2019-04-28

ウォーキング三部作/『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき


『足・ひざ・腰の痛みが劇的に消える足指のばし』湯浅慶朗
『本当に必要な「ゆるスクワット」と「かかと落とし」』中村幸男
『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
『高岡英夫の歩き革命』高岡英夫:小松美冬構成
『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘

 ・ウォーキング三部作

ナンバ歩きと古の歩術
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
・『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『走れ!マンガ家 ひぃこらサブスリー 運動オンチで85kg 52歳フルマラソン挑戦記!』みやすのんき
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン

身体革命
必読書リスト その二

 危険なのは横たわっている状況だけではありません。
 イギリスのスポーツ医学雑誌「British Journal of Sports Medicine」オンライン版に発表された研究では、オーストラリア糖尿病学会が行った「オーストラリア肥満・生活習慣研究(AusDiab)」や、オーストラリア国民健康調査のデータを検討した結果、テレビを1日平均6時間視聴すると、まったく見なかった場合と比べて【“4年8ヶ月”も寿命が短くなってしまう】という結論が導き出されました。じっと座って1時間テレビを見ることで、寿命が約22分縮んだことになるのです。
 肝心なのは【テレビそのものが悪いのではなく、「座る」行為が身体によくない】ことです。
 テレビに限らず、オフィスでじっと1時間座っていても、クルマを1時間座って運転していても寿命が22分間縮むことになります。ちなみにタバコは1本吸うごとに寿命が11分縮むといわれています。つまり、【1時間座って仕事をするほうが、タバコを1本吸うよりも寿命が縮む】のです!
 カナダ・トロントの研究チームが、座る時間が長い生活スタイルについて調べた47の調査結果を分析した結果、【座る時間が長いと心血管系の疾患や癌、2型糖尿病などの慢性疾患を発症して死に至る確率が高まる】ことが分かりました。

【『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき(彩図社、2016年/増補改訂版『ランナーが知っておくべき歩き方』実業之日本社、2019年)以下同】

 確か『アルツハイマー病は治る』(ミヒャエル・ネールス、2018年)でも同じ指摘があったように思う。アルツハイマーですら文明病だというのだ。何度も書いているが小学生を椅子に坐りっ放しにする義務教育のあり方はどう考えてもおかしい。野山を駆け巡り、木に上るのが児童本来の行動だ。

 タバコの記述に関しては少々安易で、肺癌患者の喫煙者に注目するか喫煙者全体を見るかで結果は異なる。寿命については相関関係を因果関係と誤解する論法が多すぎて信じるに値しない。そもそも喫煙を始めたのはアメリカ・インディアンだが彼らは長寿であった。

 みやすは「なぜASIMOの歩き方はおかしいのか?」と問う。そして人体の特徴が「骨盤」にあることを示す。

 人間の歩行は地球上の他のいずれの動物とも違うのです。【背骨や膝をまっすぐ伸ばし、踵をつけて歩く直立二足歩行】です。単なる“二足歩行”の動物は、熊や猿、鳥類、エリマキトカゲなどたくさんいます。しかしこれらは骨盤が発達していないために、おっかなびっくりな歩き方で長時間の二足歩行には堪えられません。
 人間がなぜ直立二足歩行ができるようになったのかというと、しっかり立つことができるように2~300万年の間に骨盤と踵が他の動物に比べて大きく進化したからなのです。
 ロボットの話に戻ると、【彼らは概して歩行のために骨盤や上体を使っていない】のです。

 私はかねがね「姿勢を正すとは背筋を伸ばすことではなく骨盤を起こすことだ」と考えてきたのだが、「骨盤が進化した」との指摘に目から鱗が落ちる思いがした。体幹は意識しにくい。むしろ骨盤に意識を向けた方が上半身と下半身を自由に動かせるような気がする。

 人間の歩行は、【股関節や膝が脱力して足を振り子のように振り出して進みます】。これを【二重振り子歩行】といいます。だから長時間歩けるのです。人間の歩き方は骨盤を中心とした体幹が起動されて足に伝わって歩くのです。

 大転子(だいてんし)とは骨盤側面の下に位置で大腿骨が出っ張っている部分である。ここを振ることによって脚の重さを利用するのだ。当然、大転子を動かすためには大臀筋(だいでんきん)が働く。つまり大転子ウォーキングは必ず大臀筋ウォーキングとなるのだ。これでピンと来る人は少ないだろう。みやすがモンロー・ウォークを示したのは卓見である。

