2019-03-27

アファメーションの解説書/『「言葉」があなたの人生を決める』苫米地英人


 ・アファメーションの解説書

『アファメーション』ルー・タイス
『「原因」と「結果」の法則』ジェームズ・アレン
『「原因」と「結果」の法則2 幸福への道』ジェームズ・アレン
『新板 マーフィー世界一かんたんな自己実現法』ジョセフ・マーフィー
『未来は、えらべる!』バシャール、本田健
『潜在意識をとことん使いこなす』C・ジェームス・ジェンセン
『こうして、思考は現実になる』パム・グラウト
『こうして、思考は現実になる 2』パム・グラウト
『自動的に夢がかなっていく ブレイン・プログラミング』アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ
『あなたという習慣を断つ 脳科学が教える新しい自分になる方法』ジョー・ディスペンザ
『ソース あなたの人生の源はワクワクすることにある。』マイク・マクナマス
『科学的 本当の望みを叶える「言葉」の使い方』小森圭太

【アファメーションとは、簡単にいえば、あるルールにもとづいてつくった言葉を自らに語りかけることです。】

【『「言葉」があなたの人生を決める』苫米地英人〈とまべち・ひでと〉:マーク・シューベルト監修(フォレスト出版、2013年)以下同】

 思想的な流れでいうと、アメリカキリスト教のニューソートから成功哲学、ポジティブ・シンキング(積極思考)、自己啓発、引き寄せの法則などが派生した。エマーソン~ソローが大きな影響を与えており、後に誕生するニューエイジなどを考え合わせると、彼らはアメリカにおける鎌倉仏教のような役割を果たした可能性がある(神智学協会というコネクター/『仏教と西洋の出会い』フレデリック・ルノワール)。

【私たちの思考は、すべて言葉で成り立っています。】もちろん、イメージを使って考えることもありますが、そのイメージの元をたどっていくと、それらはすべて自分や対象を規定する言葉に行き当たります。

 脳が言葉に支配される様相を直覚して言霊信仰が生まれたのだろう。言葉自体はコミュニケーションのツールとして発生したのだろうが、あまりにも便利すぎて道具が我々を支配したのだ。厳密にいえば言葉になる前の思考は存在する。「どうしようかな」と思いあぐねる時、言葉に先立つモヤモヤが確かにある。それは思考・感情・選択・判断などが混じり合った暗い沼のような領域を形成する。ところが何らかの結論を出した途端、我々の脳は結論から逆算して論理を構成し、筋道を作って正当化するのだ。これを他人に説明する時は相手が納得するだけの根拠を後付で用意する。この時間の逆転現象を我々が自覚することはまずない。

 このように【私たちが行う選択と行動は、その人がどんな言葉を受け入れいているかによって決まってしまいます。】
「自分は能力のない人間だ」という言葉を受け入れいている人は、能力のない人間の選択と行動をとるし、逆に「自分は能力のある人間だ」という言葉を受け入れている人は、能力のある人間にふさわしい選択と行動をとります。

 自分のレッテルは自分で貼っているということだ。

 ルー・タイスは、こうした人生のゴールを「【現状の外側にあるゴール】」といい、「【人生のゴールは、現状の外側に設定しなさい】」と教えました。
「現状の外側にあるゴール」とは、いったいどういうことでしょうか?
 つまり、簡単にいえば、【いまの自分とはかけ離れ、いまの仕事や環境では考えつかないような突飛なゴール】のことです。(中略)
 いまの現状からかけ離れた人生のゴール、つまり【現状の延長線上にはない突飛なゴールだからこそ、逆に私たちはそれを100%実現することができるのです。】

 アファメーションとは自分の潜在意識に言葉で働きかけるテクニックだ。思考が言葉に支配されているならば言葉を変えればいいのだ。言葉には人を動かす力が確かにある。具体例を示そう。

言葉の重み/『時宗』高橋克彦
将は将を知る/『楽毅』宮城谷昌光

 私自身、振り返ると人生の行き詰まりを感じた時には必ず先輩の言葉に助けられた。言葉が心を動かし人を動かすのだ。

 ここまで見通せればアファメーションが華厳経の焼き直しであることが立ちどころに理解できる。「心は工(たくみ)なる画師(えし)の如く種種の五陰を画く。一切世間の中に法として造らざること無し」(華厳経第十)。世界は心の影なのだ。

 小学2年の時から付き合いのあるイガラシという友人がいる。滅法面白い男でとにかくコイツの周りでは面白い事件が起こる。小学生の頃からずっとそうなのだ。そこで私ははたと気づいた。「イガラシの周りで面白い事件が起こるのではなく、イガラシが面白い人物だからこそそういう事件を引き寄せるのだろう」と。私がこれを悟ったのは10代の頃である。一人は万人に通じる。悲観的な人物の周りには悲観的な出来事が多いし、暴力的な男の周りには血なまぐさいトラブルが多い。結局、同じ世界にいながらも我々は別の世界を生きているのだ。

