2021-02-07
2021-02-04
ヘゲモニー(覇権)国家/『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』川北稔
・『砂糖の世界史』川北稔
・『結社のイギリス史 クラブから帝国まで』綾部恒雄監修、川北稔編
・『歴史とは何か』E・H・カー
・『歴史とはなにか』岡田英弘
・『世界史の誕生 モンゴルの発展と伝統』岡田英弘
・『聖書vs.世界史 キリスト教的歴史観とは何か』岡崎勝世
・『世界史とヨーロッパ』岡崎勝世
・ヘゲモニー(覇権)国家
・『時計の社会史』角山榮
・世界史の教科書
・必読書リスト その四
ところで、世界システムの歴史では、ときに、超大国が現れ、中核地域においてさえ、他の諸国を圧倒する場面が生じる。このような国を「ヘゲモニー(覇権)国家」という。もっとも歴史上、このような国は、17世紀中ごろのオランダ、19世紀中ごろのイギリス、第二次世界大戦後、ヴェトナム戦争前のアメリカの3国しかない。
世界の現状は、ヴェトナム戦争以後、アメリカがヘゲモニー(覇権)を喪失した状況にあることは、ほとんどの研究者が承認している。
【『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』川北稔〈かわきた・みのる〉(ちくま学芸文庫、2016年/放送大学教育振興会、2001年『改訂版 ヨーロッパと近代世界』を改題・改訂)以下同】
「世界システム論」はイマニュエル・ウォーラステインが提唱した概念で、国家ではなく交易・経済を有機的なシステムとして捉える。国家を超えるという意味での「世界」であり、全世界を意味するわけではない。
驚いたことが二つある。まず、トルデシリャス条約(1494年)で世界を二分したポルトガルとスペインが覇権国家に入ってないこと。次にアメリカの覇権がベトナム戦争で終わったという見方である。とするとソ連は自壊したことになるのか。
日本人なら世界システム論をすんなり受け入れることができると思われる。東アジアにはモンゴル帝国やシナの朝貢などの歴史があるからだ。「近代世界システム」の定義はヨーロッパを中心とする価値観で別段分ける必要もなかろう。
戦後の日本の歴史学においては、オランダの歴史は、イギリスのそれとの対比で「近代化の失敗例」とみなされ、その失敗の原因を求める研究が中心であった。中継貿易を中心にした経済の仕組みがその弱点であった、といわれたものである。しかし、現実のオランダは、世界で最初のヘゲモニー国家として、イギリスにも、フランスにも、スペインにも、とうてい対比しようのないほどの経済力を誇ったのである。(中略)
生産面での他国に対する優越は、世界商業の支配権につながった。ポルトガル領のブラジルでも東アジアでも、オランダ人の姿がみられるようになった。政治的な支配がどのようになっていようと、オランダ人は世界中いたるところにその存在を示すことになったのである。こうした世界商業の覇権は、たちまち、世界の金融業における圧倒的優位をオランダにもたらし、アムステルダムは世界の金融市場となった。オランダの通貨が世界通貨となったのである。のちのイギリスやアメリカの例でもわかるように、世界システムのヘゲモニーは、順次、生産から商業、さらに金融の側面に及び、それが崩壊するときも、この順に崩壊する。
最後の一行が胸に刺さった。アメリカファーストを唱え、製造業を国内に回帰させようとしたトランプ大統領を米国民は拒否した。つまり生産が再び活気を取り戻すことはないと考えられる。商業は折からのコロナ不況で、今活況を呈しているのは食品くらいだろう。
「資本主義は終わる」という類いのリベラル本が数多く出版されているが、いずれも「リーマンショックでアメリカは終わった」との主張が多い。現在、ダウ工業株平均は史上最高値を更新しているが、これは行き場を失った緩和マネーが流入しているもので、国民生活や景気を反映しているわけではないことに留意する必要がある。
もともと「ヘゲモニー」は、イタリア出身のマルクス主義者である革命家「アントニオ・グラムシ(Antonio Gramsci)」が提唱した言葉です
【「ヘゲモニー」の意味とは?イニシアチブとの違いや使い方の例文も | TRANS.Biz】
本書には「ただ、世界の重心が部分的に中国に移動しつつあるようにみえることからすれば」との記述もあり、やや今後の中国覇権に傾いている嫌いはある。アメリカが一歩引けば中国が一歩前に出てくる。ロシアも黙って指をくわえていることはあるまい。
世にも不思議なコロナバブルが終わるタイミングが覇権の動く時であろう。中国共産党はデジタル人民元を着々と推し進めている。日本人はといえば外出を自粛し、不安を煽るテレビを黙って見つめているだけだ。
そろそろ伝統の上に胡座(あぐら)をかく真似はやめるべきだろう。たった一度の戦争に敗れただけで、この国は戦うことをあきらめてしまった。今に至っては何の備えもない。日米安保にすがって生きてゆく国家に未来はないだろう。
2021-02-03
信用創造の正体は借金/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎
・『緑雨警語』斎藤緑雨
・『小室直樹の資本主義原論』小室直樹
・『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人
・マネーと国家が現代の宗教
・信用創造の正体は借金
・『ギャンブルトレーダー ポーカーで分かる相場と金融の心理学』アーロン・ブラウン
・『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳、グループ現代
・『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
・『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎
あなたは、お金というものが、どうやって発行され、どうやって社会に流れてくるのかご存知だろうか?
「お金は中央銀行が発行し、市中に流している」
多くの人は、そう答えるだろう。
では、中央銀行が発行したお金は、どういうルートで社会に流れ出てくるのだろうか?
