2022-01-14

竜崎伸也というキャラクター/『転迷 隠蔽捜査4』今野敏


『隠蔽捜査』今野敏
『果断 隠蔽捜査2』今野敏
『疑心 隠蔽捜査3』今野敏
『初陣 隠蔽捜査3.5』今野敏

 ・竜崎伸也というキャラクター

『宰領 隠蔽捜査5』今野敏
『自覚 隠蔽捜査5.5』今野敏
『去就 隠蔽捜査6』今野敏
『棲月 隠蔽捜査7』今野敏
・『空席 隠蔽捜査シリーズ/Kindle版』今野敏
『清明 隠蔽捜査8』今野敏
・『選択 隠蔽捜査外伝/Kindle版』今野敏
『探花(たんか) 隠蔽捜査9』今野敏

 その折口理事官から電話があったのは、夕刻のことだった。
「記者会見はご覧になりましたか?」
「見ました」
「さぞかし、歯がゆい思いをされたことでしょうね?」
「そんなことはありません。妥当な落としどころだと思います」
「本音ですか?」
「私は本音しか言いません」
「そうでしょうね。あなたは、やはり面白い方だ」
「別に面白くはないと思いますよ」
「あなただけです。私の悩みをずばり指摘してくださったのは……」
「自責の念にかられていたということですね?」
「あなたは私の苦しみを理解してくださった。私の野心が八田さんと若尾さんを死なせる結果になってしまったのです」
「後悔しても二人は生き返りません。また、事実を隠蔽したところで、何の解決にもなりません」
「おそらく、あなたのおっしゃるとおりなのだと思います」
「私たちは国家公務員です」
「ええ……」
「国家公務員は、国のために働いている。それはつまり、戦いの最戦線にいるということです。戦いなのだから、時に犠牲者も出ます」
 しばらく無言の間があった。
「勇気が出るお言葉です」
「同じ間違いを繰り返さないことです」
「やはり、あなたは一所轄の長に甘んじているような方ではない」

【『転迷 隠蔽捜査4』今野敏〈こんの・びん〉(新潮社、2011年/新潮文庫、2014年)】

「9」が刊行される(1月19日発売)ことを知り、1から読み直しているところ。1日2冊ペースで読んでいる。2と4(本作)が出色の出来だ。

 初めて読んだのは4年前のこと。謎解きの部分はきれいさっぱり忘れている。物覚えが悪いのも捨てたものではない。同じ本を何度も楽しめるのだから。

 今野敏の名前は知っていたがそれまで読んだ作品はなかった。1978年、大学在学中にデビューし、その後は長らく賞と無縁な時代が続いた。『隠蔽捜査』で2005年の吉川英治文学新人賞、『果断 隠蔽捜査2』で2008年の山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞した。「玄人(くろうと)筋では評価が高かった」(西上心太〈にしがみ・しんた〉:「果断」文庫版解説)、「無冠の帝王であった」(村上貴史〈むらかみ・たかし〉:「初陣」文庫版解説)などと持ち上げる向きもあるが買い被り過ぎだろう。本シリーズ以外の作品を2~3冊読んだが全く面白くなかった。

 つまり、だ。今野敏は「竜崎伸也」〈りゅうざき・しんや〉というキャラクターを生み出すのに作家人生の四半世紀を費やしたことになる。

 キャラクターは特徴・性質を表す言葉で、個人を表すのはパーソンである。パーソンはペルソナ(仮面)に由来する。竜崎伸也というパーソンを生んだ途端、物語は勝手に走り出したのだろう。確立されたキャラクターは自律運動を始めるのだ。

 キリスト教の場合だとアダムとイブが該当する。ま、神そのものにも特徴があるゆえ、大いなるペルソナと考えてよかろう。

 そこまで気づくと、結局我々の人生も「どのようなキャラクター作りを行うか」がテーマになっていることが理解できる。思春期に方針が決まらないと、外部の様々な情報に振り回される羽目になる。私のように3歳でキャラクターが決まっていれば、あれこれ迷うことは全くない。間もなく還暦を迎えるが、他人の顔色を窺ったことは片手で数えるほどしかない。いつだって喧嘩上等である。

 本シリーズが独創的なのは警察庁のキャリア官僚を主役にしたところだが、原理原則と合理性を重んじる竜崎は、役人の理想を体現しているように見える。しかしそれだけではあまりにも小物である。ヒーローたり得ない。竜崎の価値観は本音と建て前を使い分ける日本の文化や、上意下達の官僚組織や、縦割り行政の矛盾を衝くために必要不可欠なのだ。

 エリート官僚の世界は足の引っ張り合いが横行し、縄張り意識で省庁や警察署同士がいがみ合い、権限のある者が威張り散らす。大東亜戦争を思い起こすほど、この国の権力機構は変わっていない。彼らの仕事の半分以上は無駄なもので、国民の利益よりも自分たちの面子をひたすら重んじる。

 キャリアとノンキャリアの差別も酷いものだ。日本では22歳で競争が終わってしまうのだから。大器晩成型の人材は役所で生きてゆくことはできないだろう。エリート選抜システムの単純さがこの国を亡ぼすかもしれない。そんな危惧すら抱かせる。

副交感神経は首の筋肉と密接な関係がある/『自律神経が整う 上を向くだけ健康法』松井孝嘉


『実践「免疫革命」爪もみ療法 がん・アトピー・リウマチ・糖尿病も治る』福田稔

 ・副交感神経は首の筋肉と密接な関係がある

 いま改めて注目が集まっている【自律神経】は、内蔵や血管、呼吸器など体じゅうのあらゆる部位をコントロールする、【もっとも重要な神経のひとつ】です。実は、この自律神経、なかでも【副交感神経は首の筋肉と密接な関係があることを私が世界で初めて見つけました。】それにより体中(ママ)の不調が起き、【どの病院でも治すことのできなかった「頚筋症候群」の治療が可能】になったのです。