 智ギ(天台大師)は先に挙げた華厳経の文(もん)を引いて一念三千の傍証とした。一念三千とは一瞬の生命に三千種の可能性があることを示したものだ。自分の思うがままに生きることこそ自由であり、「我がまま」の本意であろう。もちろん邪心があれば邪(よこしま)な世界が現出する。未来といっても現在の自分の中から生まれる。その鍵を知れば潜在意識に働きかけることはさほど難しいことではない。



人は自分が探しているものしか見つけることができない/『心晴日和』喜多川泰
『借金2000万円を抱えた僕にドSの宇宙さんが教えてくれた超うまくいく口ぐせ』小池浩

2019-03-25

六道輪廻/『マインドフルネス 気づきの瞑想』バンテ・H・グナラタナ


『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ

 ・六道輪廻

『ゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想入門 豊かな人生の技法』ウィリアム・ハート
『「瞑想」から「明想」へ 真実の自分を発見する旅の終わり』山本清次

 こうして私たちは、ふと人生をただ過ごしているということを理解します。平静を装い、なんとか収入の範囲内でやりくりし、外から見ればうまくやっているようにも見えます。しかし失望したときや、自分に関するいろいろなものが崩れていくと感じたとき、問題を抱えるのです。混乱します。混乱していることは知っていますが、その混乱をうまく隠すのです。
 他方、そうしたあらゆる不満のさらに奥のほうでは、何か別の生き方が必要だとか、世の中を見るもっとよい方法や、より充実して人生を過ごす方法が必要だ、ということも知っています。ときにはよい仕事を得たり、恋をしたり、勝負に勝ったりなど、好ましいことが訪れることもあるでしょう。しばらくのあいだ物事はよい方向に向かいます。人生が豊かで明るくなり、不満や退屈がなくなります。経験するあらゆることが好ましいほうに進み、「よし、うまくいった。これで幸せになる」と考えます。しかしその後、その好ましい状況もまた風に吹かれる煙のように徐々に消えていくのです。思い出だけが残ります。思い出と、何かがおかしいという漠然とした感覚が後に残るのです。
 私たちは、人生には深遠で優しい、まったく別の領域がきっとある、ということを感じているものの、どうもあまりそのことを理解していません。その世界から切り離されていると感じてイライラしています。何か心地よい楽しさから切り離されていると感じるのです。実際のところ、私たちは人生に触れていません。人生をよいものにつくり直そうともしていないのです。そしてその後、漠然とした“何かがおかしい”という感覚も消え、もとのいまいましい現実に戻ります。世の中がいつものひどく不快な場所に見えます。これは感情のジェットコースターに乗るようなもので、高いところに憧れつつも、傾斜面の一番低いところで多くの時間を過ごしているのです。

【『マインドフルネス 気づきの瞑想』バンテ・H・グナラタナ:出村佳子〈でむら・よしこ〉訳(サンガ、2012年)】

 真の意味で出家した者は世俗の姿がよく見える。彼らは世俗から離れているゆえに世俗の全体が見えるのだ。我々にとって幸福とは欲望を満たすことであるが、心の飢えや渇きが満たされることは決してない。遊園地で楽しさを満喫して、帰り道で疲労を味わい、明くる日からやりたくない仕事に束縛されるのが私の人生だ。

 幸福も不幸も長く続かない。生とは変化の異名である。諸行無常という言葉を知っている人は多いが実感する人はまずいない。「私」という存在を変わらぬものと錯覚した途端、世界は固定化される。

 冒頭に「ヴィパッサナー瞑想は簡単なものではありません」とある。のっけから馬脚を露(あら)わしていて笑ってしまった。簡単だとか難しいだとか言っている間は「瞑想が方式」になっているのだ。そんなことは悟りに至っていない私ですらわかる。

 スリランカ仏教(南伝仏教、上座部仏教、テーラワーダ仏教とも)はブッダの肉声を伝えていて魅了されるのだが、個々の僧を見ると妙な派閥意識の臭みが抜けていない。例えばスマナサーラの著作の量の多さなどに至っては「悟りの商品化」にすら見える。サンガという共同体に束縛されている姿がどうしても好きになれない。

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2019-03-24

修理、魅せます。 #013「本」


不死身の日本軍人/『英霊の絶叫 玉砕島アンガウル戦記』舩坂弘


 ・不死身の日本軍人

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 はつきり言へることは、近代戦のもつとも凄壮な様相が如実に描かれてゐる点で、又、ただ僥倖(ぎようこう)としか思へない事情で生き永らへた証人によつて、人間の「滅盡相(めつじんそう)」がはつきりと描かれてゐる点で、これは世界に比類のない本だといふことである。(「序」三島由紀夫)

