2021-10-29

意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠

 ・「アメリカ合衆国」は誤訳
 ・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
 ・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
 ・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
 ・GHQはハーグ陸戦条約に違反
 ・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓

世界史の教科書
日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 この状況(※大東亜戦争敗戦)において、国家再生のためには新しいモデルが必要でした。
【日本人はそのモデルを、恐るべき敵であったアメリカに求めた】のです。
ストックホルム症候群」という精神医学の概念があります。1973年にスウェーデンで起こった銀行強盗で、銀行員数名が人質として監禁され、死の恐怖に怯(おび)えて数日間を過ごした事件がありました。事件は結局、警察が突入して犯人を逮捕しますが、この間、人質となっていた被害者が、犯人を擁護するような言動を繰り返したのです。この事例から、極度の恐怖を体験した人間は、加害者を自分と同一視することで恐怖を免れるという心理的メカニズムがあることが理論化されました。日常的に夫から虐待を受ける妻、親から虐待を受ける子どもがなかなか被害を訴えようとしないもの、同じメカニズムによるものです。
 連日連夜の空爆を受け、原爆を投下され、米軍に軍事占領された日本人の深層心理に、同じメカニズムが働いたと私は見ています。アメリカという悪魔にこれ以上蹂躙(じゅうりん)されないためには、アメリカを理想国家として賞賛し、アメリカと一体になるしかない……。
 これは日本人の集団的な無意識として働いたものですから、文献として残っているわけではありません。しかし【この無意識は、意識化されない限り、戦後日本人に世代を超えて強迫的に受け継がれていく】のです。

【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】

「意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく」――衝撃的な一言である。これを読むだけでも本書には必読書の価値がある。意識化とは「見る」ことだ。ありのままに真っ直ぐ見つめれば答えは自ずから導き出される。

 黒船襲来を「強姦」と位置づけたのは司馬遼太郎であった(『黒船幻想 精神分析学から見た日米関係』岸田秀、ケネス・D・バトラー)。ただ、歴史は振り返った時にしか見えてこない。当事者たちは川の流れの中で自分たちの位置すら理解できない。

 意識化されるのは一瞬である。「あ!」と気づけば違う世界が開ける。例えば私の場合、北海道で育ったこともあって長らく皇室制度を軽んじてきた。義務教育を苫小牧~帯広~札幌で受けてきたが、君が代を歌ったことは一度しかない。それも音楽の授業で習ったのだ。国旗に対する敬意を教わることもなかった。これが社会党王国の現状だった。もちろん道民が由緒正しい血筋と無縁であった背景にも由来しているのであろう。父方の祖父は戦争で樺太から引き揚げてきたと聞いている。北海道に家意識はない。「内の嫁」「内のしきたり」という言葉を聞いたことがない。このため全国で一番離婚が多い。家を背負っていないのだから当然だ。感覚はややアメリカに近いものがある。私は上京して「なんと因習が深いのだろう」と驚いた憶えがある。寺社仏閣も桁違いに多い。

 知人のライターが東日本大震災に対する天皇のメッセージをツイッターで紹介していた。彼は「陛下」と尊称をつけていた。それを見て、「へえー」と呟き、次の瞬間に「あ!」となった。胸の内に小野田寛郎〈おのだ・ひろお〉の生きざまがまざまざと蘇った。尊皇の精神が息を吹き、血の中に流れ通った瞬間であった。様々な知識が線となってつながった。大東亜戦争の歴史的な意味合いもストンと腑に落ちた。私は日本人となったのだ。

 これは決して大袈裟な話ではない。若い時分から本多勝一や鎌田慧〈かまた・さとし〉、黒田清〈くろだ・きよし〉、浅野健一などを読んで、完全に頭の中はリベラルに洗脳されていた。彼らの反日感情を見抜くことができなかった。左翼が主張するポリティカル・コレクトネスは破壊工作の手段に過ぎない。

 日本近代史に関する書籍を読み漁り、菅沼光弘を経て、竹山道雄に辿り着き、小室直樹倉前盛通で完璧に補強した。武田邦彦の影響も大きい。

 民族的な自覚は危機の中から芽生える。戦争や災害の中で国家の輪郭が際立ってくるのだ。

尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠

 ・「アメリカ合衆国」は誤訳
 ・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
 ・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
 ・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
 ・GHQはハーグ陸戦条約に違反
 ・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓

世界史の教科書
日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

【専制君主・天皇親政ではなく、第4章でも挙げた天皇が「治(し)らす」姿が1000年以上つづてきた日本の伝統的統治体制であり、「国柄」「国体」というべきもの】なのです。

