2017-04-10

マクロ歴史学/『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ


物語の本質~青木勇気『「物語」とは何であるか』への応答
『ものぐさ精神分析』岸田秀
『続 ものぐさ精神分析』岸田秀
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ

 ・読書日記
 ・目次
 ・マクロ歴史学
 ・認知革命~虚構を語り信じる能力
 ・イスラエル人歴史学者の恐るべき仏教理解

・『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウィルソン
『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
『人類史のなかの定住革命』西田正規
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』ユヴァル・ノア・ハラリ
『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』リズワン・バーク

世界史の教科書
必読書リストその五

歴史年表

 135億年前 物質とエネルギーが現れる。物理現象の始まり。
       原子と分子が現れる。化学的現象の始まり。
 45億年前 地球という惑星が形成される。
 38億年前 有機体(生物)が出現する。生物学的現象の始まり。
 600万年前 ヒトとチンパンジーの最後の共通の祖先。
 250万年前 アフリカでホモ(ヒト)属が進化する。最初の石器。
(中略)
 30万年前 火が日常的に使われるようになる。
(中略)
 7万年前 認知革命が起こる。虚構の言語が出現する。
      歴史的現象の始まり。(中略)
 1万2000年前 農業革命が起こる。植物の栽培化と動物の家畜化。永続的な定住。
 5000年前 最初の王国、書紀体系、貨幣。多神教。
 4250年前 最初の帝国――サルゴンのアッカド帝国。
 2500年前 硬貨の発明――普遍的な貨幣。
       ペルシア帝国――「全人類のため」の普遍的な政治的秩序。
       インドの仏教――「衆生を苦しみから解放するため」の普遍的な真理。
 2000年前 中国の漢帝国。地中海のローマ帝国。キリスト教。
 1400年前 イスラム教。
 500年前 科学革命が起こる。
      人類は自らの無知を認め、空前の力を獲得し始める。
      ヨーロッパ人がアメリカ大陸と各海洋を征服し始める。
      地球全体が単一の歴史的領域となる。
      資本主義が台頭する。
 200年前 産業革命が起こる。
      家族とコミュニティが国家と市場に取って代わられる。
      動植物の大規模な絶滅が起こる。
 今日 人類が地球という惑星の境界を超越する。
    核兵器が人類の生存を脅かす。
    生物が自然選択ではなく知的設計によって形作られることがしだいに多くなる。
 未来 知的設計が生命の基本原理となるか?
    ホモ・サピエンスが超人たちに取って代わられるか?

【『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(上下)ユヴァル・ノア・ハラリ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(河出書房新社、2016年)】

 致し方なくラベルを「世界史」にしてあるが正確には「人類史」である。恐ろしく抽象度の高い視点で人類の歴史を振り返っても見通せる未来は短い。科学革命~産業革命を経て情報革命に至ると技術進化の速度は限界に近づく。シンギュラリティ(技術的特異点/※想定では2045年)を超えればヒトは主役の座から引きずり降ろされるに違いない。

 ユヴァル・ノア・ハラリが示すマクロ歴史学の視点は人類史を生老病死にまで圧縮する。人生において「虚構の言語が出現する」のは3歳前後であり、「歴史的現象」としての人の一生が始まる。それぞれの革命期は青壮年時代といってよい。今後のイノベーション(技術革新)は老化する肉体を補い、脳を生き永らえさせることが重視される。ヒトは情報として扱われダウンロードやアップロードさえ可能となる。

 人類の進化とは環境への適応だけにとどまるものではない。農業革命、都市革命、精神革命、科学革命という変遷は【むしろ環境をヒトに適応させる営みであった】。ポスト・ヒューマン(人間以後)の時代に到来するのは宇宙革命である。知性とコンピュータを融合し宇宙全体を地球化する壮大な営みが開始されることだろう。

 マクロ歴史学という壮大な時間スケールが自分の存在を一つの点にまで押し縮める。数百億の人々が生まれては死に、歴史は断続的に切り取り線上を進んでゆくのだろう。個々の動きはブラウン運動のようにバラバラでも少し離れて見れば一定の方向に流れているのがわかる。

 原子のような存在でありながらも歴史を自覚し得るのは人間だけである。

2017-04-04

ワコーズ フューエルワン:燃料添加剤の効果にビックリ



 この動画を見てワコーズのフューエルワンを使ってみたのだが、いはやは凄い効果である。まずエンジンが一発で掛かる。次にエンジンオイルが極端に汚れる。つまり汚れを落としているわけだよ。原付の場合はガソリンを満タンにするたびに数cc入れればよい(タンク容量の1%以下)。

 

2017-04-03

ワセリン(大)


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ヴァセリン ペトロリュームジェリー(保湿クリーム)(並行輸入品) 368g 2個セット

2017-03-20

目次/『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ


物語の本質~青木勇気『「物語」とは何であるか』への応答
『ものぐさ精神分析』岸田秀
『続 ものぐさ精神分析』岸田秀
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗

 ・読書日記
 ・目次
 ・マクロ歴史学
 ・認知革命~虚構を語り信じる能力
 ・イスラエル人歴史学者の恐るべき仏教理解

・『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウィルソン
『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『遺伝子 親密なる人類史』シッダールタ・ムカジー
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』ユヴァル・ノア・ハラリ
『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』リズワン・バーク

世界史の教科書
必読書リストその五

 第1部 認知革命

  第1章 唯一生き延びた人類種
      不真面目な秘密/思考力の代償/調理をする動物/兄弟たちはどうなったか?

  第2章 虚構が協力を可能にした
      プジョー伝説/ゲノムを迂回する/歴史と生物学

  第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
      原初の豊かな社会/口を利く死者の霊/平和か戦争か?/沈黙の帳

  第4章 市場最も危険な種
      告発のとおり有罪/オオナマケモノの最期/ノアの方舟

 第2部 農業革命

  第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
      贅沢の罠/聖なる介入/革命の犠牲者たち

  第6章 神話による社会の拡大
      未来に関する懸念/想像上の秩序/真の信奉者たち/脱出不能の監獄

  第7章 書記体系の発明
      「クシム」という署名/官僚制の脅威/数の言語

  第8章 想像上のヒエラルキーと差別
      悪循環/アメリカ大陸における清浄/男女間の格差/生物学的な性別と社会的・文化的性別/男性のどこがそれほど優れているのか?/能力/攻撃性/家父長制の遺伝子

 第3部 人類の統一

  第9章 統一へ向かう世界
      歴史は統一に向かって進み続ける/グローバルなビジョン

  第10章 最強の征服者、貨幣
      物々交換の限界/貝殻とタバコ/貨幣はどのように機能するのか?/金の福音/貨幣の代償

  第11章 グローバル化を進める帝国のビジョン
      帝国とは何か?/悪の帝国?/これはお前たちのためなのだ/「彼ら」が「私たち」になるとき/歴史の中の前任と悪人/新しいグローバル帝国
  第12章 宗教という超人間的秩序
      神々の台頭と人類の地位/偶像崇拝の恩恵/神は一つ/善と悪の戦い/自然の法則/人間の崇拝

  第13章 歴史の必然と謎めいた選択
      1 後知恵の誤謬/2 盲目のクレイオ

 第4部 科学革命

  第14章 無知の発見と近代科学の成立
      無知な人/科学界の教義/知は力/進歩の理想/ギルガメシュ・プロジェクト/科学を気前良く援助する人々

  第15章 科学と帝国の融合
      なぜヨーロッパなのか?/征服の精神構造/空白のある地図/宇宙からの侵略/帝国が支援した近代科学

  第16章 拡大するパイという資本主義のマジック
      拡大するパイ/コロンブス、投資家を探す/資本の名の下に/自由市場というカルト/資本主義の地獄

  第17章 産業の推進力
      熱を運動に変換する/エネルギーの大洋/ベルトコンベヤー上の命/ショッピングの時代

  第18章 国家と市場経済がもたらした世界平和
      近代の時間/家族とコミュニティの崩壊/想像上のコミュニティ/変化し続ける近代社会/現代の平和/帝国の撤退/原子の平和

  第19章 文明は人間を幸福にしたのか
      幸福度を測る/化学から見た幸福/人生の意義/汝自身を知れ

  第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ
      マウスとヒトの合成/ネアンデルタール人の復活/バイオニック生命体/別の生命/特異点(シンギュラリティ)/フランケンシュタインの予言

      あとがき――神になった動物

【『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(上下)ユヴァル・ノア・ハラリ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(河出書房新社、2016年)】

 2016年に読んだ本第1位である。ユヴァル・ノア・ハラリはイスラエルの歴史学者。まあ凄いのが出てきたもんだ。しかもまだ41歳という若さ。

 今、入力し終えてから気づいたのだが目次はamazonにも掲載されていた。大失敗。当ブログに目次を書くのは飽くまでも自分用で、調べ物があった際の手掛かりとして残すのが目的である。頭の中の空いた抽斗(ひきだし)がかなり少なくなっているため。

 ま、村上春樹の新作なんぞどうでもいいから本書を読むこった。


高砂族にはフィクションという概念がなかった/『台湾高砂族の音楽』黒沢隆朝
『カミの人類学 不思議の場所をめぐって』岩田慶治

日下公人×関岡英之


『拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる』関岡英之

 ・日下公人×関岡英之

『F機関 アジア解放を夢みた特務機関長の手記』藤原岩市





2017-03-19

正しいキレ方/『恋ノチカラ』相沢友子脚本


 ・正しいキレ方
 ・輪廻する缶コーヒー

 読む量が増えてくると、どうしてもつまらない本と出会う確率が高まる。読書日記すら書く気が起こらない。特に最近は慰安婦捏造・沖縄米軍基地・メディアの欺瞞に関する本を読んでいて、これがまた玉石混淆という有り様。少々うんざりしていたところで、このドラマを見たのが運の尽きであった。

『恋ノチカラ』は2002年に放映されたのだが私は再放送を見ている。私は10代後半から殆どテレビを見ていないのだがなぜか見ている。いやあたまげたね。こんなに面白かったとは。ラブコメディなんだが、昔読んだ『いろはにこんぺいと』(くらもちふさこ作)を思い出した。思わず立て続けに2回見てしまった。こんなことは『アメリ』以来である。

