2021-08-25

日本人らしい意地悪な視線/『ドキュメント 生還 山岳遭難からの救出』羽根田治


・『ドキュメント 雪崩遭難』阿部幹雄
・『ドキュメント 滑落遭難』羽根田治

 ・日本人らしい意地悪な視線

・『ドキュメント 気象遭難』羽根田治
・『ドキュメント 道迷い遭難』羽根田治
・『ドキュメント 単独行遭難』羽根田治
・『ミニヤコンカ奇跡の生還』松田宏也、徳丸壮也構成

「助けにきてくれたのですか。おじさんの顔が神様みたいに見えます」
 この遭難事故は、Kがわずかなチョコレートによって命を支えていたことから、“奇跡の生還”としてテレビや新聞、週刊誌などで大々的に報じられた。山をまったく知らないふたりの女性がほとんど無防備な状態で山に入り、途中で離れ離れになりながらも、ひとりは9日間、もうひとりは11日間を生き延びたというドラマ性にマスコミが注目し、一般の人々が惹きつけられたのだ。
 なお、この遭難事故には後日談がある。
 事件の翌年の1969(昭和44)年5月、ふたりの女性が「西穂高岳の遭難現場を見にいく」と自宅に書き残して、上高地から西穂高岳へと入山した。だが、彼女たちは二度と帰ってこなかった。土砂に埋もれたふたりの遺体が外ヶ谷の上流部で発見されたのは、行方不明になってから1年以上が経過した、翌年7月のことであった。

【『ドキュメント 生還 山岳遭難からの救出』羽根田治〈はねだ・おさむ〉(ヤマケイ文庫、2012年)】

 文章がいいので最後まで読むことができたが、日本人らしい意地悪な視線がそこここに見られて辟易させられる。我が国では「世間に迷惑をかける=悪」という価値観が根強く、生還した人をヒーローと称えるアメリカのような見方ができない。

 どんなに文章を飾ったところで「失敗を叩く」行為に変わりはない。底の浅い人間性がせっかくの文章を台無しにしている。

 初心者であれば悔恨に駆られながら死んでいったことだろう。上級者であれば無念に沈みながら死んでいったことだろう。人は死ぬ。山や海で。そして事故や病気で。それらの死に差異はない。

 そして人は同じ失敗を繰り返す。戦争がその最たるものだろう。それを宿痾(しゅくあ)とも業(ごう)とも言うのだ。登山家は必ず山で死ぬ。山登りをやめない限りは。私はベッドの上で死ぬことが幸せだとは決して思わない。

2021-08-24

世界恐慌で西側諸国が左傾化/『米中激突の地政学 そして日本の選択は』茂木誠


『経済は世界史から学べ!』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠

 ・世界恐慌で西側諸国が左傾化
 ・ネオコンのルーツはトロツキスト

『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠

世界史の教科書
必読書リスト その四

 日本がアメリカに敗れて中国から引き揚げると、国民党と共産党の内戦(1946~49年)が始まりました。ところが不思議なのは、あれほど蒋介石を支援してきたアメリカが、急に国民党に冷たくなるのです。ほとんど援助もしません。
 ここにもアメリカの民主党政権内に巣くう新ソ派の明確な意思が働いていたのでしょう。彼らはソ連のスターリンと世界を分割し、中国を毛沢東に委ねることを決定したのです。
 西側諸国がここまで左傾化した最大の原因は、世界恐慌の影響だと私は思います。世界恐慌で資本主義の限界があらわになり、西側エリートの間に「資本主義は終わった」論が広がったのです。ソ連の計画経済をモデルにして国をつくり直さなければいけない。そう考えるエリートが世界中にいました。それが、アメリカのニューディーラーであり、日本の革新官僚だったのです。
 日本でも東京帝国大学の教授、高級官僚、政治家、陸軍士官学校出の青年将校……エリートであればあるほど、その思いは切実でした。
 第二次世界大戦でアメリカは、中国というマーケットを確保するために蒋介石を支援して日本を叩き出すことに成功しておきながら、その次はやすやすと毛沢東に中国を明け渡してしまったのです。