これは経済学を学んだ人でもなかなか答えられないケースが多い。
実は、答えは「借金」である。誰か(主に企業)が、銀行からお金を借りることによって、お金は社会に出回るのだ。
中央銀行からお金が社会に出てくるには、次のようなルートをたどる。
【中央銀行(日本の場合は日銀)】
貸出
▼
【金融市場(一般の銀行など)】
貸出
▼
【企業など】
取引、給料などで支払い
▼
【個人】
このように、お金というのは、必ず社会の誰か(主に企業)が銀行からお金を借りることで、社会に流れ出てくるのである。
そして驚くべきことに、お金が社会に出るためのルートは、これ一本しかないのだ。
日本銀行は紙幣を印刷しているが、それを日本銀行が自由に使うことはできない。政府もまた、日銀が発行した紙幣を勝手に使うことはできない。
日銀が発行した紙幣は、貸出という形で一般の銀行に放出される。そして、一般の銀行も、貸出という形で企業などに流すのである。
そのお金が、回り回って我々のところに来ているのだ。
社会で使われているどんなお金も、元をたどれば誰かの借金なのである。あなたが会社からもらっている給料、事業で稼いだお金なども、もともとは必ず誰かの借金として社会に出てきたのだ。
貿易などで得た外貨を円に交換するときも、新しいお金が出てくることになるが、その外貨は外国において誰かの借金により社会に流れ出たものなので、煎じ詰めれば、これも「誰かの借金」ということになる。
あなたは誰かに借金をした覚えはないかもしれない。が、あなたが手にしたお金は、必ず、元をたどれば誰かの借金だったのだ。
つまり、世の中に出回っているお金というのは、実は、すべてが借金なのである。
また借金とは、いずれ返さなくてはならないものである。
つまり、今、社会に出回っているお金すべてが「借金」である限り、いずれ銀行に回収されるべきものなのである。社会が保有し続けることはできないお金なのだ。
しかし、社会には、お金を保有し続けたいという欲求も当然働くし、もう借金はしたくない(しない)という欲求も働く。その欲求が強くなると、社会のお金の仕組みは、たちまち機能不全に陥ってしまうのだ。
このように今のお金の仕組みは、重大な矛盾、欠陥を抱えているのだ。そして、このお金の欠陥が、環境破壊、貧富の格差など世界中のあらゆる問題の1つの要因になっているのだ。
【『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎〈おおむら・おおじろう(ビジネス社、2018年)〉】
信用創造の正体は借金であった(信用創造のカラクリ/『ギャンブルトレーダー ポーカーで分かる相場と金融の心理学』アーロン・ブラウン)。目から鱗が落ちる。
プールの水にお金という黒い液体を注ぐと仮定しよう。黒い液体は経済活動によって移動をしてくっきりとした濃淡を描くが、その総量は変わらない。時折、資金繰りに行き詰まって倒産する企業も出てくる。しかし黒い液体は別の場所に移動しただけで、返済できない借金がどこかに消えたわけではない。必ず誰の財布に存在するのである。徴税の網に掛からないブラックマネーもプールの中(円経済圏)から出ることはない。減るとすれば焼却した紙幣だけだが現実には考えにくい。火災被害で消失する紙幣の量は微々たるものだろう。
企業は借金をして人や物に投資をし、付加価値を創造することで利益を得る。GDP(国内総生産)とは付加価値の総額を意味する。これを国民所得の合計と考えてもよかろう。その所得が実は借金であったとすれば、政府や企業が借金を増やすことが経済的な意味合いでの正しさとなる。
通貨は交換手段に過ぎない。人類の歴史では通貨なき時代の方がはるかに長かった。富(余剰)が生まれたのは農業革命以降のことである。動物が必要とするのは今日の食べ物に限られる。時折貯める行為も見られるが、せいぜい一冬に備える程度である。しかも地球の自然は動物の食料を十分に供給している。
世界人口が10億人を突破したのは1800年代のことで、第二次世界大戦以降は上昇の一途を辿る(表1-8 世界人口の推移と推計:紀元前~2050年)。この点からも19世紀を近代と考えてよかろう。陰謀論で一番多いのは人口削減計画である。最大の環境問題は増え続ける人口だ。もしも世界権力をほしいままにする者がいれば真っ先に人口を減らすことを考えるだろう。
マネーと国家が現代の宗教/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎
・『お坊さんはなぜ領収書を出さないのか』大村大次郎 2012年
・『税務署員だけのヒミツの節税術 あらゆる領収書は経費で落とせる【確定申告編】』大村大次郎 2012年
・『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎 2015年
・『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎 2015年
・『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が古代~現代にガサ入れ』大村大次郎 2016年
・『お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる』大村大次郎
・『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎 2018年
・マネーと国家が現代の宗教
・信用創造の正体は借金
・『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎
・『脱税の世界史』大村大次郎 2019年
信じられないかもしれないが、今のお金の仕組みの原型は、17世紀のヨーロッパの商人が気まぐれで始めた悪徳商売にあるのだ。その悪徳商売の発展により、なし崩し的に現在の紙幣ができあがり、世界各国が「これを通貨としましょうか」ということに、「なんとなく決めてしまった」のである。
つまり、お金の仕組みは非常に無計画で、いい加減につくられたものなのだ。
現在は、金融工学や経済理論が非常に発達していると言われている。
しかし、高度に発達したはずの金融工学や経済理論も、実は、17世紀の商人の悪知恵によってつくられたお金の仕組みを前提としているのである。
はっきり言えば、中身はとてもチャチで不完全なものだ。
また、現在のお金は、以前(半世紀前)のような、「貴金属との兌換」もされていない。
貴金属との交換が約束されているわけでもなく、綿密に計算されてつくららたわけでもないお金を、我々は日々血みどろになって追いかけているのだ。
