プランクトンの一種、ミドリムシが新たな食品として注目を集めている。理論上は「これと主食だけで人間が生きられる」というほど栄養豊富で、地球温暖化防止にも貢献できるとか。5億年前から存在する体長0.05ミリの微生物の将来性やいかに。
「ミドリムシは人間に必要な栄養をすべて持っている」。沖縄県の石垣島に、ミドリムシを大量培養するプラントを持つ「ユーグレナ」社の出雲充社長(31)は話す。05年の創業以来、6200兆匹が生まれたという。洗浄、濃縮し、粉末にすると食品の材料になる。
栄養素はビタミンなど59種類。人が体内で作り出せない必須アミノ酸も9種類すべてを含む。粉末1グラム(ミドリムシ約10億匹)中の鉄分はホウレンソウ50グラム分、葉酸はサンマ50グラム分。DHA(ドコサヘキサエン酸)も生成する。青魚のDHAも食物連鎖の元をたどればミドリムシが製造元の一つという。
東大との産学連携で起業し、ミドリムシの学名を社名にした「ユーグレナ」は07年からサプリメントを売り出した。だが――「喜んで買っていただけると思ったら、ほとんどの女性にイヤ!と言われた」(出雲社長)。チョウやガの幼虫のアオムシと誤解されたためだ。
知名度が上がったのは09年、東京都江東区の日本科学未来館(毛利衛館長)と共同で「ミドリムシクッキー」を売り出してから。同館のお土産人気1位に躍り出て、今もベスト3に入る。共同開発の依頼が舞い込み、ラーメンにハンバーガー、インスタント雑炊、焼酎など、加工商品は25種類にも上る。
ほんのり磯の香り
ミドリムシ自体に味はほとんどなく、ほんのり磯の香りがするだけ。同社は痛風を悪化させるプリン体の吸収を抑えるミドリムシ食品も開発し、特許を取得した。現在は、栄養不足に悩む途上国支援のため、海外向けの食品開発に力を注ぐ。
ミドリムシだけでネズミの飼育に成功したという中野長久(よしひさ)・大阪府立大名誉教授(栄養生理生化学)は「人口が増え続ける中、将来は人類の生命を維持する最終食料資源になり得る」と語る。
中野名誉教授によると、ミドリムシは動物と植物の特性を兼ね備えた「ハイブリッド生物」。べん毛で動き回る一方、葉緑素を持ち光合成をする。「二酸化炭素やドライアイス(二酸化炭素の固体)が存在する火星にミドリムシの培養タンクを運べば、食料と酸素を自給でき、100年後には地球と同じ環境がつくれる。学生には、そんな夢を語っています」
実際、米航空宇宙局(NASA)も1970年代からミドリムシに注目し、地球外で自給自足するための研究を続けてきた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)も大阪府立大の研究に助成し、無重力空間で細胞分裂できることを確認している。
環境保護の面でも期待されている。住友共同電力は昨年から、愛媛県内の火力発電所にミドリムシを入れたタンクを設置し、排出ガスをろ過する実験をしている。他の植物ではガス中の二酸化炭素が濃過ぎて死んでしまうが、ミドリムシは逆に、通常の大気より成長が促進された。そのミドリムシを家畜飼料やバイオ燃料に活用できれば、効率的なエコシステムになる。同社は「より大型の水槽で実験をし、早期に事業化したい」と話している。
【毎日jp 2011-12-14】
0 件のコメント:
コメントを投稿