【『自律神経が整う 上を向くだけ健康法』松井孝嘉〈まつい・たかよし〉(朝日新聞出版、2018年)以下同】

「私」だらけの文章でとても読めた代物ではない。松井の辞書には「謙虚」「謙遜」という文字はないのだろう。発見した事実よりも、発見者である自分を重んじる感覚が理解できない。

 かぜを引いたときだけでなく、かぜ予防のためにも、冬場は、市販の使い捨てカイロが役に立ちます。
 薄い布などでカイロを巻き、低温やけどしないようにして、首の後ろにあてるようにします。
 使い捨てカイロは、種類にもよりますが長いものは24時間持ちます。寒い冬場は、首にあてると気持ちがいいので、外出時だけでなく、家でも使っているとかぜ予防だけではなく、自律神経のケアにもなります。
 使い捨てカイロはまとめ買いすると一つ20円前後ですから、かぜを引きやすい人や、首こりの人には必須アイテムです。
 使い捨てカイロが手に入りにくい地域や夏場などでは、タオルを温めて手製のカイロを作ることもできます。【小さいタオルを濡らしてしぼり、ラップに包んで電子レンジを500~600Wにして1分でできあがりです。】温め直せば、何度でも使えます。
 夜、寝る前や朝起きたとき首を温めると、かぜ、首こりの予防だけではなく、肩こりなどにも効きます。ついでにカイロや手ぬぐいで、眼を5分くらい温めると、眼の周囲の血管が広がって眼精疲労などに効き、気持ちよくなります。
 ただし、首の怪我をした直後などで炎症のある人や、偏頭痛がある人は、血流が多くなることで痛みが強くなりますから、首の温めをしてはいけません。

 昨年暮れから首の調子が悪い。目覚めた時に異様な頭の重さを感じる。蕎麦殻の枕が凹んでおり、頭を押しつけていることがわかる。一度、バスタオルを巻いて枕の代わりにしてみたのだが、さほど効果がなかった。

 個人的には風邪はひいた方がよいと思う。風邪には体内を調節する作用があり、治った後は以前より体調がよくなっているはずだ。風邪をひきにくい人は癌になりやすいという説もある。ひょっとすると新たなウイルスを取り込むことで小さな進化を繰り返している可能性もある。

 人体はウイルスと細菌の合作である。ただし、ウイルスのダムである森が破壊されており、時折致死性の高いウイルスが流行することもある。特に動物との接触には十分留意する必要がある。

 風邪防止というよりは免疫力を高める目的で行うのが望ましい。

2022-01-13

窒息を知らせるチョークサインを広めよう/『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎

 ・窒息を知らせるチョークサインを広めよう

『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

「声のかすれ」や「人とあまりしゃべらない」ことと同じなのですが、「声が小さくなること」も、のどの老化のサインです。
 声帯は声を大きく出すほど大きく動きます。もともと声が小さい人は、それだけのどが老化しやすい、ということになりますし、年をとって大きい声が出せなくなった場合は、のどの筋肉が衰えているサインです。
 声帯を動かす筋肉は、いくつになっても鍛えることができますし、使うほど強くなっていきます。ふだんから声が小さいと指摘される人も、大きな声を出せるように、のど筋トレを行うことをおすすめします。

【『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎〈にしやま・こういちろう〉(幻冬舎新書、2020年)以下同】

 長らく人と話をしないと声がでにくくなる。帰国した小野田寛郎がそうだった。ガラガラ声のおばあさんも多い。「声帯は内側に筋肉(声帯筋)があり、外側を粘膜(声帯粘膜)で覆っています」(声について - 東京ボイスクリニック品川耳鼻いんこう科【公式】)。だったらトレーニングにしようもあるというものだ。

 みなさんはどんなときに幸せや喜び、楽しさを感じますか?
 答えは人それぞれだと思いますが、「おいしいもの、好きなものを食べているときが幸せ」という方は、かなりいらっしゃるのではないでしょうか。
 食欲は、性欲、睡眠欲と並び、ヒトの根源的な欲求のひとつです。「食べたい」という欲求が満たされたとき、幸福感や充足感を覚えることでしょう。おいしいものを食べたときに覚える満足感を「口福」(こうふく)と言うくらいですから、「食べる喜び」はヒトにとって最上の幸せのひとつだと私は思います。
 のどが衰えて飲み込む力が低下するということは、この食べる喜びが失われてしまうことを意味します。少しずつ食べるものが限られていって、やがて自力で飲み込むことができなくなり、「口から食事を摂ることができなくなる」ということです。
 生物にとって、「食べられないこと」は「死」に直結します。
 人間は、自分でものを食べられなくなっても、飲み込むことができれば、介助や介護によって、口から食べる器官をかなりのばすことができます。

 喉の衰えは食べる喜びを苦しみに変える。食べることが苦しみになれば、生きることもまた苦しみとなるだろう。そのストレスは生きる気力を奪い、あたかも植物のような人生を強いるに違いない。