【『英霊の絶叫 玉砕島アンガウル戦記』舩坂弘〈ふなさか・ひろし〉(光人社NF文庫、1996年/新装版、2014年/文藝春秋、1966年『英霊の絶叫 玉砕島アンガウル』を改題)以下同】

 三島由紀夫にとって舩坂弘は剣道の先輩であった。船坂は死線をさまよいながらも激戦を生き延び、戦地へ行かなかった三島がその後自決する。まったく不思議な運命の交錯である。

 米軍が3日間で終える予定だったペリリューの戦いは上陸後、73日間に及んだ。船坂は繰り広げられる死闘の最先端を走った。彼はたった独りで米軍司令部への攻撃を試みる。

〈これが、私の知っているアンガウル島なのか?――〉
 かつて私たちが苦しめられた沼や湿地帯も埋め立てられ、別の島に変貌していた。島の東港から西港を結んだ線以南はいつの間にか平坦地に変えて、そこにはところ狭しとばかり米軍の天幕が張りめぐらされている。
〈米軍というやつは大変なことをするもんだ〉
 わずか1200名で旧式の武器・弾薬を節約して使った日本軍とは規模の点に置(ママ)いて比較にならない。南部地区の米軍天幕を眺めると、海水を濾過する設備、発電所らしい設備、給水塔などが見える。いわば、天幕の街である。天幕と天幕の間には電線が走り、電話線もちゃんと敷かれてあるようだ。
 これをみたとき、私は誰に言うともなく、
「ダメだ。これじゃダメだ。」
 と幾度も呟いていた。一方では洞窟の中で一滴の水もないのに、米軍テントの外では海水から濾過した水でジャブジャブと洗濯をしているではないか。私はつくづく物量戦の敗北を感じていた。

 物量の差は歴然としていた。それでも「いまにみている。物量戦には敗けたが、気力で勝った日本兵の真髄を見せてやる」と船坂の心は燃えた。その後、波しぶきを浴びながら断崖絶壁を3時間もかけて移動する。

 草叢は天の恵みかと思われるほど絶好の場所で、司令部天幕までは15~20米である。早速、私は手榴弾を1個1個手に取り、
「必ず爆発してくれよ」
 と子供をさとすように祈った。
 東の空はいよいよ白んできた。そっとうかがえば、この西港の海上にも米軍艦船がおびただしく浮かび、その下でキラキラと波頭が輝き始めている。明るくなるにつれて、周辺の天幕が目の前にはっきりしてくる。たしかに司令部らしき天幕も目にうつった。その黒褐色のテントが私の死に場所である。死を賭けて捜し、命を投げて3日間這い続けたのも、この天幕に近づかんがためであった。私は涙を流して千載一遇の好機をつかんだことを喜んだ。よくもここまで来られたものである。

 体中に手榴弾を巻き付けた船坂はターミネーターと化す。

〈あとわずかだ!〉
 司令部は目前である。グァァンと鼓膜を破るような音がして銃弾が足もとの大地に、ブスッとめり込むのが見える。私は右手に握った手榴弾の信管を叩くべく、固く握り直した瞬間であった。その時、私は左頸部の付根に重いハンマーの一撃を受けたような、真赤に焼けた火箸を首すじに突っ込まれたような熱さと激痛をおぼえると同時に、すうっと意識を失ってゆくのがわかった。
 天皇陛下万歳、を叫ぶ暇もない。
〈やられた! 残念だ!〉
 と薄れゆく意識の底で感じたまま、私は反動で2~3歩前進したが、急に目の前の大地はぐるりと回転し、前のめりに倒れて失神したのであった。
 ――このときにうけた傷は左頸部盲貫(ママ)銃創である。左大腿部裂傷、左上膊部貫通銃創2か所、東武打撲傷、右肩捻挫、左腹部盲貫(ママ)銃創……それに無数の火傷とかすり傷を負った私は、遂にこの左頸部盲貫(ママ)銃創を致命傷として“戦死”したのであった。時に10月14日と後できいた。
“屍体”となった私の周囲には米兵が群れをなして集まったという。私を見た米兵たちの一部はその無謀な計画に恐れをなしながらも、或る者は唾をかけ、或る者は蹴飛ばし、また或る者はあたりの砂を私の“死骸”に叩きつけたそうである。だが、それは戦場にある兵隊たちの当然の心理であったろう。
 駆けつけてきた米軍軍医は私の微弱な心音を聞いて「99%無駄だろうが」と言って野戦病院に運び込んだ。そのとき、私が握りしめて死んでも離そうとしな手榴弾と拳銃を取り除くため、5本指の指を1本ずる解きながら、米兵の観衆に向って、
「これがハラキリだ。日本のサムライだけができる勇敢な死に方だ」
「日本人は皆、この様に最後には狂人となってわれわれを殺そうとするのだ」
 と語ったという。だが当時のアンガウル島の全米軍は私の最期を語り合って「勇敢な兵士」という伝説をつくりあげたらしい。
 元アンガウル島米軍兵であった現・マサチューセッツ大学教授のロバート・E・テイラー氏も、その後手紙を下さって、
「あなたのあの時の勇敢な行動を私たちは忘れられません。あなたのような人がいるということは、日本人全体のプライドとして残ることです」
 といういささか過剰な謝辞の言葉をいただいている。少なくとも当時の米軍が私の蛮勇に仰天したことは事実であろう。
 ――私はそのとき曲りなりにも精一杯戦い、気力を打ちこんで“名誉の戦死”を遂げたのであった。

