2021-02-07

背骨を自由に解き放つ/『5分間背骨ゆらしで体じゅうの痛みが消える 自然治癒力に火をつけて、首・肩・腰痛・ひざ痛を解消!』上原宏


『だれでも「達人」になれる! ゆる体操の極意』高岡英夫
『自分で治せる!腰痛改善マニュアル』ロビン・マッケンジー
『ひざの激痛を一気に治す 自力療法No.1』

 ・背骨を自由に解き放つ

【肩甲挙筋の圧痛を調べて、右が痛かった場合は右側から、左が痛かった場合は左側からゆらしましょう】。どちらかわからない場合は、僧帽筋の圧痛がある側からゆらしましょう。

【『5分間背骨ゆらしで体じゅうの痛みが消える 自然治癒力に火をつけて、首・肩・腰痛・ひざ痛を解消!』上原宏(現代書林、2018年)】

 著者が開発したDRT(ダブルハンド・リコイル・テクニック)という療法の解説書である。手技は画像だとわかりにくい。そもそも実際に見たとしても素人目では何をどうするのかが理解できないことだろう。職人技と一緒である。

「頭痛、腰痛、肩こり、手のこわばり、関節痛(ひざ、ひじ、股)をはじめ、ギックリ腰、椎間板ヘルニア、頚椎ヘルニア、O脚、顎関節症、むち打ち、ひざ痛、腱鞘炎、リウマチ、四十(五十)肩、神経痛、自律神経失調症、めまい・耳鳴り、ゴルフエルボー、テニスエルボー、産後の骨盤矯正、内科的症状等々」に効果があるという。健康本の「効果」と「体験談」は眉に唾(つば)をつけるのが私の習い性となっている。個別が普遍につながるとは限らない。梅干しを額に貼りつければ頭痛が治る人も1万人に一人くらいはいることだろう。ただし梅干しを貼らずとも治るタイミングであった可能性は否定できない。我々の思考は時間の前後で因果関係をとらえる癖があるから厄介だ。

〈手の当て方〉
 両手の指を少し曲げた状態にして受け手の体(2カ所)に当てます。その際、手のひらの下に指一本程度入るほどの隙間を開け、手のひらの付け根部分で背骨に直接コンタクトする(接触させる)のがポイントです。

 上原本人の動画もあるのだが撮影者が喧しいので、もっと見やすい動画を紹介しよう。


 たぶん効果はある。背骨を自由に解き放つ動きである。首、背骨、腰は絶えず重力に逆らおうとして力が加わっている。体を支える骨をしっかりと使えれば問題はないのだが、骨には感覚がないためどうしても筋肉を楽にしようとして姿勢が悪くなる。我々が楽だと思っている姿勢は骨に対して強い負荷をかける。もう一つは日本人の場合、床に坐ることが多いため骨盤が後傾してしまうのだ。

 私が背骨ゆらしを評価するのは、ゆる体操と動きが似ているためだ(『だれでも「達人」になれる! ゆる体操の極意』高岡英夫)。もう一つ思い出したのは紙屋克子である(『紙屋克子 看護の心そして技術/別冊 課外授業 ようこそ先輩』NHK「課外授業 ようこそ先輩」制作グループ、KTC中央出版編)。NHKの番組では植物状態の患者を丸いトランポリンに載せて、周囲で看護師たちがトランポリンを押して上下運動をしていた。身体障碍者についてはプールなども効果があるとされている。浮力で体が軽くなるため身体の自由度が増す。

 健康な体であれば本来は睡眠によって疲労を恢復(かいふく)するのだろう。重力を逆利用するという点では逆立ちも効果があると思う。ひょっとすると海で波に揺られているだけでも体が目覚めるかもしれない。

読み始める

2021-02-04

ヘゲモニー(覇権)国家/『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』川北稔


『砂糖の世界史』川北稔
『結社のイギリス史 クラブから帝国まで』綾部恒雄監修、川北稔編
『歴史とは何か』E・H・カー
『歴史とはなにか』岡田英弘
『世界史の誕生 モンゴルの発展と伝統』岡田英弘
『聖書vs.世界史 キリスト教的歴史観とは何か』岡崎勝世
『世界史とヨーロッパ』岡崎勝世