【『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(ビジネス社、2018年)】
「17世紀のヨーロッパの商人」とは両替商を行っていたユダヤ人を指す。ヨーロッパでは伝統的にユダヤ人が排斥・弾圧されてきた。就ける職業も限られた。彼らの才能が芸術や金融で花開いたのは、そうせざるを得なかった歴史的な経緯による。
動画を二つ紹介しよう。
最初の動画は「Money As Debt」(負債としてのお金)の一部である。
世界最初の紙幣は北宋の「交子」だが、たぶん信用創造には至らなかったのだろう。ユダヤ人の悪知恵は「信用」に目をつけた。その着眼の鋭さが近代の扉を開いたとも言い得る。
紙幣こそは現代のマンダラであり、硬貨は十字架である。通貨の信用は約束事に過ぎないが、現代社会でお金の価値を疑う者はいない。すなわちマネーとそれを保証する国家こそが現代の宗教なのだ。自殺の大半が経済的困窮によるものだ。我々はお金がないと生きてゆくことができない――そう信じ込んでしまっているところに、この宗教の絶対性がある。
2021-02-02
文明の発達が国家というコミュニティを強化する/『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン
・『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
・『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
・『Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で』イブ・ヘロルド
・『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男
・『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
・『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
・『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
・『人類史のなかの定住革命』西田正規
・『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
・身の毛
・鍛原多惠子
・文明の発達が国家というコミュニティを強化する
・『われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」』リズワン・バーク
・必読書リスト その四
私たちは現在に垣間見える遠い過去の姿、あるいは崖っぷちに向かって突進しているかに思えるときがある。エデンの園を追放されて農耕を始めたときのような場所を、私たちは必死に探し求めているのだ。私たちが見るもっとも切迫した夢は、眠りに落ちる前の世界を映しているだけなのかもしれない。
ことによると、快適さを追い求めた末に退歩した身体が、長時間見つめつづけている画面と一体化しようとして、いわゆるシンギュラリティがすでに現実になりかけているのだろうか。あるいは、他の惑星を植民地化することで、私たちの子孫はアップル、テスラ、シーザーズ・パレス(ラスベガスを代表する高級ホテル)が提供する宇宙の果てのドームで暮らすことになるのだろうか。もしケインズのように、あなたが物を共有し長い時間を愛する人と過ごす平等な世界を望むなら、私たちの祖先がすでにそれに近い世界に暮らしていたことを考えてほしい。だがそれも農耕が始まり、「文明」と呼ばれるものが約1万年前に出現するまでの話だ。それ以来、私たちはその世界からみるみる遠ざかりつづけている。
もし進む方向を間違えているなら、進歩は最悪の結果をもたらす。現代を定義する「進歩」は病気の治療よりむしろ進行に近いように思われる。物が排水口の上でぐるぐる回るように、文明はめまいがしそうなほど速度を増している。ひょっとすると進歩に対する強い信念は、一種の――考えるのも恐ろしい現在に対する「未来への希望」という名の解毒剤――なのだろうか。
もちろん、いつの時代でも終末は近いと警告する者がいて、かならず「今度はこれまでとは違う!」と主張する。そう、本当に今度はこれまでと違うのだ。「破滅は近い。どうするべきか」といった見出しが主要な新聞の紙面に躍る。地球の気候は、沈没する船の貨物のようにまるで定まるということがない。国連難民高等弁務官事務所は、2015年末現在、戦争、紛争、迫害によって土地を追われた人は、2004年の3億7500万人から6億5300万人という厖大(ぼうだい)な数に増えたと報告した。死んだ鳥がバラバラと空から落ちてきたり、ハチの羽音が聞かれなくなったり、チョウが渡りをしなくなったり、主要な潮流の速度が下がったりしている。生物種は6500万年前に恐竜が絶滅したとき以来の高い割合で絶滅している。酸性化する海がテキサス州ほどもある渦巻くプラスチックスープによって窒息する一方で、淡水の帯水層は水を吸い上げられて骨のように干からびている。深海から湧きでるメタンガスの雲によって氷冠が解(ママ)けて、地球破壊を加速させている。ウォール街が中流階級の残骸から最後の富をむしり取り、エネルギー企業が地球に穴を開けて秘密の毒で帯水層を汚染しても、政府は素知らぬ顔だ。全人類が帯水層を必要とするのに、私たちはそれを守るすべを知らない。うつ病がさまざまな障害の最大の原因であり、急増しているのも不思議はない。
【『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン:鍛原多惠子〈かじはら・たえこ〉訳(河出書房新社、2020年)】
これまた冒頭の文章が意味不明だ。5~6回も見直して入力する羽目となった。これほどおかしな文章が多いところを見ると、訳者もさることながら河出書房新社の校正の問題と考えざるを得ない。まあ酷いものだ。よくも出版社を名乗れるものだな。名著だけに許し難いものがある。
・シェールガスの水圧破砕法で水だけでなく大気を汚染
人類が誕生したのはおおよそ200万年前(諸説あり)で、我々ホモ・サピエンスが生まれたのは40万~25万年前のことである。近年の研究でネアンデルタール人の遺伝子がホモ・サピエンスに混入していることが判明しており、直線的な形の進化を想像しない方がいいだろう。
