2019-10-30

大英帝国の凋落/『ペトロダラー戦争 イラク戦争の秘密、そしてドルとエネルギーの未来』ウィリアム・R・クラーク


『超帝国主義国家アメリカの内幕』マイケル・ハドソン
『マネーの正体 金融資産を守るためにわれわれが知っておくべきこと』吉田繁治
『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
『紙の約束 マネー、債務、新世界秩序』フィリップ・コガン
『ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ 影の支配者たちがアジアを狙う』宋鴻兵
『通貨戦争 影の支配者たちは世界統一通貨をめざす』宋鴻兵
『タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』ニコラス・シャクソン
『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫
『ドル消滅 国際通貨制度の崩壊は始まっている!』ジェームズ・リカーズ

 ・大英帝国の凋落
 ・沈みゆくアメリカ

必読書リスト その二

 大英帝国は1870年代あたりから凋落し始めた。以来、イギリス政府は南アフリカなどでたびたび帝国主義戦争に訴えるようになり、どんどん泥沼にはまっていった。アメリカも同じである。軍事力を使って、もはや経済的手段では成し遂げられないことを追求しようとしている。

【『ペトロダラー戦争 イラク戦争の秘密、そしてドルとエネルギーの未来』ウィリアム・R・クラーク:高澤洋志〈たかざわ・ひろし〉訳(作品社、2013年)】

 ボーア戦争(1880年)から第一次世界大戦終焉(1918年)までが38年である。そして英ポンドは基軸通貨としての地位を失った。1600年前後から続いた大英帝国は滅んだと考えてよい。




 第二次世界大戦後(1945年)、米ドルが基軸通貨となる。ニクソン・ショック(1971年)でブレトン・ウッズ体制は終結したが、ゴールドの裏付けを失ったドルはペトロダラーとして延命した。

 トランプを救世主と仰ぐQAnonと呼ばれる人々が出てきた。国家機密にアクセスできる人物が匿名掲示板に膨大な量の書き込みをしている。その投稿者がQなる人物で彼を支持する人々がQAnonである。

 昨夜初めて知ったのでそれほど精査したわけではないが、どうもイスラエルから目を逸らさせる目的があるような気がする。トランプ政権の裏側で起こっているのはイスラエルの新旧勢力の暗闘である。トランプ大統領はたぶん連邦準備制度(FRS)にまで切り込むことだろう。FRSは中央銀行でありながら完全な民間企業で、驚くべきことにアメリカ政府は1株も株式を有していない。つまり政府から通貨発行権が剥奪された状態がずっと続いているのだ。リンカーンやケネディがこれに手をつけようとして暗殺されたことは有名な話だ。

 米ドルが基軸通貨としての役割を終えるのはそれほど先のことではないだろう。とすればユーロ高、円高となるのは必然である。更にドル/スイスフランが1.000を割り込んだ時にスイスが介入するかどうかも見ものである。

「アメリカは9.11テロ~アフガニスタン紛争~イラク戦争で滅んだ」と未来の歴史家が綴ることになるだろう。大国にとってアフガニスタンは鬼門だ。ソ連もアフガニスタンと戦争をして滅んだ。

 石油を巡ってアメリカが帝国主義的な振る舞いをしてきた事実が描かれている。「必読書」に入れたが惜しむらくは2005年の刊行でシェール革命以前にとどまっている。

2019-10-29

「5次請け」の殺し屋、報酬安すぎで手抜きし事件発覚 中国


2019年10月27日 21:15 発信地:北京/中国 [ 中国 中国・台湾 ]

【10月27日 AFP】中国で、次々と殺人の仕事を下請けに出して結局遂行しなかった「殺し屋」5人が、依頼者とともに有罪判決を言い渡され、収監された。

 殺人を実行してくれることを期待して下請けに回された仕事は、そのたびにマージンを抜き取られ、別の殺し屋に次々と手渡されていった。

 ところが、最後となる5次請けとなった殺し屋の男は、暗殺をでっち上げることにし、なんと標的となっていた人物に協力を仰いだ。

 するとターゲットの男性はあっさりと警察に通報し、茶番と化した企ては丸潰れとなった。

 同国南部の南寧(Nanning)の裁判所で開かれた公判で明らかになったところによると、2013年に魏(Wei)という名字の実業家が不動産開発業者の覃佑輝(Qin Youhui)受刑者を相手取り訴訟を起こしたことから話は始まった。