 私の中では『王様のレストラン』『こんな恋のはなし』を抑えて堂々1位のドラマである。

 脚本にちりばめられた科白(せりふ)もさることながら、深津絵里の演技が全てであると言い切ってよい。深津と比べればあとは全部大根役者だ。少女漫画から抜け出してきたようなファッションもグッド。ご飯のこぼし方から口の周りがクリームまみれになるところまで完璧な演技を貫く。

 特に「ワンワン」「美味い~」「女捨ててますから」「がっかりした!」という場面が忘れ難い。そしてラストに至るまで見事に三枚目の女性を演じ切る。

 何の取り柄もない30代の平凡な女性がほぼ毎回感情を爆発させてキレる。本宮籐子(深津)の怒りには邪悪な性質がない。相手を真っ直ぐに信頼しストレートな言葉を放つ。そこには計算の翳(かげ)りもない。正しいキレ方が男たちに初志を思い出させる。ラストのどんでん返しはストーリーとしては安易すぎる。そして異様に長い科白が目立つ。それでも尚、深津の演技がドラマ全体を牽引する。「愛すべきそそっかしい女」というのは一昔前のステレオタイプかもしれないが、やはり「女は愛嬌」である。明るくなければよき母になることも難しいだろう。

 YouTubeの動画は音飛びだらけなのだが、3~4種類の動画がアップされているので横断しながら見るとよい。

恋ノチカラ4巻セット [DVD]

武田邦彦『現代のコペルニクス』(最終回)#98「経済の本質」


 2分30秒から。

2017-02-20

二・二六事件と共産主義の親和性/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫


『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子

 ・目次
 ・共産主義者は戦争に反対したか?
 ・佐藤優は現代の尾崎秀実
 ・二・二六事件と共産主義の親和性

『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎
『ヴェノナ』ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア
・『歴史の書き換えが始まった! コミンテルンと昭和史の真相』小堀桂一郎、中西輝政
・『日本人が知らない最先端の「世界史」』福井義高
日本の近代史を学ぶ

志士「青年将校」の出現――深刻な経済恐慌の中に芽生えたものが、資本主義の悪に対する認識であつたことは否定し難い事実である。濱口内閣の緊縮政策は、金融資本擁護の為にする特権政治だといふ非難と、一般国民の経済的現実を無視した財閥擁護だといふ攻撃が地方農村に急速に高まつて来た。事実濱口内閣による金輸出解禁を中心とした緊縮政策は、農産物価格の急激な値下りとなり、農村の不況は益々甚しく、殊に東北地方の農村は目も当てられなぬ惨状を呈すに至つた。
 こゝで注意したいことは日本軍隊就中陸軍の構成である。日本の陸軍は貧農小市民の子弟によつて構成され、農村は兵営に直結してゐた。将校も亦中産階級以下の出身者が多く、不況と窮乏にあえぐ農村の子弟と起居を共にし、集団生活をする若き青年将校に、この深刻陰惨なる社会現象が直接反映して来たのも亦当然である。こゝから所謂志士「青年将校」の出現となり、この青年将校を中心とした国家改造運動が日本の軍部をファッショ独裁政治へと押し流して行く力の源泉となつたのであるがこの青年将校の思想内容には二つの面があることを注意する必要がある。その一つは建軍の本義と称せられる天皇の軍隊たる立場で、国体への全面的信仰から発生する共産主義への反抗であり、今一つは小市民層及貧農の生活を護る立場から出現した反資本主義的立場である。従つて青年将校を中心とした一団のファッショ的勢力が共産主義に対抗して立つたのは共産主義の反国体的性格に反対したものであつて、共産主義が資本主義打倒を目的とするからけしらかぬといふのではない。即ち、日本軍部ファッショの持つ特殊の立場は、資本主義擁護の立場にあるのではなく、資本主義、共産主義両面の排撃をその思想内容としてゐたところにある。この思想傾向は後に述べる如く最後迄共産主義陣営から利用される重要な要素となっ(ママ)たことを見逃してはならない。

【『昭和政治秘録 戦争と共産主義』三田村武夫:岩崎良二編(民主制度普及会、1950年、発禁処分/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』自由社、1987年、改訂版・改題/呉PASS出版、2016年/Kindle版、竹中公二郎編)】

「日華事変の足どり」における事件だけピックアップしよう。

血盟団事件(1932年/昭和7年)
五・一五事件(1932年/昭和7年)
神兵隊事件(1933年/昭和8年)
埼玉挺身隊事件(1933年/昭和8年)
士官学校事件(1934年/昭和9年)
永田鉄山事件(1935年/昭和10年)
二・二六事件(1936年/昭和11年)

 日本が1933年に国際連盟を脱退したことを思えば、国内外の激動が理解できよう。一連の事件を「昭和維新」と呼ぶ。

 血腥(なまぐさ)い事件の背景には長く続いた不況があった。第一次世界大戦後、日本は戦勝国の一員として束の間好況に沸(わ)いたが、1920年の戦後恐慌(大正9年)~関東大震災(1923年/大正12年)~昭和金融恐慌(1927年/昭和2年)と立て続けに不況の波が押し寄せた。そこへ世界恐慌(1929年/昭和4年)の大波が襲い掛かる。しかも最悪のタイミングで翌1930年(昭和5年)から1934年(昭和9年)にかけて東北が冷害による大凶作に見舞われる(昭和東北大飢饉)。東北や長野県では娘の身売りが相次いだ。


 当時の情況を綴った漫画の傑作に曽根富美子〈そね・ふみこ〉作『親なるもの 断崖』(秋田書店、1991年/宙出版、2007年)がある(Wikipedia)。このような社会の矛盾に憤激したのが青年将校たちであった。

 夕食後同じ班の親友・福田政雄が話しかけてきた、
「どうだ、角(つの)、教官の説明と陸軍の主張を聞いて、お前はどちらが正しいと思うか、俺はどうも陸軍のやろうとしていることの方が正しいような気がするんだが」と言う。聞いても驚きはしなかった。昨日から何かもやもやした頭の中が「スッ」と晴れたようだった。故郷の農村の疲弊(ひへい)を思えば、このままの状態ではどうしようもない。それでも国には財閥貴族というものがあり、豊かな暮らしをしている。何とかしなければならない、それをする道を開くのが蹶起部隊である、と思っていた。
 陸軍内部の皇道派とか統制派とか言うのは、戦後知ったことである。
「俺もそう思うよ」と答えた。陛下に背くのではない、君側の奸を除くのである。
「では、やるか」「どうする」「明日にも現場に到着したなら、機を見て武器を持ったまま陸軍側に飛び込もうよ」(中略)

 今も、私はあれは間違っていなかった、と思う。あの人たちの手によって財閥解体、土地解放が行われたならば、その後の日華事変や大東亜戦争は怒らなくて済んだのではないか、

【『修羅の翼 零戦特攻隊員の真情』角田和男〈つのだ・かずお〉 (今日の話題社、1989年/光人社文庫、2008年)】

 二・二六事件に対する共感が窺える。

 日本の民主制は不平士族の反乱(明治初期)~自由民権運動(1874年/明治7年)に始まる。その後も薩長藩閥体制は長く影を落とし、現在にまで影響が及ぶ(『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人)。更に大日本帝国陸軍内部は皇道派統制派に分かれた。

 つまり実態は階級闘争であったと見てよい。二・二六事件で立ち上がった青年将校たちの心情は純粋で正しかった。だがその行動に対して昭和天皇は激怒した。陛下は軍装に身を整え討伐を命じた。青年将校と天皇陛下の心はあまりにも懸け離れていた。私は不可解な思いを払拭することができない。そして二・二六事件がエポックメイキングとなり大東亜戦争に至る。

 昭和維新の理論的支柱となったのは北一輝の思想で大川周明が深く関与した。二人とも国家社会主義者である。二・二六事件と共産主義には親和性があった。それをコミュニストが見逃すわけがない。天皇陛下を中心とする一君万民論にも社会主義的な色彩が感じられる。

 不況になると社会の矛盾が際立つ。バブル景気が崩壊し、失われた20年を経て、日本国内の非正規雇用は2015年に労働人口の40%を超えた。企業によるコスト削減の犠牲者といってよい。年収200万円以下のワーキングプアは2006年以降ずっと1000万人を上回っている。


 アベノミクスは有効求人倍率は上げたもののワーキングプアを解消していないし軽減もしていない。格差社会が叫ばれ、派遣切りが問題となった頃、突如として『蟹工船』(小林多喜二著)ブームが起こった。共産党の党員も一挙に9000人も増えた。不況は共産主義の温床となることを銘記すべきである。

 日本の左翼は安保闘争が失速するとベトナム戦争反対運動に乗り換えた。その後、ソ連のアフガニスタン侵攻(1978年)・中越戦争(1979年)によって左翼運動の正当性が失われ、東欧民主化革命(1989年)・ソ連崩壊(1991年)で命脈が絶たれたように見えた。ところが彼らは「レッドからグリーンへ」と環境運動に乗り換えていたのだ(『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男)。そして現在の反ヘイトスピーチ運動、ポリティカル・コレクトネス、沖縄米軍基地反対運動へとつながるわけだ。実態は在日朝鮮人・キリスト教関係者をも巻き込んだ反日運動である。

 左翼の目的は天皇制打倒・国家転覆にある。いかに正しい運動であったとしてもそれは破壊工作である。不況は彼らの同調者を増やすことになる。政府与党は不況が国家を蝕む現実を知るべきだ。



暴力に屈することのなかった明治人/『五・一五事件 海軍青年将校たちの「昭和維新」』小山俊樹
二・二六事件前夜の正確な情況/『重光・東郷とその時代』岡崎久彦

2017-02-16

佐藤優は現代の尾崎秀実/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫


『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子

 ・目次
 ・共産主義者は戦争に反対したか?
 ・佐藤優は現代の尾崎秀実
 ・二・二六事件と共産主義の親和性

『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎
『ヴェノナ』ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア
・『歴史の書き換えが始まった! コミンテルンと昭和史の真相』小堀桂一郎、中西輝政
・『日本人が知らない最先端の「世界史」』福井義高
日本の近代史を学ぶ

