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2014-07-05

近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しない/『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃


・『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃

 ・近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しない

 この社会は「文明の衝突」に直面しているのかもしれない。国家の様態は清朝末期の中国に等しく、外国人投資家によって過半数株式を制圧された経済市場とは租界のようなものだろう。つまり外国人の口利きである「買弁」が最も金になるのであり、政策は市場取引されているのであり、すでに政治と背徳は同義に他ならない。
 TPPの正当性が喧伝されているが、近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しないのであり、70年代からフリードマン(市場原理主義者)理論の実験場となった南米やアジア各国はいずれも経済破綻に陥り、壮絶な格差と貧困が蔓延し、いまだに後遺症として財政危機を繰り返している。
 今回の執筆にあたっては、グローバル資本による世界支配をテーマに現象の考察を試みたのだが、彼らのスキームは極めてシンプルだ。
 傀儡政権を樹立し、民営化、労働者の非正規化、関税撤廃、資本の自由化の推進によって多国籍企業の支配を絶対化させる。あるいは財政破綻に陥ったところでIMFや世界銀行が乗り込み、融資条件として公共資源の供出を迫るという手法だ。それは他国の出来事ではなく、この社会もまた同じ抑圧の体系に与(くみ)している。
 我々の錯誤とは内在本質への無理解なのだけれども、おおよそ西洋文明において略奪とは国営ビジネスであり、エリート層の特権であるわけだ。除法平価の軍隊がカリブ海でスペインの金塊輸送船を襲撃し、中国の民衆にアヘンを売りつけ、インドの綿製品市場を絶対化するため機織職人の手首を切り落とし、リヴァプールが奴隷貿易で栄えたことは公然だろう。
 グローバリズムという言葉は極めて抽象的なのだが、つまるところ16世紀から連綿と続く対外膨張エリートの有色人種支配に他ならない。この論理において我々非白人は人間とはみなされていないのであり、アステカやインカのインディオと同じく侵略地の労働資源に過ぎないわけだ。
 外国人投資家の利益を最大化するため労働法が改正され、労働者の約40%近くが使い捨ての非正規労働者となり、年間30兆円規模の賃金が不当に搾取されているのだから、この国の労働市場もコロンブス統治下のエスパニョーラ島と大差ないだろう。

【『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃〈きょうどう・ゆきの〉(三五館、2013年)】

 前著と比べるとパワー不足だが、言葉の切れ味とアジテーションは衰えていない。テレビや新聞の報道では窺い知るのことのできない支配構造を読み解く。ナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』の後塵を拝する格好となったが説明能力は決して劣っていない。

 興味深い210の言葉を紹介しているが、人名やタイトルだけで出典が曖昧なのは三五館の怠慢だ。ともすると悲観論に傾きすぎているように感じるが、警世の書と受け止めて自分の頭で考え抜くことが求められる。元々ブログから生まれた書籍ゆえ、この価格で著者に責任を押しつけるのはそれこそ読者の無責任というべきだ。

 一気に読むのではなくして、トイレにおいて少しずつ辞書を開くように楽しむのがよい。前著は既に絶版となっている。3.11後の日本を考えるヒントが豊富で、単なる陰謀モノではない。

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アメリカに「対外貿易」は存在しない/『ボーダレス・ワールド』大前研一

2014-05-24

他人が決めた基準に従うな/『悪党 小沢一郎に仕えて』石川知裕


 私がお勝手で片づけをしていると、小沢がいきなり怒り出した。
「おまえ、まだ、これ、大丈夫じゃないか」
 小沢はゴミ箱から未開封のレトルトカレーを取り出した。
「でも、先生、それは賞味期限切れていますよ」
「何を言ってんだ。まだ食えるだろう」
 12月2日の夜、立候補が認められ、2日後に記者会見を控えていた私は、小沢と大久保さんと深沢でキムチ鍋をつついた。3人で締めのおじやをかっこむと、小沢は語り始めた。
「おまえはこれからいろんな人と出会う。人と付き合っていると、悪口を言う人もいれば、いいことを言う人もいる。だが、人がどう評価しようと最後は自分で判断しなければならない」
「はい」
「夏のレトルトカレー、覚えているか?」
「あー、はい」
「あのレトルトカレーだってそうだろう。賞味期限は人が決めた基準だ。温めてみて食べて大丈夫だったらそれでいいじゃないか」

【『悪党 小沢一郎に仕えて』石川知裕〈いしかわ・ともひろ〉(朝日新聞出版、2011年)】

 2年前に読んだのだが、当時から見れば小沢一郎という名前が聞こえてくることは殆どなくなった。いやはや隔世の感がある。政治とカネの問題で検察側が勝利した見てよかろう。民主党は鳩山・小沢という功労者を切り捨てたことで党としては終わっていると思う。日本における二大政党制は頓挫した。今後の大きな流れとしては大連立に向かうような気がする。

 石川の筆致に小沢への敬意は感じられるが心酔ではない。そのバランス感覚が読み物としての価値を高めている。

 他人が決めた基準に従うな。そして小事をおろそかにするな。口数の少ない小沢の言葉だからこそ重みがある。説教じみた匂いもない。心から出たありのままの助言だろう。

 小沢が目指していたのは政治理念に基づく政党政治であり、そのための政界再編であった。ところが東日本大震災が起こり、気づいてみると世界中で保守主義志向が強まっていた。日本も例外ではない。中国・韓国の反日感情や領土問題によって国民感情は右側へ傾斜した。革新勢力の社民・共産は変わり映えすることなく、中道の公明は既に与党入りしてから15年も経ち、オール保守といった様相を呈している。

 民主党が政権をとっても何ひとつ変わらなかった。国民の落胆は大きい。選挙での選択肢がどんどん狭くなっている。間もなく軍靴の音が聞こえてきそうだ。

悪党―小沢一郎に仕えて

2014-04-05

官僚機構による社会資本の寡占/『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃


 ・官僚機構による社会資本の寡占

『円の支配者 誰が日本経済を崩壊させたのか』リチャード・A・ヴェルナー
・『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃
国会で高橋洋一が「国の借金」の嘘を暴く 2018/02/21 衆議院予算委員会公聴会

 この国は【官僚機構と米国から重層的に搾取を受けている】わけです。【各種租税、新規国債、借換債、財投債により編成される370兆円規模の特別会計から推計70兆円が人件費、福利厚生、償還費、天下り、関連団体の補助金として公的部門へ吸収され、さらに外国為替特別会計を通じ既述のごとく莫大な金が米国に収奪されるという図式です】。

【『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃〈きょうどう・ゆきの〉(ヒカルランド、2012年)以下同】

 ブログに大幅な加筆をした書籍である。全国紙系列の広告代理店で編集長を務めた人物で著者名はハンドルと思われる。ジャン・ボードリヤールを思わせる華麗な文体は意図的なもので正体を隠すためか。明らかにアジテーター的要素が強いが、傑出した説明能力の持ち主である。

【この国のエスタブリッシュメントが国民を殺戮している】わけです。経済産業省を頂点とする官僚機構が主導的に原発行政を推進し、電力企業関連会社に天下り、業界団体に公益法人を設立させ、さらに天下り、莫大な不労所得と引き換えに無軌道な運用管理を是認するという、監督者と被監督者による癒着(ゆちゃく)と共依存が利権の淵源(えんげん)となります。【文科省、国家公安委員、国土交通省などおおよそ主要官庁全てがこの腐敗構造に与(くみ)され、つまりは官僚機構】によるジェノサイド(大量虐殺)です。

 福島原発事故による被曝を声高に糾弾しているのは災害直後に書かれたためか。ただしここは吟味が必要なところで被曝の根拠が荒っぽい。国民が知るべきは原発利権であってエネルギー問題へと目を逸(そ)らしてはなるまい。

 国家システムのアルゴリズム(計算手順)とは、官僚機構の肥大化に他ならないわけです。繰り返しますが、【国税または地方税は全て官僚の給与、福利厚生および外郭団体の補助金として消えます。政府公表の公務員人件費総額には独立行政法人、特殊法人または特殊会社に属す「みなし公務員」の給与や補助金は含まれず、実際に租税から拠出される人件費または天下り団体の償還費等は年間70兆円に達すると推計されます】。

 官僚機構は癌細胞なのだろう。無限に増殖を繰り返し、肉体そのもの(国家)を滅ぼすまで蝕み続ける。著者は国家予算の中身を読めない者をB層と位置づけている。

【財政投融資とは、国民資産の不正流用】であり、【郵貯、年金、簡保の積立金が複雑な会計処理を経て特別会計予算に編入され国の外郭団体へ貸付けされ債権化】します。これまで400兆円規模の金が77の特殊法人や自治体などへ還流されながら、それらは統一されたバランスシート(貸借対照表)を持たず、財務内容も事業内容すらも不明瞭にいまだ跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しています。
 2002年に日医総研が年金積立金の調査を行ったところ、【147兆円あるべき運用資金が財政投融資による87兆円を毀損(きそん)している】実態が明らかとなりました。(中略)
【日本国の本質とは、官僚機構による社会資本の寡占(かせん)】であるわけです。【過剰な公債発行と国民資産の流用により370兆円規模の特別会計という裏予算を編成し独立行政法人、特殊法人、特殊会社さらに系列3000社のグループ企業へ還流させ、洗浄した社会資本を天下りにより合法的に収奪する】、これが利権構造の概観です。【国家予算とはすなわちブラックボックスであり、我々のイデオロギーとは旧ソビエトを凌ぐ官僚統制主義に他なりません】。