 肥田春充〈ひだ・はるみち〉は食を断って死んだ。一つの見識だと思う。

 合わせて覚えておいていただきたいのが、のどがつまったときに知らせるための「【チョークサイン】」です。窒息すると息ができないだけでなく、しゃべれないので、ジェスチャーで知らせる必要があります。
 チョークサインはのどを親指と人差し指で挟むだけ。万国共通なので、いざというときに合図するために覚えておきましょう。
 このサインが広まれば、周囲で窒息事故が起こったとき、すぐに対処してもらえます。1分1秒を争うときだからこそ、至急の対応が必要です。
 誤嚥してのどにものがつまったときには5分が勝負です。


 不覚にも知らなかった。是非とも周囲のお年寄りに知らせて欲しい。

鼻うがい/『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『病気が治る鼻うがい健康法 体の不調は慢性上咽頭炎がつくる』堀田修

 ・鼻うがい
 ・鼻うがいには生理食塩水や洗浄液を使う

鼻うがいのやり方

身体革命

 関連痛とは【障害の置きた箇所から発せられる痛みの信号を障害のない別の部位からの信号であると脳が勘違いすることによる痛み】です。
 例えば、心臓発作は、本来なら胸の左側が痛くなると考えがちですが、初期段階では左小指の痛み、左腕または首やあごが痛いと感じることがあります。また、胆石発作を右肩のこりや痛みとして感じることも知られています。

 上咽頭は刺激を伝達する神経線維が豊富な部位で、内蔵に広く分布する迷走神経(めいそうしんけい)と、主にのどに分布する舌咽神経(ぜついんしんけい)の両方がはりめぐらされているため、脳が勘違いして鼻の奥を、のどと感じるのだろうと考えられます。
 実際、のどの痛みを訴えて受診した患者さんの上咽頭を綿棒でこすると、のどには全く触れていないのに「そこです! のどの痛い場所に当たっています!」という声が返ってきます。

 では、鼻の奥の上咽頭の炎症がどうして「頭痛」「めまい」「倦怠感(けんたいかん)」「胃腸障害」「血尿」「湿疹」「関節炎」等、様々な症状と関連するのでしょうか?

【『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修〈ほった・おさむ〉(あさ出版、2018年)以下同】

「【心筋梗塞にかかっても4人に1人は胸の痛みがない」(『臓器の急所 生活習慣と戦う60の健康法則』吉田たかよし)。私は扁桃炎を患っているので他人事ではない。

 私は1983年に医学部を卒業して以来、腎臓内科医として当時は不治の腎臓病とされたIgA腎症(じんしょう)の根治治療の開発に取り組んできました。その過程で、今から十数年前に慢性上咽頭炎という概念を知り「IgA腎症患者が感冒(風邪)により血尿を引き起こす謎」が自分の中で解けました。
 当時は周りの耳鼻科医に慢性上咽頭炎の話をしても取り合ってもらえなかったため、1960年代、70年代に発表された山崎先生、堀口先生らの論文を取り寄せて勉強しました。そして、自らの臨床経験に照らしあわせてみて、慢性上咽頭炎が極めて重要な概念であることを革新し、内科医という門外漢でありながら慢性上咽頭炎の臨床と研究に臨みました。
 そして、臨床を日々重ねるにつれて、慢性上咽頭炎の概念の重要さを世の中に向けて再び発信しなければという思いが湧いてきました。

「慢性上咽頭炎」を知らなかったのも当然か。少々大袈裟にいえば著者の堀田修が発掘したのだ。先のテキストにもあったが、鼻の奥を喉と感じる人々が多いようだ。鼻毛というフィルターをくぐり抜けたウイルスがいかにも悪さを行いそうな場所だ。

 慢性上咽頭炎の治療である上咽頭処置は単純で診療報酬が極めて低く設定されているため、ほとんどの医師にとって魅力が乏しく、そのことが慢性上咽頭炎診療の普及を妨げる要因でもあります。

 医療や介護は保険報酬で動くから関連法や行政の差配が時に致命的な結果を生む。

 慢性上咽頭炎の対策としては生理食塩水で上咽頭洗浄を行う。上咽頭洗浄液を用いると更に効果的(「ミサトールリノローション」アダバイオ社、「プレフィア」「MSMプレフィア」グローバルアイ社)とのこと。慢性的な不調がある方は早速試してみるといいだろう。

 尚、特設サイトでは「慢性上咽頭炎治療医療機関一覧」も紹介されている。

構造(身体)と機能(心)は「脳において」分離する/『唯脳論』養老孟司


『ものぐさ精神分析』岸田秀
『続 ものぐさ精神分析』岸田秀

 ・唯脳論宣言
 ・脳と心
 ・睡眠は「休み」ではない
 ・構造(身体)と機能(心)は「脳において」分離する
 ・知覚系の原理は「濾過」

『カミとヒトの解剖学』養老孟司

 心身論を考えるときに、もっと身近で、かつ重要な例がある。それは死体である。なにはともあれ、解剖学者としては、死体はもっとも身近だと言わざるを得ない。死体があるからこそ、ヒトは素朴に、身体と魂の分離を信じたのであろう。これを生物学の文脈で言えば、構造と機能の分離ということになる。死体では、肝、腎、脳といった構造は残存しているが、もはや機能はない。
 このことから、説得力が強く、かつ非常に長期にわたって存在する、大きな誤解が生じた。それは、構造と機能の分離が「対象において存在する」という信念である。すでに述べたように、私の意見では、構造と機能は、われわれの「脳において」分離する。「対象において」その分離が存在するのではない。

【『唯脳論』養老孟司〈ようろう・たけし〉(青土社、1989年/ちくま学芸文庫、1998年)】

 やはりこの人は左翼っぽい。出版されている対談の相手を見ると、ほぼ左翼である。また「たかが教育」と言いながら戦後教育を肯定する節も窺える。私が読んできた限りでは皇室への敬意を感じる文章も皆無だ。シンパよりも隠れ左翼に近い印象を受ける。「唯脳論」とのタイトルも「唯物論」へのオマージュなのかもしれない。

