2019-10-26

消費税は「消費行動についての罰金」/『「10%消費税」が日本経済を破壊する 今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』藤井聡


『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』中野剛志
・『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』中野剛志

 ・消費税は「消費行動についての罰金」

 そもそも消費税というものは、消費者にとっては、【「消費行動についての罰金」】のようなものだ。だから、消費税を上げれば、必然的に消費にブレーキがかかることとなるわけだ。
 いずれにせよ、私たちの世帯は平均で、消費増税によって実に年34万円(369万円→335万円)もの消費を削ることとなったのである。
 これは別の角度から言うなら、【消費増税のせいで、私達(ママ)は1世帯あたり年間34万円分も「貧しい暮らし」を余儀なくされるようになった】ことを示している。
 当たり前の話だが、年間34万円といえば、決して少なくない金額ではない。これは、消費増税の直前の消費水準からすれば実に9.2%もの水準に達する。つまり、【消費増税によって、私たちは、買えるモノが1割近くも少なくなってしまった、】というわけだ。

【『「10%消費税」が日本経済を破壊する 今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』藤井聡〈ふじい・さとし〉(晶文社、2018年)】

 わかりやすい話である。ただ如何せん文章が悪い。タイトルも冗長だ。藤井聡はチャンネル桜でもMMTの話になると甲高い声で感情的になる悪い癖がある。「我こそは正義」との思い込みがあればたちまち説得力を失う。本当に正しい態度は常に静かなものだ。

 髙橋洋一によれば安倍首相自体は消費税増税に賛成しているわけではないが、麻生財務大臣に配慮した結果であるという。で、麻生財務大臣がなぜ増税を推進するかといえば、「財務官僚と頭のレベルが違いすぎる」から。ただそれだけのことらしい。


 麻生の父・太賀吉〈たかきち〉は経済同友会の幹事を務めたので、麻生セメントとしての判断なのかもしれない。

 消費税増税、対中政策の甘さ、香港デモに対する無関心など安倍政権に対する風当たりが強くなっている。特に最近は保守層からの批判が目立ち、チャンネル桜に至っては「反安倍」に舵を切ったようにさえ見える。長期政権に対する飽きもあるのだろう。宿願だった憲法改正が遠のいてやる気がなくなったような印象も受ける。

 トランプ大統領の登場によってグローバリズムが終焉し、新たな帝国主義時代が幕を開けようとしている。アメリカが保護主義に走るのだから日本の覇権からも退くのは当然であろう。沖縄から米軍が撤退するのも時間の問題だと思われる。その時アジアの覇権を巡って中国が前に出てくる。これに対して日本が自国の防衛だけにとどまるのか、それとも台湾・ASEAN諸国と同盟を結ぶかどうかが問われる。

 マッカーサーが占領期のどさくさに紛れて制定した憲法を破棄することはおろか、改正すらできない国民が西太平洋の平和に責任を持てるはずがない。つまり新たな日中戦争の直前になし崩し的な格好で憲法は変えられる可能性が大きい。とすると、またぞろ大東亜戦争のように行きあたりばったりの戦闘が行われることだろう。

 愚民の常として私も偉大なリーダーを待望する者であるが、教育改革やメディア改革に大鉈を振るう人物でなければ、この国の国民はいつまで経っても無責任な平和主義者として戦争に反対を唱え続けることだろう。

米国三大死因の第3位は「回避可能な医療過誤」/『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド


『無責任の構造 モラルハザードへの知的戦略』岡本浩一
『生き残る判断 生き残れない行動 大災害・テロの生存者たちの証言で判明』アマンダ・リプリー
『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』アトゥール・ガワンデ

 ・米国三大死因の第3位は「回避可能な医療過誤」

『予言がはずれるとき この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する』L・フェスティンガー、H・W・リーケン、S・シャクター
『アナタはなぜチェックリストを使わないのか? 重大な局面で“正しい決断”をする方法』アトゥール・ガワンデ

