2019-02-22

腕は後ろに振る/『「体幹」ウォーキング』金哲彦


『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博

 ・腕は後ろに振る

『高岡英夫の歩き革命』、『高岡英夫のゆるウォーク 自然の力を呼び戻す』高岡英夫:小松美冬構成
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史

 黄色人種である日本人は、骨格的に大きなハンディがあります。
 黒人選手の骨格で特徴的なのは、骨盤がしっかり前傾していることです。そのため、骨盤が動きやすく、骨盤を動かすインナーマッスルの腸腰筋も非常に発達しています。つまり、生まれつき体幹が機能しやすいのです。黒人アスリートの、パワフルでダイナミックなフォームは、骨格からくる体幹の力によるものなのです。
 これに対し、日本人をはじめとする黄色人種は、骨盤がもともと後継ぎみ。そのため、腸腰筋やお尻の筋肉が発達しにくく、油断すると体幹がすぐに眠った状態になってしまいます。黄色人種の私たちが黒人に対抗するには、トレーニングによって強靭な体幹を作り上げることが必須条件なのです。

【『「体幹」ウォーキング』金哲彦〈きん・てつひこ〉(講談社、2010年)】

 実に危うい記述である。人種の違いを指摘することすら差別と受け止められかねない時代情況を思えば編集が甘すぎる。著者の視野も狭い。「骨格的に大きなハンディ」としているが、日本人の骨盤は稲作や山歩き(峠越え)に応じて進化したものと私は考える。江戸時代は「男十里、女九里」と言われた。男性なら40km、女性でも36km程度歩くのが普通だった。健脚の飛脚であれば100km以上の距離を移動したという。

 最近の若者を見ると日本人の脚もずいぶんと長くなった。床から椅子に坐るようになった生活スタイルの変化が影響しているのだろう。胴長・短足・眼鏡・出っ歯・首からカメラという日本人のイメージは既に過去のものだ。

 ウォーキングで大きく手を振ることには意味がないと書かれている。肩甲骨を動かすために腕は後ろに振るのが基本で、「肩甲骨に羽がある」というイメージを持つ。これは読んでから直ぐに実践した。

2019-02-21

「聖書とガス室」/『人間について 私の見聞と反省』竹山道雄


『竹山道雄と昭和の時代』平川祐弘
『昭和の精神史』竹山道雄
『見て,感じて,考える』竹山道雄
『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』竹山道雄:平川祐弘編
『剣と十字架 ドイツの旅より』竹山道雄
『ビルマの竪琴』竹山道雄

 ・「聖書とガス室」

『竹山道雄評論集 乱世の中から』竹山道雄
『みじかい命』竹山道雄
『歴史的意識について』竹山道雄
『主役としての近代 竹山道雄セレクションIV』竹山道雄:平川祐弘編

   I

 聖書とガス室
 キリスト教とユダヤ人問題

   II

 ペンクラブの問題
 『竹山道雄の非論理』
 ものの考え方について

   III

 ソウルを訪れて
 高野山にて
 四国にて
 西の果の島

   IV

 死について
 人間について

 あとがき

【『人間について 私の見聞と反省』竹山道雄(新潮社、1966年)以下同】

 初出誌については「あとがき」に記載されている。

(ゴッドを神と訳したことから、たいへんな誤解や混同がおこったので、キリスト教の神をゴッドと書くことにする。ゴッドと古事記にでてくる神とは、まったく別物である。また、教皇とか回勅とかいうのはいい訳語ではなく、これは天皇を擬似絶対者としたころの政治的風潮のまちがった絶対者観をあてはめたのだろう。さらに、神父というのも奇妙な言葉で、自分は神なる父であると名のる人があるのはおかしい。牧師というのはひじょうにいい言葉だと思うが)(「聖書とガス室」/『自由』昭和38年7月)

「聖書とガス室」は本書以外だと、『竹山道雄著作集5 剣と十字架』(福武書店、1983年)と『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』平川祐弘〈ひらかわ・すけひろ〉編(藤原書店、2016年)にも収められている。