 即物的な文章が、どこかニヒルやハードボイルドを思わせるが、結局唯物的なのだろう。昭和12年(1937年)生まれだから少国民世代(『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』小林よしのり)よりは後の生まれだが、子供にとって敗戦の記憶は複雑な憎悪として働くのだろう。個人的には昭和一桁~団塊の世代(昭和21~23年生まれ)が戦後日本の命運を左右したと考えている。戦前生まれは学生運動をどのように眺めていたのかが気になるところだ。

 もう少し深読みをすれば、戦後エリートがマルクス主義に傾斜したのは、戦前エリートの特攻隊と同じ轍を踏まないための知的武装であった可能性もある。仮にそうであったとしても、自らの命と引き換えに米軍の本土上陸を阻止した先人への敬意を失えば、人の道から外れることは当然だろう。

2022-01-12

睡眠は「休み」ではない/『唯脳論』養老孟司


『ものぐさ精神分析』岸田秀
『続 ものぐさ精神分析』岸田秀
『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ

 ・唯脳論宣言
 ・脳と心
 ・睡眠は「休み」ではない
 ・構造(身体)と機能(心)は「脳において」分離する
 ・知覚系の原理は「濾過」

『カミとヒトの解剖学』養老孟司

 睡眠が何であるかは、やはり、議論の種である。すでに述べたエネルギー消費の観点からすれば、睡眠は「休み」ではない。さらに神経生理学的には、睡眠がいくつかの神経回路の活動を必要とする「積極的」な過程であることが知られている。しかも、睡眠はどうしても必要な行動であるから、その間になにか重要なことが行なわれていることは間違いない。クリックはそれを、覚醒時に取り込まれた余分かつ偶然の情報を、訂正排除する時期だと言う。そうした活動が夢に反映される。「われわれは忘れるために夢を見る」。そうかれは言うのである。

【『唯脳論』養老孟司〈ようろう・たけし〉(青土社、1989年/ちくま学芸文庫、1998年)】

 夢の真相はまだ判明していないが、クリック説がやや有力である(NIKKEI STYLE)。とすれば、「脳は全ての情報を記憶している」との通説は誤りだ。

 一方でHSAMと称される超記憶力を持つ人々が世界に60人ほど存在する。

すべてを覚え、決して忘れることができない記憶「HSAM」を持つ人々 | クーリエ・ジャポン
完全記憶HSAMを持つ60人 ― 世界で最も不幸な能力「決して忘れない」人々の重すぎる言葉とは?
人生のすべての瞬間を記憶している〈超記憶〉の持ち主に10の質問

 ただし自伝的記憶(highly superior autobiographical memory)であることに留意する必要があるだろう。脳の容量に限りがあることを思えば、厖大な記憶情報は他の何かを失わせるのではないか。彼らの睡眠を研究すれば新たな発見がありそうだ。

 私は幼い頃から殆ど夢を見ない。ま、見ているかもしれないが覚えていない。それと関係しているかどうかはわからぬが、理想や希望とも無縁である。野心も持ったことがない。どちらかというとマネジャータイプ(改革者)で、リーダー(創造者)ではない。

「脳が言葉から離れるために睡眠はある」と私は考える。思考を停止させるところに睡眠の目的があるのだろう。きっと無意識領域が活性化しているに違いない。

脳と心/『唯脳論』養老孟司


『ものぐさ精神分析』岸田秀
『続 ものぐさ精神分析』岸田秀
『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ

 ・唯脳論宣言
 ・脳と心
 ・睡眠は「休み」ではない
 ・構造(身体)と機能(心)は「脳において」分離する
 ・知覚系の原理は「濾過」

『カミとヒトの解剖学』養老孟司

 脳と心の関係に対する疑問は、たとえば次のように表明されることが多い。
「脳という物質から、なぜ心が発生するのか。脳をバラバラにしていったとする。そのどこに、『心』が含まれていると言うのか。徹頭徹尾物質である脳を分解したところで、そこに心が含まれるわけがない」
 これはよくある型の疑問だが、じつは問題の立て方が誤まっていると思う。誤まった疑問からは、正しい答が出ないのは当然である。次のような例を考えてみればいい。
 循環系の基本をなすのは、心臓である。心臓が動きを止めれば、循環は止まる。では訊くが、心臓血管系を分解していくとする。いったい、そのどこから、「循環」が出てくるというのか。心臓や血管の構成要素のどこにも、循環は入っていない。心臓は解剖できる。循環は解剖できない。循環の解剖とは、要するに比喩にしかならない。なぜなら、心臓は「物」だが、循環は「機能」だからである。

【『唯脳論』養老孟司(青土社、1989年/ちくま学芸文庫、1998年)】

 つまり、心は脳機能であるということ。作用としての心。心として働く。養老の考え方は諸法無我と似ている。

 脳の構造からいえば思考(大脳皮質)と感情(辺縁系)と運動(小脳)を司るところに心が位置する。

「心」という漢字が作られたのは後代であること(『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登)や、ジュリアン・レインズの二分心を踏まえると、【言葉の後に】心が発生したことがわかる。

 人間にとって言葉は智慧であり、病でもあるのだろう。

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ヒトは「代理」を創案する動物=シンボルの発生/『カミとヒトの解剖学』養老孟司


『唯脳論』養老孟司

 ・霊界は「もちろんある」
 ・夢は脳による創作
 ・神は頭の中にいる
 ・宗教の役割は脳機能の統合
 ・アナロジーは死の象徴化から始まった
 ・ヒトは「代理」を創案する動物=シンボルの発生
 ・自我と反応に関する覚え書き