必読書リスト その二

 実はこうした失敗と成功には、切っても切れない関係がある。まずはその関係を理解するために、安全重視にかかわる二大業界、医療業界と航空業界を比較してみよう。両者の組織文化や心理的背景には大きな違いがある。中でも根本的に異なるのが、失敗に対するアプローチだ。
 航空業界のアプローチは傑出している。航空機にはすべて、ほぼ破砕不可能な「ブラックボックス」がふたつ装備されている。ひとつは飛行データ(機体の動作に関するデータ)を記録し、もうひとつはコックピット内の音声を録音するものだ。事故があれば、このブラックボックスが回収され、データ分析によって原因が究明される。そして、二度と同じ失敗が起こらないよう速やかに対策がとられる。
 この仕組みによって、航空業界はいまや圧倒的な安全記録を達成している。しかし、1912年当時には、米陸軍パイロットの14人に8人が事故で命を落としていた。2人に1人以上の割合だ。(中略)
 今日、状況は大きく改善されている。国際航空運送協会(IATA)によれば、2013年には、3640万機の民間機が30億人の乗客を乗せて世界中の空を飛んだが、そのうち亡くなったのは210人のみだ。欧米で製造されたジェット機については、事故率は【フライト100万回につき0.41回】。単純計算すると約240万フライトに1回の割合となる。(中略)
 航空業界においては、新たな課題が毎週のように生じるため、不測の事態はいつでも起こり得るという認識がある。だからこそ彼らは過去の失敗から学ぶ努力を絶やさない。
 しかし、医療業界では状況が大きく異なる。1999年、米国医学研究所は「人は誰でも間違える」と題した画期的な調査レポートを発表した。その調査によれば、アメリカでは毎年4万4000~9万8000人が、【回避可能な医療過誤】によって死亡しているという。
 ハーバード大学のルシアン・リープ教授が行った包括的調査では、さらにその数が増える。アメリカ国内だけで、毎年100万人が医療過誤による健康被害を受け、12万人が死亡しているというのだ。(中略)
 現在世界で最も尊敬を集める医師の1人、ジョンズ・ホプキンズ大学医学部のピーター・プロノボスト教授は、2014年の米上院公聴会で次のように発言した。

【つまり、ボーイング747が毎日2機、事故を起こしているようなものです。あるいは、2カ月に1回「9.11事件」が起こっているのに等しい。回避可能な医療過誤がこれだけの頻度で起こっている事実を黙認することは許されません】。

 この数値で見ると、「回避可能な医療過誤」は「心疾患」「がん」に次ぐ、アメリカの三大死因の第3位に浮上する。しかし、まだ不完全だ。老人ホームでの死亡率のほか、薬局、個人病院(歯科や眼科も含む)など、調査が行き届きにくい死亡事故はこのデータに含まれていない。

【『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド:有枝春〈うえだ・はる〉訳(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年)】

 冒頭で医療ミスのエピソードが語られる。信じ難いヒューマンエラーがいくつも重なりエレインという女性が37歳の若さで亡くなった。続いて「生命を預かる仕事」の代表である医療業界と航空業界を比較して医療業界の杜撰さと被害者の多さを検証する。エレインの夫マーティンは死までの経過を知りたかった。決して医療ミスを見抜いたわけではなかった。ただ知りたかったのだ。マーティンの職業はパイロットであった。

 マーティン・ブロミリーは巻末にも登場する。彼は若き妻を失ったことにより、医療ミスを防止するための世界的なネットワークを構築した。航空業界は「失敗から学び」、医療業界は「失敗を隠す」。たったこれだけの違いが25万人もの人々を死なせているのだ(CNN.co.jp 2016年5月4日)。

 失敗には必ずパターンがある。ヒューマンエラーを防ぐことは不可能だが、仕組みや手順を変えることでエラーの数を減らすことは可能だ。これは仕事のみならず日常生活においても同様である。いくら「同じ轍(てつ)を踏まない」と力んでも無駄だ。システムを見直すことが最も重要で、ミスを犯す直前の動きを検証する眼が必要なのだ。

「命を守る」べき病院で殺される現実に現代社会の複雑さがある。医療の仕組みは保険報酬で規定される。薬を処方するのが医師の仕事と化した感があり、不要な薬が新たな医原病を生んでいる。

 一人の医療過誤被害者家族が立ち上がって世界の医療システムを変えつつある。一人の力は侮れない。

『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』を先に読めば衝撃の度合いが深まる。今年読んだ本の中で最も面白かった一冊である。