 ・ヘゲモニー(覇権)国家

『時計の社会史』角山榮

世界史の教科書
必読書リスト その四

 ところで、世界システムの歴史では、ときに、超大国が現れ、中核地域においてさえ、他の諸国を圧倒する場面が生じる。このような国を「ヘゲモニー(覇権)国家」という。もっとも歴史上、このような国は、17世紀中ごろのオランダ、19世紀中ごろのイギリス、第二次世界大戦後、ヴェトナム戦争前のアメリカの3国しかない。
 世界の現状は、ヴェトナム戦争以後、アメリカがヘゲモニー(覇権)を喪失した状況にあることは、ほとんどの研究者が承認している。

【『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』川北稔〈かわきた・みのる〉(ちくま学芸文庫、2016年/放送大学教育振興会、2001年『改訂版 ヨーロッパと近代世界』を改題・改訂)以下同】

世界システム論」はイマニュエル・ウォーラステインが提唱した概念で、国家ではなく交易・経済を有機的なシステムとして捉える。国家を超えるという意味での「世界」であり、全世界を意味するわけではない。

 驚いたことが二つある。まず、トルデシリャス条約(1494年)で世界を二分したポルトガルとスペインが覇権国家に入ってないこと。次にアメリカの覇権がベトナム戦争で終わったという見方である。とするとソ連は自壊したことになるのか。

 日本人なら世界システム論をすんなり受け入れることができると思われる。東アジアにはモンゴル帝国やシナの朝貢などの歴史があるからだ。「近代世界システム」の定義はヨーロッパを中心とする価値観で別段分ける必要もなかろう。

 戦後の日本の歴史学においては、オランダの歴史は、イギリスのそれとの対比で「近代化の失敗例」とみなされ、その失敗の原因を求める研究が中心であった。中継貿易を中心にした経済の仕組みがその弱点であった、といわれたものである。しかし、現実のオランダは、世界で最初のヘゲモニー国家として、イギリスにも、フランスにも、スペインにも、とうてい対比しようのないほどの経済力を誇ったのである。(中略)
 生産面での他国に対する優越は、世界商業の支配権につながった。ポルトガル領のブラジルでも東アジアでも、オランダ人の姿がみられるようになった。政治的な支配がどのようになっていようと、オランダ人は世界中いたるところにその存在を示すことになったのである。こうした世界商業の覇権は、たちまち、世界の金融業における圧倒的優位をオランダにもたらし、アムステルダムは世界の金融市場となった。オランダの通貨が世界通貨となったのである。のちのイギリスやアメリカの例でもわかるように、世界システムのヘゲモニーは、順次、生産から商業、さらに金融の側面に及び、それが崩壊するときも、この順に崩壊する。

 最後の一行が胸に刺さった。アメリカファーストを唱え、製造業を国内に回帰させようとしたトランプ大統領を米国民は拒否した。つまり生産が再び活気を取り戻すことはないと考えられる。商業は折からのコロナ不況で、今活況を呈しているのは食品くらいだろう。

「資本主義は終わる」という類いのリベラル本が数多く出版されているが、いずれも「リーマンショックでアメリカは終わった」との主張が多い。現在、ダウ工業株平均は史上最高値を更新しているが、これは行き場を失った緩和マネーが流入しているもので、国民生活や景気を反映しているわけではないことに留意する必要がある。

 もともと「ヘゲモニー」は、イタリア出身のマルクス主義者である革命家「アントニオ・グラムシ(Antonio Gramsci)」が提唱した言葉です

「ヘゲモニー」の意味とは?イニシアチブとの違いや使い方の例文も | TRANS.Biz

 本書には「ただ、世界の重心が部分的に中国に移動しつつあるようにみえることからすれば」との記述もあり、やや今後の中国覇権に傾いている嫌いはある。アメリカが一歩引けば中国が一歩前に出てくる。ロシアも黙って指をくわえていることはあるまい。