 その一方で、【神話とも紐づけながらその世界観への復古を理想とし、天皇を崇拝して死も厭(いと)わないという激烈な尊皇思想が、中世のある段階から登場】します。これを中国の朱子学の影響だと見抜いたのが山本七平〈やまもと・しちへい〉でした(『現人神の創作者たち』〔上・下〕ちくま文庫)(第3部393ページ参照)。(中略)
 朱子学は、【主君と臣下の区別を重んじる「大義名分論」、中華(文明)と夷狄(いてき/蛮族)を厳しく峻別(しゅんべつ)する「華夷(かい)の別」】という二つのキーワードで要約できます。
 謀反人や夷狄による政権奪取は天が定めた「大義に反する」から絶対に認めない、たとえ武力で屈しても精神において屈することはない、という不屈の精神は、モンゴルの侵略を受け続けた中国人の心をとらえました。
 南宋からの亡命者は鎌倉時代の日本にも来ており、彼らが日本にこの朱子学を伝えたのです。

【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】

「治(し)らす」については後日紹介する。

 メモ書きしておくと、朱子学を重んじた明朝が滅ぶ→満州族が建てた清朝が中国全土を支配→長崎に来航した明朝の亡命者の中に朱舜水〈シュ・シュンスイ〉がいた→噂を聞いた水戸光圀〈みと・みつくに〉が江戸に招く→水戸藩の事業として『大日本史』を開始→「万世一系の天皇が日本を統治した」という朱子学的大義名分論で貫いた大著(1906年/明治39年完成)→水戸学の編纂に携わったグループが水戸学→尊皇攘夷思想の誕生、という流れになる。いやはや勉強になった。

 これが三島由紀夫の陽明学にまでつながるとすれば、朱子学の影響を決して軽んじてはなるまい。


オペレーションズ・リサーチの破壊力/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール


『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男
『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓

 ・アルゴリズムという名の数学破壊兵器
 ・有害で悪質な数学破壊兵器のフィードバックループ
 ・オペレーションズ・リサーチの破壊力

『AI監獄ウイグル』ジェフリー・ケイジ
『快感回路 なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン
『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング
『新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性』原丈人

情報とアルゴリズム
必読書リスト その三

 営利大学のリクルーターも、怪しげな薬を売るいかさま師も、まずは相手の無知を確認する。そのうえで、つけ入りやすい弱みをもつ人を特定し、彼らのプライベート情報をうまく利用していくのだ。具体的には、相手にとって今一番の苦しみの元である「痛点」がどこにあるのかを探り出す。それは、自尊心の低さかもしれないし、暴力集団が対立を深める地域で子供を育てるストレスかもしれないし、ひょっとすると薬物中毒かもしれない。たいていの人は、グーグル検索で調べものをするときなどに、気づかないうちに自分の痛点を露呈させている。

【『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール:久保尚子〈くぼ・なおこ〉訳(インターシフト、2018年/原書、2016年)以下同】

「痛点」とは弱点である。その弱味に付け込んで期待させ、依存させ、契約させ、購買させる。古い広告は一方的なメッセージで本質的にはチラシの延長線上にある。テレビCMは声と動きのあるチラシに過ぎない。これからは違う。パソコンやスマホを通じてあなたの購買履歴、興味、関心、検索キーワード、どこにアクセスし、何分滞在していたか、といった情報をAIが読み解いて、あなたに最も適切な広告が表示される。行動ターゲティングという手法である。スマホの登場によって現実の行動も履歴化される。どの店で何を買ったか、だけではない。ゆくゆくはどの棚の前に長くいたかまでを掌握される。便利と言えば聞こえはいいが、解放された欲望がどんな社会を生み出すのかが明らかではない。

 チビ・デブ・ハゲは痛点である。昔の漫画誌の裏表紙にはシークレットブーツの広告が躍っていた。底上げシューズだ。かつらメーカーはハゲ頭に群がる(『無資本主義商品論 金満大国の貧しきココロ』小田嶋隆)。デブは永遠の搾取対象である。昨今はBMI(ボディマス指数)というデタラメな指数が健康の根拠に格上げされたため、「より美しくより健康に」との二重奏をかなでるようになった。ま、脅し文句の強化だ。

 ブランド品、高級腕時計もわかりやすい。そもそも若者には不釣り合いだ。あるいは大排気量のクルマやバイクなど。これほど信号機が多く、渋滞まみれの日本でこれらのエンジン特性を発揮することは難しい。広告は欲望を刺戟し、切実なレベルにまで引き上げる。周りの人々が所持していれば自分も欲しくなってくる。社会的な動物である人間は欲望をも共有する。