 複式簿記を導入しているのはたぶん東京都だけだ(石原慎太郎「こんなでたらめな会計制度、単式簿記でやっているのは、先進国で日本だけ」の真意。複式簿記とは何か。)。この国は国家予算のバランスシートさえ明らかにしていないのだ。驚愕の事実である。

 本当の「戦後レジーム」とは、米国の意向を受けた官報複合体の利権構造を意味する。つまり政治家から権力が剥奪されているのだ。立法府の役割は法整備と予算編成にあるわけだが完全に官僚が牛耳っている。この国では国会議員が起草する法案をわざわざ「議員立法」と呼称するほどで、可決される法案のうち20%にも満たない。

 日本をアメリカの属国にしているのは官僚とメディアだ。響堂雪乃の言葉は彼らを銃弾のように撃つ。



虐殺者コロンブス/『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』ハワード ジン、レベッカ・ステフォフ編
マネーと民主主義の密接な関係/『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康
マネーサプライ(マネーストック)とは/『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人
日本の原発はアメリカの核戦略の一環/『原発洗脳 アメリカに支配される日本の原子力』苫米地英人
資本主義経済崩壊の警鐘/『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン
「物質-情報当量」
汚職追求の闘士/『それでも私は腐敗と闘う』イングリッド・ベタンクール
借金人間(ホモ・デビトル)の誕生/『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
力の強いもの、ずる賢いものが得をする税金/『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎

2014-03-29

教団内部の政争/『乱脈経理 創価学会 VS. 国税庁の暗闘ドキュメント』矢野絢也


『折伏 創価学会の思想と行動』鶴見俊輔、森秀人、柳田邦夫、しまねきよし
『杉田』杉田かおる
『小説 聖教新聞 内部告発実録ノベル』グループS
『黒い手帖 創価学会「日本占領計画」の全記録』矢野絢也
『「黒い手帖」裁判全記録』矢野絢也

 ・教団内部の政争

 創価学会にまつわる数々の事件で汚れ仕事をやらされてきた著者が赤裸々に舞台裏を綴った手記である。矢野絢也のネゴシエーター振りは国税庁との攻防で見事に発揮されており、政治家としての力量が窺える。

 教団内部の政争が醜悪極まりない。それでも優れた読み物になっているのは著者の筆致が抑制されているからだ。声高に創価学会を糾弾することもなく、事実を淡々と綴っている印象が強い。

 創価学会の体質は巨大企業というよりは暴力団に近い。さしずめ創価一家といったところだろう。組長である池田大作を守るためなら、どの幹部であろうとも鉄砲玉のように扱われるのだ。矢野絢也も結果的にその一人となった。

 マンモス教団の乱脈経理にメスを入れるべく国税庁は池田大作の公私混同を問題視していた。全国の創価学会会館に設置されている池田のプライベートルームや、実質的に池田の別荘と化している各地の研修道場、そして海外要人への高価なプレゼントや公明党議員への報奨金および創価学会員への小遣いなど。


 国税庁との窓口は矢野が担当し、矢野はあらかじめ竹下元首相などに国税庁への働きかけを依頼していた。

 その5日後の4月18日、竹下元首相からの一本の電話は私を狂喜させた。竹下氏のちからをまざまざと見せつけるものだった。竹下氏は、事実上、(※第二次税務調査の)税金をゼロにするよう国税庁首脳部を説き伏せていたのだ。
「国税庁には“心にまで課税できない”と言っておいた。源泉徴収義務を怠った程度の扱いで収める。学会の山崎尚見〈やまざき・ひさみ〉副会長には“矢野さんの力でできたことだ”と話しておく。だが、山崎には、今後も注意するようにと言っておく」
 山崎氏は学会の政治担当で、公明党だけでなく、自民党首脳らとも接触していた。山崎氏は、竹下氏に以前から米などを付け届けしていた。このときはおそらく池田氏と秋谷氏の指示で、私とは別に念押しのために竹下氏と接触していたようだ。
 私は竹下氏に「ありがとうございました。ご恩は忘れません」と繰り返しお礼を言い、電話機に向かって何度も頭を下げた。

【『乱脈経理 創価学会 VS. 国税庁の暗闘ドキュメント』矢野絢也〈やの・じゅんや〉(講談社、2011年)】

 元々創価学会は困ったことがあると自民党代議士に泣きついてきた。言論出版妨害事件の際は田中角栄に仲裁を依頼している。

 ところがあろうことか公明党と創価学会はあっさりと竹下を裏切る。

 世論の激しい批判にさらされた金丸氏は10月14日、遂に議員辞職に追い込まれ、竹下派会長も辞任。竹下派では後任の会長を巡り、会長代行の小沢氏のグループと反小沢の小渕副会長のグループが激しく対立し、年末の竹下派分裂に突き進む。
 一方、皇民党事件に関連して、金丸、竹下両氏の国会証人喚問を求める声が高まり、竹下氏に対して議員辞職を求める声が政界から沸き起こった。
 竹下氏の議員辞職要求の先頭に立ったのは、こともあろうに学会への第二次税務調査潰しを竹下氏に頼んだ公明党の石田委員長だった。
 石田氏は14日の記者会見で「総裁選への暴力団関与は、民主政治の根幹に関わる問題だ」として、竹下、金丸両氏の証人喚問による真相解明に全力を上げることを表明、あわせて竹下氏の進退に言及し「議員辞職に値する」と言い切った。野党党首が竹下氏に議員辞職を求めたのは初めてで、これをきっかけに他の野党や自民党内からも竹下氏の議員辞職を求める声が相次いだ。
「公明党は竹下にきつい」という宮沢首相側近の指摘どおりの展開になったわけで、竹下氏の側近からさっそく私に抗議が来た。
「お宅の石田委員長がいちばん先に竹下辞任の口火を切ったが、どういうつもりか。恩知らずとはこのことを言うんだ」
 私は「マスコミに聞かれて、つい言ってしまったようだ」と苦しい弁明をしたが、私自身も石田氏の発言に腹を立てていた。私はすぐ竹下氏に連絡して謝罪した。石田発言によって追い詰められた竹下氏は不機嫌で「なぜ、よりによって石田に言われなければならないのか」と憮然としていた。(中略)
 しばらくすると竹下氏から電話があった。竹下氏は、懸命に心を静めようとしているらしく、いつもの淡々とした口調に戻っていた。竹下氏は私と話す前に学会の山崎副会長と話したという。
「山崎に私のほうから電話をして、自分の心境を話した。山崎は、石田に事情を聞いて連絡をすると話していた。学会との関係は変えたくないと思っている」
 だが翌日になっても山崎副会長は竹下氏に電話一本かけなかったという。
 山崎氏は、学会の政治担当として、第二次税務調査をはじめ問題があるたびに竹下氏にすがっていた。池田名誉会長個人の脱税問題では、竹下氏の力添えで脱税をもみ消してもらい、山崎氏も竹下氏に感謝していた。
 ところが竹下氏が政治的に追い込まれるや態度を一変させ、助け舟を出すどころか逆に追い落としにかかった。学会・公明党の首脳たちは冷酷、非情と言われても仕方がなかろう。

 創価学会は下衆の勘繰りをし「国税は竹下がけしかけたのではないか」と考えたのが真相のようだ。平然と恩を仇で返すところに創価学会の政治性があり、その後公明党が与党入りをしたことも納得がゆく。

 学会の裏切りを目のあたりして、さすがの竹下氏も「学会もわからないところだ」と憮然たる様子で私に愚痴を言った。
「山崎から連絡が来ない。私は文句を言った訳ではなく心境を話しただけなのになあ」
 私が言葉に窮していると、竹下氏は、国税庁の坂本前本部長が竹下氏のところに押しかけてきたことを明かした。
「坂本が私のところに来た。“我慢して便宜を図ってやったのに学会は許せない”といきりたっていた。私は“宗教は心の問題だから課税しないでいい”となだめておいた」
 それでも坂本氏は収まらず「ルノワール事件は今後、問題になる」と仕返しをほのめかすなど、怒り心頭だったそうだ。

「マムシの坂本」の異名を持つ坂本導聡〈さかもと・みちさと〉国税庁直税部長は竹下の側近であった。

 創価学会内部から国税庁に投書が寄せられているというのだから教団の腐敗ぶりが目に浮かぶ。日本一のマンモス教団が凋落するのも時間の問題だろう。私は戦後から高度経済成長期にかけて創価学会と日本共産党には一定の役割があったと考えているが、既に双方とも役割は果たし終えたものと見ている。

 公明党は大衆福祉を掲げて設立されたわけだが、国民の見えないところで消費税導入にも賛成していた事実が書かれている。政界で魑魅魍魎(ちみもうりょう)に魂を売ってしまった宗教者の成れの果てが哀れだ。権力が腐敗するように、巨大化する組織も腐敗を免れないのだろう。

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検察庁と国税庁という二大権力/『徴税権力 国税庁の研究』落合博実

2014-03-16

戦後民主主義は民主主義に非ず/『悪の民主主義 民主主義原論』小室直樹


『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『日本教の社会学』小室直樹、山本七平
『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹
『小室直樹の資本主義原論』小室直樹
『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は滅亡する』小室直樹

 ・戦後民主主義は民主主義に非ず

『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』小室直樹
『数学嫌いな人のための数学 数学原論』小室直樹
『日本人のための憲法原論』小室直樹

