2019-01-28

天皇陛下はエンペラーに非ず/『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』伊藤祐靖


・『自衛隊失格 私が「特殊部隊」を去った理由』伊藤祐靖

 ・天皇陛下はエンペラーに非ず
 ・日本国憲法の異常さ

『とっさのときにすぐ護れる 女性のための護身術』伊藤祐靖
・『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』岩田清文、武居智久、尾上定正、兼原信克 2021年
『歴史の教訓 「失敗の本質」と国家戦略』兼原信克

日本の近代史を学ぶ

「何て書いてあるの? 訳してよ」
「本気で訳すから、一日待て」
 翌日、その詔書を英語に翻訳したものを印刷し、仰々しく額に入れて渡した。読み終えた彼女は、「この時の日本の人口は、何人?」と訊いてきた。
「6000万弱かな」
「これ、本当にエンペラーが書いたものなの?」
「そうだよ。エンペラーというか、TENNOU・HEIKA」
「あぁ、HIROHITOね」
「違う。先代だ」
「すごいね、本当にすごい」
「何がすごいんだ?」
「あなたの国は、すごい」
「だから何が、すごいんだ?」
「あなたは、これは、エンペラーが書いた命令文書だと言った。でも、違うわよ」
「何を言ってんだ。これは確かにエンペラーが書いたものだ」
「でも、命令なんかしてないじゃない。願ってるだけじゃない。“こいねがう”としか言ってないわよ」
「そういう言葉を使う習慣があるんだよ」
「エンペラーは、願うんじゃなくて、命令するのよ。エンペラーが願っても、何も変わらないでしょ。願うだけで変えられるのは、部族長だけよ」
「部族長? 天皇陛下は部族長だって言うのか?」
「“こいねがう”と言ってるんだから、これを書いた人は部族長なの。これは、部族長が書いた、リクエストなのよ」
「部族長か……、願うだけで変えられるか……」
「6000万人全部が一つの部族で、それに部族長がリクエストを出すっていうのがすごい。私のところとは、規模が違う」
 あまりのショックで、私はしばらくしゃべれなかった。
 6000万人全部が一つの部族――。エンペラーではなくて部族長――。エンペラーが願っても何も変わらない――。“こいねがう”と言っているから部族長――。
 すべてが腑に落ちた。
 同時に激しい自己嫌悪を感じた。
 なぜ、ミンダナオ島の二十歳そこそこの奴から、詔書の真意と日本という国の本質を教えられてしまうんだ。日本に生まれて、日本語を母語としていて、40年以上日本で生きていたのに、なぜ、それが見えなかったのだろう。どうして、こいつは一瞬で見抜いたのだろう。“こいねがう”というたった一つの単語で、彼女は断言した。部族長であってエンペラーではないし、命令文書でもない、と。
 だが、自己嫌悪の裏側には、喜びと高ぶりもあった。この島にいることで、自分の祖国の実相が見えてくるかもしれないという予感が、正しかったのだ。(中略)
 つい最近まで国家元首が“こいねがう”ことによって、国家が動いていた。ここに私の祖国日本の本質があるように思えた。

【『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』伊藤祐靖〈いとう・すけやす〉(文春新書、2016年)】

 弟子のラレインが海底60メートルで拾ったのは額入りの「国民精神作興ニ関スル詔書」であった。「関東大震災などによる社会的な混乱を鎮(しず)めるために大正天皇が発したもの」と書かれているが、社会的な混乱とは「民本主義や社会主義などの思想」を指す(小学館 日本大百科全書〈ニッポニカ〉)。

 エンペラーの語源はインペラトルで「インペリウム(命令権)を保持する者」(Wikipedia)との意。司令との訳語が実際的であるが「司」だと少し弱い。我々日本人にとって命令権者という概念を理解するのは難しい。

 ラレインは詔勅から「日本の呪術性」を見抜いた。私がいう呪術性とは合理性の埒外(らちがい)にあるものを指す。呪術性と聞いて直ちに否定する輩は合理性の奴隷で人の感情(情動)を理解していない。何歳であろうと人が人生を振り返った時に心の中を流れるのは感情だ。合理性ではない。ここに人間理解の鍵がある。

 天皇は祭祀王(さいしおう)である(『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』小林よしのり)。神と人の間に立って祭祀を司(つかさど)り、ひたすら祈りを捧げる存在が天皇なのだ。その天皇の「願い」に国民が身を寄せるところに日本の民族性がある。もちろん明治維新が天皇を神格化した歴史的経緯は見逃せないが、代々続いてきた天皇システムを軽んじるのも誤っている。