2019-10-25

病苦への対処/『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』アトゥール・ガワンデ


『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
『往復書簡 いのちへの対話 露の身ながら』多田富雄、柳澤桂子
『逝かない身体 ALS的日常を生きる』川口有美子

 ・病苦への対処
 ・老人ホームに革命を起こす

『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド
『アナタはなぜチェックリストを使わないのか? 重大な局面で“正しい決断”をする方法』アトゥール・ガワンデ

必読書リスト その二

 超高齢者にとっての行き場所が火山に行く(※スピリット湖のハリー・トルーマン)か、人生のすべての自由を捨てるかの二者択一になってしまったのはどうしてなのだろう。何が起こったのかを理解するためには、救貧院がどのようにして今ある施設に置き換えられたのか、その歴史を辿る必要がある――そして、それは医療の歴史にもなっている。今あるナーシング・ホームは、弱ったお年寄りに悲惨な場所とは違う、よい暮らしを与えようという願いから始まったものではない。全体を見渡し、こんなふうにまわりに問いかけた人は一人もいなかった、「みなが知っているように、人生には自分一人では生活できない時期というのがある、だから、その時期を過ごしやすくする手段を私たちは見つけなければいけない」。このような質問ではなく、かわりに「これは医学上の問題のようだ。この人たちを病院に入れよう。医師が何とかしてくれるだろう」。現代のナーシング・ホームはここから始まった。成り行き上そうなったのである。
 20世紀の中ごろ、医学は急速な歴史的な変革を経験した。それまでは重病人が来たとき、医師は家に帰らせることが通常だった。病院の主な役割は保護だった。
 偉大な作家兼医師であるルイス・トーマスが、1937年のボストン市立病院でのインターンシップの経験をもとにこのように書いている。「もし病院のベッドに何かよいものがあるとしたならば、それはぬくもりと保護、食事、そして注意深くフレンドリーなケア、加えてこれらを司る看護師の比類ないスキルだ。生き延びられるかどうかは疾病それ自体の自然な経過にかかっている。医学それ自体の影響はまったくないか、あってもわずかだ」
 第二次世界大戦後、状況は根本的に変わった。サルファ剤やペニシリン、そして数え切れないほどの抗生物質が使えるようになり、感染症を治せるようになった。血圧をコントロールしたり、ホルモン・バランスの乱れを治したりできる薬が見つかった。心臓手術から人工呼吸器、さらに腎臓移植と医学の飛躍的な進歩が常識になった。医師はヒーローになり、病院は病いと失望の象徴から希望と快癒の場所になった。
 病院を建てるスピードは十分ではなかった。米国では1946年に連邦議会がヒル・バートン法を成立させ、多額の政府資金が病院建設に投じられることになった。法の成立後、20年間で米国全体で9000以上の医療施設に補助金が下りた。歴史上初めて、国民のほとんどが近くに病院をもつようになった。これは他の工業国でも同様である。
 この変革の影響力はいくら強調しても強調しすぎることはない。人類が地球に出現してい以来、ほとんどの間、人は自分の身体から生じる苦痛に対して自分自身で対処することが基本だった。自然と運、そして家族と宗教に頼るしかなかった。

【『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』アトゥール・ガワンデ:原井宏明〈はらい・ひろあき〉訳(みすず書房、2017年)】

 シッダールタ・ムカジーに続いてまたぞろインド系アメリカ人である。しかもこの二人は文筆業を生業(なりわい)とする人物ではないことまで共通している。ガワンデは現役の医師だ。

 長々とテキストを綴ったのは最後の一文で受けた私の衝撃を少しでも理解して欲しいためだ。人類が宗教を必要とした理由をこれほど端的に語った言葉はない。

 都市部に集中する人口や核家族化によって、年老いた親の面倒を子供が見るというそれまで当たり前とされた義務を果たすことができなくなった。手に負えない情況に陥ればあっさりと親は老人ホームや介護施設に預けられる。保険報酬と低賃金で運営される施設の介護とは名ばかりで、まともな客としてすら扱っていない。老人は籠の中の鳥として生きるのみだ。ま、苦労と苦痛のアウトソーシングといってよい。あるいは親を殺す羽目になることを避けるための保険料と言い得るかもしれない。