 裁判所によると、時間と金がかかる法廷闘争が不利益となること恐れた覃受刑者は、魏さんを「抹殺」するために200万元(約3000万円)を払い、殺し屋として奚広安(Xi Guangan)受刑者を雇った。

 だが、自分の手を汚したくなかった奚受刑者は、莫天祥(Mo Tianxiang)受刑者に自身の報酬の半分の金額で仕事を請け負わせた。

 今度は莫受刑者が、77万元(約1200万円)で楊康生(Yang Kangsheng)受刑者に、簡単に金がもうけられると考えた楊康生受刑者は、70万元(約1100万円)で楊広生(Yang Guangsheng)受刑者へこの仕事を下請けに出した。

 そして楊広生受刑者は5人目の殺し屋となる凌顕四(Ling Xiansi)に声を掛け、凌受刑者は元請けの契約金の5%に当たるわずか10万元(約150万円)で仕事をこなすことに同意した。

 ところが凌受刑者は、捕まったなら終身刑を受けるリスクを冒すのにこの額は見合わないと考え、殺人をでっち上げることに決め、標的だった魏さんに接触した。

 裁判で魏さんは、カフェで凌受刑者と会い、縛られて猿ぐつわをかませられた状態で写真を撮ることに同意したと証言。そして撮影が終わるやいなや、警察署に駆け込んだと話した。

 殺し屋5人と依頼者は懲役2年7月~5年の判決を受け、今月収監された。

2019-10-28

感じる力が高まる/『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛竜会編


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇

 ・感じる力が高まる

・『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子
『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編
『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成
『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史

身体革命

 胴体の三つの動き(1.伸ばす・縮める 2.丸める・反る 3.捻る)のトレーニングを続けていると、身体の【“感じる力”】が高まります。感じる力とは、具体的には危険察知能力、瞬時の状況判断力、病気、異常の感知能力といえます。
 動物を見るとよくわかります。犬でも猫でも、人間がなにかしようと近づこう(ママ)とするだけで逃げだします。身体に合わないものは食べません。具合が悪ければ、何も食べずにジッと寝て、自分の力でなおします。動物はこの力がなければ生きてはゆけません。
 ところが、現代人は考える力や記憶する力にたよりすぎて、感じる力が著しく低下しています。これでは、自分の身体の異常や病気にも気がつかず、自分の体験したこと、本などで勉強して得た知識以外の出来事が起こると、まったく対応できなくなってしまいます。いわゆる“マニュアル人間”はこれにあてはまります。
 感じる力は、生きていくうえでもっとも大切な能力です。この力があれば、頭でいちいち考えなくても、食べ物、運動など、自分の身体が、必要なものは何かを感じることができます。

【『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛竜会編(BABジャパン、2005年/ベストセラーズ、1993年『気分爽快!身体(からだ)革命 一日三分で痛みを消しさる』改題)】

 私は30代から酒を呑み始め、あっという間に体重が80kg近くなった。運動不足と深夜の飲食は不健康への近道だ。肥大するウエストのために毎年ズボンを買い替えた。腹が出てくれば当然ズボンは下がりがちとなる。私はしょっちゅうベルトを外してファスナーを下ろしてはシャツをたくし込んだ。女性の前でも平然と行ったため随分とひんしゅくを買った。ウエストが92cmに落ち着いてからはサスペンダーを愛用してきた。

 40代で無呼吸症候群が発覚し、その後アルコールを飲むと不整脈が起こるようになった。48歳で生まれて始めて肩凝りを経験したあたりから体への意識が芽生え始めた。五十肩はチューブトレーニングを行い1週間で治した。日常的には歩くことを心掛けた。50代でバドミントンをやったら立て続けに三度もふくらはぎの肉離れを起こした。で、昨年から自転車に乗り始めた。保有しているのはスピンバイク、懸垂マシン、腹筋ローラー、バイクの古チューブである。食べ物もかなり気をつかっている。

