2018-10-27

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動くものはすべて殺せ――アメリカ兵はベトナムで何をしたか
ニック・タース
みすず書房
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全世界史 上巻 (新潮文庫)
出口 治明
新潮社 (2018-06-28)
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全世界史 下巻 (新潮文庫)
出口 治明
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モンゴル帝国の興亡<上> (講談社現代新書)
杉山 正明
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モンゴル帝国の興亡〈下〉 (講談社現代新書)
杉山 正明
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自由の悲劇―未来に何があるか (講談社現代新書 (1024))
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ボディ・ラーニング―わかりやすいアレクサンダー・テクニック入門
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リラクセーション―緊張を自分で弛める法 (ブルーバックス)
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あなた、強く生きなさい。
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白ごま油 ぬるだけ健康法 (PHP文庫)
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鎖国の意味を書き換える新たな視点/『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新


『西洋一神教の世界』竹山道雄:平川祐弘編

 ・鎖国の意味を書き換える新たな視点

・『繁栄と衰退と』岡崎久彦

必読書リスト その四
日本の近代史を学ぶ

 ポルトガルとスペインに続いて、オランダとイギリスがアジア世界に進出してきた。インドや東南アジアの港湾都市に一定の地歩を築いた両国が日本にやってきたのは、1600年頃のことである。ポルトガルとスペインに遅れること、およそ半世紀であった。カトリック(旧教)国であるポルトガル・スペインと、プロテスタント(新教)国であるオランダ・イギリスは、ヨーロッパでの宗教的対立だけではなく、植民地支配や貿易の主導権をめぐって、アジアの海でも、この日本でも激しく対立した。

【『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新〈ひらかわ・あらた〉(中公新書、2018年)】

竹山道雄に読ませたかった」というのが率直な感想である。豊臣秀吉の朝鮮出兵は誇大妄想の取り憑かれた一方的な侵略とされてきたが、実は軍事大国日本を世界に宣言することで西欧の侵略を阻んだことを論証している。200年以上に及んだ鎖国(1639年〈寛永16年〉-1854年〈嘉永7年〉)も武士という存在があればこそ成し得た政策で、日本は有色人種国家としては唯一植民地となることを避けられた。鎖国の意味を書き換える新たな視点が読者の脳にまで突き刺さる。日本の近代史は秀吉から始まったと考えるべきだ。

 オランダがプロテスタントだとは知らなかった。というか考えたこともなかった。オランダは八十年戦争(1568-1648年)を経てスペインから独立したわけだから、宗教的対立があったのはむしろ自然なことだろう。対立から発展を築くのがヨーロッパ文明の流儀である。

 大航海時代とは、15世紀におけるポルトガルとスペインの海外進出を先鞭(せんべん)とし、16世紀後半には両国に加えてイギリス、オランダ、フランスなどが、非ヨーロッパ世界における領土獲得と植民地交易をめぐって覇権を争った時代である。1648年にヨーロッパ諸国によって締結され、領土の相互尊重と内政干渉を控えることを約したウェストファリア条約をもって、大航海時代の区切りとされることが多い。(中略)
 そうしたヨーロッパ列強とアジアおよび日本との関係をか考えるさいに、歴史的大前提としてふまえておかなければならないことがある。それは1494年に、スペインとポルトガル両国がトルデシリャス条約を締結して、デマルカシオン(世界領土分割)体制を確立させたということである。(中略)
 この条約を承認したローマ教皇は、両国に新世界住民のキリスト教化を委託したということになる。

 平川新は1950年生まれだが、漢字表記を減らす心憎い配慮をしている。

 このデマルカシオン体制という発想が二度の大戦に受け継がれ、更には米ソ冷戦構造や米中G2体制にまで引き継がれているのだろう。つまり大国の「覇権」意識である。ところがオバマ大統領やトランプ大統領が「アメリカはもはや世界の警察ではない」と言い出した。とすれば世界はグローバルからローカルに向かうことが予想される。中国の膨張が懸念されるが日本が軍事的に独立すれば封じ込めることが可能だろう。きっとアメリカもそれを望んでいるはずだ。