 世にも不思議なコロナバブルが終わるタイミングが覇権の動く時であろう。中国共産党はデジタル人民元を着々と推し進めている。日本人はといえば外出を自粛し、不安を煽るテレビを黙って見つめているだけだ。

 そろそろ伝統の上に胡座(あぐら)をかく真似はやめるべきだろう。たった一度の戦争に敗れただけで、この国は戦うことをあきらめてしまった。今に至っては何の備えもない。日米安保にすがって生きてゆく国家に未来はないだろう。

2021-02-03

信用創造の正体は借金/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎


『緑雨警語』斎藤緑雨
『小室直樹の資本主義原論』小室直樹
『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人

 ・マネーと国家が現代の宗教
 ・信用創造の正体は借金

『ギャンブルトレーダー ポーカーで分かる相場と金融の心理学』アーロン・ブラウン
『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳、グループ現代
『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎

 あなたは、お金というものが、どうやって発行され、どうやって社会に流れてくるのかご存知だろうか?
「お金は中央銀行が発行し、市中に流している」
 多くの人は、そう答えるだろう。
 では、中央銀行が発行したお金は、どういうルートで社会に流れ出てくるのだろうか?
 これは経済学を学んだ人でもなかなか答えられないケースが多い。
 実は、答えは「借金」である。誰か(主に企業)が、銀行からお金を借りることによって、お金は社会に出回るのだ。
 中央銀行からお金が社会に出てくるには、次のようなルートをたどる。

【中央銀行(日本の場合は日銀)】
  貸出
  ▼
【金融市場(一般の銀行など)】
  貸出
  ▼
【企業など】
  取引、給料などで支払い
  ▼
【個人】

 このように、お金というのは、必ず社会の誰か(主に企業)が銀行からお金を借りることで、社会に流れ出てくるのである。
 そして驚くべきことに、お金が社会に出るためのルートは、これ一本しかないのだ。
 日本銀行は紙幣を印刷しているが、それを日本銀行が自由に使うことはできない。政府もまた、日銀が発行した紙幣を勝手に使うことはできない。
 日銀が発行した紙幣は、貸出という形で一般の銀行に放出される。そして、一般の銀行も、貸出という形で企業などに流すのである。
 そのお金が、回り回って我々のところに来ているのだ。

 社会で使われているどんなお金も、元をたどれば誰かの借金なのである。あなたが会社からもらっている給料、事業で稼いだお金なども、もともとは必ず誰かの借金として社会に出てきたのだ。
 貿易などで得た外貨を円に交換するときも、新しいお金が出てくることになるが、その外貨は外国において誰かの借金により社会に流れ出たものなので、煎じ詰めれば、これも「誰かの借金」ということになる。
 あなたは誰かに借金をした覚えはないかもしれない。が、あなたが手にしたお金は、必ず、元をたどれば誰かの借金だったのだ。
 つまり、世の中に出回っているお金というのは、実は、すべてが借金なのである。
 また借金とは、いずれ返さなくてはならないものである。
 つまり、今、社会に出回っているお金すべてが「借金」である限り、いずれ銀行に回収されるべきものなのである。社会が保有し続けることはできないお金なのだ。
 しかし、社会には、お金を保有し続けたいという欲求も当然働くし、もう借金はしたくない(しない)という欲求も働く。その欲求が強くなると、社会のお金の仕組みは、たちまち機能不全に陥ってしまうのだ。
 このように今のお金の仕組みは、重大な矛盾、欠陥を抱えているのだ。そして、このお金の欠陥が、環境破壊、貧富の格差など世界中のあらゆる問題の1つの要因になっているのだ。

【『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎〈おおむら・おおじろう(ビジネス社、2018年)〉】

 信用創造の正体は借金であった(信用創造のカラクリ/『ギャンブルトレーダー ポーカーで分かる相場と金融の心理学』アーロン・ブラウン)。目から鱗が落ちる。

 プールの水にお金という黒い液体を注ぐと仮定しよう。黒い液体は経済活動によって移動をしてくっきりとした濃淡を描くが、その総量は変わらない。時折、資金繰りに行き詰まって倒産する企業も出てくる。しかし黒い液体は別の場所に移動しただけで、返済できない借金がどこかに消えたわけではない。必ず誰の財布に存在するのである。徴税の網に掛からないブラックマネーもプールの中(円経済圏)から出ることはない。減るとすれば焼却した紙幣だけだが現実には考えにくい。火災被害で消失する紙幣の量は微々たるものだろう。

