2021-10-30
主な動脈の位置/『別冊Newton 人体の取扱説明書』
・『血管マッサージ 病気にならない老化を防ぐ』妹尾左知丸
・『いつでもどこでも血管ほぐし健康法 自分でできる簡単マッサージ』井上正康
・『「血管を鍛える」と超健康になる! 血液の流れがよくなり細胞まで元気』池谷敏郎
・『別冊Newton 人体完全ガイド』
・主な動脈の位置
・『別冊Newton 40代からの人体の取扱説明書』
なぜ、糖尿病患者にうつ病の症状が発症しているのでしょうか。さまざまな理由が考えられています。
糖尿病は血液中のエネルギー源である糖(血糖)をうまく利用できなくなる病気です。そのため、食事療法や運動療法などを通じて意識的に血糖をコントロールする必要があります。(中略)
一方、うつ病の患者が糖尿病を併発するリスクは、うつ病でない人と比べて60%も高いといわれています。主な原因は、うつ病に伴う生活習慣の変化です。2018年に国立精神・神経医療研究センターなどのグループが調査した「生活習慣とうつ病の調査」では、うつ病患者は間食や夜食を食べることが多く、引きこもりで運動不足になることが多いため、糖尿病をさらに悪化させてしまうことがわかっています。さらにはストレスを解消するために喫煙量やアルコール量が増えるなど、さらなる悪循環へと繫がる傾向も少なくありません。
【『別冊Newton 人体の取扱説明書』(ニュートンプレス、2020年)】
これこれ。これが知りたかったのよ。何となく揉んでいると筋肉のマッサージになってしまうのだ。「動脈」で検索すると意外とヒットする書籍が少ない。そこで「人体」で検索して見つけた一冊。
再三書いてきたように私は『Newton』誌のレイアウトが好きではない。図が大きすぎて相対的にフォントが小さく見えてしまう。行幅もバランスが悪く読み手への配慮を欠いている。しかも横書きで漢字の香りを失わせている。つくづくセンスのない雑誌だと思う。
そのため同誌を熟読したことは一度もない。っていうか読む気が起こらない。いつもつまみ食いに終わる。
見出しに名文句があったので紹介しよう。
「肥満は血管にダメージをあたえ、命に関わる病気を発生させる」
「意外な関係。肥満は『がん』もひきおこす」
「アルツハイマー病も肥満が原因?」
「睡眠負債と『肥満』は、となりあわせ」
ダイエットの本来の意味は食習慣・食事制限である。そこをすっ飛ばして「痩せる」と思い込んでいる人が多い。つまり「ダイエットする」とは食習慣を見直し、食事に制限やを加え、規定を設けることなのだ。一番手っ取り早いのは時間である。一日二食でも三食でも構わない。ただ「8時間以内に摂取する」のだ。朝食を7:00に食べた場合、夕食は15:00だ。二食の場合、正午に昼食、夕食は20:00までとなる。要は16時間に及ぶ空腹が体の様々なスイッチを入れるのだ。どんなに空腹でも人は寝ることができる。肥料を与えすぎた植物は必ず腐る。肥満は腐敗と心得よ。
2021-10-29
意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠
・『経済は世界史から学べ!』茂木誠
・『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
・『「米中激突」の地政学』茂木誠
・「アメリカ合衆国」は誤訳
・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
・GHQはハーグ陸戦条約に違反
・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓
・世界史の教科書
・日本の近代史を学ぶ
・必読書リスト その四
この状況(※大東亜戦争敗戦)において、国家再生のためには新しいモデルが必要でした。
【日本人はそのモデルを、恐るべき敵であったアメリカに求めた】のです。
「ストックホルム症候群」という精神医学の概念があります。1973年にスウェーデンで起こった銀行強盗で、銀行員数名が人質として監禁され、死の恐怖に怯(おび)えて数日間を過ごした事件がありました。事件は結局、警察が突入して犯人を逮捕しますが、この間、人質となっていた被害者が、犯人を擁護するような言動を繰り返したのです。この事例から、極度の恐怖を体験した人間は、加害者を自分と同一視することで恐怖を免れるという心理的メカニズムがあることが理論化されました。日常的に夫から虐待を受ける妻、親から虐待を受ける子どもがなかなか被害を訴えようとしないもの、同じメカニズムによるものです。
連日連夜の空爆を受け、原爆を投下され、米軍に軍事占領された日本人の深層心理に、同じメカニズムが働いたと私は見ています。アメリカという悪魔にこれ以上蹂躙(じゅうりん)されないためには、アメリカを理想国家として賞賛し、アメリカと一体になるしかない……。
これは日本人の集団的な無意識として働いたものですから、文献として残っているわけではありません。しかし【この無意識は、意識化されない限り、戦後日本人に世代を超えて強迫的に受け継がれていく】のです。
【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】
「意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく」――衝撃的な一言である。これを読むだけでも本書には必読書の価値がある。意識化とは「見る」ことだ。ありのままに真っ直ぐ見つめれば答えは自ずから導き出される。
黒船襲来を「強姦」と位置づけたのは司馬遼太郎であった(『黒船幻想 精神分析学から見た日米関係』岸田秀、ケネス・D・バトラー)。ただ、歴史は振り返った時にしか見えてこない。当事者たちは川の流れの中で自分たちの位置すら理解できない。
意識化されるのは一瞬である。「あ!」と気づけば違う世界が開ける。例えば私の場合、北海道で育ったこともあって長らく皇室制度を軽んじてきた。義務教育を苫小牧~帯広~札幌で受けてきたが、君が代を歌ったことは一度しかない。それも音楽の授業で習ったのだ。国旗に対する敬意を教わることもなかった。これが社会党王国の現状だった。もちろん道民が由緒正しい血筋と無縁であった背景にも由来しているのであろう。父方の祖父は戦争で樺太から引き揚げてきたと聞いている。北海道に家意識はない。「内の嫁」「内のしきたり」という言葉を聞いたことがない。このため全国で一番離婚が多い。家を背負っていないのだから当然だ。感覚はややアメリカに近いものがある。私は上京して「なんと因習が深いのだろう」と驚いた憶えがある。寺社仏閣も桁違いに多い。