 尾崎秀實は世上伝へられてゐる如き単純なスパイではない。彼は自ら告白してゐる通り、大正14年(1925年)東大在学当時既に共産主義を信奉し、昭和3年(1928年)から同7年まで上海在勤中に中国共産党上部組織及コミンテルン本部機関に加はり爾来引続いてコミンテルンの秘密活動に従事してきた【真実の、最も実践的な共産主義者】であつたが、彼はその共産主義者たる正体をあくまでも秘密にし、十数年間連れ添つた最愛の妻にすら知らしめず、「進歩的愛国者」「支那問題の権威者」「優れた政治評論家」として政界、言論界に重きをなし、第一次近衛内閣以来、近衛陣営の最高政治幕僚として軍部首脳部とも密接な関係を持ち、日華事変処理の方向、国内政治経済体制の動向に殆ど決定的な発言と指導的な役割を演じて来たのである。世界共産主義革命の達成を唯一絶対の信条とし、命をかけて活躍してきたこの尾崎の正体を知つたとき、近衛が青くなつて驚いたのは当然で、「全く不明の致すところにして何とも申訳無之深く責任を感ずる次第に御座候」と陛下にお詫びせざるを得なかつたのだ。

【『昭和政治秘録 戦争と共産主義』三田村武夫:岩崎良二編(民主制度普及会、1950年、発禁処分/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』自由社、1987年、改訂版・改題/呉PASS出版、2016年/Kindle版、竹中公二郎編)以下同】


ゾルゲ事件
ゾルゲ諜報団
ゾルゲ事件
ゾルゲ事件の端緒をめぐる諸問題
ゾルゲ事件とは?(PDF)
ゾルゲと尾崎秀実を擁護する朝日新聞
東京新聞:伊藤律 告発の肉筆手記 ゾルゲ事件「スパイ説」冤罪

 ソ連にとってゾルゲ最大の功績はノモンハン事件(1939年)の不拡大方針と、その後日本が北進論から南進論に傾いた事実を逸(いち)早く察知したことであった。ソ連としては西側からドイツ軍が攻めてきているので、東から日本軍に攻撃されることだけは避けたかった。日本国内では三国干渉(1895年)や北清事変(1900年)を通してソ連に対する憎悪は高まっていた。陸軍参謀本部は北進論を主張したが、尾崎秀実〈おざき・ほつみ〉は南進論へと世論を誘導する。

「【私の立場から言へば、日本なり、独逸なりが簡単に崩れ去つて英米の全勝に終るのは甚だ好ましくないのであります】(大体両陣営の抗戦は長期化するであらうとの見透しでありますが)万一かゝる場合になつた時に英米の全勝に終らしめないためにも、日本は社会的体制の転換を以て、ソ連、支那と結び別な角度から英米に対抗する姿勢を採るべきであると考へました。此の意味に於て、【日本は戦争の始めから、米英に抑圧せられつゝある南方諸民族の解放をスローガンとして進むことは大いに意味があると考へたのでありまして、私は従来とても南方民族の自己解放を「東亜新秩序」創設の絶対要点である】といふことをしきりに主張しておりましたのは【かゝる含みを籠めて】のことであります」(尾崎手記。強調点は筆者による)


 大東亜戦争は尾崎が描いた青写真通りに進む。日本は長期戦を余儀なくされ、共産主義者は敗戦革命の図式をも視野に入れていた。もちろんゾルゲや尾崎が戦局を決定したわけではない。彼らは自分の役割を忠実に果たしただけなのだが時の流れが加勢した。日本が受けるダメージが壊滅的であればあるほど共産主義革命の実現が近づくと彼らは信じた。

 筆者はコムミニストとしての尾崎秀實、革命家としての尾崎秀實の信念とその高き政治感覚には最高の敬意を表するものであるが、然し、問題は一人の思想家の独断で、8000万の同胞が8年間戦争の惨苦に泣き、数百万の人命を失ふことが許されるか否かの点にある。同じ優れた革命家であつてもレーニンは、昂然と敗戦革命を説き、暴力革命を宣言して闘つてゐる。尾崎はその思想と信念によし高く強靭なものをもつていたとしても、十幾年間その妻にすら語らず、これを深くその胸中に秘めて、何も知らぬ善良なる大衆を狩り立て、その善意にして自覚なき大衆の血と涙の中で、革命への謀略を推進してきたのだ。正義と人道の名に於て許し難き憤りと悲しみを感ぜざるを得ない。

 革命の理想が犠牲を強いる。その後の社会主義国家が辿ったのは大虐殺・大量死の歴史だ。スターリンは2000万人、毛沢東は6000万人(※多くは政策ミスによる餓死)を死へと導いた。

 三田村武夫は重要な指摘をする。「かれ(※尾崎)の優れた政治見識と、その進歩的理論に共鳴し、彼の真実の正体を知らずして同調した所謂、同伴者的存在も多数あつたであらう。更に亦、全くのロボットとして利用された者もあつたであらう」。人は理想から導き出された美しい言葉に弱い。正しい響きには逆らい難い。目的を隠蔽した尾崎の言葉に心酔する者がいてもおかしくはない。そして同伴者は「自らの意志」で同じ言葉を語り始めるのだ。ここに恐ろしい落とし穴がある。

 当時、天皇制否定の主張を訂正した者は転向者と判断された。つまりイデオロギーを堅持した多くの人々が官庁に巣食っていた。彼らの影響も決して小さなものではないだろう。

 本書で初めて知ったのだが実は昭和13年の3~6月にかけて日華事変全面講和の動きがあったという。その舞台裏の詳細が生々しく綴られている。ところがあと一歩というところで講和は雲散霧消する。同盟通信の上海市局長をしていた松本重治〈まつもと・しげはる〉が国民政府の高宗武板垣陸相を会わせ、中華民国は戦意を喪失しており無条件和平を望んでいるとの偽情報を掴ませたのだ。近衛文麿も松本・高情報を信用した。ここから汪兆銘を中心とする新政権工作が始まる。

 三田村武夫は松本重治が共産主義者であるとは書いていない。ただし松本が著書で南京大虐殺を認める記述をしていることなどを踏まえると、中国やアメリカの手先となって動いた可能性は高いと考えられる。

 もし現代の尾崎秀実が存在するならばそれは佐藤優〈さとう・まさる〉を措(お)いて他にいないだろう。佐藤は「中間層が重要だ」と語っているが、彼が歩み寄るのはポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)を重んじる国際主義者が多い。批判の矛先を向けるのは保守派といってよいだろう。天皇陛下には敬意を払っているようだが一種のポーズであると思う。

 私は長らく民主党に好ましい感情を抱いていた。それは佐藤優のラジオ放送をよく聴いていたためだ。民主党が政権を担っていた頃、佐藤は具体的な議員名を挙げて民主党を擁護してきた。普天間基地移設問題に関する鳩山首相(当時)の「最低でも県外」(2009年)という発言には佐藤の関与があってもおかしくない。「沖縄で独立論を唱える者が現れた」という話を初めて知ったのも佐藤の番組であった。大城浩という創価学会員が琉球独立を公約に掲げて沖縄県知事選に出馬したのだ(2014年)。そして今、佐藤本人も沖縄独立に肩入れしている。挙句の果てには「ニュース女子」にまで噛み付く始末だ。


 次に以下の動画の冒頭部分で紹介されている佐藤優の講演に注目して欲しい。


 見事なアジ演説である。佐藤の本気が日本と沖縄を分断に導く。沖縄県民の感情に佐藤は理論的根拠を与える。これほど危険なことはない。私の目には尾崎秀実の姿と重なって見える。





『「知的野蛮人」になるための本棚』佐藤優
佐々弘雄の遺言/『私を通りすぎたスパイたち』佐々淳行
若き日の感動/『青春の北京 北京留学の十年』西園寺一晃
瀬島龍三を唾棄した昭和天皇/『田中清玄自伝』田中清玄、大須賀瑞夫

2017-02-14

共産主義者は戦争に反対したか?/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫


『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子

 ・目次
 ・共産主義者は戦争に反対したか?
 ・佐藤優は現代の尾崎秀実
 ・二・二六事件と共産主義の親和性

『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎
『ヴェノナ』ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア
・『歴史の書き換えが始まった! コミンテルンと昭和史の真相』小堀桂一郎、中西輝政
・『日本人が知らない最先端の「世界史」』福井義高
日本の近代史を学ぶ

 しかして、このマルクス・レーニン主義に従へば、資本主義国家の権力的支柱をなすものはその国の武力即ち軍隊である。したがつて、この資本主義国家の武力――軍隊を如何にして崩壊せしめるかが、共産主義革命の戦略的、戦術的第一目標とされる。そしてこの目標の前に二つの方法があるとレーニンは言ふ。その一つは、ブルジョア国家の軍隊をプロレタリアの同盟軍として味方に引入れ革命の前衛軍たらしめること、第二は軍隊そのものの組織、機構を内部崩壊せしめることである。つまりブルジョア国家の軍隊を自滅せしめる方向に導くことである。
 また、レーニンの戦略論から、戦争そのものについて言へば、共産主義者が戦争に反対する場合は帝国主義国家(資本主義国家)が、世界革命の支柱たるソ連邦を攻撃する場合と、資本主義国家が植民地民族の独立戦争を武力で弾圧する場合の二つだけで、帝国主義国家と帝国主義国家が相互に噛み合ひの戦争をする場合は反対すべきではない。いな、この戦争をして資本主義国家とその軍隊の自己崩壊に導けと教へてゐる。
 レーニンのこの教義を日華事変太平洋戦争に当てはめてみると、共産主義者の態度は明瞭となる。即ち、日華事変は、日本帝国主義と蒋介石軍閥政権の噛み合ひ戦争であり、太平洋戦争は、日本帝国主義と、アメリカ帝国主義及イギリス帝国主義の噛み合ひ戦争と見ることが、レーニン主義の立場であり、共産主義者の認識論であり、したがつて、日華事変及太平洋戦争に反対することはレーニン主義的で共産主義者の取るべき態度ではない――と言ふことになる。事実日本の忠実なるマルクス・レーニン主義者は、日華事変にも太平洋戦争にも反対してゐない。のみならず、実に巧妙にこの両戦争を推進して、レーニンの教への通り日本政府及軍部をして敗戦自滅へのコースを驀進せしめたのである。この見解は筆者の独断ではない。

【『昭和政治秘録 戦争と共産主義』三田村武夫:岩崎良二編(民主制度普及会、1950年、発禁処分/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』自由社、1987年、改訂版・改題/呉PASS出版、2016年/Kindle版、竹中公二郎編)】