 大半のスケジューリングテクノロジーのルーツは、実用性がきわめて高い、「オペレーションズ・リサーチ(OR)」と呼ばれる応用数学の領域にある。数学者らは、数世紀前からORの基礎を活用してきた。農家のために作物の植え付け計画を作成し、人や貨物の効率的な輸送を実現できる幹線道路地図を作成して土木技師を支えてきた。しかし、この学問領域が本領を発揮するようになったのは、第2次世界大戦が始まってからのことだった。米軍と英軍は、資源の使用を最適化するために、数学者チームを編成した。同盟国はさまざまな形で「交換比率」の記録をつけていた。味方の資源の投入量に対して、敵の資源をどれだけ破壊できたのか、その比率を計算したのだ。1945年3月~8月に実施された米軍の飢餓作戦では、食糧その他の物資が日本に無事に到着するのを妨げるために、第21爆撃集団が日本の商船を破壊する任務を負って飛び立った。この時、ORチームは日本の商船を沈めるのに要する1隻あたりの機雷敷設用航空機の数を最小限に抑えるために働いた。その結果、「交換比率」は40対1を上回った――日本の商船606隻を沈めるために失った航空機の数はわずか15機であった。これはかなり高い効率であり、その一端はORチームの功績だった。
 第2次世界大戦後、大手企業は(米国防総省も)膨大な資源をORに注いだ。ロジスティクスの科学は、商品の製造方法も市場への流通方法も一変させた。
 1960年代に入ると、日本の自動車会社がさらなる大きな飛躍を生んだ。「ジャスト・イン・タイム(かんばん方式)」と呼ばれる生産システムを考案したのだ。ハンドル部分や変速機の在庫を大量に抱え、巨大倉庫から取り出すのではなく、組み立て工場で必要に応じて部品を注文し、部品の待機時間なしで使用する。トヨタとホンダは複雑な供給(サプライ)チェーンを確立し、連絡すれば絶えず部品が届くような体制を整えた。業界全体が1つの生命体のようであり、独自のホメオスタシス(恒常性)制御システムを備えているようだった。

大東亜戦争はアメリカのオペレーションズ・リサーチに敗れた/『藤原肇対談集 賢く生きる』藤原肇

 オペレーションズ・リサーチの破壊力は第二次世界大戦で最大限に発揮された。米軍は国際法を踏みにじって日本の非戦闘員を殺戮(さつりく)した。戦後、日本軍の残虐行為が国際社会で声高に主張されたのは自分たちの非道を隠蔽(いんぺい)するためだった。南京大虐殺というフィクションの犠牲者を30万人としたのも原爆犠牲者と釣り合いをとるためだった。

 オペレーションズ・リサーチこそはアルゴリズムの時代を告げる鐘の音(ね)であった。人類は争うことでそれを見出したのだ。

 合理化の風は止(や)むことなく加速し続ける。コンピュータとWebという約束の地に辿り着いたアルゴリズムは永遠の生命を手にしたも同然だ。フィンテックはマネーの意思を解き放ち、あらゆる決済・取引・交換が低コストで円滑に行われる。銀行や国会運営が過去の遺物となるのは時間の問題だ。一部のトップが行う意思決定はビッグデータに置き換えられる。

 それが薔薇色になるかどうかはわからない。便利になるのは確かだ。

岡田英弘、島田和幸、渡部悦和、佐々木孝博


 3冊挫折。

誰も知らなかった皇帝たちの中国』岡田英弘(WAC BUNKO、2006年)/70ページあたりで挫ける。今読む必要はなさそう。再読するかも。

一生切れない、詰まらない「強い血管」をつくる本 内皮細胞が活性化する食習慣で』島田和幸(永岡書店、2011年)/今まで読んだ中では最低の血管本である。その辺の医者が言うところと変わりがない。玉石混淆という言葉があるが石以下だ。永岡書店の見識を疑う。

現代戦争論 超「超限戦」 これが21世紀の戦いだ』渡部悦和〈わたなべ・よしかず〉佐々木孝博〈ささき・たかひろ〉(ワニブックスPLUS新書、2020年)/400ページ超のボリューム。文章が硬く、長大なレポートという印象。読み物としてはかなり苦しい。