 地中海の出入り口イベリア半島に盤踞(ばんきょ)するスペインとポルトガルは、世界征服をめざして競合しつつも、世界領土分割条約を結んで共存の道を歩んだ。とはいえ、境界ゾーンとなった東南アジアや日本では国益がぶつかりあった。また同じカトリック国ではあったが、宣教組織であるイエズス会はポルトガル系、フランシスコ会やドミニコ会はスペイン系であったことから、日本宣教をめぐっては宗派の対立も表面化することになった。

 極東の位置でよかったとつくづく思った。ま、ヨーロッパから見りゃ極東ってなだけで、これからは太平洋を中心とした文明圏を見つめるべきだろう。アメリカ中心のバランス・オブ・パワーが揺らぐのは大いに結構なことである。国家は軍事的独立を勝ち得なければ自立できない。経済力は軍事の後に続くものである。

 日本の場合、軍事以前に国家意識が育っていない。GHQの占領政策は今も尚日本人の精神を蝕み続けている。日本人の意識には世間や社会はあっても国家がない。図らずも国家意識が芽生えたのは中国・韓国が反日の牙を剥き出しにした1990年代のことだ。日本の国旗を燃やしたり、首相の似顔絵を踏みつけたり、大使館を襲撃する行動は「戦争」と捉えるべきだろう。

 もしもアメリカが日米安保からも一歩退くとなれば、日本は核保有国の道を選ばざるを得ない。個人的には核保有を優先して、日中戦争を回避した方が賢明だと考える。でもまあ無理だろうね。戦争を経なければこの国は憲法改正すらできないよ。

戦国日本と大航海時代 - 秀吉・家康・政宗の外交戦略 (中公新書 2481)
平川 新
中央公論新社
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『戦国日本と大航海時代』/平川新インタビュー|web中公新書

2018-10-26

まだヒートテックを着てるの?


 おたふく手袋が最強である。




フレームの大きさ/『自転車の教科書 身体の使い方編』堂城賢


『ロードバイク初・中級テクニック』森幸春
『自転車の教科書』堂城賢

 ・フレームの大きさ

 サイズやメーカーによって、フレームのシート角やヘッド角は違います。私が小さなフレームを薦めない理由は、【フレームが小さくなるほどシート角が立ち、ヘッド角は寝ていて、ヘッドチューブが短い】からです。おじぎが深くなると、どうしてもサドルを後ろに引きたくなりますが、シート角が立っているフレームでは十分にサドルを後ろに引くことができないので、付けたい部分にサドルが付けられない、ということになってしまいます。

【『自転車の教科書 身体の使い方編』堂城賢〈たかぎ・まさる〉(小学館、2015年)】

【Eがヘッド角、Dがシート角、Cがヘッドチューブ。GIANT社から拝借】

 初心者にとってフレームのジオメトリーは小難しい。これからロードバイクを購入するのであれば、身重に対して少し大きめのフレームを選べばいいだろう。

「サドルを後ろに引きたく」なる、というのが凄い。素人は前傾姿勢が馴染まないため上体を起こしたくなる。つまり「サドルを前に出したくなる」のである。ジオメトリーに関するリンクをいくつか紹介しよう。

ロードバイクで腕が遠く感じる原因とスタックと前傾姿勢とポジションの関係について - Fertile-soil
フレームのジオメトリと材質で違う、クロス・フラットバーロード・ロードバイクのお話。 : 自己満足の自転車いじりと戯言。
ジオメトリの見方!ロードバイクの特性を読み解く:続き : 低身長でも貧脚でもロードバイクを楽しみたい!
なぜ700Cにこだわるのか、わかりません : 空まかせ~二輪歩行でいこう
ジオメトリの話 - K Frameworks

 おじぎ乗りのわかりやすいイラストがあった。


 私はひと目で嘘を見抜いた。猫背であっても頭を前に倒せば拇指球に荷重をかけることができる。つまり背の曲直にかかわらず前傾姿勢の深さが問題なのだ。更に足首の柔軟性が高まれば前傾が浅くても拇指球に体重を乗せることは十分可能だろう。