農業・牧畜が始まったのが1万2000年前(諸説あり)だとすると、人類史における農業の期間は1/200だから0.5%である。そして5000年前に王国ができる(『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ)。王国誕生の背景には穀物栽培があると考えられる(『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット)。つまり人類が穀物を主食とするようになったのは人類史のわずか0.25%の期間となる。
文明とは単純に言ってしまえば穀物食・家屋・身体機能=運動の代替物(道具から乗り物はたまたコンピュータに至るまで)であろう。現代人が最も恐れるアルツハイマーも文明病とされており、その原因は食べ物と運動不足にある(『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス)。つまり我々はあまりにも長く坐り過ぎているのだ(『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード)。
病んだ社会の起源は農耕・牧畜と都市革命にある。感染症の蔓延も都市化が背景にある。じゃあ皆で狩猟採集生活に戻ろうと私が音頭をとったところで実現するのは難しい。
「文明が不幸をもたらす」のは健康を損なうことだけが理由ではない。文明の発達が国家というコミュニティを強化するためである。我々は国民として何らかの義務を負わせられる。その最たるものが徴税と兵役である。国民である限り何らかの自由を阻害されることは避けられない。
そうかといって国家という枠組みを解体してしまえば、中国共産党のようなならず者が間髪を入れずに攻めてくることだろう。既に尖閣諸島界隈まで攻めてきているわけだが。
結局、文明といい国家といっても暴力(軍事力)の問題に行き着く。
尚、本書がなければ、『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』を読んで、倒れたまま起き上がれなかったことだろう。
2021-01-31
話すことができないコメディアン(ブリテンズ・ゴット・タレント2018年)
我々は日常の些末な苦労を、仕事を、人生を笑い飛ばすことができているだろうか? 彼の朗らかな笑い声が聴こえてくるような気がするのは私だけではないだろう。「障碍者」(しょうがいしゃ)の烙印を押す医師や社会が彼らの可能性を奪っている事実に気付かされる。
2021-01-28
世界最初の紙幣は北宋の「交子」/『経済は世界史から学べ!』茂木誠
・世界最初の紙幣は北宋の「交子」
・『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠
・『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
・『「米中激突」の地政学』茂木誠
・『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠
【世界最初の紙幣は北宋の「交子」(こうし)】です。内陸の四川(しせん)で発行されました。
当時、中国で広く流通していたのは銅銭ですが、銅の産出が少ない四川では鉄銭を使用していました。しかし鉄銭は重く、高額の取引には向きません。
そこで金融業者は商人から鉄銭を預かり、引換券として紙幣を発行したのです。北宋政府は商人からこの権利をとり上げ、交子を発行します。政府が保有する銅銭を準備金(担保)として、発行額には上限が定められました。
ところが、政府というのは無駄遣いに走りがちです。戦争や公共事業、宮廷の浪費を賄うため、上限を超えて紙幣を乱発し、信用が一気に失われます。【紙幣乱発による通貨価値の下落――すなわちインフレが起こる】わけです。
北宋の交子、南宋の会子(かいし)、元の交鈔(こうしょう)、すべて同じ経緯で紙くずになり、「インフレ→農民暴動→王朝崩壊」という経過をたどりました。」
【『経済は世界史から学べ!』茂木誠〈もぎ・まこと〉(ダイヤモンド社、2013年)】
紙幣を発明したのはユダヤ人の金貸しだと思い込んでいる人が多い。私もその一人だった。羅針盤・火薬・紙・印刷は中国の四大発明とされるが、紙幣も加えて五大発明にすべきだろう。
このテキストを読んで直ちに思ったことは「なぜドル基軸通貨体制が維持されているのか?」である。ま、有り体に言ってしまえば石油や武器をドル決済させることでアメリカ本国へドルが還流することを防いでいるためだろう。
ニクソンショックから既に半世紀以上を経ている。ドルは360円から104.292円(現在値)まで価値を下げている。最終的には50円くらいまで下げると私は睨んでいるが、50円だと紙屑とは言わない。それほど遠い未来ではなく数年以内にドルは沈むことだろう。米国債を大量保有している中国と日本はどうするのだろうか?
・マネーと国家が現代の宗教/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎
アメリカ民主党の人種差別的土壌~アイデンティティ・リベラリズム/『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹
・『9.11 アメリカに報復する資格はない!』ノーム・チョムスキー
・『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス
・『アメリカの国家犯罪全書』ウィリアム・ブルム
・『コールダー・ウォー ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争』マリン・カツサ
・『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン
・『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
・利益率97%というクリントン財団のビジネスモデル
・アメリカ民主党の人種差別的土壌~アイデンティティ・リベラリズム
・『クリントン・キャッシュ』ピーター・シュヴァイツァー
・必読書リスト その五
ヒラリー・クリントン アイデンティティ・リベラリズムの象徴 その一
2016年7月26日、民主党は同年11月の大統領選候補にヒラリー・クリントンを正式指名した。本書でこれまで明らかにした疑惑の数々を知っている読者にとっては、なぜ民主党が彼女を選択したのかいぶかしく思うに違いない。その原因は、メディアにあった。