【『米中激突の地政学 そして日本の選択は』茂木誠〈もぎ・まこと〉(WAC BUNKO、2021年/ワック、2020年『「米中激突」の地政学』改題新書化)】

 重要な指摘であると思う。個人的には二・二六事件の背景に世界恐慌があったことは知っていたが、国際的な容共につながっていたとは考えもしなかった。

 こうした事実を踏まえた上で、例えば以下の書籍あたりを再読する必要がある。

『機関銃下の首相官邸 二・二六事件から終戦まで』迫水久恒
『昭和陸軍謀略秘史』岩畔豪雄
『田中清玄自伝』田中清玄、大須賀瑞夫

 社会主義の本質を見抜いていたのはウィンストン・チャーチルだけだったのかもしれない。だが、そのチャーチルも1955年(昭和30年)に首相の座から退く。

社会主義国の宣伝要員となった進歩的文化人/『愛国左派宣言』森口朗


『「悪魔祓い」の戦後史 進歩的文化人の言論と責任』稲垣武
『こんな日本に誰がした 戦後民主主義の代表者・大江健三郎への告発状』谷沢永一
『悪魔の思想 「進歩的文化人」という名の国賊12人』谷沢永一
『誰が国賊か 今、「エリートの罪」を裁くとき』谷沢永一、渡部昇一
『いま沖縄で起きている大変なこと 中国による「沖縄のクリミア化」が始まる』惠隆之介
『北海道が危ない!』砂澤陣
『これでも公共放送かNHK! 君たちに受信料徴収の資格などない』小山和伸
『ちょっと待て!!自治基本条例 まだまだ危険、よく考えよう』村田春樹
『自治労の正体』森口朗
『戦後教育で失われたもの』森口朗
『日教組』森口朗
『左翼老人』森口朗
・『売国保守』森口朗

 ・社会主義国の宣伝要員となった進歩的文化人
 ・陰謀説と陰謀論の違い
 ・満州事変を「関東軍による陰謀」と洗脳する歴史教育
 ・関東軍「陰謀論」こそウソ
 ・新型コロナウイルス陰謀説
 ・皇室制度を潰す「女系天皇」

『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎

必読書リスト その四

 米ソが対立すると「社会主義」は各国民の「妄想」を超えて、ソ連を親分とする集団の「陰謀」へと進化します。ソ連及びその手下となった東ヨーロッパ諸国、中華人民共和国、北朝鮮などが、先進国を陥れる「陰謀」の一貫として「社会主義体制の下で人々は幸せに暮らしている」というウソを流し始めたのです。でも、社会主義国が言うだけではウソは先進国の国民に届きません。そこで、先進国に住む政治家、マスコミ関係者、大学教授達が、社会主義国の宣伝員として、そのウソをバラまく役目を担当したのでした。
 ちなみに、日本の大学の少なくない文系学部は、令和時代の今でも、学生時代に民青(日本民主青年同盟)という事実上の共産党の下部組織に入っていたお陰で、学術的能力が劣るのに大学教授になれた人が大勢います。そのせいか少なくない大学の文系学部生の教員は、社会主義諸国の宣伝を信じていました。
 では、何故、昭和時代に日本人は、社会主義宣伝員のウソを信じたのでしょう。今と違って政治家、マスコミ関係者、大学教授などには多少の権威があったのが一要因でした。また、令和時代と違って戦争直後は、敗戦国日本の暮らしが厳しかったからという側面もありました。

【『愛国左派宣言』森口朗〈もりぐち・あきら〉(青林堂、2021年)】

 読書中。記憶力が読書量に追いつかないため、どんどん書いてゆく。「国立大学の反自衛隊イデオロギー/『正論』2021年6月号」関連テキストである。谷沢永一〈たにざわ・えいいち〉の国賊三部作を読めば理解が深まる。グローバリズムに関しては馬渕睦夫著『国難の正体 世界最終戦争へのカウントダウン』を参照せよ。