 登坂土踏まずペダリングをすると拇指球の意識も変わる。平地走行ではペダルに拇指球がかかるのは当然なのだが、拇指球に不要な力を入れる必要はない。むしろ意識としては足首を曲げないことが重要で、拇指球からは力を抜くべきなのだ。そう考えると平地でも土踏まずペダリングをしてハムストリングが使えるようになることを優先した方がいいかもしれない。

 歩く時のことを想像してみよう。踵(かかと)から地面に着地した時、拇指球に力は入らない。力を入れてしまえばブレーキと化す。足首を前方向に傾けるためには拇指球から力を抜かねばならない。力を入れるのは地面を蹴る瞬間だけである。

 古武術の移動法だともっとわかりやすい。通常の運動で体を左方向に移動する場合は一旦右足に体重を掛けて左方向に移動するが、古武術の場合は左膝を折ることで体を左方向に傾けてしまう。右足に体重を乗せれば1、2という2拍の運動だが、左膝を折ってしまえば1拍の動作で済む。しかも力を抜いているので筋肉の疲労がほぼない。

 スポーツにおける姿勢の問題は体の中心や軸・体幹に関わるテーマである。ヒトは脳を使い過ぎて体を使えなくなってしまったのだろう。体の刺激から脳を鍛え直す作業が求められる。

自転車の教科書 ー身体の使い方編ー (やまめの学校)
堂城 賢
小学館
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2018-10-25

「基本」は背中まっすぐの「おじぎ」の姿勢/『自転車の教科書』堂城賢


『ロードバイク初・中級テクニック』森幸春

 ・「基本」は背中まっすぐの「おじぎ」の姿勢

『自転車の教科書 身体の使い方編』堂城賢

 僕が教えている自転車の乗り方は【「おじぎ乗り」】と言います。【「背中をまっすぐにした『おじぎ』の姿勢」】で乗ることです。皆さんが一番知りたがっているハンドルやサドルの位置、つまり「自転車のポジション」は、おじぎの姿勢をしたまま、手を前に振った軌道にハンドル、お尻の位置の下にサドルとなります。
 たったそれだけです。

【『自転車の教科書』堂城賢〈たかぎ・まさる〉(小学館、2013年/小学館文庫、2016年)以下同】


 背中を丸めた姿勢でハンドルを低く遠くにしている人をよく見かけますが、背中を丸めてぐーっと手を伸ばしていると、後ろの足にものすごく荷重が掛かるのです。プロの選手の真似をしてこの乗り方を一般の人がやると、まったく前に進みません。
 後ろ足に自分でたくさん荷重を掛けて、自分で作り出した負荷に苦しめられていたわけです。ですから、姿勢の悪い人はステムを短くすると足が回るように感じるのです。

 レース実績のある専門家が相反する主張をしている場合は、結局自分で探るしかない。堂城賢〈たかぎ・まさる〉は言葉が拙い。本書は意図的に話し言葉を使い読みやすくしたのだろうが言葉の重複が目立ち表現の浅さが先立つ。方や森幸春は雑誌におけるコメントというおしゃべり程度の代物だ。

 YouTubeで「やまめの学校」と検索すると堂城の実際の講義を見ることができる。そのネーミングセンスの悪さや自分を「校長」と紹介する節操のなさもさることながら、「イチロー選手は一流のアスリートだと思う」などといった陳腐な言葉にはやはり問題があろう。おじぎ乗りの傍証としてイチローが守備につく際、両手を膝に乗せて背中を伸ばすポーズを挙げているが、あれは一種のストレッチであって打者が打つ瞬間は猫背になるに決まっている。

 実際にやってみたが、骨盤を立てるべきなのか、おじぎ乗りにすべきなのかよくわからない。何となく中間の位置で乗っているが疲れてくると全てがどうでもよくなる(笑)。素人感覚からすると最初は前立腺の痛みに苦しめられるので、骨盤はやや起こした方がいいような気がする(※関係ないけどこんな記事を発見→長時間のサイクリングは危険?前立腺がんの発症リスクに|男の健康|ダイヤモンド・オンライン)。