 つまりこうだ。大股で体を左右に振って極端なナンバ歩きをしてみればよい。それから大転子ウォーキングをすれば歩幅が格段に広がることを実感できる。つまりナンバ歩きは体を捻(ねじ)らないのと同時に歩幅を広げる効果があったのだ。

 いやはや驚きである。実践していくうちに体が目覚めてくるのだ。私は自転車の乗り方まで一変した。みやすのんきは漫画家であるが説明能力はオリンピック選手を軽々と凌駕する。

 着地は踵(かかと)の真ん中としているのもミッドフットと考えてよかろう。爪先を上げるのもサンダル利用者であれば普通に行っていることで、かつて人類が裸足で歩いていた事実を思えばまったく自然である。

 ウォーキング三部作は必ず順番通りに読むこと。そうすれば本書が天才本であることが納得できよう。



内発動理論/『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑

2019-04-27

速く歩ける人は死亡率が低い/『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘


『高岡英夫の歩き革命』高岡英夫:小松美冬構成

 ・速く歩ける人は死亡率が低い

『あなたの歩き方が劇的に変わる! 驚異の大転子ウォーキング』みやすのんき
ナンバ歩きと古の歩術
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
・『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』小田伸午、小山田良治、河原敏男、森田英二、木寺英史、常歩研究会編
・『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午

 私たちは「労働時間こそすべて」のような価値観に長らく縛られてきたので、量の多いことに価値観を見出しがちです。しかしながらスポーツにおいては量だけの競争はありません。必ずタイムが伴います。
 究極の目的は【「速く、長い距離を、ずっと」】ということなおんですが、現実には速さと距離のバランス、負荷と量のバランスをそれぞれ取りながら生きています。
 さらに身体機能については興味深いデータがあります。
 速く歩ける人のほうが、死亡率が低いというデータです。
 厚生労働省では、「それぞれの年齢でこれぐらいのスピードでは歩きたい」という目標値を出しているので、ぜひ一度トライしてみてください。

【『あらゆる不調が解決する 最高の歩き方』園原健弘〈そのはら・たけひろ〉(きずな出版、2017年)以下同】


 園原健弘は競歩の元オリンピック選手だ。「だから何なんだ?」と最初から舐(な)めてかかったのだが意外と参考になった。「速く歩ける人は死亡率が低い」との指摘には吃驚仰天(びっくりぎょうてん)である。

 ウォーキングの概念を叩き込み、考えながら歩かせる手法は正しい。呼吸や歩行は誰もが行っていることだがきちんと出来ている人は少ない。我々は長く坐り過ぎて歩くことすら忘れてしまったのだ。因みに健康を最大に阻害しているのは「坐る」行為だ。万病の元と断言しておこう。

 裸足歩行に園原は疑問を投げ掛けているが、彼は大東亜戦争で高砂義勇隊が裸足で大活躍した歴史を知らないのだろう。人類の長い歴史を振り返れば靴を履いている期間は最近のことだ。素足で得られる情報の多さを軽んじてはなるまい。

 一流選手の説明が一流とは限らない。名選手が必ずしも名監督とならないのと同じだ。踵着地も私としては腑に落ちない。ただしウォーキング概念をつかむためには読んでおいて損はないだろう。

スクワット入門/『死ぬまで歩くにはスクワットだけすればいい』小林弘幸


・『「腰割り」で体が若返る 肩こり・腰痛・ひざ痛など体の不調を改善するお手軽体操』白木仁

 ・スクワット入門

『本当に必要な「ゆるスクワット」と「かかと落とし」』中村幸男
・『世界一やせるスクワット』坂詰真二監修
・『神スクワット 1日20回からの腹も凹む究極のメニュー』森俊憲

 正しいフォームとは、最も健康効果を高めるフォームのことです。同時に、誰が行ってもケガやアクシデントが起こりにくい、安全なフォームのこと。
 そこで私は、医学的知見をもとに、健康効果を最大限に高めるとともに、誰もが安心して行える正しいスクワットの方法を検証しました。
 最初は、私自身も「階段をラクに上るため」という、ちょっとしたきっかけで始めたスクワットでしたが、効果を調べていくと、実におもしろいことがわかりました。【スクワットには、足腰を鍛えるだけではなく、免疫力向上、認知症予防、尿もれ防止、便秘改善、心を前向きにする作用】など、たくさんの驚くべき効果が隠されていたのです。
【スクワットをすることで、これからのあなたの人生は確実に変わります】。

【『死ぬまで歩くにはスクワットだけすればいい』小林弘幸(幻冬舎、2017年)以下同】

 スクワットは意外と奥が深いのだが中々いい本がない。一応私が読んだものをピックアップしておいたが雑多な情報から自分なりにエッセンスをつかむのがよいだろう。

 筋トレの基本はスクワットである。理由は簡単で人体の最も太い筋肉が大腿筋であるからだ。加齢に逆らえるのは筋肉だけである。黙っていると筋肉は年々減少してゆく。体型は変わっていなくても実際はサルコペニア肥満になっているケースが多い(『寝たきり老人になりたくないなら大腰筋を鍛えなさい』久野譜也)。有酸素運動で鍛えられる筋肉は代謝とは無縁で、贅肉を落とすためには筋トレが不可欠だ。

・毎日、朝晩行う
・ゆっくり行う
・ひざを90度より深く曲げない
・意識を太ももに集中させる
・腰を曲げない
・腰を下ろすときに息を吐き、上げるときに息を吸う
・食前に行う
・入浴前に行う
・ゆったりした衣服で行う
・痛みを感じたらすぐに中断

 所謂ハーフスクワットなのだが姿勢については諸説ある。一般的には足を肩幅より広い位置に置き、爪先をやや外側に向ける。腕は胸で組む、胸から離して組む、真っ直ぐ伸ばして掌(てのひら)を下に向けて重ねる、など。股割りスタイルというのもあって、この場合は相撲取りのように足と膝を外側に向けて行う。膝に掛かる負荷が少ないといわれている。

 高齢者はテーブルや椅子、手摺りなどにつかまって行うといいだろう。特に女性の場合、尻餅をついて背骨の圧迫骨折が原因で寝たきりになるケースが多いので安易な姿勢は戒めるべきだ。

死ぬまで歩くにはスクワットだけすればいい
小林 弘幸
幻冬舎 (2017-10-25)
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2019-04-26

「私たちはなぜ友人をほしがるのでしょうか?」/『子供たちとの対話 考えてごらん』J・クリシュナムルティ


 ・自由の問題 1
 ・自由の問題 2
 ・自由の問題 3
 ・欲望が悲哀・不安・恐怖を生む
 ・教育の機能 1
 ・教育の機能 2
 ・教育の機能 3
 ・教育の機能 4
 ・縁起と人間関係についての考察
 ・宗教とは何か?
 ・無垢の自信
 ・真の学びとは
 ・「私たちはなぜ友人をほしがるのでしょうか?」
 ・時のない状態
 ・生とは
 ・習慣のわだち
 ・生の不思議

クリシュナムルティ著作リスト
必読書リスト その五

 なぜ友人がほしいのでしょう。君たちは夫や妻もなく、子供もなく、友だちもなく、この世の中に一人で生きられますか。ほとんどの人は一人では生きられません。そのために友人がほしいのです。一人でいるには、非常に大きな智慧が必要です。そして、神や真理を見出すには、一人でいなくては【なりません】。友人や夫や妻を持つことや赤ちゃんを持つこともすてきです。しかし、私たちはそれらの中で、家庭や仕事、腐敗してゆく存在のつまらない単調な課業のなか(ママ)で、迷ってしまいます。それになじんでしまうのです。そのとき、一人で生きるという考えは恐ろしく、怖いものになるのです。しかし、生に豊かさがあるなら――お金や知識という誰にでも獲得できる豊かさではなく、始まりもなく終わりもない真実の動きという豊かさがあるのなら、そのとき交友は二次的な問題になるでしょう。

【『子供たちとの対話 考えてごらん』J・クリシュナムルティ:藤仲孝司〈ふじなか・たかし〉訳(平河出版社、1992年)以下同】

「私たちはなぜ友人をほしがるのでしょうか?」という少女の質問に答えたもの。「神や真理を見出すには、一人でいなくては【なりません】」との一言で教祖や師匠の存在を否定して痛烈である。出家の目的もここにあるのだろう。ブッダのもとに集ったサンガは共同体であったとされるが、現代の我々が考えるようなコミュニティではなかったように思われる。精神的な相互扶助があればそこに依存が生まれるからだ。

「始まりもなく終わりもない真実の動き」――このようなクリシュナムルティ独特の表現が何を指しているのか私にはわからない。たぶん三法印(諸行無常、諸法無我、涅槃寂静)のことだとは思うが、クリシュナムルティの言葉の方がすっきりと胸に入ってくる。

 しかし、君たちは一人でいる教育を受けないでしょう。君たちは自分一人で散歩に出かけることがありますか。一人で出かけ、木陰に坐ることはとても重要です――本も持たず、友人もなく、自分一人で、です。そして、木の葉が散るのを観察し、河のさざなみや漁師の歌を聴き、鳥が飛ぶのや、心の空間で自分の思考が互いに追いかけ合い、跳んでいるのを眺めるのです。一人でいて、これらのものを眺めることができるなら、そのとき君はとてつもない富を発見するでしょう。それは、どんな政府も税金を掛けられないし、どんな人間の作用によっても腐敗しないし、決して滅ぶことがないのです。

