検索キーワード「レイ・カーツワイル」に一致する投稿を関連性の高い順に表示しています。 日付順 すべての投稿を表示
検索キーワード「レイ・カーツワイル」に一致する投稿を関連性の高い順に表示しています。 日付順 すべての投稿を表示

2011-06-08

指数関数的な加速度とシンギュラリティ(特異点)/『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル


『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
・『人間原理の宇宙論 人間は宇宙の中心か』松田卓也
全地球史アトラス

 ・指数関数的な加速度とシンギュラリティ(特異点)
 ・レイ・カーツワイルが描く衝撃的な未来図
 ・アルゴリズムが人間の知性を超える

『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『トランセンデンス』ウォーリー・フィスター監督
『LUCY/ルーシー』リュック・ベッソン監督、脚本
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー
・『養老孟司の人間科学講義』養老孟司
『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン

情報とアルゴリズム
必読書リスト その五

 レイ・カーツワイルが描く未来予想図は、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』を軽々と凌駕している。鉄腕アトムですら足元にも及ばない。

 人間の頭脳や身体がテクノロジーの進化によって拡張されるという主張は比較的理解しやすい。

「体重支持型歩行アシスト」試作機(ホンダ)

 我々はあまり意識することがないが、既に身体化されたテクノロジーはたくさんある。杖や眼鏡は元より、衣服や靴が典型であろう。脳の拡張という点では文字の発明が決定的だと思われる。そして粘土板(ねんどばん)、木簡竹簡パピルス羊皮紙と保存ツールは進化してきた。今やテキストはデジタル化されている。テクノロジーの発達は桁外れのスピードを生む。

 レイ・カーツワイルは最終的な予想として、知性がナノテクノロジーによってミクロ化され、統一された意志が宇宙に広がってゆく様相を描いている。もうね、ため息も出ないよ。

 ホロコーストからのがれてきたわたしの両親は、いずれも芸術家で、子どもには、実際的で視野の広い宗教教育を施したいと考えた。それでわたしは、ユニテリアン派教会の教えを受けることになった。そこでは、半年かけてひとつの宗教について学ぶ。礼拝に出て、教典を読み、指導者と対話する。それが終わると、次の宗教について勉強する。「真理に至る道はたくさんある」という考え方がその中心にあるのだ。世界中の宗教の伝統には共通するところがたくさんあるが、一致しないところも明らかにあることに当然気付いた。おおもとの真実は奥が深くて、見かけの矛盾を超えることができるのだということが、だんだんとわかってきた。

【『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル:井上健〈いのうえ・けん〉監訳、小野木明恵〈おのき・あきえ〉、野中香方子〈のなか・きょうこ〉、福田実〈ふくだ・みのる〉訳(NHK出版、2007年)以下同】

 レイ・カーツワイルはドグマから自由であった。ホロコーストは固定観念から生まれる。親御さんの聡明さが窺える。信念・思想・哲学・宗教は価値観を固定化する。これは科学の世界においても同様で、人間が自由にものを考えることができると思うのは大間違いだ。それどころか脳科学の分野では自由意志すらないと考えられているのだ。

人間に自由意思はない/『脳はなにかと言い訳する 人は幸せになるようにできていた!?』池谷裕二

 詩人のミュリエル・ルーカイザーは、「宇宙は、原子ではなく物語でできている」と語った。

 さすが詩人である。ものの見事に本質を一言で衝(つ)いている。物語とは「時系列に因果をあてはめてしまう脳の癖」と考えればよい。3年ほど考え抜いて私はそう結論するに至った。

「物語」関連記事

 誰しも、自分の想像力の限界が、世界の限界だと誤解する。
  ――アルトゥール・ショーペンハウアー

 これが本書を読む際の注意事項だ。上手いよね。

 21世紀の前半にどのような革新的な出来事が待ち構えているのかが、少しずつ見えてくるようになった。宇宙のブラックホールが、事象の地平線〔ブラックホールにおいて、それ以上内側に入ると光すらも脱出できなくなるとされる境界〕に近づくにつれ、物質やエネルギーのパターンを劇的に変化させるのと同じように、われわれの目の前に迫りくる特異点は、人間の生活のあらゆる習慣や側面をがらりと変化させてしまうのである。性についても、精神についても。
 特異点とはなにか。テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないことに変容してしまうような、来るべき未来のことだ。それは理想郷でも地獄でもないが、ビジネス・モデルや、死をも含めた人間のライフサイクルといった、人生の意味を考えるうえでよりどころとしている概念が、このとき、すっかり変容してしまうのである。

 特異点(シンギュラリティ)とは因果が崩壊する地点を意味する。続いて『成長の限界 ローマ・クラブ人類の危機レポート』で示された「幾何級数的成長の限界」の例として有名な「睡蓮の例え」を紹介。レイ・カーツワイルは「指数関数的な成長」と表現している。

環境経済学入門 Chihiro's web

 つまり、テクノロジーが右肩上がりで急速な上昇を遂げた後に、全く新たな地平(=特異点)が現れるということだ。自動車が製造されるとアスファルトの道路ができる。交通手段の発達は移動時間を短縮した分だけ人生の密度を高める。通信技術の進化は移動する手間すら省(はぶ)いてしまった。江戸時代の人々からすればテレパシーも同然だ。このように技術は世界を変えるのだ。世界観や概念が激変すれば、世界の風景は完全に変わる。パラダイムシフト

 人間の脳は、さまざまな点でじつにすばらしいものだが、いかんともしがたい限界を抱えている。人は、脳の超並列処理(100兆ものニューロン間結合〔シナプスでの結合〕が同時に作動する)を用いて、微妙なパターンをすばやく認識する。だが、人間の思考速度はひじょうに遅い。基本的なニューロン処理は、現在の電子回路よりも、数百万倍も遅い。このため、人間の知識ベースが指数関数的に成長していく一方で、新しい情報処理するための生理学的な帯域幅はひじょうに限られたままなのである。

 後で詳しく解説されているが、結局のところ光速度が最後の壁となる。真の特異点とは光速度を意味する。そしてレイ・カーツワイルは光速度を超えることは可能だとしている。

 われわれは今、こうした移行期の初期の段階にある。パラダイム・シフト率(根本的な技術的アプローチが新しいものへと置き換わる率)と、情報テクノロジーの性能の指数関数的な成長はいずれも、「曲線の折れ曲がり」地点に達しようとしている。この地点にくると、指数関数的な動きが目立つようになり、この段階を過ぎるとすぐに、指数関数的な傾向は一気に爆発する。今世紀の半ばまでには、テクノロジーの成長率は急速に上昇し、ほとんど垂直の線に達するまでになるだろう――そのころ、テクノロジーとわれわれは一体化しているはずだ。

 凄い。特異点の向こうの世界が示しているのはビッグバンそのものだ。しかも爆発(ビッグバン)から誕生した宇宙にある星々は爆発で死を迎えるわけだから、生と死をも象徴している。「芸術は爆発だ!」と岡本太郎は言ったが、宇宙全体が爆発というリズムを奏でているのだ。人類が戦争好きなのも、こんなところに由来しているのかもしれない。

 1950年代、伝説的な情報理論研究者のジョン・フォン・ノイマンがこう言ったとされている。「たえず加速度的な進歩をとげているテクノロジーは……人類の歴史において、ある非常に重大な特異点に到達しつつあるように思われる。この点を超えると、今日ある人間の営為は存続するすることができなくなるだろう」ノイマンはここで、【加速度】と【特異点】という二つの重要な概念に触れている。加速度の意味するところは、人類の進歩は指数関数的なものであり(定数を【掛ける】ことで繰り返し拡大する)、線形的(定数を【足す】ことにより繰り返し増大する)なものではない、ということだ。

 現在使用されている殆どのパソコンは「ノイマン型コンピュータ」である。そのノイマンだ。ま、上に貼り付けたWikipedia記事の「逸話」という項目を読んでごらんよ。天才という言葉の意味が理解できるから。

 非線形性については以下の記事を参照されよ。

バイオホロニクス(生命関係学)/『生命を捉えなおす 生きている状態とは何か』清水博

 このテーマは実に奥が深く、チューリングマシンゲーデルの不完全性定理とも絡んでくる(停止性問題)。

 その限界はテクノロジーで打ち破れるとレイ・カーツワイルは叫ぶ。やがて宇宙は人類の意志と知性で満たされる。そのとき神が誕生するのだ。すなわちポスト・ヒューマンとは神の異名である。

 今日はここまで。まだ一章分の内容である(笑)。



ロン・マッカラム:視覚障害者の読書を可能にした技術革新
脳は宇宙であり、宇宙は脳である/『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』デイヴィッド・イーグルマン
情報理論の父クロード・シャノン/『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック
宗教学者の不勉強/『21世紀の宗教研究 脳科学・進化生物学と宗教学の接点』井上順孝編、マイケル・ヴィツェル、長谷川眞理子、芦名定道
機械の字義/『青雲はるかに』宮城谷昌光
『歴史的意識について』竹山道雄
ジョン・ホイーラーが示したビッグクエスチョン/『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー

2012-01-01

レイ・カーツワイルが描く衝撃的な未来図/『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル


・『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
・『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
・『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
・『人間原理の宇宙論 人間は宇宙の中心か』松田卓也
全地球史アトラス

 ・指数関数的な加速度とシンギュラリティ(特異点)
 ・レイ・カーツワイルが描く衝撃的な未来図
 ・アルゴリズムが人間の知性を超える

『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『トランセンデンス』ウォーリー・フィスター監督
『LUCY/ルーシー』リュック・ベッソン監督、脚本
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー
・『養老孟司の人間科学講義』養老孟司
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン

情報とアルゴリズム

「10年後の2021年、われわれを取り巻く科学の世界はどうなっているのか――米国の民間研究機関インスティテュート・フォー・ザ・フューチャー(IFTF)が、今後10年間に科学技術分野で起こりうる進展をまとめた」(CNN 2011-12-31