 戦後民主主義は、占領軍による強制というおよそ民主主義にふさわしくない方法で導入された。この尖鋭な矛盾が、「民主主義」の実質をその正反対のものに転化させた。これを「虚妄(きょもう)の民主主義」と称した人がいたが、「虚妄」などの生易(なまやさ)しいものではない。似而非(えせ)民主主義でもない。少しも似ていないからである。
 もっと悪いことに、日本人は少しも、この民主主義が、その正反対のものになりはてたことに気付いていないのである。また、「民主政治」最悪の衆愚政治に堕落したことを痛感していないのである。
 そのために、「平等」「自由」「人権」「議会」などの意味がとんでもなく誤解され、この誤解が教育の無間地獄をつうじて、おそろしい惨禍(さんか/わざわい)をまきちらしているのである。
 たとえば、「平等」の誤解は、「どの生徒にも同じことをさせる」という結果を生み、受験戦争を最終戦争にした。知的エリートを根絶させ、優者の責任(ノーブレス・オブリージュ)を埋没させて無責任体制を完成させた。「自由」の誤解は、権威と規範を失わせ若者を本能のままに放置する放埒(ほうらつ)となった。「人権」の誤解が殺人少年をのさばらせている。「議会」の誤解が、政治家を役人の傀儡(かいらい)にしている。
 民主主義教育の惨禍(さんか)は、新左翼の無目的殺人、カルト教団の無差別殺人と、とめどもなくエスカレートしていったが、ついに日本の舵(かじ)取りたる官僚制の究極的腐朽(ふきゅう)にいたった。この惨禍を激化しているのが凶悪犯罪の低年齢化である。
 今の日本にとっての急務(イマージェンシー)は、民主主義の真の理解である。

【『悪の民主主義 民主主義原論』小室直樹(青春出版社、1997年)以下同】

「架空デモクラシーは日本を廃人国家へと導く!」との帯が目を惹く。小室直樹の原論シリーズにはハズレがない。合理的かつ科学的である。

 私は民主制を信じていない上、悪しき制度であると考えている。そもそも「民主主義」という言葉自体が誤訳であろう。デモクラシーに「イズム」は付いていないのだから。住民自治程度の単位であれば民主制で構わないと思う。

 一応、選挙の投票と義務教育の学級会やホームルームで行われているのが民主制である。その他ではお目にかかったことがない。ただし民主制とはいえ、自由意志で投票判断することは考えにくい。業界団体や職場、あるいは教団の指示に従って投票しているだけのことだ。学校ではやはり友人の視線を気に掛けながら賛否を決めることだろう。コミュニティとは利益を共有する共同体であるため損得が優先される。政(まつりごと)はもともと祭り事であった。村から追い出されてしまえば祭りに参加することは不可能だ。村八分。

 民主とは名ばかりで、かつて私が主(あるじ)になったのは小学校4~6年生で学級代表を務めた時だけだ(笑)。そう。主には権力が必要なのだ。憲法すら形骸化するこの国で民が主となれるわけがない。

「民主主義」(デモクラシー)は、プラトン、アリストテレスの昔からずっとマイナス・イメージであった。それが、ウイルソン米大統領による第一次世界大戦における対独宣戦布告文にある「この世界をしてデモクラシーが住みよい所にするために」という宣言から、俄然(がぜん)プラス・イメージに転じたのであった。

 デモクラシーを鼓吹した連中も殆どが貴族制を支持していた(『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志)。

 民主主義が華々しい服装で登場したのは20世紀になってからとは知らなかった。以下のページが参考になる。

『民主主義』(8) デモクラシーと進歩主義|Generalstab

 ただしアメリカの説く民主制はアメリカ独自のものでアメリカン・デモクラシーといってよい。学問的にも分けて考えられている。それも当然だ。インディアンを大量虐殺し、黒人奴隷を保有していた連中が説く「民主」なんて誰も信じないに決まっている。

 民主制が群衆の叡智(集合知は群衆の叡智に非ず/『集合知の力、衆愚の罠 人と組織にとって最もすばらしいことは何か』 アラン・ブリスキン、シェリル・エリクソン、ジョン・オット、トム・キャラナン)を意味するなら、議会制を廃止してその都度インターネット国民投票で決めればよいことだ。運営コストも格段に安くなることだろう。

 私は政党政治にも嫌悪感を抱いている。党議拘束で所属議員を縛りつける政党が国民を縛るのは当然であろう。

 議論が成立する人数はどの程度であろうか? 私は20~30人くらいだと思う。だから政治家の数もその程度でよいのではないか? で、参議院は少し人数を増やして50人にすればよい。政党は廃止。賢人会議のようにする。議会はカメラが入り放題。議員は人口構成の世代別に準じて選別する。更に政治家は官僚の人事権を完全に掌握する。このくらいやらないと日本はまともな独立国になれない。官僚ファシズムは権力者の顔が見えない。そこが恐ろしい。

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2014-03-01

マネーと民主主義の密接な関係/『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康


「腐敗した銀行制度」カナダ12歳の少女による講演
30分で判る 経済の仕組み
「Money As Debt」(負債としてのお金)
武田邦彦『現代のコペルニクス』 日本の重大問題(2)国の借金

 ・マネーと民主主義の密接な関係

『マネーの正体 金融資産を守るためにわれわれが知っておくべきこと』吉田繁治
『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート

 マネーと民主主義の欺瞞に斬り込む好著。天野統康〈あまの・もとやす〉はファイナンシャル・プランナーで文章は「わかりやすい合理性」に心を砕いている。資本主義経済は既に政治を凌駕した。政治は経済に収束され、利権に着地する。選挙民は自分の頭で考えることなく、所属している企業・団体・組織・教団が支持する候補に投票する。大衆には責任がない。民主主義は必ず衆愚へと向かう。エントロピーは常に増大するのだ。

 冒頭で天野はマネーの多面性と構造が、「操作される民主主義」「偽りに基づく民主主義」へ誘導されたと指摘する。卓見である。近代をどう定義づけるかによって現代の姿は変わって映る。一般的には国民国家資本主義の誕生といわれるが、その淵源を知らなければただのお題目となる。

 千数百年にわたって積もりに積もってきたキリスト教のストレスは魔女狩りという形で発散した。西洋の中世は暴力の季節であった。その渦中からプロテスタントという花が咲いた。カトリックは金銭欲や私益を戒めた。プロテスタントは聖書を合理的に読み解くことで世俗的な欲望を認めた。

マルティン・ルターとジャン・カルヴァンの宗教改革(プロテスタンティズム)

 国民国家と資本主義といっても要は暴力とカネだ。しかも国民国家を待望したのは身分が不安定で金貸しをやらされてきたユダヤ人であったことも見逃してはなるまい。

何が魔女狩りを終わらせたのか?
「キリスト教征服の時代」から脱却する方途を探る

 資本主義経済と民主主義政治の融合は、ソ連などの20世紀型共産主義諸国が崩壊した後、最も主流となっている政治経済体制である。
 いきなり結論をお伝えするが、今までの自由民主主義諸国のほとんどは、国民よりも金融権力が社会への決定権において上位であった。
 金融権力は自らの金融力を基に、経済体制としての資本主義と、政治体制としての民主主義を巧みに操作してきた。
 この政治システムが実は、「【国際金融権力】」といわれる欧米の金融財閥を頂点とした力関係の中で営まれてきたのである。
 そのことについて、自由民主主義諸国の市民の多くは気づいてこなかった。マネーという、社会をコントロールする最大のツールを乗っ取られたことに気づいてこなかったのだ。
 そんな馬鹿な? と思うかもしれないが事実である。その証拠にマネーがどう作られ、どう無くなるのか知っているかを周りの人に聞いてみるとよい。ほとんどの人は答えられないだろう。
 マネーという支配ツールから目を逸らさせるために、金融権力は多大なる努力を払ってきた。その成果がさまざまな経済学である。経済の最も基本となるマネーについて、経済学は共通の定義をしてこなかった。その結果、ほとんどの人がマネーが増減するシステムを意識していない。

【『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康〈あまの・もとやす〉(成甲書房、2012年)】

 天野は民主主義と資本主義経済が組み合わさった社会を「自由民主主義経済社会」と名づける。布教しているのは第二次世界大戦の戦勝国であるアメリカとイギリスだ。プロテスタント国家でもある。

 我々にとって幸福や価値はカネで量(はか)るものに転落した。それどころかカネがなければ食うこともままならない。この事実がどれほど自然の摂理に反していることだろう。動物は労働とは無縁だ。

 信用創造というユダヤ人が編み出したビッグバンをプロテスタントが採用した。この時、人類の命運は決まった。脳が有するシンボル能力(『カミとヒトの解剖学』養老孟司)はマネーに特化し、すべての価値はカネに換算されるようになった。

 プロテスタントはマルティン・ルターが呈した「贖宥状への糾弾」に端を発している。そして宗教改革は「活版印刷術を用いて安価で大量の宣伝パンフレットを流布」(『宗教改革の真実 カトリックとプロテスタントの社会史』永田諒一)させることで実現した。つまり「カネと広告」だ。

 近代からアメリカが生まれた。ヨーロッパ人はインディアンを大量虐殺し、黒人奴隷を輸入することで栄えた。そのアメリカが世界の頂点に君臨する以上、我々の世界が暴力とカネに彩られることは避けられない。

 マネー・システムと化した世界を読み解く上で格好の入門書。次作にも期待が募る。




 類書を挙げておこう。左上から順番で読むのが望ましい。


 ファイナンシャル・リテラシーについては以下。

ファイナンシャル・リテラシーの基本を押さえる

 租税を回避するオフショア経由のマネーロンダリングについては以下。

マネーロンダリング入門―国際金融詐欺からテロ資金まで (幻冬舎新書)タックス・ヘイブン――逃げていく税金 (岩波新書)タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!