 身体のピークは60代と伊藤は言い切る。更に性格も体操で変えられるとまで語る。見上げた確信だ。ベストセラーズ版が絶版となり本書は「幻の」と噂されるまでに至った。とはいうものの内容がベーシック過ぎて素人にはピンと来ない。その意味では瞑想とよく似ている。本気で取り組まないと変化を実感することは難しい。

 体幹を極めると胴体力になる。骨盤を中心とした胴体のしなやかな動きが手足の筋力を最大限に活かすのだ。単調な筋トレは体を壊しやすい。動きを変えるためには全身のバランスを調える方が望ましい。

読み始める

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ペトロダラー戦争――イラク戦争の秘密、そしてドルとエネルギーの未来
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2019-10-26

消費税は「消費行動についての罰金」/『「10%消費税」が日本経済を破壊する 今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』藤井聡


『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』中野剛志
・『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』中野剛志

 ・消費税は「消費行動についての罰金」

 そもそも消費税というものは、消費者にとっては、【「消費行動についての罰金」】のようなものだ。だから、消費税を上げれば、必然的に消費にブレーキがかかることとなるわけだ。
 いずれにせよ、私たちの世帯は平均で、消費増税によって実に年34万円(369万円→335万円)もの消費を削ることとなったのである。
 これは別の角度から言うなら、【消費増税のせいで、私達(ママ)は1世帯あたり年間34万円分も「貧しい暮らし」を余儀なくされるようになった】ことを示している。
 当たり前の話だが、年間34万円といえば、決して少なくない金額ではない。これは、消費増税の直前の消費水準からすれば実に9.2%もの水準に達する。つまり、【消費増税によって、私たちは、買えるモノが1割近くも少なくなってしまった、】というわけだ。

【『「10%消費税」が日本経済を破壊する 今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』藤井聡〈ふじい・さとし〉(晶文社、2018年)】

 わかりやすい話である。ただ如何せん文章が悪い。タイトルも冗長だ。藤井聡はチャンネル桜でもMMTの話になると甲高い声で感情的になる悪い癖がある。「我こそは正義」との思い込みがあればたちまち説得力を失う。本当に正しい態度は常に静かなものだ。

 髙橋洋一によれば安倍首相自体は消費税増税に賛成しているわけではないが、麻生財務大臣に配慮した結果であるという。で、麻生財務大臣がなぜ増税を推進するかといえば、「財務官僚と頭のレベルが違いすぎる」から。ただそれだけのことらしい。


 麻生の父・太賀吉〈たかきち〉は経済同友会の幹事を務めたので、麻生セメントとしての判断なのかもしれない。

 消費税増税、対中政策の甘さ、香港デモに対する無関心など安倍政権に対する風当たりが強くなっている。特に最近は保守層からの批判が目立ち、チャンネル桜に至っては「反安倍」に舵を切ったようにさえ見える。長期政権に対する飽きもあるのだろう。宿願だった憲法改正が遠のいてやる気がなくなったような印象も受ける。

 トランプ大統領の登場によってグローバリズムが終焉し、新たな帝国主義時代が幕を開けようとしている。アメリカが保護主義に走るのだから日本の覇権からも退くのは当然であろう。沖縄から米軍が撤退するのも時間の問題だと思われる。その時アジアの覇権を巡って中国が前に出てくる。これに対して日本が自国の防衛だけにとどまるのか、それとも台湾・ASEAN諸国と同盟を結ぶかどうかが問われる。

 マッカーサーが占領期のどさくさに紛れて制定した憲法を破棄することはおろか、改正すらできない国民が西太平洋の平和に責任を持てるはずがない。つまり新たな日中戦争の直前になし崩し的な格好で憲法は変えられる可能性が大きい。とすると、またぞろ大東亜戦争のように行きあたりばったりの戦闘が行われることだろう。

