2020-03-14

人口過密社会と森林破壊が感染症拡大の原因/『感染症の世界史』石弘之


『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男
『人類史のなかの定住革命』西田正規
『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を超えて』加藤茂孝
『続・人類と感染症の歴史 新たな恐怖に備える』加藤茂孝

 ・人口過密社会と森林破壊が感染症拡大の原因
 ・微生物の耐性遺伝子は垂直にも水平にも伝わる

『感染症の時代 エイズ、O157、結核から麻薬まで』井上栄
『飛行機に乗ってくる病原体 空港検疫官の見た感染症の現実』響堂新
『感染症と文明 共生への道』山本太郎
『ワクチン神話捏造の歴史 医療と政治の権威が創った幻想の崩壊』ロマン・ビストリアニク、スザンヌ・ハンフリーズ
『病が語る日本史』酒井シヅ
『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ・コリン
『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ
『したたかな寄生 脳と体を乗っ取り巧みに操る生物たち』成田聡子
『土と内臓 微生物がつくる世界』デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー
『失われてゆく、我々の内なる細菌』マーティン・J・ブレイザー
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット

「医学の発達によって感染症はいずれ制圧されるはず」と多くの人は信じてきた。世界保健機構(WHO)が1980年に、人類をもっとも苦しめてきた天然痘(てんねんとう)の根絶を宣言したとき、そしてその翌年にポリオ(小児マヒ)の日本国内の発生がゼロになったとき、この期待は最高潮に達した。
 ところが、皮肉なことに天然痘に入れ替わるように、エイズが想像を超える速度で地球のすみずみまで広がった。インフルエンザウイルスも、ワクチン開発の裏をかくように次々に「新型」を繰り出している。なおかつ、エボラ出血熱、デング熱、西ナイル熱といった予防法も治療法もない新旧の病原体が流行し、抑え込んだはずの結核までが息を吹き返した。
 微生物が人や動物などの宿主(しゅくしゅ)に寄生し、そこで増殖することを「感染」といい、その結果、宿主に起こる病気を「感染症」「疫病」「流行病」の語も使われるが、現在では農業・家畜関連を除いては、公的な文書や機関名では感染症にほぼ統一された。
 私たちは、過去に繰り返されてきた感染症の大流行から生き残った、「幸運な先祖」の子孫である。そのうえ、上下水道の整備、医学の発達、医療施設や制度の普及、栄養の向上など、さまざまな対抗手段によって感染症と戦ってきた。それでも感染症は収まらない。私たちが忘れていたのは、感染症の原因となる微生物も、40億年前からずっと途切れることなく続いてきた「幸運な先祖」の子孫ということだ。人間が免疫力を高め、防疫体制を強化すれば、微生物もそれに対抗する手段を身につけてきた。
 人間が次々と打つ手は、微生物から見れば生存が脅かされる重大な危機である。人が病気と必死に戦うように、彼らもまた薬剤に対する耐性を獲得し、強い毒性を持つ系統に入れ替わって戦っているのだ。まさに「軍拡競争」である。
「あらゆる生物は、自己の成功率(生存と繁殖率)を他者よりも高めるために利己的にふるまう」という動物行動学者のリチャード・ドーキンスの「利己的遺伝子」説でみれば、人も微生物も自らの遺伝子を残すために、生存と繁殖につとめていることはまったく同じである。
 人類は遺伝子という過去の遺伝情報が詰まった「進化の化石」を解明したお陰で、この軍拡競争の実態や歴史に迫れるようになった。本書ではその最先端の研究成果を紹介する。
 感染症が人類の脅威となってきのは、農業や牧畜の発明によって定住化し過密な集落が発達し、人同士あるいは人と家畜が密接に暮らすようになってからだ。インフルエンザ、SARS(サーズ)、結核などの流行も、この過密社会を抜きには考えられない。
 急増する肉食需要に応(こた)えるために、鶏や豚や牛などの食肉の大量生産がはじまり、家畜の病気が人間に飛び移るチャンスが格段に増えた。ペットブームで飼い主も動物の病原体にさらされる。農地や居住地の造成のために熱帯林の開発が急ピッチで進み、人と野生動物の境界があいまいになった。このため、本来は人とは接触がなかった感染力の強い新興感染症が次々に出現している。
 大量・高速移動を可能にした交通機関の発達で、病原体は時をおかずに遠距離を運ばれる。世界で年間10億人以上が国外にでかけ、日本にも1000万人を超える観光客が訪れる。エイズ、子宮頸(けい)がん、性器ヘルペスといった性感染症が増加の一途をたどっているのは、性行動の変化と無縁ではないだろう。つまり、ここでも「天災」は「人災」の様相を強めているのだ。(まえがき)

【『感染症の世界史』石弘之〈いし・ひろゆき〉(角川ソフィア文庫、2018年/洋泉社、2014年『感染症の世界史 人類と病気の果てしない戦い』を加筆修正)】

 遺伝子は垂直に伝わるがウイルスは水平に移動する。主に水・虫(蚊やノミ)・動物(ネズミやコウモリ)・人・注射針などを介して広がる。人類は定住革命~農業革命~都市革命と歴史を重ねてきた。食物・生産性・蓄えといった経済的観点よりも情報の集約性という視点に立った方が把握しやすい。