CNNを筆頭にした米国主要メディアは、ネオコン系資本の支配下にあり、リベラル国際主義(干渉主義)を絶対善とする論陣を張った。彼らは、ヒラリーの疑惑をほとんど報じないか、報じても矮小化(わいしょうか)した。クリントン財団を利用した利益誘導外交は、本来であれば政権を揺るがす大スキャンダルであった。しかし、メディアはこの問題を深追いせず、次期大統領はヒラリーになると報道した。メディアの偏向については後述するが、そもそも民主党はなぜスキャンダルを抱えるヒラリーを選出したのだろうか。
民主党は、19世紀半ばの時代、人種差別的政党であった。民主党の基盤は、南部白人層つまりコットン・プランテーション経営(奴隷労働経営)者層にあった。1861年に始まった南北戦争は、北部の商工業者の支持を受けた共和党リンカーン政権に対して、南部民主党に率いられた南部連合が離脱したことから始まった。南部連合は戦いに敗れ奴隷解放に応じたが、ナブ諸州の政治は、民主党が牛耳ったままであった。彼らは、南部白人の結束を訴え(ソリッド・サウス政策)、黒人隔離政策を推進した(ここでは当時の空気を正確に記すために、政治的用語であるアフリカ系とせずあえて黒人と表記する)。交通機関、トイレ、食堂なども肌の色で隔離する法律を次々と導入した。黒人に対するリンチも止まらなかった。これらは州の独自の権限(州権)に基づく州法であったため、連邦政府は口出しできなかった。黒人隔離(差別)の諸法律はジム・クロウ法と総称され、第二次大戦後も続いた。これが廃止されたのは1964年のことである。
戦後になると、民主党の主たる支持層であった南部白人層が相対的に豊かになった。豊かさが人種差別的意識を希釈した。支持基盤の喪失を恐れた民主党は、「弱者のための政党」へカメレオン的変身を企てた。かつて、黒人を激しく嫌悪し、隔離政策をリードした首謀者でありながら、当時は【国全体が人種差別的】であった、と言い逃れをし、責任を他者に押し付けた。民主党の責任については洞ヶ峠(ほらがとうげ)を決め込んだ。
弱者はどこにでもいた。かつて自らが差別していた黒人層、西部開拓の過程で白人に姦計(かんけい)を弄(ろう)され居住地を追われた原住インディアン、遅れてアメリカにやってきて嫌われたアジア系・ラテン系・東欧系移民、宗教的に阻害されてきたユダヤ系移民、職場でパワハラやセクハラを感じている女性層、性的嗜好マイノリティ層(LGBT)。探せばどこにでもいた。
相対的弱者とされる層が必ずしも弱者と自覚しているわけではない。したがって、彼らを「票の成る木」に変えるには、「弱者であることを能動的に意識」させなくてはならない。その上で、強者(国家あるいはエスタブリッシュメント白人層)への怒りを煽(あお)る。いかなる国にも誇れない過去がある。理不尽であった過去の振る舞いは、先人たちの努力で十分とはいえないまでも矯正がなされてきた。しかし権力を奪取したい、あるいは維持したい民主党にとっては、矯正の歴史はどうでもよいことであった。対立、いがみ合い、非妥協の継続。それが票になった。
民主党は、ターゲットとした弱者層に、「失われた」権利を回復しなくてはならないと訴えた。弱者であることを意識させることは難しくない。ほとんどのケースで、外見だけで弱者に所属していると自認できた。所属するグループ(黒人、移民、少数民族、女性など)を見渡せば、容易にわかった。この思想ともいえない権力を摑(つか)むための主張(戦術)が、アイデンティティ・リベラリズム(IL:Idetity Liveralism)である。
ILの考え方の延長が「多様化礼賛」だった。いわゆる「多文化共生思想」である。社会的弱者にも優しくすべきだという主張は美しい。社会的優位にあった白人エスタブリッシュメントも白人中間層もその訴えに同意した。こうして弱者救済に政治が積極的にかかわるべきだとする運動(アファーマティブ・アクション〈積極的差別撤廃措置〉)が始まった。この言葉を初めて使ったのはジョン・F・ケネディ大統領(民主党)だった。大統領令10925号(1961年3月)は、求職の際に、人種(肌の色)、宗教的信条、出身国などによって差別されてはならないと規定した。そうした行動を雇用者が【積極的】にとるよう勧告した。それがアファーマティブ・アクションであった。
次のリンドン・ジョンソン大統領(民主党)もこの施策を引き継いだ。ただ二人の主張は、「競争は弱者を差別することなくフェアに行なわれるべきだ」と勧奨するにとどまっていた。
この主張に、法的拘束力をもたせたのはジョンソンに続いたリチャード・ニクソン大統領(共和党)だった。ニクソンは悪い意味で人種を強く意識した政治家だった。彼は、人種間には自然科学的な違いがあると信じていた。ユダヤ人を創造力に富むが倫理観に欠ける、黒人は白人よりIQは低いが身体能力は高い、アジア人は勤勉でなかなか頭が良い、などという「科学的」な決めつけが得意だった。
ニクソンが人種差別的信条をもっていたことは間違いなかったが、皮肉にも、その彼が、大統領令11478号を発し、アファーマティブ・アクションに法的強制力をもたせた(1969年8月)。これにより、雇用均等委員会(1965年設置)が、政府および連邦政府資金で運営される組織全体(大学や研究機関など)の職員採用に少数派(主として黒人)を積極的に採用させる監視機関となった。その結果、1970年代初めになると、黒人男子大卒者の57%、女子の72%が公務員となった。
アファーマティブ・アクションは次第に拡大され、政府の下請け企業の受注においても、マイノリティの経営する会社が入札なしで優先的に選ばれる制度(Set-aside)も生まれた。こうしてマイノリティ利権が制度的に確立していった。マイノリティの定義は当初想定していた黒人層から、女性、原住インディアン、あるいは遅れてきた移民層にまで拡大された。マイノリティに属していることが採用に有利になった。これが少数派利権の始まりだった。
人種差別主義者であったニクソンがアファーマティブ・アクションを促進したのには訳があった。黒人隔離(差別)のジム・クロウ法が廃止されたのは1964年だと書いた。60年代は黒人公民権運動が吹き荒れた時代だった。1969年に大統領に就任したニクソンは、外交に専念したかった。「騒いでいる」黒人活動家の憤りを「ガス抜き」することで内政を落ち着かせたかった。それが、強制力をもたせたアファーマティブ・アクション導入の背景だった。
【『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹〈わたなべ・そうき〉(PHP研究所、2019年)】
これは『ニュース女子』#302「日米新外交関係で日本が取るべき進路は・牙を剥く中国の脅威」(1月26日)で武田邦彦や飯田泰之・江崎道朗〈えざき・みちお〉・門田隆将〈かどた・りゅうしょう〉らが指摘した発言を裏付けるテキストである。