 面白味のない記事だ。そこで、レイ・カーツワイルが描く衝撃的な未来図を紹介しよう。指数関数的な加速度がシンギュラリティ(特異点)に達すると世界は激変する。

パラダイム・シフト(技術革新)の起こる率が加速化している。今の時点では、10年ごとに2倍。
・情報テクノロジーの能力(コストパフォーマンス、速度、容量、帯域幅)はさらに速いペースで指数関数的に成長している。今の時点で毎年およそ2倍。この原則は、さまざまな計測単位にも当てはまる。人間の知識量もそのひとつ。
・情報テクノロジーにおいては、指数関数的成長にはさらに上の段階がある。指数関数的な成長率(指数)が、指数関数的に成長する、というものだ。理由は以下のとおり。テクノロジーのコストパフォーマンスがさらに高くなり、技術の進歩に向けてより大きな資源が投入される。そのため、指数関数的な成長率は、時間の経過とともに大きくなる。たとえば、1940年代にコンピュータ産業に置いて実施された事業の中で、歴史的に重要だと今なお見なされるものはわずかしかない。それに対し今日、この業界での総収益は1兆ドルを超える。よって、その分だけ、研究開発にかける予算も高くなっている。(中略)
・人間の機能を模倣するために必要なハードウェアが、スーパーコンピュータでは10年以内に、パーソナル・コンピュータ程度のサイズの装置ではその次の10年以内に得られる。2020年代半ばまでに、人間の機能をモデル化した有効なソフトウェアが開発される。
・ハードとソフトの両方が人間の機能を完全に模倣できるようになれば、2020年代の終わりまでには、コンピューターがチューリングテストに合格できるようになり、コンピュータの知能が生物としての人間の知能と区別がつかなくなるまでになる。(中略)
・機械の知能に従来からある長所には、なん十億もの事実を正確に記憶し、即座に想起するという能力がある。
・非生物的な知能には、また別の利点がある。いったん技能を獲得すれば、それを高速かつ最適な正確さで、疲れることなく何度も繰り返し実行することができる。
・たぶんこれがもっとも重要な点だが、機械は、知識を極端に速く共有することができる。これに比べて、人間が言語を通じて知識を共有するスピードは、とても遅い。
・非生物的な知能は、技能や知識を、ほかの機械からダウンロードするようになるだろう。そのうち、人間からもダウンロードするようになる。
・機械は、光速に近い速さ(毎秒およそ30万キロメートル)で、信号処理し切り換えることができるようになる。これにたいして、哺乳類の脳で使われている電気化学信号の処理速度は、およそ毎秒100メートル。速度は、300万倍以上も違う。(中略)
・機械は、それぞれがもつ資源と知能と記憶を共有することができる。2台の機械――または100万台でも――が集まってひとつになったり、別々のものに戻ったりすることができる。多数の機械が、この二つを同時にする、つまり、同時にひとつにも別々にもなることができる。人間はこれを恋愛と呼ぶが、生物がもつ恋愛の能力は、はかなくて信用できない。
・こうした従来の長所(生物的な人間の機能が持つパターン認識能力と、非生物的な知能の持つスピードと記憶容量と正確さ、知識と技能を共有する力)を合体させると、恐るべきことになる。(中略)
・人間の知能には、かなりの可塑性(それ自身の構造を変化させる力)が、これまで考えられていたよりもある。それでも、人間の脳の設計には、どうしようもない限界がある。たとえば、頭蓋骨には、100兆のニューロン間結合しか収まる余地がない。人間が、先祖の霊長類よりも大きな認知能力を授かることになった重要な遺伝的変化は、大脳皮質が大きくなり、脳の中の特定の領域で灰白質の容量が増えたことだった。しかしこの変化は、生物進化というとてもゆっくりとした時間の尺度で起き、脳の能力には本質的な限界がある。機械は、それ自身の設計を組み替えて、性能を際限なく増加させることができる。ナノテクノロジーを用いた設計をすれば、サイズを大きくすることもエネルギー消費が増大することもなく、生物の脳よりも能力をはるかに高められる。(中略)
・非生物的な知能が加速度的なサイクルで向上するのに加え、ナノテクノロジーを用いれば、物理的な事象を分子レベルで操作することができる。
・ナノテクノロジーを用いてナノボットを設計することができる。ナノボットとは、分子レベルです啓された、大きさがミクロン(1メートルの100万分の1)単位のロボットで、「呼吸細胞(レスピロサイト)」(人工の赤血球)などがある。ナノボットは、人体の中で無数の役割を果たすことになる。たとえば加齢を逆行させるなど(遺伝子工学などのバイオテクノロジーで達成できるレベルを超えて)。
・ナノボットは、生体のニューロンと相互作用して、神経系の内部からヴァーチャル・リアリティを作りだし、人間の体験を大幅に広げる。
・脳の毛細血管に指数十億個のナノボットを送り込み、人間の知能を大幅に高める。
・非生物的な知能が人間の脳にひとたび足場を築けば(すでにコンピュータチップの動物神経組織への移植実験によってその萌芽が始まっている)、脳内の機械の知能は指数関数的に増大し(実際に今まで成長を続けてきたように)、少なくとも年間2倍にはなる。これにたいし、生物的な知能の容量には実際的な限界がある。よって、人間の知能のうち非生物的な知能が、最終的には圧倒的に大きな部分を占めるようになる。
・ナノボットは、過去の工業社会が引き起こした汚染を逆転させ、環境をよくする。(中略)
・他者の感情を理解して適切に反応するという人間の能力(いわゆる感情的知能)も、将来には、機械機能が理解して自由に使いこなすようになるだろう。(中略)
・収穫加速の高速は、非生物的な知能が、宇宙の中のわれわれの周囲にある物質とエネルギーを、人間と機械が合体した知能でほぼ「飽和」させるまで継続される。飽和とは、コンピューティングの物質的性質を理解したうえで、物質とエネルギーのパターンをコンピューティングのために最大限利用することだ。この最大の限界に至るまで、文明の知能は、宇宙のすみずみまで広がり、その能力を拡大し続ける。拡大する速度は、そのうちすぐに、情報が伝達される最大速度に至る。
・最後には、宇宙全体にわれわれの知能が飽和する。これが宇宙の運命なのだ。われわれが自分自身の運命を決定するのであり、今のように、天体の働きを支配する、単純で機械的な「もの言わぬ」力に決定されるのではない。
・宇宙がそこまで知的になるまでにかかる時間は、光速が不変の限界なのかどうかで決まって来る。光速の限界を巧みに取り除く(または回避する)可能性がないわけではなさそうだ。もしもそういう可能性があるのなら、未来の文明に存在する壮大な知能が、それを利用することができるだろう。

 さあ、これが特異点だ。

【『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル:井上健〈いのうえ・けん〉監訳、小野木明恵〈おのき・あきえ〉、野中香方子〈のなか・きょうこ〉、福田実〈ふくだ・みのる〉訳(NHK出版、2007年)】



米国で疲れも恐怖も感じない兵士を作るプロジェクトが進行中

2019-02-08

支離滅裂な思考/『人類の未来 AI、経済、民主主義』吉成真由美編


『9.11 アメリカに報復する資格はない!』ノーム・チョムスキー
『メディア・コントロール 正義なき民主主義と国際社会』ノーム・チョムスキー
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル

 ・支離滅裂な思考

 それでも気候問題は自然を相手にしているので、地道な観測を積み重ねることが信頼できる結果につながっていくと期待することもできる。しかし世界経済の動向というようなことになるとそうはいかない。人間の脳については、脳科学がやっとその表層をわずかに明らかにし始めたところであって、たった一人の人間の行動や感情でさえ、予測するのが極めて困難であるのに、そもそも本人にすら、一体どうしてそんな気持ちになったのかてんでわからないことが多いのに、どうやって何十億という人間の活動の集積を予測できるというのだろう。経済モデルが実体経済と乖離(かいり)しているのもむべなるかな。

【『人類の未来 AI、経済、民主主義』吉成真由美〈よしなり・まゆみ〉編(NHK出版新書、2017年)】

 ノルウェーの物理学者アイヴァー・ジェーバーの「気候科学はもはや科学ではなく、宗教と化している」を引用した上で上記のテキストが書かれている。たぶんノーベル物理学賞受賞者が語ったのは気候変動が資本主義に組み込まれ、金儲けのために悪用されて、実態と懸け離れてしまったことへの警鐘であったのだろう。日本では武田邦彦が同じ主張をしている。

 まったくもって支離滅裂な文章である。まず、「地道な観測」がどのような「信頼できる結果」につながるというのか? 続く文章から「予測」を意味していることがわかるが、そもそも観測と予測は別問題である。そして話の腰を折るようにしていきなり経済予測に話が転じる。ここでもまた誤解に基づく前提が吐露される。「人間の脳」と「一人の人間の行動や感情」の予測とマクロ経済の間には何の関係もない。私にとってはむしろ著者の思考回路が予測不能で、とてもついてゆけない。

 具体的な例を示そう。私が明日、業務スーパーに行くかどうかはわからない。ま、週に3回くらいは行っているので確率としては43%(3/7)である。仮にこの業務スーパーの集客数が1000人/日であるとしよう。近隣に住むXさんが業務スーパーへ行くかどうかを予測することは不可能だが、1000人前後の来客があるのは確かだろう。

 著者は基本的な金融政策すら知らないのではあるまいか。物の値段はマネーの流通量で変化するのだ。株式相場を見れば一目瞭然である。売買は常に相対(あいたい)取引であるのになぜ価格が変動するのか? それは株式相場全体のマネーの量が増えたり減ったりしているためだ。暴落とは資金の引き上げを意味する。

 書籍の著者名にノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソンの名を入れるのも販促目的で浅ましい。裏表紙には吉成の整った顔が配されている。……今、検索してわかったのだが私よりも10歳年長であった。とすれば恐るべき美人である。しかも利根川進の再婚相手らしい。

 しかーし、本書の評価が変わることはない。マサチューセッツ工科大学の脳認知科学学部を卒業していながら、これじゃしようがないよ。

人類の未来―AI、経済、民主主義 (NHK出版新書 513)
ノーム・チョムスキー レイ・カーツワイル マーティン・ウルフ ビャルケ・インゲルス フリーマン・ダイソン
NHK出版
売り上げランキング: 9,948

2014-07-02

アルゴリズムが人間の知性を超える/『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル


・『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
・『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
・『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
・『人間原理の宇宙論 人間は宇宙の中心か』松田卓也
全地球史アトラス

 ・指数関数的な加速度とシンギュラリティ(特異点)
 ・レイ・カーツワイルが描く衝撃的な未来図
 ・アルゴリズムが人間の知性を超える

『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『トランセンデンス』ウォーリー・フィスター監督
『LUCY/ルーシー』リュック・ベッソン監督、脚本
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー
・『養老孟司の人間科学講義』養老孟司
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン

情報とアルゴリズム

 まず、われわれが道具を作り、次は道具がわれわれを作る。
  ──マーシャル・マクルーハン

【『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル:井上健〈いのうえ・けん〉監訳、小野木明恵〈おのき・あきえ〉、野中香方子〈のなか・きょうこ〉、福田実〈ふくだ・みのる〉訳(NHK出版、2007年)以下同】