 最も有名で悪影響が大きかったのは本多勝一〈ほんだ・かついち〉で中国当局の情報を鵜呑みにして書いた『中国の旅』(朝日新聞社出版局、1972年)は日本社会に深刻なダメージを与えた。私の世代でも洗礼を受けた人は多い。1980~1990年代はまだまだ左翼全盛と言ってよい時代であった。日本近代史を見直す端緒を開いたのは新しい歴史教科書をつくる会であり、ネトウヨと蔑まされた人々であった。私は実際のネトウヨを目撃したことはないのだが、今となっては罪(ざい)よりも功(こう)が大きいと信ずる。

 現在にあっても「ネトウヨ」と書くのは左翼であると断定してよい。そこには歴史修正主義、反国際条約といった意味合いが含まれている。彼らはすなわち東京裁判史観絶対主義で「日本=悪」と断ずることで、日本の文化や歴史を黒く塗り潰して、赤く塗り替えようとする手合いだ。

 1970年代に学生運動が行き詰まると左翼は各界に浸透工作を図った。これを侮ってはいけない。官公庁から大企業および学校から宗教団体に至るまで浸透は進んだものと考えるべきだろう。使命や任務に生き甲斐を感じる人は多い。まして共産主義という崇高な理想があれば、孤独な任務にも耐えられる。そして忍耐が大きいほど手に入る果実もまた大きくなると錯覚するのが大脳の癖なのだ。

 高い知能の特徴は何か? それは「他人を騙(だま)すこと」である。残念ながら「思いやりが本能である」事実はフランス・ドゥ・ヴァールが指摘している(『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』)。騙すためには相手の信念を理解する必要がある。他人の頭の中(価値観)を理解した上で巧みな嘘を上書きするのが「騙す」という行為である。

 宗教や健康食品を見れば一目瞭然だ。マスメディアも同様で、むしろ大衆は騙されたがっているようにすら見える。我々が手品や大どんでん返しのストーリーに魅了されるのは「騙されるのが好きだから」としか言いようがない。

 左翼に騙されるのか、左翼の嘘を見抜くのかが問われる時代となった。ただし愛国心を重んじる保守派が「左翼を騙す」戦略をとることはないだろう。自国を愛する心は他国を尊重せざるを得ないからだ。グローバリズムを掲げるGAFAMが21世紀の左翼支配層である。ヨーロッパで殺され続けてきたユダヤ人の反撃と考えてもよかろう。

2021-08-23

国立大学の反自衛隊イデオロギー/『正論』2021年6月号


『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 ・経済安全保障 日本の惨状
 ・日本はサイバー後進国
 ・国立大学の反自衛隊イデオロギー

『愛国左派宣言』森口朗

兼原●日本には人材のエコシステムがない。この点、日本の学界の反自衛隊イデオロギーは深刻です。絶対に防衛省と協力しないという強烈なアレルギーがあります。未だに東大とか阪大とか名大とかは研究室に就職するときに「私は軍事研究を絶対やりません」という念書を書くんですよ。

手塚●国立大学はそうだと聞いてます。

兼原●本当にすごい嫌がらせがあるそうです。民間の会社の事業を手伝っていたある国立大学の教授は、その会社が防衛省の協力基金助成をもらいに行った瞬間に、大学を辞めるか、研究を止めるかどっちかにしてくれと言われたとか。こんな話が山ほどあるんです。そういう状況の中で、最先端の一番優秀なIT学者に政府と一緒に国家安全保障のためにデジタルコミュニティーを作りましょうと議論しようとしても、その土壌がない。

【「特集 経済安全保障 日本の惨状」/『正論』2021年6月号】

 2020年10月、防衛省からの資金提供を受けていた北海道大学の奈良林直〈ならばやし・ただし〉名誉教授の研究(船の燃費向上および高速度化)に対して、日本学術会議が圧力をかけたニュースが報じられた。

日本学術会議の闇 北海道大教授の研究めぐり大学に「事実上の圧力」 安全保障技術研究推進制度の応募を辞退させていた(1/3ページ) - イザ!
「学問の自由、侵害は学術会議」北大・奈良林名誉教授 声明…錦の御旗に - 産経ニュース

 日本の戦後史は自民党の不作為の歴史といっても過言ではない。学校現場や文科省を左翼の巣窟にした責任は大きい。左翼が戦時中の憲兵みたいな役割を担っているのだから開いた口が塞がらない。