 3日後に意識を取り戻した。「殺せ、殺せ」と叫び続ける船坂に対して、クレンショーという通訳が静かに語りかけた。「君のような心理で日本人の全員が玉砕してゆけば、焼け野原になったときの日本は誰が再建するのだ」と。クレンショーは船坂の心を開かせた。彼らの友情は戦後にまで続く。

 戦後21年、私が彼の消息を探り当てたとき彼が呉れた最初の手紙には、
「私の生命の一頁はあなたによって開かれました。あなたは私に“すべて生の目標には身体をもってぶっつかれ”“死を賭してかかれば為さざることなし”ということを教えてくれたのです」
 と書いてあった。多分にお世辞が含まれている言葉だが、彼自身も当時の私を一捕虜としてではなく、興味ある人間として関心を持ってくれたのだろうと思う。私たちは銭湯の弾音を近くで聞く場所で互いに深いところで尊敬しながら、かつ反撥し合っていたのである。まことに戦争という事実は悔んでも悔み切れない。戦争は人間のあるべき姿をかくし、相互理解を妨げる。私は、戦後の羽田空港でクレンショーと相擁したとき平和な世界の有難さをしみじみと感じたのであった。

 本物の人物はあらゆる差異を乗り越えて共鳴し合う。響き渡る余韻の長さがそれを証明する。理解と共感は互いの生命の緑野を大きく広げる。

 ペリリュー島に設けられた慰霊碑には次の碑文が書かれている。

「諸国から訪れる旅人たちよ
 この島を守る為に日本軍人が
 いかに勇敢な愛国心を持って戦い
 玉砕したかをつたえられよ。」

       米大平洋艦隊司令長官
               C.ニミッツ

 あの野蛮で残忍なアメリカ兵ですら称賛せずにはいられないほどの勇気を我々の父祖は示した。かくの如き一つひとつの歴史が有色人種に対する差別観を拭い去ったことは疑う余地がない。

 その戦争を徹底して「誤ったもの」と戦後教育は教えた。父祖が示した勇気という遺産を我々が継承できないのは当たり前だ。

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2019-03-12

自己組織化、適応的、ダイナミズム/『複雑系 科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』M・ミッチェル・ワールドロップ


 ・自己組織化、適応的、ダイナミズム

『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン
『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線』マーク・ブキャナン
『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』(旧題『ティッピング・ポイント』)マルコム・グラッドウェル

必読書リスト その三

 たとえば、
(中略)
● 1987年10月のある月曜日、たった1日で株式市場が500ポイントも急落したのはなぜか。コンピュータ化した株取引に原因があったとする説が多い。だがすでにコンピュータが登場して何年も経っていた。はたして、急落がその特定の月曜日に起こった特別な理由はなかったか。
● 太古の種やエコシステムが、しばしば、化石の記録中に何百万年間と安定した姿をとどめているのはなぜか。その後それらが、地質学的には一瞬のうちに死滅するか新しいものに進化するのはなぜか。恐竜の絶滅は小惑星の衝突によるものかもしれない。だが、当時それほど多くの小惑星は存在しなかった。何かほかのことが進行してはいなかったか。
(中略)
● アミノ酸などの単純な分子からなる最初の液体は、約40億年前、どのようにして最初の細胞にその姿を変えたのか。分子がランダムに組み合わさってそうなったとは考えられない。特殊創造論者が好んで指摘するように、それが起こる確率はばかばかしいほど小さい。では、生物の創造は奇跡だったのか。それとも原初の液体の中でわれわれの理解を超える何かが起きていたのか。
(中略)
● つまるところ、生命とはなにか。それは特別に複雑な炭素化合物にすぎないのか。それとも、もっと精妙なものか。またコンピュータ・ウイルスのような創造物を、われわれはどう解釈したらよいのか。人騒がせな生命の模倣にすぎないのか。それともある根本的な意味で、本当に生きているのか。
● 心とは何か。脳という3ポンドのただの物質の塊はどのようにして感情、思考、目的、自覚といった、言葉にしがたい特質をもたらすのか。
● そしておそらくもっとも根本的なことだろうが、なぜ無ではなく何かが存在するのか。宇宙はビッグバンという無形の爆発体からはじまった。そしてそれ以来、熱力学第二法則が説くように、宇宙は無秩序、崩壊、衰退へと向かう無情な傾向に支配されつづけている。にもかかわらず、宇宙はさまざまな規模の構造を生み出してもいる。銀河、恒星、惑星、バクテリア、植物、動物、脳。いったいどのようにして? 無秩序への宇宙の欲求は、秩序、構造、組織への同じぐらい力強い欲求と釣り合っているのだろうか。もしそうなら、どうしてその二つのプロセスは同時に進行し得るのか。

