2021-06-15

現代の小麦は諸病の源/『小麦は食べるな!』ウイリアム・デイビス


アメリカの穀物輸出戦略
『給食で死ぬ!! いじめ・非行・暴力が給食を変えたらなくなり、優秀校になった長野・真田町の奇跡!!』大塚貢、西村修、鈴木昭平
『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー

 ・現代の小麦は諸病の源

西田昌司×吉野敏明 参政対談 ・『病気がイヤなら「油」を変えなさい! 危ない“トランス脂肪”だらけの食の改善法』山田豊文
・『本当は危ない植物油 その毒性と環境ホルモン作用』奥山治美
・『危険な油が病気を起こしてる』ジョン・フィネガン
『うつ消しごはん タンパク質と鉄をたっぷり摂れば心と体はみるみる軽くなる!』藤川徳美
『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』デイヴ・アスプリー
『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二
『医者が教える食事術2 実践バイブル 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方70』牧田善二
『DNA再起動 人生を変える最高の食事法』シャロン・モアレム
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット

身体革命

 わたしたちが日々食べているブランマフィンやオニオンチャバタなどに巧妙に形を変えているものは【かつての小麦ではなく】、20世紀後半に行われた遺伝子研究によって形質転換されたものです。現代の小麦が本物の小麦なら、チンパンジーは人間だと言うようなものです。
 50年代の運動をしないやせた人たちと、トライアスロン選手を含めた21世紀の太った人たちの違いは、穀類――もっと正確に言うと、遺伝子操作された現代の小麦と呼ばれるもの――の消費量の増加だとわたしは考えています。
 小麦を体に悪い食物だと言えば、ロナルド・レーガンを共産党員と言うに等しいことは、わかっています。伝統的な主食を有害食品呼ばわりするとは、ばかなことを言うと思われるでしょうし、非国民とさえ言われることでしょう。それでも、世界で最も人気のある穀物が世界で最も破壊的な食品成分であることは、これから証拠を挙げて説明していきます。
【小麦による人体への奇妙な影響】として、食欲増進、エクソルフィン(脳内麻薬のエンドルフィンと同等の外因性の物質)による脳の活性化、食欲と満腹のサイクルを繰り返す引き金となる血糖値の大幅な亢進、病気や老化の原因となる糖化反応、軟骨をむしばみ、骨を破壊する炎症やpHバランスの破壊、免疫反応疾患の活性化が記録されています。
 小麦を消費することで、セリアック病――小麦グルテンの摂取による破壊的な腸管疾患――から、さまざまな神経障害、糖尿病、心臓疾患、関節炎、奇妙な発疹、統合失調症のおぞましい妄想まで、さまざまな病気が引き起こされます。

【『小麦は食べるな!』ウイリアム・デイビス:白澤卓二〈しらさわ・たくじ〉訳(日本文芸社、2013年)】

 上記リンクの油本3冊は既に読んだのだが書評を書いてないため参考情報として挙げておく。一応言いわけしておくと、当ブログ内で書籍にリンクを貼ってあるものは、「既に読んだかこれから読むか」という作品に限っている。それが最低限の誠実さというものだ。

 大衆消費社会を先導するのは広告である。すなわち新聞・雑誌・ラジオ・テレビ、そしてインターネットとマスメディアは発達してきたわけだが、心理学や行動経済学を駆使して様々な仕掛けを施す。感情を操作し、欲望に点火し、消費という行動を促す。現代における幸福とは購買の異名である。

 個人的な話で恐縮だが私は宗教と科学についてはそこそこ知識がある。日本近代史はここ数年間、集中的に学んできた。近代とは西洋化の異名であるから世界史も参照せざるを得ない。経済の原理についてはいささか昏(く)いが、一般人よりは金融を知っている。そんな私でも、こと食べ物や健康に関しては素人同然で批判し得るだけの基準がない。「物は試し」の精神で臨んでいるが、知識や思考が身体に与える影響は決して少なくない。