知人のライターが東日本大震災に対する天皇のメッセージをツイッターで紹介していた。彼は「陛下」と尊称をつけていた。それを見て、「へえー」と呟き、次の瞬間に「あ!」となった。胸の内に小野田寛郎〈おのだ・ひろお〉の生きざまがまざまざと蘇った。尊皇の精神が息を吹き、血の中に流れ通った瞬間であった。様々な知識が線となってつながった。大東亜戦争の歴史的な意味合いもストンと腑に落ちた。私は日本人となったのだ。
これは決して大袈裟な話ではない。若い時分から本多勝一や鎌田慧〈かまた・さとし〉、黒田清〈くろだ・きよし〉、浅野健一などを読んで、完全に頭の中はリベラルに洗脳されていた。彼らの反日感情を見抜くことができなかった。左翼が主張するポリティカル・コレクトネスは破壊工作の手段に過ぎない。
日本近代史に関する書籍を読み漁り、菅沼光弘を経て、竹山道雄に辿り着き、小室直樹・倉前盛通で完璧に補強した。武田邦彦の影響も大きい。
民族的な自覚は危機の中から芽生える。戦争や災害の中で国家の輪郭が際立ってくるのだ。
尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠
・『経済は世界史から学べ!』茂木誠
・『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
・『「米中激突」の地政学』茂木誠
・「アメリカ合衆国」は誤訳
・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
・GHQはハーグ陸戦条約に違反
・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓
・世界史の教科書
・日本の近代史を学ぶ
・必読書リスト その四
【専制君主・天皇親政ではなく、第4章でも挙げた天皇が「治(し)らす」姿が1000年以上つづてきた日本の伝統的統治体制であり、「国柄」「国体」というべきもの】なのです。
その一方で、【神話とも紐づけながらその世界観への復古を理想とし、天皇を崇拝して死も厭(いと)わないという激烈な尊皇思想が、中世のある段階から登場】します。これを中国の朱子学の影響だと見抜いたのが山本七平〈やまもと・しちへい〉でした(『現人神の創作者たち』〔上・下〕ちくま文庫)(第3部393ページ参照)。(中略)
朱子学は、【主君と臣下の区別を重んじる「大義名分論」、中華(文明)と夷狄(いてき/蛮族)を厳しく峻別(しゅんべつ)する「華夷(かい)の別」】という二つのキーワードで要約できます。
謀反人や夷狄による政権奪取は天が定めた「大義に反する」から絶対に認めない、たとえ武力で屈しても精神において屈することはない、という不屈の精神は、モンゴルの侵略を受け続けた中国人の心をとらえました。
南宋からの亡命者は鎌倉時代の日本にも来ており、彼らが日本にこの朱子学を伝えたのです。
【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】
「治(し)らす」については後日紹介する。
メモ書きしておくと、朱子学を重んじた明朝が滅ぶ→満州族が建てた清朝が中国全土を支配→長崎に来航した明朝の亡命者の中に朱舜水〈シュ・シュンスイ〉がいた→噂を聞いた水戸光圀〈みと・みつくに〉が江戸に招く→水戸藩の事業として『大日本史』を開始→「万世一系の天皇が日本を統治した」という朱子学的大義名分論で貫いた大著(1906年/明治39年完成)→水戸学の編纂に携わったグループが水戸学→尊皇攘夷思想の誕生、という流れになる。いやはや勉強になった。
これが三島由紀夫の陽明学にまでつながるとすれば、朱子学の影響を決して軽んじてはなるまい。
オペレーションズ・リサーチの破壊力/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
・『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
・『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男
・『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
・『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
・『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
・『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
・『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
・アルゴリズムという名の数学破壊兵器
・有害で悪質な数学破壊兵器のフィードバックループ
・オペレーションズ・リサーチの破壊力
・『AI監獄ウイグル』ジェフリー・ケイジ
・『快感回路 なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン
・『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング
・『新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性』原丈人
・情報とアルゴリズム
・必読書リスト その三
営利大学のリクルーターも、怪しげな薬を売るいかさま師も、まずは相手の無知を確認する。そのうえで、つけ入りやすい弱みをもつ人を特定し、彼らのプライベート情報をうまく利用していくのだ。具体的には、相手にとって今一番の苦しみの元である「痛点」がどこにあるのかを探り出す。それは、自尊心の低さかもしれないし、暴力集団が対立を深める地域で子供を育てるストレスかもしれないし、ひょっとすると薬物中毒かもしれない。たいていの人は、グーグル検索で調べものをするときなどに、気づかないうちに自分の痛点を露呈させている。
【『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール:久保尚子〈くぼ・なおこ〉訳(インターシフト、2018年/原書、2016年)以下同】