「ポリティカル・コレクトネスは白人による人種差別を覆い隠すために編み出された概念」(『人種戦争 レイス・ウォー 太平洋戦争もう一つの真実』ジェラルド・ホーン)という歴史を踏まえれば、差別の細分化~再生産を目的としているのだろう。
ヒトは大脳新皮質を発達させて、200万年という長大な時間をかけて群れの領域を国家にまで拡大してきた。ザ・コーポレーション(DVD)は国家を横断する経済規模に発展した。新型コロナウイルスは国家に強権の発動を許した。国民の移動を禁じる自粛要請や休業要請はたまた学校の休校措置はさながら「現代の空襲警報」といってよい。
そして自由の象徴であったインターネット空間がビッグテックの完全支配下に降ろうとしている。twitterはトランプ大統領のツイートによってメインストリームメディアの嘘を明らかにした。にもかかわらず、twitter社はトランプ大統領を永久追放した。まるで中国共産党のような仕打ちである。シリコンバレーが民主党支持に傾いている事実を思えば、今後は共和党から大統領が選出されることはないだろう(『2025年の世界予測 歴史から読み解く日本人の未来』中原圭介)。
利益率97%というクリントン財団のビジネスモデル/『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹
・『9.11 アメリカに報復する資格はない!』ノーム・チョムスキー
・『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス
・『アメリカの国家犯罪全書』ウィリアム・ブルム
・『コールダー・ウォー ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争』マリン・カツサ
・『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン
・『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
・利益率97%というクリントン財団のビジネスモデル
・アメリカ民主党の人種差別的土壌~アイデンティティ・リベラリズム
・『クリントン・キャッシュ』ピーター・シュヴァイツァー
・必読書リスト その五
ヒラリーが、個人サーバーの利用に拘(こだわ)ったのは、交信記録は国家財産として保存され、後に公開されるからである。彼女と夫のビルは、クリントン財団(1997年設立)なる「チャリティー」組織を設立して、多くの「支援者」から寄付を募っていた。運営は元大統領と娘のチェルシーが担っていた。表向きは、国際慈善事業の推進であったが、運営コストの割合が高く、関係者も異常な高給を貪(むさぼ)っていた。2014年度の数字は収入総額1億7780万ドルに対し、チャリティー事業に支出されたのはわずか516万ドルだった。1ドルの寄付に対して、真の事業には3セントの支出だったことになる。クリントン財団には外国の企業や要人から巨額の寄付があった。国務長官として(あるいはその前の上院議員)の外交方針が、彼らの利益になったからだった。
【『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹〈わたなべ・そうき〉(PHP研究所、2019年)】
1ドル=100セントである。クリントン夫妻は講演でも荒稼ぎをしており、45分間の講演で3000~5000万円が相場とされる(ITmedia ビジネスオンライン)。クリントン夫妻は大統領を退いてから15年間で270億円も稼いでいる(フォーブス ジャパン)。
どう考えてもおかしい。人間としておかしいと思う。富の偏在は賃金の上昇を阻害し、人々の労働意欲を失わせる。使い切れない莫大なお金を思えば環境破壊といってもよさそうだ。
トランプ大統領再選の予見は外れたが、共和・民主両党にまたがるネオコンの動向を見据えた一書で、アメリカの今後を占う重要テキストになるだろう。
必ず『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』の後に読むこと。
2021-01-27
2021-01-26
2021-01-25
武田邦彦:2021年「ガソリン車 廃止」の嘘を暴くために必要な基礎知識
・「(地球)温暖化」は既に科学の問題ではなく政治問題となった。
・温暖化はもともと1988年6月23日にアメリカ上院で取り上げられたことに始まる。
・なぜこの時上院で取り上げられたか?
・1980年代は小麦価格が不調でずっと低迷していた。
・それに苦しんだ農業系の議員と、それに乗っかった金融資本、更にCNN、これらが協働して作戦を組んだのが「地球温暖化」という騒動の始まり。
・「温暖化」という言葉はそこでは使われていないが「気候変動」という言葉が使われている。
・日本のマスコミは「ベルリンマンデート」と「バード=ヘーゲル決議」を今日に至るまで全く報道しなかった。
2021-01-23
2021-01-21
思想はエネルギーである/『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス
・『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ
・『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ
・『規律とトレーダー 相場心理分析入門』マーク・ダグラス
・ランダムな報酬が“嬉しい驚き”となる
・思想はエネルギーである
・『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ
・『なぜ専門家の為替予想は外れるのか』富田公彦
一貫して勝つ人間には、他人とは違った思考力があるのだ。
【『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス:世良敬明〈せら・たかあき〉訳(パンローリング、2002年)以下同】
思考は内容よりも癖が問われる。つまり「何を考えるか」よりも、「どう考えるか」である。単純に分ければ楽観と悲観になるのだが、思考の方向性を決めるのは感情や成功体験であろう。そこにその人の世界が広がっている。
成功体験というのは好きな言葉ではない。自己肯定体験と言い換えた方がよさそうだ。成功はあまりにも社会的な価値に隷属している。クルクルと変転する社会の波を巧みに泳いだところで人間性が磨かれるはずもない。