 スパイ防止法を求める国民の声が高まらない限り、この国が変わることはない。中国との戦争に敗れるようなことがあれば、大東亜戦争敗北の比ではあるまい。

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2021-08-22

日本はサイバー後進国/『正論』2021年6月号


『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 ・経済安全保障 日本の惨状
 ・日本はサイバー後進国
 ・国立大学の反自衛隊イデオロギー

兼原●20年前のことですが、小泉純一郎首相がアフガニスタンでの米軍による「不朽の自由作戦」に対して海上自衛隊の護衛艦などを出しました。首脳間では、人の戦争に自国の軍隊を出すというのはすごい貸しになるんです。喜んだブッシュ大統領は「ジュンは盟友だ!」となった。そこで、日米で情報協力を進めようという話になったんですが、CIA(中央情報局)は反対したらしいんですよ。「そもそも日本政府はデジタル情報の統合が極端に遅れており、サイバーインテリジェンスも知らないし、サイバーセキュリティも恐ろしく甘い」と。この状況は今でも変わりません。

手塚●欧州連合(EU)が始めた「EU一般データ保護規制(GDPR)」の運用は、EUを含む欧州経済領域内で取得した個人データの海外移転を原則禁止しています。それに比べて日本は対応がすごく甘い。データセンターは海外の方が人件費などのコストが安いから、そっちを利用してしまうわけです。

兼原●スパコンは、例えばこの瞬間の日本の全ての電信通話を入れても量的に平気なんですよね。スパコンというのは大体1台回すのに数万世帯分ぐらいの電気を消費しますが、当然日本の電気料金は高いし、日本のスパコンもクラウドも高いわけですよ。

手塚●土地も高い。建物を置いてサーバーとか置かなきゃいけませんから。ある国がどこかの会社にサーバー管理をやらせて、政府から補助金をもらって「安いですよ」と世界中で売って回って簡単に引っかかるのは多分日本人だけです。

【「特集 経済安全保障 日本の惨状」/『正論』2021年6月号】

 サイバー特区を作る他あるまい。地震の少ない富山自然災害の少ない栃木災害に強い滋賀、佐賀、香川あたりが候補地だろう。個人的には瀬戸内海に面している県が望ましいと思う。

 頭のよいエリートは理論に走り過ぎて現実を見失う傾向がある。すなわち計画経済的な発想では国民が苦しむ結果となる。それゆえ国家のグランドデザインを描くためには様々なタイプの人材を活用することが不可欠だ。特に過去の戦争研究が必要で、なぜ失敗したのか、どこをどうすれば変わったのかを具体的にしなければ、またぞろ同じ轍(てつ)を踏むことになろう。就中(なかんづく)、戦前から引き継がれてきた官僚システムを一新するのが急務である。

 日本の安全保障についてはもはや自民党では無理だろう。新党結成の動きを待つしかない。現在の自民党が親中派に蝕まれているとすれば、袂(たもと)を分かつ政治家が出てきて当然だ。むしろ出ない方がおかしい。

 国防予算はGDPの3%程度、軍需産業を復活させれば景気対策にもなる。その手始めとしてサイバー特区を進めるべきだ。

2021-08-21

経済安全保障 日本の惨状/『正論』2021年6月号


『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 ・経済安全保障 日本の惨状
 ・日本はサイバー後進国
 ・国立大学の反自衛隊イデオロギー

兼原●トランプ政権の時、アメリカは中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の使用を一時止めましたが、なぜTikTokがだめなのか。入力している色んな情報、例えば生年月日、クレジットカードとか、おそらく全部中国のサーバーに抜かれるんです。彼らはそれをスパコンを使ってAIをかけて高度なインテリジェンス情報に加工できる。塵(ちり)の山からダイヤモンドが生まれるんです。
 人工知能は、人間がペーパーで情報分析すれば数年かかる作業を一瞬でやってしまう。例えばミスター何某が著名なテロリストと接触している可能性のある場所と時間、泊まったホテル、乗った飛行機、借りた車、そのときの写真や電話通信の音声記録などを一瞬で割り出してしまう。一見どうでもよい大量のデータ自身が、人工知能のお蔭で非常に価値の高いインテリジェンスを生むのです。宝の山なんです。中国、ロシアには、そもそも「個人情報だから」なんて言う遠慮はないんですよ。
 これが現代のサイバーインテリジェンスです。これが怖い。日本人は抜かれた情報がどうなるのかを誰も考えていない。LINE問題も同じです。