「自然と運、そして家族と宗教に頼るしかなかった」人類は病院と薬を得て人生の恐怖を克服した。家の中から死は消え去った。数千年間に渡って人類を支えてきた宗教は滅び去り、家族は小ぢんまりとしたサイズに移り変わった。そこに登場したのがテレビであった。核家族はテレビの前で肩を寄せ合い、団らんを繰り広げた。未来の薔薇色を示した情報化社会は逆説的に灰色となって複雑な問題を露見し始めた。校内暴力~親殺し~いじめ~学級崩壊~引きこもりは社会の歪(ひず)みが子供という弱い部分に現れた現象である。

 宗教を手放した人類はバラバラの存在になってしまった。もはや我々はイデオロギーのもとに集まることもない。ただ辛うじて利益を共有する会社に身を置いているだけだ。その会社が経費のかからない手軽な人材の派遣を認めれば、もはやつながりは社会から失われる。

 幕末の知識人はエコノミーを経世済民と訳した。「世を経(おさ)め民を済(すく)う」のが経済の本義である。ところが21世紀の経営者は低賃金を求めて工場を海外へ移転して日本を空洞化し、国内においては移民政策を推進して安い労働力の確保に血道を上げている。その所業は「民を喰う」有り様を呈している。所業無情。

 今元気な人もやがて必ず医療・介護の世話になる。日本人の平均寿命から健康寿命を差し引けば10年となる。これが要介護年数の平均だ。スウェーデンは寝たきり老人ゼロ社会であるという(『週刊現代』2015年9月26日・10月6日合併号)。『欧米に寝たきり老人はいない 自分で決める人生最後の医療』という本もある。社会的コストを軽減するための形を変えた姥(うば)捨て文化なのだろう。もちろんそういった選択肢をする人がいてもよい。ただし老病と向き合う姿勢が忌避であることに変わりはなかろう。

 生き甲斐は現代病の一つである。生き甲斐という物語を想定すると「生き甲斐がなければ死んだ方がまし」と単純に思い込んでしまう。本当にそうなのか? そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

 まずは介護環境を変えることから始める必要がある。保険報酬も予防に重きを置くべきだ。基本は食事療法と運動療法が中心となる。運動→武術→ヨガ→瞑想という流れが私の考える理想である。

 介護施設に関しては施設内のコミュニティ化・社会化を目指せばよい。実際に行うのは何らかの作業と会話であるが、コミュニケーションに最大の目的がある。誰かとコミュニケートできれば人は生きてゆけるのだから。

世界史は陸と海とのたたかい/『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫


『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻
『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫、萱野稔人
『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫

 ・世界史は陸と海とのたたかい

『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ

世界史は陸と海とのたたかい

 EU帝国とアメリカ金融・資本帝国の違いを考える上で、大きな示唆を与えてくれるのが、シュミットの「世界史は陸の国に対する海の国のたたかい、海の国に対する陸の国のたたかいの歴史である」という歴史的視座です。
 21せいきは、シュミットが世界史を「陸と海とのたたかい」と定義した通りの展開となっています。海の「金融・資本帝国」(英米)vs.陸の「領土帝国」(独仏、露・中・中東)のたたかいです。アメリカ金融・資本帝国は無限空間である「海の国」の延長であるのに対して、EU帝国は有限空間の「陸の国」だということです。
 そして現代では、「長い16世紀」以来の近代システムにおいて勝者であった「海の国」が弱体化し、近代システムでは敗者であった「陸の国」の力が強まっているのです。金利がゼロになれば、これまで蒐集する側であった「海の国」が富を蒐集できなくなって、相対的にその地位が低下するからです。(中略)
「陸の時代」の支配者たちは、領土を手中におさめると、官僚組織の肥大化など、人的にも物的にも多大なコストをかけて広大な領土を統治しました。しかし、そのコストの重みに耐えられなくなると、社会秩序が崩れ、領土は拡大から収縮への局面に入っていくということの繰り返しでした。
 ところが、15世紀の末になると、造船技術が発達したおかげで、西欧の人々は陸の縛りから解放され、「より遠く」へ向かうことができるようになりました。ヨーロッパ各国のなかで、真っ先に大海原に出たのは、地中海世界という狭い「閉じた空間」では利潤を得られなくなったスペイン、ポルトガル、それを経済的に支援したイタリアです。「湖」にした地中海から飛び出し、大航海という賭けに出たのです。
 スペインは新大陸で銀山を発見し、ポルトガルは喜望峰を廻(まわ)って遠隔地貿易を拡大させました。しかし、スペインもポルトガルも実質的には「陸の国」の性質を捨て去ることができませんでした。海を渡った先の「陸」で、「陸の国」としての古い統治の方法を続けたのです。
 一方、新しく登場したオランダやイギリスは「海」を制することで空間を拡大させました。海という空間は、既存の国家が制定した「陸の法」が行き届く領域ではない。ならばその空間から「自由」に収奪するべく新たなルールをつくろう――。オランダやイギリスは、このような発想で、まったく新しいルールを自国に有利なようにつくり上げたのです。
 このように「陸の時代」から「海の時代」へと転換したことをシュミットは「空間革命」と呼んでいます。