 出たよ、マクルーハンが。本当にこの親父はもの思わせぶりな言葉が巧いよな。道具とはコンピュータである。

 われわれの起源を遡ると、情報が基本的な構造で表されている状態に行き着く。物質とエネルギーのパターンがそうだ。量子重力理論という最近の理論では、時空は、離散した量子、つまり本質的には情報の断片に分解されると言われている。物質とエネルギーの性質が究極的にはデジタルなのかアナログなのかという議論があるが、どう決着するにせよ、原子の構造には離散した情報が保存され表現されていることは確実にわかっている。

 波であれば連続的で、量子であれば離散的になる。既に時間も長さも最小単位が存在する(プランク時間プランク長)。

生い立ちから「ディジタル」…「量子論」

 生物の知能進化率と、テクノロジーの進化率を比較すると、もっとも進んだ哺乳類では、10万年ごとに脳の容量を約16ミリリットル(1立法インチ)増やしてきたのに対し、コンピュータの計算能力は、今現在、毎年おおよそ2倍になっている。

 指数関数的に技術革新が行われることで進化スピードを凌駕するのだ。

 これから数十年先、第5のエポックにおいて特異点が始まる。人間の脳に蓄積された大量の知識と、人間が作りだしたテクノロジーがもついっそう優れた能力と、その進化速度、知識を共有する力とが融合して、そこに到達するのだ。エポック5では、100兆の極端に遅い結合(シナプス)しかない人間の脳の限界を、人間と機械が統合された文明によって超越することができる。
 特異点に至れば、人類が長年悩まされてきた問題が解決され、創造力は格段に高まる。進化が授けてくれた知能は損なわれることなくさらに強化され、生物進化では避けられない限界を乗り越えることになる。しかし、特異点においては、破壊的な性向にまかせて行動する力も増幅されてしまう。特異点にはさまざまな面があるのだ。

 アルゴリズムが人間の知性を超える瞬間だ。このあたりについてはクリストファー・スタイナー著『アルゴリズムが世界を支配する』が詳しい。人間がコンピュータに依存するというよりも、人間とコンピュータが完全に融合する時代が訪れる。

 今のところ、光速が、情報伝達の限界を定める要因とされている。この制限を回避することは、確かにあまり現実的ではないが、なんらかの方法で乗り越えることができるかもしれないと思わせる手がかりはある。もしもわずかでも光速の限界から逃れることができれば、ついには、超光速の能力を駆使できるようになるだろう。われわれの文明が、宇宙のすみずみにまで創造性と知能を浸透させることが、早くできるか、それともゆっくりとしかできないかは、光速の制限がどれだけゆるぎないものかどうかにかかっている。

 これが量子コンピュータの最優先課題だ。量子もつれが利用できれば光速を超えることが可能だ。

 この事象のあとにはなにがくるのだろう? 人間の知能を超えたものが進歩を導くのなら、その速度は格段に速くなる。そのうえ、その進歩の中に、さらに知能の高い存在が生みだされる可能性だってないわけではない。それも、もっと短い期間のうちに。これとぴったり重なり合う事例が、過去の進化の中にある。動物には、問題に適応し、創意工夫をする能力がある。しかし、たいていは自然淘汰の進み方のほうが速い。言うなれば、自然淘汰は世界のシミュレーションそのものであり、自然界の進化スピードは自然淘汰のスピードを超えることができない。一方、人間には、世界を内面化して、頭の中で「こうなったら、どうなるだろう?」と考える能力がある。つまり、自然淘汰よりも何千倍も速く、たくさんの問題を解くことができる。シミュレーションをさらに高速に実行する手段を作りあげた人間は、人間と下等動物とがまったく違うのと同様に、われわれの過去とは根本的に異なる時代へと突入しつつある。人間の視点からすると、この変化は、ほとんど一瞬のうちにこれまでの法則を全て破壊し、制御がほとんど不可能なくらいの指数関数的な暴走に向かっているに等しい。
  ──ヴァーナー・ヴィンジ「テクノロジーの特異点」(1993年)

 たぶんエリートと労働者に二分される世界が出現することだろう。いい悪いではなく役割分担として。その時、労働者はエリートが考えていることを理解できなくなっているに違いない。驚くべき知の淘汰が行われると想像する。

 超インテリジェント・マシンとは、どれほど賢い人間の知的活動をも全て上回るほどの機械であるのだとしよう。機械の設計も、知的な活動のひとつなので、超インテリジェント・マシンなら、さらに高度な機械を設計することができるだろう。そうなると、間違いなく「知能の爆発」が起こり、人間の知性ははるか後方に取り残される。したがって、人間は、超インテリジェント・マシンを最初の1台だけ発明すれば、あとはもうなにも作る必要はない。
  ──アーヴィング・ジョン・グッド「超インテリジェント・マシン1号機についての考察」(1965年)

 万能チューリングマシンの誕生だ。仮にコンピュータが自我を獲得したとしよう(「心にかけられたる者」アイザック・アシモフ)。マシンの寿命が近づけば自我もろともコピーすることが可能だ。そう。コンピュータは永遠の生命を保てるのだ。ここに至り、光速と同様に人間の寿命がイノベーションの急所であることが理解できよう。

 自我は個々人に特有のアルゴリズムと考えることができる。そんな普遍性のないアルゴリズムはノイズのような代物だろう。コンピュータが人類を凌駕した時、真実の人間性が問われる。

2012-12-22

コピーに関する覚え書き


 ってなわけで、早速引用させてもらおう。

・即時性(Immediacy) コピーよりも速いこと
・個人化(Personalization) 個人に最適化されていること
・解釈(Interpretation) コピーの価値を上げるための付加価値を持つ情報
・信憑性(Authenticity) コピーを手に入れるときの特別な体験
・アクセスしやすいこと(Accessibility) 取りやすく見やすいこと
・具体化(Embodiment) 情報に実体を持たせること
・後援(Patronage) 作者との関係性
・見つけやすいこと(Findability) 目につく場所に情報を存在させること

「情報のコピーが無料になった中で、コピーできない8つの価値」Heartlogic

 ここから我が「宗教OS論」に結びつけることを目論んだのだが、如何せん思索不足である。というわけで中途半端な解説となることを許されよ。

 生命連鎖という歴史の主役は遺伝子だ。つまり生命の営みは遺伝子複製を目的としている。そして文化・文明は学習という名のコピーで維持されるわけだ。子は親のコピーであり、人類は神のコピーなのだ。宗教行為を見よ。コピーそのものではないか。

 人間の脳は凄まじいポテンシャルを秘めている。

脳という宇宙
「世界の全情報処理能力」は「ヒトの脳」に匹敵

 しかしながら実際は思考速度が遅いため、情報量は限られている。

脳の情報量とコンピュータの情報量について計算してみました
情報過剰は思考を駄目にする
人間の脳は限界に達しているのかも!?

 仮に17.5GBあったとしても、私の場合は明らかにメモリ不足だ。加齢が上書き更新を困難にしつつある。忘却とは忘れ去ることなり。

 レイ・カーツワイルはイノベーション(技術革新)が「記憶のダウンロード&アップロード」を可能にするだろうと告げている。

 では、わたしとは誰なのか? たえず変化しているのだから、それはただのパターンにすぎないのだろうか? そのパターンを誰かにコピーされてしまったらどうなるのだろう? わたしはオリジナルのほうなのか、コピーのほうなのか、それともその両方なのだろうか? おそらく、わたしとは、現にここにある物体なのではないか。すなわち、この身体と脳を形づくっている、整然かつ混沌とした分子の集合体なのではないか。
 だが、この見方には問題がある。わたしの身体と脳を構成する特定の粒子の集合は、じつは、ほんの少し前にわたしを構成していた原子や分子とはまったく異なるものなのだ。われわれの細胞のほとんどがものの数週間で入れ替わり、比較的長期間はっきりした細胞として持続するニューロンでさえ、1か月で全ての構成分子が入れ替わってしまう。微小管(ニューロンの形成にかかわるタンパク質繊維)の半減期はおよそ10分である。樹状突起中のアクチンフィラメントに至っては約40秒で入れ替わる。シナプスを駆使するタンパク質はほぼ1時間で入れ替わり、シナプス中のNMDA受容体は比較的長くとどまるが、それでも5日間で入れ替わる。
 そういうわけで、現在のわたしは1か月前のわたしとはまるで異なる物質の集合体であり、変わらずに持続しているのは、物質を組織するパターンのみだ。パターンも又変化するが、それはゆっくりとした連続性のある変化だ。「わたし」とはむしろ川の流れが岩の周りを勢いよく流れていくときに生じる模様のようなものなのだ。実際の水の分子は1000分の1秒ごとに変化するものの、流れのパターンは数時間、時には数年間も持続する。
 つまり、「わたし」とは長期間持続する物質とエネルギーのパターンである、と言うべきだろう。だが、この定義にもまた問題がある。いずれこのパターンをアップロードし、オリジナルとコピーが見分けられないほど正確に、自分の身体と脳を複製できるようになるからだ(そうなると、わたしのコピーが、「レイ・カーツワイル」を見分けるチューリングテストに合格しかねない)。

【『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル:井上健監訳、小野木明恵、野中香方子〈のなか・きょうこ〉、福田実訳(NHK出版、2007年)】

 福岡伸一が同じことを言っている。「生命とは動的平衡にある流れである」(『生物と無生物のあいだ』)、「ミクロのレベルではたまたまそこに密度が高まっている分子の、ゆるい『淀み』でしかない」(『もう牛を食べても安心か』)と。つまり自我を支えているものは「記憶という情報」なのだ。

 では実際に私がコピーされたとしよう。一体全体どちらの私が本物であるのか?