【「特集 経済安全保障 日本の惨状」/『正論』2021年6月号】

 兼原信克〈かねはら・のぶかつ〉(元内閣官房副長官補、同志社大学特別客員教授)と手塚悟〈てづか・さとる〉(慶應義塾大学教授)の対談。聞き手は田北真樹子〈たきた・まきこ〉(月刊正論編集長)。

 こうした鮮度の高い情報はブックレット形式でどんどん出版すべきだろう。インターネットによって読書量が減ったと言われるが、読んでいる活字の量は同程度か、むしろ増えたと考えてよい。読む対象が紙の文字からデジタルのフォントに変わっただけだ。もしもジェネレーションZ(デジタルネイティブ)と呼ばれる世代が本を読まなくなったとすれば、出版社は書籍の体裁を変えるのが当然だろう。版型を小さくしたブックレット形式が望ましいと私は考える。

 私はかつてフェイスブックを使っていたが直ぐにやめた。個人情報の流用を指摘する声が少なからずあったからだ。仕事で使っていたLINEもパソコンで使えなくなったタイミングでやめた。ちょうど女性の延々と続く雑談トークに辟易していたところだった。私の個人情報はとっくにバレバレなのだが、それでも相応の慎重さが求められる。ツイッターの投稿ですらプライバシーに関わる不用意な発言は控えている。

 もちろん私の個人情報にさほど価値があるわけではない。だがあらゆる情報にはデータとしての価値があるのだ。風が吹けば桶屋が儲かるという構図は因果関係を辿ったものだが、ビッグデータは風以外の情報から相関関係をピックアップして桶屋の儲けを導き出す。因果関係だけでは未来予測ができない。

 かつて「歯車」と称された人間は、より卑小な存在に格下げされてアトム化に至る。人々は平均値を目指して平準化せざるを得ない。やがてはビッグデータを支えるべく率先して個人情報を公にし、あるいは自分や他人の個人情報を売買することになるのは時間の問題だろう。

2021-08-19

世界金融システムが貧しい国から富を奪う/『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』河邑厚徳、グループ現代


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『平成経済20年史』紺谷典子
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎

 ・貨幣経済が環境を破壊する
 ・紙幣とは何か?
 ・「自由・平等・博愛」はフリーメイソンのスローガン
 ・ミヒャエル・エンデの社会主義的傾向
 ・世界金融システムが貧しい国から富を奪う
 ・利子、配当は富裕層に集中する

・『税金を払う奴はバカ! 搾取され続けている日本人に告ぐ』大村大次郎
・『無税国家のつくり方 税金を払う奴はバカ!2』大村大次郎
『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー

必読書リスト その二

 世界をおおう金融システムとその上に乗って自己増殖しながら疾駆する「貨幣」は、人間労働の成果と自然を含む価値高い資源を、貧しい国から富める国へと移す道具となっている。
 本来の役割を終えた貨幣は「利が利を生むことをもって至上とするマネー」となった。この変質する貨幣の全体が『エンデの遺言』に凝縮されている。エンデは予言している。
「今日のシステムの犠牲者は、第三世界の人びとと自然にほかなりません。このシステムが自ら機能するために、今後もそれらの人びとと自然は容赦なく搾取されつづけるでしょう」(NHK番組『エンデの遺言』より)
 今日、世界をめぐるマネーは300兆ドルといわれる(年間通貨取引高)。地球上に存在する国々の国内総生産(GDP)の総計は30兆ドル。同じく世界の輸出入高は8兆ドルに過ぎない。
 この巨大な通貨の総体はそのままコンピューターネットワークを従僕とした世界金融システムと同義であり、その世界金融システムは「商品として売買される通貨」をこそ前提としている。
 そのゆえに「世界市場化」(グローバライゼーション)の本意は、自由奔放なる商品としてのマネーの襲撃から地域と社会を遮断(しゃだん)するいかなる防衛システムも機能不全に陥れるか、あるいはまたそのような防衛システム不在のバリアフリー社会を普遍化すべく、高度なノウハウを総動員しようとはかる強烈な意思のなかに見ることができる。
 言葉を換えていえば、いまや世界のすべての地域と人は、そのようなマネーの暴力の前に裸で身をさらすことを余儀なくされているのである。
(『エンデの遺言』 その深い衝撃/内橋克人)