 人口過密社会が感染症の拡大に拍車をかけることは理解できよう。もう一つ見逃せないのはストレスが増すことだ。生物にはサイズに応じた適切な距離がある。昆虫や動物の群れには縄張りがあり、軍拡競争は一定の範囲にとどまっている。文明の大きな変化は脳内の変化と即時性があると私は考える。外部情報と内部処理の双方向性が文明として結晶するのだろう。

 また森林が破壊されることで生息場所を奪われた動物が人間の住む地域に現れる。新しいウイルスの殆どはこうした形で人に乗り移る。つまり豊かな森はウイルスや寄生虫をとどめるダムの役割をしているのだ。そのダムが決壊すれば水は怒涛の勢いで下流に放たれる。環境問題や自然破壊はウイルスとの共生という視点から捉え直す必要がある。

 定住革命や都市革命は何かを犠牲にしても情報集約を優先した結果と見てよい。折しも新型コロナウイルスのパンデミックが社会を恐怖に陥れ、世界の株価が暴落している。我々は感染症をくぐり抜けた先祖の末裔である。しかしながらウイルスは人類以前からの長大な歴史を生き永らえてきたのだ。地球上の生物の大半は微生物が占めている。人体すらその例外ではない。

 新しい感染症への対策として次の文明を築けるかどうかが今問われているのだろう。

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2020-03-10

税務調査官の言いなりになるな/『お坊さんはなぜ領収書を出さないのか』大村大次郎


 ・税務調査官の言いなりになるな

『税務署員だけのヒミツの節税術 あらゆる領収書は経費で落とせる【確定申告編】』大村大次郎
『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎
『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が古代~現代にガサ入れ』大村大次郎
『お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる』大村大次郎
『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎
『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎
『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎
『脱税の世界史』大村大次郎

 さて、こういうグレーの領収書を調査官から咎められたときは、どうすればいいかというと…。
 絶対に引いてはなりません。
 税務申告でグレーのものがあった場合、納税者側にそれを白だと証明する義務はないのです。
 日本は申告納税制度の国です。
 申告納税制度というのは、納税者が自分で出した申告書は、明確な誤りがない限り、税務当局はそれを認めなければならないことになっているんです。
 だからグレーのものを否認するならば、税務署のほうが明確にそれが黒だという根拠を突きつける必要があるのです。
 その点を知らずに、調査官のいいなりになってしまう納税者がけっこう多いのです。調査官もずる賢いので、グレーのものを見つけると、それは「さも真っ黒」であるかのような言い方をします。
「こういう領収書は経費にはできませんね」
 などと怒ったような顔をしていいます。
 でも騙されてはいけません。彼らは、それほど自信を持っていっているわけではないのです。自信がないから怒ったフリをしているだけなのです。
 調査官の仕事というのは、申告書の誤りを見つけることです。だからそれを見つけた場合、喜びこそすれ、怒るはずはないのです。彼らが怒っているときというのは、芝居に過ぎないのです。

【『お坊さんはなぜ領収書を出さないのか』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(宝島新書、2012年/日本文芸社、2007年『そば屋はなぜ領収書を出したがらないのか? 領収書からみえてくる企業会計・税金のしくみ』改題】

 大村大次郎の著書は大体1冊1000円台に抑えているので良心的だ。本書はそば屋から苦情が寄せられ改題となった作品である。日本で民主政が機能していない大きな要因の一つに税意識の低さが挙げられる。

 元国税調査官の大村大次郎は調査の手法を知悉している。検察が起訴した裁判は検察側に立証責任がある。同様に脱税・申告漏れ・所得隠しは税務当局に挙証責任があるのだ。素人は「税務調査」と聞いただけで震え上がってしまうものだが、大村は「恐れることはない」と断言する。

 仕事のために使った費用は全て経費で落とせる。そのためにはメモ書きで構わないから証拠をきちんと残しておくことだ。中小企業だとこのあたりが丼勘定の社長が多い。

 税法の不平等や二重課税を思えば、この国に税金をまともに払う価値があるかどうかが疑わしくなる。しかもサラリーマンの場合、節税は困難だ。納税実態としては資産家ほど租税を回避しており、所得の少ない者ほど痛税感を覚える仕組みとなっている。

 警察や税務署が恐れられるのは捜査や調査が可能なためだが、とてもじゃないが国民のために行われているとは言い難い。実際は自分たちの昇進のために法を曲げて得点を稼いでいるのだから。過去の冤罪事件を思えば、税務調査にだって行き過ぎがあることだろう。大企業は国税庁の天下りを受け入れることでマルサの査察調査をかわしている。

 税の不平等は国を亡ぼす。貧しい国民が増えるほど犯罪件数も増加してゆく。圧政は必ずや暴力(テロ)の温床となる。

2020-03-09

Canon デジタルカメラ IXY 190


 長らく愛用してきたEXILIM EX-Z330(カシオ)のシャッターが反応しなくなってきた。2011年から使ってきたので間もなく10年が経つ。99%は本のページを撮影してきた。OneDriveの使用量が11.9GBだから、640×480サイズの画像が7746枚×11.9=92000枚になる。更に今年の1~2月で5000枚ほど撮影している。ざっと10万ページ分だ。