「痛点」とは弱点である。その弱味に付け込んで期待させ、依存させ、契約させ、購買させる。古い広告は一方的なメッセージで本質的にはチラシの延長線上にある。テレビCMは声と動きのあるチラシに過ぎない。これからは違う。パソコンやスマホを通じてあなたの購買履歴、興味、関心、検索キーワード、どこにアクセスし、何分滞在していたか、といった情報をAIが読み解いて、あなたに最も適切な広告が表示される。行動ターゲティングという手法である。スマホの登場によって現実の行動も履歴化される。どの店で何を買ったか、だけではない。ゆくゆくはどの棚の前に長くいたかまでを掌握される。便利と言えば聞こえはいいが、解放された欲望がどんな社会を生み出すのかが明らかではない。
チビ・デブ・ハゲは痛点である。昔の漫画誌の裏表紙にはシークレットブーツの広告が躍っていた。底上げシューズだ。かつらメーカーはハゲ頭に群がる(『無資本主義商品論 金満大国の貧しきココロ』小田嶋隆)。デブは永遠の搾取対象である。昨今はBMI(ボディマス指数)というデタラメな指数が健康の根拠に格上げされたため、「より美しくより健康に」との二重奏をかなでるようになった。ま、脅し文句の強化だ。
ブランド品、高級腕時計もわかりやすい。そもそも若者には不釣り合いだ。あるいは大排気量のクルマやバイクなど。これほど信号機が多く、渋滞まみれの日本でこれらのエンジン特性を発揮することは難しい。広告は欲望を刺戟し、切実なレベルにまで引き上げる。周りの人々が所持していれば自分も欲しくなってくる。社会的な動物である人間は欲望をも共有する。
大半のスケジューリングテクノロジーのルーツは、実用性がきわめて高い、「オペレーションズ・リサーチ(OR)」と呼ばれる応用数学の領域にある。数学者らは、数世紀前からORの基礎を活用してきた。農家のために作物の植え付け計画を作成し、人や貨物の効率的な輸送を実現できる幹線道路地図を作成して土木技師を支えてきた。しかし、この学問領域が本領を発揮するようになったのは、第2次世界大戦が始まってからのことだった。米軍と英軍は、資源の使用を最適化するために、数学者チームを編成した。同盟国はさまざまな形で「交換比率」の記録をつけていた。味方の資源の投入量に対して、敵の資源をどれだけ破壊できたのか、その比率を計算したのだ。1945年3月~8月に実施された米軍の飢餓作戦では、食糧その他の物資が日本に無事に到着するのを妨げるために、第21爆撃集団が日本の商船を破壊する任務を負って飛び立った。この時、ORチームは日本の商船を沈めるのに要する1隻あたりの機雷敷設用航空機の数を最小限に抑えるために働いた。その結果、「交換比率」は40対1を上回った――日本の商船606隻を沈めるために失った航空機の数はわずか15機であった。これはかなり高い効率であり、その一端はORチームの功績だった。
第2次世界大戦後、大手企業は(米国防総省も)膨大な資源をORに注いだ。ロジスティクスの科学は、商品の製造方法も市場への流通方法も一変させた。
1960年代に入ると、日本の自動車会社がさらなる大きな飛躍を生んだ。「ジャスト・イン・タイム(かんばん方式)」と呼ばれる生産システムを考案したのだ。ハンドル部分や変速機の在庫を大量に抱え、巨大倉庫から取り出すのではなく、組み立て工場で必要に応じて部品を注文し、部品の待機時間なしで使用する。トヨタとホンダは複雑な供給(サプライ)チェーンを確立し、連絡すれば絶えず部品が届くような体制を整えた。業界全体が1つの生命体のようであり、独自のホメオスタシス(恒常性)制御システムを備えているようだった。
・大東亜戦争はアメリカのオペレーションズ・リサーチに敗れた/『藤原肇対談集 賢く生きる』藤原肇
オペレーションズ・リサーチの破壊力は第二次世界大戦で最大限に発揮された。米軍は国際法を踏みにじって日本の非戦闘員を殺戮(さつりく)した。戦後、日本軍の残虐行為が国際社会で声高に主張されたのは自分たちの非道を隠蔽(いんぺい)するためだった。南京大虐殺というフィクションの犠牲者を30万人としたのも原爆犠牲者と釣り合いをとるためだった。
オペレーションズ・リサーチこそはアルゴリズムの時代を告げる鐘の音(ね)であった。人類は争うことでそれを見出したのだ。
合理化の風は止(や)むことなく加速し続ける。コンピュータとWebという約束の地に辿り着いたアルゴリズムは永遠の生命を手にしたも同然だ。フィンテックはマネーの意思を解き放ち、あらゆる決済・取引・交換が低コストで円滑に行われる。銀行や国会運営が過去の遺物となるのは時間の問題だ。一部のトップが行う意思決定はビッグデータに置き換えられる。
それが薔薇色になるかどうかはわからない。便利になるのは確かだ。
岡田英弘、島田和幸、渡部悦和、佐々木孝博
3冊挫折。
『誰も知らなかった皇帝たちの中国』岡田英弘(WAC BUNKO、2006年)/70ページあたりで挫ける。今読む必要はなさそう。再読するかも。
『一生切れない、詰まらない「強い血管」をつくる本 内皮細胞が活性化する食習慣で』島田和幸(永岡書店、2011年)/今まで読んだ中では最低の血管本である。その辺の医者が言うところと変わりがない。玉石混淆という言葉があるが石以下だ。永岡書店の見識を疑う。
『現代戦争論 超「超限戦」 これが21世紀の戦いだ』渡部悦和〈わたなべ・よしかず〉佐々木孝博〈ささき・たかひろ〉(ワニブックスPLUS新書、2020年)/400ページ超のボリューム。文章が硬く、長大なレポートという印象。読み物としてはかなり苦しい。
2021-10-28
大東亜戦争はアメリカのオペレーションズ・リサーチに敗れた/『藤原肇対談集 賢く生きる』藤原肇
・『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹、藤原肇
・大東亜戦争はアメリカのオペレーションズ・リサーチに敗れた
・『ジャパン・レボリューション 「日本再生」への処方箋』正慶孝、藤原肇
藤原●日本人は太平洋戦争の敗因を米国の物量作戦だと考えがちです。だが、アメリカが英国から導入して完成させたオペレーションズ・リサーチによって、日本流その場しのぎの大福帳のやり方が破綻させられて、徹底的に打ち負かされた事実をいまだに気づいていない。
要するに、数理発想に基づく計算されたリスク管理によって、太平洋戦争は頭脳戦で日本が完敗したということです。
【『藤原肇対談集 賢く生きる』藤原肇〈ふじわら・はじめ〉(清流出版、2006年)以下同】
「オペレーションは作戦、リサーチは検証、という意味です。互いに干渉しあう複数の作戦が最適な方法で、効率的に実行可能かどうか、リサーチ、つまり検証する、そういう目的で使われ始めた科学でした。様々な環境、次々に変化する状況において、 数学や統計学を用いた数理的なモデルに落とし込み、分析することで最適なアプローチを導きます」(オペレーションズ・リサーチとは? | ‐株式会社 構造計画研究所‐ オペレーションズ・リサーチ部)。