 これに続いて具体的にレーニン(1870–1924年)の「敗戦革命論」が縷々(るる)述べられている。その断乎たる主張を支えるのは天才的な狡知(こうち)である。自分たちの美しい理想を実現するために彼らは勇んで薄汚い破壊工作を行った。世界規模の工作活動は第二次世界大戦の命運を左右し、戦後レジームをも決定づけた。

 共産主義者は戦争に反対しなかった。それどころか戦争を後押しすることで国家破壊を目論んだのだ。日本ではリヒャルト・ゾルゲと朝日新聞記者の尾崎秀実〈おざき・ほつみ〉が大東亜戦争をソ連に有利な方向へと導いた。

2017-02-13

目次/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』三田村武夫


『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子

 ・目次
 ・共産主義者は戦争に反対したか?
 ・佐藤優は現代の尾崎秀実
 ・二・二六事件と共産主義の親和性

『軍閥 二・二六事件から敗戦まで』大谷敬二郎
『ヴェノナ』ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア
・『歴史の書き換えが始まった! コミンテルンと昭和史の真相』小堀桂一郎、中西輝政
・『日本人が知らない最先端の「世界史」』福井義高
日本の近代史を学ぶ

     目次

  解説篇

 まえがき

 序論 コムミニストの立場から

 1.コミンテルンの立場から
  第二次大戦とコミンテルン
  好ましい戦争陣形
  新しい戦略戦術
 2.日本の革命をいかにして実践するか
  戦術転換
  謀略コース・敗戦革命
  論理の魔術

 第一篇 第二次世界大戦より世界共産主義革命への構想とその謀略コースについて

 一、裏がへした軍閥戦争
  歴史は夜つくられる
  ロボットにされた近衛
  道化役者 政治軍人
 二、コミンテルンの究極目標と敗戦革命
  ――世界革命への謀略活動について――
  共産主義者は戦争に反対したか
  帝国主義戦争を敗戦革命へ
   レーニンの敗戦革命論
   コミンテルンの第六回大会の決議
  戦略戦術とその政治謀略教程
  日本に於ける謀略活動
   尾崎・ゾルゲ事件
   企画院事件
   昭和研究会の正体
   軍部内の敗戦謀略
  中国の抗日人民戦線と日華事変
  アメリカに於ける秘密活動
 三、第2次世界大戦より世界共産主義革命への構想
  ――尾崎秀實の手記より――
  偉大なるコムミニスト
  大正十四年から共産主義者
  共産主義の実践行動へ
  彼は何を考へてゐたか
  コミンテルンの支持及ソ連邦の防衛
  日本及アジアの共産主義革命
  第二次世界大戦より世界共産主義革命へ
  思想と目的を秘めた謀略活動

 第二篇 軍閥政治を出現せしめた歴史的条件とその思想系列について

 一、三・一五事件から満州事変
  左翼旋風時代の出現
   三・一五の戦慄
   一世を風靡したマルクス主義
   学内に喰い込んだマルクス主義
  動き出した右翼愛国運動
   発火点ロンドン条約問題
   志士「青年将校」の出現
   バイブル「日本改造法案
  満州事変へ
   軍閥政治のスタート、満蒙積極政策
   皇軍自滅へのスタート、三月事件
   満州事変へ
 二、満州事変から日華事変へ
  軍閥独裁への動力
   政治軍人の革命思想
   日華事変への足どり
    1.血盟団事件 2.満州建国宣言 3.五・一五事件 4.日満議定書調印 5.国際連盟脱退 6.神兵隊事件 7.満州国帝制実施 8.埼玉挺身隊事件 9.斎藤内閣総辞職 10.対満政治機構改革問題 11.陸軍国防パンフレット発行 12.士官学校事件 13.美濃部機関説問題 14.永田鐵山事件 15.倫敦軍縮会議脱退 16.二・二六事件 17.廣田内閣成立 18.陸・海軍大臣現役制復活 19.陸、海軍庶政一新の提案 20.軍部、政党の正面衝突 21.宇垣内閣流産 22.日華事変へ
   軍閥政治への制度的基礎
    対満政治機構改革問題
    陸、海軍大臣現役制確立
   軍閥政治の思想系列
    ナチズムスターリニズム
    現状打破 反資本主義革命

 第三篇 日華事変を太平洋戦争に追込み、日本を敗戦自滅に導いた共産主義者の秘密謀略活動について

 一、敗戦革命への謀略配置
  コミンテルンに直結した秘密指導部
   二七年テーゼから尾崎機関へ
   革命家としての尾崎秀實
  素晴らしい戦略配置
   陸軍政治幕僚との握手
   政府上層部へ
   官庁フラクション
   昭和研究会
   言論界
   協力者、同伴者、ロボット
   所謂転向者の役割
   何故成功したか
  二、日華事変より太平洋戦争へ
   日華事変に対する基本認識
    日華事変に対する認識
    軍隊に対する認識
   長期全面戦争へ
    秘密の長期戦計画
    政権の否認と長期戦への突入
    日華前面和平工作を打ち壊した者
    長期前面戦争への政治攻勢
   新政権工作の謀略的意義
    謀略政権の足跡
    政権の正体
   長期戦への理論とその輿論指導
   近衛新体制から太平洋戦争へ
    何の為の新体制か
    対米英戦争への理論攻勢とその輿論指導
   独ソ開戦とシベリヤ傾斜論
   かくて太平洋戦争へ
  三、太平洋戦争より敗戦革命へ
    革命へのプログラム
    敗戦コースへの驀進
     言論結社禁止法の制定
     翼賛選挙 東條ワン・マン政党出現
     戦時刑法改正 東條幕府法
     敗戦経済と企画院事件
     かくして敗戦へ

  資料篇

 一、『コミンテルン秘密機関』 尾崎秀實手記抜萃

(省略)

 二、日華事変を長期戦に、そして太平洋戦争へと理論的に追ひ込んで来た論文及主張

(省略)

 三、企画院事件の記録

(省略)

 四、対満政治機構改革問題に関する資料

(省略)

  あとがき

  書評 馬場恒吾 岩淵辰雄 阿部眞之助 鈴木文史朗 南原繁 島田孝一 小泉信三 田中耕太郎 飯塚敏夫

  序 岸信介
  復刊に際して 遠山景久

【『昭和政治秘録 戦争と共産主義』三田村武夫:岩崎良二編(民主制度普及会、1950年、発禁処分/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』自由社、1987年、改訂版・改題/呉PASS出版、2016年/Kindle版、竹中公二郎編)】

 三田村武夫は1928年(昭和3年)から1932年(昭和7年)まで内務省警保局に勤務し、続いて1935年(昭和10年)まで拓務省管理局に異動となる。一貫して共産主義・国際共産党の調査研究に従事した人物である。その後、1936年(昭和11年)から10年間にわたって衆議院議員を務めた。政治家となってからは反政府・反軍部の旗を掲げ、憲兵と特高から追われる身となる。この間もコミンテルンと共産主義運動から目を逸(そ)らすことはなかった。

 本書は1950年(昭和25年)に刊行されるも、その衝撃的内容に驚いたGHQ民政局の共産主義者が直ちに発禁処分とした経緯がある。岸信介が本書を読んだのも自由社版が刊行される直前と思われる。目次をたどるだけでも史料的価値が窺えよう。



無意識の協力者/『ワシントン・スキャンダル』イーヴリン・アンソニー

2017-02-08

南京~つくられた”大虐殺”





大村大次郎、東京裁判研究会、他


 3冊挫折、1冊読了。

共同研究 パル判決書(上)』東京裁判研究会編(講談社学術文庫、1984年/東京裁判刊行会、1966年『共同研究 パール判決書 太平洋戦争の考え方』改題・改訂)/上巻が880ページ(巻頭解説が215ページ)、下巻が805ページある。ウェルマンの『反対尋問』を軽々と凌駕する厚さだ。想像以上に読みやすい文章で、大東亜戦争全体の流れをつかむ上で欠かせないテキストといってよい。何にも増して戦前の日本を正しく見つめ、東京裁判において異を唱えた英知に対し、尽きせぬ恩愛を感じずにはいられなかった。数世紀にわたって虐げられ続けてきた有色人種にあって、日本は軍事力をもって白人を打ち破り(米国にだけ敗れた)、パール判事は知性で白人を凌駕した。時間的なゆとりがなく550ページで挫けたが、日を改めて必ず読破したい。

読む年表 日本の歴史』渡部昇一〈わたなべ・しょういち〉(WAC BUNKO、2015年)/少し大きめの新書サイズで見開きで1項目。文章に締まりがあってよい。パラパラとめくっただけで終わった。

システマを極めるストライク!』ヴラディミア・ヴァシリエフ、スコット・メレディス:大谷桂子訳(BABジャパン、2016年)/悪くはないのだが写真が少なすぎる。著者のスコット・メレディスはカナダで実際にヴラディミア・ヴァシリエフからシステマを学んでいる人物。ヴァシリエフはミカエル・リャブコの一番弟子らしい。

 7冊目『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が「古代~現代史」にガサ入れ』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(KADOKAWA、2016年)/『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』の続篇でどちらもオススメ。実にわかりやすい。「日本の近代史を学ぶ」の筆頭に掲げた。日本という国家が数千年に渡って安定してきたのは税制が上手く機能していたから、との指摘に目から鱗が落ちる。逆に言えば酷税ではなかったということ。「あとがき」も心がこもっていて大村は人間として信頼できる。

2017-01-26

中川八洋、鳥居民、他


 3冊挫折。

近衛文麿の戦争責任 大東亜戦争のたった一つの真実』中川八洋〈なかがわ・やつひろ〉(PHP研究所、2010年/PHP研究所、1995年『近衛文麿とルーズヴェルト 大東亜戦争の真実』より近衛に関する部分のみ再録。尚、同書には弓立社、2000年『大東亜戦争と「開戦責任」 近衛文麿と山本五十六』との改題版がある)/文章が危うい。肝心な箇所に推測・断定が混入している。近衛を左翼と断じているがすっきりしない。尚、佐々弘雄〈さっさ・ひろお/佐々淳行の実父〉をも共産主義者とするのは誤りである。ハリー・デクスター・ホワイトに関する記述が目を引いた。