 一見すると、これらの問いに共通する唯一のことは、答えはみな同じ、「だれにもわからない」ということであるように思える。中にはまったく科学的とは思えないような問いさえある。しかし、少しくわしく見てみると、じつはそこに多くの共通点がある。たとえば、これらの問いのすべてが〈複雑な〉システムと関連しているということ。(中略)
 さらに、どの場合も、まさにこうした相互作用の豊穣さが、システム全体の自発的な自己組織化を可能にしているということ。(中略)
 さらに、こうした複雑な自己組織化のシステムは〈適応的〉である。(中略)
 最後にもう一つ、こうした複雑で自己組織的な適応的システムには一種のダイナミズムがあり、それによってそのシステムは、コンピュータ・チップや雪片のようにただ複雑であるだけの静的な物体とは質的にちがったものになっている。複雑系(Complex System)はそうしたものより、より自発的、より無秩序的、そしてより活動的である。

【『複雑系 科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』M・ミッチェル・ワールドロップ:田中三彦〈たなか・みつひこ〉、遠山峻征〈とおやま・たかゆき〉訳(新潮文庫、2000年/新潮社、1996年『複雑系 生命現象から政治、経済までを統合する知の革命』改題)】

 著者の名前は英語だと「M. Mitchell Waldrop」となっている。「M」は何なのだろう。気になるが判明せず。

 複雑系といえば、自己組織化や非平衡、散逸系、非線形、カオス理論といった専門用語で行き詰まりやすいが、大雑把にエントロピー増大則を理解すればそれでよろしい。「覆水盆に返らず」である。そしてコーヒーに入れたミルクは広がってゆく。更に風呂のお湯は時間が経つと冷める。形あるものは必ず滅びる。宇宙全体で見ればエントロピーは増大しているのだが、ミクロレベルでおかしな現象が生じる。生命体だ。生物は外部からエネルギーを取り込み平衡状態を保つ。これが自己組織化である。

 フレッド・ホイルは単細胞がランダムな過程で発生する確率は「がらくた置き場の上を竜巻が通過し、その中の物質からボーイング747が組み立てられる」ようなものだと言った。批判を目的とした極言ではあるが自己組織化を巧く言い表している。

非線形非平衡系の物理学 非平衡統計力学から見る生命現象

 複雑系ではゆらぎが未来を大きく変える。「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」(エドワード・ローレンツ)。ビッグバンも生命誕生もゆらぎから生まれた。何もないところから何かが生まれる時、相転移というダイナミズムが働く。

 サンタフェ研究所そのものが天才たちが織りなす複雑系に見えてくる。

複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち (新潮文庫)
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2019-03-08

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なぜ今、仏教なのか――瞑想・マインドフルネス・悟りの科学
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人生の深淵について
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私の昭和史(下) - 二・二六事件異聞 (中公文庫)
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松本清張の「遺言」 『昭和史発掘』『神々の乱心』を読み解く (文春文庫)
原 武史
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アファメーション
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「原因」と「結果」の法則
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「原因」と「結果」の法則2
ジェームズ・アレン 坂本 貢一
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バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)
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50代からの体力革命
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「よく聞こえない」ときの耳の本 (週刊朝日ムック)

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2019-03-07

蒸し目皿(スチームプレート)最強伝説


 今日新たな伝説が生まれた。春になるのを躊躇(ためら)っているような冷たい雨の音を聞きながら、それは我が家で生まれた。

 スーパーで安売りしていたニンジンを2kgも買ってしまい私は思いあぐねた。と、突然無水鍋と一緒に買った蒸し目皿(スチームプレート)をまだ開封していないことを思い出した。「温野菜あるのみ」と一言呟いた。

 レシピは「甘〜い!蒸すから栄養が逃げない♪温野菜 レシピ・作り方 by まめもにお|楽天レシピ」を参照した。冷凍ブロッコリーがなくなっていたのでチンゲン菜も蒸すことにした。

 ニンジンは小振りなため縦に四等分して放り込んだ。量が多かったせいか10分ほど時間を要した。

 いやはやこれは美味である。期せずして800gほども食べてしまった。ソースは味噌マヨ+ごま油+生姜(チューブ)である。後の二つはただ何となく入れた。一方、冷凍チンゲン菜はそれほどでもなかった。冷凍野菜は味が薄くなるのだろうか?