 米英による具体的な世界支配については以下の書評を参照せよ。

経済侵略の尖兵/『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス
環境帝国主義の本家アメリカは国内法で外国を制裁する/『動物保護運動の虚像 その源流と真の狙い』梅崎義人
資本主義経済崩壊の警鐘/『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン

 最後に動画を挙げておく。

Ende's Last Will
『モノポリー・マン 連邦準備銀行の手口』日本語字幕版
『Zeitgeist/ツァイトガイスト(時代精神)』『Zeitgeist Addendum/ツァイトガイスト・アデンダム』日本語字幕
映画『なぜアメリカは戦争を続けるのか』
『アメリカ:自由からファシズムへ』アーロン・ルッソ監督
『ザ・コーポレーション(The Corporation)日本語字幕版』



官僚機構による社会資本の寡占/『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃
「我々は意識を持つ自動人形である」/『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

2014-02-27

憲法は慣習法/『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹


『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『日本教の社会学』小室直樹、山本七平

 ・下位文化から下位規範が成立
 ・税金は国家と国民の最大のコミュニケーション
 ・イギリス革命は税制改革に端を発している
 ・憲法は慣習法

『税高くして民滅び、国亡ぶ』渡部昇一
『消費税減税ニッポン復活論』藤井聡、森井じゅん

 アメリカの例でも明らかであるが、また、ヒットラーも同じである。
 ヒットラーは4年(全権委任法で定められた期間)経っても、権力を国民に還(かえ)す積(つも)りなんか全然なかった。
 それどころか、独裁権力は、増々強力にされるばかりであった。
 それでも、ワイマール憲法が改正される事はなかった。
 より正確に言うと、改正の手続きが取られる事はなかった。
【形式上】、ワイーマール憲法は【生きていた】。
 しかも、【実質的】にはワイマール憲法は【死んだも同然】であった。
 こんな時、どう解釈する。
 ワイマール憲法は改正されたのか、未だ改正されてはいないのか。
 この場合、ワイマール憲法は改正された。
 こう解釈される。
【憲法学者は、全権委任法成立の時点を以って、ワイマール憲法は廃止された】。こう解釈する。
 1933年3月24日を以ってワイマール憲法は死んだ。
 そして、ヒットラーのドイツ第三帝国が生まれた。
 ワイマール憲法改正の為の手続きが取られようと取られまいと、そんな事は結局どうでもいい事なのである。
 憲法は、本質的には慣習法である。
【前例が慣習として確立されると、それは憲法の一部となる】。
 と言う事は、【憲法改正したも同じ事だ】。
 こう言う事なのである。
 この際、形式的に憲法改正の手続きが踏まれようと踏まれまいと、それは所詮どうでもいい事なのである。

【『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹(ビジネス社、2012年)以下同/カッパ・ビジネス、1989年『消費税の呪い 日本のデモクラシーが危ない』・天山文庫、1990年『悪魔の消費税』を改訂・改題】

 PKO(国際連合平和維持活動法案(1992年のPKO国会)がこの典型か。それまで平和と福祉を標榜してきた公明党が外交政策を転換して賛成に回った。後に自衛隊はインド洋イラクにも派遣される。

 また昨年暮れに自民党は自衛隊の海外武器携行制限を撤廃する方針を決めた。

 憲法とは国家権力に対する国民からの命令である。既に解釈改憲がまかり通っている以上、国家は民意に背いているといってよい。つまり憲法も民主主義も死んでしまったのだ。どおりで原発もなくならないわけだ。

消費税は民意を問うべし ―自主課税なき処にデモクラシーなし―
小室直樹
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2014-02-25

イギリス革命は税制改革に端を発している/『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹


『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『日本教の社会学』小室直樹、山本七平

 ・下位文化から下位規範が成立
 ・税金は国家と国民の最大のコミュニケーション
 ・イギリス革命は税制改革に端を発している
 ・憲法は慣習法

『税高くして民滅び、国亡ぶ』渡部昇一
『消費税減税ニッポン復活論』藤井聡、森井じゅん

 イギリスこそがデモクラシーの元祖開山である。
 日本人は、大概こう思っている。
 その【イギリス革命は税制改革に端を発している】。
 1649年の清教徒革命。イギリス諸革命の中でも最初にして最も根本的(ラディカル)と言われる【清教徒革命は、1634年の建艦税(シップ・マネー)に始まった】。(中略)
 チャールズ1世は、絶対君主たる王の命令に依って、中世封建的税制を改革しようとした訳であった。
 が、この税制改革には、待ったが掛かった。
 地主達の猛反対に遭遇(そうぐう)する羽目(はめ)になったのであった。
 ジョン・ハムプデンは、20シリングの建艦税を支払う事を拒絶した。ハムプデンは、「建艦税は、違法なり」として、裁判所に訴えたのであった。
 過半数の判事は、王によって任命され、王の影響下にあった。建艦税は合法である。「非常の際に於いては、王の大権は制限を受ける事がない」
 こう判決が下った。
【この判決に、清教徒達は抗議した】。王の圧政に抵抗したと、ジョン・ハムプデンは、一躍英雄になった。
 この建艦税騒動が、1649年における清教徒革命の発端(ほったん)となったのである。

【『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹(ビジネス社、2012年)以下同/カッパ・ビジネス、1989年『消費税の呪い 日本のデモクラシーが危ない』・天山文庫、1990年『悪魔の消費税』を改訂・改題】

 もちろん税はきっかけであって、それだけでピューリタン革命が成ったわけではない。社会の歪みが税という形に極まり、民の怒りが沸点に達したのだろう。そして新しい思想(宗教)が興(おこ)る。

 先代のジェームズ1世の迫害から逃れたピルグリム・ファーザーズの渡米が1920年だから、ほぼ同時と見てよい。

 圧政や苛政は必ず税となって民を苦しめる。そして民の忍耐が限界に達すると革命が起こる。ただし日本の場合は江戸時代が長すぎて、黒船(=外圧)を待つ傾向が強い。

【清教徒革命のテーマは、「国民の同意抜きの税制改革には応じられない」ここにあった】。(中略)
 この際の【イギリス国民の同意とは、議会の議決と言う事である】。

 議会の議決にはこれほどの重みがある。ジョン・ハムデンはたった20シリングの税を拒むことでピューリタン革命の端緒を開いた。この4月から消費税は5%から8%にアップする。我々は3月までに駆け込みで大きな買い物を済ませ、4月から倹約するだけでよいのだろうか? 消費税は低所得者になればなるほど痛税感が高まる。その「痛み」を私が許した覚えはない。一方では法人税引き下げの検討が活発化している。孔子は政治を行う上で最も大切なものを「民信無くば立たず」と示した(『論語』)。立たねば倒れるのみ。

消費税は民意を問うべし ―自主課税なき処にデモクラシーなし―
小室直樹
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2014-02-24

税金は国家と国民の最大のコミュニケーション/『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹


『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『日本教の社会学』小室直樹、山本七平

 ・下位文化から下位規範が成立
 ・税金は国家と国民の最大のコミュニケーション
 ・イギリス革命は税制改革に端を発している
 ・憲法は慣習法

『税高くして民滅び、国亡ぶ』渡部昇一
『消費税減税ニッポン復活論』藤井聡、森井じゅん

「消費税の呪(のろ)いに依(よ)って、日本資本主義は破綻(はたん)するだろう。デモクラシーも滅びるだろう」と小室は予告する。

 その理由は、第一に伝票(インヴォイス)方式を採用しなかったからである。
 伝票方式にすると、仕入れと販売のエッセンスは、丸(まる)でガラス張りになる。
 少なくともその重要な部分は見え見えになる。消費者にも税務署にもお金の流れがはっきりするから、税金を誤魔化(ごまか)す余地は非常に少なくなる。
 伝票方式の最大の良い処(ところは)、脱税がし難(にく)くなる事である。
 誰しも一番頭に来る事は、脱税のチャンスの不平等である。【クロヨン】(9-6-4)、【トーゴーサンピン】(10-5-3-1)と言う例のあれだ。
 サラリーマンや著述業などの所得が殆ど100パーセント透明ガラス張りなのに、中小企業は曇りガラス。農業等は雨戸張り。(中略)
 武田信玄は、租庸(そよう/税金)の取り方に付(ママ)いて言った。
【「租庸で大切な事は、重きにあらず軽きにあらず、公平にあり」】と。(中略)
 徴税(税金を取り立てる)の不公平となると、根本的に違ってくる。
 それは【不公平であるだけでなく、不正でもある】からである。
 特に、デモクラシー諸国に於いては致命的である。
【デモクラシー諸国に於いては、税金の遣(や)り取りこそ国と国民との最大のコミュニケーションである】からである。
【税金こそ、デモクラシーの血液】である。
 血液の循環に依って身体が保たれる様に、税金の循環に依ってデモクラシーは保たれる。
 血液の循環が詰まれば大変である。脳血栓(のうけっせん)、脳梗塞(のうこうそく)等の重病となる。町税が出来なくて税金の循環が詰まれば、デモクラシーは死に兼ねない。

【『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹(ビジネス社、2012年)/カッパ・ビジネス、1989年『消費税の呪い 日本のデモクラシーが危ない』・天山文庫、1990年『悪魔の消費税』を改訂・改題】

 資本主義は資本を所有する者が強者となる世界だ。で、強者は自分に都合のよい仕組みをつくりだす。経団連を見れば一目瞭然だ。多分インボイス方式を採用しなかったのは竹下登首相(当時)による政治的配慮だろう。

 一方で国民はものわかりがよい。「ま、国も赤字で困っているようだから仕方がない」と財布を開くたびに消費税を支払う。一片の疑問を抱くこともなく。

 トータルの税金で日本は既にスウェーデンを抜いている。

消費税率を上げても税収は増えない

 実に所得の55.4%が税という名目で奪われているのだ。にもかかわらず福祉大国ではない事実がおかしい。富の再分配が偏っていることは明らかだろう。人体に例えるなら、きっと心臓から上の方にしか血液が回っていない状態だ。足はとっくに壊死状態だ。