 運動に関する理論を参照するのは正しいが鵜呑みにしてはいけない。なぜなら人の体は個体差があるからだ。他人の言葉を額面通りに受け止めてそれを墨守すれば、硬直した精神性が硬直した体を形成して必ず故障や怪我につながるだろう。自分の体に耳を傾けて答えを導くことが大切だ。むしろ、自分なりの創造性を発揮するところにトレーニングの目的があるといっても過言ではない。

 散々腐してしまったが、本書の評価が高い(文庫本の解説は高千穂遙)ところを見るとそれ相応の理由があるのだろう。私が初心者ゆえ気づいていないだけかもしれない。数年後に再読して検証するつもりだ。

自転車の教科書 (小学館文庫)
堂城 賢
小学館 (2016-06-07)
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2018-10-23

骨盤を起こして肩甲骨を開く/『ロードバイク初・中級テクニック』森幸春


『大人のための自転車入門』丹羽隆志、中村博司

 ・骨盤を起こして肩甲骨を開く

『自転車の教科書』堂城賢
『自転車の教科書 身体の使い方編』堂城賢

「初級者が上級者のようにいきなり100回転/分でペダルを回そうとすると、よけいなところに力が入って、むしろ心拍数が上がってしまいます。まあ、いずれはできるようになればいいことなんで、まずは90回転/分くらいからはじめてみましょう。これくらいの回転数なら、さほど筋力が必要なわけでもないし、十分に低い負荷で効率よく走ることができるはずです。とにかく小手先……っていってもこの場合は足ですが……を使うんじゃなくて、ふとももの付け根からさらに上、お腹の奥のほうを意識します。もちろんクランクの長さは同じなんですけど、ペダルを大きな円で回すイメージがほしいですね」と森師匠は言う。

【『ロードバイク初・中級テクニック改訂版 BiCYCLE CLUB別冊』森幸春(エイ出版社、2011年)】

「森師匠」と呼ぶのは編集部のおべんちゃらではないようだ(「日本ロード界の師匠  森幸春さん逝く」)。既に物故していることを今知った。謹んでご冥福を祈る。

 大きな雑誌の体裁でパラパラとめくって一通り読んだのだが、何度となく読み返して「ああ、そうか」と腑に落ちるところが多かった。7月27日から自転車に乗り始め、10月12日でやっと1000kmを走破した。まだまだ体作りの段階だ。焦ってオーバーワークしてしまえば必ず怪我の原因となる。今は走りたくて脚が疼(うず)き出すのを待っている。それでもケイデンス90は難しい。週に二度リカンベントタイプのエアロバイクに跨(またが)っているが、私が心地よく回せるのはせいぜい80回転/分である。

 ペダリング革命で多少は股関節を動かせるようになっていると思う。まあ、この辺はまだまだ気にするレベルではない。今はとにかくひたすらペダルを踏むことに力を注ぐ。



 骨盤を起こして肩甲骨を開くとあるが、肩甲骨を開くのが案外難しい。1000km走ってもまだまだ上半身に余計な力が入ってしまう。上半身をリラックスさせないと肩甲骨は開けない。また、堂城賢〈たかぎ・まさる〉は骨盤を寝かせた方がよいと説く。ポジショニングに関しては自分の体に耳を傾けるしかない。一番楽な姿勢が正しいのだ。

 初心者にとってはわかりやすい内容であるが、なぜかエンゾ早川が登場して読み手のやる気を思い切り削(そ)いでくれる。

ロードバイク初・中級テクニック 改訂版 (エイムック 2120 BiCYCLE CLUB別冊)
エンゾ早川 森 幸春
エイ出版社 (2011-02-15)
売り上げランキング: 111,208

「ならば、変えなければならない」/『果断 隠蔽捜査2』今野敏


『隠蔽捜査』今野敏

・「ならば、変えなければならない」

『疑心 隠蔽捜査3』今野敏
・『初陣 隠蔽捜査3.5』今野敏
・『転迷 隠蔽捜査4』今野敏
・『宰領 隠蔽捜査5』今野敏
・『自覚 隠蔽捜査5.5』今野敏
・『去就 隠蔽捜査6』今野敏
・『棲月 隠蔽捜査7』今野敏