『スター・トレック』の転送装置で、星の地上にいる人が宇宙船の中にビームで転送されるとき、何をやっているかというと、その人のいる地上の空間の素粒子状態、つまり情報状態を全部スキャンしているのです。そしてそのスキャンした状態を宇宙船の中に移動させているわけです。
 簡単にいえばコピーするということでしょうか。もちろん、思考も記憶も全部一緒にコピーをしています。それを移動と呼んでいるだけなのです。
 ただし、コピーだけでは移動ではありません。ただの複製になってしまうため、オリジナルの消去もあわせて行っているのです。
 スコッティーが転送してくれたときに、たまたま宇宙船が攻撃されて、オリジナルの消去ができなかったとしたら、オリジナルとコピーが同時に存在することになります。
 そして、しばらくしてからスコッティーに、「ごめん、あなたの転送は終わった。したがってこれからあなたを消去します」といわれてしまうわけです。
 では、どちらが本物か。
 それは、移動した方が本物なのです。それがインテンショナリティ、つまり意思という考え方です。
 移動するという意思が反映されているのは移動後のほうです。
 理論上は、寸分たがわず、魂まで含めた完全コピーではあります。しかし、移動という意思は複製された側にあるわけですから、結果として、オリジナルのあなたは消去されるべき存在になってしまうのです。

【『苫米地英人、宇宙を語る』苫米地英人〈とまべち・ひでと〉(角川春樹事務所、2009年)】

「コピーという意思」に軍配が上がるというのだ。だから親が先に死ぬのか(笑)。私の完全コピーが100体あったとすれば、100番目のコピーが本物となる。ただし、これは「自我の固有性」にまつわる問題であって、各コピーの環境が異なるわけだから当然それぞれの人生は別物だ。

移動(コピー)した方が本物

 社会にも進化にも常にコピーという同調圧力が働いている。コピーし損なった者は弾かれる。美しいコピーを競うのが「受験」だ。

 彼は一瞬私を優しく見つめ、それから言った。「あなた――あなたの身体、感情、思考――は、過去の結果です。あなたの身体はたんなるコピーなのです。例えば羨望や怒りなどのどんな感情も、過去の結果なのです。羨望について、それを抑圧したり、それを何かあるいは何らかの行為にしようとするなど、あなたが何をしようと、それもまた過去の結果なのです。そのように、あなたはたんに経験の輪のなかを動いているだけなのです」

【『私は何も信じない クリシュナムルティ対談集』J・クリシュナムルティ:大野純一訳(コスモス・ライブラリー、2000年)】

 コピーは「過去への依存」である。自我の大半は親や教師、友人、本、メディアによって書き込まれたものだろう。真の悟りとは意味から離れ、時間から離れ、自我を白紙に洗い戻す営みに違いない。これが「即時性」だ。

ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき苫米地英人、宇宙を語る私は何も信じない―クリシュナムルティ対談集

パソコンが壊れた、死んだ、殺した
移動(コピー)した方が本物
レイ・カーツワイル
苫米地英人

2015-12-07

なぜ『ポスト・ヒューマン誕生』を否定的に描いたのか?/『トランセンデンス』ウォーリー・フィスター監督


『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗

 ・なぜ『ポスト・ヒューマン誕生』を否定的に描いたのか?

『LUCY/ルーシー』リュック・ベッソン監督、脚本
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド

 たった今、見終えた。究極の駄作であるが、アメリカのキリスト教原理主義傾向や反知性主義が透けて見える。なぜ『ポスト・ヒューマン誕生』を否定的に描いたのか? それは神を守るためだ。

「トランセンデンス」は超越の意であり、映画では「シンギュラリティ」よりも上に位置づけている。きっと「神の超越」に掛けたのだろう。

 主人公ウィルの意識を宿すコンピュータがなぜ悪役となったのかがわかりにくい。鍵はいくつかの場面にある。ひとつは不治の病をコンピュータが治すシーンで「イエスの奇蹟」を思わせるゆえ、神への冒涜に当たるのだろう。二つ目は妻エヴリンの詳細なデータ解析を行っている事実がバレるところ。神は全知であっても構わないが、人の全知はご勘弁といったところか。三つ目はウィルの再生で、これはイエスと肩を並べる行為だ。

 レイ・カーツワイルは明るい未来を描いたにもかかわらず、やはり結論が気に食わない連中がアメリカには多いのだろう。カーツワイルは人工知能が全宇宙に広がってゆく様相(エポック6)まで示し、宇宙を満たした意識の連帯が「神」となる可能性にまで言及している。

 永遠は神様の専売特許だ。つまりシンギュラリティ~トランセンデンスは神様の特許権を侵害しているのだ。この映画作品の主張はそこにある。



2019-12-21

21世紀の「立正安国論」/『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ


『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
『人類史のなかの定住革命』西田正規
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 ・21世紀の「立正安国論」

・『21Lessons 21世紀の人類のための21の思考』ユヴァル・ノア・ハラリ

情報とアルゴリズム
必読書リスト その五

 3000年紀(西暦2001~3000年)の夜明けに、人類は目覚め、伸びをし、目を擦る。恐ろしい悪夢の名残が依然として頭の中を漂っている。「有刺鉄線やら巨大なキノコ雲やらが出てきたような気がするが、まあ、ただの悪い夢さ」。人類はバスルームに行き、顔を洗い、鏡で顔の皺(しわ)を点検し、コーヒーを淹(い)れ、手帳を開く。「さて、今日やるべきことは」
 その答えは、何千年にもわたって不変だった。20世紀の中国でも、中世のインドでも、古代のエジプトでも、人々は同じ三つの問題で頭がいっぱいだった。すなわち、飢饉と疫病と戦争で、これらがつねに、取り組むべきことのリストの上位を占めていた。人間は幾世代ともなく、ありとあらゆる神や天使や聖人に祈り、無数の道具や組織や社会制度を考案してきた。それにもかかわらず、飢餓や感染症や暴力のせいで厖大(ぼうだい)な数の人が命を落とし続けた。そこで多くの思想家や預言者は、飢饉と疫病と戦争は神による宇宙の構想(訳註 本書で言う「宇宙の構想」とは、全能の神あるいは自然の永遠の摂理が用意したとされる、全宇宙のための広大無辺で、人間の力の及ばない筋書きを意味する)にとって不可欠の要素である。あるいは、人間の性質と不可分のものである。したがって、この世の終わりまで私たちがそれらから解放されることはないだろう。

【『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(河出書房新社、2018年)】

 冒頭のテキストである。既に紹介した通り本書はS・N・ゴエンカに捧げられている。とすれば本書は歴史や文明の研究を目的に書かれたものではないだろう。むしろそれらを俯瞰し、点に見えるほどの高い抽象度に向かう瞑想の流れを記述したに違いない。

 ホモ・デウスとは「神の人」の謂(いい)である。前作ではホモ・サピエンスの壮大な歴史を記し、本書では神へと進化する人類の様相を遠望するが、レイ・カーツワイルとは全く異なるディストピアが描かれている。

「飢饉と疫病と戦争」の克服は日蓮が「立正安国論」に掲げたテーマだ。三災七難三災(穀貴〈こっき〉、兵革〈ひょうかく〉、疫病〈えきびょう〉)が完全に符合する。

 骨子は似ていてもハラリは「安国」との結論は提示しない。むしろ人類がデータ化される暗然たる未来を示すだけだ。先に瞑想と書いたがハラリは「見る」ことに徹している。

 ページをめくると直ぐにわかることだが日蓮が生きた鎌倉時代(13世紀)からすれば、我々が生きる世紀は既に三災を克服しつつある。核兵器が登場してから抑止力が機能し大きな戦争はなくなった。飢餓も激減し、100万単位の人々が死ぬような疫病もない(参照『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド)。

 ハラリは本書を40歳で書き上げ、日蓮が「立正安国論」を認(したた)めた39歳とほぼ同齢であるのも興味深い一致だ。日蓮は最明寺入道(北条時頼)に「邪宗への布施を止めて正法(しょうほう/法華経)に帰依せよ」と迫った。日蓮は公場対決(こうじょうたいけつ/公開討論)を望んだが果たせなかった。その意味では対話の人といえるが鎌倉時代ゆえか政治意識がファシズムの域を出ていない。一方ハラリは人類の特長を知性に求めればデータ化されることは必然であると説く。知性が人を支配すると考えれば、実はこれもまたファシズムなのである。

 かつては政治家や学者が「社会の知性」と思われていた。いまだに学歴が重んじられるのも知性重視と考えてよかろう。結局のところ自分より有能な人物に社会の重責を担ってもらいたいと望む精神はファシズムの方向を向いていると言ってよい。民主政と選挙はセットになっているが社会において多数決で物事を決めることはまずない。誰もが民主的な運営は正しいと思いながらも全員で判断を下すことはないのだ。株式会社はやや民主政の要素を取り入れているが実態はファシズムだ。このように知性を重視すればやがてデータに行き着く。AI(人工知能)はビッグデータから相関関係を読み解く。チェスはおろか将棋や囲碁に至るまでAIは人間を打ち負かした。

 日蓮はマントラの人であり、ハラリはヴィパッサナー瞑想の実践者だ。修行の次元ではハラリが勝(まさ)る。

 ハラリの予想と前後してヒトバイクロオームが注目されるようになった。これを私は「知性から腸への回帰」と見る。「頭から肚(はら)へ」と言ってもよい。身体(しんたい)の見直しは古武術に対する脚光や、スポーツで体幹が重視されるようになった事実が雄弁に物語っている。

 私はそれほど未来を悲観していない。人類が岐路に立つ今、知性から野生へと生き方を変えてはどうか。

2017-12-31

テクノロジーは人間性を加速する/『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー


『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー

 ・テクノロジーは人間性を加速する

必読書リスト その五

 現在の生活の中のどんな目立った変化も、その中心には何らかのテクノロジーが絡んでいる。テクノロジーは人間性を加速する。テクノロジーによって、われわれが作るものはどれも、何かに〈なっていく〉(ビカミング)プロセスの途中にある。あらゆるものは何か他のものになることで、【可能性】から【現実】へと撹拌(かくはん)される。すべては流れだ。完成品というものはないし、完了することもない。決して終わることのないこの変化が、現代社会の中心軸なのだ。
 常に流れているということは、単に「物事が変化していく」以上の意味を持つ。つまり、流れの原動力であるプロセスの方が、そこから生み出される結果(プロタクト)より重要なのだ。過去200年で最大の発明は、個別のガジェットや道具でなく、科学的なプロセスそのものだ。ひとたび科学的な方法論が発明されれば、それなしでは不可能だった何千ものすばらしいものをすぐに創れるようになる。方法論として常に変化し進歩するというプロセスは、ある特定のプロダクトを作り出すより100万倍も優れ、おかげで何世紀にもわたって100万もの新しいプロダクトを生み出してくれた。現行のプロセスを正しく使えば、それは今後も利益を生み出していくだろう。われわれの新しい時代には、プロセスが製品(プロダクト)を凌駕するのだ。
 プロセスへと向かうこうした変化によって、われわれが作るすべてのものは、絶え間ない変化を運命づけられる。固定した名詞の世界から、流動的な動詞の世界に移動していく。

【『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー:服部桂〈はっとり・かつら〉訳(NHK出版、2016年)】

 飛行機に乗ったスー族は空港で魂が到着するのを待った(『裏切り』カーリン・アルヴテーゲン)。そしてエネルギーを使えばつかうほど時間が早く進む(『「長生き」が地球を滅ぼす 現代人の時間とエネルギー』本川達雄)。新たなテクノロジーがエネルギーを最大化する。ここにイノベーション(技術革新)の本質がある。