 愚民の常として私も偉大なリーダーを待望する者であるが、教育改革やメディア改革に大鉈を振るう人物でなければ、この国の国民はいつまで経っても無責任な平和主義者として戦争に反対を唱え続けることだろう。

米国三大死因の第3位は「回避可能な医療過誤」/『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド


『無責任の構造 モラルハザードへの知的戦略』岡本浩一
『生き残る判断 生き残れない行動 大災害・テロの生存者たちの証言で判明』アマンダ・リプリー
『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』アトゥール・ガワンデ

 ・米国三大死因の第3位は「回避可能な医療過誤」

『予言がはずれるとき この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する』L・フェスティンガー、H・W・リーケン、S・シャクター
『アナタはなぜチェックリストを使わないのか? 重大な局面で“正しい決断”をする方法』アトゥール・ガワンデ

必読書リスト その二

 実はこうした失敗と成功には、切っても切れない関係がある。まずはその関係を理解するために、安全重視にかかわる二大業界、医療業界と航空業界を比較してみよう。両者の組織文化や心理的背景には大きな違いがある。中でも根本的に異なるのが、失敗に対するアプローチだ。
 航空業界のアプローチは傑出している。航空機にはすべて、ほぼ破砕不可能な「ブラックボックス」がふたつ装備されている。ひとつは飛行データ(機体の動作に関するデータ)を記録し、もうひとつはコックピット内の音声を録音するものだ。事故があれば、このブラックボックスが回収され、データ分析によって原因が究明される。そして、二度と同じ失敗が起こらないよう速やかに対策がとられる。
 この仕組みによって、航空業界はいまや圧倒的な安全記録を達成している。しかし、1912年当時には、米陸軍パイロットの14人に8人が事故で命を落としていた。2人に1人以上の割合だ。(中略)
 今日、状況は大きく改善されている。国際航空運送協会(IATA)によれば、2013年には、3640万機の民間機が30億人の乗客を乗せて世界中の空を飛んだが、そのうち亡くなったのは210人のみだ。欧米で製造されたジェット機については、事故率は【フライト100万回につき0.41回】。単純計算すると約240万フライトに1回の割合となる。(中略)
 航空業界においては、新たな課題が毎週のように生じるため、不測の事態はいつでも起こり得るという認識がある。だからこそ彼らは過去の失敗から学ぶ努力を絶やさない。
 しかし、医療業界では状況が大きく異なる。1999年、米国医学研究所は「人は誰でも間違える」と題した画期的な調査レポートを発表した。その調査によれば、アメリカでは毎年4万4000~9万8000人が、【回避可能な医療過誤】によって死亡しているという。
 ハーバード大学のルシアン・リープ教授が行った包括的調査では、さらにその数が増える。アメリカ国内だけで、毎年100万人が医療過誤による健康被害を受け、12万人が死亡しているというのだ。(中略)
 現在世界で最も尊敬を集める医師の1人、ジョンズ・ホプキンズ大学医学部のピーター・プロノボスト教授は、2014年の米上院公聴会で次のように発言した。

【つまり、ボーイング747が毎日2機、事故を起こしているようなものです。あるいは、2カ月に1回「9.11事件」が起こっているのに等しい。回避可能な医療過誤がこれだけの頻度で起こっている事実を黙認することは許されません】。

 この数値で見ると、「回避可能な医療過誤」は「心疾患」「がん」に次ぐ、アメリカの三大死因の第3位に浮上する。しかし、まだ不完全だ。老人ホームでの死亡率のほか、薬局、個人病院(歯科や眼科も含む)など、調査が行き届きにくい死亡事故はこのデータに含まれていない。

【『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド:有枝春〈うえだ・はる〉訳(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年)】

 冒頭で医療ミスのエピソードが語られる。信じ難いヒューマンエラーがいくつも重なりエレインという女性が37歳の若さで亡くなった。続いて「生命を預かる仕事」の代表である医療業界と航空業界を比較して医療業界の杜撰さと被害者の多さを検証する。エレインの夫マーティンは死までの経過を知りたかった。決して医療ミスを見抜いたわけではなかった。ただ知りたかったのだ。マーティンの職業はパイロットであった。