 例えばこんなことがあった。随分前のことだがテレビで野口五郎が「卵の黄身を食べられない」と語っていた。それを聞いた私は、「馬鹿だなあ。白身だけじゃ栄養が少ないだろーよ」と思った。ところが数日後、目玉焼きの黄身を食べていたところ、突然気分が悪くなったのだ。頭に刺すような感覚が走り、胸が悪くなった。それ以降、しばらく卵の黄身を食べることができなくなった。今でも半熟は駄目だ。私は野口五郎のファンでもなければ教祖と崇めているわけでもない。それでも何気なく耳に入ってきた情報は体を変えることがあるのだ。

 もう一つ書いておかねばならないことは、現代人の不健康な食事を論(あげつら)う書籍は山のようにあるわけだが、寿命が伸びたことを無視しているような気がする。もちろん長寿の原因が幼児の死亡率低下にあることは明白だが、日本は2007年に超高齢社会となった。2030年には日本人の平均年齢は51.5歳になると予測されている。


 平均寿命と健康寿命の差分は「闘病あるいは要介護の期間」となる。1990年代後半から老老介護という言葉が表面化した(中村律子:PDF)。「1995年9月15日の読売新聞で鵜飼哲夫が佐江衆ー著『黄落』の評として用いており、1996年2月22日第136回国会衆議院予算委員会公聴会にて公述人として樋口恵子東京家政大学教授が質問に立ちこの語を用いた」(Wikipedia)。厚生労働省は2006年から介護殺人の件数をカウントしている。「2015年(平成27年)度までに247件、250人の被害者が出ている」(Wikipedia)。特に世間の耳目を集めたのは京都伏見介護殺人事件(2006年)であった。

 そして2006年真冬のその日、手元のわずかな小銭を使ってコンビニでいつものパンとジュースを購入。母親との最後の食事を済ませ、思い出のある場所を見せておこうと母親の車椅子を押しながら河原町界隈を歩く。やがて死に場所を探して河川敷へと向かった。

「もう生きられへんのやで。ここで終わりや」という息子の力ない声に、母親は「そうか、あかんのか」とつぶやく。そして「一緒やで。お前と一緒や」と言うと、傍ですすり泣く息子にさらに続けて語った。「こっちに来い。お前はわしの子や。わしがやったる」。  その言葉で心を決めた長男は、母親の首を絞めるなどで殺害。自分も包丁で自らを切りつけて、さらに近くの木で首を吊ろうと、巻きつけたロープがほどけてしまったところで意識を失った。それから約2時間後の午前8時ごろ、通行人が2人を発見し、長男だけが命を取り留めた。

「地裁が泣いた介護殺人」10年後に判明した「母を殺した長男」の悲しい結末 | デイリー新潮

 具体的な数字はわからないが、報道される介護殺人は情状酌量で無罪となるケースが多いように思う。確かによんどころない事情があるのはわかる。だが「無罪」はまずいだろう。これだと「介護で行き詰まったら家族が処理せよ」とのメッセージを放っているようにすら見える。例えば上記事件だと、生活保護を拒んだ役所の人間の責任ぐらいは問うて然るべきだろう。

 話が思い切り横道に逸れてしまった。健康寿命を伸ばすのは食事と運動である。あとは何でも語れる友達がいればいい。地域で新しい年寄りのコミュニティを作ることを数年前から思案中である。


2021-06-14

骨盤歩き/『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎


『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
ナンバ歩きと古の歩術
『表の体育・裏の体育』甲野善紀

 ・「肉」ではなく「骨」を意識する
 ・骨盤歩き

『ナンバの身体論 体が喜ぶ動きを探求する』矢野龍彦、金田伸夫、長谷川智、古谷一郎
『ナンバ式!元気生活 疲れを知らない生活術』矢野龍彦、長谷川智
『すごい!ナンバ歩き 歩くほど健康になる』矢野龍彦
『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史
『健康で長生きしたけりゃ、膝は伸ばさず歩きなさい。』木寺英史
『常歩(なみあし)式スポーツ上達法』常歩研究会編、小田伸午、木寺英史、小山田良治、河原敏男、森田英二
『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』小田伸午
『トップアスリートに伝授した 勝利を呼び込む身体感覚の磨きかた』小山田良治、小田伸午
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン

身体革命

 ナンバ走りの「コツをつかむ」ための予備段階としては、まず歩きの中から習得するという方法がベストかもしれない。
 たとえば、階段や山を上る際、右足を踏み出したときに右手をその膝に添えるというやり方である。これは疲労困憊(こんぱい)したとき自然に出るポーズだが、体を楽にする意味で、しごく理に適った動きである。
 竹馬に乗って歩くのも、ナンバ的感覚を養う手段として有効である。竹馬は踏ん張ってはうまく前に進まない。スムーズに歩くためには前方へと一歩一歩倒すようにしなければならず、古武術で言う支点の崩しによるエネルギーの移動に通じるところがある。
 以上の動作を加味した上で、骨盤で走るという感覚を養うためには、俗に言う「骨盤歩き」の習得が有効になるだろう。この「骨盤歩き」は骨盤を形成する「仙骨」「腸骨」の分離感覚を促進し、それぞれの独立した動きを可能にしてくれる。第三章、第四章で後述する「骨盤潰し」による様々な技を可能にする予備段階としても、ぜひとも取り組んでもらいたいトレーニングである。


【『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦〈やの・たつひこ〉、金田伸夫〈かねだ・のぶお〉、織田淳太郎〈おだ・じゅんたろう〉(光文社新書、2003年)】

「そうか!」と膝を打った。まず膝に手を添えるというのは経験したことがなかった。更に小学生の時分に何度か竹馬に挑戦したことはあるが結局乗ることができなかった。飽きっぽい性格も手伝って直ぐに見向きもしなくなった。ただし骨盤歩きはストンと腑に落ちた。普段使っていない筋肉や骨を動かすことは明らかだ。しかも足を使えないため体幹勝負である。

 早速やってみた。直ぐにできた。これはいい。今まで動かすことのなかった体の深奥を揺さぶっている感覚がある。広いスペースで行えばもっと体が目覚めることだろう。

 問題は動かすことができるにもかかわらず動かしていない部位があまりにも多すぎることなのだろう。日常生活では手先や足先など末端を動かす営みが殆どだ。現代人は「体を使えていない」。つまりポルシェを時速30kmで運転しているような状態と言っていいだろう。

 ただし体はタイヤを回すような単純な構造ではない。複層構造の体幹に4台の油圧ショベルが据え付けられているような代物だ。

 ナンバ歩きや常歩(なみあし)を試すと筋肉よりも骨の重要さが自覚できる。例えば操り人形だ。傀儡子(くぐつし)が操る人形は関節部分を動かしているのだ。紐が筋肉だ。つまり筋肉の役割は骨を導くところにある。

 人工物が溢れる現代社会にあって体は人間に残された最後の自然である。コントロール不可能な自然であることを我々は不調や病によって知る。極端な運動は農業を行うような真似だ。そうではなく適度な運動で里山のような状態にすることが望ましいように思う。

2021-06-10

1600年を経ても錆びることのないデリーの鉄柱/『人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理』永田和宏


鋼の庖丁を選べ
鉄フライパンの焼き直し

 ・1600年を経ても錆びることのないデリーの鉄柱

『森浩一対談集 古代技術の復権 技術から見た古代人の生活と知恵』森浩一

 インドのデリー市郊外の世界遺産クトゥプ・ミナールに、紀元4世紀に仏教国のグプタ朝期に建てられた鉄柱がある。直径42cm、高さ地上7m、重さ約7tで約1mは地中に埋まっていと言われている。鉄の純度は99.72%で、約1600年経つがほとんど錆が進行していない。このような大きな鉄の構造物を作った当時の技術はどのようなものであったであろうか。
 一方、我が国では、1400年前に建てられた法隆寺の修理の際、和釘が見つかっている。その和釘の表面は黒錆で覆われているが錆は進行しておらず、曲がりさえ直せば再度使えると言われている。1779年に作られた英国のアイアンブリッジや、1889年に完成したフランスのエッフェル塔も健在で、これらは前近代的製鉄法で製造された銑鉄(せんてつ)や錬鉄(れんてつ)でできている。