必読書リスト その一

 世間のことを知らなければ的確な指示が出せないという警察官僚もいるが、竜崎にいわせれば、その程度の者は警察官僚になるべきではない。一生現場にいればいいのだ。
 国家公務員がすべきことは、現状に自分の判断を合わせることではない。現状を理想に近づけることだ。そのために、確固たる判断力が必要なのだ。竜崎はそう信じている。世俗の垢にまみれる必要などない。指揮官に求められるのは、合理的な判断なのだ。

【『果断 隠蔽捜査2』今野敏〈こんの・びん〉(新潮社、2007年/新潮文庫、2010年)以下同】

 家族の不祥事で左遷の憂き目に遭った竜崎は警察署長となった。主人公が現場の最前線で指揮を執ると、やはりストーリーの精彩が上がる。立場が変わっても竜崎の信念が揺らぐことはなかった。彼は警察の仕事に心から誇りを抱いていた。

 前巻では父子の対話であったが、本巻ではPTAとの会話がエリートと大衆の落差を象徴している。発想が違うのだ。竜崎の発言にPTAはさることながら、教師や同行した警察幹部までが唖然とする。

 竜崎は、手を止めて貝沼を見つめた。貝沼の表情は読めない。真意がまったくわからなかった。
「じゃあ、方面本部が死ねと言えば、君は死ぬのか?」
「時と場合によありますが、そういうこともあるという覚悟はしております」
「警察の指揮系統と言ったが、それは幹部がまともな命令を下すという前提で重視されるべきものだ。そうじゃないか? 理不尽な命令に盲従する必要などない」
「ですが、それが警察というものです」
「ならば、変えなければならない」
 貝沼副署長が無表情のまま見返してきた。斎藤警務課長も、無言のまま立ち尽くしている。
「なんだ?」
 竜崎は、二人に尋ねた。「私は何か、おかしなことを言ったか?」
「いえ」
 貝沼副署長が言った。「本当に、野間崎管理官のことはよろしいのですか」
「いい」
「では、お任せします」
 ようやく二人は出て行った。
 竜崎にだって、二人が何を恐れているかくらいはわかる。警察というのは、古い体質が残っている。それは、ひょっとしたら明治に警察庁ができて以来変わらないのではないかとすら思えてしまう。冗談のようだが、いまだに薩長閥が幅をきかせている。

「ならば、変えなければならない」との一言に竜崎の真骨頂がある。清濁併せ呑んで物分かりがよくなることが大人なのではない。大人とはある責任を引き受けた上で若者の手本となる人物をいうのだ。幾度となく煮え湯を呑まされている内に精神が澱(よど)み、濁ってゆく男がそこここにいる。彼らが上司に逆らったり、組織を改革することはないだろう。せいぜい酒場で他人の悪口を言うのが関の山だ。

 官僚組織の複雑さを初めて知った。野間崎は役職が竜崎よりも上だがノンキャリアだ。キャリア組も同様で役職よりも入庁年度がものを言うらしい。

 もちろん竜崎一人が頑張ったところで警察組織が変わるはずもない。だが署内は確実に変わってゆく。

 捜査が差し迫ってゆく中で竜崎の妻が倒れる。ラストシーンでやり取りされる夫婦の会話が短篇小説のように味わい深く、静かな余韻を響かせる。

果断―隠蔽捜査〈2〉 (新潮文庫)
今野 敏
新潮社
売り上げランキング: 27,464

2018-10-22

真のエリートとは/『隠蔽捜査』今野敏


 ・真のエリートとは

『果断 隠蔽捜査2』今野敏
『疑心 隠蔽捜査3』今野敏
・『初陣 隠蔽捜査3.5』今野敏
・『転迷 隠蔽捜査4』今野敏
・『宰領 隠蔽捜査5』今野敏
・『自覚 隠蔽捜査5.5』今野敏
・『去就 隠蔽捜査6』今野敏
・『棲月 隠蔽捜査7』今野敏