 よき国家であれば、国民は税を支払うことに誇りをもつことだろう。だが資本主義はそれを許さない。なぜなら企業の目的は利潤の最大化にあるからだ。

 巨大資本は多国籍企業となり、タックス・ヘイヴン経由で租税を回避する。アメリカもイギリスも国内にタックス・ヘイヴンが存在する。資本は税を嫌うのだ。

 そして今や、ショック・ドクトリンによって発展途上国の予算やIMFからの融資金を一部の多国籍企業が簒奪(さんだつ)する。資本主義とは不平等の異名である。人類の限界に至るまで差別を助長するに違いない。

 たとえ世界大戦が起こったところでこの仕組みが変わることはない。なぜなら実際の資本は既に眼に映らぬオンライン上に存在するからだ。銀行にある現金は預金の20%程度といわれる。

 この邪悪な資本主義金融体制を倒すためには、スーパーリッチと呼ばれる連中を死刑にするしかない。私に浮かぶアイディアはそれくらいだ。


力の強いもの、ずる賢いものが得をする税金/『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎
マネーと言葉に限られたコミュニケーション/『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎

2014-02-23

下位文化から下位規範が成立/『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹


『新戦争論 “平和主義者”が戦争を起こす』小室直樹
『日本教の社会学』小室直樹、山本七平

 ・下位文化から下位規範が成立
 ・税金は国家と国民の最大のコミュニケーション
 ・イギリス革命は税制改革に端を発している
 ・憲法は慣習法

『税高くして民滅び、国亡ぶ』渡部昇一
『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は滅亡する』小室直樹
『消費税減税ニッポン復活論』藤井聡、森井じゅん

 小室は消費税の簡易課税制度(※売上の20%を付加価値と見なし、これに消費税を課す。残りの80%は仕入れと原材料費と見なされる)が脱税の温床であると指摘する。それどころか「脱税制度そのもの」であると言い切る。

 そして企業間で脱税が日常茶飯の社会行動と化す時、事業計画の中で「重要な変数」として扱われる。脱税プログラミングが開発され、悪徳数学者と悪徳経済学者と悪徳弁護士らが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)し、手を組んで、やがて日本経済を危機に陥れる。これが小室の懸念だ。

【定常的な犯罪集団が形成されると、そこに下位文化(サブ・カルチャー)が生まれる。】
 犯罪者集団独自の下位文化だ。この下位文化は、確(しっか)りと成員の行動を規定する(縛り付ける)。
 そして、各成員は、斯くの如く規定された行動をする事が当然だと思い込む様になる。それが正しいと思ってしまうのである。【ここが恐ろしい】。
 ぞっとしても足りない程である。
 社会にとっては紛(まぎ)れもなく犯罪に違いない事も、犯罪者集団は全く正しい事だと思い込む様になってしまうのである。
 と言う事は、どう言う事か。
 犯罪者集団の成員は、堂々と犯罪行為を行なうと言う事だ。堂々と、良心の呵責(かしゃく)なんか何もなく。
 社会全体の人々にとって、これより恐ろしい事は、またと考えられない。
 だって、そうだろう。
 普通、犯罪者と雖(いえど)も良心の呵責に苛(さいな)まれる。こんな事、心ならずも仕出かしてしまったが、本心ではやりたくはなかったんだ。
 これこそ、犯罪に対する最大・最強の歯止め、バラバラな犯罪者の行為が、それほど恐ろしくないと言うのも、右の理由に因(よ)る。が、犯罪者集団が、定常的に、存在するとなると、事情は根本的に変わってくる。この犯罪者集団の中に下位文化が発生する事になると、尚更(なおさら)の事だ。
 そうなると、下位規範(サブ・ノルム)が成立するであろう。詰(つ)まり、社会全体の規範(ノルム)とは全く違った規範が成立してしまうんのだ。これは大変である。
 社会全体が正しいと思った事でも、この犯罪者集団では正しくない。社会全体が許さないと言ったところで、この犯罪者集団でなら許される。
 犯罪者集団の構成員は、確信を以(も)って犯罪行為を遂行する。
 決して、オドオドしたりしない。後悔を感じたりはしないものなのである。
 確信を以って、所謂(いわゆる)「犯罪行為」を遂行する。オール確信犯と言って良い。

【『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹(ビジネス社、2012年)/カッパ・ビジネス、1989年『消費税の呪い 日本のデモクラシーが危ない』・天山文庫、1990年『悪魔の消費税』を改訂・改題】

 脱税が常態化した企業内部のメカニズム原理を見事に抽出している。小室の文体には独特の臭みとしつこさがあるが、何も考えずに慣れた方がよい。漢字表記についても同様だ。

 小室は学問の原理に忠実な人物であった。一切の妥協を許さなかった稀有な学者であった。弟子の一人である宮台真司は常々「天才」と絶賛している。あの宮台がである。

 このテキストが凄いのは、あらゆる閉鎖的集団の内部構造を説明しきっているところだ。例えば政治的談合、あるいは省益・庁益のために働く官僚、そしてコンプライアンスを無視して利益のみを追求する企業。はたまたブラック企業・健康食品のマルチ商法、更には宗教団体やテロリスト集団にまで適用可能だ。

 下位文化から下位規範が成立する。その規範とは「村の掟」だ。村人たちにとって「村の掟」は法律よりも重い。なぜなら彼らはそこに住み、生きてゆく他ないからだ。

 人間の脳は同調圧力に対して屈する傾向が強い。それを社会心理学的に証明したのがソロモン・アッシュの同調実験であった。

アッシュの同調実験/『服従の心理』スタンレー・ミルグラム

 ヒトの社会性は本能に同調を促し、集団生活に収まることで生き延びる確率を高めたのだろう。つまり「集団に属する」ことは「その集団に同調する」ことを意味すると考えてよい。

 我々は「皆がやっていることだから」という事実に基づいて自分自身をたやすく免罪する。営業マンを見れば一目瞭然だ。不自然なハイテンション、リスクに触れることのない説明、特定商取引法第16条を無視した営業トーク。あいつらは売れさえすればそれでいいのだ。自分のグラフを伸ばすためならどんなことでもやりかねない。

 規範というものはある行動を規制しながらも別の行動を強く促す。集団内のモラルは時に世間のインモラルと化す。しかも官僚や企業の場合、賃金という形で返ってくる。どうせ労働力を売るなら高い方がよい。しかも多少我慢すれば一生面倒を見てもらえる。

 結局のところ我々全員が損得で物事を判断しているのだろう。賃金の上昇を望む人は多いが、モラルの上昇を望む人を見たことがない。時折、正義感を発揮して内部告発をする勇者が登場すると、「馬鹿だよなー。おとなしくしていれば安全な人生を歩めたのに」などとテレビ越しに見つめる人も多い。

 ザル法が日本経済を破壊することを覚えておこう。この春から消費税が増税される。デフレ脱却前に増税を決定したのは致命的な判断ミスだ。ワーキングプアも放置されたままだ。また消費税と自殺者数には相関関係があることも忘れぬように(『消費税のカラクリ』斎藤貴男)。

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読書人階級を再生せよ/『人間の叡智』佐藤優

2014-02-06

数億円単位の寄付を強要する創価学会/『「黒い手帖」裁判全記録』矢野絢也


『折伏 創価学会の思想と行動』鶴見俊輔、森秀人、柳田邦夫、しまねきよし
『黒い手帖 創価学会「日本占領計画」の全記録』矢野絢也

 ・数億円単位の寄付を強要する創価学会

『乱脈経理 創価学会 VS. 国税庁の暗闘ドキュメント』矢野絢也

 2009年の控訴審判決で矢野側(矢野絢也と講談社)が逆転勝訴した。敗訴したのは公明党OBの大川清幸〈おおかわ・きよゆき〉元参議院議員、伏木和雄〈ふしき・かずお〉元衆議院議員、黒柳明参議院議員の3名である。裁判では彼らの脅迫行為が認定された。

 矢野は2008年に創価学会を退会している。まあ、とにかく酷い話だ。公明党の代議士を務めた連中が裁判の証拠改竄(かいざん)までやってのけるのだから。彼らはただ創価学会の指示通りに動いているだけなのだろう。訴訟費用も創価学会の本部が捻出しているのではあるまいか。

 創価学会が行っていることは魔女狩りに等しい。疑心暗鬼に駆られて誰かが「あいつは魔女だ!」と言えば魔女と認定されてしまう構造だ。同じ教団に所属する信者を目の敵(かたき)にすることが教団内部の功績となるのだ。左翼のリンチと同じメカニズムといってよい。

 手口としてはこうだ。まず青年部首脳を使って矢野に政治評論家を辞めさせることを強要。そして翌日にはかつて公明党の同僚議員であった3名が自宅に押し寄せ、矢野の手帖100冊以上を押収した。

 それまで創価学会の汚れ仕事をやらしてきた矢野の手帖は一歩間違えれば池田大作の命取りになりかねない。そんな不安が透けて見える。青年部幹部にしても公明党OBにしても創価学会の手駒に過ぎない。仮に法を犯して表沙汰となっても切り捨てればいいだけのことだ。

 創価学会はかつて言論出版妨害事件(1969年)を起こしているが、その体質はまったく変わっていない事実が浮かび上がる。きっと創価学会にとって「都合の悪いこと」が山ほどあるのだろう。