宗教とは何か?
必読書リスト その三

 抽象とはなにか。それは頭の中の出来事である。頭の中の出来事というのは、感情を別にすれば、つまりはつじつま合わせである。要するに頭の中でどこかつじつまが合わない。そこで頭の外に墓が発生するわけだが、どこのつじつまが合わないかと言えば、それは昨日まで元気で生きていた人間が今日は死んでしまってどこにも居ない、そこであろう。だから墓というものを作って、なんとかつじつまを合わせる。本人は確かに死んでもういないのだが、墓があるではないか、墓が、と。臨終に居あわせ損ねたものの、故人とは縁のあった人が尋ねて来て、尋ねる人はすでに死んだと始めて聞かされた時、物語ではかならず故人の墓を訪れる約束になっている。さもないとどうも話の落ち着きが悪い。その意味では、墓は本人の代理であり、ヒトとはこうした「代理」を創案する動物である。それを私は一般にシンボルと呼ぶ。

【『カミとヒトの解剖学』養老孟司〈ようろう・たけし〉(法蔵館、1992年/ちくま学芸文庫、2002年)】

 頭のいい人特有の強引さがある。死者のシンボルが墓なら、真理のシンボルがマンダラ(曼荼羅)というわけだな。墓は死者そのものではない。飽く迄も代用物である。とすれば、マンダラもまた代用物なのだろう。ところが代用品であるはずのマンダラや仏像が真理やブッダよりも重んじられてしまうのである。つまりアイドル(偶像)となるのだ。その意味においてマンダラとアイドルのポスターに差はない。

 もう一つ重要なシンボルに「言葉」がある。言葉を重視すると経典(あるいは教典)になる。ここでも同じ過ちが繰り返される。シンボルが真理と化すのだ。言葉で悟ることはできない。その厳粛なる事実を思えば、経典は悟りを手繰り寄せる手段に過ぎないのだ。

 一流のアスリートはスポーツという限られた世界での悟りに至った人々だ。しかしながらスポーツでは一流でも人間としては二流、三流の人も存在する。生きること、死ぬことを悟るのはまた別次元のことなのだろう。

IgAの抗菌作用/『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎

 ・IgAの抗菌作用

『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

 健康診断には血液検査が必須とされているように、血液はまさに「健康のバロメーター」。そして、血液と密接な関わりがある唾液にも、血液と同様に病気の兆候を知ることが出来る成分が数多く含まれていることがわかっています。実際、新たな試みとして唾液による医療検査はすでに始まっています。例えば、ストレスの度合いが判定できるストレスチェックが実用化済みのほか、がんや虫歯、歯周病、エイズなども唾液検査でわかるようになっており、とくにがん健診では、早期発見が困難なすい臓がんに対する有効な手段として注目を集めています。
 近い将来、健康診断のメインが唾液検査になる…。そんな可能性は決して低くありません。また今後、唾液検査で人の性格までわかるようになれば、「血液型」ではなく「唾液型」が一般的になるかもしれません。未知の成分に溢れた唾液なら、これからの研究次第では十分ありうる話といえそうです。

【『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一〈つきのき・けいいち〉(扶桑社、2019年)以下同】

 意外と知られていないが、愛し合う二人が口づけを交わすのは「唾液を交換する」のが目的だ。免疫力を高めると考えられている。相性もよくわかる。頭で恋愛をすると大体不幸な結果になりがちだ。男女が惹かれ合うのは理解しやすいが、失恋や離婚のメカニズムには計算が働いているように思う。

 IgAは、風邪やインフルエンザなどの感染症のほか、さまざまな病原菌やウイルスの脅威から私たちの身体を守ってくれています。
 IgAの抗菌作用による免疫発動のメカニズムを詳しく説明しましょう。
 まず、口内で病原体などの異物を発見すると、複数のIgAがそれらにくっつき、口内の粘膜に付着させないように取り囲みます。さrない、IgAに囲まれた異物は、唾液の自浄作用によってほとんどが洗い流されてしまいます。このようにIgAは異物が体内の器官などに侵入して猛威を振るう前に、口に入ってすぐの時点でブロックするのです。

 抗菌物質IgA(免疫グロブリンA)は蟹みたいな形をしている。


 ところが、である。

 無敵を誇るIgAでも口内で活躍できない場所があります。それは、歯周ポケットといわれる歯周病菌がつくった歯と歯茎の間にできる溝の中です。歯周病菌は空気に弱いため、歯周ポケットの中にすみついて炎症を起こしますが、唾液中のIgAは、歯周ポケットの中まで行き届かないため、歯周病菌の活動を止めることができません。
 歯周病菌は口の中の常在菌で、IgAなどによってバランスが保たれていれば、増加して悪さを起こしません。しかし、IgAの分泌量が減るなどが(ママ)原因で歯周病菌が増加してしまうと、助けてくれるはずのIgAがうまく機能できなくなります。それにより、歯周病が進行してしまうのです。万一、歯周病が進行してしまうと、糖尿病や心筋梗塞、狭心症などの命に関わる病気に発展する可能性が高くなります。歯周病が糖尿病を悪化させるということはよく知られています。歯周病が進行すると炎症部分からサイトカインという物質が血中に放出されますが、これは血糖値を下げる働きをもつインスリンを効きにくくし、糖尿病の治療を妨げてしまうのです。糖尿病内科ではこれを改善させるために治療の前に口腔ケアを実行しており、かなりの効果がでています。

 歯周病の怖さがよく理解できる。歯肉を鍛える「犬用ガム」みたいなものを発明すればいいと思う。思い切り噛むと美味しいジュースが滴り落ちるといった機構が望ましい。あるいは歯茎筋トレ用肉とかさ。

 古代の人類は骨を食べていたと考えられている(『親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起原に迫る』島泰三)。食用骨の販売を望む。

2022-01-11

嚥下機能が衰えると喉仏が下がってくる/『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武

 ・嚥下機能が衰えると喉仏が下がってくる

『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎

身体革命

 突然ですが、みなさんに質問です。
 みなさんは、健康長寿を実現するために、もっとも衰えさせてはいけない体の機能は何だと思いますか?