「オペレーションズリサーチ(OR)は、意思決定にかかわる科学的なアプローチと言われている。ある組織の運用問題に対して、さまざまな方法を用いて分析し、適切な解決法を見つけることである。そのため、しばしば経営学とも言われる。分析方法としては、数理モデル、統計的な手法、アルゴリズムなどがある」(オペレーションズリサーチ(OR):Operations Research:研究開発:日立)。
マーケティング分野では「ランチェスター戦略」(ランチェスターの法則)と呼ばれる。それではと手始めに『まんが新ランチェスター戦略 1 新ランチェスター戦略とは』(矢野新一、まんが:佐藤けんいち、ワコー、1995年)を開いたが、敢えなく挫折した。
本書で初めてオペレーションズ・リサーチという言葉を知った。日本の近代史及び大東亜戦争に関してはそこそこ読んできたつもりであったが、ORを敗因と指摘したのは藤原肇が嚆矢(こうし)ではあるまいか。藤原は石油コンサルタントで石油開発会社をアメリカで経営してきた人物である。彼にとってORは常識であったのだろう。石油精製には様々なプロセスがあり、不安定な国情や戦争、あるいは経済・金融など複合的なリスクが伴う。ORを欠けば金鉱を掘り当てるような博奕(ばくち)と化す。莫大な初期投資を可能にするのは精確なリスク・マネジメントである。
藤原●日本人はハード志向だから飛行機や軍艦を量として数え、主として戦闘の問題に全力を傾けてしまうから、システムとしての戦争を見忘れがちになる。
これまた重要な指摘で、大東亜戦争では兵站(へいたん/ロジスティクス)を無視して南進したことが多くの餓死者を生んでしまった。日本には伝統的に輜重(しちょう)を軽んじる文化がある。どこか国土の感覚が関東平野の域を超えていないようなところがある。水が豊富なことも危機意識を鈍らせていることだろう。
特に目に見えるものの増減に一喜一憂して、目に見えないものの変化に注目しないから、システム発想をしないという欠陥に支配されてしまうのです。
そういった民族的な欠陥への反省を含めて、動態変化の重要性とサイバネティックスを結びつけ、それを資本と情報の流れとしてフローチャートにして、決算の機構を体系化したのが会計工学だと思います。
システム思考ができない現実は今も変わらない。藩閥を打開したと思いきや、今度は陸軍と海軍が仲違いをし、戦局の正確な情報が首相にまで上がってこなくなっていた。東条英機首相はミッドウェー海戦の敗北を知らされていなかった。張作霖爆殺事件(1928年/昭和3年)で田中義一首相は天皇陛下に嘘をつき、満州事変(1931年/昭和6年)では侍従武官長と若槻礼次郎首相が事実を伏せた(兼原信克)。昭和天皇は関東軍の暴走を「下剋上」と断じて厳罰に処さなかったことを悔やまれた(繰り返し戦争を回顧 後悔語る|昭和天皇「拝謁記」 戦争への悔恨|NHK NEWS WEB)。
日本人の行動様式(エトス)が戦前も戦後も変わらないことを指摘したのが小室直樹の初著『危機の構造 日本社会崩壊のモデル』(ダイヤモンド現代選書、1976年)であった。藤原肇と小室直樹の対談は自然な流れであった(『脱ニッポン型思考のすすめ』ダイヤモンド社、1982年)。
・オペレーションズ・リサーチの破壊力/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
2021-10-26
有害で悪質な数学破壊兵器のフィードバックループ/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
・『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
・『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男
・『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
・『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
・『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
・『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
・『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
・アルゴリズムという名の数学破壊兵器
・有害で悪質な数学破壊兵器のフィードバックループ
・オペレーションズ・リサーチの破壊力
・『AI監獄ウイグル』ジェフリー・ケイジ
・『快感回路 なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン
・『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング
・『新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性』原丈人
・情報とアルゴリズム
・必読書リスト その三
本書で論じる数学破壊兵器の多くは、ワシントンDC学区の付加価値モデルも含めて、フィードバックがないまま有害な分析を続けている。自分勝手に「事実」を規定し、その事実を利用して、自分の出した結果を正当化する。このようなたぐいのモデルは自己永続的であり、きわめて破壊的だ。そして、そのようなモデルが世間にはあふれている。
【『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール:久保尚子〈くぼ・なおこ〉訳(インターシフト、2018年/原書、2016年)以下同】
・フィードバックとは/『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線』池谷裕二
作成者の意図によって作られたモデルがアルゴリズムとなって走る。ここにおいてAIが為すのは単なる「振り分け」である。しかもビッグデータが示すのは相関性であって因果関係ではない。「相関関係が因果関係を超える」(『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ)こともあるが、因果関係を滅茶苦茶にする場合も出てくる。なぜならビッグデータはある種の擬似相関であるからだ。大袈裟に言ってしまえば答えが決まっていない連想ゲームみたいな代物だ。
