・『砂糖の世界史』川北稔
・『結社のイギリス史 クラブから帝国まで』綾部恒雄監修、川北稔編
・『歴史とは何か』E・H・カー
・『歴史とはなにか』岡田英弘
・『世界史の誕生 モンゴルの発展と伝統』岡田英弘
・『聖書vs.世界史 キリスト教的歴史観とは何か』岡崎勝世
・『世界史とヨーロッパ』岡崎勝世
・ヘゲモニー(覇権)国家
・『時計の社会史』角山榮
・世界史の教科書
・必読書リスト その四
ところで、世界システムの歴史では、ときに、超大国が現れ、中核地域においてさえ、他の諸国を圧倒する場面が生じる。このような国を「ヘゲモニー(覇権)国家」という。もっとも歴史上、このような国は、17世紀中ごろのオランダ、19世紀中ごろのイギリス、第二次世界大戦後、ヴェトナム戦争前のアメリカの3国しかない。
世界の現状は、ヴェトナム戦争以後、アメリカがヘゲモニー(覇権)を喪失した状況にあることは、ほとんどの研究者が承認している。
【『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』川北稔〈かわきた・みのる〉(ちくま学芸文庫、2016年/放送大学教育振興会、2001年『改訂版 ヨーロッパと近代世界』を改題・改訂)以下同】
「世界システム論」はイマニュエル・ウォーラステインが提唱した概念で、国家ではなく交易・経済を有機的なシステムとして捉える。国家を超えるという意味での「世界」であり、全世界を意味するわけではない。
驚いたことが二つある。まず、トルデシリャス条約(1494年)で世界を二分したポルトガルとスペインが覇権国家に入ってないこと。次にアメリカの覇権がベトナム戦争で終わったという見方である。とするとソ連は自壊したことになるのか。
日本人なら世界システム論をすんなり受け入れることができると思われる。東アジアにはモンゴル帝国やシナの朝貢などの歴史があるからだ。「近代世界システム」の定義はヨーロッパを中心とする価値観で別段分ける必要もなかろう。
戦後の日本の歴史学においては、オランダの歴史は、イギリスのそれとの対比で「近代化の失敗例」とみなされ、その失敗の原因を求める研究が中心であった。中継貿易を中心にした経済の仕組みがその弱点であった、といわれたものである。しかし、現実のオランダは、世界で最初のヘゲモニー国家として、イギリスにも、フランスにも、スペインにも、とうてい対比しようのないほどの経済力を誇ったのである。(中略)
生産面での他国に対する優越は、世界商業の支配権につながった。ポルトガル領のブラジルでも東アジアでも、オランダ人の姿がみられるようになった。政治的な支配がどのようになっていようと、オランダ人は世界中いたるところにその存在を示すことになったのである。こうした世界商業の覇権は、たちまち、世界の金融業における圧倒的優位をオランダにもたらし、アムステルダムは世界の金融市場となった。オランダの通貨が世界通貨となったのである。のちのイギリスやアメリカの例でもわかるように、世界システムのヘゲモニーは、順次、生産から商業、さらに金融の側面に及び、それが崩壊するときも、この順に崩壊する。
最後の一行が胸に刺さった。アメリカファーストを唱え、製造業を国内に回帰させようとしたトランプ大統領を米国民は拒否した。つまり生産が再び活気を取り戻すことはないと考えられる。商業は折からのコロナ不況で、今活況を呈しているのは食品くらいだろう。
「資本主義は終わる」という類いのリベラル本が数多く出版されているが、いずれも「リーマンショックでアメリカは終わった」との主張が多い。現在、ダウ工業株平均は史上最高値を更新しているが、これは行き場を失った緩和マネーが流入しているもので、国民生活や景気を反映しているわけではないことに留意する必要がある。
もともと「ヘゲモニー」は、イタリア出身のマルクス主義者である革命家「アントニオ・グラムシ(Antonio Gramsci)」が提唱した言葉です
【「ヘゲモニー」の意味とは?イニシアチブとの違いや使い方の例文も | TRANS.Biz】
本書には「ただ、世界の重心が部分的に中国に移動しつつあるようにみえることからすれば」との記述もあり、やや今後の中国覇権に傾いている嫌いはある。アメリカが一歩引けば中国が一歩前に出てくる。ロシアも黙って指をくわえていることはあるまい。
世にも不思議なコロナバブルが終わるタイミングが覇権の動く時であろう。中国共産党はデジタル人民元を着々と推し進めている。日本人はといえば外出を自粛し、不安を煽るテレビを黙って見つめているだけだ。
そろそろ伝統の上に胡座(あぐら)をかく真似はやめるべきだろう。たった一度の戦争に敗れただけで、この国は戦うことをあきらめてしまった。今に至っては何の備えもない。日米安保にすがって生きてゆく国家に未来はないだろう。