 足腰の筋肉? たしかにそれも重要ですね。筋肉が衰えて歩行がままならなくなれば、寝たきりになる可能性が大きく高まります。
 血管の健康? もちろんこれも重要です。高血圧や高血糖で血管の機能が衰えれば、脳や心臓が重大な病気に見舞われるリスクが高まります。
 しかしみなさん、じつは、筋肉よりも血管よりも、「決して衰えさせてはいけない機能」があるのです。
 それは、【食べ物を飲み込む力】。すなわち【嚥下(えんげ)機能】です。

【『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎〈にしやま・こういちろう〉(飛鳥新社、2017年/文庫版、2019年)以下同】

 嚥下の読みは本来「えんか」である。「えんげ」は同音異語を回避するために医療・介護でまかり通った慣用読みだろう。嚥下とは飲み込む行為のこと。

 死はあらかじめプログラムされている。無性生殖の時代は自分のクローンを次々と作ったわけだから、死はなかったと考えることも可能だ。有性生殖は世代交代を通して進化する。その事実を踏まえれば、嚥下機能が衰えるのは「死の準備段階」なのだろう。ただし日本の場合、死ぬのに時間がかかり過ぎるのだ。ヨーロッパには寝たきり老人がいない。寝たきりになるくらいなら死を選ぶのだ。日本だと本人と社会がそれを認めていない現状がある。もちろん背景にあるのは病院の利益である。

 しかも、これは決して高齢者だけの問題ではありません。
 じつは、飲み込む力は、40代、50代あたりから徐々に低下しています。実際に、30代から誤嚥がはじまっているという報告もあります。嚥下機能は、高齢になってから急に衰えるわけではないのです。

 御意。50代半ば頃から実感できる。誤嚥とは飲み下したものが誤って肺に入ることだ。これが肺炎の原因となる。

 みなさんは、“そういえば、最近、食事中にムセることが多くなったな”と感じてはいませんか? もし心当たりがあるならば、それは、のどの力が衰えて「飲み込み力」が低下してきたという証拠。【「ムセ」は、のどの老化のもっともわかりやすいサインなのです】。

 人は喉から死んでゆくのだろう。

 なお、肺炎で死亡する人のほとんどが75歳以上の高齢者。そして、じつはこうした高齢者の肺炎の【70%以上に誤嚥が関係している】とされているのです。

 ヒトは言葉を発するために誤嚥という犠牲を払った。嚥下と呼吸が紙一重で行われているので明らかに機能としては劣っている。

 ところで、飲み込み力が落ちてくると「見た目」にも明らかなサインが現われることをみなさんはご存じでしたか?
 じつは、【「のど仏」の位置が下がってくるのです】。(中略)
 どうして、のど仏が下がってくるのか。それは、【のど仏を吊り下げている筋肉や腱が衰えてくる】からなのです。

 そいつあ知らなかった。確かに年寄りの喉仏は下がっている。だったらこれを上げればいいわけだな。というわけで簡単な運動が紹介されている。

 嚥下機能を鍛える器具を作れば一儲けできるんじゃないか? あるいは「虎の穴」的な介護施設とか。

マラソンで成功するのは「計算ができる」ランナー/『ランニング王国を生きる 文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと』マイケル・クローリー


『56歳でフルマラソン、62歳で100キロマラソン』江上剛
『ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング』田中宏暁
『走れ!マンガ家 ひぃこらサブスリー 運動オンチで85kg 52歳フルマラソン挑戦記!』みやすのんき
『最速で身につく 最新ミッドフットランメソッド』高岡尚司、金城みどり
『ランニング・サイエンス』ジョン・ブルーワー

 ・マラソンで成功するのは「計算ができる」ランナー

『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア
『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン
『間違いだらけのウォーキング 歩き方を変えれば痛みがとれる』木寺英史

 芝生に座り、森から出てきた見知らぬランナーたちが野原を蛇行しながら走り、再び森に戻っていくのを眺める。二人一組で走る者もいれば、15人以上の集団で1列になって走る者もいる。一人で走る者はいない。「たくさんのランナーがいるね」とつぶやくと、メセレットがうなずいて言った。「アディスアベバには少なくとも5000人のランナーがいる。島の大群ほどの数の選手がランニングに挑戦するが、その群は最後にはほとんど消える。成功するのはごくわずかさ。今朝君が見ている数百人のランナーのうち、成功するのは両手で数えるくらいしかいない」。メセレットは完璧に足並みを揃えながら野原を走る集団の選手たちを眺めている。「誰が成功するかは、どうやって見分ける?」と尋ねると、「成功するのは、足を動かす前に、目で見て、頭で考えるランナーだ。感情だけで走る者は成功しない」という思いがけない答えが返ってきて、ふいを突かれた。「努力」とか「110%の力で走る」とかいう、よくあるランニングの決まり文句が返ってくると思っていたからだ。私はこの言葉を、エチオピア滞在中に12冊書き溜めることになるノートの最初の1冊に書き留めた。