現在、ビジネスから刑務所まで、社会経済のあらゆる局面の細かな管理が、設計に不備のある数理モデルによって遂行されている。それらの数学破壊兵器には、ワシントンの公立学校でサラ・ウィソッキーのキャリアを狂わせた付加価値モデルと同じ特徴が多く備わっている。中身が不透明で、一切の疑念を許さず、説明責任を負わない。規模を拡大して運用されており、何百万人もの人々を対象に、選別し、標的を絞り、「最適化」するために使用されている。算出された結果と地に足の着いた現実とを混同することによって、有害で悪質な数学破壊兵器のフィードバックループを生み出しているものも多い。
こうなると「業」(カルマ)と言っていいだろう。アルゴリズムは文明が織り成す業(ごう)なのだ。身口意(しんくい)から離れた業はモデル設計者が神となって下す恩寵と罰となって人々を分断する。信用スコアリングは貧富の固定化に寄与し、より貧困な者に鞭を振るう。合理が生んだ不合理を人類は取り除くことが可能だろうか? AIやビッグデータがインフラストラクチャー化すれば、もう後戻りはできまい。
人々を苦しめる一番の要因は、有害な悪循環を生むフィードバックループにある。すでに見てきたように、生まれ育った環境に基づいて受刑者をプロファイリングする判決モデルでは、判決そのものが受刑者を追い詰め、判決を正当化するような結果を招いている。この破壊的ループは延々と繰り返され、その過程でモデルはますます不公平になっていく。
透明性と異議申し立ての担保が不可欠なのは言うまでもないが、ビッグテックのような民間企業に対してどこまで規制できるのかが不明である。彼らは法整備よりも遥か彼方にまで進んでいる。また潤沢な資金でロビー活動も活発に行っている。政治はマネーに支配され、人間はアルゴリズムに従う時代の到来だ。
要約すると、不透明であること、規模拡大が可能であること、有害であること――この3つが数学破壊兵器の三大要素である。
私は原子爆弾、銀行の決済システム、そしてインターネットが、現代のラッダイト運動を不可能にしてしまったと考えている。これは民主政の根幹に関わる問題なのだ。例えば米騒動を起こすことは可能だろう。だが同様の目論見で銀行へ行ったところで銀行に現金はそれほどない。また、どれほどの国民が武装蜂起したとしても原爆にはかなわない。パソコン上の重要な情報はクラウドにアップロードされ、いつでも別の場所でダウンロードできる。つまり何かを破壊することで国家を転覆させることはもう不可能なのだ。
「そのために選挙というシステムがあるのではないか?」という声が聞こえてきそうだが、かつての民主党があっさりとマニフェストを放り投げて地に落としてからというもの、選挙公約に意味はなくなった。自民党の派閥は政策集団ではなく選挙互助会に堕している。国民もまた政策など気にもかけていない。会社の指示や、テレビで見た印象、マスコミの煽り方であっちへ入れたりこっちへ入れたりしているだけである。自分の政治信条に合致した政党を支持しているのは左翼だけだ。公明党は例外で教団益(税務調査回避)を目指している。
我々は既にデバイスなしで生きてゆくことは難しい。スマホの次はウェアラブルな端末となり、やがては人体にデバイスが埋め込まれる。人類は進化を遂げてロボットになるのだ。
2021-10-25
フィードバックとは/『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線』池谷裕二
・『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
・『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ
・『唯脳論』養老孟司
・『海馬 脳は疲れない』池谷裕二、糸井重里
・世界よりも眼が先
・人間が認識しているのは0.5秒前の世界
・フィードバックとは
・『脳はなにかと言い訳する 人は幸せになるようにできていた!?』池谷裕二
・『できない脳ほど自信過剰 パテカトルの万脳薬』池谷裕二
・必読書リスト その三
フィードバックというのは、一方通行だった情報の流れが、枝分かれして、前のほうに戻されたり、逆流したりする回路だ。こうなると、単純な一方通行とは違うやり方で情報が処理されるようになるよね。
一対一じゃない情報の伝達を支える仕組み、そう、脳のような複雑な装置に絶対に必要な条件が「フィードバック」ってわけ。日本語だと「反回性回路」と言うんだけど、こうした情報が「行ったり来たり」する回転が最低限必要なの。それによって情報を分解したり、変調したり、統合したりできるってわけ。情報のループを描かないとブラックボックスはワンパターンの出力しかできない。(脳内の1個の神経は1万個の神経に情報を送っている)
【『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線』池谷裕二〈いけがや・ゆうじ〉(ブルーバックス、2007年)】
非公開にしたブログ記事から引っ張り出してきた。やれやれ。
脳はフィードバックによって軌道修正を可能にしている。ヒトが学習できるのもフィードバックの成せる業(わざ)である。フィードバックの集大成が文明なのだ。人類以外の動物は文明を持たない。
更にフィードバックを欠けば人は感情やバイアスの奴隷となる。反省、振り返り、やり直し、見つめ直しに脳の本領がある。日常的にフィードバックを行えば後悔することが少なくなる。間違いは気づいた瞬間に修正できる。
人も組織もフィードバックが途絶えると腐敗する。強力な独裁体制は誰かの話に耳を傾けることがない。ワンマンが通用するのは戦国時代だ。
・有害で悪質な数学破壊兵器のフィードバックループ/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
真相が今尚不明な柳条湖事件/『絢爛たる醜聞 岸信介伝』工藤美代子
・『工藤写真館の昭和』工藤美代子
・『機関銃下の首相官邸 二・二六事件から終戦まで』迫水久恒
・佐藤栄作と三島由紀夫
・「革新官僚」とは
・真相が今尚不明な柳条湖事件
事件は昭和6(1931)年9月18日に、奉天(現瀋陽)郊外の柳条湖の満鉄(南満州鉄道)線路で起きた小さな爆発事件だった。
一般的に「柳条湖事件」と呼ばれているこの爆発事件の首謀者は関東軍高級参謀板垣征四郎大佐と、同じく関東軍作戦参謀石原莞爾(かんじ)中佐だとされてきた。
両者ともその事実を否定したまま故人となった。
