2011-06-14

料理進化論/『火の賜物 ヒトは料理で進化した』リチャード・ランガム


 ヒトとサルを分けるものは何か? 「服を着ているかいないかの違いだな」。確かに。「美容院にも行かないわね」。その口で美容を語らないでもらいたい。「タイムカードも押さないよな」。彼らの方が幸せなのかもしれない。

 ま、一般的には二足歩行・道具の使用(厳密には道具の加工製作)・火の使用・言語によるコミュニケーションといわれる。身体的な特徴としては何といっても「巨大な脳」である。二足歩行であるにもかかわらず、最も重い頭が一番上に位置している。

 脳は体重の2%ほどの重さしかないにもかかわらず、全体の20~25%ものエネルギーを消費する。他の霊長類では8~10%、哺乳類では3~5%にすぎない(『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』三井誠)。

 このため人間は高カロリーの食べ物を必要とした。それが「肉」である。ま、よく知られた話だ。リチャード・ランガムはもう一歩踏み込む。

 本書において私は新しい答えを示す。すなわち、生命の長い歴史のなかでも特筆すべき“変移”であるホモ属(ヒト属)の出現をうながしたのは、火の使用料理の発明だった。料理は食物の価値を高め、私たちの体、脳、時間の使い方、社会生活を変化させた。私たちを外部エネルギーの消費者に変えた。そうして燃料に依存する、自然との新しい関係を持つ生命体が登場したのだ。

【『火の賜物 ヒトは料理で進化した』リチャード・ランガム:依田卓巳〈よだ・たくみ〉訳(NTT出版、2010年)以下同】

 つまり調理によってエネルギー摂取が劇的に高まるというのだ。実に斬新な視点である。生で食べると大半の栄養は吸収されないとのこと。そう考えると、案外「加工」にヒトの本質があるような気がする。

 変異の最初のシグナルは260万年前に見られる。エチオピアの岩から掘り出された鋭い石片で、丸い石を意図的に打ち削って道具にしたものだ。そういう単純なナイフを使って、死んだレイヨウから舌を切り取ったり、動物の肢の腱を切って肉を取ったりしていたことが、化石の骨についた傷からわかった。

 人類最初のテクノロジーは小さな斧だった。たぶん黒曜石のような石を使ったのだろう。もちろん武器にもなった。

 したがって、私たちの起源に対する問いは、アウソトラロピテクスからホモ・エレクトスを発生させた力は何かということになる。人類学者はその答えを知っている。1950年代以降もっとも支持されてきた学説によると、そこに働いた唯一の力は“肉食”である。

 結局のところ、二足歩行・道具の使用・火の使用は脳の巨大化に直結している。肉と脳。肉欲だ(笑)。

 料理した食物は生のものより消化しやすいのだ。牛、羊、子豚などの家畜は、調理したものを与えるとより早く育つ。

 ってことはだよ、本来なら調理することで人間は少ない食べ物で生きることが可能になったはずだ。エネルギー効率が上がるわけだから。発達した脳は農耕を可能にした。更に牧畜や漁業で計画的に食料を確保できるようになった。にもかかわらず我々は貪欲に地球を食い尽くそうとしている。

 結果はどちらのグループでもほぼ同じだった。料理した卵の場合には、タンパク質の消化率は平均91パーセントから94パーセントだった。この高い数値は卵のタンパク質が食物としてすぐれていることから当然予測できる。しかし、回腸造瘻術の患者について、生の卵の消化率を測定すると、わずか51パーセントしかなかった。

 回腸造瘻術とは、癌患者が小腸の一部に穴を開けて老廃物を排出させるもの。消化のメカニズムは複雑で奥が深い。

 着想は素晴らしいのだが本の構成が悪い。もうちょっと何とかならなかったのかなあ、というのが率直な感想だ。



『イーリアス』に意識はなかった/『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
野菜の栄養素が激減している/『その調理、9割の栄養捨ててます!』東京慈恵会医科大学附属病院栄養部監修

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