【『ランニング王国を生きる 文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと』マイケル・クローリー:児島修〈こじま・おさむ〉訳(青土社、2021年)】

 読み始めたばかりである。昨日、「五感もまた計算するために働いているが、美しい絵画を見たり、好きな音楽を聴く時、我々の感覚は明らかに計算から外れている。統合された情報が生み出す創発現象か」と書いた(偶然の一致が人生を開く扉/『ゆだねるということ あなたの人生に奇跡を起こす法』ディーパック・チョプラ)。運動やスポーツの原点は狩猟である。ここで求められるのは「計算する力」だ。

 アディスアベバはエチオピアの首都で標高2400mに位置する。高地トレーニングのメッカのようで3500mの丘が出てくる。富士山の山頂(3776m)とほぼ同じ高さだ。

「感情だけで走る者は成功しない」――私は大東亜戦争を思った。大日本帝国は計算ができなかった。孫子の兵法は「計篇」から始まる。ABCD包囲網を経てハル・ノートを突きつけられた日本はほとばしる感情の虜(とりこ)となった。そして最後はその感情の赴くままに若きエリートを特攻隊に仕立てる。生き残った者を国民は「死に損ない」と愚弄した。結局、国体は護持し得たが国は亡んだ感がある。GHQ占領期間は歴史の真空状態となり、戦前と戦後は完全に断絶してしまった。果たして今、国体を思う人がどこにいるか?

 翻訳は悪くないのだが、「ふいを突かれた」は感心しない。編集者の眼も節穴のようだ。

2022-01-10

交通事故の死亡者よりも多い窒息事故/『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高

 ・交通事故の死亡者よりも多い窒息事故

『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

 歯周病は世界で一番多い病気としてギネスブックにも認定されていて、歯周病にかかっている成人は、約80%ともいわれています。(中略)
 歯周病は、不治の病ともいわれています。進行を止めることはできますが、残念ながら完治はできません。しかも初期段階では自覚症状がほとんどないため、自分が歯周病だと気づいていない人も少なくありません。
 歯周病は、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)や認知症などの原因になります。さらに、重度の歯周病は、心疾患や糖尿病などのリスクも高めてしまうこともある恐ろしい病気です。

【『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武〈きくたに・たけし〉(NHK出版、2018年)以下同】

 ゲゲッ、私が通っていたところの歯科医はそんなことを言ってなかったけどな(泣)。歯周病の治療を終えてから私は本気で歯を磨くようになった。斜め45度で歯ブラシを歯茎に当て、少し食い込み気味に細かく振動させるようにブラッシングを行う。これが基本だ。

 あとは唾液勝負である。意外と知られていないが唾液が豊富であれば虫歯にはならない。それが証拠に虫歯になるのは大体歯の外側である。下の前歯の裏側が虫歯にならないのは唾液が溜まっているからだ。

 また、歯の欠損によって噛み合わせが失われると、全身のバランスをとることが難しくなります。結果、転びやすくなり、骨折から車椅子、寝たきりにつながりやすくなるのです。65歳以上の健康な人で歯が20本以上ある人と、19本以下で義歯未使用の人をくらべると、後者は転倒のリスクが2.5倍になるという調査結果もあります。
 歯を喪って年に何度も転んでいたお年寄りが入れ歯を入れたら、翌年は一度も転ばなかったという例もあるほどです。
 転ばないためには、入れ歯を使うことも重要です。

 これまた驚きの事実だ。体のバランスはわずかな狂いで失われることがわかる。噛み合わせと転倒は中々結びつかない。ナースやヘルパーはよく覚えておくべきだ。

 入れ歯はブラシで磨いてから洗浄液に浸け、最後は水けを拭き取り、しっかり乾燥させる。これが入れ歯の正しい手入れ法です。乾燥させることは、見落とされがちですが、菌の繁殖を防ぐには重要です。
 私たちは、通常、歯ブラシは立てて置き、乾燥させていますよね。入れ歯も同じように扱うと、覚えておきましょう。

 ウッヒョー! 一度も乾燥させたことがないよ(涙)。本書を読んでから早速実践している。実は上の左奥歯2本の入れ歯を持っている。長らく使っていなかったのだが歯科医から「食べる時と寝る時だけでも装着せよ」と言われた。他の差し歯にダメージが及ぶらしい。

「事故で亡くなる」と聞いて、みなさんはどんな事故を思い浮かべますか?
 多くの人が想像するのが、やはり交通事故ではないでしょうか。しかし、実は交通事故よりも死亡者の多い事故があるのです。それが、窒息事故です。
 不慮の事故による年間の死亡者数を見てみると、交通事故が5278件、窒息事故が9485件です(2016年「人口動態統計」厚生労働省)。
 不慮の事故による死亡者数が一番多いのは、窒息事故。しかも、その数は交通事故死の約1.8倍です。

 2006年に窒息事故の死亡者数が交通事故死を上回ったそうだ。悲惨な事故に目が向きがちなのは認知バイアスによるもの。しっかり咀嚼をする、汁物を先に飲まないことを心掛けるだけで防げる事故も多い。またお年寄りの同居家族はハイムリック法などを学んでおくべきだろう。


 余談であるが風呂場で亡くなる人はもっと多い。「厚生労働省の研究班の発表によると、風呂場での推定死亡者数は年間約1万9000人。全国の交通事故の死亡者数が2839人(2020年警察庁発表による)なので、およそ6倍になる。大半が65歳以上で、毎年12~4月に多く発生している」(ダイヤモンド・オンライン)。備えあれば憂いなしである。