 呪術性とは以心伝心であり阿吽(あうん)の呼吸である。民族特有の「気」といってもよい。理窟よりも意気や気魄(きはく)を重んじるのが日本のエートス(気風)であろう。

 当時は既に詔勅で世の中が動く時代ではなかった。いつの時代も自由とは過去の否定を意味する。大正デモクラシーも例外ではなかった。政党政治という大輪の花は咲いたがかつての王政復古を支えた志や武士道は廃(すた)れた。昭和に入るとその空隙(くうげき)を軍政が衝(つ)くのである。

 東日本大震災を通して天皇は再び日本の中心に据(す)わった感がある。この事態に逸(いち)早く反応したのが左翼勢力で団塊の世代を中心に日本を貶(おとし)める工作活動が激化して今日に至る。

「兵隊は国家の意思を具現化するために命を捨ててもいいと自ら志願してきた人です」(小林よしのり×伊藤祐靖 新・国防論 日本人は国のために死ねるのか 2)と伊藤は言い切る。憲法9条が自衛隊の軍事性を否定する以上、命を捨てる覚悟が強ければ強いほど不毛な結果が見えてくる。日本が普通の軍隊を持つことができないのは「守るに値する国民」がいないためだ。

2019-01-26

ミステリ&SF


     ・キリスト教を知るための書籍
     ・宗教とは何か?
     ・ブッダの教えを学ぶ
     ・悟りとは
     ・物語の本質
     ・権威を知るための書籍
     ・情報とアルゴリズム
     ・世界史の教科書
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     ・虐待と精神障害&発達障害に関する書籍
     ・時間論
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     ・ミステリ&SF
     ・クリシュナムルティ著作リスト
     ・必読書リスト その一
     ・必読書リスト その二
     ・必読書リスト その三
     ・必読書リスト その四
     ・必読書リスト その五

『サクリファイス』近藤史恵
『テロリストのパラソル』藤原伊織

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『隠蔽捜査』今野敏
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『レイチェル・ウォレスを捜せ』ロバート・B・パーカー

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『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ
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『暗殺者』ロバート・ラドラム
『狂気のモザイク』ロバート・ラドラム
『ブラック・プリンス』デイヴィッド・マレル
『標的(ターゲット)は11人 モサド暗殺チームの記録』ジョージ・ジョナス

消されかけた男 (新潮文庫)
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『裏切りのノストラダムス』ジョン・ガードナー
ベルリン 二つの貌 (創元推理文庫 (204‐2))
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沈黙の犬たち (創元推理文庫 (204‐3))
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『マエストロ』ジョン・ガードナー
『静寂の叫び』ジェフリー・ディーヴァー
『ボーン・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー
『守護者(キーパー)』グレッグ・ルッカ
『チャイルド44』トム・ロブ・スミス
『あなたに不利な証拠として』ローリー・リン・ドラモンド
『罪』カーリン・アルヴテーゲン
『喪失』カーリン・アルヴテーゲン
『裏切り』カーリン・アルヴテーゲン
・『催眠(上)』『催眠(下)』ラーシュ・ケプレル
『湿地』アーナルデュル・インドリダソン
『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン
・『』アーナルデュル・インドリダソン
『前夜』リー・チャイルド
『生か、死か』マイケル・ロボサム
『許されざる者』レイフ・GW・ペーション



『通りすぎた奴』眉村卓
『総門谷』高橋克彦
・『2001年宇宙の旅』アーサー・C・クラーク
・『百億の昼と千億の夜』光瀬龍
『木曜の男』G・K・チェスタトン
『われら』ザミャーチン:川端香男里訳
『「絶対」の探求』バルザック
『絶対製造工場』カレル・チャペック
『すばらしい新世界』オルダス・ハクスリー:黒原敏行訳
『一九八四年』ジョージ・オーウェル:高橋和久訳
『華氏451度』レイ・ブラッドベリ
『とうに夜半を過ぎて』レイ・ブラッドベリ
『聖者の行進』アイザック・アシモフ
『数学的にありえない』アダム・ファウアー
『夜中に犬に起こった奇妙な事件』マーク・ハッドン
『くらやみの速さはどれくらい』エリザベス・ムーン