ところが戦後になって当時の奉天特務機関にいた花谷正少佐(最終階級陸軍中将)が「手記」を発表し、板垣、石原のほかに関東軍司令官本庄繁中将、挑戦軍司令官林銑十郎(せんじゅうろう)中将、参謀本部第一部長建川美次(よしつぐ)少将、参謀本部ロシア班長橋本欣五郎中佐らも一緒にこの謀略に荷担していた、と書いた。
雑誌「別冊知性」(河出書房刊)に発表された花谷の手記は「満州事変はこうして計画された」と題するもので、戦史研究家・秦郁彦の取材に答えたとされる。
だがその時点で、主役の登場人物はすべて物故しており肝心な裏付けはとれない。
さらに、インタビューした秦郁彦自身による次のような記述を読めば、花谷発言の信憑性に疑問すら浮かぶ。
「私はこの事件が関東軍の陰謀であることを確信していたので、要は計画と実行の細部をいかに聞き出すかであった。最初は口の重かった花谷も少しずつ語り始め、前後8回のヒアリングでほぼ全貌をつかんだ。みずから進んで語るのを好まない関係者も、花谷談の裏付けには応じてくれた。
それから3年後の1956年秋、河出書房の月刊誌『知性』が別冊の『秘められた昭和史』を企画したとき、私は花谷談をまとめ、補充ヒアリングと校閲を受けたのち、花谷の名前で『満州事変はこうして計画された』を発表した」 (『昭和史の謎を追う』上)
花谷はこのときまで62歳だったが、翌年死亡が伝えられている。すでに体調を崩していたための代筆とも考えられるが、それだけに真相がどれだけ語られていたのか、すべては死人に口なし、である。
したがって、この一文をもって柳条湖事件を関東軍の謀略と決めつけるのはいささか無理がありそうだ。
事件の背後にはもっと複雑な謀略が絡んでおり、事件の真相はまだ闇の中と言えよう。
いわゆる「リットン調査団」の報告書も微妙な表現を用い、断定を避けている。
岸が生涯の前半生を賭けた大仕事が満州経営であってみれば、その発端を切り拓いた柳条湖事件は極めて重要なポイントとして見逃せない。
だが、軍部中心のこの事件の真相に迫るのは本書の主題から離れるので、史料がいまだにいかに不確実な事件かという事実だけを指摘するに留めたい。
満鉄線の一部が何者かによって爆破されたということ、それを契機として日中間に銃撃戦が発生し、関東軍が自衛のために満州各地へ進出(錦州爆撃など)を開始した、という経過だけが明らかなのである。
【『絢爛たる醜聞 岸信介伝』工藤美代子〈くどう・みよこ〉(幻冬舎文庫、2014年/幻冬舎、2012年『絢爛たる悪運 岸信介伝』改題)】
吃驚仰天した。柳条湖事件を起こしたのが板垣征四郎と石原莞爾〈いしわら・かんじ〉であったというのは既成事実ではないのか? 慌てて検索したのだが工藤美代子の主張を裏づける情報は皆無であった。
工藤は文章が巧みである。工藤の手に掛かればいかなる人物であったとしてもそれなりの物語にすることが可能だろう。我々は文章や言葉に直ぐ騙される。その最大の見本がバイブルである。あの文体は脳を束縛する心地好さがある。イエスという人物があたかも実在したように錯覚させられる。しかも西洋人はイエスの言葉を通して、更に実在の不明な神を信じているのだ。胡蝶の夢のまた夢といってよかろう。
工藤の文章が危ういのは、「事件の背後にはもっと複雑な謀略が絡んでおり」と思わせ振りなことを書いておきながら、その根拠を全く述べていないところだ。事実に印象を盛り込んでおり、読者を誘導しようとする魂胆が透けて見える。
歴史が厄介なのは、嘘を確認するために学ぶことがあまりにも多いためだ。その作業が疎(うと)ましく感るごとに歴史から遠ざかってしまう。嘘がどれほど罪深いかを知ることができよう。
日本国民は満州事変を熱狂的に支持した。三国干渉(1895年/明治28年)以降、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)を合言葉にしてきた日本人が諸手を挙げて喝采を送ったは当然であった。すなわち柳条湖事件はきっかけに過ぎず、たとえ同事件が発生しなくとも、別の事件で事変に至ったのは確実である。
・工藤美代子の見識を疑う/『昭和陸軍全史1 満州事変』川田稔
2021-10-24
1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠
・『経済は世界史から学べ!』茂木誠
・『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
・『「米中激突」の地政学』茂木誠
・「アメリカ合衆国」は誤訳
・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
・GHQはハーグ陸戦条約に違反
・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓
・世界史の教科書
・必読書リスト その四
19世紀、産業革命が進む欧州ではすさまじい貧富の格差を生み出され、労働者階級の解放を掲げる社会主義運動が起こりました。フランス革命前のルソーの思想を淵源(えんげん)とし、マルクスとエンゲルスが『共産党宣言』で暴力による労働者政権の樹立を訴えたのが1848年でした。暴力革命は1871年のパリ・コミューンまで断続的に起こります。
この間、マグマのように沸騰する貧困層のエネルギーの安全弁となったのが、【アメリカへの大量移住】でした。アメリカが存在しなかったら、欧州全体がロシアのように社会主義化していたかもしれません。
社会主義は貧困の撲滅、富の平等を目標に掲げます。自由競争が勝ち組・負け組を作るので競争そのものを禁止し、個人や私企業が土地や工場といった生産手段を持つことを規制します。土地や企業は国有化して国家がコントロールし、利益を平等に分配するのです。
政府が経済をコントロールするわけですから、膨大な官僚機構(大きな政府)が必要となり、個人の自由は制限されます。その行き着く先は、ソ連・中国・北朝鮮で実現した共産党一党独裁体制です。
これこそ、「自分の生活は自分で切り開く」「政府は邪魔するな」というアメリカ中西部、【レッド・ステイツの「草の根」のアメリカ人が最も嫌悪する国家体制】なのです。【アメリカ人の反共主義の源泉】はここにあります。
一方、南北戦争に敗れた民主党は、もはや「南部の奴隷制を守る」という古い看板では選挙を戦えません。北部の資本家と組んだ共和党政権への対抗軸を示して政権を奪回するため、【「移民労働者を保護する」という新しい看板に掛け替えた】のです。まさに、生き残るためには何でもあり、というわけですが、この方針転換はアメリカの政治地図を塗り替えました。
欧州からの大量移民は、ニューヨークの自由の女神を目指してやってくると、そのまま東海岸に住み着きます。対して、アヘン戦争に負けて衰退する中国や内旋が続くメキシコからの移民は、西海岸のカリフォルニアに定住します。