私の先輩にスーパー営業マンがいる。彼は明らかに人とは違う発想の持ち主だった。更に「自分大好き人間」でもあった(笑)。以前、「人間として自己採点するなら何点?」と尋ねたことがある。「100点だな」と即答しきたので驚いた。「小野ちゃんは?」と訊かれたので「70点」と答えた。ま、及第点だ。
思想はエネルギーである。言語で考えているため、自分の思想は、自分の考えている特定の言語にのっとった制限や規則で構造化されている。声に出して自分の思想を表現するとき、音波を作り出している。それもエネルギーの形だ。音は声帯が作用して発せられ、声色は自分のメッセージの内容で構造化されている。マイクロ波はエネルギーである。電話の音声がマイクロ波によって中継されているが、その伝達するメッセージを示すために、マイクロ波のエネルギーは構造化されていなければならない。レーザー光線はエネルギーである。今までにレーザー光線を用いたショーや、レーザー芸術の公演を見た経験がないだろうか。そのとき目にしているのは、純粋なエネルギーが、その芸術家の創造的願望を反映した形を描いているものなのである。
「思想」というとイデオロギーの悪臭がして日本人にはわかりにくいが、思念や念慮に置き換えれば理解可能だ。「一念岩をも通す」の一念だ。「思い」は泉のように湧くものだ。世界を映す鏡が私なら、思いと言葉は反射である。鏡は光も闇も映すことができる。
羽生丈二〈はぶ・じょうじ〉の「思え。ありったけのこころでおもえ」(『神々の山嶺』夢枕獏)、また山野井泰史〈やまのい・やすし〉の「生きてるか!」(『凍(とう)』沢木耕太郎)といった言葉は生のエネルギーそのものだ。
先日、知り合いのお年寄りが亡くなった。思い出されるのはその声である。記憶の中にある声が私の脳を振動させる。彼のバイブレーションは私の中で今も息づいている。
思想よりもむしろ声こそがエネルギーであると思う。その点、プロの歌い手は羨ましい限りだ。その歌声は死しても尚、様々な音源となって多くの人々の心を潤すのだから。
ギャンブルは「国家が愚か者に課した税金」/『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希
・『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
・『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
・『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲
・『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会
・お金持ちになる方程式
・ギャンブルは「国家が愚か者に課した税金」
・『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
・必読書リスト その二
共産主義の国家では頭のいい人間は権力者の脅威になるので見つけてはいろいろと難癖をつけて、みんなの前で銃殺するのがお決まりのパターンですが、資本主義の国家では逆に頭が悪いということは大変重い罪で、その罪を償うためにこのようなさまざまな「税金」を払う必要があります。
ギャンブルは「国家が愚か者に課した税金」といわれる所以です。
【『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希〈ふじさわ・かずき〉(ダイヤモンド社、2006年)】
弱者は奪われる。自由を。ヤクザの賭場はテラ銭が20%といわれる。公営ギャンブルの控除率は25%前後で、宝くじやサッカーくじは50%を上回る。支払った瞬間にお金を失っているわけだから愚か者と言われても文句はあるまい。
幸か不幸か私はギャンブルとは無縁だが、賭け事が古代からあったことは何となくわかる。幼い頃におやつなどを賭けたことは多くの人が経験しているに違いない。運試しは未来を占う行為だが現在性を強く自覚させる。ギャンブルと言えば聞こえは悪いが保険はギャンブルを通して発達した。自分が災難に遭う方に賭けるのが保険である。投資取引をトレードというが「交換」が原義である。リスクとリターンの交換といってよい。
ギャンブルの依存性が高いのは「ランダムな報酬が“嬉しい驚き”となる」ためだ(『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス)。性的快楽を感じるのと同じ脳の部位が反応するとされる。本能を刺激するわけだから一旦ハマると中々やめることができないのだろう。脳がハッキングされた状態になるのだ。
現在では煙草もまた「国家が愚か者に課した税金」となりつつある。今日もまた私は納税にいそしむ。
2021-01-18
「生きてるか!」/『凍(とう)』沢木耕太郎
・『星と嵐』ガストン・レビュファ
・『神々の山嶺』夢枕獏
・『狼は帰らず アルピニスト・森田勝の生と死』佐瀬稔
・『ビヨンド・リスク 世界のクライマー17人が語る冒険の思想』ニコラス・オコネル
・『そして謎は残った 伝説の登山家マロリー発見記』ヨッヘン・ヘムレブ、エリック・R・サイモンスン、ラリー・A・ジョンソン
・『ソロ 単独登攀者 山野井泰史』丸山直樹
・「生きてるか!」
・『銀河を渡る』沢木耕太郎
・『ポーカー・フェース』沢木耕太郎
・『白夜の大岩壁に挑む クライマー山野井夫妻』NHK取材班
・『垂直の記憶』山野井泰史
・『アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由』山野井泰史
・『いのち五分五分』山野井孝有
・世界最強ソロクライマー"山野井泰史"50年の軌跡 伝説のクライミンング人生を世界一詳しく解説!!【ゆっくり解説】
・『アート・オブ・フリーダム 稀代のクライマー、ヴォイテク・クルティカの登攀と人生』ベルナデット・マクドナルド
「なあ、『死のクレバス』ってあるだろう?」
山野井が言った。
イギリスのクライマー、ジョー・シンプソンの書いた『死のクレバス』は、南米アンデスのシウラ・グランデ峰における自らの遭難を描いたものである。
「もし俺たちが生き延びられたら、あれより凄いことになるかもしれないな」
その頃から山野井も嘔吐するようになっていた。そして吐くものがなくなると、妙子と同じく胃液を吐くようになった。
「このまま眠ったら死んじゃうかな」
妙子がつぶやくように言った。こんなに寒くて、何も食べていない状態では、ひょっとして死ぬこともあるのかなというくらいの軽い気持ちだった。だから、続けた。