【『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』河邑厚徳〈かわむら・あつのり〉、グループ現代(NHK出版、2000年/講談社+α文庫、2011年)】

 行き過ぎた資本主義の形を戒めるとすれば社会主義的な色彩が強くなるのは当然なのだが、そこに党派性があれば話は少し変わってくる。ある政治信条を鼓吹する姿勢が隠されているならば批判は誘導のための道具と化す。今再読すれば印象はかなり変わることだろう。

 初版は2000年2月1日の刊行である。9.11テロの7ヶ月前だ。内橋克人〈うちはし・かつと〉の指摘は正確にグローバリゼーションの本質を衝いている。しかしながら、「だから地域通貨」とはならない。

 本来は巨大資本の暴力性に対抗すべく考案されたのがビットコインであった(『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー)。金融は既に融資から、コントロール~支配へと変貌を遂げた。

 マネーの歴史や意味を知る上では良書だが、ドル崩壊後の世界を見通せるほどの眼力はない。

2021-08-16

「精神世界」というジャンルが登場したのは1977年/『身心変容技法シリーズ① 身心変容の科学~瞑想の科学 マインドフルネスの脳科学から、共鳴する身体知まで、瞑想を科学する試み』鎌田東二編


岡野潔「仏陀の永劫回帰信仰」に学ぶ
『業妙態論(村上理論)、特に「依正不二」の視点から見た環境論その一』村上忠良
『21世紀の宗教研究 脳科学・進化生物学と宗教学の接点』井上順孝編、マイケル・ヴィツェル、長谷川眞理子、芦名定道

 ・「精神世界」というジャンルが登場したのは1977年

 1977年、初めて東京都内の大手書店が開催したフェアで「精神世界」を銘打ったコーナーが設けられ、以後、「精神世界」という言葉が流行語のようになり、書店のコーナーばかりでなく、一般メディアなどでも用いられるようになった。その『精神世界」には、超能力やオカルティズムや密教の流行とも連動しつつ、宗教的伝統に根ざす諸種の瞑想や近代以降に展開された身体修練などさまざまな実践的な身体技法が含まれていた。

【『身心変容技法シリーズ① 身心変容の科学~瞑想の科学 マインドフルネスの脳科学から、共鳴する身体知まで、瞑想を科学する試み』鎌田東二〈かまた・とうじ〉編(サンガ、2017年)】

 多分、ニューエイジ(『現代社会とスピリチュアリティ 現代人の宗教意識の社会学的探究』伊藤雅之)の影響だろう。盛り上がりを見せた精神世界もバブル景気を経て、オウム真理教による地下鉄サリン事件(1995年)で潰(つい)えてしまう。コントロールされた精神がたやすく暴力に向かうことをまざまざと見せつけられたわけだ。それ以降、潮流は脳科学へ向かい、そして再び身体に戻りつつある。9.11テロ(2001年)は「心の時代」の到来を拒むような出来事であった。個人的には何らかの陰謀があったと考えているが、世界の人々が感じたのは「宗教と暴力の親和性」であった。

 読み始めたばかりだが鎌田東二の序文がよくない。エリアーデ、ベルクソン、ウィリアム・ジェームズを水戸黄門の印籠さながらに振りかざす姿勢が、権威に依存する学者の体質をよく表している。内田樹〈うちだ・たつる〉の名前もあるので最後まで読むことはできそうにない。

 また長過ぎる書籍タイトルが自信の無さを示しているようにも感じる。