 企業は借金をして人や物に投資をし、付加価値を創造することで利益を得る。GDP(国内総生産)とは付加価値の総額を意味する。これを国民所得の合計と考えてもよかろう。その所得が実は借金であったとすれば、政府や企業が借金を増やすことが経済的な意味合いでの正しさとなる。

 通貨は交換手段に過ぎない。人類の歴史では通貨なき時代の方がはるかに長かった。富(余剰)が生まれたのは農業革命以降のことである。動物が必要とするのは今日の食べ物に限られる。時折貯める行為も見られるが、せいぜい一冬に備える程度である。しかも地球の自然は動物の食料を十分に供給している。

 世界人口が10億人を突破したのは1800年代のことで、第二次世界大戦以降は上昇の一途を辿る(表1-8 世界人口の推移と推計:紀元前~2050年)。この点からも19世紀を近代と考えてよかろう。陰謀論で一番多いのは人口削減計画である。最大の環境問題は増え続ける人口だ。もしも世界権力をほしいままにする者がいれば真っ先に人口を減らすことを考えるだろう。

マネーと国家が現代の宗教/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎


『お坊さんはなぜ領収書を出さないのか』大村大次郎 2012年
『税務署員だけのヒミツの節税術 あらゆる領収書は経費で落とせる【確定申告編】』大村大次郎 2012年
『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎 2015年
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎 2015年
『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が古代~現代にガサ入れ』大村大次郎 2016年
『お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる』大村大次郎
『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎 2018年

 ・マネーと国家が現代の宗教
 ・信用創造の正体は借金

『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎
『脱税の世界史』大村大次郎 2019年

 信じられないかもしれないが、今のお金の仕組みの原型は、17世紀のヨーロッパの商人が気まぐれで始めた悪徳商売にあるのだ。その悪徳商売の発展により、なし崩し的に現在の紙幣ができあがり、世界各国が「これを通貨としましょうか」ということに、「なんとなく決めてしまった」のである。
 つまり、お金の仕組みは非常に無計画で、いい加減につくられたものなのだ。
 現在は、金融工学や経済理論が非常に発達していると言われている。
 しかし、高度に発達したはずの金融工学や経済理論も、実は、17世紀の商人の悪知恵によってつくられたお金の仕組みを前提としているのである。
 はっきり言えば、中身はとてもチャチで不完全なものだ。

 また、現在のお金は、以前(半世紀前)のような、「貴金属との兌換」もされていない。
 貴金属との交換が約束されているわけでもなく、綿密に計算されてつくららたわけでもないお金を、我々は日々血みどろになって追いかけているのだ。

【『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(ビジネス社、2018年)】

「17世紀のヨーロッパの商人」とは両替商を行っていたユダヤ人を指す。ヨーロッパでは伝統的にユダヤ人が排斥・弾圧されてきた。就ける職業も限られた。彼らの才能が芸術や金融で花開いたのは、そうせざるを得なかった歴史的な経緯による。

 動画を二つ紹介しよう。




 最初の動画は「Money As Debt」(負債としてのお金)の一部である。

 世界最初の紙幣は北宋の「交子」だが、たぶん信用創造には至らなかったのだろう。ユダヤ人の悪知恵は「信用」に目をつけた。その着眼の鋭さが近代の扉を開いたとも言い得る。

 紙幣こそは現代のマンダラであり、硬貨は十字架である。通貨の信用は約束事に過ぎないが、現代社会でお金の価値を疑う者はいない。すなわちマネーとそれを保証する国家こそが現代の宗教なのだ。自殺の大半が経済的困窮によるものだ。我々はお金がないと生きてゆくことができない――そう信じ込んでしまっているところに、この宗教の絶対性がある。