中医学の舌診/『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰

 ・中医学の舌診

『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

 中医学とは中国の医学のことです。中医学の医師は、ほぼこれと似たスタイルで診察をします。舌の観察に加えて脈診(脈をとって診察する)を重視する医師もいます。
 では、どうしてこれだけの診察で、的確な処方が出せるのでしょう。
 その理由のひとつは、舌の観察にあります。
 舌には、さまざまな情報が隠されています。色や形、苔の状態などを観察すると、体内の状態がみえてくるのです。
 中医学では、からだをひとつのつながった有機体としてとらえています。体内の状況は、何らかのかたちで体表にあらわれてきます。とくに舌は、表面の粘膜の新陳代謝が盛んで、3日ほどで新しいものと入れ替わります。ですから、舌には病気のサインが迅速に出ます。また、粘膜が薄いので、粘膜の舌の血管を流れる豊富な血液の状態がよくみえます。血液の色が、舌の色に反映されるのです。レントゲンも血液検査もない時代に、からだの中の様子を客観的に正確にとらえるために驚異的に発達した技術が、“舌診”(ぜっしん)です。

【『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高〈こうい・としたか〉(河出書房新社、2011年/ハンディ版、2016年)】

 様々な舌の状態と体の症状が紹介されている。口臭の原因とされる舌苔(ぜったい)についてはさほど問題視していない。「目は心の窓」と言われるが、「舌は体の鏡」なのだろう。

 一筋縄ではいかない。なぜなら多くの人々の舌を見る機会がないためだ。ま、親しい人から始めるしかあるまい。まずは自分の舌から始めよう。

堀江貴文「民主主義ではイノベーションのスピードに対応できない」


ハミングがウイルスを防御/『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一

 ・ハミングがウイルスを防御

『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

【鼻は、いわば「加湿器つき空気清浄機」。】鼻のなかは、新聞紙1面分の広さのフィルターになっていて、表面にびっしり生えた綿毛と粘液で、空気中の細菌やホコリ、有害物質をろ過してくれています。
 また、細菌やウイルスの繁殖の温床となる「冷え」と「乾燥」が体には大敵ですが、鼻呼吸の場合、鼻から吸い込んだ空気は鼻腔で十分に温められ、加湿されて肺に送り込まれるなど、対策はバッチリです。
 さらに、鼻呼吸すると分泌される「NO(一酸化窒素)」という物質。殺菌成分でもあり、体内では血管や気管支を拡張し、血流をアップしてくれるのです。また、免疫軍団のメンバーでもある綿毛の動きも活発にしてくれます。
 自然界では口呼吸をする生きものは、人間くらいなもの。鼻のすばらしい機能をきちんと使いたいですね。

【『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰〈いまい・かずあき〉(かんき出版、2019年)以下同】

「NO力」を高める/『「血管を鍛える」と超健康になる! 血液の流れがよくなり細胞まで元気』池谷敏郎

 昔は田舎者が上京すると鼻毛が伸びるという話があった。札幌から出てきた私も何となくそう感じた。だって故郷にいた頃は鼻毛を抜いた覚えはないもんね。

 鼻呼吸でNOが分泌されるのは匂いと関係があるのかもしれない。

 口のなかで舌が下がると、筋肉のかたまりが下あごの上にどーんと乗った状態となって、二重あごになり、首が短くなります。ほおと口角も下がり、ほうれい線が目立つように。どんどん老け顔になってしまうのです。【舌が衰えると、顔の筋肉もどんどん衰えますから、顔全体がだらんと垂れ下がってきます。】
 二重あご(ブルドックのようなブルあご)は年齢のせい、太っているせいと思いがちですが、あごがたるむのは、「落ちベロ」が原因です。
 ベロトレはほおのたるみを引き上げるだけでなく、顔の温度を上げるため、むくみがなく血色のよいツヤ肌にしてくれる効果も。
 舌の位置と動きで、顔の形や表情まで変わってくるのですね。

 舌(べろ)トレとは大したトレーニングではない。だからといって効果を軽んじるわけにはいかない。小事を軽んじて体は衰え、やがて嚥下障害を迎えるのだから。粘膜の痛みは独特のもので我慢できるようなタイプの痛みではない。外界と直接接していることもあってダメージを受けやすい部位だ。

 アメリカ胸部学会の学術誌では、ハミングで鼻腔のNO濃度が上昇したという研究が発表されています。
 普通に鼻呼吸しているときと比べて、ハミングを行った被験者たちは、鼻腔内のNO濃度が15倍に上昇しました。
 NOには鼻腔と副鼻腔をつなぐ粘膜表面の綿毛運動を促進する作用があるため、【ハミングをするだけで細菌やウイルスの侵入を防ぎ、炎症を予防できる可能性がある】ということです。
 楽しくハミングしていれば、風邪も引きにくくなりますよ。

 英語の「Hummm」(日本語だと「うん」「ふむ」)を長く伸ばすとマントラっぽくなる。インドだと「Aum/Om」(オーム)、日本語だと「阿吽」(あうん)。有無の音も近い。あるいは南無(サンスクリット語のナマステ由来)。声帯の震えが鼻で増幅され、体全体に振動が伝わる。

同調ハミング/『心身を浄化する瞑想「倍音声明」CDブック 声を出すと深い瞑想が簡単にできる』成瀬雅春

 よい香りがする様を「鼻孔をくすぐる」と表現する。匂い分子から嗅細胞が受ける刺戟を「くすぐる」と言うのだから振動として受け止めているわけだ。

 新型コロナウイルスも鼻歌には勝てない。