「まえがき」がまだるっこしくて読むのを躊躇(ちゅうちょ)したが、本文に入るやいなや独創性あふれる視点と文体に引きずり込まれた。「プロダクトよりもプロセスが重要だ」という指摘はツイッターを見れば明らかだ。新聞やブログなどの固定した記事よりも、返信・引用・リツイートという「流れ」に人々は注目する。かつての掲示板(BBS)は議論することが目的だった。ところがツイッターは基本的につぶやき(独語)である。情報の取捨選択は自分に委ねられている。膨大な数のツイートがあたかも脳内のシナプスのように発火し、つながり、回路を形成してゆく。いつの日か優れた知性と感情が世界を覆い尽くすようになれば、その流れは「神」と呼ばれてもおかしくはない(『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル)。

 ここでクリシュナムルティの『人はどのようにして変容し、「なる」(ビカミング)から「ある」(ビーイング)ことへのこの根源的変化を起こしたらいいのでしょう?』(『自由とは何か』J・クリシュナムルティ)との提起を引用するのは場違いだ。ケヴィン・ケリーが指摘する「ビカミング」は人類全体が種(しゅ)として変化する様相を指すのだ。

 ヒトは言葉を生み、文字を発明した。紙、印刷技術、通信、ラジオ、テレビ、そしてコンピュータ、インターネットに至るイノベーションは「人類が一つになる」方向を目指している。邪悪と凡庸は恐るべきスピードで淘汰(とうた)されてゆくことだろう。

 誰かに言われた一言や一冊の本が人生を変えることは決して珍しいことではない。新しい時代はそれが日常的かつ連続的に起こるのだ。融合することで個の影は薄くなる。これがネット時代の諸法無我だ。「私は変わった」ではなく、「変わり続ける流れが『私』」となる。

 つまり大脳新皮質の外側を覆うべく、インターネットを介して大脳超新皮質が誕生するのだ。

2017-01-02

機械の字義/『青雲はるかに』宮城谷昌光


『重耳』宮城谷昌光
『介子推』宮城谷昌光
『晏子』宮城谷昌光
『孟嘗君』宮城谷昌光
『楽毅』宮城谷昌光

 ・友の情け
 ・機械の字義

『奇貨居くべし』宮城谷昌光

「ちかごろは田圃(でんぽ)にも機械とよばれるものがはいってきております。ひとつを押すとほかが動くというしかけでして……」
「機械か……。機はともかく、械は罪人をしばる桎梏(かせ)のことだ。人はおのれを助けるためにつくりだしたからくりによって、おのれをしばることになるということか。械とはよくつけた名だ。わしもその械にしばられるひとりか」
 范雎〈はんしょ〉は鼻で哂(わら)った。

【『青雲はるかに』(上下)宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(集英社、1997年/集英社文庫、2000年/新潮文庫、2007年)以下同】

 宮城谷作品を支えているのは白川漢字学である。支那古典というジャングルの中で宮城谷は迷う。自分の居場所もわからなくなった時、白川静の漢字学が進むべき方向を示してくれた。白川の著作を読むと「たったの一語、たったの一行で小説が1000枚書ける」と宮城谷は語る(『三国志読本』文藝春秋、2014年)。

 白川静が明らかにしたのは漢字の呪能(じゅのう)であった(『漢字 生い立ちとその背景』白川静)。神との交流から始まった漢字に込められた宗教的次元を解明したのだ。漢字が表すのは儀礼と祈りだ。

 機械は作業や労働を楽にする。人類の特徴の一つに「道具の使用」がある。厳密に言えばサルも道具を使うため、正確には「道具を加工し利用する」。道具・機械の歴史は小型の斧(おの)からスーパーコンピュータにまで至るわけだがこの間(かん)、人類が進化した形跡は見られない。械が「罪人をしばる桎梏(かせ)」であれば退化した可能性を考慮する必要があるだろう。

 計算機(電卓)やコンピュータは脳の働きを補完する。私は日に数十回はインターネットを検索しているが、脳の検索機能が低下しているように感じてならない。デジカメや録音機器なども記憶の低下を助長していることだろう。

 レイ・カーツワイルは2045年に人工知能がヒトを凌駕すると指摘している(『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル)。その時、械の意味は「コンピュータの進化を阻むヒト」に変わっているかもしれない。

青雲はるかに〈上〉 (新潮文庫)青雲はるかに 下巻三国志読本

2014-04-08

脳は宇宙であり、宇宙は脳である/『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン


『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ

 ・脳は宇宙であり、宇宙は脳である

『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
『しらずしらず あなたの9割を支配する「無意識」を科学する』レナード・ムロディナウ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル

 脳はニューロンとグリアという細胞が何千億個も集まってできている。その細胞の一つひとつが、都市と同じくらい込み入っている。それぞれに全ヒトゲノムが入っていて、複雑な営みのなかで何十億という分子をやり取りする。一つひとつの細胞がほかの細胞に電気パルスを毎秒何百回も送る。脳内で生じる数十兆のパルスそれぞれを1個の光子で表わしたら、目がくらむような光になるだろう。
 その細胞どうしをつなぐネットワークは驚異的に複雑なので、人間の言語では表現できず、新種の数学が必要だ。典型的なニューロン1個は近隣のニューロンと約1万個の結合部をもっている。何十億というニューロンがあることを考えると、脳組織わずか1立方センチに銀河系の星と同じ数の結合部があることになる。
 あなたの頭蓋骨のなかにある1300グラムのピンク色でゼリー状の器官は、異質な、計算する物質だ。小さな自己設定型のパーツで構成され、私たちがつくろうと志したことのあるどんなものもはるかに超えている。だから、自分が怠け者だとか鈍いと思っている人も、安心してほしい。あなたは地球上で最も活発で、最も鋭い生きものなのだ。
 それにしても、うそのような話だ。私たちはおそらく地球上で唯一、向こうみずにも自らのプログラミング言語を解読するゲームに打ち込むほど高度なシステムである。あなたのデスクトップコンピューターが、周辺装置を操作し始め、勝手にカバーをはずし、ウェブカメラを自分の回路に向けるところを想像してみてほしい。それが私たちだ。

【『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン:大田直子訳(早川書房、2012年『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』改題)】

 今気づいたのだが著者は、リチャード・E・サイトウィック(リチャード・E・シトーウィック改め)『脳のなかの万華鏡 「共感覚」のめくるめく世界』の共著者であるデイヴィッド・M・イーグルマンとたぶん同一人物だろう。

 意識三部作としては、『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ→『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ→本書の順番で読むことを勧める。次にアントニオ・R・ダマシオへ進み、更に『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム、『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ、『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロースを読めば理解が深まる。たぶん天才になっていることだろう。

 宇宙に匹敵する広大な領域。それが脳である。脳が宇宙であるならば、宇宙が脳である可能性も高い(『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド/『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック/『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル)。


 ニューロン(神経細胞)の数は「大脳で数百億個、小脳で1000億個、脳全体では千数百億個にもなる」(理化学研究所 脳科学総合研究センター)。大脳よりも小脳に多かったとは露知らず。そしてニューロンとニューロンをつなぐシナプスは1個につき1万箇所ある(生理学研究所)。ただし脳の状態をいくら調べたところで意識が解明されるわけではない。

何を意識の発生とするか


 私は意識発生のメカニズムを解く鍵は自己鏡像認知にあると考える。既に何度か書いてきたが、自己鏡像認知とは「相手の瞳に映る自分を理解する能力」と定義したい。「私」だけでは意識たり得ない。「私」を客観的かつ抽象的に捉える視点(メタ認知)こそが意識なのだ。

 しかしながら我々の日常生活は無意識で運転されている。

 車でいえば、教習所にいたときには、クラッチを踏んでギアをローに入れて……、と、順番に逐次的に学びます。
 けれども、実際の運転はこれでは危ないのです。同時に様々なことをしなくてはなりません。あるとき、それができるようになりますが、それは無意識化されるからです。
 意識というのは気がつくことだと書きましたが、今気がついているところはひとつしかフォーカスを持てないのです。無意識にすれば、心臓と肺が勝手に同時に動きます。
 同時に二つのことをするのはすごく大変です。けれどもそれは、車の運転と同じで慣れです。何度もやっていると、いつの間にかその作業が無意識化されるようになってくるのです。
 無意識化された瞬間に、超並列に一気に変わります。

【『心の操縦術 真実のリーダーとマインドオペレーション』苫米地英人〈とまべち・ひでと〉(PHP研究所、2007年/PHP文庫、2009年)】

論理の限界/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ

 例えば旅行に行くとしよう。行き先は意識的に選択するが、現地で何を見るかは条件反射的に行われる。すなわち何を見るかを我々は意識的に選べないのだ。五感は外界への反応に基いており、五感情報は一方的に受け取る性質を帯びている。

 意識が発生するのは違和感を覚える場合が多い。他者や世界を自分の外側に強く意識した時、自我意識が立ち上がってくるのではあるまいか。その意味で疎外感を知らない幼児が鏡像認知をできないのは当然である。もちろん国家意識も自我意識から芽生えたものだろう。

 瞑想が諸法無我の実践であるならば、シナプスの発火は止(や)み、自我は解体され宇宙に溶け込むのだろう。ジル・ボルト・テイラーがそう語っている。

あなたの知らない脳──意識は傍観者である (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)心の操縦術 (PHP文庫)


死の恐怖/『ちくま哲学の森 1 生きる技術』鶴見俊輔、森毅、井上ひさし、安野光雅、池内紀編

2012-05-26

米国で疲れも恐怖も感じない兵士を作るプロジェクトが進行中


 戦場で一切疲れも恐怖も感じない兵士。これは近未来のロボット兵士の話ではない。現在、米国防総省の資金提供のもと、生身の人間で実際に行なわれているニューロ・サイエンス(神経科学)の研究だ。「将来、人間の身体と機械が物理的に結合する可能性がある」。そう語る米大統領の生命倫理委員会上級スタッフ、ジョナサン・D・モレノ博士が、近未来兵器「操作される脳」の実態を明らかにする。

 恐怖心のない兵士を作るプロジェクトで、研究者が着目しているのが、心臓病の治療薬として用いられるβ(ベータ)ブロッカー(交感神経β受容体遮断薬)だ。この薬は交感神経のアドレナリン受容体のうち、β受容体のみに遮断作用をするものだが、この薬を服用していると感情が平坦になることが分かっている。そこで暴行被害などで精神的外傷ストレス障害(PTSD)を負った人に、心理療法やカウンセリングと共にβブロッカーを与えることが行なわれるようになった。

 βブロッカーには情緒的な激しい感情の記憶を遮断する作用があるようだ。否定する科学者も一部にいるが、そのうち改良が進めば戦場の兵士に有効になると多くの科学者が思っている。