 公明党OBは一旦は矢野宅を去り、1時間後に再び訪問する。

 驚いてわけを聞くと、3人はあれから公明党本部へ行ったが、そこで藤井富雄元公明党代表(元都議)と大久保直彦元公明党書記長(元衆議院議員)の二人に叱責されたらしい。

【『「黒い手帖」裁判全記録』矢野絢也〈やの・じゅんや〉(講談社、2009年)】

 藤井も専ら創価学会の汚れ仕事専門で山口組幹部とも親交があった事実を後藤忠政が『憚(はばか)りながら』(宝島社、2010年/宝島社文庫、2011年)で明らかにした。

 要は藤井と大久保に手帖強奪を指示されて公明党OBの3名は再度矢野宅を訪れたのだ。組長とチンピラの関係を彷彿(ほうふつ)とさせる。そして伏木が創価学会への多額の寄付を強く促した。

 寄付についてはこれだけではなかった。矢野は既に詫びを入れさせられるたびに寄付を強要されていた。

 私が海外出張へ行く時、文春の手記の県で戸田記念国際会館で西口良三〈にしぐち・りょうぞう〉副会長らに脅しと泣き落としで謝罪文を書かされたとき、100万円の寄付を求められている。「それが矢野さんのためです」と言われ、数日後、創価学会本部第一庶務室長で池田名誉会長側近の長谷川重夫氏(現副理事長)に100万円を渡した。そのとき長谷川氏から「罪滅ぼしには財務寄付しかない。寄付をすれば青年部の怒りもおさまるから」と言われた。
 その後、海外出張をへて青年部による吊るし上げ、OB3人の手帖奪取と家探し、寄付の強要という流れである。そして寄付については、この後長谷川氏から「罪滅ぼしのために2億~3億円の寄付をすべきだ」などと繰り返し求められることになるが、それについては後述しよう。

 正義と世界平和を声高に叫ぶ彼らも一皮めくればただの宗教屋であった。

 創価学会は矢野をみくびっていた。ちょっと脅せば組織の言いなりになって寄付も差し出すことだろうと踏んでいたはずだ。実は矢野絢也は創価学会の敵ではなかった。彼らは枯れすすきを幽霊に見立てるように判断を誤った。そして正真正銘の敵を彼ら自身の手で作り上げてしまったのだ。矢野の著作が創価学会の衰亡を決定的なものとしたように思えてならない。

 尚、本書は前著との重複が多く、どうせ読むなら『黒い手帖 創価学会「日本占領計画」の全記録』の方がお薦めできる。

「黒い手帖」裁判全記録
矢野 絢也
講談社
売り上げランキング: 50,934

2014-01-16

飼い犬だとみくびっていたら実は眠れる獅子であった/『黒い手帖 創価学会「日本占領計画」の全記録』矢野絢也


『折伏 創価学会の思想と行動』鶴見俊輔、森秀人、柳田邦夫、しまねきよし

 ・飼い犬だとみくびっていたら実は眠れる獅子であった

『「黒い手帖」裁判全記録』矢野絢也
『乱脈経理 創価学会 VS. 国税庁の暗闘ドキュメント』矢野絢也

 矢野絢也は元公明党委員長である。1989年、明電工事件への関与が取り沙汰されて委員長を辞任。1993年には政界から引退し政治評論家に。テレビ番組にもよく登場していた。

 悪い言い方をすれば「創価学会の飼い犬」だ。ただし本書を読むと「番犬」であったことが窺える。創価学会は何を血迷ったか突然番犬を叩いた。飼い主は手を噛(か)まれて「眠れる獅子」であったことに気づいた。ま、そんなところだ。

 私は2008(平成20)年5月12日、半世紀以上にわたり所属してきた創価学会ならびに同会の幹部7名を、東京地方裁判所に民事提訴した。それに先立つ5月1日に私と家内、息子夫妻とその娘3人は創価学会を退会した。
 提訴内容は以下の三つである。
(1)2005(平成17)年5月14日、学会青年部幹部5名が私を威迫して、政治評論家としての活動を中止させた。これは憲法で保障された表現の自由ならびに職業選択の自由を侵す違法な行為である。
(2)同年6月15日、学会幹部3名が私との会談の際、私に自宅を売却して2億円、3億円という莫大な金額の寄付をするよう執拗(しつよう)に強要した。
(3)創価学会は機関紙『聖教新聞』などで、私への誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)記事を継続して掲載した。これは名誉毀損にあたる。
 こうした一連の人権侵害行為を行ったことについて、創価学会および同会の幹部に5500万円の賠償を求めている。

【『黒い手帖 創価学会「日本占領計画」の全記録』矢野絢也〈やの・じゅんや〉(講談社、2009年)以下同】

 教団の体質を象徴する内容と見てよい。そもそも宗教自体が束縛の道具であるゆえ、縛(いまし)めを解いて自由になろうとする者を教団が許すはずもない。これは何も宗教に限った話ではあるまい。濃密な人間関係を基(もと)にしたムラ的コミュニティすべてに共通している。いかがわしい商売でなくとも、ある種の宗教と化している企業やサークルも存在する。

 見逃せないのは多額の寄付を強要している点である。しかも「自宅を売れ」と命じているのだ。

 矢野本人に黒い噂が絶えなかったこととこれとは別問題だ。

 創価学会は日蓮正宗総本山大石寺と二度目の紛争以降、聖教新聞を使って猛烈なキャンペーンを張ってきた。教団がターゲットとして選んだ人物の個人情報をさらし、徹底的な攻撃を加えてきた。そのたびに裁判沙汰を起こしている。創価学会寄りの識者からも問題視された(渡辺武達〈わたなべ・たけさと〉著『聖教新聞の読み方 創価学会・機関紙のエネルギー源を探る』)。

 私は学会が巻き込まれた厄介事(やっかいごと)の処理を、学会首脳から、ほぼすべて依頼され、各方面に対応してきた。それらの多くは、およそ口にできないような内容だったが、「学会を守る」「池田先生を守る」という、当時の生きる目的ともいえる思いが私を動かしていた。
 たとえば、私が関わった代表的な出来事を挙げると、学会による言論出版妨害事件創価学会と共産党との協定、池田大作名誉会長の女性問題を記事にした『月刊ペン』との裁判本山大石寺(たいせきじ)との二度にわたる紛争ルノアール絵画疑惑捨て金庫事件、国税庁による学会への税務調査などである。
 それ以外にも諸々の事件の顛末(てんまつ)が手帖には記載されている。そのような極秘資料が外部に流出すれば、学会のみならず、政界など多方面に多大な迷惑をかけるだろう。
 多くの事件は既に時効を迎えている。今さら、それを蒸(む)し返し、真相を暴露したところで、多くの人が傷つくだけである。私の心積もりとしては、世間に口外せずに、墓場まで持っていこうと思っていた。ところが、学会はそうは考えず、このような物騒(ぶっそう)な極秘メモを持つ私を危険人物とみなしたようである。

 散々汚れ仕事をやらされた結果がこのザマだった。矢野が告訴に踏み切るのも当然だろう。

 創価学会は青年部幹部を使って矢野を脅迫し、公明党OBを使って矢野から100冊を超える「黒い手帖」を取り上げた。まるで暴力団のような手口である。本丸には傷つかないよう細心の注意を払っている。使い走りにするのは「いつでも切って捨てる」ことのできる連中だ。

 創価学会の会長にさしたる権限はない。とすればやはり池田大作の意向で矢野を封じ込めようとしたのだろう。

 自分自身の神格化のために邪魔者は葬る――そんな魂胆が見えてくる。先日、北朝鮮で処刑された張成沢〈チャン・ソンテク〉の姿が矢野と重なる。

 尚、矢野絢也はその後も立て続けに書籍を上梓しているが、『乱脈経理 創価学会vs.国税庁の暗闘ドキュメント』が一番お薦めできる。

黒い手帖 創価学会「日本占領計画」の全記録闇の流れ 矢野絢也メモ (講談社プラスアルファ文庫)私が愛した池田大作 「虚飾の王」との五〇年乱脈経理 創価学会VS.国税庁の暗闘ドキュメント

矢野絢也

2012-08-29

民主主義と暴力/『襲われて 産廃の闇、自治の光』柳川喜郎


 1996年10月30日、岐阜県可児郡(かにぐん)御嵩(みたけ)町長を務めていた柳川喜郎は二人組の暴漢に襲われ、滅多打ちにされた。

 左前頭部頭蓋骨陥没骨折、頭部打撲傷、右上腕部骨折、右肋骨3本骨折、その1本は肺に刺さって右肺が気胸(ききょう)の状態、それに右鎖骨骨折との診断であった。

【『襲われて 産廃の闇、自治の光』柳川喜郎〈やながわ・よしろう〉(岩波書店、2009年)以下同】

 右腕上腕部は直角に折れていた。御嵩町長襲撃事件である。柳川は意識不明の重体となるが辛うじて一命を取り留めた。

 前年の1995年、産業廃棄物処理場の建設反対を公約に掲げて柳川は町長選で当選する。

 襲撃事件の1年以上前から、産廃についての勉強会を開いた住民たちに暴力団や右翼から脅しが入ったり、町長室に広域暴力団の幹部が私に面会を求めてやってきて、「介入する」と凄んでいったこともあった。
 襲撃事件の1年前の95年9月、産廃処分場計画の一時凍結を県知事に要望してからは、ミニ新聞が一斉に御嵩町政批判と私に対する個人攻撃を反復し、執拗に敵意をむき出しにしていた。

