠組みで見るのは片手落ちだ。維新~開国を成し遂げたのは知識人たちであった。豊臣秀吉はヨーロッパ人がアジア諸国を侵略し植民地化していることを知っていた(『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新)。そして幕末の知識人は阿片戦争で清国がイギリスに敗れた事実を把握していた。

 黒船を歌う江戸時代の人々は実に呑気(のんき)であった。彼らの精神は江戸時代に埋没したまま日本の激動を予期し得なかった。阿部正弘が成し遂げた改革や人事を思えば、彼こそが明治維新という舞台の土台をつくったといっても過言ではないだろう。それまで発言権のなかった外様大名の声を聞き、島津斉彬〈しまづ・なりあきら〉などを幕政に参加させた。また、勝海舟を登用したのも正弘であった。

 軍事力では圧倒的に劣る日本が外交交渉を通して新しい国家の形を模索する。林大学頭のタフネゴシエーター振りも際立っている。その胆力・見識・知謀は現在の大臣級では足元にも及ばないだろう。

 こうして日本は鎖国という平衡系世界から開国という非平衡系世界へ船出する。

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2019-07-06

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2019-07-04

潮目


 有本香vs.橋下徹の論争に百田尚樹足立康史が参戦して、案の定足立が炎上させて終了しつつある。

 かつて見えなかった戦後史の真相が輪郭をくっきりと現し、長い影まで見晴かすことができるようになった現在、この論争は新しい歴史教科書をつくる会の内紛以上に大きな影響を及ぼす可能性がある。twitter上での些細な混乱が示したのは、国際社会の反応を恐れる古い政治家と祖国に誇りを抱こうとする国民の間に越え難い確執があることだった。

 4月に行われた大阪W選挙で日本維新の会は圧勝した。その驕(おご)りがあったとすれば維新は所詮ローカル政党の域を出ることはない。DHCテレビ文化人放送局は二大ネット保守放送局であるが、これまで手を携えて安倍政権と維新を支持し続けてきた。そこに亀裂が入ったわけだから保守は統合から分裂へ向かい、憲法改正にブレーキが掛かることとなろう。

 橋下徹に関してはメディアとの対決姿勢を国民に広く知らしめた一点を私は評価している。ただしその礼儀知らず振りは様々な波紋を広げ、大阪維新の会と旧太陽の党が合流する際に露見した(平沼赳夫「次世代の党」党首が傲岸不遜な橋下徹・大阪市長の非礼を告発)。今となっては平沼赳夫〈ひらぬま・たけお〉の見方が正しかったように思える(「日本維新の会」と「石原新党」―なぜ橋下徹は平沼赳夫を排除するのか)。


 橋下と足立の言動には拭い難いエリート意識がにじみ出て腐臭を放っている。まるで「お前ら国民に政治家の苦労がわかってたまるか」と言うような姿勢が透けて見える。彼らの態度は逆圧迫面接と名づけるのが相応しい。小選挙区で落選して比例復活を遂げた足立はもっと自重して然るべきだろう。

 小さな論争が意外と大きな潮目になるかもしれない。政界再編のためには分裂が必要だ。















2019-07-03

文明とエントロピー/『ほんとうの環境問題』池田清彦、養老孟司


『やがて消えゆく我が身なら』池田清彦

 ・石油とアメリカ
 ・文明とエントロピー

『正義で地球は救えない』池田清彦、養老孟司
『生物にとって時間とは何か』池田清彦

●文明とエントロピー

 ですから、環境問題の根本とは、文明というものがエネルギーに依存しているということです。そしてそのときに、議論に出ない重要な問題があります。それは、熱力学の第二法則です。
 文明とは社会秩序ですよね。いまだったら冷暖房完備というけれども、普通の人は夏は暑いから冷房で気持ちがいい。冬は寒いから暖房で気持ちがいいというところで話が止まってしまう。しかし根本はそうではない。夏だろうが冬だろうが温度が一定であるという秩序こそが文明にとっては大切なのだと考えるべきなのです。しかし秩序をそのように導入すれば、当然のことですが、どこかにそのぶんのエントロピーが発生する。それが石油エネルギーの消費です。
 端的に言えば文明とは、ひとつはエネルギーの消費、もうひとつは人間を上手に訓練し秩序を導入すること、このふたつによって成り立っていると言えます。人間自体の訓練で秩序を導入する際のエントロピーは人間の中で解消されるから、自然には向かいません。文明は必ずこの両面を持っています。さきほども述べたように、古代文明があったところでは、石油に頼らずとも文明が作れるという意識があったため、石油に対する意識は鈍かった。しかしアメリカは荒野だったし、そこに世界中からバラバラの人間が集まってきた。そういうところでなぜ文明ができたのかと言えば、まさに秩序を石油によって維持したためです。秩序を維持することは、エントロピーをどこで捨てるかという問題であり、それを1世紀続けたら炭酸ガス問題になったのです。アメリカ文明のいちばん端的な例は、アパートの家賃が光熱費込みだということです。これではエネルギーの節約に向かうはずがない。だから、恐ろしく単純な問題なんですよ。それを認めずに何かを言っても意味がない。
 僕が代替エネルギーを認めないというのは、どんな代替エネルギーを使おうが、エントロピー問題には変わりがないからです。(養老孟司)

【『ほんとうの環境問題』池田清彦、養老孟司〈ようろう・たけし〉(新潮社、2008年)】

 一般的にエントロピーは「乱雑さの度合い」と解釈されている。厳密ではないが熱力学第一法則がエネルギー保存則で熱力学第二法則がエントロピー増大則と覚えておけばよい。

 熱いスープは時間を経るごとに冷める。熱が空気中に分散した状態を「乱雑さ」と捉えるのである。つまり冷めたスープはエントロピーが増大したのだ。コーヒーに入れたミルクは渦を巻きながら拡散し、掻き混ぜることで全体に行き渡る。このように秩序から無秩序への変化は逆行することがない(不可逆性)。

「ホイルは、最も単純な単細胞生物がランダムな過程で発生する確率は『がらくた置き場の上を竜巻が通過し、その中の物質からボーイング747が組み立てられる』のと同じくらいだという悪名高い比較を述べている」(Wikipedia)。フレッド・ホイルのよく知られた喩え話もエントロピーという概念に裏打ちされている。

 出来上がったカレーを元の材料に戻すことは不可能だ。混ぜた絵の具を分離することも無理だ。砂で作ったお城は波に洗われて崩れる。テーブルから落ちて砕け散った茶碗が元通りになることはない。「覆水盆に返らず」という言葉は見事にエントロピー増大則を言い表している。

 やがて太陽も冷たくなり、宇宙はバラバラになった原子が均一に敷かれた砂漠と化す(熱的死)。

 冷房を効かせると熱い部屋が涼しくなる。一見するとエントロピー増大則に反しているようだが室外機の排熱とバランスすれば、やはりエントロピーは増大している。




 武田邦彦はエントロピー増大則に照らしてリサイクルを批判しているが、養老孟司の代替エネルギー批判も全く一緒である。エントロピー増大則は永久機関を否定する。

 エントロピーに逆らう存在が生物であるが、熱や排泄物(≒エントロピー)を外に捨てている。

 物理世界の成住壊空(じょうじゅうえくう/四劫)・生老病死がエントロピーなのだろう。



エントロピー増大の法則は、乱雑になる方向に変化するというものではない。 | Rikeijin
エントロピーとは何か | 永井俊哉ドットコム日本語版
エントロピーとは何か(1) エネルギーの流れの法則
宇宙のエントロピー
槌田敦の熱学外論 | 永井俊哉ドットコム日本語版