「そんなに簡単には死なないよね」
死ぬ人は諦めて死ぬのだ。俺たちは決して諦めない。だから、絶対に死なない。
「うん、死なない」
山野井はそう答えながら、黙ったままじっとしている妙子を見て、ふと不安になって声を掛けた。
「生きているか?」
すると妙子が返事をした。
「生きてるよ」
山野井は少し安心したが、そのうちに妙子は嘔吐もしなくなった。
「生きてるか!」
山野井が怒鳴るように言っても、妙子は反応しない。
「生きてるか!」
山野井が返事のない妙子の体を揺すった。すると、しばらくして答えが返ってきた。
「うん……」
やがて、妙子はうとうととし、山野井も膝に顔をうずめて眠りはじめた。
【『凍(とう)』沢木耕太郎〈さわき・こうたろう〉(新潮社、2005年/新潮文庫、2008年)】
山野井泰史〈やまのい・やすし〉・妙子夫妻を描いたノンフィクションである。人気作家の沢木耕太郎がよくぞ書いてくれた、と喝采を送りたい。夫妻ともに世界屈指のクライマーだが日本での注目度は低い。日本企業のスポンサーシップは商業主義に毒されており、儲けを見込んだ話題性にしかカネを出さない。山野井自身、若い頃はスポンサー探しに悪戦苦闘したが、結局資金提供をしてくれる企業は見つからず、アルバイトや執筆をしながら遠征費を捻出し続けた。
山口絵理子著『自分思考』(講談社、2011年)を読みながら誰かに似ていると思った。ぼんやりと記憶をまさぐり「山野井だ!」と気づいた。続いて「山口も登山家だったんだな」と悟った。両者共に単独者である。「ただ一人歩む者」の厳しさと険しさが深い部分で通い合う。
2002年、ギャチュンカンの登山で夫妻は下山の途中、嵐と雪崩(なだれ)のために遭難する。泰史は雪崩の衝撃で視力を失う。滑落した妙子を救うために彼は下へおりてゆこうとするのだがハーケンを打ち込む割れ目を見ることができない。そこで彼は手袋を脱いで凍りついた岩肌に指を這(は)わせる。失ってもいい順番でまずは小指から始めた。たった一つの割れ目を見つけるのに1時間以上を要したこともあった。結局彼は両手の薬指と小指、そして右足の全ての指を凍傷で失った。妙子夫人も手の指を第二関節から先の10本全てと、足の指8本の切断の重傷を負った。
以下、当時の山野井通信から引用する。
山野井泰史・妙子夫妻ギャチュンカン事故概要
10月5日 BC出発 スロベニア・ルート取り付き付近(コックがABCと表現している)。
6日 50~60度の雪壁に時々岩壁が混じるルートで、1ピッチ以外はノーザイルで登る。7000mでビバーク。
7日 昨日同様のルートをノーザイルで登る。7500mでビバーク。
8日 雪時々晴れ 妙子不調のため、約7600m地点でこれ以上の登行を断念(この先さらに傾斜が増す) 泰史単独登頂後妙子と合流、ビバーク。
9日 雪。前向きで下降出来ない傾斜をノーザイルでクライム・ダウン。7200mでビバーク。
10日 雪。スタカットで下降を続ける。泰史が先に下降し、妙子を確保、後 5mで泰史のいる地点で妙子が雪崩に飛ばされ、頭部が下になった状態で、50mロープ一杯で止まる。左手の手袋は雪崩で失い、左手は瞬時に白色になった。この墜落で頭部右側と右肩、右ひじなどを強打、頭部は約8cm切れる。
この墜落後、左眼が見えなくなる。もがいて体制を立て直し上部を見ると、ハング気味の岩にロープがこすれて外皮がとれ、芯も幾筋か切れている。泰史が妙子を引き上げようとロープを引くが、ロープは今にも切れそうで、大声で引くな!と叫ぶが聞こえない様子。妙子はロープをはずし、少し右手の雪壁(氷壁?)にアックスとバイルを打ち込み、次の雪崩にそなえた。
ロープの加重が無くなり、妙子がロープをはずしたことを知った泰史は、妙子と合流しようとピトンを打ってシングルロープで妙子の所に下降し、無事を確認して泰史が登り返している時、二度雪崩が発生、眼を傷つけられたらしい。ロープの始点に辿り着き、そこから懸垂下降をしようとしたが目が見えず、手袋をはずして手探りでリスを探し、リスに合うピトンを打ちながら、妙子の声のする方向へ3ピッチ降り妙子と合流。その近くの腰掛けられる程度の狭いスペースでビバーク。
11日 泰史の左眼は回復したが妙子が両眼とも見えなくなり、かなりの時間をかけて取り付き付近(ABC)まで下降。 迎えに来ると言っていたガイドがいなかったが、降雪量が多くラッセルがひどいので来なかったのだろうと思った。
12日 依然泰史の右目も妙子の両目も回復せず。10時間ほど下降し、氷河上でビバーク。
13日 途中まで人が登って来た形跡があり、ひょっとして二人が遭難したと思われているのではないか、と思った。 BCに着くと案の定二人のテントはたたまれ、メステントだけがまだ建っていた。帰還した山野井たちに・コックチョモランマBC連絡官他一名が驚き、すぐテントを建て直し収容してくれた。
14日 山野井たちが行方不明と判断されており、荷下ろしのためBCにポーター3人が上がって来た。
15日 彼らに交代で背負ってもらい下山する途中で、荷下げのために上がってきたヤクとすれ違う。テンディ泊
16日 カトマンズまで帰り着き、教育病院に収容される。
17日 日本に帰国。現在凍傷についての権威である金田医師の治療を受けております。
【山野井泰史・妙子夫妻事故概要報告 | 山野井通信 | EVERNEW】
奇蹟の生還を遂げた山野井は語った。「いい山登りだった。楽しかったしね」(【最強クライマー】山野井泰史・妙子夫妻の凄さ)と。二人はギャチュンカンでの出来事を決して「遭難」とは言わない。彼らにとっては折り込み済みのアクシデントに過ぎなかったのだろう。それどころか凍傷すら後悔をしていないのだ。
無酸素単独で、より難しい山をより難しいルートで登るのが山野井の流儀である。それゆえ「登れる」ことがわかっているエベレストには振り向きもしない。
無欲恬淡な人生から吐き出される言葉の数々は聖職者でも及ばぬ光彩を放っている。山野井夫妻は本当にいい貌(かお)をしている。私からすればこれほど理想的な夫婦を見たことがない。
最後になるが「今あらためて問う、山野井泰史氏 ポタラ北壁「加油」ルートの意義: 月山で2時間もたない男とはつきあうな!」によると、山野井夫妻のルートに中国人登山家が挑んだという。中国のテレビ番組ですら紹介した山野井泰史を冷遇した日本社会を恨みたくなるのは私だけではあるまい。平山ユージも登場する。
・ぼくは「想像」が得意。 - ほぼ日刊イトイ新聞
・山野井泰史
・山野井通信 | EVERNEW
・山野井泰史:動画検索
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