必読書リスト その一

 東大以外は大学ではない。それは実を言うと竜崎自身の考えというよりも、省庁の考え方だ。
 毎年国家公務員I種試験の合格者が省庁詣でをする。人気の高い省庁の側では、すでに対応は決まっている。どんなに試験の成績がよくても、私立大学や三流大学の卒業生は取らない。人気省庁にとって、大学というのは東大と京大しかないのだ。

【『隠蔽捜査』今野敏〈こんの・びん〉(新潮社、2005年/新潮文庫、2008年)以下同】

 主人公は警視庁のキャリア官僚という毛色の変わった警察モノだ。役所と聞けば「融通が利かない」との答えが導かれる。竜崎は原理原則に忠実な堅物で節を枉(ま)げることがない。それは「決まりだから」という言いわけによるものではなく、原則が合理性に基づいているとの信念からである。時を経て信念は生き方そのものになっていた。

 彼の判断が厳しく感じるのは、我々が情に傾き理を侮っているためか。竜崎は周囲や家族に対して情け容赦がなかった。そして自分自身にも。

 それまで顧みることがなかった家庭が揺れる。大学浪人の一人息子がトラブルを起こしたのだ。

「それって何だ?」
「自分が正しいと思っていることを、家族に押しつけてんだよ」
「これ以上に正しいいことがあるか? 官僚の生活というのはこういうものだ。父さんなんてまだましなほうだ。財務省や外務省の高級官僚は、それこそ週に何日も家に帰れないんだ」
「だから、俺は嫌だったんだ」
「何がだ?」
「東大に入って、官僚になるという父さんの押しつけが、だ。俺、そんな人生、まっぴらだ」
「おまえは、何年生きた?」
「18年だ。子供の年も覚えていないのかよ」
「父さんは、46年だ。若い頃は全国を転々として見聞も広めた。おまえとは人生経験が違う。どちらの判断が正しいと思う?」
「そういう問題じゃないだろう」
「じゃ、どういう問題なんだ?」
「俺の人生は俺のものだってことだ」
 竜崎は、この陳腐な言い回しに、またしてもあきれてしまった。
「そんなことはわかりきっている。だから、若いうちに可能性を増やせと言っただけだ。官僚になるかどうかは、東大に入ってから考えればよかったんだ。別に官僚になることを強制したわけじゃない。いいか。東大には日本の最高の英知と技術が集中している。東大に入るだけで、できることが格段に増えるんだ。それを利用しない手はない」
「利用だって……?」
「そうだ。おまえの人生はおまえのものだと言った。ならば、その人生のためにあらゆるものを利用しないと損じゃないか。利用するなら、最高のものを利用したほうがいい。東大はそのための一つの条件に過ぎない。だが、その条件すらクリアできないで、人生、好きに生きたいなどと言っているのは、所詮、負け惜しみに過ぎないじゃないか」
 邦彦は、ぽかんとした顔で竜崎を見ている。何も言い返せない様子だ。

 これは大衆とエリートとの対話だ。竜崎の言葉は常に単純なため時に誤解を生む。ところが彼の言い分には明確な目的意識があった。

 省庁が「東大以外は大学ではない」と考えるのも一つの見識なのだろう。そんな彼らが仕える政治家の多くが東大出身ではない。ネット上で元官僚の人物が安倍首相の学歴を嘲るのを見たことがある。で、その元官僚はといえば、全く売れない本を上梓しながら糊口(ここう)を凌(しの)いでいるのだ。学歴至上主義は知性を野蛮な性質に変える。しかも、よくよく見つめればそれは知性というよりも記憶力中心の学力に過ぎない。極論を述べれば、「東大生だけで、いざ戦争となった場合に勝てるかどうか?」まで考える必要があろう。

 偏屈な官僚が少しずつ魅力的な人間に変わってゆく。このシリーズで今野敏も化けたに違いない。思わず一気に全作を読破した。

 ここに描かれている真のエリート像を通して、日本型ピラミッド組織の脆弱さを思わずにはいられなかった。それを面白がって読む自分にも問題がある。竜崎は官僚の域を脱しておらず、武士道にまで至っていない。次の戦争の弱点が露(あら)わになっているような気がしてならない。