 民間の科学者の中には、米国防総省国防高等研究計画局(DARPA=ダーパ)から資金提供を受けるこれらの研究は問題だと指摘する者がいる。マインドコントロールの実験台になっていると批判する声もある。しかし、例えば脳と機械を融合させるブレイン・マシン・インターフェースの研究は、義肢などの補綴器具の開発に寄与するはずだし、睡眠不足防止プログラムの研究は、眠りたい時だけに眠りたいという人の需要を掘り起こすだろう。さらにアルツハイマー病などの脳疾患に対する理解が進み、画期的な治療法が見つかる可能性がある。

 その一方で兵士の感情をコントロールするといった研究を突き詰めていけば、人間であるとはどういうことかという倫理的な命題に突き当たることは確かだ。こうした問題については、神経科学者、当局関係者、一般市民の代表などが、慎重かつ冷静に議論していく必要があるだろう。

『SAPIO』2012年4月25日号

 フーム、究極のポジティブシンキングというわけか。人間のオズマ化が進行中。大多数の人々は「操作される対象」と化す。

 小田嶋隆の言葉を思い出さずにはいられない。「我々ゲーマーは、戦争みたいな、洗練度の低い、質の悪いゲームにはつき合わない。せいぜい高見の見物を決め込んで、嘲笑するだけだ」(『パソコンゲーマーは眠らない』)。

 国家という権力システムが国民を労働者、兵士、ロボットに仕立てるのであれば、この世界に「社会」などというものは存在しない。テクノロジーの進歩はことごとく「人間を手段化」する方向へ向かうのもおかしな話だ。むしろ権力を解体する方向へとシフトすべきだろう。

 権力は富の集中となって具体的な姿を現す。使い切ることもできない資産を有する彼らが、世界中に貧困をばらまいているのだ。発展途上国から搾取し続けているのはアメリカ、イギリス、フランスであり、こうした国々に不幸な世界を築いた真犯人がいることは疑問の余地がない。

 彼らの手からテクノロジーを奪い返す必要がある。さもなければ、生まれたばかりの赤ん坊にチップを埋め込まれるような時代がすぐそこまで来ている。

マイクロチップ
マイクロチップを脳に埋め込んで人をコントロールする。
脳に埋め込んだマイクロチップでロボットアームを操作する猿
ロボットが人間の代わりに売春すると家庭円満になる!?
レイ・カーツワイルが描く衝撃的な未来図/『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル

マインド・ウォーズ 操作される脳

2016-07-19

必読書リスト その五


     ・キリスト教を知るための書籍
     ・宗教とは何か?
     ・ブッダの教えを学ぶ
     ・悟りとは
     ・物語の本質
     ・権威を知るための書籍
     ・情報とアルゴリズム
     ・世界史の教科書
     ・日本の近代史を学ぶ
     ・虐待と精神障害&発達障害に関する書籍
     ・時間論
     ・身体革命
     ・ミステリ&SF
     ・必読書リスト その一
     ・必読書リスト その二
     ・必読書リスト その三
     ・必読書リスト その四
     ・必読書リスト その五

『イスラム教の論理』飯山陽
『「自分で考える」ということ』澤瀉久敬
『壊れた脳 生存する知』山田規畝子
・『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』山鳥重
・『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『物語の哲学』野家啓一
『精神の自由ということ 神なき時代の哲学』アンドレ・コント=スポンヴィル
『完全教祖マニュアル』架神恭介、辰巳一世
『宗教は必要か』バートランド・ラッセル
『無責任の構造 モラルハザードへの知的戦略』岡本浩一
『原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語』安冨歩
『服従の心理』スタンレー・ミルグラム
『権威の概念』アレクサンドル・コジェーヴ
『一九八四年』ジョージ・オーウェル:高橋和久訳
『「絶対」の探求』バルザック
『絶対製造工場』カレル・チャペック
『華氏451度』レイ・ブラッドベリ
『われら』ザミャーチン:川端香男里訳
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン
『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ
『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー
『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
『しらずしらず あなたの9割を支配する「無意識」を科学する』レナード・ムロディナウ
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹
『確信する脳 「知っている」とはどういうことか』ロバート・A・バートン
『集合知の力、衆愚の罠 人と組織にとって最もすばらしいことは何か』 アラン・ブリスキン、シェリル・エリクソン、ジョン・オット、トム・キャラナン
『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『苫米地英人、宇宙を語る』苫米地英人
『数学的にありえない』アダム・ファウアー
『悪の民主主義 民主主義原論』小室直樹
『死生観を問いなおす』広井良典
『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』小室直樹
『君あり、故に我あり 依存の宣言』サティシュ・クマール
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロース:茂木健一郎訳
『なぜ、脳は神を創ったのか?』苫米地英人
『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド
『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」が生まれたとき』山極寿一、小原克博
『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
・『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウィルソン
・『徳の起源 他人をおもいやる遺伝子』マット・リドレー
『遺伝子 親密なる人類史』シッダールタ・ムカジー
『若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間』ジョシュ・ミッテルドルフ、ドリオン・セーガン
『音と文明 音の環境学ことはじめ』大橋力
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア
『潜在意識をとことん使いこなす』C・ジェームス・ジェンセン
『こうして、思考は現実になる』パム・グラウト
『こうして、思考は現実になる 2』パム・グラウト
『自動的に夢がかなっていく ブレイン・プログラミング』アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ
『あなたという習慣を断つ 脳科学が教える新しい自分になる方法』ジョー・ディスペンザ
『同じ月を見ている』土田世紀
『ブッダは歩むブッダは語る ほんとうの釈尊の姿そして宗教のあり方を問う』友岡雅弥
『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』草薙龍瞬
『怒らないこと 役立つ初期仏教法話1』アルボムッレ・スマナサーラ
『怒らないこと2 役立つ初期仏教法話11』アルボムッレ・スマナサーラ
『人生の短さについて』セネカ:茂手木元蔵訳
『怒りについて 他一篇』セネカ:茂手木元蔵訳
『怒りについて 他二篇』セネカ:兼利琢也訳
『中国古典名言事典』諸橋轍次
『ザ・ワーク 人生を変える4つの質問』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル
『タオを生きる あるがままを受け入れる81の言葉』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル
『シッダルタ』ヘルマン・ヘッセ
『小説ブッダ いにしえの道、白い雲』ティク・ナット・ハン
『ブッダの真理のことば 感興のことば』中村元訳
『ブッダのことば スッタニパータ』中村元訳
『子供たちとの対話 考えてごらん』J・クリシュナムルティ
『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー クリシュナムルティの手帖より 1』J・クリシュナムルティ
『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー クリシュナムルティの手帖より 2』J・クリシュナムルティ
『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー クリシュナムルティの手帖より 3』J・クリシュナムルティ
『生と覚醒(めざめ)のコメンタリー クリシュナムルティの手帖より 4』J・クリシュナムルティ
『生の全体性』J・クリシュナムルティ、デヴィッド・ボーム、デヴィッド・シャインバーグ

2021-09-04

ロボットは「自動的に動く」存在から「自律的に動く」存在へ/『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗


『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
・『人間原理の宇宙論 人間は宇宙の中心か』松田卓也
全地球史アトラス
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル

 ・ロボットは「自動的に動く」存在から「自律的に動く」存在へ

『トランセンデンス』ウォーリー・フィスター監督
『LUCY/ルーシー』リュック・ベッソン監督、脚本
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー
・『養老孟司の人間科学講義』養老孟司
『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン

情報とアルゴリズム

「ロボットによって暮らしが便利になるなら、とにかくいいことなのでは?」
 そう思う方もいるかもしれませんが、事はそう単純ではありません。なぜなら、これからのAIが搭載されたロボットは、「自動的に動く」存在から「自律的に動く」存在へと、さらに劇的に転換していくからです。(中略)
 ロボットが自律的に動くとは、それが自律性(オートノミー:autonomy)を獲得していることを意味します。自律とは「自らを律する」と字のとおり、他の支配を受けず、自分が持つ規律に従って行動を設計し、実行することです。

 自分の行動を選択するとき、人間なら身体的な感覚や感情、さらには道徳や倫理まで動員して、意思決定を行います。「私は~したい」「~すべきだ」「~すべきではない」という内発的な決断を通して、行動に移ります。
 人間には、長い進化の歩みの中で獲得された生存意欲があります。本能と呼ばれるものです。人間のあらゆる意思決定の根底には、それが生存にどう寄与するかということに翻訳され、ある意味でスコア化されたものがあるのです。
 では、ロボットはどうなのか。生きた肉体を持たないロボットが、生存価値を最上位とする本能を自分の力で身に付けることはありません。何が価値あるものなのか、その根本を自分でゼロから探し出すことはできないのです。しかし、ロボットに行動の選択をさせるためには、価値判定のための何らかのルールが必要です。結局それは、人間が授けるものになるでしょう。

【『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗〈おおた・ひろあき〉(幻冬舎、2020年)】

「自律的に動くロボット」とは我々のことではないだろうか? 競争というルールの下(もと)で勝ち上がった者が選良(エリート)のメダルを手に入れる。資本主義社会で行われるのはマネー獲得ゲームである(「我々は意識を持つ自動人形である」)。

 テクノロジー進化の速度がシンギュラリティ(特異点)を超える時、自律型ロボットはロボット同士で通信を始め、ロボット集合体が超個体と化す。ヒトは農業や都市化において超個体性を発揮するが、残念ながら最大限に発揮されるのは戦争である。つまり人類は永続性のある超個体にまでは進化できていない。まだまだシロアリやハキリアリにも劣る存在だ。

 ロボットとヒトの上下関係を決定するのは超個体性である。ロボットが人間以上の想像力を発揮してロボットを作ることができれば、人類が必要とされるのは奴隷労働しかなくなるかもしれない。我々がかつてロボットに行わせていたことを、今度は我々がやる羽目になるのだ。

 感情の意味は共感するところにあり、超個体性へと誘(いざな)う目的があったと思われる。神話や宗教が説くのは正しい感情の方向性なのだろう。産業革命を通して人々の仕事が農業から工業へと移り変わると、コミュニティは村(地域)から会社へと変化した。近代化の意味はこの辺りから探るのが適切だろう。

 コーポレーションは現代の超個体と言い得るが、さほど永続性がない。更に役割分担(人事や分業)がデタラメで有用な超個体性を発揮しているとは思えない。軍事ほどの計画性を欠いており、死の覚悟はどこにも見当たらない。その意味からいえば宗教の方が成功しているように見える。殉教という一点において。しかも信者は喜んで税金を支払う。

 人類は感情の意味を問い直す時期を迎えつつある。マスメディアから流れてくる情報を一瞥しても感情の有益よりも害悪を思わせるものが圧倒的に多い。そして業(ごう)を形成するのもまた感情なのだ。バイアスが世界を歪める。晴朗かつ豊かな感情で人類が結びつかない限り、ロボットの未来が待ち受けている。

