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『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
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『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎
・国家は税と共にある
・『
対論「所得税一律革命」 領収書も、税務署も、脱税もなくなる』加藤寛、渡部昇一
・『
近代の呪い』渡辺京二
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大村大次郎
歴史上、「税金のない国」というのは、存在したためしがありません。(中略)
初期の古代ローマはローマ市民から「直接の税金」はほとんど取っていませんでした。しかし関税を徴収したり、占領地から税を徴収していました。
歴史上、国家の体(てい)をなす存在において、税金が課されなかったことは一度もないといえるのです。
一国の政府(政権)の存在というのは、煎じ詰めれば、「いかに税金を徴収し、いかに使うか」ということになると思われます。
役人を使って国家システムを整えるにも、インフラ整備をするにも、他国からの侵略を防ぐにも、税金が必要になります。だから、税金がないと国家というものは成り立ちません。
王権国家であろうと、民主政国家であろうと、共産主義国家であろうと、宗教国家であろうと、それは同じです。
【『脱税の世界史』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(宝島社、2019年)】
後半の失速が惜しまれる。好著を切り捨てることで「
必読書リスト」の厳選が担保されるというジレンマに苦しむ。ジェームズ・C・スコットの後で読んだだけにインパクトは大きかった。大村の著作は宗教に関する物以外は全部お勧めできる。
哺乳類の群れは暴力と分配を軸に形成される。高度な知能はやがて技術や協力に至るが暴力と分配という軸は動かない。ともすると知能は「人間らしさ」とのフィルターを通して美しい素養を考えがちだが実は違うのではないか。チンパンジーの特筆すべき行動は「相手を騙(だま)す」ことにある。騙すためには相手が何を考えているかを知る必要がある。つまり共感~想像といった思考の飛翔が伴う。この高度な知能が犯す醜い行動が長年にわたって私の心から離れることはなかった。
感情を排してただありのままの事実を見てみよう。現代社会の成功者とは「嘘をつくのが巧みな人物」であると言ってよい。この場合の嘘とは「自分の意のままに人々を動かす言動や振る舞い」を意味する。政治家・経営者・教師・宗教家・親・先輩は必ず何らかの信念に基づいた操作・誘導を行う。一番わかりやすいのは俳優・芸能人である。彼らは「嘘をつくのが仕事」だ。ミュージシャンも同様である。フィクション(虚構)を通して大衆に夢を見させる役割を果たしている。
あるいは巨大宗教組織を見れば、そこには国家の萌芽ともいえるシステムが構築されている。ローマ・カトリック教会は
十分の一税を徴収していた。喜捨を募らない教団は存在しない。
創価学会では100万円の寄付をする信者がざらにいるし、出版を通したビジネスモデルを編み出したのはGLAの
高橋信次で、現在は創価学会や幸福の科学に受け継がれている。巨大教団は宗教企業と化した。国家と異なる点は分配なき集金であることに尽きる。
「民が疲弊しないように効率的に税を徴収し、それをまた効率的に国家建設に生かす」
というのは、国が隆盛するための絶対条件だといえます。
そして、国が衰退するときというのは、その条件をクリアできなくなったといきだといえます。
国家は徴税し、税負担は大きくなり、国家は国民を喰い物にした挙げ句、衰退してゆく。富の蓄積(
関岡正弘)が大きく偏り歯止めが効かなくなるのだろう。情報産業を支配するGAFAなども国家弱体化の象徴であり、既に多国籍企業は国家をも超越し(『
ザ・コーポレーション』)、タックスヘイブンを通して租税を回避している(『
タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』ニコラス・シャクソン、『
タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻)。
いずれにしろ、脱税がはびこるときには、社会は大きな変動が起きます。
武装蜂起、革命、国家分裂、国家崩壊などには、必ずといっていいほど、「脱税」と「税システムの機能不全」が絡んでいるのです。
アメリカ大統領選挙を前にしたBLM運動、中国共産党による香港弾圧・ウイグル人虐殺など「大きな変動」は日々報じられている。日本で格差が広がったのは消費税導入(1989年)以降のことである。
多国籍企業に対する国家の巻き返しと、民族主義・帝国主義が渦巻く時代に入った。日本国民にはかつての
米騒動を起こすほどの気概はない。中国と戦うか妥協するかで国の運命が分かれる。