旧ブログ移転の件


 長らく親しんできたはてなダイアリーが終了するようだ。春にははてなブログへの強制移行を実施するとのこと。20年も経ってからこんな仕打ちをされたら堪(たま)ったもんじゃない。何につけ無料というのは結果的に高く付く好例だ。当初は全ての記事をBloggerへ移動しようと考えていたのだが、Movable Type形式をXMLに変換する方法がわからず(変換サイトが既にリンク切れ)結局諦めることにした。ま、大したことは書いてないのだが、記録に対する執着は自我意識そのものといってよい。

 はてなダイアリー http://d.hatena.ne.jp/sessendo/
→はてなブログ https://sessendo.hatenablog.com/

 投稿数は7113。大量のリンク切れが発生するが何卒ご容赦願いたい。

2019-01-25

読み始める

決定版 三島由紀夫全集〈33〉評論(8)
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決定版 三島由紀夫全集〈36〉評論(11)
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明治政府―その政権を担った人々 (1971年)

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自律神経どこでもリセット!  ずぼらヨガ
崎田ミナ
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おいしい大豆生活
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大豆の科学 (おもしろサイエンス)
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2019-01-23

「武」の意義/『中国古典名言事典』諸橋轍次


『中国古典 リーダーの心得帖 名著から選んだ一〇〇の至言』守屋洋

 ・狂者と狷者
 ・人生の目的
 ・「武」の意義

『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『孟嘗君』宮城谷昌光
『新訂 孫子』金谷治訳注
『呉子』尾崎秀樹訳

必読書リスト その五

孫子

『孫子』十三巻は孫武(そんぶ)の著述、「武経七書」(ぶきょうしちしょ)の一つといわれている。「七書」とは、『孫子』、『呉子』(ごし)、『尉繚子』(うつりょうし)、『六韜』(りくとう)、『三略』(さんりゃく)、『司馬法』(しばほう)、『李衛公問対』(りえいこうもんたい)の七つをいう。この「七書」のうち、最も古いといわれていた『三略』は、漢の張良(ちょうりょう)が黄石公(こうせきこう)から教えられたものといわれているが、文体そのものから考えて、『六韜』も『三略』も、いわれている時よりものちのものらしく、その内容の大部分は『孫子』、『呉子』に含まれて、それ以上に出ていないから、今日兵書としては『孫子』、『呉子』が最も尊ばれるのである。
 孫武ははじめ呉の闔閭(こうりょ)に仕えてその兵法を実践し、呉国を大いに盛んならしめたが、闔閭の子の夫差(ふさ)は不詳でついに越王勾践(えつおうこうせん)に亡ぼされてしまう。
 元来「武」という文字は「戈(ほこ)を止(とど)める」ことを意味し、征伐の「征」という文字は「正」と音義共に通ずるのであるから、不義の者を平らげて太平をいたすことが武であり正である。『孫子』は兵法の書ではあるが、この本義にもとづくところが多く、単に戦争のための軍略だけを論じたものではない。その点、人事万般の教訓になる句も少なくはない。

【『中国古典名言事典』諸橋轍次〈もろはし・てつじ〉(新装版、2001年/座右版、1993年講談社、1972年講談社学術文庫、1979年)】

「『孫子』以前は、戦争の勝敗は天運に左右されるという考え方が強かった」(Wikipedia)という。人々の脳を支配していたのは呪術であった。ただし現代人は合理性を過信してはなるまい。脳は錯誤を回避できないのだから。むしろバイアス情報に基づくシステムが脳であるといっても過言ではない。実生活の中から行動経済学の原理を発見することは難しい。

 闔閭に仕える際、孫武はこう言った。「将は軍に在(あ)りては、君命をも受けざる所有(あ)り」(『香乱記』宮城谷昌光)と。千変万化する戦(いくさ)においては現場を知る将軍の判断が優先される。私はこれをシビリアンコントロールを否定する言葉と勘違いしていたのだが、文民が統制するのは飽くまでも予算と人事権であろう。すなわち満州事変における関東軍の暴走は孫子の教えからも逸脱していると考えてよかろう。

「戈(ほこ)を止(とど)める」という武の意義が専守防衛と重なる。もちろん現在の専守防衛は防衛の名に値するものではないが、攻めることよりも守ることを重視するのが国家の正道だ。現在、日本の平和を脅かすものは中国・北朝鮮の核兵器であるが、この「戈(ほこ)を止(とど)める」には核保有の一手しかない。日本が核を保有すれば限定戦争で済むが、躊躇(ちゅうちょ)していれば総力戦になるだろう。どちらにするかは国民が選ぶことだ。

 父の名に「武」の字があるせいか思い入れが深い。シナ文化では「文」を重んじるが、武に守られればこそ文が伸びることを忘れてはなるまい。