2021-10-28

大東亜戦争はアメリカのオペレーションズ・リサーチに敗れた/『藤原肇対談集 賢く生きる』藤原肇


『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹、藤原肇

 ・大東亜戦争はアメリカのオペレーションズ・リサーチに敗れた

『ジャパン・レボリューション 「日本再生」への処方箋』正慶孝、藤原肇

藤原●日本人は太平洋戦争の敗因を米国の物量作戦だと考えがちです。だが、アメリカが英国から導入して完成させたオペレーションズ・リサーチによって、日本流その場しのぎの大福帳のやり方が破綻させられて、徹底的に打ち負かされた事実をいまだに気づいていない。
 要するに、数理発想に基づく計算されたリスク管理によって、太平洋戦争は頭脳戦で日本が完敗したということです。

【『藤原肇対談集 賢く生きる』藤原肇〈ふじわら・はじめ〉(清流出版、2006年)以下同】

「オペレーションは作戦、リサーチは検証、という意味です。互いに干渉しあう複数の作戦が最適な方法で、効率的に実行可能かどうか、リサーチ、つまり検証する、そういう目的で使われ始めた科学でした。様々な環境、次々に変化する状況において、 数学や統計学を用いた数理的なモデルに落とし込み、分析することで最適なアプローチを導きます」(オペレーションズ・リサーチとは? | ‐株式会社 構造計画研究所‐ オペレーションズ・リサーチ部)。

「オペレーションズリサーチ(OR)は、意思決定にかかわる科学的なアプローチと言われている。ある組織の運用問題に対して、さまざまな方法を用いて分析し、適切な解決法を見つけることである。そのため、しばしば経営学とも言われる。分析方法としては、数理モデル、統計的な手法、アルゴリズムなどがある」(オペレーションズリサーチ(OR):Operations Research:研究開発:日立)。

 マーケティング分野では「ランチェスター戦略」(ランチェスターの法則)と呼ばれる。それではと手始めに『まんが新ランチェスター戦略 1 新ランチェスター戦略とは』(矢野新一、まんが:佐藤けんいち、ワコー、1995年)を開いたが、敢えなく挫折した。

 本書で初めてオペレーションズ・リサーチという言葉を知った。日本の近代史及び大東亜戦争に関してはそこそこ読んできたつもりであったが、ORを敗因と指摘したのは藤原肇が嚆矢(こうし)ではあるまいか。藤原は石油コンサルタントで石油開発会社をアメリカで経営してきた人物である。彼にとってORは常識であったのだろう。石油精製には様々なプロセスがあり、不安定な国情や戦争、あるいは経済・金融など複合的なリスクが伴う。ORを欠けば金鉱を掘り当てるような博奕(ばくち)と化す。莫大な初期投資を可能にするのは精確なリスク・マネジメントである。

藤原●日本人はハード志向だから飛行機や軍艦を量として数え、主として戦闘の問題に全力を傾けてしまうから、システムとしての戦争を見忘れがちになる。

 これまた重要な指摘で、大東亜戦争では兵站(へいたん/ロジスティクス)を無視して南進したことが多くの餓死者を生んでしまった。日本には伝統的に輜重(しちょう)を軽んじる文化がある。どこか国土の感覚が関東平野の域を超えていないようなところがある。水が豊富なことも危機意識を鈍らせていることだろう。

 特に目に見えるものの増減に一喜一憂して、目に見えないものの変化に注目しないから、システム発想をしないという欠陥に支配されてしまうのです。
 そういった民族的な欠陥への反省を含めて、動態変化の重要性とサイバネティックスを結びつけ、それを資本と情報の流れとしてフローチャートにして、決算の機構を体系化したのが会計工学だと思います。

 システム思考ができない現実は今も変わらない。藩閥を打開したと思いきや、今度は陸軍と海軍が仲違いをし、戦局の正確な情報が首相にまで上がってこなくなっていた。東条英機首相はミッドウェー海戦の敗北を知らされていなかった。張作霖爆殺事件(1928年/昭和3年)で田中義一首相は天皇陛下に嘘をつき満州事変(1931年/昭和6年)では侍従武官長と若槻礼次郎首相が事実を伏せた(兼原信克)。昭和天皇は関東軍の暴走を「下剋上」と断じて厳罰に処さなかったことを悔やまれた(繰り返し戦争を回顧 後悔語る|昭和天皇「拝謁記」 戦争への悔恨|NHK NEWS WEB)。

 日本人の行動様式(エトス)が戦前も戦後も変わらないことを指摘したのが小室直樹の初著『危機の構造 日本社会崩壊のモデル』(ダイヤモンド現代選書、1976年)であった。藤原肇と小室直樹の対談は自然な流れであった(『脱ニッポン型思考のすすめ』ダイヤモンド社、1982年)。



オペレーションズ・リサーチの破壊力/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール