2019-11-22

現代病(21世紀病)の原因はヒトマイクロバイオームの乱れ/『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ・コリン


『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二
『医者が教える食事術2 実践バイブル 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方70』牧田善二
『脳はバカ、腸はかしこい』藤田紘一郎
『免疫の意味論』多田富雄
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『感染症の世界史』石弘之

 ・衛生仮説から旧友仮説に
 ・現代病(21世紀病)の原因はヒトマイクロバイオームの乱れ

・『失われてゆく、我々の内なる細菌』マーティン・J・ブレイザー
『土と内臓 微生物がつくる世界』デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー
・『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』藤井一至
『心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ
『したたかな寄生 脳と体を乗っ取り巧みに操る生物たち』成田聡子
『失われてゆく、我々の内なる細菌』マーティン・J・ブレイザー
『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』デイヴ・アスプリー

身体革命
必読書リスト その三

 あなたの体のうち、ヒトの部分は10%しかない。
 あなたが「自分の体」と呼んでいる容器を構成している細胞1個につき、そこに乗っかっているヒッチハイカーの細胞は9個ある。あなたという存在には、血と肉と筋肉と骨、脳と皮膚だけでなく、細菌と菌類が含まれている。あなたの体はあなたのものである以上に、微生物のものでもあるのだ。

【『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ・コリン:矢野真千子〈やの・まちこ〉訳(河出書房新社、2016年)】

 何ということか。つまり体は私自身でもあり私の環境でもあるのだ。脳化社会で最後に抗う自然が人体なのだ。意識と知覚の預かり知らぬところで微生物叢は静かに戦争と民主政を展開している。しかも遺伝子レベルで見るとヒトの部分はもっと少なくなる。

 ヒトの遺伝子の数は、線虫とほぼ同じ、21000個だった。ヒトゲノムのサイズは植物のイネの半分しかなく、31000個の遺伝子を有するミジンコにもはるかに及ばなかった。(中略)
 人体に棲むこれらの微生物を合わせると、遺伝子の総数は440万個になる。これがマイクロバイオータのゲノム集合体、つまりマイクロバイオームである。微生物の440万個の遺伝子は、21000個のヒト遺伝子と協力しながら私たちの体を動かしている。遺伝子の数で比べれば、あなたのヒトの部分は0.5%でしかない。

 生物は遺伝子が自らのコピーを残すためにつくり出した乗り物に過ぎないというリチャード・ドーキンスの説(『利己的な遺伝子』1976年)も色褪せて見えてくる。45億年前に地球が形成され、38億年前に生命が誕生した。38億年の歴史を受け継ぎ共有しているのはヒト遺伝子も微生物叢も一緒だ。今生きている生物の先祖を辿ればそのすべてが38億年をさかのぼることができるのだ。

 私の健康被害(※マレーシアのダニによる熱帯病の治療で抗生物質を大量に投与)は氷山の一角だった。共生微生物のアンバランスが胃腸疾患、アレルギー、自己免疫疾患、さらには肥満を引き起こしているという科学的証拠が続々と出てきていることを私は知った。体の病気だけではない。不安症、うつ病、強迫性障害、自閉症といった心の病気にも微生物が影響している。私たちが人生の一部として甘受している病気の多くはどうやら、遺伝子の欠陥や体力低下のせいではなく、ヒト細胞の延長にある微生物を軽んじたせいで出現した、新しい病態のようなのだ。

 現代病(21世紀病)の原因はヒトマイクロバイオームの乱れにあるとの指摘に衝撃を受けた。アランナ・コリンがいう21世紀病とは伝染病の速度で先進国を中心に広まっている病態のすべてを指す。

 抗生物質は多くの人々の生命を救ってきた。初めは高価であったペニシリンが量産できるようになると万能薬といわんばかりに処方された。挙げ句の果てには抗生物質を投与すると家畜が肥大することが判明し、畜産業者は牛や鳥を抗生物質まみれにした。有機栽培が危ういのは鶏糞などに抗生物質が混入しているためだ。現代人は幼少期に抗生物質を投与され、抗生物質まみれの肉と野菜を食べることでマイクロバイオームの大虐殺を行っているのだ。

 意識と知覚は妄想の世界をさまよう(ユヴァル・ノア・ハラリ)。刺激を求めて贅沢な食事を好み、濃厚なソースや食品添加物にあっさりと騙される。手っ取り早い刺激を追求したのがファストフードだ。次から次へと詐欺被害に遭う舌はやがて麻痺し、毒をも美味と感じるようになるのだろう。

 これがアランナ・コリンのデビュー作というのだから驚く。やはり世界は広い。

2019-11-20

柔軟性よりも胴体力/『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編


『究極の身体(からだ)』高岡英夫
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
『心をひらく体のレッスン フェルデンクライスの自己開発法』モーシェ・フェルデンクライス
『運動能力は筋肉ではなく骨が9割 THE内発動』川嶋佑
『ウィリアム・フォーサイス、武道家・日野晃に出会う』日野晃、押切伸一
『大野一雄 稽古の言葉』大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
『武学入門 武術は身体を脳化する』日野晃
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『スーパーボディを読む ジョーダン、ウッズ、玉三郎の「胴体力」』伊藤昇
『気分爽快!身体革命 だれもが身体のプロフェッショナルになれる!』伊藤昇、飛龍会編
『棗田式 胴体トレーニング』棗田三奈子

 ・柔軟性よりも胴体力
 ・動きの「細分化」
 ・骨盤の細分化

『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成
『身体構造力 日本人のからだと思考の関係論』伊東義晃
『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法システマ・ブリージング』北川貴英
・『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』佐々木繁光監修、橋本馨
・『仙骨姿勢講座 仙骨の“コツ”はすべてに通ず』吉田始史

身体革命
必読書リスト その二

伊藤●ストレッチは、胴体に関係なく伸ばすことが多いです。中には連続性で動かすものもありますが、伊藤式の場合、あくまで胴体が動いて手足が動くムチのような身体作りを前提にしているのです。
 むしろ意味もなく、身体を伸ばしてはいけないのです。身体組織は、胴体が動いて四肢が動くわけですから、背中が硬いのに脚を無理に完全開脚して、回し蹴りなどをやっていれば、股関節や膝を悪くしてしまいます。無理のない動きを作るために行うのが伊藤式胴体トレーニングですから、柔軟性を求めるストレッチとは似て非なるものですね。人間の身体は、無理にでも伸ばしていれば、伸びてしまうものなのです。でも、武道的に見た場合、いくら動いてもそこに威力が伴わなければダメですね。

 人は、そんなに可動性って、必要ないですから。スポーツでもそうなのですが、別にタコのような柔軟性がなくてもなんとかなるものが多いのです。ですから、ヘタに可動域を広げるよりも、いかに胴体をなめらかに動かすかを考えるのが先決だと思います。

【『月刊「秘伝」特別編集 天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング「胴体力」入門』月刊「秘伝」編集部編(BABジャパン出版局、2006年/新装改訂版、2021年)】

 月刊『秘伝』の1999年9月号から2006年3月号にかけて掲載された記事をもとに再編集し、大幅な描き下ろしを加えたB5判ムック本。伊藤式胴体トレーニングの決定版といってよい。様々なトレーニング法の写真も多く眼(まなこ)が開く思いがした。読み終えて直ちに再読した。ベースとなるのは単純な動作である。
「私が求めていたのはこれだ」と確信した。単純な動作には体をパーツごとに動かす目的がある。胴体の細密にして微妙な動きこそが胴体力なのだ。

 私は内旋運動を意識してアイソメトリックス効果を出すべく7秒キープを心掛けている。また伊藤式を実践してみると高岡英夫のゆる体操が同じ視線の角度で身体を見つめていることがわかる。

 鍛えるだけでは壊れる。調(ととの)えることを忘れてはなるまい。

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2019-11-16

昭和19年の風景/『時流に反して』竹山道雄


『昭和の精神史』竹山道雄
『竹山道雄と昭和の時代』平川祐弘
『見て,感じて,考える』竹山道雄
『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』竹山道雄:平川祐弘編
『剣と十字架 ドイツの旅より』竹山道雄
『ビルマの竪琴』竹山道雄
『竹山道雄評論集 乱世の中から』竹山道雄
『歴史的意識について』竹山道雄
『主役としての近代 竹山道雄セレクションIV』竹山道雄:平川祐弘
『精神のあとをたずねて』竹山道雄

 ・昭和19年の風景
 ・絵画のような人物描写

『みじかい命』竹山道雄

竹山道雄著作リスト

   1
 樅の木と薔薇
 蓮池のほとりにて
 磯

   2
 若い世代
 空地
 昭和十九年の一高

   3
 学生事件の見解と感想
 門を入らない人々

   4
 ベルリンにて
 モスコーの地図

   5
 白磁の杯

   6
 焼跡の審問官
 妄想とその犠牲
 聖書とガス室

   7
 昭和の精神史

  あとがき

   編注
   初稿発表覚え書

   主要発表一覧
   著訳書一覧



 あのころは遠くの山脈も今よりははっきり見えたような気がする。日によっては、光を浴びた雪山がすぐまぢかに迫って聳り立っているように思われたこともあった。(「空地」)

【『時流に反して』竹山道雄(文藝春秋、1968年)】

 巻末資料に「向陵時報 19.6.16稿」とある。向陵時報は旧制一高の寮内新聞のようだ(資料所蔵先)。うろ覚えだが「空地」の他は既出の文章であったと思う。

 場面展開がクルクルと変わる随筆でつかみどころがないように感じるが、確実に敗戦へ向かう国情が偲(しの)ばれる。しかもそれぞれのエピソードを空地でつないで国土に仮託している。上記テキストも「将来の見通しが立たなくなった日本」を静かに描くものだ。あとがきで「厭戦気分もこれ以上には書くことはできなかった」と心情を吐露している。

『時流に反して』とのタイトルが実に竹山らしく戦中・戦後の文筆もさることながら、刊行された1968年が学生運動の真っ盛りであることを踏まえれば二重の意味で迫ってくるものがある。

時流に反して (1968年) (人と思想)
竹山 道雄
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イスラエル人歴史学者の恐るべき仏教理解/『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ


物語の本質~青木勇気『「物語」とは何であるか』への応答
『ものぐさ精神分析』岸田秀
『続 ものぐさ精神分析』岸田秀
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ

 ・読書日記
 ・目次
 ・マクロ歴史学
 ・認知革命~虚構を語り信じる能力
 ・イスラエル人歴史学者の恐るべき仏教理解

・『ハキリアリ 農業を営む奇跡の生物』バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウィルソン
『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
『人類史のなかの定住革命』西田正規
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ
『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』ユヴァル・ノア・ハラリ
『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』リズワン・バーク

世界史の教科書
必読書リストその五

 以上のような立場から、宗教や哲学の多くは、幸福に対して自由主義とはまったく異なる探求方法をとってきた。なかでもとくに興味深いのが、仏教の立場だ。仏教はおそらく、人間の奉じる他のどんな信条と比べても、幸福の問題を重要視していると考えられる。2500年にわたって、仏教は幸福の本質と根源について、体系的に研究してきた。(中略)
 幸福に対する生物学的な探求方法から得られた基本的見解を、仏教も受け容れている。すなわち、幸せは外の世界の出来事ではなく身体の内で起こっている過程に起因するという見識だ。だが仏教は、この共通の見識を出発点としながらも、まったく異なる結論に行き着く。
 仏教によれば、たいていの人は快い感情を幸福とし、不快な感情を苦痛と考えるという。その結果、自分の感情に重要性を認め、ますます多くの喜びを経験することを渇愛し、苦痛を避けるようになる。脚を掻くことであれ、椅子で少しもじもじすることであれ、世界大戦を行なうことであれ、生涯のうちに何をしようと、私たちはただ快い感情を得ようとしているにすぎない。
 だが仏教によれば、そこには問題があるという。私たちの感情は、海の波のように刻一刻と変化する、束の間の心の揺らぎにすぎない。5分前に喜びや人生の意義を感じていても、今はそうした感情は消え去り、悲しくなって意気消沈しているかもしれない。だから快い感情を経験したければ、たえずそれを追い求めるとともに、不快な感情を追い払わなければならない。だが、仮にそれに成功したとしても、ただちに一からやり直さなければならず、自分の苦労に対する永続的な報いはけっして得られない。(中略)
 喜びを経験しているときにさえ、心は満足できない。なぜなら心は、この感情がすぐに消えてしまうことを恐れると同時に、この感情が持続し、強まることを渇愛するからだ。
 人間は、あれやこれやのはかない感情を経験したときではなく、自分の感情はすべて束の間のものであることを理解し、そうした感情を渇愛することをやめたときに初めて、苦しみから解放される。それが仏教で瞑想の修練を積む目的だ。(中略)
 このような考え方は、現代の自由主義の文化とはかけ離れているため、仏教の洞察に初めて接した西洋のニューエイジ運動は、それを自由主義の文脈に置き換え、その内容を一転させてしまった。ニューエイジの諸カルトは、しばしばこう主張する。「幸せかどうかは、外部の条件によって決まるのではない。心の中で何を感じるかによってのみ決まるのだ。富や地位のような外部の成果を追い求めるのをやめ、内なる感情に耳を傾けるべきなのだ」。簡潔に言えば、「幸せは身の内に発す」ということだ。これこそまさに生物学者の主張だが、ブッダの教えとはほぼ正反対だと言える。
 幸福が外部の条件とは無関係であるという点については、ブッダも現代の生物学やニューエイジ運動と意見を同じくしていた。とはいえ、ブッダの洞察のうち、より重要性が高く、はるかに深遠なのは、真の幸福とは私たちの内なる感情とも無関係であるというものだ。事実、自分の感情に重きを置くほど、私たちはそうした感情をいっそう強く渇愛するようになり、苦しみも増す。ブッダが教え諭したのは、外部の成果の追求のみならず、内なる感情の追求をもやめることだった。

【『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(河出書房新社、2016年)】

 読みながら思わずタップした。少なからず30年ほど仏教を学んできたつもりであったが、私のやってきたことは他人の言葉をただなぞっていただけであったと思い知らされた。変質した日本仏教(特にマントラ系)の信徒であれば理解することさえ難しいだろう。

 たった今、Wikipediaを見たところハラリはヴィパッサナー瞑想の実践者らしい。そりゃそうだろう。歴史学者の知識だけで推し量れるほど仏教の世界は浅くない。

 ブッダは繰り返し「捨てよ」と説いた。不幸の原因である欲望や執着の虜となっている我々が一歩前進するためには自ら「つかんで放す」行動が必要となる。しかしながら実態としては、ただ「放す」「落とす」というニュアンスの方が正確だろう。肩に積もった雪を振り払うように執着を払い落とすことができれば苦悩は行き場を失う。

 本書は「21世紀の古典」であり、学問的常識に位置づけられる作品となるに違いない。