【『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫(集英社新書、2017年)】

 いやはや勉強になった。付箋だらけである。読了後もパラパラと読み返した。その丁寧な記述と論理の整合性で一気に読むことが可能だ。

 シーパワー(海洋権力)とランドパワー(大陸権力)は地政学の基本的な概念であるが、倉前盛通著『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』を読んで文明史的な意味合いを知った。上記テキストも倉前と異同はない。

 水野は「海の国」である英米が海洋から「金融・電子空間」にシフトしたものの、ゼロ金利時代を迎えた今、資本主義が滅びることは避けられないと説く。資本主義後を提示するのは困難極まりないが、「閉じた帝国」になると予測している。

 ま、倉前の著書が半世紀ほど前なので視点が異なるのは当然としても、水野の主張は心に響いてくるものが少ない。で、既に二度読んだ『悪の論理』も目繰り返す羽目となった。

 私が本書で引っ掛かったのは「正確に言えば、『永続敗戦論』で政治学者、白井聡が鋭く指摘したように」(233ページ)との一文である。

 白井聡は、しばき隊に交じって「安倍やめろ」と叫んでいた人物である(netgeek 2017年7月7日)。札付きの学者といってよい。もちろん赤札だが。

 加齢のため頭脳の衰えは著しいのだが、まだまだ鼻の方は利く。水野和夫の正体は「反資本主義者」なのだ。それに気づいた時、私は隠された「赤い爪」を見たような思いがした。

 水野が著作で行っているのは「資本主義の死亡診断書」を提示することだ。その目的が見えれば反資本主義→容共勢力であるのは確実と思われる。

 私の見立てが勘違いか洞察かは読者の判断に委ねるが、池上彰や佐藤優が水野を持ち上げていれば左翼と見て間違いなかろう。

 尚、amazonでは送料(500円)が発生するので要注意。

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2019-10-23

洪水/『ブッダの 真理のことば 感興のことば』中村元


『日常語訳 ダンマパダ ブッダの〈真理の言葉〉』今枝由郎訳

 ・競争と搾取
 ・洪水

『原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話』アルボムッレ・スマナサーラ
『原訳「法句経」(ダンマパダ)一日一悟』アルボムッレ・スマナサーラ
・『法句経』友松圓諦
・『法句経講義』友松圓諦
・『阿含経典』増谷文雄編訳
・『『ダンマパダ』全詩解説 仏祖に学ぶひとすじの道』片山一良
・『パーリ語仏典『ダンマパダ』 こころの清流を求めて』ウ・ウィッジャーナンダ大長老監修、北嶋泰観訳注→ダンマパダ(法句経)を学ぶ会
『日常語訳 新編 スッタニパータ ブッダの〈智恵の言葉〉』今枝由郎訳
『ブッダのことば スッタニパータ』中村元訳
『スッタニパータ [釈尊のことば] 全現代語訳』荒牧典俊、本庄良文、榎本文雄訳
『原訳「スッタ・ニパータ」蛇の章』アルボムッレ・スマナサーラ
『怒らないこと 役立つ初期仏教法話1』アルボムッレ・スマナサーラ
『慈経 ブッダの「慈しみ」は愛を越える』アルボムッレ・スマナサーラ
『怒りの無条件降伏 中部教典『ノコギリのたとえ』を読む』アルボムッレ・スマナサーラ
『小説ブッダ いにしえの道、白い雲』ティク・ナット・ハン
『ブッダが説いたこと』ワールポラ・ラーフラ
・『ブッダとクリシュナムルティ 人間は変われるか?』J・クリシュナムルティ