アメリカ国籍は出生主義ですから、彼ら移民の2世は参政権を持ちます。この【移民系アメリカ人が民主党の新たな支持基盤】となったのです。これが、【ブルー・ステイツの誕生】です。
逆に共和党は、「本来のアメリカ白人」の生活を守るため、移民の制限を主張するようになります。「アメリカ人が納めた税金で、移民にタダ飯を食わせるな」という主張です。
こうして【民主党に幻滅したレッド・ステイツの人々は、共和党支持にくら替えした】のです。このとき生まれた政治地図が、今日まで続いているわけです。
一方安い労働力で働く移民の流入は、産業界にとっては朗報でした。すると、【これまで共和党の基盤だったニューヨークなどの都市部の財界は「民主党政権でもよいのではないか」と考え初めます】。その結果、20世紀の初頭に財界と民主党とのある種の談合が成立し、1913年ウッドロウ・ウィルソン政権が発足しました。
労働組合を支持基盤としつつ、財界からも政治資金を提供されるという二重人格的な政権で、ヒラリー・クリントンとそっくりです。JPモルガンを中心とするニューヨークの金融資本家グループに、米中央銀行(連邦準備制度理事会〔FRB〕)を組織させ、通貨ドルの発行権を与えたのがこのウィルソンです。このことも日本の教科書では教えていません。
【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】
読書中。『共産党宣言』が刊行された1948年は『一九八四年』が脱稿された年でもある(刊行は翌年)。ジョージ・オーウェルは下二桁の48年を引っくり返して84年とした。
産業革命が貧富の差を拡大したとは知らなかった。まあ、でもラッダイト運動なんかを踏まえると、「やっぱりね」という感じもある。資本主義が加速する時、貧富の差は拡がるのだろう。そしてデジタルトランスフォーメーションが一気に進み、ビッグテックが国家をも凌駕しようとする今、二極化に拍車がかかるのは当然と言うべきか。
問題はAIやロボットの台頭により人間の仕事が減ってゆくことだ。コンビニや工場を見ても、明らかに老人より外国人の方が目立つ。大衆は暴力に訴えるほどの気力も既に持ち合わせていない。静かに困窮しつつある生活が霧のようなストレスとなり、知らずしらずのうちに無気力な日々を送っている。
国際基準に照らせば自民党の政策はセンターレフトと言われる。中道左派だ。かつての金融業における護送船団方式を思えばわかりやすいだろう。競争を排除するのだから完璧な社会主義政策である。小渕政権までは社会民主主義政策を推進してきたものと考えてよい。終身雇用も極めて社会主義的である。振り返れば江戸時代のメンタリティも社会主義っぽい。一君万民と公平・平等は響き合うものがある。革命なき社会主義が日本人のメンタリティか。
自分よりも世間を重んじるのが日本の文化である。これを世間体とは申すなり。中国の天よりも日本の世間は卑近である。世間は近隣の眼差しの中にある。日本には虐殺の歴史も殆どない。せいぜい村八分が関の山だ(残り二分は火事と葬式)。
ウェブ上におけるビッグテック支配を思えば、富の偏重は恐るべきスピードで進むことだろう。しかも雇用が縮小していく事実を踏まえれば、今後は大きな政府でやり過ごすのが手っ取り早い。
財産権を犯すような税制には反対だが、使い切れない資産を有する富豪には何らかの税制措置が必要だろう。
茂木本は本当に勉強になる。藤井厳喜〈ふじい・げんき〉よりもはるかにお奨めだ。
「アメリカ合衆国」は誤訳/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠
・『経済は世界史から学べ!』茂木誠
・『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
・『「米中激突」の地政学』茂木誠
・「アメリカ合衆国」は誤訳
・1948年、『共産党宣言』と『一九八四年』
・尊皇思想と朱子学~水戸学と尊皇攘夷
・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく
・GHQはハーグ陸戦条約に違反
・親北朝鮮派の辻元清美と山崎拓
・世界史の教科書
・必読書リスト その四
このような【イギリス本国の「圧政」と戦うために、13ステイとが連合(ユナイト)して生まれたのが「the United States of America(アメリカ合衆国)」】でした。
なお、「state」は「州」とも訳しますが、本来の意味は「国」ですから「the United States of America」は「アメリカ国家連合」が正しい訳語。「合衆国」は誤訳です。
【『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠〈もぎ・まこと〉(祥伝社、2021年)】
かつて本多勝一〈ほんだ・かついち〉が「アメリカ合州国」を主張していた(『アメリカ合州国』朝日新聞出版、1984年)。尚、「合衆」には共和制の意味があり、民主政の古い訳語でもあるという(Wikipedia)。国家連合は連邦と同意か。
2021-10-23
アルゴリズムという名の数学破壊兵器/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
・『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー
・『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正
・『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
・『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男
・『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
・『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
・『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
・『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
・『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
・アルゴリズムという名の数学破壊兵器