 かつて「近藤史恵は男が描けていない」と書いた(『サクリファイス』近藤史恵)。本書を読めばたちどころにその意味がわかるだろう。

隠蔽捜査 (新潮文庫)
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2018-10-21

あらゆる国民が非人道的行為をした/『竹山道雄評論集 乱世の中から』竹山道雄


『竹山道雄と昭和の時代』平川祐弘
『昭和の精神史』竹山道雄
『見て,感じて,考える』竹山道雄
『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII』竹山道雄:平川祐弘編
『剣と十字架 ドイツの旅より』竹山道雄
『ビルマの竪琴』竹山道雄

 ・あらゆる国民が非人道的行為をした

『みじかい命』竹山道雄
『歴史的意識について』竹山道雄
『主役としての近代 竹山道雄セレクションIV』竹山道雄:平川祐弘編

  I

 六百万分の一の確率
 私は拷問をした
 ジャングルの魂
 喫茶店の半時間
 最後の儒者

  II

 ゴッドの最初の愛
 狂信からの自由
 バテレンに対する日本側の反駁
 天皇制について

  III

 南仏紀行
 エーゲ海のほとり
 リスボンの城と寺院

 あとがき

【『竹山道雄評論集 乱世の中から』竹山道雄(読売新聞社、1974年)以下同】

 何とはなしに1970年代のベストセラーを調べてみた。

1970年代 ベストセラー本ランキング | 年代流行

「1970年代半ばから続いた『雑高書低』と呼ばれる状態」があった(日本経済新聞 2016/12/26)。出版販売額は1996年をピークに下降線を辿っている(日本の出版統計|全国出版協会・出版科学研究所)。いわゆる出版不況だ。人が一日に読む活字の量はある程度決まっているため、インターネットに奪われた格好だ。

 1970年代といえば進歩的文化人がでかい顔をして学界やメディアを取り仕切っていた時代である。今読むと笑ってしまうよな文章が多い。今日読んだ本だと「政治実践」とか「歴史への参加」などといった革命用語(?)がゾロゾロ出てくる。

 竹山道雄の文章は不思議なほど古さを感じない。問題意識の深さが現代にも達しているからである。つまり第二次世界大戦で露見した人類の問題は今尚解くに至ってないのだ。

 私は人を拷問したことがある。自分で手を出したわけではないが、もしその事件の責任者を問われれば、それは私だった。そして、異様なことだが、他人が苦しめられているのを見ているあいだ、私は悪が行われているという罪責感をもたなかった。
 最近に「追求」という、アウシュヴィッツでの残虐行為者をドイツ人みずからが裁判した、その実録を劇化した芝居を見た。被告たちは罪責感をもっていない。ナチスがユダヤ人のみならず、ポーランド人や最下級のジプシーまで、「劣等人種」を掃滅しようとしてそれを実行した人々は、たとえばアイヒマンのように罪悪感をもっていない。そしてドイツ人だけではなく、あらゆる国民がつねに多少なりとも非人道的行為をした。まったく潔白な国民はいない。西欧的ヒューマニズムの本家と自他共に認めているフランス人も、解放の時期やアルジェリアでは狼藉をはたらいた。前者についてはできるだけ語られないでいる。後者についてははじめのうちはただアルジェリア人側の残虐行為のみが報道されていたが、やがていよいよアルジェリアを独立させる方針が決ったからであろう、マルロー文化相の許しによって、一人のアルジェリア娘の手記が本になり、有名な画家(ピカソ?)の装幀に飾られて、ひろく読まれた。その娘の父も独立運動者として捕えられ、フランスの憲兵によって拷問された。「人体のもっとも敏感な部分」に電流をかけられ、苦しみのあまり「すこしは人道(ユマニテ)を――」と憐みを乞うた。フランス兵たちは「回教徒に対してはユマニテは不必要だ」と、拷問をつづけた。娘は裸にして吊され、水槽については引き上げられた。フランス兵たちはビールを呑みあおりながら追求をしていたのだったが、「ビール瓶の口で彼女の処女性をやぶった」
 このような乱暴が行われたのには、人間に潜んでいる獣性とかサジズムとかがはたらいたのだろうし、その場の群集心理もあったのだろう。しかし、人間はいったん他者に対して敵意や憎悪をもつと、相手は抽象的な「悪」に化してしまって、それに対する人間的な感情移入が断たれてしまうのではなかろうか。それであのようなことが起こるのではあるまいか。親衛隊の士官たちはガス室のすぐ近くに普通の家庭生活をして、モーツァルトの音楽をたのしんでいた。ある収容所の指揮官が残虐行為の故に告訴されると、友人たちは驚いて、「彼は慈悲ぶかい男で、田舎道を歩くときには、カタツムリなどを踏み殺さないようにと、注意ぶかくガニ股で歩きました」と懇願した。(「私は拷問をした」)