【『人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理』永田和宏〈ながた・かずひろ〉(ブルーバックス、2017年)】

「グプタ朝期に建てられた鉄柱」とはデリーの鉄柱である。一般的にアショーカ・ピラーと呼ばれているようだが誤り。アショーカ王碑文が認(したた)められているのは摩崖・洞窟・石柱である。

 また錆びない理由については「『純度の高い鉄製だから』という説明がされることがあるが、これは誤りである。(中略)1500年の間風雨に曝されながら錆びなかった理由は、鉄の純度の高さではなくむしろ不純物の存在にあるという仮説が有力である」(Wikipedia)。永田の記述はギリギリのところで踏みとどまっている。

法隆寺 千年の釘 – MAQ設計事務所

 デリーの鉄柱同様、黒錆が美しい。

 人の寿命を超えるものに惹かれるのは永遠への憧れもさることながら、エントロピー増大則に反するあり方そのものが面白いのだろう。その意味では生物の方がずっと面白いわけだが。

 新石器は青銅器を経て鉄器に至った。鉄器は生産性を爆発的に増加させ、都市の形成につながる。枢軸時代の思想革命も鉄器による余剰と余暇が生んだものと武田邦彦は指摘している。

 永田和宏については、『学問の自由が危ない 日本学術会議問題の深層』(晶文社、2021年)に名を連ねているところを見ると、評価できる人物ではなさそうだ。

ロシアのサンボ選手は筋トレで反動を使う/『ロシアンパワー養成法』足立弘成


 ・ロシアのサンボ選手は筋トレで反動を使う

『新トレーニング革命 初動負荷理論に基づくトレーニング体系の確立と展開』小山裕史
『身体を芯から鍛える! ケトルベルマニュアル』松下タイケイ
『動ける強いカラダを作る! ケトルベル』花咲拓実

 技術練習は学生と一緒に何とかこなしましたが、大学でのトレーニングは綱上りや懸垂など、専門的体力を鍛える負荷の強いものが多く、指を骨折していた私には無理な内容でした。この時ばかりは、ひたすら見学するしかありませんでしたが、ふとあることに気づきます。
 「あれーっ、めちゃくちゃ反動使ってる!」
 私がウェイトトレーニングの本から得ていた知識では、例えば、懸垂をする際は広背筋に刺激を集中させるため、反動を使わないのが常識でした。しかし、反動を使った方法を行っている選手は一人だけではありません。
 「もしかすると、日本の常識は非常識なのではないのか」――そんな思いが、私の心の中に芽生え始めました。

【『ロシアンパワー養成法』足立弘成〈あだち・ひろしげ〉(英知出版、2006年/晋遊舎復刻版、2010年)】

 読んだ瞬間、腑に落ちた。ケトルベルスイングがまさしく反動を使っているのだ。ボディビルダーが腕立て伏せを解説する際に、「腕を伸び切らせると負荷が抜けてしまう」とよく言うが、運動の実際を踏まえると持続的な負荷は悪影響しかない。彼らの目的は筋肥大であって運動能力の向上ではないのだ。

 上記テキストは初動負荷理論をも示唆している。ただし本書ではチューブトレーニングを採用しており、折角の「反動理論」が台無しになっている。

 体操選手は筋トレをしないという。彼らの筋肉は体操で自然についたもので負荷と解放の減(め)り張りが、しなやかな身体性を支えているのだ。運動をリードするのは骨と腱であると私は考える。