 利権と暴力はセットメニューだ。利権に与(あずか)る企業にとって暴力団は必要悪の存在といえる。汚れ仕事はアウトソーシングするわけだ。

 柳川はNHK記者時代に戦場取材や暴動を経験してきた。そこに自信と油断があった。サポーターは監視カメラの設置を進言したが、結局間に合わなかった。

 御嵩(みかさ)町の隣りの可児(かに)市にある産業廃棄物処理業者、寿和(としわ)工業の韓鳳道(清水正靖)会長が平井儀男町長に面会して、御嵩町小和沢(こわさわ)に39ヘクタールの管理型産廃処分場を建設する計画について説明した。

 この会社は現在も営業中だ。

寿和工業

 木曽川には織田信長にもらったとされる農業用水の水利権、それに福沢桃介(ももすけ)がはじめた水力発電の水利権など、がんじがらめになっている。

 御嵩町には木曽川の水利権がなかった。この辺りについては以下のページが詳しい。

御嵩[1998/05]

 岐阜県は産廃処理場設置に積極的だった。柳川も梶原拓知事と小田清一衛星環境部長の名前を挙げて問題視している。

「協定書」の最大の問題点は、町民の知らないところで、いわば密室協議で決まり、締結されたことであった。それまで表向き産廃処分場は「不適」として建設に反対の意思を表明してきた町が180度方針を転換し、「協定書」で巨大産廃処分場受け入れを決めたことは、町民にはまったく知らされなかった。
 それに、町が産廃業者から受け取ることになっていた金額35億円は、町の年間一般会計予算額約60億円と対比させても巨額であり、町民の知らないまま受け取りを決定してよい金額ではなかった。

 ま、政治なんてえのあ、闇鍋みたいなもんだろう。この国ではジャーナリズムが機能していないため、政治家や大企業はやりたい放題だ。柳川は住民投票の実施を決意する。しかし、岐阜県がまた横槍を入れてきた。

 なぜならば、地元の御嵩町では住民投票で小和沢に産廃処分場を建設するか、しないかについて民意を問おうという矢先に、処分場の建設を前提とした「調整試案」を提示してきたのは、住民投票への妨害工作と解釈せざるをえなかったからである。

 こうなると寿和工業と岐阜県の間に何らかの利益構造があると見てよさそうだ。

 M右翼の元親分の追悼式は同じ年の9月7日におこなわれるが、その前日、寿和工業会長は高速道路のインター近くで、5000万円の現金をM右翼に渡す。香典にしては巨額であった。

 寿和工業の素性が知れる行為である。

 また、こんなこともあった。

 のちに捜査が進んで盗聴Aグループの実行犯が逮捕されたとき、新聞の犯人の顔写真を見て、私は飛びあがった。逮捕されたT興信所はテレビ取材班と一緒に現れた盗聴器発見プロ氏、その人であった。

 柳川の自宅電話は二つのグループによって盗聴されていた。

 結局、この事件は時効となる。なぜか?

「正直いって寿和にいる元警察幹部が障害になった」と、ある捜査官は私に語ったことがある。

 寿和工業には複数の警察幹部が天下りしていたのだ。警察OBが捜査に手心を加えさせることは決して珍しいことではない。

革マル派に支配されているJR東日本/『マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』西岡研介

 岐阜県警は凶器の特定すらできず、あろうことか柳川のX線写真すら確認していなかった。

 御嵩町で住民投票が実施された。

 即日開票の結果、産廃処分場建設に反対1万373票(79.6%)、賛成2442票(18.7%)、反対票が圧倒的だった。(※絶対得票率69.5%)

 この結果を受けて、

 産廃業者・寿和工業は住民投票後も町と町長に対する提訴を濫発し、合計10本となった。

 訴権の濫用ともいうべき醜態だ。凶暴な野獣を思わせる。

「民主主義は楽ではない」との一言があまりにも重い。柳川が描いたのは暴力に屈することのなかった地方自治の姿であった。柳川は我が身を暴力にさらすことで民主主義に魂を吹き込んだといってよい。民の無関心が民主主義のリスクを高める。その代償はあまりにも大きい。そして司法も警察もまともに機能していない現実がある。

 そもそも民主主義というものは理想的な概念であって、私としては信ずるに値するとも思っていないし、単なる欺瞞だと考えている。そんな私からしても柳川&御嵩町民の闘争は一筋の光明と感じた。

 本当はここからいじめについて書こうと思っていたのだが、長くなったので筆を擱(お)く。最後に新聞記事を紹介しよう。

犯人に異例の呼び掛け 岐阜・御嵩町長、事件10年で会見

 岐阜県御嵩町の柳川喜郎町長(73)が襲撃された事件から30日で10年になるのを前に、町長は26日、御嵩町役場で記者会見し、犯人に呼び掛ける異例のメッセージを発表した。事件は時効まで5年に迫ったが、捜査は難航している。

「犯人に告ぐ」と題したメッセージで柳川町長は「もし、君たちに良心がかけらでもあるならば、自首してもらいたい」と呼び掛けた。会見では「10年間心当たりを探してきたが、事件の背景への心当たりは産廃以外にない」と指摘し「自首するならば、県警に減軽の嘆願書を出すだろう」と心境を語った。

 襲撃事件は1996年10月30日午後6時すぎに発生。町内の自宅マンションに戻った柳川町長を、待ち伏せていた2人組の男が棒のようなもので殴り、頭や腕などの骨を折る重傷を負わせた。

 県警はこれまでに、延べ14万8000人の捜査員を投入。柳川町長宅の電話が盗聴されていた事件で11人を逮捕したが、襲撃事件の犯人逮捕には結びついていない。

 事件解決を訴えてきた町民グループは11月3日午後1時半から、同町の中公民館で暴力追放を訴える集会を開催。右翼団体構成員に実家を放火された加藤紘一衆院議員、元日弁連会長の中坊公平氏、柳川町長が講演する。



町長メッセージ「犯人に告ぐ」

 この10年間、考え続けてきたが、どう考えても、君たちと私は互いに見知らぬ関係だ。
 君たちは「雇われた男」なのだ。
 金のために、暗闇で待ち伏せて、無抵抗の人間をメッタ打ちにするなど、卑怯(ひきょう)とは思 わないのか。
 もし、君たちに良心がかけらでもあるならば、自首してもらいたい。
 許すことを約束する。

【中日新聞 2006-10-27】

襲われて―産廃の闇、自治の光
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柳川喜郎さん襲撃事件、時効
柳川喜郎前御嵩町長が住民投票条例について講演(1)
柳川喜郎前御嵩町長が住民投票条例について講演(2)
急接近:柳川喜郎さん 言論封じる暴力に社会が立ち向かうには/【社説】「知る権利」を侵すな 秘密保全法制
民主主義と暴力について/『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』フランス・ドゥ・ヴァール
合理的思考の教科書/『リサイクル幻想』武田邦彦
金儲けのための策略/『正義で地球は救えない』池田清彦、養老孟司

2009-10-27

理性の開花が人間を神に近づけた/『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志


 ・民主的な議員選出法とは?
 ・統治形態は王政、貴族政、民主政
 ・現在の議会制民主主義の実態は貴族政
 ・真の民主政とは
 ・理性の開花が人間を神に近づけた
 ・選挙と民主政
 ・貴族政=ミシュランガイド、民主政=ザガットサーベイ

『悪の民主主義 民主主義原論』小室直樹

 西洋史における中世は魔女狩り(15-17世紀/及び異端審問、12世紀-)という狂気で終焉を告げる。近代への扉を開けたのは、イタリア・ルネサンス(14-16世紀)と宗教改革(16世紀)であった。ただし注意が必要で、魔女狩りに関してはルター派の方が熱を上げていた。

 教会の権威が肥大化を極め、神の名の下で罪なき人々が火あぶりにされる中で(魔女は生木でゆっくりと焼かれた/『魔女狩り』森島恒雄)、科学・数学の大輪の花が次々と咲いた。まさに百花繚乱といったところ。この頃、グーテンベルクが活版技術を完成(1445年頃)させたが、印刷は宗教書に限られていた。

 つまり中世まで、学問・芸術は教会の管理下に置かれていたということだ。このため、学問をするためには教会関係者になる必要があった。中世の科学者のほぼ全員が神学を収めているのはこうした時代背景による。ただし、当時の科学者の殆どは魔女の存在を信じて疑わなかった。人間は時代の支配から免れない、ということだ。

 ただし、17世紀において、世界に冠する科学的な認識は、キリスト教的な枠組の外へ出ることはなかった。そこでは、神が支配する世界における人間の位置づけが変わっただけである。すなわち、神のみが全てを知るのではなく、人間もまた、理性によって、世界に関する知識を持ち得ると考えられるようになったのである。しかし、世界を知り得るようになっただけで、世界を創り、それを支配するのは神であるという前提は変わらなかった。実際、万有引力の法則で有名なニュートンにしても、科学者であったと同時に、熱心な聖書研究者でもあった。当時、世界を知るためには、神の教えを知らねばならないと考えられていたからである。

【『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志〈やくしいん・ひとし〉(PHP研究所、2008年)】

 神は全知全能だ。そこには人間の理想が込められていた。古代の人々はきっと「無知の知」を自覚していたのだろう。知の発見と遭遇するたびに、人間は世界の広さを知り、その調和に驚くあまり「創造者」を思い描いたとしても不思議ではない。

 フン、笑わせるじゃないか。全知全能だと? じゃあ私が昨日の夜食べたものを当ててみせろよ。アン? 数年前に買ったばかりの自転車で私が激しく転倒した場所を言ってみろよ。大体だな、あんたが本当に存在するなら、一度でも下界に降臨して姿を見せたらどうなんだ?