 EXILIM EXZS26WEを注文したのだがマクロモードがついていなかったので返品した。同じ失敗を繰り返すわけにはいかないので、「価格で選ぶ!コスパの良い接写デジカメおすすめランキング!」を参照した。結局、Canon IXY 190にした。

 心底驚いたのだがSDカードが付いていない。更にUSBケーブルも付いていなかった。カメラボディはEXILIMより一回り大きく野暮ったい。マクロモードは設定がなく(取扱説明書には書かれている)、オートにすると自動的に判別する。シャッター半押しでピントを合わせるのだが、画面のピントが変わらないのでやりにくい。カメラの出来としてはEXILIMに軍配が上がる。

 カシオはデジカメの草分けメーカーだが2018年にコンデジから撤退を表明。現在は医療用コンデジに特化している。

【追記】なぜかBatchGOO!(画像一括変換ソフト)にフォルダを移動できない。仕方がないので一度フォルダをPCにコピーしている。(3月12日)

2020-03-08

人は自分が探しているものしか見つけることができない/『心晴日和』喜多川泰


・『賢者の書』喜多川泰
・『君と会えたから……』喜多川泰
『手紙屋 僕の就職活動を変えた十通の手紙』喜多川泰

 ・人は自分が探しているものしか見つけることができない

『「また、必ず会おう」と誰もが言った 偶然出会った、たくさんの必然』喜多川泰
『きみが来た場所 Where are you from? Where are you going?』喜多川泰
・『スタートライン』喜多川泰
・『ライフトラベラー』喜多川泰
『書斎の鍵  父が遺した「人生の奇跡」』喜多川泰
『株式会社タイムカプセル社 十年前からやってきた使者』喜多川泰
『ソバニイルヨ』喜多川泰
『運転者 未来を変える過去からの使者』喜多川泰

「どんな仕事をしていても、自分にとって嫌なことや退屈なことはある。そういう人にとっては仕事そのものが作業であり、苦痛になる。ところが同じことでも誰かの顔を思い浮かべながら、その人に喜んでもらえるようにと考えながらやると、そのことは努力や苦労ではなくなる。その人にとって楽しくてたまらん時間になるんじゃ」
「確かにそうかもしれないわ。時間を忘れて写真を撮っていたもの」
「そうかい。それはよかった。今やお前さんは我々6人の心を癒してくれる専属カメラマンじゃの」
「そう言われると、なんだか嬉しいな。もっと撮りたくなっちゃう。また撮ってきてもいい?」
「もちろんじゃよ。それより、ちょっと話を聞かせてくれんかね? 写真を撮っていて何か気がつくことはなかったかい?」
「そうだなぁ。やっぱり嫌なことを忘れて集中することができたってことかなぁ」
「他にはないかい?」
「そうね、あとは……春らしいものを探して歩いていると、春らしいものって結構いっぱいあるってことね」
 伊之尾は満足げにうなずいている。
「そのことがわかったじゃろ?」
「えっ?」
「お前さんが春らしいものを探して歩いていると、道は春らしいものであふれていることに気づくじゃろ。ところがお前さんが歩いた道は、初めて歩くような外国の道じゃない。いつもお前さんが歩いている道じゃ。
 いつも歩いている道に、お前さんに貼るを感じさせるものがこんなにあふれているってことに以前は気がついていたかな」
「ううん。気がついていなかったわ」
「人間は、自分が探しているものしか見つけることができないんじゃよ」

【『心晴日和』喜多川泰〈きたがわ・やすし〉(幻冬舎、2010年)】

 タイトルは「こはるびより」と読む。いじめられている女子中学生が病院で老人と知り合う。老人は外に出ることができない自分のために春を感じられる写真を撮ってきて欲しいと頼む。新しい出会いを通して少女は少しずつ着実に変わってゆく。

 喜多川作品を読んで私は自己啓発を見直した。それだけではない。自己啓発には後期仏教(大乗)と同じ指向がある。幸福への扉は自分の内部にあるという発想だ。

「イギリス経験論~プラグマティズム~ニューソート~自己啓発」(密教化/『「原因」と「結果」の法則』ジェームズ・アレン)という流れで私は把握しているのだが、後期仏教(大乗)では唯識や華厳経が自己=世界を掘り下げている。

 ここまで見通せればアファメーションが華厳経の焼き直しであることが立ちどころに理解できる。「心は工(たくみ)なる画師(えし)の如く種種の五陰を画く。一切世間の中に法として造らざること無し」(華厳経第十)。世界は心の影なのだ。

アファメーションの解説書/『「言葉」があなたの人生を決める』苫米地英人

 思想が浅い分だけ自己啓発はわかりやすい。脳が妄想を離れることは困難だが自己啓発には妄想を解きほどく効果がある。

 余談であるがカバーのイラストがナンバ歩きになっていておかしい。