「あらゆる国民が非人道的行為をした。私もその一人である」との告白である。ハンナ・アーレントはアイヒマンの公開裁判を全て傍聴し、その無思想性を「悪の凡庸さ」と指摘した。大量虐殺を推進したアイヒマンの正体は職務に忠実な小心者の公務員だった(『イェルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』1969年/1963年『ザ・ニューヨーカー』誌に連載)。時を同じくしてスタンレー・ミルグラムがアイヒマン実験の論文を発表した。尚、アイヒマン実験から派生したスタンフォード監獄実験(1971年)はアーレントの著書から考案されたもの。最近になってヤラセ疑惑が浮上している(スタンフォード監獄実験は仕組まれていた!?被験者に演技をするよう指導した記録が発見される : カラパイアスタンフォード監獄実験、看守役への指示が行われていたことを示す録音の存在が明らかになる | スラド サイエンス)。映画化したのが『es〔エス〕』で、同様の心理状況を描いたものに『THE WAVE』がある。

 竹山が行った拷問は私に言わせれば他愛ないものである。戦時中、旧制一高の寮に連続して泥棒が入った。ある晩、遂に捕まえたのだが中々白状しない。そこで居合わせた連中でしたたかに殴りつけた。泥棒はやっと罪を認めた。謂わば日常の延長線上にある小さな暴力である。ところが竹山はホロコーストの芽をそこに見出す。泥棒をとっちめることは倫理的に許される。とすれば「相手を殺す正当な論理」さえ編み出せば大量虐殺は可能となる。

 例えば中国や韓国では反日教育が行われているが幼い頃から憎悪を植え付ける営みは、日本人を大量虐殺する可能性を開くことに通じる。日本に対する戦争準備ともいうべき教育を行う国に惜しみなくODA(政府開発援助)を施す日本政府の方ががどうかしているのだ。しかもそのODAが日本の政治家に再分配されている実態がある。

 竹山の随想は極めて内省的なもので読者に対してある考えを強要する姿勢は全くない。ただし私はここで巷間、左翼活動家が繰り広げるポリティカル・コレクトネスについて一言付言しておきたい。

 当たり前だが日本人にも差別感情はある。現代でも部落出身者や朝鮮人に対する蔑視は確かにある。戦時中は多くの日本人が中国人を馬鹿にしていた。しかしながら日本に奴隷が存在しなかった事実をよくよく弁える必要があろう。日本人は外国人を「人間ではない」と考えたこともないし、外国から多くの人々を奴隷労働者として輸入することもなかった。そもそも奴隷文化は家畜文明から生まれたものだ。

 また割譲された台湾や、併合した朝鮮においても、日本は本国以上に力や資本を注いで発展に務めた。皇民教育はやや行き過ぎの感があるが、それでもホロコーストと比べればさしたる問題ではない。これに対して西洋白人の植民地はただ削除される対象でしかなかった。

 戦後、欧米で日本軍の残虐さが流布したのは、飽くまでもナチスと同列に持ってゆくためであり、更には戦闘員でもない婦女子を殺戮したアメリカ軍の非道(原爆ホロコースト、東京ホロコースト)を隠すためであった。南京大虐殺も原爆死者とバランスを取るために30万人とされている。

 日本人は敗戦の原因を探ることもなく、敗戦後になされたマインドコントロールを自覚することもなく、安閑として平和を享受してきた。いつになったら眠れる精神が目覚めるのか。目覚めた人々は竹山の問いを受け継ぐべきであろう。

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