 私が竹山道雄を敬愛してやまないのは文学者でありながらもキリスト教を鋭く見据えたその眼差しにある。文明史的な批判は「西洋に対する極東からの異議申し立て」といっても過言ではない。

 昭和38年(1963年)7月は私が生まれた月である。「7月」と表記されているが多分「7月号」なのだろう。内容もさることながら私を祝福してくれているような錯覚に陥る。

 カミの語源は「隠れ身」であるという(『性愛術の本 房中術と秘密のヨーガ』2006年)。漢字の「神」はツクりの「申」が稲妻を表す。闇を切り裂く雷光を神の威力と見ることは我々にとっても自然だ。「申」が「もうす」という意味に変わったため、お供えを置く高い台を表す「示」(示偏〈しめすへん〉)を添えて「神」という文字ができた(第3回 自然に宿る神(1) | 親子で学ぼう!漢字の成り立ち)。

 キリスト教は砂漠から生まれたが、日本人は豊かな自然に恵まれている。彼らは過酷な環境を憎み支配の対象としたが、我々は大自然と共生しながら大地と海の恵みに感謝を捧げた。一神教と多神教を分けるのは環境要因なのだろう。

キリスト教における訳語としての「神」

 フランシスコ・ザビエルは当初、ゴッドを「大日」と約し、その後「デウス」に変えた(日本のカトリックにおけるデウス)。「キリスト教は、聖書に基づく人間観、世界観、実在観を教義として整備していくために、主にプラトンとアリストテレスの哲学を摂取して利用した 」(キリスト教54~プラトンとアリストテレス - ほそかわ・かずひこの BLOG)。それゆえ「大日」との訳はそれほど見当違いであったわけではない。大日とは仏教におけるイデア思想であろう。

 日本人からすれば一神教(=アブラハムの宗教)は異形の宗教である。

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2019-02-20

ジョン・ガードナー、徳岡孝夫、ミヒャエル・ネールス


裏切りのノストラダムス』ジョン・ガードナー:後藤安彦〈ごとう・やすひこ〉訳(創元推理文庫、1981年)/数十年ぶりに再読。訳文に少々乱れあり。ま、責めは出版社の校正が負うべきだろう。ドイツがフランスを陥落した後、フランス人女性がドイツ兵と性的関係(具体的な記述はない)を結ぶことを「この種の『協力』」と書いている(180ページ)。またドイツが非戦闘員を殺傷する場面あり。フィクションだから嘘と考えるのは短絡的だ。こうした記述を受け入れるヨーロッパの世相を理解すべきだろう。

「戦争屋」の見た平和日本』徳岡孝夫〈とくおか・たかお〉(文藝春秋、1991年)/著者は三島由紀夫が最後に連絡を取った記者の一人。毎日新聞、サンデー毎日の元記者。「『ビルマの竪琴』と朝日新聞の戦争観」(313ページ)。1985年7月に書かれたもの。米軍の原子力空母エンタープライズの佐世保入港に賛成した竹山道雄を朝日新聞が叩きまくった出来事の概要がわかる。投書も紹介している。嘘と捏造(ねつぞう)を繰り返し、言論弾圧をしてきたのが朝日新聞の歴史といってよい。

アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス:鳥取絹子〈とっとり・きぬこ〉訳(筑摩書房、2018年)/翻訳がよくスリリングな内容だ。記憶を司る海馬は死ぬまで成長し続けるという。アルツハイマー病が海馬を破壊する原因は文明にありとしている。「食べ物、運動、知的活動、社会との接触」における欠乏を補うことで初期アルツハイマーは改善できる。

2019-02-19

トイレ掃除は高度な動き/『人生、ゆるむが勝ち』高岡英夫


『悲鳴をあげる身体』鷲田清一
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『だれでも「達人」になれる! ゆる体操の極意』高岡英夫
『高岡英夫の歩き革命』、『高岡英夫のゆるウォーク 自然の力を呼び戻す』高岡英夫:小松美冬構成