2021-02-26

人間が「マシン化」する未来/『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド


『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『トランセンデンス』ウォーリー・フィスター監督
『LUCY/ルーシー』リュック・ベッソン監督、脚本

 ・人間が「マシン化」する未来

『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー
・『養老孟司の人間科学講義』養老孟司
『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン

 コートニー・S・キャンベルを中心とする生命倫理学者の研究グループは、2007年にCambridge Quarterly of Healthcare Ethics誌に論文を投稿して、次のように述べている。
「ある時点まで来ると、おそらく『他者』であるマシンと、それが埋め込まれている『自己』との区別をつけることが、ますます困難になるだろう。マサチューセッツ工科大学人工知能研究所のディレクター、ロドニー・A・ブルックスの見解によると、『人は過去50年ほどの間にマシンに【頼る】ようになったが、今世紀になってからは、人が【マシン化】しつつある』」。

【『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド:佐藤やえ訳(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017年)】

 現代人が眼鏡や靴を文明の恩恵と感じることはない。「あるのが当たり前」で思い出すのはなくした時くらいだろう。例えば義歯がなければ健康を維持することは難しい。あるいは鬘(かつら)によって人間心理ががらりと変わる場合もあるだろう。デバイスや周辺機器が脳内や体内に埋め込まれれば人類はポストヒューマンへと進化する。マンマシンシステムが構築されると我々の視界もターミネーターのようになるはずだ。


 すでに、障害を持つ人たちにコンピュータチップや半導体アレイを植え込んで、視覚や聴覚、運動能力、記憶力などを修復しようとする試みは、もう準備が整いつつある。この流れでいくと、いずれ私たちが現在持っている「標準」的な能力をはるかに超えて、知覚を増幅させたり、記憶力や学習能力を強化したりするテクノロジーへと進化することは間違いない。

 知識や記憶は既にパソコンかウェブ上に存在する。思い出す営みは検索という作業に変わり果てた。知識は記憶するよりも、ラベルやタグで検索に紐づける方が効果的だ。完璧なライフハックがあれば記憶や性格のアップロード、ダウンロードも可能になるはずだ。人間は情報的存在と化して死んでも尚ウェブ上で生き続けることだろう。

 この事態が避けられないと見る理由のひとつは、「標準」という概念の定義のしにくさにある。科学者と哲学者の間では「標準」の定義についての議論が続いているが、いつか私たちが能力増強テクノロジーを幅広く受け入れるようになれば、何を「標準」とするかの考え方も変わってくることだろう。

 既に高性能の義足は陸上競技において健康な脚を上回るポテンシャルを秘めている。ゆくゆくはタイヤ付きの義足が登場するかもしれない。更にモーターやエンジンがつけば年老いた人々もどんどん外に出ることができる。

 ただしユートピアを想像するのは間違いだ。国家が国民に対して常に求めるのは賦役(ふえき)と徴兵である。ロボットが不得手なのは肉体労働である。知的労働のスキルを持たない多くの人々はやがて肉体労働に従事する羽目となる。社会は形を変えた貴族と奴隷に分かれる。こうした未来を察知すればこそ発達障害や自閉傾向が顕著になってきているのだろう。貧困層は炭水化物中心の食事となり生活習慣病や慢性疾患、あるいはアレルギー疾患や知的障碍を持つ子供たちが生まれてくる。

2021-02-02

文明の発達が国家というコミュニティを強化する/『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン


『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
『人類史のなかの定住革命』西田正規
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット

 ・身の毛
 ・鍛原多惠子
 ・文明の発達が国家というコミュニティを強化する

必読書リスト その四

 私たちは現在に垣間見える遠い過去の姿、あるいは崖っぷちに向かって突進しているかに思えるときがある。エデンの園を追放されて農耕を始めたときのような場所を、私たちは必死に探し求めているのだ。私たちが見るもっとも切迫した夢は、眠りに落ちる前の世界を映しているだけなのかもしれない。
 ことによると、快適さを追い求めた末に退歩した身体が、長時間見つめつづけている画面と一体化しようとして、いわゆるシンギュラリティがすでに現実になりかけているのだろうか。あるいは、他の惑星を植民地化することで、私たちの子孫はアップル、テスラ、シーザーズ・パレス(ラスベガスを代表する高級ホテル)が提供する宇宙の果てのドームで暮らすことになるのだろうか。もしケインズのように、あなたが物を共有し長い時間を愛する人と過ごす平等な世界を望むなら、私たちの祖先がすでにそれに近い世界に暮らしていたことを考えてほしい。だがそれも農耕が始まり、「文明」と呼ばれるものが約1万年前に出現するまでの話だ。それ以来、私たちはその世界からみるみる遠ざかりつづけている。
 もし進む方向を間違えているなら、進歩は最悪の結果をもたらす。現代を定義する「進歩」は病気の治療よりむしろ進行に近いように思われる。物が排水口の上でぐるぐる回るように、文明はめまいがしそうなほど速度を増している。ひょっとすると進歩に対する強い信念は、一種の――考えるのも恐ろしい現在に対する「未来への希望」という名の解毒剤――なのだろうか。
 もちろん、いつの時代でも終末は近いと警告する者がいて、かならず「今度はこれまでとは違う!」と主張する。そう、本当に今度はこれまでと違うのだ。「破滅は近い。どうするべきか」といった見出しが主要な新聞の紙面に躍る。地球の気候は、沈没する船の貨物のようにまるで定まるということがない。国連難民高等弁務官事務所は、2015年末現在、戦争、紛争、迫害によって土地を追われた人は、2004年の3億7500万人から6億5300万人という厖大(ぼうだい)な数に増えたと報告した。死んだ鳥がバラバラと空から落ちてきたり、ハチの羽音が聞かれなくなったり、チョウが渡りをしなくなったり、主要な潮流の速度が下がったりしている。生物種は6500万年前に恐竜が絶滅したとき以来の高い割合で絶滅している。酸性化する海がテキサス州ほどもある渦巻くプラスチックスープによって窒息する一方で、淡水の帯水層は水を吸い上げられて骨のように干からびている。深海から湧きでるメタンガスの雲によって氷冠が解(ママ)けて、地球破壊を加速させている。ウォール街が中流階級の残骸から最後の富をむしり取り、エネルギー企業が地球に穴を開けて秘密の毒で帯水層を汚染しても、政府は素知らぬ顔だ。全人類が帯水層を必要とするのに、私たちはそれを守るすべを知らない。うつ病がさまざまな障害の最大の原因であり、急増しているのも不思議はない。

【『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン:鍛原多惠子〈かじはら・たえこ〉訳(河出書房新社、2020年)】

 これまた冒頭の文章が意味不明だ。5~6回も見直して入力する羽目となった。これほどおかしな文章が多いところを見ると、訳者もさることながら河出書房新社の校正の問題と考えざるを得ない。まあ酷いものだ。よくも出版社を名乗れるものだな。名著だけに許し難いものがある。

シェールガスの水圧破砕法で水だけでなく大気を汚染

 人類が誕生したのはおおよそ200万年前(諸説あり)で、我々ホモ・サピエンスが生まれたのは40万~25万年前のことである。近年の研究でネアンデルタール人の遺伝子がホモ・サピエンスに混入していることが判明しており、直線的な形の進化を想像しない方がいいだろう。

 農業・牧畜が始まったのが1万2000年前(諸説あり)だとすると、人類史における農業の期間は1/200だから0.5%である。そして5000年前に王国ができる(『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ)。王国誕生の背景には穀物栽培があると考えられる(『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット)。つまり人類が穀物を主食とするようになったのは人類史のわずか0.25%の期間となる。

 文明とは単純に言ってしまえば穀物食・家屋・身体機能=運動の代替物(道具から乗り物はたまたコンピュータに至るまで)であろう。現代人が最も恐れるアルツハイマーも文明病とされており、その原因は食べ物と運動不足にある(『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス)。つまり我々はあまりにも長く坐り過ぎているのだ(『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード)。

 病んだ社会の起源は農耕・牧畜と都市革命にある。感染症の蔓延も都市化が背景にある。じゃあ皆で狩猟採集生活に戻ろうと私が音頭をとったところで実現するのは難しい。

「文明が不幸をもたらす」のは健康を損なうことだけが理由ではない。文明の発達が国家というコミュニティを強化するためである。我々は国民として何らかの義務を負わせられる。その最たるものが徴税と兵役である。国民である限り何らかの自由を阻害されることは避けられない。

 そうかといって国家という枠組みを解体してしまえば、中国共産党のようなならず者が間髪を入れずに攻めてくることだろう。既に尖閣諸島界隈まで攻めてきているわけだが。

 結局、文明といい国家といっても暴力(軍事力)の問題に行き着く。

 尚、本書がなければ、『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』を読んで、倒れたまま起き上がれなかったことだろう。

2020-04-13

悟りの諸相/『LUCY/ルーシー』リュック・ベッソン監督、脚本


『オールド・ボーイ』パク・チャヌク監督
『マトリックス』ラリー・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー監督
『トランセンデンス』ウォーリー・フィスター監督

 ・悟りの諸相

『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド


 これは面白かった。amazonレビューの評価が低いところを見ると「人を選ぶ」作品なのだろう。主人公の女性ルーシーがひょんなことから犯罪に巻き込まれる。目が覚めると腹部を切開し薬物を挿入されていた。CPH4という新種の麻薬は普通の人が10%しか使っていない脳の力をフルに発揮できる作用を及ぼす。「脳の10%神話」はもちろん誤りだが、能力の10%程度しか使っていないような自覚は誰にでもあることだろう。特に現代人の場合、身体能力を発揮する機会が乏しい。

 囚われの身となっていたルーシーが手下の一人に腹を蹴り上げられる。腹部でCPH4が漏れる。ルーシーの脳内で爆発が起こり、体が宙を舞う。「脳の20%」が目覚めた。彼女はスーパーウーマンと化す。

 場面は変わってノーマン教授の講義となる。内容は「脳の10%神話」だ。合間に差し込まれた連続カットが地球の壮大な歴史を映し出す。ノーマンの講義は人類の進化を示唆する。

 ルーシーが手術台の上から母親に電話をする。

「ママ、すべてを感じる」
「何のこと?」
「空間や 大気 大地の振動 人々 重力も感じる 地球の回転さえも
 私の体から出る熱 血管を流れる血 脳も感じる
 記憶の最も奥深く… 歯列矯正装置をつけた時の口の中の痛み 熱が出た時ママが額に当ててくれた手の感覚
 猫を撫でた時の柔らかな感触 口に広がるママの母乳の味も覚えてる 部屋 液体」

 ルーシーは1歳の時の記憶までをありありと【見た】。病院を出ると樹木の導管が見えた。これは「薬物による悟り」である。悟れば「世界が変わる」。世界とは「目に映るもの全て」だ。アップデートされた五官は一切の妄想を廃して世界をありのままに感じる。