近衛文麿「黙」して死す すりかえられた戦争責任』鳥居民〈とりい・たみ〉(草思社、2007年/草思社文庫、2014年)/こちらは近衛擁護派。鳥居は悪文だと思う。細部を想像力で補うことに異論はないが、文章の腰が定まらず何を言いたいのかがわからなくなる。「あろう」「かもしれない」の羅列がずっと続く。

罪人を召し出せ』ヒラリー・マンテル:宇佐川晶子訳(早川書房、2013年)/『ウルフ・ホール』が第一部で本書が第二部となる。2ページ読んでやめた。「彼の」「彼女の」が立て続けに出てきて読むリズムが失われる。ブッカー賞受賞作品だけにもったいないと思う。

2017-01-25

田中嫺玉


 1冊挫折。

インドの光 聖ラーマクリシュナの生涯』田中嫺玉〈たなか・かんぎょく〉(ブイツーソリューション、2009年)/田中は私と同じ旭川生まれである。結婚後、40代半ばでベンガル語『不滅の言葉』の翻訳を始めた。私からすればラーマクリシュナは密教の権化のように見えて仕方がない。田中の心酔を嫌った。あまりにも右脳が勝ちすぎると統合失調症的要素が強くなる。

2017-01-24

ユヴァル・ノア・ハラリ、高田かや、他


 3冊挫折、1冊読了。

フリーランスを代表して 申告と節税について教わってきました。』きたみりゅうじ(日本実業出版社、2005年)/内容が薄い。初心者向け。

夜明け前の朝日 マスコミの堕落とジャーナリズム精神の現在』藤原肇(鹿砦社、2001年)/朝日新聞にエールを送る内容。藤原は左翼ではないが共和主義者で天皇制には反対というスタンスの人物である。将来の見通しに失敗した感がある。

カルト村で生まれました。』高田かや(文藝春秋、2016年)/ヤマギシ会のコミューンで育った女性が来し方を振り返る漫画作品。親と離れて集団生活をするのだが、ビンタや食事抜きなど日常的な暴力が蔓延している。「なぜ仕返しに行かないのか?」が最大の疑問である。私なら金属バット片手に全員を血祭りにするところだ。一人でコミューンを破壊する自信もある。絵はほのぼのとしているのだが、異様な気圧を感じて放り投げた。どんよりとした天気が続いた後のような精神状態になる。子供を虐待するところがエホバの証人とよく似ている。正義に取り憑かれた連中は躊躇うことなく暴力を行使する。

 6冊目『サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(河出書房新社、2016年)/あと10回くらい読むつもりだ。最後の結論の訳文に違和感を覚えた。ま、小さなことだが。

2017-01-22

奴隷航路 抵抗する魂



世界の偉人(1)お釈迦様:縁起が宇宙の原理だ

武田邦彦『現代のコペルニクス』#96「歴史の本質」


 本篇は36分00秒から。

ユヴァル・ノア・ハラリ


 5冊目『サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(河出書房新社、2016年)/下巻と合わせると500ページ強のボリュームで、内容を鑑みれば4000円は破格である。Kindle版だと1割引の価格だ。ユヴァル・ノア・ハラリは1976年生まれのイスラエル人歴史学者。天才といって差し支えない。マクロ歴史学という超高度の視点からホモ・サピエンス(賢いヒト)の歩みを辿る。7~5万年前にヒトは言葉と思考を獲得した。ユヴァル・ノア・ハラリはこれを認知革命と名づける(通常、認知革命とは認知科学の誕生〈ダートマス会議、1956年〉を意味する)。想像力を駆使して言葉というフィクションを共有することで人類は150人を超えるコミュニティを形成できるようになった。自動車メーカーのプジョーに具体的な存在はないが法人として人格を与えられている。法的擬制を通して著者はフィクションを暴く。続いて農業革命が起こる。これまた目から鱗が落ちる。一般的には農業革命によって富が創出されたと考えられているが、実際は貧困と死に覆われていた。そして大きなコミュニティと天候との戦いから宗教が生まれる。ここから貨幣の登場~帝国の誕生~産業革命という流れが下巻半ばにかけて描かれる。まあ度肝を抜かれるよ。金融・経済に関する記述も正確で、私が見つけ得た瑕疵(かし)は日本の近代化くらいなものだ(ヨーロッパのシステムを導入したと書かれているが、寺子屋という日本の教育システムに負うところが大きい)。何にも増してナチスに対する暗い感情が見受けられないところを個人的には最大に評価したい。特定の信条や思想が複雑な憎悪を生みだす。ユヴァル・ノア・ハラリは学問の力で軽々と感情を乗り越える。私が20代であれば本書を書き写したことだろう。まさしく驚天動地の一書である。併読書籍としては「物語の本質」「世界史の教科書」を参照せよ。必読書入り。柴田の名前の読みが「やすし」であることに初めて気づいた。翻訳はこなれているが校正が甘く、ルビの少なさにも不満が残る。河出書房新社の手抜きといっていいだろう。

2017-01-15

オウム真理教と変わらぬ「土地真理教」/『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲

 ・オウム真理教と変わらぬ土地真理教

『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』橘玲

必読書リスト その二

 さて、ここまで洗脳セミナーやオウム真理教の話を書いてきたのはなぜかというと、要するに、戦後日本社会に生まれた「土地真理教」の信者も、じつは彼らとたいして変わらない、といいたいわけです(などと書くと怒られるでしょうか)。
「土地真理教」の最大の教義は、「日本の地価は永遠に上がり続ける」というものでした。その理由が「日本は国土が狭くて人口が多い」という子どもじみたものであっても、これまで誰も不思議には思いませんでしたし、日本の地価総額がアメリカ全土を買収できるまで上がるという、非現実的というか、SF的な水準になっても、みんながそのことを当然と思っていたのですから、その異様さはオウム真理教に充分匹敵します。この「宗教」にはまったのが、一般大衆だけではなく、政治家や官僚、経済学者、企業経営者などの「エリート層」であったことも、よく似ています。
 オウム真理教は入信の際に全財産をお布施させることによって教祖への「絶対帰依(きえ)」を信者に叩(たた)き込みますが、「土地真理教」は、住宅ローンによってその信者に確固とした宗教心を植えつけます。
 年収の4~5倍もの借金を背負った人には、全財産を教団に寄進した人と同様に、もはや自分の判断を否定することなどできるはずがないからです。簡単にいってしまえば、これが戦後日本社会を支配した「土地真理教」の洗脳テクニックです。

【『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲〈たちばな・あきら〉、海外投資を楽しむ会編著(講談社+α文庫、2003年/海外投資を楽しむ会、メディアワークス、1999年『ゴミ投資家のための人生設計入門』を文庫化)以下同】

 持ち家への憧れを宗教に喩(たと)えているわけだが、私は逆に宗教の姿がくっきりと見えたような気がする。信者の金銭的・時間的な負担を頭金やローンに置き換えると腑に落ちるものがある。犠牲が大きければ大きいほど信仰心は燃え盛る。そして賭け金がでかいほど前のめりになるという寸法だ。

 地価上昇との教義が前面に出たのはバブル景気の頃だった。それまでは一国一城の主という要素が濃かったように思う。持ち家は社会的ステイタスとして大きな付加価値を発揮してきた。テキストの続きを紹介しよう。

 このように考えてみると、なぜ「持ち家派」の人が「家を買ってよかった」と主張して譲らないかがわかります。そのなかからわずかであれ、「高額で購入して失敗だった」と自己の判断を否定する人が出てきたこと自体が、驚くべきことなのです。
 これに対して「賃貸派」には、「持ち家派」ほどの確固とした「宗教心」はありませんから、ちょっとした誘惑で「持ち家派」に改宗してしまいます。たいていの場合、「賃貸派」が家を買わないのは自身の合理的な生涯設計から導き出された結論ではなく、ただたんに、「頭金がない」「気に入った物件がない」「面倒くさい」などの理由がほとんどですから、「持ち家派」の人たちの宗教心を前にしてはひとたまりもありません(あとで説明するように、賃貸生活者向けの優良な物件が供給されないなどの、インフラの問題もあります)。
 この国では、「持ち家派」と「賃貸派」が議論すれば、その熱烈な宗教心から、必ず「持ち家派」が勝つようになっています。しかし、だからといって「持ち家派」の理屈が正しいとはかぎりません。

 長期的なデフレと人口の減少によって現在では「持ち家派」のインセンティブは下がっている。橘玲は「賃貸派が優位である」と言い切る。

 本書の目的は「文庫版まえがき」でこう書かれている。

 国家にも企業にも依存(いぞん)せずに自分と家族の生活を守ることのできる資産を持つことを「経済的独立」という。人生を経済的側面から考えるならば、私たちの目標はできるだけ早く経済的独立を達成することにある。真の自由はその先にある。

 つまり橘の言う「持ち家」とは終(つい)の棲家(すみか)ではない。飽くまでも売却した際にキャピタルゲインが生じることを意味する。とすると「現在の持ち家」にしがみつくのは極めて古い信仰スタイルであろう。ま、小作人の一所懸命といってよかろう。土地への呪縛。

 持ち家派の強みから活動的な教団が優位であることがわかる。創価学会、エホバの証人、幸福の科学などの盛んな活動は何らかの大きな犠牲に支えられているのだろう。他の教団も信者に鞭(むち)を入れれば教勢を拡大できるかもよ。

 マネー本は若いうちに読むことを勧める。私が経済に関心を持ったのは40代になってからのこと。資産形成はやはり早い時期から取り組むべきで、複利思考を形成する必要がある。

 土地真理教を軽々と凌(しの)いで世界中の人々が誰一人として疑わないのが「マネー真理教」である。お金は交換(決済)手段に過ぎないが我々はその「実体」を信じる。かつてはゴールドによって価値が裏づけられていたが、ニクソン・ショックブレトン・ウッズ体制の崩壊(1971年)で紙幣はただの紙切れとなった。それでも貨幣としての価値を失わないのは人々が「信用」しているからである。一般的には信用経済というが信仰経済と言い換えてもおかしくはない。