・有害で悪質な数学破壊兵器のフィードバックループ
・オペレーションズ・リサーチの破壊力
・『AI監獄ウイグル』ジェフリー・ケイジ
・『快感回路 なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン
・『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング
・『新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性』原丈人
・情報とアルゴリズム
・必読書リスト その三
すべての負け犬たちに捧ぐ
【『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール:久保尚子〈くぼ・なおこ〉訳(インターシフト、2018年/原書、2016年)以下同】
巻頭のエピグラフである。原題は『Weapons of Math Destruction : How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy:数学破壊兵器 ビッグデータがどのように不平等を拡大し、民主主義を脅かすか』。著者は数学者でハーバード大学で博士号を取得し、コロンビア大学の終身在職付き教授となる。その後、クオンツ(金融工学の専門家)に転身し大手ヘッジファンドで働く。リーマンショックを経て、「ウォール街を占拠せよ」運動にコミットした。
かつて私を保護してくれた数学は、現実世界の問題と深く絡んでいるだけではなかった。数学が問題を大きくしてしまうことも多いという事実を、この経済崩壊はまざまざと見せつけてくれた。住宅危機、大手金融機関の倒産、失業率の上昇――いずれも、魔法の公式を巧みに操る数学者によって助長された。それだけではない。私が心から愛した数学は、壮大な力をもつがゆえに、テクノロジーと結びついてカオスや災難を何倍にも増幅させた。いまや誰もが欠陥があったと認めるようなシステムに、高い効率性と規模拡大性を与えたのも数学だった。
なぜあの時、冷静な頭で考えられなかったのか。経済が崩壊した時点で一歩引き返し、なぜ数学が誤った使われ方をしたのか、将来起こりうる同様の大惨事を防ぐために何かやれることはないかと考えることもできただろう。しかし、経済危機の後も、私たちは立ち止まらなかった。これまで以上に人々を熱狂させる新たな数学的手法が次々に生み出され、その応用領域は今も拡大し続けている。
サブプライムショックが2007年の7月25日である。私は日経先物で大損をしたのでよく憶えている。だが社会的に深刻の度合いが深かったのは翌年のリーマンショックである。あの時点で「資本主義が終わった」と指摘する書籍も多い。大半は隠れ左翼の願望であるが、長年に渡る金融緩和でもデフレを脱却できない現状を見ると、満更デタラメとも言い切れない。
ロングターム・キャピタル・マネジメントが破綻(1999年)しても金融工学は死ななかった。ブラック–ショールズ方程式は現在でも有効とされている。続いてエンロンが倒産した(2001年)。ITバブル~住宅バブルに向かう中で現れた重要な指標であった。
リーマンショック以降、緩和マネーが株式相場を押し上げ、新型コロナショックで緩和の蛇口は更に緩められた。
でも、私には弱点が見えていた。数学のちからで動くアプリケーションがデータ経済を動かすといっても、そのアプリケーションは、人間の選択のうえに築き上げられている。そして、人間は過ちを犯す生き物だ。モデルを作成する際、作り手は、最善の意図を込め、良かれと思って選択を重ねたのかもしれない。それでもやはり、作り手の先入観、誤解、バイアス(偏見)はソフトウェアのコードに入り込むものだ。そうやって創られたソフトウェアシステムで、私たちの生活は管理されつつある。神々と同じで、こうした数理モデルは実体が見えにくい。どのような仕組みで動いているのかは、この分野の最高指導者に相当する人々――数学者やコンピューターサイエンティスト――にしかわからない。モデルのよって審判が下されれば、たとえそれが誤りであろうと有害であろうと、私たちは抵抗することも抗議することもできない。しかも、そのような審判には、貧しい者や社会で虐げられている者を罰し、豊かな者をより豊かにするような傾向がある。
TEDでも「アルゴリズムとはプログラムに埋め込まれた意見なのです」と喝破している。
アルゴリズムという名の数学破壊兵器が社会を分断し、富の偏重を加速させ(世界の最富裕層1%、富の82%独占 国際NGO)、貧困を固定化する。
中盤からエピグラフに込めた思いが行間で谺(こだま)し始める。キャシー・オニールは数学者として「AI・ビッグデータの罠」を追求しながらも、ポリティカル・コレクトネスの罠に嵌(はま)っている。ポリティカル・コレクトネスは白人による人種差別を覆い隠すために編み出された概念だ(『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン)。声高な主張は明らかな民主党支持の言葉となって幻滅させる。それでもAIやビッグデータを新時代の夢のように語る書籍が巷間(こうかん)に溢れている事実を思えば、耳を傾けるべき警鐘であろう。
チャイナは共産党の一党独裁で管理社会を築き、自由の象徴であるアメリカはAI・ビッグデータで管理社会を実現しつつある。国家というアルゴリズムが目指すのは『一九八四年』(ジョージ・オーウェル)の世界なのだろうか? 完全に合理化された社会が現れれば、生きるに値しないと認定される人々が出てくることだろう。つい数十年前にドイツでは実際に行われた。
しかもアルゴリズムやシステム、およびデータを格納するウェブ上の膨大なスペースは限りある資源だ。その対価を誰かが支払う必要がある。とても広告クリックで賄(まかな)えるような代物ではあるまい。犠牲になるのは中小零細企業と貧困者だ。アメリカでは犯罪の再犯予測や就職でAIが活用されている。この結果に異論を唱えたり抗議をすることは許されない。なぜならアルゴリズムの内容を誰も知らないためだ。もはやアルゴリズムは神と変わらない。ただ振り下ろされる鉄槌を御業(みわざ)と受け止めるしかないのだ。こうした状況に「待て!」と両手を広げて立ち塞がったのがキャシー・オニールその人である。
・行動嗜癖を誘発するSNS/『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』アダム・オルター
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