 ついでに書いておくと、無水鍋がべら棒に高くなっていて驚いた。モデルチェンジしたらしい。たぶん円安の影響もあるのだろう。一番いいタイミングで買ったことになる。

歴史の上書き更新/『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』輪島裕介


『一九八四年』ジョージ・オーウェル

 ・歴史の上書き更新
 ・大衆消費社会の実像

必読書リスト その三

 このように美空ひばりは現在、公的なメディアや知識人によって「昭和を代表する偉大な芸術家」として権威づけられ、彼女が歌う「演歌」は、はるかな過去から脈々と受け継がれる「日本の心」と結びつけられ、称揚されています。しかしこの評価は、敗戦直後のデビューから1970年代前半まで、当時の知識人が彼女に与えてきた否定的な評価とは正反対のものです。
 ひばりはデビュー時には大人の歌を歌う「ゲテモノ」少女と断じられ、スターとなってからはその傲慢さが批判され、1974年から数年間は「裏社会」との癒着が取り上げられ、「国民的行事」である『紅白歌合戦』をはじめとするNHKの番組から排除され、全国の公共ホールからも閉め出されていました。

【『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』輪島裕介〈わじま・ゆうすけ〉(光文社新書、2010年)】

 まず文章がよい。たまげた。リライトされた文章のように読みやすく、テクニカルライターのように正確だ。読んだ時には惹かれた文章でもタイプしてみるとガッカリすることは意外と多いものだ。書き写せば更にガッカリ度は増すことだろう。このように身体(しんたい/=口や手)を通すと文章のリズムや構成を皮膚で感じ取ることができる。一方、名文・美文には一種の快感がある。輪島の文章が抜きん出ているのはその「簡明さ」にある。嘘だと思うなら試しに書き写してごらんよ。輪島は学者である。文士ではないゆえ、香りを放つ文章よりも簡明が望ましい。「簡にして明」であればこそ大衆の理解を得られる。

 私の意図は、そこから本書の二つの主題を導き出すことにあります。
 一つは、戦後のある時期まで、少なくとも「知的」な領域では、ひばりを代表とする流行歌は「悪(あ)しき」ものとみなされていたのが、いつしか「真正な日本の文化」へとその評価を転回させたこと。
 もうひとつは、日本の流行歌の歩みは元来きわめて雑種的、異種混淆的であり、現在「演歌」と呼ばれているものはその一部をなしていきたにすぎない、ということです。

『「知的」な領域』は大衆と反対方向を目指すのだろう。そして「領域」全体がまとまると、今度はそこから反対方向のベクトルが働く。つまり領域内大衆への反動である。輪島裕介の狙いが鋭いのは、演歌にまつわる偽史(ぎし)を解明する過程が、実は宗教における教団分裂の歴史と酷似しており、汎用可能なモデルとなっているところにある。

「演歌」という語が1960年代(むしろ昭和40年代というほうが正確でしょう)に音楽産業の中で一つのジャンルとみなされてゆく過程と、それが「真正な日本文化」として高い評価を得てゆく過程は相関しています。というよりむしろ、ある種の知的な操作を通じて「演歌」というものが「日本の心」を歌う真正な音楽ジャンルとして新たに創り出されたのです。

 私は膝を打った。大乗仏教という名の後期仏教も「知的な操作」を通した歴史の書き換えにその目的があったのだろう。

 再び小林信彦を引けば、彼は「演歌」が明治の「演説の歌」であることを、1999年の大滝詠一のラジオ番組ではじめて知ったと述べています。
 名著『日本の喜劇人』や『テレビの黄金時代』を著し、クレージーキャッツやトニー谷、小林旭の再評価にきわめて重要な功績を残した彼が、「演歌」の語源を知らなかったことは、彼の仕事に多大な影響を受けた私自身、少なからぬ驚きだったのですが、逆に言えば、昭和10年代以降の大衆文化にきわめて精通している小林のような人物であっても、同時代的な音楽・芸能との関わりにおいて、「演歌」という言葉とその語源を意識する必要がなかったことを示しています。
 そのことは、現在用いられている「演歌」という言葉が明治・大正期のそれとは断絶しており、いつの間にか「発生」したものであることを裏付けているといえます。

 私は同様のことが仏教東漸の歴史でもあったに違いないと思う。なかんづく日本仏教の変質には漢字の呪能やアニミズム信仰が深く関わっていると考えられる。「断絶が意識されない」というのが重要な指摘だ。

 たまたま先ほど読んだ本にこうあった。

(※日本の真珠湾攻撃から)50年のときは(※ハワイへ)取材に行かなかったが、報道で見た範囲では人々の記憶も薄らぎ、語るべき人そのものが死んだり行方知れずになっているようだった。私は「40年が限度だ」と思った。