 そして国家はいつでも国民の資産を奪うことができる。例えばデノミによって。あるいは接収することで。これが資産家にとって最大のリスクといってよい。

 マネー本を読む目的は資産形成よりも、むしろリスクマネジメントにある。

世界にひとつしかない「黄金の人生設計」

2017-01-14

パスカル・ボイヤー


 1冊読了。

 4冊目『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー:鈴木光太郎〈すずき・こうたろう〉、中村潔訳(NTT出版、2008年)/「叢書コムニス 06」。amazonの古書だと13510円の高値が付いている。定価は3800円。原書は2001年刊行。「訳者あとがき」によればボイヤーは1990年と94年に本書と同じテーマで2冊著しているそうだ。宗教を「進化」という枠組みで捉えた嚆矢(こうし)はジュリアン・ジェインズ(1976年)であるが、それに続いた人物と見てよい。因みに『ユーザーイリュージョン』が1991年、リチャード・ドーキンスとダニエル・C・デネットが1996年である。いっぺん刊行順に読む必要がある。ニコラス・ウェイドは多分本書やデネットに対抗したのだろう。再読であるにもかかわらず難しかった。アプローチが慎重過ぎて何を言っているのかよく理解できないのだ。しかも430ページ上下二段のボリュームでありながら外堀を埋めるのに250ページを要している。それ以降本格的に宗教を論じるのかと思えば決してそうではない。認知機能の説明に傾いている。その意味から申せば認知心理学入門としては素晴らしいのだが宗教解説としては物足りない。ボイヤーは複合的・複層的な推論システムということを再三にわたって述べるが、信仰を推論システムに置き換えただけで終わってしまっているような印象を受けた。ボイヤーとニコラス・ウェイドの違いは心理的機能と社会的機能のどちらを重視するかという違いに過ぎない。最大の問題は「錯覚」を取り上げていないことである。更にデータらしいデータが皆無であることも本書の根拠を薄いものにしている。神はまだ死んでいないし、宗教もまた死んでいないのだ。その事実をやや軽視しているように感じた。既に書評済み。翻訳のてにをはに、やや乱れがある。

2017-01-10

ニコラス・ウェイド


 1冊読了。

 3冊目『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド:依田卓巳〈よだ・たくみ〉訳(NTT出版、2011年)/再読。既に書評済みである。二度目の方が勉強になった。やはりある程度の知識を必要とするのだろう。キリスト教とイスラム教に関する記述がやや冗長で仏教への言及が少ない。宗教は人々を結びつけ、社会に道徳的活力を与え、団結の源となった――と肯定的な視点に貫かれている。著者は科学ジャーナリスト。宗教が果たす機能に重きが置かれている。「進化論からみた」とあるが進化生物学ではなく社会学視点が強い。ここのところ再読している書籍については毎年読み返すつもりである。いくらケチをつけたところで100点満点の作品。

2017-01-09

三田村武夫


 1冊読了。

 2冊目『戦争と共産主義』三田村武夫:岩崎良二編(民主制度普及会、1950年、発禁処分/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』自由社、1987年、改訂版・改題/呉PASS出版、2016年/Kindle版、竹中公二郎編)/私が読んだのは自由社版である。本文200ページ、資料100ページの構成。度肝を抜かれてしまったため資料は読んでいない。読み終えてびっくりしたのだが150ページ以上に付箋を付けていた。三田村武夫は戦前の内務省官僚でその後衆議院議員となった人物。大東亜戦争の生き証人といってよい。首相の近衛文麿を諌めたエピソードなどが生々しく描かれている。極めて実務的な文章で感情の澱(よど)みが少ない。政治家としての自らの責任についても端的に述べている。内務省で共産党を研究してきた三田村の結論は共産主義者が大東亜戦争のグランドデザインを描き、敗戦に導いたというものである。二・二六事件の背景についても詳しく書かれており、日本の社会が時流によってうねる様相が俯瞰できる。大きな閃きを得た。「必読書」入り。

バランスシート思考/『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター

 ・バランスシート思考

『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』橘玲

必読書リスト その二

「黄金の羽根」とはいったい何か? これを私は次のように定義しました。

【黄金の羽根】Golden Feather
 制度の歪みから構造的に発生する“幸運”。手に入れた者に大きな利益をもたらす。

【『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲〈たちばな・あきら〉(幻冬舎、2014年/幻冬舎、2002年『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計入門』改訂版)以下同】

 アービトラージ(裁定取引、サヤ取り)という投資手法である。B・N・Fという有名な個人投資家がジェイコム株大量誤発注事件(2005年)で稼いだのも価格の歪みを捉えた取引だ。機関投資家などがアービトラージを行うことで価格は常に調整され、正常な値を目指す。

 橘玲が着目するのは制度や法律である。例えば税制には様々な優遇措置がある。制度は自ら歪み特定の人に恩恵を与える。

 旧版が刊行された2002年というタイミングも見事である。インターネット回線は電話回線~ISDN~ADSL~光ファイバーと進化してきたが、オンライントレードが広まったのはADSLが普及した1999年前後のことと記憶する。そして『金持ち父さん 貧乏父さん』が2001年に出版される。アメリカは不動産バブルに沸き、2007年の頂点に向かっていた。2003年から2013年に渡って証券優遇税制が布(し)かれ、株式投資のキャピタルゲイン、インカムゲインに対しては10%という軽減税率が適用された(通常は20%)。多数のデイトレーダーが誕生したのは政府の主導によるものと考えてよい。

 89年のバブル崩壊から、10年以上に及ぶ長い平成大不況が続いています。企業の収益は悪化し、不良債権は積み上がり、財政赤字は拡大の一途を辿っています。しかしその間、個人が豊かになったことは、あまり指摘されていません。
 企業の収益が悪化すれば株価が下落しますから投資家は損失を被りますが、従業員には関係ありません。なぜなら、業績が悪化しても賃金はそう簡単に下げられないからです。
 資金繰りに窮した企業がリストラをし、ベースアップを抑制し、賃下げを行なうようになれば従業員にも影響は及びますが、そこまで至るにはバブル崩壊後、10年を要しました。失業率の上昇や個人所得の減少が深刻な問題になってきたのは、最近のことです。
 企業収益が悪化し、それでも従業員の賃金が下がらないということは、企業から従業員に大規模な所得移転が行なわれたことを意味します。企業の富が株主のものだとすれば、株主が損した分だけ、従業員が得をしたということです。
 同時に、日本国の財政赤字も急速に悪化しました。いまや国と地方を合わせた債務残高は690兆円(2002現在)に達し、GDP(国内総生産)を大きく上回っています。
 財政赤字が拡大したということは、国家が国債の増発などで資金を調達し、その資金を公共事業などのかたちで国民に再分配したということです。その恩恵を被った度合いに差はあるでしょうが、結果としてみれば、この10年で400兆円に及ぶ国の借金が国民の所得に移転しました。こうして、1400兆円の個人金融資産が形成されたのです。

 橘玲の魅力はこのバランスシート思考にある。実に巧みな解説だ。メディアに出てくる経済評論家は政治テーマや景気の上っ面を撫でるだけで、経済の本質を全く語っていない。

 橘は元々編集者で本書の冒頭でも日本の出版流通が抱える問題にメスを入れている。その後、「ゴミ投資家」シリーズで投資家として頭角を現し、著作も精力的に発表してきた。目の付けどころも独創的で決して借り物ではない。わずかな制度の歪みに投資機会を見出すことは凡人には極めて難しい。そうした発想すら持てないことだろう。近著ではマイクロ法人の設立を奨励し、海外を転々と移住することまで進言している。やや愛国心の欠如が気になるところだが、合理性は易々と国境をも超えてしまうのだろう。

お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ世界にひとつしかない「黄金の人生設計」

2017-01-08

労働収入と権利収入/『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター

 ・労働収入と権利収入

ロバート・キヨサキ「学校では教えない資本主義のプレイ方法」
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲
『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』エリック・ジョーゲンソン

必読書リスト その二

 キャッシュフロー・クワドラントは、図3のような四つのクワドラント(円を四等分したもの)から成り立っている。
 私たちはみんな、この四つのクワドラントのうち少なくとも一つに属している。どこに属するかは、お金がどこから入ってくるかによって決まる。たいていの人は給料がおもな収入源だから従業員(E)だ。そのほかに、自分の雇い主は自分だという自営業者(S)もいる。この従業員と自営業者がキャッシュフロー・クワドラントの左側に来る。右側にいるのは自分が所有するビジネスや投資から収入を得ている人たちだ。
 キャッシュフロー・クワドラントは、「どこからお金を得ているか」に基づいて人々を分類するための簡単な方法だ。クワドラントはそれぞれが独自の特徴を持っていて、そこに属する人々には共通する特性がある。キャッシュフロー・クワドラントを理解すれば、いま自分がどこに属しているか、経済的自由に続く道を選んだとしたら、将来どこに属したらいいか、そこに到達するにはどんな道をたどったらいいか、そういったことがわかってくると思う。

【『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター:白根美保子訳(筑摩書房、2001年/改訂版、2013年)以下同】


 冒頭で紹介しているエドとビルの話は『超パイプライン仕事術 自分らしく生きるために』(バーク・ヘッジ:真中智恵子訳、オープンセンス、2005年)ではパブロとブルーノとして全く同じ内容がある。刊行年からいうとキヨサキの方が先のようだ。


「権利収入」のわかりやすい具体例だ。

 キム(※夫人)と私がホームレスになってまでBとIのクワドラントにこだわったのは、私がそれまで受けていた訓練、教育が主にこの二つのクワドラントに関するものだったからだ。四つのクワドラントのそれぞれが持つ、金銭的に有利な点、職業的に有利な点を私が知るようになったのは、金持ち父さんのおかげだった。右側のクワドラント、つまりBとIのクワドラントは私にとって、金銭的な成功、経済的自由を手に入れるために最も有利なチャンスを与えてくれるクワドラントだった。

 キヨサキは「人に使われるのはいやだ」という自営業者を「DIYタイプ」と名づける。「Do it youself」(自分でやる)だ。ここを読んではたと気づいたのは学校教育や家庭教育がE(従業員)とS(自営業者)の育成を目的にしていることだ。優秀な大学を優秀な成績で卒業する学生を考えてみよう。彼らは官僚か士業(弁護士・公認会計士・税理士)を志す。医師も士業に含めていいだろう。官僚はE(従業員)で士業はS(自営業者)である。S(自営業者)は自分が働かないと収入は生まれないが、B(ビジネスオーナー)は自分が働かなくても収入が生じる。つまり右側のクワドラントは不労所得を意味する。労働そのものよりも仕組み(システム)を構築する者に高いインセンティブがあるのは当然だろう。