 西洋で総合的な学問が実ったのは他でもない。この世界が「神によって創られたこと」を証明するためだった。中世に至るまで教会はアリストテレスにしがみ続けた(チャールズ・サイフェ『異端の数ゼロ 数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念』)。

 理性の開花が人間を神に近づけた。ゲーデルの不完全性定理は、神の姿を蜃気楼のように淡いものとしてしまった。しかしながら、西洋において神の影が薄くなった形跡はない。結局、理性と感情とは別物なのだ。

 アメリカ大統領は就任する際、聖書に手を置いて宣誓する。完全な政教一致だ。キリスト教が世界で幅を利かせている間は、十字軍や魔女狩りがなくなることはない。



魔女狩りの環境要因/『魔女狩り』森島恒雄

2008-10-06

真の民主政とは/『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志


 ・民主的な議員選出法とは?
 ・統治形態は王政、貴族政、民主政
 ・現在の議会制民主主義の実態は貴族政
 ・真の民主政とは
 ・理性の開花が人間を神に近づけた
 ・選挙と民主政
 ・貴族政=ミシュランガイド、民主政=ザガットサーベイ

『悪の民主主義 民主主義原論』小室直樹

 これが答え――

 ここまで言えば、ルソーが「抽籤による選任法は民主政の本質にかなう」と考えた理由は、もはや説明するまでもあるまい。全有権者(母集団)の縮図は、無作為抽出(ランダムサンプリング)によって構成する以外にはないのである。社会調査の常識が教えるとおり、標本抽出(サンプリング)は、あくまでも無作為(ランダム)でなければならない。ルソーが「抽籤による選任法は民主政の本質にかなう」とする理由もまた、「誰が選ばれるかは一切人間の意志と無関係」だからというものである。
 全体(母集団)に忠実な縮図を構成するためには、一切の人為的要因を排除しなければならない。あえて極端な言い方をすれば、全員による民会には周囲から嫌われているタイプの人間も参加する以上、議会や会議もまた、そのような人間を実社会と同じ比率で参加させなければならないというわけである。だから、直接民主制をモデルにし、その論理を延長するならば、選挙のような人為的介入は、むしろ排除すべきものとならざるを得ない。

【『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志〈やくしいん・ひとし〉(PHP研究所、2008年)】

 民主政=全民衆の縮図であるなら、ルソーは正しい。だが、ルソーは民主政を手放しで肯定したわけではなかった。ルソーが望んだのは貴族政だった。民主政が通用するのは、限定された狭い地域という考えだった。つまり、民主政=全員参加。

 とすれば、正しい民主政の選挙法は、裁判員制度みたいな感じになりそうだ。随分と突飛に思うが、それでも今よりはましな政治になることだろう。なぜなら、民衆は政治家ほど愚かではないからだ。

 数年前から考えているのだが、真面目な高校生を議員にした方が、この国はよくなると思う。間違いなくよくなるよ。

2008-10-05

現在の議会制民主主義の実態は貴族政/『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志


 ・民主的な議員選出法とは?
 ・統治形態は王政、貴族政、民主政
 ・現在の議会制民主主義の実態は貴族政
 ・真の民主政とは
 ・理性の開花が人間を神に近づけた
 ・選挙と民主政
 ・貴族政=ミシュランガイド、民主政=ザガットサーベイ

『悪の民主主義 民主主義原論』小室直樹

 前回、「意志決定者の数によって王政・貴族政・民主政が決まる」と学んだ。すると、現在の議会制民主主義が実は民主主義ではないことが発覚する。

 ともあれ、古代アテナイ型の分類法に従えば、今日の議会制民主主義は、本来の民主政ではなく、むしろ貴族政だということになってしまう。国権の最高機関にして唯一の立法機関である議会が、全員ではなく、ごく一部の者によって構成されているからである。
 とはいえ、現実問題として、大きな国では、全有権者が一堂に会して直接話し合うことなど不可能であろう。だからこそ、ルソーは、「一般に民主政は小国に適する」と指摘したのである。直接民主制、あるいは、少なくともそれに近い制度を実施しようとすれば、そうならざるを得ないだろう。

【『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志〈やくしいん・ひとし〉(PHP研究所、2008年)】

 どう? 参ったでしょ? わたしゃ、1000回くらいタップしたよ(ウソ)。我々が民主主義だと錯覚していた議会制民主主義は、政策の意思決定には関与しておらず、議員を決めているだけだ。言われてみりゃ、確かにそうだよなー。

 で、なぜモンテスキューやルソーが「民主政治=くじ引き」と考えたのか? 答えは次回にて。

2008-10-04

統治形態は王政、貴族政、民主政/『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志


 ・民主的な議員選出法とは?
 ・統治形態は王政、貴族政、民主政
 ・現在の議会制民主主義の実態は貴族政
 ・真の民主政とは
 ・理性の開花が人間を神に近づけた
 ・選挙と民主政
 ・貴族政=ミシュランガイド、民主政=ザガットサーベイ

『悪の民主主義 民主主義原論』小室直樹

 現代日本の我々が考える貴族政とは、「貴族としての身分」を保障された面々による政治ということになる。だが、これがそもそもの間違い。

 古代のアテナイでは、統治形態を三つに分類して考えるのが一般的であった。すなわち、王政、貴族政、民主政の三つである。この分類法自体は、それほど違和感を与えるものではあるまい。むしろ、問題は、この分類が何を第一の基準にしていたのかという点にある。
 その解答を極めて単純に言うならば、意志決定者の数だということになろう。具体的には、それが一人なのか、一部なのか、全員なのかということである。王政には一人の支配者がおり、貴族政には一部の支配者がいる。それに対して、全員参加の民主政が、「人民による支配」なのだというわけである。

【『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志〈やくしいん・ひとし〉(PHP研究所、2008年)】

 言われなければ一生気づかないまま人生を終えていたことだろう。つまり、選挙制度と民主主義の間には何の関係もないってことだ。「へぇボタン」があったら、ぶっ壊れるまで叩いてやるところだ。多分、政治家の連中も気づいていないだろーね。あな、恐ろしや。



パレートの法則/『新版 人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ
最後の元老・西園寺公望/『幣原喜重郎とその時代』岡崎久彦
政党が藩閥から奪った権力を今度は軍に奪われてしまった/『重光・東郷とその時代』岡崎久彦

2008-10-02

民主的な議員選出法とは?/『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志


 ・民主的な議員選出法とは?
 ・統治形態は王政、貴族政、民主政
 ・現在の議会制民主主義の実態は貴族政
 ・真の民主政とは
 ・理性の開花が人間を神に近づけた
 ・選挙と民主政
 ・貴族政=ミシュランガイド、民主政=ザガットサーベイ

『悪の民主主義 民主主義原論』小室直樹

 民主主義=善である。いつからそうなったのであろうか。全く覚えていない。いつの間にやらそうなっていたのだ。少年時代に読んだリンカーンの伝記の影響だろうか。はたまた、平等の価値観を押し付けた義務教育のせいかも知れない。

 だが、図らずもブッシュ大統領が本当の意味を教えてくれた。民主主義とは、アメリカが戦争を仕掛ける大義名分であり、異教徒や有色人種を殺戮する言いわけであることを。そして民主主義の目的は、独裁国家の体制を破壊して、国民が選挙によって議員を選び、自由競争を原則とする資本主義体制を構築し、ドル機軸通貨制度の支配下に組み込むところにある。

 アメリカが牛耳る世界では、アメリカに逆らう国が“世界の敵”と化す。つまり、実は米主主義(パックス・アメリカーナ)だったってことだわな。

 我々はいともたやすく民主主義という言葉を使う。殆どの場合、多数決という程度の意味合いで、議会制民主主義こそ民主主義の本道であると考えている。だが、そうではなかった――

【問題】括弧の中に入る言葉を、下記の1から6の中から選び、番号で答えなさい。

 モンテスキューやルソーは、議員や統治者を(   )によって選ぶことが民主政治の本質にかなうものだと論じた。

1.選挙 2.世襲 3.魚屋の意見 4.くじ引き 5.決闘 6.占い

 実は、この問題、それほど常識的なものでもなければ、学校のテストに出題されるような代物でもない。むしろ、こんな問題が出題されることは絶対にないだろう。選択肢がふざけたものであるからではない。正解が4、すなわち「くじ引き」だからである。何も怪しげな珍説を持ち出しているのではない。事実として、ルソーの『社会契約論』(1762年)には、次のように明記されているのである。

「抽籤(ちゅうせん)による選任法(suffrage par le sort)は民主政の本質にかなうものだ」と、モンテスキューは言っている。これはわたしも賛成である

 モンテスキューもルソーも、「抽籤」こそが「民主政の本質にかなう」と明言している。これは、厳然たる事実である。しかも、この見解が、枝葉末節に関わる問題ではなく、まさに「民主政の本質」として示されているということを軽視してはならない。

 たしかに、ルソーの発言は、我々の常識と相反するものであろう。だが、常識に反することは切り捨てるという態度は、思考停止の最たるものなのだ。

【『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』薬師院仁志〈やくしいん・ひとし〉(PHP研究所、2008年)】

 たまげた。あんぐりと口が開いたまま、3日間を経たような感覚に陥った。目が点になるどころか、それ以前の私の目にはウロコしかなかったと言ってもいいくらいだ。目からウロコが落ちると言うよりは、ウロコだらけの目が落ちたって感じだな。

 そしてルソーは、民主主義が正しいものとは考えていなかった。お前の名前は「ル嘘」に変えるべきだと私は思った。

 このテキストだけでは、その理由がわかりにくいことだろう。追って紹介する予定である。取り敢えず今日のところは、「民主政の本質=くじ引き」と覚えておけば宜しい。