ブッダの教えを学ぶ

四六 この身は泡沫(うたかた)のごとくであると知り、かげろうのようなはかない本性のものであると、さとったならば、悪魔の花の矢を断ち切って、死王に見られないところへ行くであろう。
四七 花を摘(つ)むのに夢中になっている人を、死がさらって行くように、眠っている村を、洪水が押し流して行くように、――
四八 花を摘(つ)むのに夢中になっている人が、未だ望みを果さないうちに、死神がかれを征服する。(「真理のことば」〈ダンマパダ〉第四章 花にちなんで)

【『ブッダの 真理のことば 感興のことば』中村元〈なかむら・はじめ〉訳(岩波文庫、1978年/ワイド版岩波文庫、1991年)以下同】

 東日本大震災を経験してそれまでとは全く異なった衝撃を受けた一文である。その後も自然災害が止むことはなかった。平成から令和に変わっても容赦なく台風が襲い掛かった。21の河川が氾濫し、堤防の決壊によって浸水した土地は2万5000ヘクタールに及ぶ。今日現在で70人が死亡、行方不明者が12人となっている。

 生きとし生けるものは必ず死ぬ。にもかかわらず災害死は生の基盤を揺るがす恐怖を与える。戦争やメガデス(大量虐殺)と同様に。

 本能なのか。それとも感情なのか。徒死を嫌い、無駄死にを恐れ、酔生夢死を忌(い)む裏側には「掛け替えのない人生」という誰もが信じる虚構が存在する。

 このテキストは「感興のことば」にも登場する。

一四 花を摘(つ)むのに夢中になっている人を、死がさらって行くように、――眠っている村を、洪水が押し流していくように――
一五 花を摘(つ)むのに夢中になっている人が、未だ望みを果さないうちに、死神がかれを征服する。
一六 花を摘(つ)むのに夢中になっている人が、まだ財産が集まらないうちに、死神がかれを征服する。(「感興のことば」〈ウダーナヴァルガ〉第一八章 花)

 花を摘む幸福が生を見失わせるのか。功成り名を遂げた人も、市井に埋没する人も、不遇をかこつ人も死が押し流してゆく。目を開いて周囲を見てみよう。死はありふれている。死はそこここに転がっている。中高年ともなれば親が死に、兄弟が死に、そして友人が次々と死んでゆくことにたじろぐ。だが私が見るのは他人の死だ。果たして「自分が死ぬ」という当たり前の現実を真剣に受け止めている人は少ない。

 人生の総決算が死ぬ姿にあると考えれば、死に方を問う人々が出てきて当然だ。そんな彼らが編み出した一つの解決法がたぶん「殉教」だったのだろう。“大義のために死ぬ”ことは誰が見ても絵になる。それまでの平凡な人生が突如としてドラマチックな色彩を帯びる。キリスト教宣教師は「発見の時代」(Age of Discovery/大航海時代)から近代に至るまで殉教の旗を掲げて世界を駆け巡った。

 ところがそのキリスト教を排除してきた日本にはもっと凄い死に方があった。切腹である。自らの死を苦痛の中で決断する行為は人間の意志の極限に位置するものだ。武士という存在は刀を自他に突きつける中で絶妙なバランスを社会にもたらした。その精神は大東亜戦争の特攻隊にまで引き継がれる。

「感興のことば」は「無常」の章から始まる。ここで説かれる無常とは死を意味する。諸行無常とは「何をやっても(死ぬから)無駄」と言っているようにしか思えない。真実は単純の中にある。人々が思う幸福はきっと不幸の因なのだろう。幸福は真理と懸け離れている。それは単なる欲望に過ぎない。「洪水」とは煩悩の濁流を示している。

 河海の洪水を恐れても、煩悩の洪水を何とも思わぬ己をじっと見つめる。

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