「働かざる者食うべからず」とは新約聖書の言葉だが、キリスト教において労働は神が与えた罰と考えられている(『働かない 「怠けもの」と呼ばれた人たち』トム・ルッツ)。もともとヨーロッパの貴族は労働とは無縁であった。彼らが諸外国の大使を務めたのも自費でパーティーを賄(まかな)えるためだった。

 I(投資家)クワドラントも同様でデイトレーダーが実はS(自営業者)であることに気づく。チャートを分析し、ザラ場をひたと見つめ、建玉(たてぎょく)から決済に至る時間は労働そのものだ。彼が手にする利益は労働対価である。

 教育の目的が社会への隷属にあり、そこから脱することが経済的自由であるならば、具体的にはE(従業員)でありながら同時にS(自営業者)・I(投資家)であるというスタイルを築くしか道はない。インターネットによってスモールビジネスは格段にやりやすくなったし、不動産投資もREIT(不動産投資信託)という金融商品があり少額投資が可能だ。

 あらゆるマネーは最終的に投資される。自分で行うか、銀行や保険会社に任せるかの違いがあるだけだ。

 尚、ロバート・キヨサキの著作はこの2冊を読めば十分だ。

嘘×嘘=真実か?/『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター


『史上最大の株価急騰がやってくる!』増田俊男

 ・嘘×嘘=真実か?

『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ
ロバート・キヨサキ「学校では教えない資本主義のプレイ方法」
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲
『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』佐藤航陽

必読書リスト その二

『金持ち父さん 貧乏父さん』を読んだ人は気がついたと思うが、あの本は高い教育を受けた人と金持ちとのあいだの闘争について書かれたものだ。高学歴だが貧乏だった私の実の父は、スタンフォード大学やシカゴ大学といった名門大学で高度な教育を受けたことをとても誇りに思っていた。金持ち父さんの方は、父親が早くに亡くなって家業を継がなければならなくなり学校は中退した。だからハイスクールすら出ていないが、ハワイ有数の金持ちになった。
 私が成長するにつれ、金持ちだが学歴のない父さんから大きな影響を受けていることに気づいた実の父は、ときどき、自分の生き方を弁護するような態度をとった。私が16歳くらいのときだったと思うが、ある日、父はふと次のように口にした。
「私は名門大学を卒業し、修士号、博士号も持っている。お前の友達の父さんはいったい何を持っているんだ?」私は少し間をおいてから静かに答えた。「お金と、自由な時間だよ」

【『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的事由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター:白根美保子訳(筑摩書房、2001年/改訂版、2013年)】

 真実が眼を開かせるのであれば、嘘×嘘=真実という式が成り立つのかもしれない。ロバート・キヨサキは素性のよくわからぬ人物で、本書に登場する二人の父もフィクションである。元々本書は彼が作った「キャッシュフロー101」というボードゲームの販促本であった。初めて読んだ直後にその事実を知った私は「説教泥棒みたいだな」との印象を受けた。だが、あれよあれよという間に『金持ち父さん』はベストセラーとなり、ロバート・キヨサキは次々と投資本を著す。

 説明能力が高く文章も練られている。翻訳もよい。となれば私の脳は書かれた言葉をあっさりと受け入れてしまう。

 私の二人の父は何かにつけてまったく正反対の考え方をしていた。一人は「金持ちはお金に困っている人を助けるためにもっと税金を払うべきだ」と考えていた。もう一人は「税金は生産する者を罰し、生産しない者に褒美をやるためのものだ」と言っていた。
 一方の父は「一生懸命勉強しろ、そうすればいい会社に入れるから」と私を励ました。もう一方の父は「一生懸命勉強しろ、そうすればいい会社を買うことができるから」と励ました。
 一方が「私にお金がないのは子供がいるせいだ」と言うかと思えば、もう一方は「私が金持ちなのは子供がいるからだ」と言う。
 一方がお金やビジネスについての話を食卓でするのを大いに奨励するかと思えば、一方は食事をしながらお金の話などしてはいけないと言う。
 一方が「この家は私たちにとって最大の投資であり、最大の資産だ」と言うと、一方は「この家は負債だ。持ち家が自分にとって最大の投資だという人は大いに問題がある」と言う。
 二人とも請求書はきちんと期日通りに支払った。だが、一方は請求書の支払をほかのどんな支出よりも優先させ、もう一方の父は請求書の支払を最後にした。
 一方の父は会社や政府が自分たちのめんどうを見てくれると信じて疑わなかった。この父はいつも昇給や年金、医療費の補助、病気休暇、有給休暇などといったことを気にかけていた。(中略)
 もう一方の父は、経済的に100パーセント「自分に依存する」ことが大事だと考えていた。(中略)
 一方の父はわずかな金を貯めるのにあくせくし、もう一方はどんどん投資を増やしていった。
 一方の父は、いい仕事につくためのじょうずな履歴書の書き方を教えてくれた。もう一方は、自分で仕事を生み出すためのビジネス・プラン、投資プランの書き方を教えてくれた。

【『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター:白根美保子訳(筑摩書房、2000年/改訂版、2013年)】


 2008年の時点で2800万部(日本では300万部)の売り上げというのだから、現在は3000万部を超えたと見ていいだろう。本書ではセミナーやMLMも推奨されていることからマルチ商法のバイブルとなった。ロバート・キヨサキを詐欺師と断じる声も多い。

 個人的には町山智浩を尊敬しているのだが明らかに言い過ぎである。そもそもキヨサキは『金持ち父さんの投資ガイド 上級編 起業家精神から富が生まれる』ロバート・キヨサキ:林康史・今尾金久協力、白根美保子訳(筑摩書房、2002年/改訂版、2014年)を皮切りにアメリカ経済のバブルを指摘し、暴落の予想を再三にわたって述べているのだ。また小西克哉はジャーナリスト特有の常識に溺れている人物で自分の知性を嘲笑で示すことが多い。

 町山は元々リベラル肌であったが自らの出自(父親が韓国人であったことが最近判明)を知ったことでリベラルに拍車がかかったような印象がある。そして致命的な問題は彼の歴史観がオリバー・ストーンの影響を受けていることだ。オリバー・ストーンの夫人は韓国人であり、リベラルの域を超えた反米反日左翼といってよい。

 確かにロバート・キヨサキは詐欺師であるかもしれない。それでも私は本書を推す。マネーの仕組みをこれほどわかりやすく説明した本が他にないからだ。

 私は長いことドルが基軸通貨であることの意味を理解してなかった。そこで巡り合ったのが増田俊男の著作であった。初めてマネーの機能を理解した。蒙(もう)が啓(ひら)かれたといってよい。ご存じの方もいるかもしれないが増田は2011年に金融商品取引法違反事件で書類送検された。被害者の会も存在する。

 二人に共通するのは説明能力の高さである。その意味から申せばインチキ宗教家が説く道徳と似ている。嘘×嘘=真実か? そうかもしれないし、そうでないかもしれない。自ら紐解き判断するのが望ましい。

 本書のエッセンスは「自分の与信力を高めること」にある。資本主義における信用とは与信力のことだ。そして資本主義は借金と利子で回っている(←ここアンダーライン)。自分が金融機関から貸し付けを受けることを考えてみよう。何らかの資産がなければ無理である。そこでキヨサキは「資産価値の高い不動産」を買うよう奨(すす)める。終(つい)の棲家(すみか)としてのマイホームではない。買った時の値段より高く売ることができる不動産だ。ここから不動産を担保に借金し(=レバレッジを効かせる)、次の不動産を購入するという寸法だ。

 資本主義経済はインフレを運命づけられている。なぜなら利子の分だけマネーは増加するためだ。インフレとはモノやサービスの価値が上がり、マネーの価値が下がることを意味する。とすればやることは簡単だ。ドル・コスト平均法インデックス投資をすればよい。マネーの価値が下がるわけだからゴールド現物を毎月積み立てるのもいい。

 ところがである。サブプライム・ショック(2007年)~リーマン・ショック(2008年)を経た後、世界各国は通貨安競争を始め、金融緩和に次ぐ金融緩和を行ってきた。それでも尚デフレは解消できず、インフレ率の目標を達することもできない。マネーの洪水はどこに押し寄せているのだろうか? 社内留保に収まるような金額ではないのだ。これに勝(まさ)る不思議はない。とすると突然厖大な量のマネーが氾濫することもあり得るだろう。昨今、資本主義の終焉(しゅうえん)が説かれるのもそのためだ。

 2017年のマーケットは一旦調整した後、順調に上がり続けることだろう。日本株の見通しも来年あたりまでは明るいと思われる。短期的には現物(株式)でもよいが、やはり長期的にはゴールド現物(ETF、先物ではなく)の積立が最強か。ただし如何なる資産であっても戦争となれば没収される危険性がある。機を見て海外に移住することまで想定できる人以外は投資をするべきではない。



翻訳と解釈/『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー

2017-01-03

三田村武夫著『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』を呉PASS出版が復刻

昭和政治秘録 改訂新版 戦争と共産主義

 旧版を全面的に見直し改訂。戦前政治、軍事へのコミンテルンの影響を暴いた問題の書。近衛内閣以降活発になった、国内共産主義者の動向を、身近に接した著者が、証拠を挙げながら描く。日本を戦争へ、そして破滅へと導いたコミンテルンの謀略はいかなるものだったのか。

Kindle版
自由選書

【『戦争と共産主義 昭和政治秘録』三田村武夫(民主制度普及会、1950年:発禁処分に/『大東亜戦争とスターリンの謀略 戦争と共産主義』自由社、1987年改題/呉PASS出版、2016年】