 ルーシーがネット情報を調べてノーマン教授に辿り着く。そこで彼女は自分が脳の28%を使うことができ、やがて100%に至り死ぬことを予期している。「これから私はどうすればいいのか?」と尋ねる。人間らしさが失われるに連れて脳内で知識が爆発すると告げる。ノーマン教授は「それを伝えることだ」と助言する。これはまさしく「ヴェーダ」(知識)である。

 ノーマンと彼が集めた同僚の前で未知の領域へのアクセスが可能となったルーシーは語る。

(グルグルと周る)走る車を撮影し――速度を上げていくと――車は消える 車の存在を示す証拠は?
“時”が存在の証となる “時”だけが真実の尺度 “時”が物質の存在を明かす “時”なくして――何ものも存在しない

 ルーシーは80%を超越して過去の歴史を目の当たりにする。これはジャータカ(本生譚)であろう。類人猿と指を触れさせるのはミケランジェロ作「アダムの創造」だ。類人猿はもちろんアウストラロピテクスのルーシーだ。ヒロインのネーミングが秀逸である。


 ルーシーは過去と宇宙をさまよう。残りのCPH4を全て投与して100%の能力を発揮した彼女は黒い液体と化しコンピュータと結合する。刑事が教授に尋ねる。「彼女は どこに?」。するとすかさず携帯にメッセージが来る。「“至るところにいる”」と。ルーシーは空(くう)なる存在へと昇華した。

 1960年代のヒッピームーブメントでは実際にLSDを用いて悟りにアプローチする者が多数いた。脳科学は悟りが側頭葉で起こるところまで突き止めた。預流果(よるか)に至った人々は修行らしい修行をしていない(『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース)。悟りが他性であるならば修行だろうと薬物だろうと構わないような気がする。ゆくゆくは電気刺激で悟りを開くヘッドギアも販売されることだろう。

 悟りの諸相を描いた傑作といってよい。無論、真の悟りは回転するコマのように不動(止観)であるが本作が表現したのは遠心力だ。ヘルマン・ヘッセ著『シッダルタ』といい西洋の表現力・構想力に驚かされる。

2020-01-14

「不惑」ではなく「不或」/『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登


『中国古典名言事典』諸橋轍次

 ・「不惑」ではなく「不或」

・『心の先史時代』スティーヴン・ミズン
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル

 孔子時代にはなかった漢字が含まれる『論語』文の代表例は「四十(しじゅう)にして惑わず」です。(中略)
 漢字のみで書けば「四十而不惑」。字数にして五文字。この五文字の中で孔子時代には存在していなかった文字があります。
「惑」です。
 五文字の中で最も重要な文字です。この重要な文字が孔子時代になかった。
 これは驚きです。なぜなら「惑」が本当は違う文字だったとなると、この文はまったく違った意味になる可能性だってあるからです。

【『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登〈やすだ・のぼる〉(春秋社、2009年/新潮文庫、2018年)】

 twitterのリンクで知った書籍。安田登は能楽師である。伝統的な身体操作は古(いにしえ)の人々と同じ脳の部位を刺激することだろう。温故知新(「子曰く、故〈ふる〉きを温〈たず〉ねて新しきを知る、以て師と為るべし」『論語』)の温故である。

『論語』の中で、孔子時代にはなかった漢字から当時の文字を想像するときには、さまざまな方法を使います。一番簡単なのは、部首を取ってみるという方法です。部首を取ってみて、しかも音(おん)に大きな変化がない場合、それでいけることが多い。
「惑」の漢字の部首、すなわち「心」を取ってみる。
「惑」から「心」を取ると「或」になります。古代の音韻がわかる辞書を引くと、古代音では「惑」と「或」は同音らしい。となると問題ありません。「或」ならば孔子の活躍する前の時代の西周(せいしゅう)期の青銅器の銘文にもありますから、孔子も使っていた可能性が高い。
 孔子は「或」のつもりで話していたのが、いつの間にか「惑」に変わっていったのだろう、と想像してみるのです。(中略)
「或」とはすなわち、境界によって、ある区間を区切ることを意味します。「或」は分けること、すなわち境界を引くこと、限定することです。藤堂明保(あきやす)氏は不惑の「惑」の漢字も、その原意は「心が狭いわくに囲まれること」であるといいます(『学研漢和大字典』学習研究社)。
 四十、五十くらいになると、どうも人は「自分はこんな人間だ」と限定しがちになる。『自分ができるのはこのくらいだ」とか「自分はこんな性格だから仕方ない」とか「自分の人生はこんなもんだ」とか、狭い枠で囲って限定しがちになります。
「不惑」が「不或」、つまり「区切らず」だとすると、これは「【そんな風に自分を限定しちゃあいけない。もっと自分の可能性を広げなきゃいけない】」という意味になります。そうなると「四十は惑わない年齢だ」というのは全然違う意味になるのです。

 整理すると孔子が生まれる500年前に「心」という文字はあったがまだまだ一般的ではなかった。そして『論語』が編まれたのは孔子没後500年後のことである。

」の訓読みにはないが、門構えを付けると「(くぎ)る」と読める。そうなると「不或」は「くぎらず」「かぎらず」と読んでよさそうだ。

「心」の字が3000年前に生まれたとすれば、ジュリアン・ジェインズが主張する「意識の誕生」と同時期である。私の昂奮が一気に高まったところで、きちんと引用しているのはさすがである。安田登はここから「心」(しん)と「命」(めい)に切り込む。

 認知革命から意識の誕生まで数万年を要している。自由と権利の獲得を自我の証と考えれば、自我の誕生はデカルトの『方法序説』(1637年)からイギリス市民革命(清教徒革命名誉革命/17世紀)~フランス革命(18世紀)の国民国家誕生までが起源となろう。ゲーテ著『若きウェルテルの悩み』が刊行されたのもこの頃(1774年)で人類における恋愛革命と言ってよい。すなわち自我は政治と恋愛において尖鋭化したのである。

2019-11-16

イスラエル人歴史学者の恐るべき仏教理解/『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ


物語の本質~青木勇気『「物語」とは何であるか』への応答
『ものぐさ精神分析』岸田秀
『続 ものぐさ精神分析』岸田秀
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ

 ・読書日記
 ・目次
 ・マクロ歴史学
 ・認知革命~虚構を語り信じる能力
 ・イスラエル人歴史学者の恐るべき仏教理解

・『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウィルソン
『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
『人類史のなかの定住革命』西田正規
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ

世界史の教科書
必読書リストその五

 以上のような立場から、宗教や哲学の多くは、幸福に対して自由主義とはまったく異なる探求方法をとってきた。なかでもとくに興味深いのが、仏教の立場だ。仏教はおそらく、人間の奉じる他のどんな信条と比べても、幸福の問題を重要視していると考えられる。2500年にわたって、仏教は幸福の本質と根源について、体系的に研究してきた。(中略)
 幸福に対する生物学的な探求方法から得られた基本的見解を、仏教も受け容れている。すなわち、幸せは外の世界の出来事ではなく身体の内で起こっている過程に起因するという見識だ。だが仏教は、この共通の見識を出発点としながらも、まったく異なる結論に行き着く。
 仏教によれば、たいていの人は快い感情を幸福とし、不快な感情を苦痛と考えるという。その結果、自分の感情に重要性を認め、ますます多くの喜びを経験することを渇愛し、苦痛を避けるようになる。脚を掻くことであれ、椅子で少しもじもじすることであれ、世界大戦を行なうことであれ、生涯のうちに何をしようと、私たちはただ快い感情を得ようとしているにすぎない。
 だが仏教によれば、そこには問題があるという。私たちの感情は、海の波のように刻一刻と変化する、束の間の心の揺らぎにすぎない。5分前に喜びや人生の意義を感じていても、今はそうした感情は消え去り、悲しくなって意気消沈しているかもしれない。だから快い感情を経験したければ、たえずそれを追い求めるとともに、不快な感情を追い払わなければならない。だが、仮にそれに成功したとしても、ただちに一からやり直さなければならず、自分の苦労に対する永続的な報いはけっして得られない。(中略)
 喜びを経験しているときにさえ、心は満足できない。なぜなら心は、この感情がすぐに消えてしまうことを恐れると同時に、この感情が持続し、強まることを渇愛するからだ。
 人間は、あれやこれやのはかない感情を経験したときではなく、自分の感情はすべて束の間のものであることを理解し、そうした感情を渇愛することをやめたときに初めて、苦しみから解放される。それが仏教で瞑想の修練を積む目的だ。(中略)
 このような考え方は、現代の自由主義の文化とはかけ離れているため、仏教の洞察に初めて接した西洋のニューエイジ運動は、それを自由主義の文脈に置き換え、その内容を一転させてしまった。ニューエイジの諸カルトは、しばしばこう主張する。「幸せかどうかは、外部の条件によって決まるのではない。心の中で何を感じるかによってのみ決まるのだ。富や地位のような外部の成果を追い求めるのをやめ、内なる感情に耳を傾けるべきなのだ」。簡潔に言えば、「幸せは身の内に発す」ということだ。これこそまさに生物学者の主張だが、ブッダの教えとはほぼ正反対だと言える。
 幸福が外部の条件とは無関係であるという点については、ブッダも現代の生物学やニューエイジ運動と意見を同じくしていた。とはいえ、ブッダの洞察のうち、より重要性が高く、はるかに深遠なのは、真の幸福とは私たちの内なる感情とも無関係であるというものだ。事実、自分の感情に重きを置くほど、私たちはそうした感情をいっそう強く渇愛するようになり、苦しみも増す。ブッダが教え諭したのは、外部の成果の追求のみならず、内なる感情の追求をもやめることだった。

【『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(河出書房新社、2016年)】

 読みながら思わずタップした。少なからず30年ほど仏教を学んできたつもりであったが、私のやってきたことは他人の言葉をただなぞっていただけであったと思い知らされた。変質した日本仏教(特にマントラ系)の信徒であれば理解することさえ難しいだろう。

 たった今、Wikipediaを見たところハラリはヴィパッサナー瞑想の実践者らしい。そりゃそうだろう。歴史学者の知識だけで推し量れるほど仏教の世界は浅くない。

 ブッダは繰り返し「捨てよ」と説いた。不幸の原因である欲望や執着の虜となっている我々が一歩前進するためには自ら「つかんで放す」行動が必要となる。しかしながら実態としては、ただ「放す」「落とす」というニュアンスの方が正確だろう。肩に積もった雪を振り払うように執着を払い落とすことができれば苦悩は行き場を失う。

 本書は「21世紀の古典」であり、学問的常識に位置づけられる作品となるに違いない。