【『「民主主義」を疑え!』徳岡孝夫〈とくおか・たかお〉(新潮社、2008年)】

「歴史は40年で途絶える」のが事実であるとすれば、それ以降は何らかの「知的操作」が必要となる。文字を持たぬ民族の口承文化がその原点だ。古くから伝わる神話や伝説は道徳の基準であり、生き方のモデルを示したものだ。

 世代の変化が20~30年(親子の年齢差)だとすれば、わずか2世代のうちにしか生きた歴史は存在しないことになる。

 美空ひばりのレコードデビューは1949年(昭和24年)で、東京ドームのこけら落しとなるコンサートが1988年(昭和63年)のこと。1989年(平成元年)に死去し、同年女性初となる国民栄誉賞が授与されている。

 おおよそ40年のうちに「演歌が日本の伝統」となり、「美空ひばりは国民的スター」となったわけである。つまりこうだ。出来事としての歴史は40年で途絶える。その一方で創作された歴史が40年のうちに蔓延(はびこ)るのである。たった40年で歴史の上書き更新がなされる事実に驚嘆せざるを得ない。

 日本の伝統に対する健全な敬意が文章の端々から感じられるのがもう一つの特長である。それを保守と呼ばせない程度の抑制も効いている。

 まったく関係がないように見えるかもしれないが、私は本書をジョージ・オーウェル著『一九八四年』の取扱説明書として読むことが可能であると断言しておこう。輪島裕介は演歌という切り口で見事に歴史の断面図を提示したのだ。

創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史 (光文社新書)
輪島 裕介
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「民主主義」を疑え!
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2019-03-06

蒸しキャベツの肉みそかけ


【材料】(1人分)
 キャベツ……大1枚(約100g)
 豚ひき肉………………50g  水………………………大さじ2

 ┌みそ……大さじ1
★│砂糖……大さじ1
 │おろしにんにく(チューブ可)少々
 └おろししょうが(チューブ可)小さじ1/4

【作り方】
 1.キャベツは食べやすい大きさに切って耐熱容器に入れ、ラップをふんわりとかける。600Wの電子レンジで約3分加熱する。
 2.鍋に豚ひき肉と水を入れ、よく混ぜてから、中火にかける。混ぜながら火を通し、途中で★を加えてよく混ぜ、軽く煮詰める。
 3.器に1を盛り付け、2をかける。



◎肉みそは冷蔵庫で5日ほど保存可能。調理時に必要な分だけ温めて。
◎レタス、きゅうり、にんじん、アスパラなどの野菜にも合う。
◎ごはんやうどんにのせて食べるのもおすすめ。

松本清張


新装版 昭和史発掘 1』松本清張〈まつもと・せいちょう〉(文春文庫、2005年)/単行本全13巻が文庫版は全9巻になっている。第13巻末尾の人名索引が文庫版にはない。松本清張の文章が昔から苦手でどうもすっきりと頭に入ってこない。二・二六事件を調べていて辿り着いたのだが途中をすっ飛ばしたところ、「芥川龍之介の死」で引き込まれる。かつて小説が読まれる時代があった。メディア(媒体)がラジオ~テレビ~録画と発達すると共に小説は読まれなくなった。1970年代半ばから2016年までは雑高書低の時代が続いた。ネット時代ともなると人々の興味は際限なく拡散する。こうして共有の文化が形成されなくなるのだろう。

野党を政策立案に関与させない「事前審査制」/『逃げられない世代 日本型「先送り」システムの限界』宇佐美典也


 このような体験を経て私は日本社会の問題は「改革に抵抗する国民や既成権益」にあるのではなく、むしろ日本社会に大きな問題があることそのものを覆い隠し「先送り」を続ける国会や行政の構造にあるのではないか、と考えるようになりました。

【『逃げられない世代 日本型「先送り」システムの限界』宇佐美典也〈うさみ・のりや〉(新潮新書、2018年)以下同】

「報道特注」で宇佐美典也を知った。1981年生まれの元経産省官僚。オタクっぽい語り口が面白かった。経産省時代の大先輩である足立康史にペコペコする姿勢も微笑ましかった。一読して驚いた。やはり東大卒は侮れない。確固たる視点が誰も指摘をしてこなかった問題点を浮かび上がらせる。

 思えば私は官僚時代に国会答弁を多数書きましたが、その内容のほとんどは野党の質問に真っ向から答えるというより「どのように問題を問題と思わなせないか」というごまかしの発想に立っていました。当時は野党の攻勢から逃れるためにそれが当たり前と思っていましたが、それでは日本社会を取り巻く本当の問題が世の中に伝わるはずがない、官僚がそのようなスタンスで政治と向き合わざるを得ない政治の構造こそが最も大きな問題ではないか、いまではそう考えるようになったのです。