2017-01-02

デイヴィッド・イーグルマン


 1冊読了。

 1冊目『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン:大田直子訳(ハヤカワ文庫、2016年/早川書房、2012年『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』改題)/再読。二度目の方が衝撃が強い。読む順序は書評に示した通りである。関連書は「必読書リスト」に網羅してあるが、認知科学と神経科学を私が混同していたため、順番は随時更新している。大田直子の翻訳は実にこなれていて読みやすい。「私」とは「私の意識」に他ならないわけだが、その意識が実は確かなものではなく怪しい蜃気楼のような存在であることを解明する。瞠目すべきは200ページあたりからで、イーグルマンは神経法学という領域に思考を飛翔させる。つまり犯罪者には脳を中心とした神経的な異常があり、社会から排除するよりも神経の更生に重きを置くべきであると。飛躍的な思考は大変に刺激的だが、社会システム論として見ると大きな穴があるのではないか。amazonカスタマーレビューで桐原氏が「新派刑法学の亡霊」との鋭い批判を寄せている。確かに「近代学派(新派) (moderne Schule)」を読むと変わりがない。ただしイーグルマンは具体的な証拠を示しており一定の説得力はある。チンパンジーの世界ではルールを破る者はその場で撲殺される。コミュニティが崩壊する危機を回避すると共に、危険な遺伝子を抹殺する意味もあるように思われる。イーグルマンの試みは素晴らしいものだがコストに見合うほどの社会的利益があるかどうか。

スパイは我々の中に~ヴェノナファイル



ヴェノナコミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾―迫り来る反日包囲網の正体を暴く昭和政治秘録 改訂新版 戦争と共産主義

機械の字義/『青雲はるかに』宮城谷昌光


『管仲』宮城谷昌光
『重耳』宮城谷昌光
『介子推』宮城谷昌光
『晏子』宮城谷昌光
『湖底の城 呉越春秋』宮城谷昌光
『孟嘗君』宮城谷昌光
『楽毅』宮城谷昌光

 ・友の情け
 ・機械の字義

『奇貨居くべし』宮城谷昌光
『香乱記』宮城谷昌光

「ちかごろは田圃(でんぽ)にも機械とよばれるものがはいってきております。ひとつを押すとほかが動くというしかけでして……」
「機械か……。機はともかく、械は罪人をしばる桎梏(かせ)のことだ。人はおのれを助けるためにつくりだしたからくりによって、おのれをしばることになるということか。械とはよくつけた名だ。わしもその械にしばられるひとりか」
 范雎〈はんしょ〉は鼻で哂(わら)った。

【『青雲はるかに』(上下)宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(集英社、1997年/集英社文庫、2000年/新潮文庫、2007年)以下同】

 宮城谷作品を支えているのは白川漢字学である。支那古典というジャングルの中で宮城谷は迷う。自分の居場所もわからなくなった時、白川静の漢字学が進むべき方向を示してくれた。白川の著作を読むと「たったの一語、たったの一行で小説が1000枚書ける」と宮城谷は語る(『三国志読本』文藝春秋、2014年)。

 白川静が明らかにしたのは漢字の呪能(じゅのう)であった(『漢字 生い立ちとその背景』白川静)。神との交流から始まった漢字に込められた宗教的次元を解明したのだ。漢字が表すのは儀礼と祈りだ。

 機械は作業や労働を楽にする。人類の特徴の一つに「道具の使用」がある。厳密に言えばサルも道具を使うため、正確には「道具を加工し利用する」。道具・機械の歴史は小型の斧(おの)からスーパーコンピュータにまで至るわけだがこの間(かん)、人類が進化した形跡は見られない。械が「罪人をしばる桎梏(かせ)」であれば退化した可能性を考慮する必要があるだろう。

 計算機(電卓)やコンピュータは脳の働きを補完する。私は日に数十回はインターネットを検索しているが、脳の検索機能が低下しているように感じてならない。デジカメや録音機器なども記憶の低下を助長していることだろう。

 レイ・カーツワイルは2045年に人工知能がヒトを凌駕すると指摘している(『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル)。その時、械の意味は「コンピュータの進化を阻むヒト」に変わっているかもしれない。

青雲はるかに〈上〉 (新潮文庫)青雲はるかに 下巻三国志読本

友の情け/『青雲はるかに』宮城谷昌光


『天空の舟 小説・伊尹伝』宮城谷昌光
『管仲』宮城谷昌光
『重耳』宮城谷昌光
『介子推』宮城谷昌光
『晏子』宮城谷昌光
『湖底の城 呉越春秋』宮城谷昌光
『孟嘗君』宮城谷昌光
『楽毅』宮城谷昌光

 ・友の情け
 ・機械の字義

『奇貨居くべし』宮城谷昌光
『香乱記』宮城谷昌光

「いずれにせよ、わしのように門地も財産もない男が、国政にかかわる地位に昇ってゆける門戸をひらけるのは、乱のあとしかない」
 と、范雎〈はんしょ〉は断言した。
「それは、わかる」
 鄭安平〈ていあんぺい〉はそういったものの、うなずかなかった。かれは、だが、といって首をかしげ、
「乱により入(い)らば、すなわちかならず乱を喜び、乱を喜ばばかならず徳を怠(おこた)る、ということばがある。なんじの将来のためには、乱れた国へはいるのは、賛同できぬ」
 と、はっきりいった。
 范雎〈はんしょ〉は鄭安平〈ていあんぺい〉をみつめた。范雎の目に複雑な色がでた。大梁にきて、このような愛情のある忠告をきいたのは、はじめてである。

【『青雲はるかに』(上下)宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(集英社、1997年/集英社文庫、2000年/新潮文庫、2007年)以下同】

 タイトルに陳腐の翳(かげ)がある。復讐譚(ふくしゅうたん)に愛する女性を絡めるといったエンタテイメント性をどう評価するかで好みが分かれることだろう。

 范雎〈はんしょ〉は中国戦国時代(紀元前403-221年)に生まれ、平民から宰相(さいしょう)にまで上(のぼ)り詰めた人物である。

 激しく揺れる時代は思春期と似ている。幼さを脱却して大人へと向かう時、自我は伸縮し反抗的な態度が現れる。歴史もまた同じ道を歩むのだろう。

 自分が形成されるのは13歳から23歳までの10年間と言い切ってよい。この時期における友情は眩(まばゆ)い光となって自分の輪郭をくっきりとした影にする。人格は縦(たて)の関係で鍛えられるが、豊かな情操を養うのは横のつながりである。

 上昇志向の強い范雎〈はんしょ〉は鄭安平〈ていあんぺい〉という友を得て圭角が取れてゆく。

 数日後、鄭安平〈ていあんぺい〉は「餞別(せんべつ)だ」と言って、有り金を范雎〈はんしょ〉に手渡す。

 ところが范雎〈はんしょ〉は志半ばにして帰ってきた。

「すまぬ」
 と、いった。鄭安平〈ていあんぺい〉のような男には、みえもきどりもいらないであろう。心を裸にして詫びるしかない。
「なにをいうか。わしはむしろ安心したのよ」
「そうか……」
 と、范雎〈はんしょ〉はいったが、鄭安平の意中をつかみかねた。
「そうよ。わしの心配は、もしやなんじが小さな成功を獲得して帰ってきたら、どうしよう、ということであった。大きな成功を得るには長い年月がいる。わしもなんじも、一代での偉業を夢みている。父の遺徳がない者は、父のぶんまで徳を積まねばならぬ。早い成功は、みずから限界をつくる。そうではないか」
 抱懐しているものを、いきなりひろげたようないいかたであった。
 ――こういう男か。
 范雎は心に衝撃をうけた。
 鄭安平をみそこなっていたつもりはないが、この男の胸のなかにひろびろと走っている大道がみえなかったおのれを愧(は)じた。なるほど天下で偉業をなす者は、若いうちから頭角をあらわしていない。暗い無名の青春をすごしている。管仲〈かんちゅう〉がそうであり、呉起〈ごき〉や商鞅〈しょうおう〉もそうである。なぜそうなのか。つきつめて考えたこともなかったが、鄭安平のいう通りかもしれない、と范雎はおもった。

 学友の中にあって大言壮語を放つ范雎〈はんしょ〉を見て、「あの男のちかくにいれば、おもしろい世がみられるか」と鄭安平〈ていあんぺい〉は思った。そんな小さな心の振幅から生涯にわたる友情が生まれた。鄭安平は後に将軍となる。

青雲はるかに〈上〉 (新潮文庫)青雲はるかに 下巻

2017-01-01

過去を一掃する/『本を書く』アニー・ディラード


『石に話すことを教える』アニー・ディラード

 ・過去を一掃する

 あなたの手の内で、そしてきらめきの中で、書きものはあなたの考えを表現するものから認識論的なものに変わっていく。新しい領域にあなたは興奮する。そこは不透明だ。あなたは耳を澄ませ、注意を集中させる。あなたは謙虚に、あらゆる方向に気を配りながら言葉を一つ一つ注意深く書いていく。それまでに書いたものが脆弱で、いい加減なものに見えてくる。過程(プロセス)に意味はない。跡を消すがいい。道そのものは作品ではない。あなたがたどってきた道には早や草が生え、鳥たちがくずを食べてしまっていればいいのだが。全部捨てればいい、振り返ってはいけない。

【『本を書く』アニー・ディラード:柳沢由実子〈やなぎさわ・ゆみこ〉訳(パピルス、1996年)】

 年が明けた。数えであれば今日、私は54歳となる。満年齢の使用は1950年(昭和25年)以降である。存在している者に対して「0歳児」とはいかにもおかしな呼称で、数え年の方が人に優しい気がする。

 同じ文章であっても「書く」ことと「打つ」ことは違う。「書く」ことには豊かな身体性がある。「打つ」という単調な運動は文章を神経症的な性質に貶(おとし)める危険が伴う。作家がワープロを使うようになってからワンセンテンスが長くなったという指摘がある。単調が冗長を促すのだろう。

 齢(よわい)を重ね、過去が長くなると慣性や惰性の力が働く。ところが知らず知らずのうちに体も心も衰えている。今までやってきたことを踏襲しているつもりでありながらも、実はどんどん閉鎖的な姿勢や態度となりがちだ。疑わなければ新しいものは出てこない。

 過去を重んじるな。足跡を残すのは泥棒に任せよ。捨てれば捨てるほど身は軽くなる。本当に大切なものは捨てようとしても捨てることができない。

 変わらぬ世界にあって変えることができるのは認識である。世界は変わらなくとも世界観を変えることは可能だ。そのためには過去を一掃する必要がある。プライドも誇りも不要だ。ただ柔らかな精神とありのままを見つめる瞳を持てば十分だ。

本を書く