 マーティン・ブロミリーは巻末にも登場する。彼は若き妻を失ったことにより、医療ミスを防止するための世界的なネットワークを構築した。航空業界は「失敗から学び」、医療業界は「失敗を隠す」。たったこれだけの違いが25万人もの人々を死なせているのだ(CNN.co.jp 2016年5月4日)。

 失敗には必ずパターンがある。ヒューマンエラーを防ぐことは不可能だが、仕組みや手順を変えることでエラーの数を減らすことは可能だ。これは仕事のみならず日常生活においても同様である。いくら「同じ轍(てつ)を踏まない」と力んでも無駄だ。システムを見直すことが最も重要で、ミスを犯す直前の動きを検証する眼が必要なのだ。

「命を守る」べき病院で殺される現実に現代社会の複雑さがある。医療の仕組みは保険報酬で規定される。薬を処方するのが医師の仕事と化した感があり、不要な薬が新たな医原病を生んでいる。

 一人の医療過誤被害者家族が立ち上がって世界の医療システムを変えつつある。一人の力は侮れない。

『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』を先に読めば衝撃の度合いが深まる。今年読んだ本の中で最も面白かった一冊である。

2019-10-25

病苦への対処/『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』アトゥール・ガワンデ


『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
『往復書簡 いのちへの対話 露の身ながら』多田富雄、柳澤桂子
『逝かない身体 ALS的日常を生きる』川口有美子

 ・病苦への対処
 ・老人ホームに革命を起こす

『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド
『アナタはなぜチェックリストを使わないのか? 重大な局面で“正しい決断”をする方法』アトゥール・ガワンデ
『悲しみの秘義』若松英輔

必読書リスト その二

 超高齢者にとっての行き場所が火山に行く(※スピリット湖のハリー・トルーマン)か、人生のすべての自由を捨てるかの二者択一になってしまったのはどうしてなのだろう。何が起こったのかを理解するためには、救貧院がどのようにして今ある施設に置き換えられたのか、その歴史を辿る必要がある――そして、それは医療の歴史にもなっている。今あるナーシング・ホームは、弱ったお年寄りに悲惨な場所とは違う、よい暮らしを与えようという願いから始まったものではない。全体を見渡し、こんなふうにまわりに問いかけた人は一人もいなかった、「みなが知っているように、人生には自分一人では生活できない時期というのがある、だから、その時期を過ごしやすくする手段を私たちは見つけなければいけない」。このような質問ではなく、かわりに「これは医学上の問題のようだ。この人たちを病院に入れよう。医師が何とかしてくれるだろう」。現代のナーシング・ホームはここから始まった。成り行き上そうなったのである。
 20世紀の中ごろ、医学は急速な歴史的な変革を経験した。それまでは重病人が来たとき、医師は家に帰らせることが通常だった。病院の主な役割は保護だった。
 偉大な作家兼医師であるルイス・トーマスが、1937年のボストン市立病院でのインターンシップの経験をもとにこのように書いている。「もし病院のベッドに何かよいものがあるとしたならば、それはぬくもりと保護、食事、そして注意深くフレンドリーなケア、加えてこれらを司る看護師の比類ないスキルだ。生き延びられるかどうかは疾病それ自体の自然な経過にかかっている。医学それ自体の影響はまったくないか、あってもわずかだ」
 第二次世界大戦後、状況は根本的に変わった。サルファ剤やペニシリン、そして数え切れないほどの抗生物質が使えるようになり、感染症を治せるようになった。血圧をコントロールしたり、ホルモン・バランスの乱れを治したりできる薬が見つかった。心臓手術から人工呼吸器、さらに腎臓移植と医学の飛躍的な進歩が常識になった。医師はヒーローになり、病院は病いと失望の象徴から希望と快癒の場所になった。
 病院を建てるスピードは十分ではなかった。米国では1946年に連邦議会がヒル・バートン法を成立させ、多額の政府資金が病院建設に投じられることになった。法の成立後、20年間で米国全体で9000以上の医療施設に補助金が下りた。歴史上初めて、国民のほとんどが近くに病院をもつようになった。これは他の工業国でも同様である。
 この変革の影響力はいくら強調しても強調しすぎることはない。人類が地球に出現してい以来、ほとんどの間、人は自分の身体から生じる苦痛に対して自分自身で対処することが基本だった。自然と運、そして家族と宗教に頼るしかなかった。