 デカルトだってここまでの観察はできなかったことだろう。見るためには距離が必要だ。つまり自分の思考を観察するためには自我から離れる必要があるのだ。

 クリシュナムルティは「悟れ」とすら言わない。ただ、「見よ」というだけである。「止観」(しかん)とはこのことか。道元は「正法眼蔵」を、日蓮は「開目抄」「観心本尊抄」を著した。「見る」という方向性は一致しているがクリシュナムルティのシンプルさは際立っている。


2019-04-25

ジョン・ホイーラーが示したビッグクエスチョン/『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー


『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック
『量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』マンジット・クマール
『宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか』ルイーザ・ギルダー

 ・ジョン・ホイーラーが示したビッグクエスチョン

『すごい物理学講義』カルロ・ロヴェッリ
『宇宙を復号(デコード)する 量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号』チャールズ・サイフェ
『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド
『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス

情報とアルゴリズム
必読書リスト その三

 指導者としてのウィーラーは、言葉の持つ魔力を知り抜いていた。一例を挙げると、物理学会が星の崩壊という現象に真剣に目を向けるよう、彼は「ブラックホール」という言葉をこしらえ、この企ては予想を超えた成功を収めた。しかし、晩年になって名声が高まり、評論や講演がより幅広い人々を対象としたものになるにつれて、ウィーラーは、量子力学の解釈や宇宙の起源といった、物理学と哲学が衝突する深遠な問題に的を絞りはじめた。自分の考えを人々の記憶に残る取っつきやすい言葉で表現するために、彼は「ビッグ・クエスチョン」と呼ぶ神託めいた独特な言い回しを作り出した。その中で最も重要な「真のビッグ・クエスチョン」が、この生誕90周年記念シンポジウムにおける議題選定のきっかけとなった。講演者は一人ひとり、これらの謎めいた金言からどんな閃(ひらめ)きをエたのかを、直々(じきじき)に証言したのである。
 ウィーラーの「真のビッグ・クエスチョン」は、まさに抽象的な性質のものであり、また車のバンパーに貼るステッカーに記せるほど簡潔なものだが、運転中にそれに思いを巡らせるのはお勧めできない。その中の五つは、特に際だっている。

いかにして存在したか?
なぜ量子か?
参加型の宇宙か?
何が意味を与えたか?
ITはBITからなるか?

【『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー:水谷淳〈みずたに・じゅん〉訳(日経BP社、2006年)】

「ウィーラー」がジョン・ホイーラー(1911-2008年)のことだと気づくのに少し時間がかかった。名前くらいは統一表記にしてもらいたいものだ。昨今の潮流としては原音に近い表記をするようになっているが、もともと日本語表記のセンスはそれほど悪くない。「YEAH」も現在は「イェー」だが、1960年代は「ヤァ」と書いた。ホイーラーはブラックホールの名付け親として広く知られる。

 ぎりぎりまで圧縮されたビッグクエスチョンは哲学的な表現となって激しく脳を揺さぶる。さしずめブッダであれば無記で応じたことだろうが、凡夫の知はとどまるところを知らない。わかったからどうだということではなく、わからずにはいられないのだ。

 存在と認識を突き詰めたところに意識と情報が浮かび上がってくる。参加型の宇宙とは人間原理のこと。人間の意識が宇宙の存在に関与しているという考え方だ。

 人類の進化はまだ途中だろう。ポスト・ヒューマンがレイ・カーツワイルが指摘するような形になるか、あるいは新たな群れ構造が誕生するに違いない。技術の発達を人類の情報共有という点から見れば、我々は知の共有は既に成し遂げたと考えてよい。月から撮影された地球の写真が人々の脳を一変させた事実はそれほど遠い昔のことではない。

 情のレベルは国家や民族という枠組みがあるもののまだまだ一つになっているとは言い難い。祭りと宗教にその鍵があると思われるが、現代社会では音楽や映画の方が大きな影響を及ぼしている。近未来の可能性としてはバイブルを超えるバイブルの誕生もあり得るだろう。人類が戦争を好んでやまないのは群れとしての一体感を感じるためだ。

 種としてのヒトが完全な群れと進化した時、新たな「群れの意識」が創生されることだろう。知情意は共有され、合理的な行動が近未来に向って走り出す。宇宙に向けて偉大な一歩が踏み出されるのはその時だ。