 逆に言えば官僚のごまかしを国民の前にさらけ出すことのできる力量が野党議員にあれば、我々は「官僚に問題があること」を理解できる。

 このように日本の政治は基本的には「目の前の選挙への対策を求める政治家と、そうした政治家の要請を満たしつつ対症療法的政策を実行して問題を先送りする官僚」という2~3年間の「先送りの連鎖」が行われる構造になっています。

 それをよしとするジャーナリズムと、関心すら持たぬ国民とが彼らを強く支える。先送りの最たるものが憲法改正であろう。

 しかし残念ながら、結論から言えば日本の野党議員は与党議員以上に短期志向で、その瞬間瞬間で与党と政府の問題を指摘して世論を盛り上げて政権を追い詰めることに特化しています。野党のスタンスは「短期的」を超えて「刹那的」といってもいいほどです。
 なぜこんなことになってしまうかと言うと、日本では政権・与党が「事前審査制」と呼ばれる野党にまったく政策立案に関与させないような仕組みを整備しているからです。ここで日本の政策決定の流れというものをざっと見てみましょう。
 国会で審議される議案というのは、内閣または議員が作成することができるのですが、日本では実効性のある議員立法はほとんどなく、実質において意味のある法律案・予算案はほぼ全て各省庁が作成します。こうして作成された法律案・予算案は政府から国会に提出される前に、自民党内の「事前審査」を受けることになります。
 各省庁が作成した法律案・予算案は、事前審査でまず自民党政務調査会、通称「政調会」で審議にかけられることになります。
 政調会は各省庁・政策分野に対応して様々な部会に分かれており、各省庁の作成した政策案は各部会に所属するいわゆる「族議員」によって審査されます。この時各部会の決定は所属議員の全会一致が原則であり、官僚たちは部会に所属する族議員の要望をあらかじめ聞き回って彼らの要望に合わせて法案を修正していきます。これが俗にいう「官僚の根回し」です。
 こうして部会で官庁と族議員が調整を重ねて議案が了承されると、今度は部会から政調審議会に議案は回されることになります。政調審議会は政務調査会の幹部が委員を務めており、細分化した部会よりも広範な見地から議論がなされ、問題があると委員が判断した時は部会に議案が差し返され再検討することになります。他方政調審議会で了承を得られると政調会での審議は終了し、議案は今度は自民党総務会に回されることになります。
 総務会は「党の運営に関する重要事項」を決める場ですがその審議は通常形式的なもので、政調会に議案が差し戻されるようなことはほとんどなく、この総務会で了承が得られると国会でのその議案の審議には「党議拘束」がかけられることになります。(中略)総務会での決定が得られるとようやく事前審査は終わり、審議の舞台は国会に移ることになり、閣議決定を経て内閣から議案が国会に提出されることになります。
 こうしてようやく国会の各委員会で政府と野党が議論を交えることになるのですが、ここまで見てきたように日本では国会での審議の前に政府と与党が議論を重ねてガチガチに議案の内容を固めてしまうため、国会での議論を通じて野党の意見を聞いて法律案や予算案を修正するようなことはありません。ただ政府が野党の質問を適当にいなして時間を使うだけの審議が延々と行われ、時間が来たら採決がなされます。

 驚くべき指摘である。この国の民主政は議論ではなく談合で動いているというのだ。以前から建設業などの談合を私は日本文化と捉えてきた。ま、村の寄り合いみたいなものだろうと高(たか)を括(くく)っていた。何もわからぬ素人が好き勝手な意見を言うより、事情通同士が順繰りで利益を分かち合うことは一種の知恵だと考えた。

 それにしても不思議なのは政治家の沈黙である。参議院議員になった青山繁晴が虎ノ門ニュースで「部会、部会」とのたまわっているが、議論なき国会システムを明かしたことは多分ないだろう。

 議会で実質的な議論が行われないのであれば、しゃんしゃん総会といってよい。厖大な時間がパフォーマンスのために使われているとすれば国民はやがて政治AIを支持するようになることだろう。

 かくして日本の野党は、政策立案にあたって建設的な役割を果たすことが政権・与党によって封じられているため、その瞬間瞬間の世論にのって刹那的に政権批判を繰り返すことくらいしかできない宿命にあります。その意味では日本の野党は与党に無能であることを強いられている、ということができると思います。これは重要なことで、野党議員の中には大変優秀な方がたくさんいますが、それとは関係なく日本の野党は組織的に無能にならざるを得ないのです。これは大変残念なことです。

 私はむしろ政治の機能不全に問題の根があると思う。

 非常に刺激的な内容で大変勉強になったが、全体を通してやや社会主義的な発想が見られる。それはそれで構わないのだが果たして宇佐美に自覚があるかどうか。

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