【『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』アトゥール・ガワンデ:原井宏明〈はらい・ひろあき〉訳(みすず書房、2017年)】

 シッダールタ・ムカジーに続いてまたぞろインド系アメリカ人である。しかもこの二人は文筆業を生業(なりわい)とする人物ではないことまで共通している。ガワンデは現役の医師だ。

 長々とテキストを綴ったのは最後の一文で受けた私の衝撃を少しでも理解して欲しいためだ。人類が宗教を必要とした理由をこれほど端的に語った言葉はない。

 都市部に集中する人口や核家族化によって、年老いた親の面倒を子供が見るというそれまで当たり前とされた義務を果たすことができなくなった。手に負えない情況に陥ればあっさりと親は老人ホームや介護施設に預けられる。保険報酬と低賃金で運営される施設の介護とは名ばかりで、まともな客としてすら扱っていない。老人は籠の中の鳥として生きるのみだ。ま、苦労と苦痛のアウトソーシングといってよい。あるいは親を殺す羽目になることを避けるための保険料と言い得るかもしれない。

「自然と運、そして家族と宗教に頼るしかなかった」人類は病院と薬を得て人生の恐怖を克服した。家の中から死は消え去った。数千年間に渡って人類を支えてきた宗教は滅び去り、家族は小ぢんまりとしたサイズに移り変わった。そこに登場したのがテレビであった。核家族はテレビの前で肩を寄せ合い、団らんを繰り広げた。未来の薔薇色を示した情報化社会は逆説的に灰色となって複雑な問題を露見し始めた。校内暴力~親殺し~いじめ~学級崩壊~引きこもりは社会の歪(ひず)みが子供という弱い部分に現れた現象である。

 宗教を手放した人類はバラバラの存在になってしまった。もはや我々はイデオロギーのもとに集まることもない。ただ辛うじて利益を共有する会社に身を置いているだけだ。その会社が経費のかからない手軽な人材の派遣を認めれば、もはやつながりは社会から失われる。

 幕末の知識人はエコノミーを経世済民と訳した。「世を経(おさ)め民を済(すく)う」のが経済の本義である。ところが21世紀の経営者は低賃金を求めて工場を海外へ移転して日本を空洞化し、国内においては移民政策を推進して安い労働力の確保に血道を上げている。その所業は「民を喰う」有り様を呈している。所業無情。

 今元気な人もやがて必ず医療・介護の世話になる。日本人の平均寿命から健康寿命を差し引けば10年となる。これが要介護年数の平均だ。スウェーデンは寝たきり老人ゼロ社会であるという(『週刊現代』2015年9月26日・10月6日合併号)。『欧米に寝たきり老人はいない 自分で決める人生最後の医療』という本もある。社会的コストを軽減するための形を変えた姥(うば)捨て文化なのだろう。もちろんそういった選択肢をする人がいてもよい。ただし老病と向き合う姿勢が忌避であることに変わりはなかろう。

 生き甲斐は現代病の一つである。生き甲斐という物語を想定すると「生き甲斐がなければ死んだ方がまし」と単純に思い込んでしまう。本当にそうなのか? そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

 まずは介護環境を変えることから始める必要がある。保険報酬も予防に重きを置くべきだ。基本は食事療法と運動療法が中心となる。運動→武術→ヨガ→瞑想という流れが私の考える理想である。

 介護施設に関しては施設内のコミュニティ化・社会化を目指せばよい。実際に行うのは何らかの作業と会話であるが、コミュニケーションに最大の目的がある。誰かとコミュニケートできれば人は生きてゆけるのだから。