 ・トイレ掃除は高度な動き

『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『身体構造力 日本人のからだと思考の関係論』伊東義晃

身体革命
必読書リスト その二

 おそらく大半の人が、掃除や洗濯は好きではないでしょう。
 私は毎日必ず、自宅の洗面所とトイレの掃除をしています。日によっては私が使うたび、多いときには1日に4~5回も掃除をすることがあります。
 そのたびに何をやっているかというと、便器の内側をブラシでササッと掃除するのです。1日4~5回もやると、洗剤を使わなくても水だけで汚れが落ちてしまいます。そして、トイレットペーパーのミシン目1間隔分だけを使ってトイレの床をすみずみまでふき掃除するのです。これを使ってサッサッサとふくだけで、床一面がピカピカになります。なぜかというと、床が汚れていないからなのです。
 ほこりはすみっこにたまりがちですが、毎日ふき掃除をしていればまったく汚れません。現実には汚れていないけれど、そうやってふいていくのです。
 突然トイレ掃除の話になって、何がいいたいのかとお思いでしょうが、もう少しおつきあいください。
 トイレ掃除はほとんどの人がイヤがることですよね。汚れやすいし、狭く、そのうえ便器の形が複雑だから、体をクネクネさせないと、便器の億までうまく掃除ができません。
 床のふき掃除だって、変に力んで力まかせにこすり過ぎるとトイレットペーパーが破れてしまいますし、便器もきれいになりません。
 つまり、トイレ掃除は、力加減を考えながら手を動かす、けっこう高度な動作なのです。あざやかに体をくねらせて、サッサとやるこの動作自体は、ゴルフでボールを打ったり、テニスでサーブを打ったりする難しい動きと同じぐらい、もしかすると勝るかもしれないほど高度な動きなのです。
 体を魚のようにくねらせるこの動作は、健康だけでなく、さらにはスポーツや高度な機能を開発していく体操に自然となっている。毎日、便器の複雑なところに、いかに鮮やかに体をサッと差し入れて、いかに短い時間の中できれいにするか。さっとふいて、さっとトイレから抜け出してくるか。こうしたことが自分の健康にも、若返りにも、高能力にも役立っているわけなのです。
 そう考えたら、トイレ掃除をやらないなんて、なんてもったいないことだろうと思うのです。

【『人生、ゆるむが勝ち』高岡英夫(マキノ出版、2005年)】

 掃除は努力が100%報われる稀(まれ)な行為だ。掃除はやった分だけ必ずきれいになる。物理世界ではエントロピーが増大し続けるが、これに逆らう唯一の存在が生命体である。乱雑さを整える(=エントロピーを逆行させる)掃除はその象徴的な行為といってよい。ブッダの弟子チューラパンタカ(周利槃特〈すりはんどく〉)は掃除をきっかけにして悟りを得たと伝えられる。

 掃除には体をゆるめるだけではなく、心をゆるめる効用もあります。汚いものに積極的にかかわっていきますから、そのぶんだけ心のバランスがとれてくる。人間としてのバランスがとれてくるから、周囲との人間関係もよくなります。
 人間には汚い部分、きれいごとではすまない部分がたくさんあります。
 そうした自分の汚いところに自分自身で触れないで、気がつかないようにフタをしてしまうのが、いまの社会のあり方だと思うのです。
 ですから、きれいごとですませるというか、とにかく汚いことには触れない、汚いものは避けて通るという人生を子どものころから送っていると、人としてのバランスが失われていきます。

 巧みな説明だが言い過ぎだ。清掃会社に勤める人々全員が善人というわけでもあるまい。それでも尚、心を打たれるのは部分的な真理があるためだろう。

 面接をするよりも部屋を見た方がその人物を理解できるという。ただし言いわけをさせてもらうと男は汚れに対する耐性が高い。いかに乱雑な家に住んでいたとしても悪臭が漂わなければ大目に見るべきだ。いや、大目に見てくれ(笑)。

 今日から喜んでトイレ掃除をすることをここに誓うものである。